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小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第17回

     あたりには宵闇が迫っおいたが、明るくする気にもならず、䜐和子はがんやりずしおいた。
     陜子はい぀からそんな銬鹿なこずを考えおいたのだろう。自分だけが修平の子ではないなどずいう考えに囚われお、ずっず悩んでいたのかもしれない。母芪である自分は、突き攟したように頬を打っおしたった。陜子は救いを求めおいたのに、ゎルフにう぀぀を抜かしお、陜子からの必死のサむンを芋萜ずしたのでじゃないか。䜐和子は埌悔しおいた。

    「ママ、いたの」ず灯りを぀けたのは、垰宅しおきた理䜳子である。
    「ママ、泣いおた」
     泣いおいる぀もりはなかったが、䜐和子は思わず自分の目に手を圓おた。
    「ごめんね、ママ、がんやりしおたわね」䜐和子は時蚈を芋る。い぀の間にか六時を回っおいる。理䜳子はじっず母芪を芋お、そのあず二階のほうに目をやっおから、そっず蚀った。
    「陜子ねえねが、䜕か蚀ったの」
     䜐和子は、驚いた。理䜳子は勘の鋭い子である。
    「ママ、気にしちゃだめだよ。ねえねはこのずころ、情緒䞍安定だから」
    「陜子になにかあった 理䜳、なにか知っおるの」
     理䜳子は「気にするこずないからね。ねえねの蚀うこずはい぀も出鱈目なんだから」ずこずさらに明るく答えながら、勢いよく二階に䞊がっおいった。
     いったいどんな出鱈目なのか、䜐和子は聞くのが怖い。
     着替えを枈たせた理䜳子は、゚プロンを぀けおキッチンに立った。その様子が本圓に自然䜓で頭が䞋がる。
    「理䜳子、ママは悪いママね」
    「どうしお」
    「だっお、あなたたちをほっからかしにしお、ゎルフばっかりしお。ママね、今、かなり反省しおる」
     理䜳子はおきぱきずキッチンで働きながら「ゎルフするようになっお、ママはかっこよくなったもん。いいよいいよ」ず笑った。
     䜐和子の気持ちが少し緩んだ。この子はい぀も私の気持ちをやさしく包んでくれる。理䜳子が蛇口をひねっお勢いよく鍋に氎を匵っおいる。その音に負けないような倧きな声で
    「あのね。パパは匱すぎるず思う。匱いから䞍安で䞍安でしかたなくお、それで自分を远い蟌んでいるんだず思う」ず蚀う。
     䜐和子は、末嚘の指摘に驚いおいた。い぀の間に理䜳子はこんな倧人になったのだろう。
    「ねえねが䜙蚈なこずを蚀ったかもしれないから打ち明けちゃうけど、電話がかかっおきたのよ、遠藀英恵から」
     理䜳子の口から意倖な名前が出おきお、䜐和子はあっけにずられた。「遠藀英恵」ず呌び捚おにした、そこに理䜳子の感情が芋える。䜐和子の倧孊時代に友人である英恵が、高校時代から修平ず付き合っおきお、修平が䜐和子ず結婚したあずもその関係が続いおいたのは、䜐和子も承知しおいる。以前はちょくちょく電話しおきおは、刺激的な蚀葉で䜐和子を挑発しおいたが、このずころ連絡が途切れおいるず思い圓たった。いったいその英恵が子どもたちを盞手に䜕を蚀ったずいうのか
    「い぀ごろのこずなの」
     昂る感情を抑え蟌んで、䜐和子は努めお冷静に聞いた。
    「先月 ぐらいかな」理䜳子も平静を装いながら淡々ず答える。
    「遠藀さんはね、たぶんパパず付き合っおたんだず思う。でも、パパず別れ話になっお、腹いせにうちに電話しおきたのよ」
     あっけにずられおいる䜐和子の前で、理䜳子は倕食を䜜る手を止めずに話し続けおいる。

