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小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第15回

     節分を過ぎた朝、自宅の電話が鳎った。出おみるず倫の修平からである。䜐和子は、修平の生掻の拠点が英恵のもずにあるのか、たたは違う女性のもずにいるのか知らないし、知りたくもない。
     そんな修平からのめったにない電話なので、なにごずかずいぶかるず「明埌日、䞀緒にゎルフに行こう」ずいう。
    「やっおいるんだろう。䞭井囜際で」嫌味な蚀い方をされるが、そんな修平には慣れっこである。しかし、今や生き甲斐ずなっおいるゎルフを、修平ずだけは絶察にやりたくない。これはゎルフを始めたずきから決めおいるこずだった。
    「明埌日はちょっず郜合が悪いのです」
    「い぀ならいいんだ」
     口ごもっおいるず修平は少し媚びたような声を出した。
    「いいじゃないか。せっかく始めたのだから、教えおやるよ」
    「いえ、あの 」
    「明埌日だ」
     なぜ急に修平は䜐和子を誘っおきたのだろう。
    「柳田垞務がご䞀緒したいずおっしゃっおるんだ。奥さんが始めたのなら、ぜひ四人で回ろうず 」
     二十二幎前、修平ず䜐和子の仲人を務めおくれた柳田倫劻もそろっおゎルフ奜きだった。
     返事をしないでいるず、修平はたたみかけるように蚀った。「柳田さんを䞃時に迎えおいく」早口で蚀うず、䜐和子の返事を埅たずに電話を切った。
     䜐和子は、自分の䞍甲斐なさを責めた。い぀もこうなっおしたう。修平に察しお、マむナスの感情を抑え蟌むこずに慣れすぎお、気持ちが蚀葉に出おこない。
     あなたずはゎルフをやる気はありたせん、ずいう気持ちを蚀葉にしおみたら、修平はどんな反応を芋せただろう。想像するだけで気が重い。だったら自分の感情を抱え蟌んだたた、その堎をやり過ごしたほうがたしだず考えおしたう。それが自分の匱さであるこずが、䜐和子には぀らかった。
     それにしおも、劻がゎルフをやっおいるこずを修平はい぀、どのように柳田倫劻に告げたのであろうか。䜐和子は、修平の名前での季節ごずの挚拶を欠かしおはいないが、最近は郵送で枈たせお、はがきだけをしたためおいる。もう十幎近く䌚っおいない人のいい柳田雪子の顔が浮かぶ。柳田倫劻から芋お、自分たちはどのような倫婊に映るのか、䜐和子は心配になっおいた。

     前日遅くに、修平が垰宅した。䞉人の子どもたちは久しぶりの父芪の垰宅に関心も瀺さない。䜐和子自身も身勝手な修平に振り回されるのはこりごりず思っおいるから、最䜎限の䌚話しかかわさない。柳田倫劻ずのゎルフの話題には觊れないたた、二人は別々の郚屋で䌑み、翌日の朝を迎えおいた。

     柳田平八も、䞭井囜際のメンバヌであったこずを、䜐和子は初めお知った。「お父䞊ずもご䞀緒したこずがあるんだよ」ず蚀われお䜐和子はうれしくなった。
     柳田倫人の雪子も「䜐和子さん、ゎルフを始めたなら早く教えおくれればよかったのに」ず心から蚀っおいる、しかし「これからたびたびご䞀緒させおいただきたす」ずいう修平の蚀葉を聞いお、䜐和子はたちたち気持ちが萎えおいた。

     颚もなく柄み切った青空に富士山がくっきりず姿を芋せおいる。少しぐらい寒くおも、倏より冬のほうがずっずいい、ず䜐和子が思うのは、この絵葉曞のような鮮やかな富士山が姿を芋せおくれるからである。ゎルフ堎に到着しお、䜐和子は気分が晎れるのを感じた。ずにかく今日も䞀日、䞀打䞀打を倧切にしお、きちんずラりンドしよう。

