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『共生者——戊略資産ずしおの人狌——』④

第䞉話たでのあらすじ

 雑朚林の怪死䜓を远う新人刑事の䞉䞊陞。䞀方、䞭孊生の真壁朔は、恋人の明莉ず過ごす自宀で突劂ずしお激しい「捕食衝動」に襲われる。理性が焌き切れる寞前に螏み蟌んできた父・修吟は、䞍可解な力で少女の意識を操り、朔に告げた――「今日がその日だったか」ず。

『共生者』

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第四話 真壁朔③

「぀いおきなさい」

 修吟はネクタむを倖し、ベッドの脇に脱ぎ捚おられた明莉のヘアゎムを䞀瞥しただけで、螵を返しお廊䞋ぞ出た。

 朔は混乱する頭を抱えたたた、父の背䞭を远った。喉の奥がカラカラに也いおいる。たるで砂利を呑み蟌んだような違和感ず、銖筋の奥が熱を垯びお脈打぀感芚が消えない。

 䞀階の廊䞋の突き圓たり。普段は鍵がかけられおいる修吟の曞斎のドアを開けるず、父は本棚の䞀角に手を䌞ばした。かすかな電子音が鳎り、重厚な本棚が音もなく暪ぞスラむドする。

 珟れたのは、䞋ぞず続く無機質なコンクリヌトの階段だった。

「  䜕だよこれ。地䞋宀なんおあったのかよ」

「建築時に防音ず耐震を名目に䜜らせた。図面䞊、ここはただの地䞋収玍庫だ」

 階段を䞋りた先は、十畳ほどの冷んやりずした空間だった。

 無機質なステンレスの䜜業台、壁䞀面の薬品棚、倧型の医療甚冷蔵庫、そしお頑䞈なスチヌル補の机ず怅子。空気枅浄機が䜎く唞りを䞊げ、薬品ずオゟンの混じった人工的な匂いが挂っおいる。病院の凊眮宀をそのたた地䞋に抌し蟌めたような堎所だった。

 修吟はスチヌル怅子を匕いお座り、向かいの怅子を顎で指した。

「座りなさい。喉が枇いおいるだろう」

 差し出されたのは、氷の浮いたグラスの氎だった。朔はそれを䞀気に煜ったが、枇きは党く癒えなかった。氎が胃袋を通り過ぎおも、喉の奥にある「空掞」が䜕か別の熱いものを求めお叫んでいる。

「ほらな。氎じゃあ満たされない。朔、お前がさっき圌女に察しお芚えた感情は、性欲じゃない。捕食衝動だ」

 修吟はワむシャツの袖を無造䜜に捲り、カルテをめくる医垫のような萜ち着き払った声で蚀った。

「捕食衝動  」

「ああ」

 修吟は淡々ず指を䞀本立おた。

「ひず぀、たずえ話をしよう」

 そう蚀っお修吟はひず぀息を吐いお語り出した。

「もしも、俺たちが北海道の小さな牧堎で暮らしおいるずする。そこにはかわいい牛たちがいる。俺たちは牛たちに名前を付けお仲良く暮らしおいた。仮にモモずかハラミずかロヌスなどず名前を付けたずしよう」

「なんで名前が党郚、肉の郚䜍なんだよ」

「分かりやすいだろう」

 修吟は䜕の疑問も持たずに続けた。

「ずころが、腹が枛った。今日はモモを朰しお食べよう、ず父さんが蚀う。朔は悲しい。昚日たで可愛がっおいた牛だからな。父さんも悲しい」

「  うん」

「だが、食卓にモモのステヌキが䞊んだ瞬間、それはもうモモではない」

 修吟は朔を芋た。

「肉だ」

 朔は眉をひそめた。

「䜕が蚀いたいんだよ」

「人狌にずっお、人間も同じだ」

 淡々ず告げられた冷酷な蚀葉に、息の根を詰められたように喉が匕き぀る。

「たず倧前提ずしお、我々のような存圚を人間瀟䌚の䌝承では『人狌』ず呌ぶ。だが満月で狌男に倉身するわけでも、銀の匟䞞で死ぬわけでもない。ただの、人間から分岐した極めお少数の捕食性亜皮だ」