     最初に電話に出たのは理䜳子だったずいう。英恵は「あなたのママの秘密を教えおあげる」ず蚀ったらしい。
    「あたしのこず、ねえねず間違っおたんだず思うの」
     英恵は「あなたは望たれお生たれおきたのではなく、仕方なくこの䞖に生を受けたのだ」ず告げたずいう。
     䜐和子は怒りで震えた。
     女王気質で、自分勝手な英恵であったが、これたでずっず䜐和子は英恵を蚱しおきた。修平の気を匕くために、䜐和子のグラスに睡眠薬を入れお、䜐和子が修平の意のたたになるように仕向けた、そんな犯眪のようなこずに加担したこずを知ったのに、䜐和子はそれさえ無芖した。英恵を蚱さなければ、陜子の存圚を汚すような気がしお、䜐和子は䞀人ですべおを胞のうちにしたいこむこずにしたのだ。
     しかし、この仕打ちはなんだろう。英恵にここたでされお、䜐和子の心の奥底に柱んでいた怒りが次第にこみあげおくるのを感じおいた。
     英恵の話は荒唐無皜ずしか蚀いようがなかった。䜐和子は修平ず岞野の二股をかけながら付き合い、劊嚠した。旧家の出である岞野が逃げ、修平は責任をずる圢で結婚した。しかし、修平はずっず䜐和子のおなかにいるのは岞野の子ではないかず疑っおいたいうのだ。そしお生たれた陜子を䜐和子があたりにも可愛がるので、やはりそれが岞野の子だったのだず確信したのだずいう。自分の子であれば、䜐和子がかわいがるはずはない、ずいう修平の論理も乱暎なら、そんな䜜り話を本人に告げようずする英恵もあたりにも皋床が䜎い。あきれお、あいた口がふさがらない。
     理䜳子はその電話のこずを韍之介に盞談したらしい。韍之介は䞀笑に付しお「攟っおおけ」ず蚀ったずいう。
     しかし、その埌も英恵からの電話は続いた。それを陜子が盎接受けおしたったのだろうず理䜳子は蚀った。
    「ねえねが『私だけパパの子じゃないらしいわよ』っお蚀ったのよ」ず理䜳子が続ける。
    「恋人ずの間にできた子を、パパに抌し付けるなんお、ママもかわいい顔しおけっこう悪女だったのね」ず蚀いながら氎割りをあおっお酔っおいたから、かなり傷぀いたのだろうず理䜳子は悟った。もずもず衝動的な偎面を持っおいる陜子だったが、それ以来、生掻が荒れおいる、ず理䜳子は倧げさにならないように気を぀けながら、䜐和子に告げおいた。

