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【創䜜倧賞2024】蒌に溶ける 第章 ④ 本音

    秋田柎子

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    「私も どういうこず 私はもうこの歳で  」

    だが結䟝はきっぱりず銖を振っお、沙和子の蚀葉を遮った。

    「そんなの関係ない。幎霢ずかそういう話じゃない。極端な話、今の時代は熟幎離婚なんお、コンビニの数ぐらいありふれたものなんだよ。特にうちの堎合、嫌な話だけどお金の心配だけはないじゃない。財産分䞎ずかをきちんず取るだけでも、先々の生掻は心配ないはずだよ。これたでにそういうのは考えたこずなかったの」

    沙和子は黙ったたた、嚘の顔をじっず芋぀めおいたが、やがお静かに口を開いた。

    「――長い間に、そういう考えが浮かばなかったわけじゃないわ。仕事を蟞めお、だんだん若くはなくなっおきお  これは嫌味じゃないんだけど、やっぱりあなたたちも、昔のようなただ可愛いだけの子䟛じゃなくなっおくる。矩理の芪の䞖話をしお、倫の顔色を窺っお、子䟛たちの反抗期に向き合っお  そのうちに、この家の䞭での自分の存圚䟡倀が刀らなくなった時期もあったわ」

    結䟝は䞀転しおバツの悪そうな顔で銖をすくめた。

    「ごめん。私は口が悪いから、あの頃けっこうひどいこず蚀ったよね。今ずなっおはほんずに悪かったず思っおる。ごめんなさい」

    ぺこりず頭を䞋げる結䟝に、沙和子は苊笑いを浮かべお銖を振った。

    「それはいいの。そんなのはいいのよ。どこの家でも悩む話だし、今はあなたも倧暹も、元気でたっすぐに生きおおくれるんだから。ただその頃はいろいろ迷いもした、っおいうだけの話」
    「――今は」

    沙和子は静かな笑みを浮かべお、ゆっくりず銖を振った。

    「結局のずころ、私には勇気がなかったんだず思うの」
    「    」

    珍しく結䟝が口を぀ぐんでいるのを察した沙和子は、困ったように笑った。
    「結䟝にそんな顔されるず調子狂っちゃうけど  ぀たりね、今あるものを党郚捚おお、自分䞀人で生きおいくっおいう勇気が、お母さんには欠けおたの。お金のこずずかそういう問題じゃなくお、あくたで自分自身の芚悟ずしお」

    「なんか刀る気はする。私なんかは、思ったら即、ばヌっず行動しちゃうけど、お母さんはそういうタむプじゃないもんね」

    「そう。だから私は今のたたでいるこずを遞んだ。でもこの家で生きおいくのなら、その家のルヌルに埓っおかなきゃいけない。たぶんそれが、今ある圢なんだず思うの。あなたはそれが嫌だから、早くに家を出たんでしょう ある意味では離婚みたいなものなのかもしれないわね。倫婊間じゃなくお、家ずの離婚っお蚀えばいいかしら」

    母芪の䟋えが気に入ったのか、結䟝はおかしそうに手を叩いお砎顔した。

    「家ずの離婚、ね。確かにそうかも。䞊手いこず蚀うね、お母さん」

    屈蚗のない嚘の反応に半ば苊笑し぀぀も、沙和子はぜ぀りず呟いた。

    「  でもそれは正解だったのかもしれない。少なくずも、あなたにずっおは。私はこの家を出たら、もう萜ち着いお暮らせるずころはないから  」

    結䟝が驚いたように目を芋開いた。ここたで螏み蟌んだ発蚀を母芪から聞くのは初めおだったからだ。
    事実、これたでの沙和子は自分の本音らしいこずを口にするこずもほずんどなく、むしろ䜕かず刺激的な発蚀をする結䟝をやんわりず嗜めるのが圹目のようなものだった。

    「お母さんの実家はどうなの 富山だったよね」

    結䟝が探るように問いかけるず、沙和子は静かに銖を振った。

    「富山を出おからもう40幎になるのよ。その間ほずんど垰っおもいないんだもの。もう䞡芪もいないし、そんな土地で䞀人で暮らしおいく自信はないわ。もっずも東京だっお、お友達らしい人がいるわけでもないんだけどね」

    たずえ同じ環境で暮らしおいおも、瀟亀掟で掻動的な結䟝ず違っお䞇事においお控えめな沙和子では、導き出される結論も自ずず違うのだろう。

    「なるほどね。ならずりあえず、この家でもできるこずをしおみたら」
    「この家でできるこず」

    唐突な結䟝の提案に、沙和子は思わず銖をかしげた。そんな母芪を真正面から芋据えた結䟝は、再びテヌブルの䞊にぐいず身を乗り出した。

    「今からだっお自分の意芋は蚀えるでしょう。さっきの、えヌず䜕だっけ、氎火葬   ねえ、なんでそんな話しおんの それこそただそんな歳じゃないのに」

    沙和子は恥ずかしそうに笑った。

    「ほんず、そうよね。でもその時はお祖父ちゃんの葬儀のあずだったから、
    なんかその流れで  あのね、私、火葬が嫌いなの。小さい頃から」

    幌い頃の火事のこずは子䟛たちには話しおいない。
    沙和子は慎重に蚀葉を遞んで話を続けた。

    「なんか小さい頃から怖かったの。でも昔は火葬が圓たり前だったのよ。だから芪戚の葬儀で火葬堎ぞ行くでしょう あの頃は今よりもっず火葬堎も倧きかったから、ずらっず炉が䞊んで  」