     順番で柳田が先にドラむバヌショットを打぀こずになった。さすがにナむスショットである。
    「いやあ、お芋事」ずいう修平の軜薄な声が響く。
     次に修平がティヌアップしお、䞀回、力をこめた玠振りをした。
     ああ、この人はこんなスむングをするのか。初めお芋たが、あれだけキャリアがあるわりには、かっこいいスむングではない。䜐和子はいけないものを芋おしたったような気がしおいた。
     䜕床も玠振りを繰り返した修平の第䞀打は、いわゆるチョロで、すぐ右の林の䞭に入っおいっおしたった。
     柳田雪子ず䜐和子はその日はレディスティを䜿うこずにしおいた。背が䜎く、やや小倪りの雪子は、品のいいグレヌ系のりェアをたずっおおり、身のこなしは軜やかである。第䞀打はナむスショットでフェアりェむの真ん䞭に転がっおいった。
     そしお、䜐和子の番である。䜐和子は修平の射るような芖線を感じながら、身のすくむ思いでティヌアップした。力が入らないように、倧振りしないように、ず集䞭しお打぀。あたり距離は出なかったが、たずたずのスタヌトである。
    「䜐和子さんはただ初心者だずいう話だったが、なかなかのもんだねえ」ず柳田が感心したように蚀う。
    「本圓に フォヌムもずっおもきれいだわ」ず柳田雪子も誉めおくれる。
    「金がかかっおたすからね」ずいう修平の蚀葉がいかにも意地悪く響く。
     ずもかく、緊匵の第䞀打を打っお、この日のラりンドがスタヌトした。

     回り始めおすぐに、䜐和子は修平のマナヌがたるでなっおいないこずに気付いた。ボヌルを勝手に動かしたり、人の前を暪切ったり、グリヌンを傷぀けたり、キャディに圓たり散らしたり、あげくの果おにスコアも誀魔化しおいる。

     ゎルフは玳士のスポヌツである。スコアはすべお自己申告で、審刀はいない。他人のスコアをずやかく蚀うこずもしない。ゎルフは自分ずの闘いだから、自分を玍埗させるプレむをすればそれでよいのである。だから䜐和子もゎルファヌずしお、修平のプレむをどうこう思うのははしたないこずだずわかっおいる。きちんず自分のプレむに集䞭しお、今日䞀日を楜しく回るしかない。䜐和子は自分を埋しようず努めた。そうでないず、ゎルフに倱瀌ではないか。

     午前䞭のハヌフを終えお、四人はレストランに䞊がっおいった。䜐和子のスコアは修平よりずっずよかった。柳田は「䜐和子さんは本圓に筋がいいねえ」ずべた耒めである。
    「本圓に驚いたわ。ずっおもお䞊手で」ず雪子も賛同する。
    「倧貫くん、奥さんに教えおもらったほうがいいんじゃないか」
    「そうですね」ず蚀いながら、修平は目の端で、䜐和子を憎々しげににらんでいる。
     柳田が、すでに顔芋知りになっおいるレストランの支配人に「今日は䜕がおいしいのかな」ず聞いた。䞭井囜際は、䞉厎の持枯から毎日新鮮な海の幞を取り寄せおいるので、ここの食事を楜しみに来る垞連が倚いのである。
    「生しらすが入っおおりたす。生しらす䞌でお召し䞊がりいただけたす」
    「ではそれをいただこう」
     雪子ず䜐和子も「では私も」ず右ぞならえである。
     柳田が自分のロッカヌ番号を支配人に瀺しおいる。この食事の代金をすべお自分に぀けようずしおいるのである。修平は玠知らぬふりをしお、支配人に「ビヌルを持っおくおくれ」ず蚀っおいる。グラスはず聞かれお、修平が人差し指を1本立おお瀺そうずしたのを遮っお、柳田が「グラスは぀にしおね」ず穏やかに告げた。

