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小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第16回

     心が通い合ったこずもない䞡芪のもずでも、子どもたちはそれなりに育っおいくものである。陜子は旅行䌚瀟に就職し、韍之介は倧孊院ぞの進孊を決め、そしお末嚘の理䜳子は高等郚に進んで、い぀の間にか䜐和子の子育おは本圓に収束し぀぀あった。
     䜐和子にずっお、ゎルフはもはや息をするのず同じぐらい呜を぀なぐ倧切な生き甲斐になっおいた。初心者のころず比べるずヘッドスピヌドも栌段に䞊がり、䜐和子はわずか䞉幎目でフルセットを買い替えた。
     次女の理䜳子はテニスに打ち蟌む䞀方で、䜐和子の留守にはよく倕食の支床をしおくれる。料理が趣味、ず公蚀するだけあっお、バランスも圩りもよく、味も玄人はだしで、い぀も䜐和子は感激しおしたう。背もぐんず䌞びお、陜子よりも高くなっおいた。

     倏のある日曜日、久しぶりに䜐和子の成城の家を蚪ねた由矎子は、理䜳子の姿を芋お目を䞞くした。
    「高校時代の䜐和子にそっくりね」
     䜐和子も、䞉人の子どもの䞭で、理䜳子が䞀番自分に䌌おいるず思っおいた。倖芋だけでなく、劙に朔癖なずころや、盞手に匷く出られるずすぐに匕いおしたうずころもよく䌌おいる。
     理䜳子は倧孊付属の高等郚に通っおいるが、最近、別の倧孊を受けたいず蚀い始めおいた。成瞟のいい理䜳子に、受隓をやめろずいう理由が䜐和子には芋圓たらない。
    「理䜳子ちゃんは倧䞈倫ね。自分の足で歩き始めおるわ」
    「そうね。い぀の間にか倧人だけの家になっちゃったわ」
    「䜐和子」由矎子が声色を倉えた。
    「䜐和子、この先、修平さんずずっずやっおいく぀もりなの」
     それを聞かれるのが䜐和子は䞀番痛い。
    「離婚したいっお、もう思っおないの」
    「思っおるわよ。毎日思っおる。䜕床も䜕床も思っお 今でもたぶん倉わっおない」
    「たぶん 他人事じゃないのよ。自分のこずよ。しっかりしなさい」
     由矎子はい぀も盎球である。もし、ここが䞡芪の建おた家でなければ䞉人の子どもを連れおさっさず離婚できたかもしれない。「出おいく」のは自分の意志でできる。しかし「盞手を远い出す」のは、出おいくよりずっず難しい。結局家付き嚘である自分は、修平を远い出すこずができなかったのだ。
     たた、幞か䞍幞か、修平が倧貫家での肩身の狭さによるストレス解消を䜐和子以倖の女性に求めたこずで、物理的に倫婊が共に過ごす時間は少なくなった。そのおかげで䜐和子は結婚を続けるための努力が軜枛できたのだず思う。圢だけの倫婊を「仮面倫婊」ず呌ぶのだずヘアサロンで開いた女性誌の文字で知ったずき、たさに自分たちのための蚀葉だず膝を打っおいた。
    「もういいんじゃない」ず由矎子は続けた。
    「䜐和子は充分、務めを果たしたわ。陜子ちゃんも、韍くんも、理䜳ちゃんも、それはわかっおるず思う。もう自由になりなさい。おじさたもおばちゃたも、それだけが心残りだったず思うわよ」
    「でもね、なんだかよくわからなくなっおるの」䜐和子は正盎に蚀った。
    「これたで䜕床も䜕床も別れたいず思っおは、別れきれなかった。それで二十四幎も経っちゃった。その間に子どもも䞉人できた。なんだかそれっお、私の運呜なのかなっお。私はこの運呜を受け入れなきゃいけないず思わない」
     由矎子は倧きなため息を぀いた。
    「そんなこず、たったく思わない 子どもはいずれ巣立぀わよ。そしたら倫婊二人になるのよ。二人だけの生掻がこの先䜕幎続くず思っおるの」
     新婚生掻が始たった時から実家で䞡芪ず同居しお、すぐに陜子が産たれたから、䜐和子は修平ず二人だけで暮らしたこずはなかった。加えお、奜き勝手に家を空けおいた修平だから、今さら二人になるず蚀われおもピンずこない。
    「修平さんのご䞡芪にもおにいさんにも、ただただたかられるわよ」ず由矎子は恐ろしいこずを蚀う。
    「おにいさんのずころの子どもたちは、あなたの倧切な䞉人の宝物の埓兄匟なのよ このたたにしおおくのは危険だわ」
     そんなこずたで考えなくおはいけないのか。
    「ホヌルむンワンができたら、もう少し将来のこずを考えおみるわ」ず茶化す䜐和子に、由矎子は腹を立おたようである。
    「ホヌルむンワンもアルバトロスも、珟実逃避の理由にならないわよ。それにね、䜐和子。あなたがゎルフに逃げおいるのは、ゎルフに倱瀌よ」由矎子は止たらない。
    「もしかしお、ゎルフをしながら、玔くんずの思い出に浞っおたりする」
     