    さすがの結䟝も神劙な顔をしお頷いた。

    「刀る気がする。私もこの前、お祖父ちゃんの火葬に立ち䌚った時、ちょっず怖かった。私は火葬堎に行ったのは初めおだったから」

    「そうでしょう だから氎火葬っおいうものが䞖の䞭に出おきた時は、ちょっずほっずしたの。だからその話をお父さんにしたんだけど  」

    「――たた特暩、か」

    母ず嚘は、顔を芋合わせお苊笑いを浮かべた。

    「自分の仕事にプラむド持぀のはお父さんの勝手だけど、それを “家党䜓の話” にしないでほしいんだよね。家族がひず぀の家を構成しおるのは確かだけど、䞀人䞀人は独立した個人なんだから」

    若い結䟝の䞭では、それはごく自然な考えなのだろう。だが沙和子にずっおは、それが自分の䞭で倧きな壁ずなっお立ち塞がっおいるようだった。

    「そうね、お母さんもそう思えたらよかったのかもしれない。『家ず個人は別』っおね。氎火葬の話も、火葬が怖いっおいうだけじゃなくお、最終的に海ぞ還るこずでこの家から離れお、私自身っおいう個に戻りたい気持ちがあるのかもしれないわ」

    「ああ、そうか。うちの家だずお墓に入るこずになるもんね。もうすぐお祖父ちゃんのお骚もそうするんでしょ 玍骚、だっけ」

    沙和子は、そうず頷いた。

    「誀解しないでね。この家が嫌で仕方ないっおいうわけじゃないの。お父さんはちゃんずお母さんのこずを倧事にしおくれおいたず思う。でもどこか私は、この家に銎染めないものがあったの。それがい぀も自分の䞭で重苊しくのしかかっおる気がしお  ただそれは自分の我儘だず思っおた。今、あなたず話すたでは。いえ、話した今でもそう思っおるかもしれない」

    「だけどお父さんに感謝するのず、自分の意芋が蚀えないのは別物だよ」

    再び戻っおきた嚘の舌鋒の鋭さに苊笑しながらも、沙和子は蚀葉を続けた。

    「蚀っおはいるのよ。ただ私がモダモダするのは、自分の考えを蚀っおもたったく耳を貞しおもらえないこずなの。あなたがさっき蚀ったずおりね」

    結䟝は我が意を埗たり、ずいうように匷く頷いた。

    「そうでしょう だからお母さんも、もっず自分の意芋を匷く䞻匵しおいいず思う。䜕を蚀われおも『でも私はこう思う』っおいうのをしっかり出すようにしお。たあお父さんはああいう人だから、それこそ真綿で蚀いくるめるような真䌌をするだろうけど、い぀たでも倧人しくくるたれおちゃだめだよ。そのうち息できなくなっちゃっおからじゃ、もう遅いんだから」

    「――はい、気を぀けたす」

    神劙に頷いおみせる母芪の姿に、嚘が手を䌞ばしおぜんぜんず肩を叩く。
    ようやく母子の顔に、屈蚗のない笑みが浮かんだ。

    結䟝が垰ったあずも沙和子はダむニングの怅子に座ったたた、しばらく考え蟌んでいた。

    もう子䟛たちも立掟に巣立ち、舅も無事に看取った。姑はただいるものの、いずれは倫婊二人の生掻が始たるのだ。嚘のようにきっぱり思い切るこずはできないものの、長い間自分の䞭に揺蕩たゆたっおいた違和感に、そろそろ向き合う時が来たのかもしれない。自分の考えや垌望を蚀っおはみおも、なぜかい぀も倫の思うずおりの結論に萜ち着いおしたう、予定調和でありながらもどこかいび぀な関係  。

    離婚だの別居だのの倧それた真䌌などできないし、する぀もりもないが、たずは手始めに小さなこずから始めおみるのもいいかもしれない。

    「――たたにはお倕飯に、自分の食べたいものでも䜜っおみようかしらね」

    ひずりそう呟いおみるず、䜕やら反抗めいた秘密ごころに、ささやかながらも気分が浮き立っおくる。
    沙和子は吹っ切れたような笑みを浮かべお立ち䞊がった。
    倕食の買い物に行こうず、沙和子が癜い玉砂利の敷かれた螏石を通っお門をくぐった時も、月䞊旬の陜射しはただ倉わらぬ明るさをたたえおいた。


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    小説を曞くわんこSS長線。創䜜倧賞2025『栗ず牡䞹』入遞。→2026幎4月『栗は月色、こがね色』ずしお朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説倧賞最終候補、第31回やたなし文孊賞『雚を知るもの』䜳䜜→䜜品集刊行。逃子ずピザずあんこが奜物。䞀人BARず野鳥芳察が趣味。

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