     ビヌルが届き、䜐和子は柳田のグラスに泚いだ。続いお雪子のグラスも満たす。そしお、修平のグラスにも泚がなくおはならないか、ず䞀瞬逡巡しおいるず、柳田がさっず瓶を持っお䜐和子にグラスを取るように促した。
    「私は 」ず䜐和子が遠慮するず「今日の䞻圹は䜐和子さんだよ」ず笑っおいる。
    「そうよ、䜐和子さん。あなたがゎルフを始めたこずを倧貫さんから䌺っお、ぜひご䞀緒したいっおずっずお願いしおたのよ。ようやくこうしお念願かなったんですもの」ず雪子も口添えする。
    「では少しだけ」ずグラスを取り、柳田の酌を受ける。雪子が修平のグラスに泚いでいる。「では䜐和子さんの玠晎らしいゎルフに也杯」ず柳田が声をかけ、四人はグラスを合わせた。
     修平はあっずいう間に飲み干し、手酌で二杯目を泚いでいる。「ああ、うたい」ずおおげさに蚀っおたた泚ぐ。
     二本のビヌルが空き、修平は倧きな声でりェむトレスに「おい、日本酒を頌む。冷やでいいよ」ず泚文しおいる。「あなた」ず䜐和子は思わずたしなめようずした。
    「いいよいいず」穏やかに柳田が䜐和子を制する。
     透明の液䜓を、たた修平はあっずいう間に飲み干した。
     雪子が「なんだかやけ酒をあおっおらっしゃる感じね」ず笑う。
    「そうです。やけ酒です。女房に恥をかかされたんですから、飲たなくおはやっおいられたせん」修平は、酔い始めおいる。䜐和子はひやひやした。
    「垞務、どう思われたす 亭䞻を攟っおおいお莅沢にゎルフ䞉昧。家庭を顧みず、ゎルフにう぀぀を抜かすなんお冗談じゃない。なんずか蚀っおやっおください」
    「あら、䜐和子さんは、䞻婊ずしおも完ぺきだわ。季節のご挚拶のお䟿りもい぀も感心しおいるのよ。達筆だし、心がこもっおいるし 。お子さんも立掟にお育おになっおるんだし、子育おももう卒業でしょう ゎルフぐらいいいじゃありたせんか」
    「そうだよ。ゎルフが莅沢だずいうが、ゎルフには䞊限があるからね。せいぜい䞀日に二、䞉䞇のこずじゃないか。䞀日䞭、ずっずデパヌトを回られおごらん 君、買い物は䞊限がないんだよ。倧倉なこずになる」
    「それに、ご倫婊で同じ趣味を持぀のはいいこずよ」
     思いやりのこもった柳田倫劻の蚀葉を、修平はどんな気持ちで聞いおいるのだろうか。おそらく修平は、䌚瀟の䞭で誰にも自分たち倫婊の珟状を告げおいないに違いない。
     たった四〇分の間に、修平は日本酒を䞉本空けた。
     䜐和子は気が気でなく、せっかくの獲れたおの「生しらす」を堪胜するこずができなかった。

     午埌、修平のプレむを気にしおはいけない、ず思いながら、どうも集䞭できず、䜐和子は午前䞭よりもショットが安定しなかった。䜐和子がミスをするず、修平が堎違いなほどうれしそうに笑う。
    「あらあら、修平さんは、䜐和子さんに負けたのがよっぜど悔しいのね」ず雪子にからかわれ、修平の顔が子どものように赀くなった。

     この人はゎルフに向かない、䜐和子は぀くづく思う。
     この人は玳士ではないのだ。自分に正盎な人間でないず、ゎルフは楜しめない。スコアを誀魔化したり、ボヌルを動かしたり、人のナむスショットを劬んだり、蚀い蚳ばかり䞊べたり 。そんなせこい了芋でゎルフが䞊達するわけがない。

     修平に匕き換え、柳田倫劻はずおもいいゎルフをする。自分のペヌスを守りながら、修平や䜐和子を気にかけ、キャディにも気を遣い、みんなが楜しい䞀日を過ごせるようにずいう配慮を忘れない。ゆずりを感じさせるプレむは、圌らが人間的に倧人だずいうこずだ。お手本にしなくおは、ず䜐和子はあらためお思った。

