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あの頃の私たちは、ちゃんと恋人だった|第1話

    あの頃の私は、たぶん、すごく田舎くさかった。

    地方から出てきて、初めての一人暮らし。
    初めてのバイト。
    恋愛経験なんて、ほとんどゼロ。

    垢抜けてる子たちに囲まれて、
    自分だけが場違いな気がして、
    でも、それを悟られたくなくて、必死だった。

    そんな時に出会ったのが、今の夫だった。

    背が高くて、頭もよくて、
    東京の空気に馴染んでいて、
    私から見たら、全部がきらきらして見えた。

    初対面なのに、まっすぐ目を見て話してくる人だった。
    よく笑って、よくしゃべって、
    「そんなことまで聞く?」って思うくらい、
    私のことに興味を持ってくれた。

    その瞳が、当時の私にはまぶしかった。

    こんな人に好かれるなんて、って。
    たぶん私は、恋に落ちるというより、
    その世界に憧れて飛び込んだんだと思う。

    付き合うことになった時、
    嬉しくて、浮かれて、
    これから始まる“恋人らしい毎日”を、
    勝手にたくさん想像していた。

    手をつないで、
    たまにケンカして、
    仲直りして、
    夜になったら、自然と触れ合って。

    そういう、
    “好きな人と付き合ったら、きっとあるもの”を。

    でも、付き合って数週間たっても、
    彼からは何もなかった。

    手はつなぐ。
    キスもする。
    一緒にいると楽しい。

    だけど、その先がない。

    最初は、恥ずかしいのかなと思った。
    私だって初めてだし、
    きっと彼もタイミングを探ってるんだろうって。

    でも、待っても待っても、何もない。

    あれ?
    付き合うって、こういうものだっけ。

    当時の私は、恋愛に慣れてなかったくせに、
    そういうことへの興味だけは、人並みにあった。

    いや、むしろ強かったかもしれない。

    好きな人と、もっと近づきたかった。
    触れたかったし、触れられたかった。
    ただ隣にいるだけじゃ、足りなかった。

    だから、ある日、
    たぶん人生で一番勇気を出して、
    私から言った。

    「ねえ……したい」

    今思い出しても、
    あの時の自分、よく言ったなって思う。

    セックスのことなんて、
    正直、“セ”の字もよく分かってなかった。
    でも、好きな人となら、
    それも全部、楽しいものだと思ってた。

    その夜、
    私は彼に、いろんなことを教えてもらった。

    緊張して、恥ずかしくて、
    でも嬉しくて、
    ああ、やっと恋人になれた気がした。

    ──でも。

    そのあと、
    彼から誘われることは、ほとんどなかった。

    あの時は、まだ知らなかった。
    あの小さな違和感が、
    この先の私たちを、ずっと揺らし続けることになるなんて。

    (つづく)

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    夫は優しい。 でも、私はずっと寂しかった。 夫婦仲は悪くない。 でも、触れられない夜がある。 2児の母になっても、女でいたい。 求められたい。 でも、そんな本音をうまく言えない。 誰にも言えない夫婦の寂しさを、夜のすきまに書いています。

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