TruenoとGorillaz:デーモン・アルバーンの娘がつないだラテンラップ

今年のフジロックに、Truenoが来る。
アルゼンチン出身のラッパーで、今年26歳。日本ではまだそこまで名前が知られていないかもしれないけれど、彼はすでにGorillazの最新アルバム『The Mountain』(2026年)に参加し、今月には、ロンドン・トッテナム・スタジアムで開催される7万人規模のGorillaz公演でオープニングアクトを務めることも決まっている。スペイン首相がSNSで「超オススメ」と名指しで褒めたのも(→Primavera Sound記事参照)、このアルバムに収録されたTruenoとのコラボ曲「The Manifesto」だった。

この記事では、TruenoがどうやってGorillazとつながったのか、そしてその話の中心にいたデーモン・アルバーンの娘、ミッシー(Missy Albarn)について書いてみたい。
参考にしたDazedの記事はこちら。


ラ・ボカとGorillaz

Truenoの本名はMateo Palacios Corazzina。ブエノスアイレスの下町、ラ・ボカ地区で育った。
ラ・ボカといえばボカ・ジュニアーズの本拠地、カラフルな家並みとタンゴの街として有名だけれど、Truenoによればラ・ボカにはGorillazのキャラクターたちが描かれた巨大な壁画があり、彼は子どもの頃から毎日のようにその前を通って育った。「アニメのキャラクターというのが、僕たちの世代のアルゼンチンの子供たちを惹きつけたんだと思う」と彼は語っている。
その少年が、15年後にGorillazの新作に参加することになる。


Truenoを連れてきたミッシー

デーモンは昔から、自分が知らない音楽や文化を誰かに教わることを、あまり恥ずかしがらない人だと思う、というようなことを以前の記事で書いた。面白いのは、その「先生」の中に娘のミッシーも含まれていることだ。

デーモンは、新しいポップ・ミュージックは子どもが大きくなるまであまり聴いていなかったけれど、娘に教えてもらうことで再発見した、と語っている。Gorillaz『Humanz』のゲスト選びについても、娘を「感心させたい」という気持ちが少しあったと認めている。
ミッシーはスペイン語がとても堪能だ。彼女はずっとレゲトンが好きで、デーモン自身も、レゲトンについてはミッシーに教わったと話している。Bad BunnyがミッシーのSpotifyランキングで2年連続1位だった話、そして「娘のプレイリストに自分の曲が一曲もない」とデーモンが苦笑いしながら語っていた話も、いかにもこの親子らしい。

そのミッシーがデーモンに紹介したのが、Truenoだった。
TruenoとBizarrap(『The Mountain』収録の「Orange County」にも参加しているアルゼンチンのプロデューサー)のフリースタイル動画をミッシーがデーモンに見せ、「コンサートでフリースタイルやってもらおう」と思ったのがきっかけだという。

2022年、アルゼンチンのQuilmes Rockフェスでのこと。GorillazのステージにTruenoが呼ばれ、「Clint Eastwood」とともに即興のフリースタイルを披露した。


終演後、ミッシーはデーモンとTruenoとの3ショットをInstagramに投稿した。とてもかわいい写真なのでみてほしい。

本人のキャプションは「morí(死んだ)」の一言と泣き笑い絵文字。好きなアーティストと父親と並んで写真を撮るのが恥ずかしすぎて、顔を出せなかったのかもしれない。どちらにせよ、この写真には「娘がファンだったアーティストを、父親が連れてきた」という話のすべてが詰まっている気がする。


The Manifestoという曲

その後、TruenoはロンドンのStudio 13に招かれ、12時間かけて「The Manifesto」のラップパートを書き上げた。「まるで自分の曲みたいに自由にやらせてもらえた」と彼は話している。