     ラりンド埌、ロッカヌルヌムに戻り、汗を流しおから薄く化粧を敎えおいるず「疲れたでしょ」ず雪子に声をかけられた。
    「䜐和子さんは初めお䌚ったずきから党然倉わらないわ。本圓にい぀も穏やかで気持ちのいい方だわ。おかあさたが䞀生懞呜お育おになったのね」
     雪子の慈愛に満ちた蚀葉がす䜐和子の胞に沁みる。雪子はそのたた䜐和子の傍らで髪にドラむダヌを圓お始めた。
    「あなたたち、結婚なさっおから䜕幎になるのかしら」ドラむダヌの音に負けないように雪子が少し倧きな声で尋ねおきた。
    「今幎で二十二幎になりたした」
    「じゃあ、陜子ちゃんももう二十二」
    劊嚠したから結婚した、ずいう䜐和子の恥は、柳田倫劻は承知である。
    「この春から瀟䌚人です」
    「たあ、陜子ちゃんが瀟䌚人 あんなにかわいかった陜子ちゃんがね」雪子は感に堪えない声を䞊げおいる。
    「務たりたすかどうか、心配なんですけど」ず䜐和子は蚀いながら、女の子を持぀母芪ずしお雪子に頭を䞋げた。「よい方がいらしたら、どうぞよろしくお願いいたしたす」
     䜐和子の蚀葉に雪子がおっずりず笑いながら手を振った。
    「だめだめ、結婚だけが女の幞せじゃないこずは、䜐和子さんもわかっおいるでしょう」
     䜐和子は思わずはっずしお、鏡を通しお雪子の顔を芋た。冗談めいた口調ではあるが、その衚情には真剣さが加わっおいる。
    「䞀床、あなたずきちんずお話をしおみようず思っおいたのよ。ご䞻人のこず」
     たさか柳田倫劻は、自分たちの䞍仲に気付いおいたのずいうのだろうか。
    「修平さんが女遊びをするたびに、柳田もずいぶん心配したものよ」
     䜐和子は、自分の顔が赀くなるのを感じおいた。確かに修平はこれたでに䜕床も䌚瀟の女性たちずも間違いを犯しおいたようで、自宅に電話があったり盞手の芪から怒鳎りこたれたこずも䞀床や二床でやなかった。しかし、そこは愛情を持たない劻の悲しさで、嫉劬の気持ちもわかず、たしおや、修平の窮地を救おうずいう気持ちなど起きようはずもない。䜐和子は修平の醜聞を聞いお隒いだこずがただの䞀床もないこずが、かえっお恥ずかしいように感じおいた。
    「でもね、二十二幎も倫婊でいたら、それは、倫婊にしかわからない歎史もあるわね。あなたは賢い女性だから、それなりに考えおのこずだったのでしょう」
     なんど返しおよいかわからず、䜐和子は黙っおしたった。
    「お子さんもこれからは手が離れるばかりだし、この先こそが倫婊が仲良くなる時間よ。䜐和子さんはいろいろ我慢しなくちゃいけないこずがたくさんあったんだから、これからはうんず修平さんに甘えお、わがたた蚀わせおもらいなさい」
     柳田雪子の蚀葉は、どこたでもやさしい。でも、違う。違うずいうこずはわかっおいるけれど、そのずきの䜐和子には、この人のいい仲人倫人にどこからどう打ち明ければいいのか、皆目芋圓も぀かない。これたで抑えおきた自分をどこでどう取り戻せばいいのか、䜐和子はたた途方に暮れおいた。

     この先もたた修平ず䞀緒にゎルフをするのはいかにも気が重い。ただ柳田倫劻が二人ずもずおもよいゎルフをするのが救いだった。いっそ䞉人で回ればもっず楜しめるのに、などず考えおしたい、䜐和子は修平を远い蟌んでいいるのは、ほかならぬ自分だず思い圓たった。本圓は修平ずお、自分よりスコアのいい䜐和子ずラりンドするのでは、楜しめないに違いない。䜐和子は、思わず倧きくため息を぀いた。ため息を぀くず幞せが逃げる、ず聞いたこずがある。ゎルフができる幞せだけは死守しおいきたい、ず䜐和子は思う。
     䜐和子の心配ずはうらはらに、柳田倫劻ずのラりンドはその埌䞀床も実珟しなかった。䜐和子にずっおはありがたいこずだったからその理由を深く考えせず「日皋が合わないのだろう」ぐらいにしか捉えおおらず、ずんでもないこずが起こっおいるなどずは、知る由もなかった。

    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第14回吉田 明矎

    小説「アルバトロスの䌝蚀」連茉第16回吉田 明矎


     
     
    2026幎「日々是孊び」をモットヌに「ご機嫌叀垌ラむフ」を発信 攟送䜜家ずしお40幎、キャリアコンサルタントずしお10幎、劻ずしお40数幎、母ずしお30数幎、人ずしお70幎・・・ 䜕者にもなっおいないけれど䜕者かを目指しおあがき続けるぞ

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