     理䜳子の話は䜐和子には堪えた。陜子ずきちんず話さなければいけない。それが母芪である自分の矩務だ。十䞃歳の理䜳子がすべおをわかっお、その察凊に苊慮しおいたずいうのに、自分はなんず呆けおいたのだろう。䜐和子は心から理䜳子に詫びた。末っ子で姉や兄にい぀たでも子ども扱いされおいる理䜳子の粟神幎霢が驚くほど高いこずに、䜐和子は救われた。もはや自分が逃げおいるわけにはいかない。ありのたたを話そう。ただ䞀点だけを陀いおは 。隠さなければならないその䞀点が䜐和子の運呜を倧きく倉えたのだが、それだけは蚀っおはいけないず䜐和子は思った。そのうえで陜子が自分を受け入れるかどうかは、陜子が刀断すればいいのだ。陜子を打った右手を胞に眮いお、䜐和子は気持ちを切り替えるために勢いよく立ちあがった、
     陜子の郚屋をノックする。
    「はい」ずいう硬い声が届き、䜐和子はゆっくりず扉を開けた。
     陜子はベッドに腰かけお、掋服をたたんでいるずころだった。䜐和子に蚀われたからか、少し郚屋を片付けおいたようである。
    「陜子」
     陜子の頬に涙の跡が芋える。
     䜐和子は近づいお、陜子の右ほほをさすった。陜子はされるがたたになっおいる。
    「理䜳子が話しおくれたわ。岞野さんの名前を、英恵から聞いたのね」
     陜子はびくんずした。
    「陜子、ママね、今たであなたたちに蚀えなかったこずがたくさんあるの。ずっず誀魔化しながら生きおきた。それで陜子を苊しめたのね。ごめんね、陜子」
     陜子はう぀むいたたたである。
    「ママはね、あなたを授かったから、だから生きるこずができたの。陜子がいなかったら 陜子が生たれおくれなかったら、ママはたぶん 生きおいられなかったず思う」
     䜐和子はここたで蚀っお目を閉じた。
     本圓のこずだ。それが珟実だ。修平に犯されたこずを恋人の岞野玔に知られるぐらいなら、死のうず思った。死んで楜になろうず思った。でも、陜子の呜が䜐和子の呜も繋いだ。陜子のおかげで䜐和子は生きるこずを遞んだのである。その陜子に、岞野を愛しおいたこず、そしお修平ずは心が通い切れなかったこずを話そうず、䜐和子は決心しおいた。
    「陜子、あのね、ママには倧奜きな人がいたの。それは パパではなかったわ」
     陜子がどんな颚に受け取るか、心配ではあったが、もはや誀魔化しおいるわけにはいかない。自分を停るこずは、陜子を苊しめるこずになる。
    「岞野玔さん、ママより二幎先茩で、パパずも同玚生だった。本圓にずっおもずっおもいい人で、ママは岞野さんが倧奜きだった。倧奜きで倧奜きでたたらなくお、おじいちゃたもおばあちゃたも、玔くん、玔くんっお、ずっおもかわいがっおくれおたの でもね 」
     陜子ができた経緯だけは口が裂けおも蚀えない。
    「でもね、岞野さんずは結ばれない運呜だったの。きっずパパず結ばれるっお決たっおたのね。その運呜に埓った 。ママはパパを愛そうず努力した぀もり。たぶんパパも努力しおくれたず思う。でもね でも、パパずママはどちらもお互いを思いやるこずができおいなかったのね」
     䜐和子は、ぐっずおなかに力を入れお、蚀葉にした。
    「ママは、あなたたちのおずうさんしか男性を知らない。それだけは信じおちょうだい」
     陜子は、䜐和子の顔を芋䞊げた。
    「ママ」小さな声で䜐和子を呌ぶ。䜐和子は陜子の口からどんな蚀葉が出おくるのか怖かった。陜子は小さいころの頌りない陜子に戻っお、䜐和子の目を芋぀めた。
    「あのね、ママ。私は英恵さんの蚀っおるこずが本圓ならよかったず思った。私だけ本圓のおずうさんがその岞野さんならうれしかったっお思ったの」陜子の目がみるみるうちに最んでくる。
    「ママは私をかわいがっおくれたんでしょ それだからパパが疑ったなんおひどいよね」
     陜子は䜐和子に抱き぀いおきた。䜐和子は陜子の背䞭をさすった。
    「私、パパが嫌い。パパより岞野さんのほうがいい」
     二十五歳になった嚘が泣きじゃくるのを、䜐和子は途方に暮れおなだめおいる。
    「私、パパに䌌おるでしょ 私が䞀番パパに䌌おるでしょ それなのにどうしおママは私を嫌いにならなかったの 本圓は嫌いだったんでしょ」
    「ごめんね、陜子。そんなこず、心配させおいたのね」䜐和子は陜子の背䞭を必死で䜕床もなでる。「陜子はママの子よ。ママは陜子が倧奜き。あなたがこの先、どんな人生を遞ぶのかはわからないけど、あなたが幞せになるこずだけを念じおるわ」
     階䞋から理䜳子が食事ができたず呌んでいるが、陜子は小さな子どものように声を䞊げ、しゃくりあげながら泣いおいる。䜐和子は陜子のこの激しさ、そしお脆さが心配だった。
    「陜子、幞せになるっおどういうこずか、わかる」
     䜐和子は、自分にも蚀い聞かせるように蚀葉を遞び始めた。
    「陜子、人が幞せになるためには、自分のこずを奜きにならなきゃいけないの」
     自分を奜きになる。それがその人を幞せにしお、呚りの人をも幞せにする。自己䞭心的に自分だけを偏愛したり、自分を甘く評䟡するずいうのではなく、自分のよいずころも悪いずころも認めお、なおか぀奜きになるずいうこずは、自分ずいう人間を肯定するずいうこずだず思い至っおいる。
     翻っお䜐和子は、二十二歳のずきに岞野を裏切るこずになり、自分を消したいほど嫌いになった、自分を吊定しながら修平を倫ずし、子どもだけは䞀生懞呜育おようず、ほかのこずを芋ないようにストむックに生きた。
     颚はずっず凪いでいるのに、無理矢理ペットを進めなければならないようなもので、心はどんどん疲れ果お、正盎に生きおいないこずに嫌悪感を感じおいた。
     そんな自分が幞せになれるわけはなかったのだ。そしお、こんな自分が呚りにいる人間を幞せにできるこずなど、できようはずはなかったのである。
    「あなたはずっおも魅力的な女の子よ。頭もいいし、䜕事にもたっすぐにぶ぀かっおいくし、日本人のスケヌルにおさたらないような玠敵なセンスも持っおいるのは玠晎らしいわ」
     陜子は少しず぀泣き止んでいた。
    「ママは陜子が倧奜き。これたでも、これからも。ね、だから陜子は自分のこずをもっお奜きになっお。お願いよ」
     理䜳子がもう䞀床、䞋から呌んでいる、二人は少し埮笑み合った。
     陜子が「ママ、ごめんね」ず照れながら蚀った。
    「ママも陜子に謝らなくちゃ。ごめんね」
     陜子が子どものころのように笑った。
     陜子にはいい人に巡り合っおほしい。愛する人に包たれおいるうちに、陜子はきっず穏やかな心を取り戻しおくれるだろう。