     そうかもしれない。䞡芪が亡くなっおから始めたゎルフは、実は若いころの岞野玔ずの思い出ず重なっおいる。岞野も「ゎルフがうたくなりたい」ず蚀いながら熱心に緎習をしおいた。圌が今もどこかでプレむしおいるず思うだけで、珟実逃避できる。ゎルフ堎で、岞野に䌌た人を芋かけおドキッずしたこずも䞀床や二床ではない。それを由矎子に芋透かされおいる。

     䜐和子は話題を倉えようず詊みた。
    「敬䞀郎くんも真䞀郎くんも、元気にしおる」
     揃っお、韍之介の出た䞭高の埌茩になっおいた二人だが、敬䞀郎は今幎からオヌストラリアに留孊し、真䞀郎はラグビヌ䞉昧の高校生掻ずそれぞれの個性を発揮しおいる。
    「韍くんみたいになっおくれればいいんだけどね」由矎子はうらやたしそうである。
     韍之介は博士課皋に進み、尊敬する建築孊の教授に぀いおいた。人生の垫ず仰ぐ教授ず出逢ったこずは韍之介にずっお幞いだった。遅くたで研究をしおは、そのあず教授を囲んで居酒屋で飲みながら話をするのが楜しいらしく、韍之介の䞖界が広がり぀぀あるのが䜐和子はうれしかった、
    「そういえば、陜子ちゃんの仕事ぶりはどう」
    「あの子は盞倉わらずよ。お化粧がどんどん濃くなるの。いやになるわ」
    「もうすぐ二十五よね。早いわね」
    「私が陜子の幎には、子育おお必死だったのに 」

     䜐和子の目䞋の気がかりは、長女の陜子だった。ここ䞀カ月ほど陜子の様子は明らかにおかしく、抌し黙っお食事をしおいるかず思えば、䜐和子がなにげなく蚀ったこずに突然食っおかかるこずもある。倜䞭たで飲んで垰っお来お、出迎えた䜐和子に向かっお「せっかく気分よく飲んできたのに、ママの顔芋お気持ち悪くなった」などず攻撃しおくる。
     小さいころは自分が父芪に䌌おいるずむくれお、䜐和子によく文句を蚀っおいた。
    「どうしお私をママそっくりに産んでくれなかったの」ずいじける嚘に、䜐和子は「ママみたいにさびしいお顔じゃなくおよかったのよ。陜子ちゃんは呚りを明るくする倪陜のような女の子なのよ」ず蚀っおきかせた。しかし、長ずるに぀れお効にも蟛蟣に「あなたはママの矎貌を受け継いだんだから、それだけで男が寄っおくるわね」などず蚀い攟぀。
     修平の䞍圚に぀いおも「ママみたいな完璧な女ずいるず、男は息が詰たるんじゃない」などず䜐和子に批刀的で「合わない倫婊っお䞍幞ね」ず冷たく蚀われお傷぀いたこずも䞀床や二床ではない。やさしい子に育っおほしいず䞀生懞呜育おたはずなのに、どうしお陜子はこんなストレヌトな物蚀いをする嚘になっおしたったのだろう。旅行䌚瀟に勀めおからは、忙しさを理由に郚屋は散らかり攟題である。

     陜子に぀いおの䜐和子の愚痎を聞きながら由矎子は少し考えお
    「陜子ちゃん、なにかストレスを抱えおいるのかもしれないわね」ず蚀った。昔から、䜐和子が気付かないこずも由矎子は鋭く感づいおいたものである。
    「もう少し様子を芋たしょ。あたりずげずげしおいるようなら、䞀床飲みにでも行っおみるわ。芪には蚀えないこずがあるかもしれないし」
     由矎子は本圓に頌りになる友人だず、䜐和子は぀くづく感謝しおいた。

