『さつまいも』 から考えるアピオス
1週間ほど前、noteで「さつまいも」と検索したら、『さつまいも』という書籍がピックアップされた。
ちょうどアピオスについて本を書きたいと思っていたところだったので、何か参考になるかな?と思ってタップ。
概要を読むと、坂井健吉さんという、長年サツマイモの品種改良に従事した方の著作で、1999年の出版。その伝播や文化など、まさに今、私がアピオスでやりたいと思っていた内容だった。
とは言っても、家事育児その他の合間に読む自信はあまりなく、とりあえず図書館で予約。
週末に受け取り、「はじめに」だけ読んだところで、
もう。参考どころではない。
バイブルになる予感。
最初の一文で、青木昆陽が星川先生や福楽商店と重なり、こころなしか、胸が熱くなる。
(私は青木昆陽は知らなかったけど。)
そして二文目。
サツマイモの辿った過去は、このように飢饉とか貧乏とかいったイメージの暗いことと共に語られることが多く、今日のような飽食の時代には、どうしても忘れられがちになるものである。
サツマイモは食料がない時に重宝がられたという。
一方、アピオスが日本で出てきたのは、(星川先生が作物化に取り組んだのは、)1980年代。
1980年代は、こんな時代。
1980年前後の日本は、戦後の食料不足の時代を経て、次第に「飽食の時代」へと向かっていた。
1980年代後半にはバブル経済が到来し、食品の輸入や外食産業、コンビニ、ファストフードなどが急速に広がった。食に求められるものも、量や不足を補うことだけではなく、利便性や豊かさ、楽しさへと広がっていった。
美味しんぼ、味いちもんめ、クッキングパパ、ミスター味っ子。
これらの超有名料理漫画、連載開始は全て1980年代。
食への関心の高まりの象徴。
こういう時代に、アピオスは生まれた。
(正確に言うと、日本で星川先生によるアピオスの作物化が始まった。)
アピオスは、サツマイモになりたいわけではないけれど、同じ「甘めのイモ」として、親近感は持っている。
でも、こうやって見ると、サツマイモとアピオスは違う。
まず、時代背景が違う。
飢饉の時に頼られたイモ、サツマイモ。
戦後は「サツマイモばかりだった」という話もよく聞く。
きっと否応なしに、「そこにあるイモ」になっていったのだろう。
それに対して、飽食の時代に登場したイモ、アピオス。
星川先生の「料亭に売り込みに行った」というエピソードが象徴的だ。
食べ物があふれている中で、わざわざアピオスを選ぶ理由は何か?
アピオスでなければならない理由があるのか?
実は、ある。と思う。
おいしい、栄養がある、かわいい、だけではない理由が、ある。
一見、食べ物にあふれているように見えても、食料自給率の低さが問題視されて久しい。
国産品の消費拡大は喫緊の課題であることを疑う人は少ないだろう。
そして同時に、温暖化の時代。
国立環境研究所地球環境研究センターのWEBサイトを見ると、2013年の時点で、スーパーコンピュータが
「日本の夏は暑く、悪天候(豪雨)が増える」
という将来の気候変動予測を出している。
実際にそうなっている実感を持つ人は多いであろう。
また、2020年の日本気象協会のレポートには、
雨の日数は減少傾向ですが、日降水量100㎜あるいは200㎜のような大雨日数は増加傾向です(気象庁)
とある。
さらに、
今後全国ほとんどのエリアで令和2年7月豪雨のような短時間大雨が発生する可能性があり、雨量によっては建物浸水や土砂災害による倒壊のような災害が起きてもおかしくない
とのこと。
そして、記憶に新しい、令和8年8月千葉豪雨。
8月19日の毎日新聞の記事には、
想定以上の豪雨 ハザードマップの浸水想定区域外で死者 千葉
というタイトル。
外水および内水による氾濫が想定されていなかった地域でも、大きな浸水被害が出たという。
ハザードマップは、千葉県に甚大な被害をもたらした、2019年の台風と豪雨による浸水状況も反映させた上で、2022年に作成した。
わずか数年後、想定を上回る降雨で想定外の被害が出た。
これからはきっと、こういった「想定外の雨」が後を絶たないのだろうと想像がつく。
そこで、アピオスなのだ。
比較的水害に強く、湛水耐性がある。