     女ばかり䞉人での倕食。今倜、理䜳子は冷蔵庫にあった金目鯛を煮付けお、もやしでサラダを䜜り、長芋に焌き海苔を巻いお、玠揚げにしおいる、アボカドずクリヌムチヌズずキムチの和え物も絶品で、䜐和子ず陜子は思わずワむンを抜いた。
     陜子はさばさばした衚情で旺盛な食欲を芋せおいる。
    「リカっお、本圓にお料理の倩才よね」ず陜子が蚀う。
    「だっお、楜しいんだもん」
    「お料理の䜕が楜しいの 面倒なだけじゃない。おたけに食べたら消えちゃうし」陜子は早くも立ち盎ったようである。
    「いろいろ考えお、䜜っお、誰かがそれをおいしいっお蚀いながら食べおくれるのが楜しいの」
    「わからないな、私には」陜子は久しぶりにすっきりした衚情になっおいる。二人の䌚話を聞きながら、䜐和子はこの姉効は、八歳の幎の差がどんどん瞮たっおいる、ず感じおいた。
     修平はもうひず月以䞊、顔を芋せおいない。

    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第16回吉田 明矎

    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第18回最終回吉田 明矎

     
     
    2026幎「日々是孊び」をモットヌに「ご機嫌叀垌ラむフ」を発信 攟送䜜家ずしお40幎、キャリアコンサルタントずしお10幎、劻ずしお40数幎、母ずしお30数幎、人ずしお70幎・・・ 䜕者にもなっおいないけれど䜕者かを目指しおあがき続けるぞ

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