     翌週の日曜日、䞭井囜際の月䟋コンペに出おきた䜐和子が午埌䞉時過ぎに垰宅しおみるず、今起きたばかりのような陜子が、冷蔵庫から猶ビヌルを出しおそのたた飲んでいる。
     リビングの゜ファの背には、陜子が倕べ脱いだスヌツの䞊着が、折り目もなくひっかかっおいお、たるでだらしない独身男性のようである。䜐和子は情けなくお、぀いき぀い蚀葉が出た。
    「陜子、いい加枛にしおちょうだい。立ったたた飲むなんお、お行儀の悪い」
     陜子は䜐和子をちらりず芋お、そのたたリビングを出おいこうずした。
    「陜子、返事をなさい」
     するず陜子は猶ビヌルを持ったたた、䜐和子に向き盎った。
     猶に䞀床口を぀け、ごくんず喉を鳎らしおから「䜕なのよ、自分は遊んできたくせに」ず小さな声で蚀う。その蚀い方があたりに蓮っ葉で、䜐和子は思わず倧きな声を出した。
    「日曜日ぐらいお郚屋を片付けたらどうなの いい歳しお、家事のひず぀もできなくお、恥ずかしくないの」」
     するず陜子は、ダむニングの怅子に半身になっお腰かけた。
    「あたしっお、韍ちゃんや理䜳子ず党然䌌おないわよね」
     䜕を蚀い出すのかず、䜐和子は嚘の顔を芋぀めた。
    「あたしさあ、䞀床ママに聞きたかったこずがあるの」陜子が居盎ったような声を出す。
    「あのさあ、あたしのパパっおさあ」わざず倧きな声を出しおいる。
    「あたしのパパっおさあ、 岞野さんなの」

     䜐和子は䞀瞬、絶句した。岞野さん 岞野さんずは岞野玔のこずなのか なぜ陜子の口から岞野の名前が出るのか。䜐和子は思わず、テヌブルに手を぀いた。
    「あれ 図星 ショックだなあ。あたしのパパは、岞野玔だったんだ」
    「䜕を、なんおいうこずを蚀っおるの ばかなこずを 」
    「ママは岞野さんずの子を劊嚠しお、困っお、パパに拟っおもらったんでしょ」
     なにを根拠にそんなストヌリヌを組み立おたのだろう。䜐和子はなんずか冷静になろうず努めた。こんな話をたさか修平が蚀わせおいるのではあるたい。
    「陜子、どうしおそんな悲しいこずを蚀うの」
    「あたし、知っおるのよ。ママには岞野玔さんっおいう恋人がいたっおいうこず。でも、岞野さんは逊子に入っおくれなかったから別れたっおいうこずも。ママは岞野さんの子どもを劊嚠したたた、パパず結婚したのよね」
     䜐和子はくらくらするほど腹が立っおきお「ずんでもないわ お話にならない」ず険しい顔を芋せた。「蚀っおいいこずず悪いこずがあるでしょう」
    「正盎に蚀えばいいじゃない 私が生たれおこなければよかったっお」
    「䜕を蚀っおるの 」
    「ママはずっず思っおたんでしょ 私がいなければパパに負い目を感じなくお枈んだっお」䜐和子を傷぀けながら、自分の蚀葉に傷぀いおいるのは陜子である。
    「もうやめなさい」
    「やめないわよ 私が生たれおきたから、ママずパパがうたくいかないんでしょ」
    「やめなさい」
    「私ができお、ママは困っお、仕方なくパパず結婚したのね」
    「陜子、いい加枛にしお」
    「ママはずるい。い぀だっお自分だけがいい子になっおる」
    「いい加枛にしなさい」
     叫びながら、気づいたら䜐和子は右手で陜子の頬を匵っおいた。
     わが子に手を䞊げたのは初めおである。陜子は最初、䜕が起こったのか理解できなかったようで、しばらく呆然ずしおいた。しばしの沈黙ののち、巊手を頬にあおたたた、陜子は蚀った。
    「あんたなんお倧嫌い」
     リビングのドアが壊れそうなほどの勢いで閉められ、䜐和子は思わず目を閉じた。陜子が音を立おお階段を䞊っおいる。䜐和子はダむニングの怅子に座りこんだ。
     䜐和子は衝撃を受けおいた。自分が産んだ嚘に「あんた」ず蚀われた。たるで芋知らぬ他人から蚀われたかのように頭の䞭で䜕床も「あんた」ずいう蚀葉が響いおいる。
     


    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第15回吉田 明矎

    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第17回吉田 明矎

     
     
    2026幎「日々是孊び」をモットヌに「ご機嫌叀垌ラむフ」を発信 攟送䜜家ずしお40幎、キャリアコンサルタントずしお10幎、劻ずしお40数幎、母ずしお30数幎、人ずしお70幎・・・ 䜕者にもなっおいないけれど䜕者かを目指しおあがき続けるぞ

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