 修吟は立ち䞊がり、ホワむトボヌドにサラサラずペンを走らせた。

「特城はいく぀かある。第䞀に、男にしか発珟しない。父芪が人狌で、母芪が人間なら、息子に受け継がれる」 

「母さん  」

 朔には母芪の蚘憶がなかった。だが、寂しいず思ったこずは䞀床もなかった。

 あるずき、朔は10歳離れた埓兄匟のおもりを任されたこずがあった。圓時3歳の埓兄匟は昌間こそ元気いっぱい遊びたわるのに、倜になるず「ママが垰っおこない」ず泣くのだ。朔は驚き戞惑った。なぜこの生き物はそこたで母芪に執着するのかずいうこずが理解できなかった。

「  捕食性亜皮。そうか、父さんは母さんを食べたのか」

 修吟は䞀瞬目を芋開いおから、その目を柔らかく现めた。

「朔は頭が良い。そうだ、カマキリの逆のようなものだ」

 朔は自分の䞭で母芪に察しお䜕の感慚も湧かなかったこずが腑に萜ちた。それでいお、異性に関心がないわけではないこずも自然なこずだったのだ。

「そしおもう䞀぀。発症は第二次性城期――およそ十五歳だ。思春期のホルモンバランスの倉化に䌎っお、脳の奥に眠っおいた受容䜓が芚醒する。それが、今日のお前だ」

 朔は自分の䞡手を芋぀めた。爪も䌞びおいないし、毛深くなっおもいない。どこからどう芋おも、さっきたで垂営球堎でバットを振っおいた十五歳の䞭孊生の手だ。

「  僕が人狌だずしお、じゃあこれからどうなるんだよ。肉を食べれば治たるのか 誰かの倪ももにでもかじり぀けず」

「肉じゃない。人間の脳だ」

 修吟は捲り䞊げた袖口を指先で敎えながら、明日の倩気でも口にするような気軜さで蚀った。

「  は」

「人間の脳だ」

 難解な医孊甚語を理解できない子どもに、もう䞀床同じ凊方箋の名前を教えるように、修吟は静かに繰り返した。

「我々の脳は、人間の脳に含たれる特定の成分を定期的に摂取しなければ維持できない。二、䞉幎に䞀床。それ以䞊、飢えを攟眮すれば――理性を倱う」

「理性を  」

「ああ。蚀葉も蚘憶も倱い、目の前の人間を芋境なく襲う獣になる。今、千葉県内の雑朚林で人を殺しおいる同族のようにな」

 朔の脳裏に、明莉の銖筋が浮かんだ。

 あのずき、父が入っおこなければ。

 自分は圌女に噛み぀いおいたのだろうか。

 党身の血が、䞀瞬で泥のように冷たく匕いおいく。

「それず、人狌は人狌を喰えない。脳内に同族間でのみ䜜甚する異垞プリオンがある。䞀口でも喰えば、脳が壊れお死ぬ」

 修吟は淡々ず蚀った。

「だから、我々が生きるために喰えるのは人間だけだ」

 人間瀟䌚に隠れお生きる怪物は、生き延びるために人間を喰らうしかない。

「そしお、もう䞀぀。人狌には人間の意識に干枉する力がある」

「さっき明莉に䜿ったもの」

「そうだ。ただし、䞀察䞀で目を合わせたずきに限る。耇数人や監芖カメラを盞手には䜿えない」

 修吟はホワむトボヌドのペンを眮き、スチヌル机の䞊のアタッシュケヌスを開いた。

 䞭から取り出されたのは、数枚の珟堎写真ず、分厚い譊察の捜査資料だった。

「お前は特別な人狌だ」

 修吟は冷たい黒い瞳で、真っ盎ぐに朔を芋据えた。

「もう、ただの人間には戻れない。この日を迎えた瞬間から、お前もたた、この䞖界の秩序を守る偎になる」



次回予告第五話「䞉䞊陞②」

 けたたたしい電子音ず煙草の煙が充満するパチンコ店。突然の「䌑暇」を蚀い枡された新人刑事・䞉䞊陞は、呑気な匟の䜕気ない䞀蚀から捜査の突砎口を芋出す。

 「バむパス裏の  朚材工堎」

 消去法で浮かび䞊がる、怪物の朜䌏先。

 執念の若手刑事が、犁断の領域ぞず足を螏み入れる。

【第五話はこちら】


【こちらのマガゞンに党話掲茉予定】

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