
幸せなはずなのに、なぜか満たされなかった|第2話
付き合い始めた頃の私たちは、
たぶん、すごく仲のいい恋人同士だった。
大学生で、時間もあった。
会おうと思えば会えたし、
実際、よく会っていた。
家は電車で1時間くらい離れていたけど、
それを遠いと思ったことはなかった。
会いたいっていうより、
気づいたら一緒にいた、みたいな感じだった。
どっちかが誘うとかじゃなく、
自然に予定が重なって、
気づけば週末を一緒に過ごして、
そのまま平日もどちらかの家に泊まるようになっていた。
付き合って半年もたたないうちに、
私たちは、ほとんど同棲みたいな生活をしていた。
狭いワンルームに、
ふたり分の服と、歯ブラシと、
少しずつ増えていく日用品。
私は、人と長く一緒にいるのが苦手なタイプだった。
楽しくても、
どこかで疲れてしまう。
気を遣って、
あとでひとりでぐったりする。
でも、彼とは違った。
気を張らなくていい。
沈黙も平気。
くだらないことで笑って、
夜中に急に散歩に出たり、
思いつきで遠くまで出かけたり。
彼はフットワークが軽くて、
思い立ったらすぐ動く人だった。
私はそんな彼に、
どんどん心を許していった。
「この人といると、ラクだな」
そう思える人に出会えたことが、
ただただ嬉しかった。
恋愛って、
ドキドキだけじゃなくて、
こういう“居心地のよさ”もあるんだって、
あの頃の私は、幸せだった。
だからこそ、
見えないふりをしたことがある。
私たちは、
たくさん笑って、
たくさん一緒にいた。
でも、
彼から求められることは、
ほとんどなかった。
私は、
ずっと不思議だった。
男の人って、
みんな性欲が強いものだと思ってた。
好きな人と付き合ったら、
向こうから触れてきて、
求めてきて、
そういうものなんだと思ってた。
でも彼は、違った。
私から誘えば、
少し困ったように笑いながら、
それでも応じてくれた。
優しかったし、
拒絶されたわけじゃない。
でも、
彼から“したい”と言われたことは、
ほとんどなかった。
最初は、
きっと恥ずかしいだけなんだと思った。
そのうち慣れたら、
自然に変わるんじゃないかって。
それに、
当時の私は恋愛経験も少なくて、
何が普通で、何が普通じゃないのかも、
よくわからなかった。
他のカップルって、
どのくらい触れ合うんだろう。
どんなふうに、
恋人同士の時間を過ごしてるんだろう。
気になっても、
誰にも聞けなかった。
でも、
エッチ以外の時間は、
本当に幸せだった。
一緒にいて苦じゃない。
沈黙がつらくない。
無理しなくていい。
そんな相手、
この先もう現れないかもしれないって、
本気で思ってた。
だから私は、
小さな違和感を、
“たいしたことじゃない”って、
自分に言い聞かせた。
大丈夫。
これからもっと、うまくなっていける。
私が少しずつ、
彼のことを知って、
彼も私を知って、
ふたりで慣れていけばいい。
好きなんだから。
一緒にいたいんだから。
そうやって、
見ないふりをする理由を、
ひとつずつ増やしていった。
あの頃の私は、
「好き」だけで、
乗り越えられないものがあるなんて、
まだ知らなかった。
(つづく)
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