「The Manifesto」は、三つの声が重なる曲だ。
デーモン(2-D)のパートは、どこか諦念のようなトーンが漂う。
もうひとりの参加者、Proofのパートはさらに重い。デトロイト出身のラッパーで、2006年に亡くなっている。この音源は、9・11後のチャリティ企画『911』のためのコラボレーション時に残された未発表のフリースタイルで、デーモンが今回あらためて見つけてきて、このビートの上に乗せたものらしい。スタジオの本番テイクに入る前のフリースタイル音源で、最後には「冗談だよ。さあ始めよう」という声が残されている。録音直前の何気ない一言なのだけれど、それがかえってProof本人がそこにいた時間を生々しく感じさせる。Proofのパートには、暴力と死と、それでも動き続ける意志が混在していて、全体的に暗くて重い。
そのふたつに挟まれたTruenoのスペイン語パートは、明らかに違う温度を持っている。


Yo voy con mis valores, también florezco regando las flores
Me llevo los aromas y los colores, hago que el cielo se enamore
Y si las nubes lloran que no lloren, tengo a los árboles de profesores

Gorillaz - The Manifesto

自動翻訳で読むと、「自分の価値観と共に進む、花に水をやり私も咲く/香りと色を持ち帰り、空を恋に落とさせる/雲が泣くなら泣かせない、木々を先生にして」みたいな意味になる。
若い。希望にあふれている。花が咲いて、空が恋をして、木から学ぶ。諦念と暗さが漂う前後のパートの中で、Truenoのラップだけがまっすぐ前を向いて輝いている。諦念と暴力の間に、あえてこの歌詞を置く構成が実にGorillazらしい。
曲全体には21 gramos(死の瞬間に魂が失うとされる重さとされている)、Move 37(AIが人間を超えた囲碁の一手)といったキーワードも散りばめられていて、生と死と技術と希望が同じビートの上に並ぶ構造になっている。そして2-Dのラストパート、Slow release pills / You take them today / You take them for tomorrow。感情を薬で均一化する社会、というテーマはBlur「The Universal」(1995年)からずっと続くデーモンの問いでもある。
私にはスペイン語の細かな意味までは追えない。それでも、Truenoの声と言葉のリズムはとても心地よくて、意味が完全にはわからないままでも、ずっと聴いていられる。


Truenoという人

彼の単独曲は、正直なかなかとっつきにくい部分もある。ストリートの文脈やギャングスター的な内容も多くて、おお!?となる歌詞もある。でもスペイン語で細かい意味までは聞き取れないので、結果として私は平和に聴いている(笑)。ちなみにDuolingoでスペイン語を勉強しているので、最近は単語だけちらほら聞き取れるようになってきた。それも少し楽しい。

個人的に入口として聴きやすいと思うのは、Milo Jとのコラボ曲「Gil」と「Pumas」。ラップ一色というよりメロディも強く、普段スペイン語ラップを聴かない人にも入りやすいと思う。ちなみにMilo Jはまだ19歳。あの渋い声で19歳らしい。

新作『Turrazo』では、タンゴやアンデスのクンビアなどアルゼンチンの伝統音楽をサンプリングしながら、アルゼンチンのヒップホップとは何かを問い直している。タンゴの伝説、Carlos Gardelへのオマージュも入っている。「アルゼンチンのかけらを、出会うすべての人に置いてくる」という彼の言葉が、この音楽の核にある気がする。


子どもの頃にラ・ボカでGorillazの壁画を見て育ったTruenoは、今ではGorillazのアルバムに参加し、今月はトッテナム・スタジアムのステージにも立とうとしている。そして次は、日本のフジロックだ。

去年2025年のフジロックでは、同じくアルゼンチンのCA7RIEL & Paco Amoroso、通称カトパコが出演し、日本でも一気に知られるきっかけになった。Truenoはカトパコよりも、もう少しストリート寄りでハードコアな部分があるから、日本でどう受け取られるかは正直わからない。

でも、スペイン語のラップには、意味が全部わからなくてもリズムで身体に入ってくる不思議な強さがある。

私はフジロックには行けないので、できれば単独公演で来てほしい。


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