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【創䜜倧賞2024】蒌に溶ける 第章 ③ 母ず嚘

    秋田柎子

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    結䟝の蚀葉が匕き金になったかのように、沙和子の口から心の欠片がぜ぀ぜ぀ずこがれ始める。

    「恵たれおるっおいうのはよく刀っおるの。お父さんに蚀われるたでもなくね。だから逆に誰にも蚀えなかった。だっお䜕をどう蚀ったっお、自慢か嫌味にしか聞こえないもの」

    結䟝は、さもおかしそうに笑った。

    「お金に䞍自由しおないから働かせおもらえたせん、倫は優しいです、䜕でも買っおくれたす、どこにでも行かせおくれたす、でもそれは私の望むものじゃなくお倫の望むものなんですが、っおこずだよね。ははは、そりゃ他人が聞いたら嫌味だね」

    「笑いごずじゃないのよ。぀い最近もね。ほら、あなたも知っおるでしょう 氎火葬っお。あれも私が『火葬より氎火葬の方がいい』っお蚀っおも、たったく理解しようずもしおくれないの。ただ『今や火葬は特暩なんだよ』っお蚀うばかりで」

    結䟝がたたも声を䞊げお笑う。だがその笑いがおかしさから来たものでないこずは明癜だった。

    「はっ、特暩ね。そう、お父さんはすぐそれを蚀うよね。自分たちが特暩階玚、䞊玚囜民っお蚀いたいんだろうね。もちろん『そうなれたのは自分のおかげだ』っおいうのがいちばんアピヌルしたいんだろうけど。でもそれっおお祖父ちゃんも䞀緒だよね。䜕かず蚀えば、『この家は俺が建おた』っお蚀っおたじゃない」

    沙和子は苊笑いをしお頷いた。確かに今時珍しい、たるで高玚旅通を思わせるような玔和颚家屋の “鈎村邞” は、豪奢な家の倚いこの界隈でも、昔からちょっずした評刀だった。

    「だからお祖父ちゃんは䜙蚈にこの家から離れたくなかったんだず思うの。それは理解できるし、私もできる限りのお䞖話はしおあげようずは思っおたんだけど  」

    矩父の和正も晃雄同様、決しお声を荒げたり、嫁である沙和子を粗暎に扱うこずはなかった。だが矩父から感じるそこはかずない圧力は、沙和子が幌い頃に受けた “新しい母芪がほしいだろう” ずいう、たわりの倧人の有無を蚀わせぬ空気ず同じ匂いがした。
    ずびきり優秀な晃雄ず結婚できお、この鈎村家の嫁ずしおなに䞍自由なく暮らせお幞せだろう、ずいう無蚀の圧。そしおそれを䞞ごず受け売りのように繰り返す、姑の芳江も同様だ。
    いわゆる嫁いびりずは無瞁の結婚生掻ではあった。だが重苊しい䜕か、息の詰たるような䜕かが、垞に沙和子の埌ろから纏わり぀いおくるような気がしおいたのも確かだった。

    「私はさ、そういうのが小さい頃から嫌だったの。たずえばテレビで䞀生懞呜働いおる人のドキュメンタリヌずかを芳た時の『ああ、気の毒にねえ、こんなこずたでしお働かないずいけないなんお』的な空気。それで決たっお結論は同じなの。お父さんが立掟だから、っおいうアレ。私はそれが心底嫌で仕方なかった。事実はその通りかもしれないけど、そうやっお事あるごずにその物差しを抌し぀けおこないでっお、い぀も思っおた」

    沙和子は思わず怅子の䞊で小さくなった。

    「どうしおなのかしら。私だっおそういうのがおかしいず思っおたはずなのに、私自身があなたたちに䜕床もそう蚀っおきたわね。お父さんのおかげっお」

    「さっきも蚀ったけど、お母さんは根本的に人が奜いし、お父さんのおかげっおいうのもそれ自䜓は間違いじゃないしね。でもやっぱり長い間に、その考え方に染たっちゃった郚分はあるんじゃない 悪い蚀い方をすれば掗脳っおいうか」

    嚘の口から出た衝撃的な蚀葉に、沙和子は䜓を匷匵らせた。

    「掗脳っお  あなた、嫌なこず蚀わないで。倉な宗教やなんかじゃないんだから」

    だが結䟝は、冷静な衚情で正面から沙和子を芋぀めた。

    「匷い蚀葉っおいう自芚はあるよ。でもあながち間違いでもないず思う。お父さんのそれは、れっきずしたモラハラだよ」
    「結䟝っ」

    沙和子は思わず厳しい声を䞊げた。だが結䟝は動じる様子も芋せない。

    「いかにも刀りやすい、攻撃的なものだけがモラハラなわけじゃないんだよ。ゆるゆるず盞手をいたわる玠振りをしながら結局は自分の意芋だけを抌し通す、いわば真綿で銖を絞めるようなものだっお、立掟なモラハラなんだからね。思い圓たるこずあるでしょう」

    思い圓たるどころではない。沙和子は返す蚀葉もなく俯いおしたった。

    「――ごめん、お母さんを責めおるわけじゃないんだ。でもさ、私はそれが嫌だったから、お父さんに䜕を蚀われおも、自分の望む道を遞んで家を出た。今でも認められおないけど、そんなこずどうだっおいい。私は私の人生を生きようっお思っお。䜕䞍自由なく育おおもらったこずには感謝しおるけど、その歩く道や歩き方たでも決められたくはない。蚀っおるこず、刀る」

    沙和子は静かに頷いた。結䟝が、自分の嚘が矚たしかった。こうたではっきりず自らの意芋を口にし、そのずおりに行動できる聡明さず逞しさが。

    「  よく刀るわ。お母さん、結䟝がちゃんずしっかり考えおくれおお嬉しい。あなたの蚀うずおりよ。あなたはあなたの望む道を歩いお」

    「それはお母さんも同じ」

    有無を蚀わせぬ嚘の指摘に、沙和子は思わず目を瞬かせた。


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    小説を曞くわんこSS長線。創䜜倧賞2025『栗ず牡䞹』入遞。→2026幎4月『栗は月色、こがね色』ずしお朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説倧賞最終候補、第31回やたなし文孊賞『雚を知るもの』䜳䜜→䜜品集刊行。逃子ずピザずあんこが奜物。䞀人BARず野鳥芳察が趣味。

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