猛暑でも育つ。
幅広い土壌条件への適応がある。
鳥獣被害もほぼない。
(ただし、乾燥には弱く、原産地ではブタが掘り起こして食べる)
湛水耐性ひとつをとっても、素人目には、大きなメリットに感じる。
(このあたりの話は、改めて出典を出しながら記事を書きたいところ。)
でも、サツマイモやジャガイモに比べると、単位当たりの収量が低い。
4~6倍違う。
人手もかかる。
だがしかし、
(ここでやっと本のページをめくる)
サツマイモが人類によって野生から栽培されるようになったのは、古く一万年前からともいわれる
考古学的には紀元前3000年頃には、熱帯アメリカでかなり広く食べられており
わが国に伝来したのは、1605年に沖縄、1705年に鹿児島、関東には1734年とされており、年代的には米・麦やその他の食用作物に比較して、かなり新しい作物である。
サツマイモ、日本では約400年の歴史があるそうだが、これで「かなり新しい」と言われている。
しかも、すでに作物化されたサツマイモが入ってきてから、400年。
アピオスの日本での作物としての歴史は、45年ほど。
これは、野生のアピオスの作物化に取り組み始めてから、45年。
ちなみに、原産地のアメリカ・カナダですら、2026年現在、商品作物として育てているところは、調べた限り、ほぼない。(研究はされている)
栽培の歴史が1万年とも5000年とも言われるサツマイモに対して、アピオスは45年。
収量が少なくて人手がかかるのも当たり前。
だってまだまだニューフェイスだから。
「はじめに」を読み終えて、本文を少し進むと、サツマイモの原種についての話が出てくる。
根はせいぜい小指ほどの太さでイモにはならなかった。
~中略~
西山博士らは、この野生の六倍種こそサツマイモの原種ではないかと考え、種名をイポメア・トリフィーダ (Ipomea trifida G.Don.)として発表した。
そして、
生存のために環境に適応して、地下の根が太ってイモとなり、そのイモを人間が食用とした。食用には太くて旨いものがよいので、それらを選別して作っているうちにだんだんとサツマイモに近いものが作られるようになり、現在のサツマイモが成立したのであろう
小指ほどの太さだった根が、長い長い年月をかけて、今のサツマイモになった。
ここで、青森アピオス振興会の舘山さんの言葉を思い出す。
「(アピオスは、)消費者にとっても、生産者にとっても魅力がいっぱい詰まった作物なので、近い将来、その良さが見直され、世界中で食べられるようになると期待しています。」
「そうなれば、栽培技術も飛躍的に進化し、単収の増加、省力化が図られて、作付けが増えることでしょう。」
「それまでアピオスの火を消してはならないとの使命感、責任感を抱きながら、我々は栽培を続けています。」
本当に。
胸に染みます。
この本によると、長い年月が必要だったのは、サツマイモの「作物化」だけではなく、「起源の解明」もであったことがわかる。
世界中の多くの学者や研究者が、その解明に多くの時間と労力を費やした。
遺跡を発掘してサツマイモと思われるものを探し出し、推測し、近縁種を探索収集し、推定し、否定され、また研究し、実験し、それでも謎は解明されない。
その後、染色体の研究が進み、ようやく解決のきざしが見える。
先ほど引用した西山博士が原種の発表をしてからも、約10年もの間、多くの学者による議論や調査研究があったという。
それに対して、アピオスは、今まさに、ほぼ、現在進行形で育っている。
アピオスは、人々に浸透し、一般的になっていく過程を見られる、数少ない作物である。
これがいかに貴重なものか、この『サツマイモ』を読んで思う。
アピオスは未完成であるからこそ、あなたはその歩みを共にすることができる。
どんな人が可能性を見つけ、誰が研究し、誰が畑に植え、誰が売り、誰が食べ、そして、これからどうなっていくのか。
私たちは今、その過程をほぼリアルタイムで見ることができる。
これがいかに幸せなことか、『サツマイモ』を読んで思う。
(316ページ中、まだ16ページだけど。)
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