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一夜限りのサガリバナ。そして、西表の森が目覚める瞬間に立ち会った


    6月24日。
    石垣空港に到着した俺は、フェリーが翌日全便欠航することを知った。

    台風7号が迫っていた。

    すぐに石垣のホテルをキャンセルし、フェリーターミナルに直行した。
    チケット売り場で状況を確認し、午後イチの西表行き最終便に飛び乗った。

    波のうねりで、船は前後に大きく揺さぶれながらも、なんとか港に到着した。

    港は、島から脱出しようとする観光客でごった返していた。

    雨はまだ降っていなかった。
    だが、強風が草木を大きく揺らし、髪が何度も顔にかかった。

    宿の部屋の窓は、テープが貼られていた。

    6月25日。
    島は、人影少なく、しん…としていた。
    朝ごはんを食べようとカフェに行ってみたが、クローズしていた。
    港に行ってみるとターミナルはシャッターが閉まっていた。

    それでも、西表入りに拘ったのには理由があった。
    俺は、明日早朝のサガリバナツアーに申し込んでいた。
    (でも、多分中止だろうな)
    何度も天気予報をみては、ため息をついていた。

    夕方、いつもの定期チェックで天気を見ようとスマホを開いた。
    ツアー会社からメールが届いていた。
    ドキッとして、すぐにメールを開いた。

    「今、西表島に泊まってはいますか?
    催行予定ですが、明日は参加可能ですか?」

    ガイドから、ツアー催行の連絡だった。

    「今、島にいます!明日はよろしくお願いします!」

    慌てて返事を送った。

    島に入ってよかった。
    その夜は、興奮してなかなか寝付けなかった。

    6月26日。
    4時半にガイドと合流した。

    真っ暗な浦内川をカヌーで進んだ。
    支流に入り、マングローブに囲まれた狭い水路を進んでいく。

    あ、サガリバナ。

    バニラのような甘い香りが漂いはじめ、
    あちらこちらで、サガリバナが垂れて咲いていた。

    「奥のほうは、もっと咲いてるはずです」

    ガイドは、実は今日咲いているか心配だったと打ち明けた。
    俺たちは、カヌーを漕ぎながら笑いあった。

    更に漕ぎ進むと、鳥の声が聞こえてきた。

    キョロロロロロ…キョロロロロロ…

    「あれはアカショウビンの鳴き声ですね」
    ガイドが教えてくれた。
    鳴き声を合図に、少しずつ闇が薄くなっていく。

    「そろそろ、この辺で止まりましょう」
    カヌーを停めて、川の上で静かにサガリバナを見つめた。
    しばらくすると

    ポタ…
    ポタ…
    ポタ…

    一輪。また、一輪。
    サガリバナが川の上に「ポタ」と音を立てて落ちていく。
    あっという間に白とピンクの絨毯ができた。

    (サガリバナ、羽毛みたいだな…)

    水面に浮かぶ姿は、まるで白い鳥の羽が森の川を流れていくみたいだ。

    しばらく、その景色を、ただ眺めていた。
    そして、プカプカと浮かぶサガリバナに別れを告げて、再びカヌーで浦内川に戻った。

    帰り、パドルを漕ぎながら思った。

    花を見に行ったつもりが、実は、西表の森が目覚める瞬間に立ち会っていたんだ。

    カヌーの上で聞くハチの大合唱。カエルの声。アカショウビンの鳴き声。

    俺は、西表の朝の生きものたちの営みに、少しだけ参加させてもらったのかもしれない。

    台風で船が止まり、観光客もほとんどいない、モンスーンの曇り空。静かな朝の川。

    「自然の都合に合わせて来るなら、見せてあげるよ」

    そんな西表の声を、聞いたような気がした。

    この朝は、きっと何年経っても忘れない。


    ヤマネコを見た?話はこちら

    西表の西の果てに行った話はこちら


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    自分はだいたい、途中のまま生きている。 トレラン/歯列矯正/リハビリ/語学/旅 全部、途中 うまくいかなかった話を、よく書いている。 たまに、変な話も書く はてなブログでも書いています。 https://jesse0303.hatenablog.com/

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