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『第五の指輪の伝説』第1章「最後の自由の日」(4)

    昼食は、他愛のないおしゃべりや温かい祝福の言葉、そして兄たちの賑やかな冗談交じりの口喧嘩に包まれ、和やかな雰囲気の中で執り行われた。私はこの瞬間を全身で浴び、どんなに小さなことでもすべて胸に刻み込み、これから訪れるであろう苦しい時に思い出せるよう、記憶の中に大切にしまっておきたかった。

    行く夏の名残を惜しむような陽光が、壁にカーテンの繊細な刺繍の模様を映し出している。カーテンもそれを拒むことなく、開け放たれた窓から吹き込む心地よい微風と戯れるように揺れていた。外から聞こえてくる音楽は、ただでさえ鮮やかな夏の数ヶ月を彩る、私のお気に入りのエッセンスだった。その音色に意識が引き込まれ、四方から包み込んでくる愛する人たちの声がひとつの清らかなせせらぎとなって混ざり合い、この美しい情景を完成させてしていく。

    あらゆる感覚に意識を集中させながら、私は深く息を吸い込んだ。そして、陽の光に温められた木材の香りや、たまらなく美味しそうなアップルパイの匂い、さらには私に「共に過ごす時間」という何よりも尊い宝物を惜しみなく与えてくれる家族の顔や笑い声を、しっかりと魂に焼き付ける。これらすべてを、私は宝石箱にしまうように心の中にそっと収め、間もなく赴くことになる、あの場所へと携えていくつもりだった。

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    太陽が地平線へと傾き始める頃、客たちはいそいそと帰路に就き始めた。名残惜しさは尽きず、共にもう数時間でも幸福な時を過ごしたいと願うばかりだったが、遅刻することは決して許されなかった。なぜなら、母はアカデミーの学長であり、規律を人一倍重んじ、部下や学生たちに悪い手本を示すようなことは決してしない人だったからだ。

    中庭には、銀で鋳造された優美な馬車が待ち受けていた。その瞬間、この一週間なぜ私がガレージへの立ち入りを禁じられていたのか、その理由がようやく氷解した。

    これほど美しいものを、私はこれまでの人生で見たことがなかった。コンパクトで丸みを帯びた車体は、細くも強靭な銀の糸で隅々まで構成され、繊細な花々の模様を織りなしていた。

    その傍らには、すでに馬車に繋がれ、旅立ちの準備を整えた「ウミロス」という新種の馬たちが、せわしなく足踏みをしていた。この驚くべき生物たちは、翼を持ち体が軽いという点だけでなく、暗闇の中で妖しく光を放つ、吸い込まれそうなほど美しいスミレ色の瞳を持っているという点でも、普通の馬とは一線を画していた。

    彼女たちは互いに言葉を交わすかのように小さく鼻を鳴らしながら、出発の命を今か今かと待ちわびていた。

    「――どう、気に入ったかしら?」幸せそうに微笑む母の姿は、まるで白いレースをあしらった、身体のラインにぴったりと沿う純白のドレスを纏った花嫁のようだった。内側から光を放つように輝き、これほど着飾った彼女の姿を見たのは、かつて目にした両親の結婚肖像画以来のことだった。

    「お母さん……綺麗すぎて、これに乗るの、なんだか気恥ずかしいよ。これなら、ほうきで飛んで行ったほうがマシだな」

    「馬車なことを言わないでちょうだい。そんなドレスを着てほうきに乗るなんて!? あなたはレディなのよ」

    私は目を天に向けた。

    「もう、お母さん……」

    この種の馬が誕生して以来、馬車での移動は特権階級の魔女たちの間で爆発的な流行となっていた。一方、アカデミーでほうきに乗って空を飛ぶのは、決まって男子学生ばかりだった。彼らは「女の子っぽい」馬車に揺られながら、ゆっくりと優雅に進むという移動スタイルを好まなかったのだ。私はそんな彼らが羨ましかった。

    「何よ? 今日は私のたった一人の娘の晴れの卒業式なのよ。この美しさに抗いきれず、ついつい購入してしまったの。これは最新モデルでね、さらに揺れが少なく、まるで自分自身が空気の中を自由に泳いでいるかのような滑らかな乗り心地だと太鼓判奏されたわ。乗れば分かるわ。さあ、行きましょう」

    母は私の髪を優しく整えると、その手を引き、私を馬車へと促した。

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    短い呪文を唱えると、私たちは静かに空へと舞い上がった。この生き物たちは非常に賢く、御者を必要としない。馬車は実に滑らかに、ゆったりと空を泳ぎ、その心地よさに私はつい眠気に誘われそうになった。睡魔に抗うため、私は窓の外の景色を眺めることにした。アカデミーは、美しい大河の近く、深い森に囲まれた高台に位置していた。地上からそこへ辿り着くのは至難の業だが、空からの眺めはまさに圧巻の一言に尽きる。四方八方から、無数の馬車がお城に向かって集まってきていた。

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    平穏な静寂を切り裂くように、私の側の窓を叩く音が響き、私は思わず飛び上がった。窓の外には、親友の満面の笑みがあった。案の定、彼はほうきに乗って飛んでいたのだ。

    「サイモン!」

    彼は窓ガラスに顔を押し付け、おどけた顔を作ってみせた。私は目を天に向け、窓を下ろした。

    「失礼いたします、ハットダス様。お嬢様に挨拶せずにはいられなくて」

    母は厳格で保守的な教師としての面目を保とうとしたが、それはあまり上手くいかなかった。この道化師にかかれば、誰だって笑わずにはいられないのだ。

    「いつになったら大人になるのかしらね」

    「心臓が止まるかと思ったじゃない! 着陸したら覚えてなさいよ!」

    「追いついてみなよ、おばあさん!」サイモンは茶目っ気たっぷりにそう言い放つと、愛用のほうきを加速させ、猛烈なスピードで夕暮れの空気を切り裂きながら駐機場へと急接近していった。

    着陸するやいなや、私は馬車から飛び出し、退屈そうに爪を眺めながら鼻歌を歌っているサイモンの元へ駆け寄った。彼に向かって突進してくるレディの姿を見るなり、彼は私の蹴りをかわして逃げ出した。

    遠くの方で、母の叫び声が響いた。

    「いい加減にしなさい!もっと大人らしく振る舞えないの!?」

    そのもっともな叱咤に、私たちは二人とも急に足を止めた。乱れた呼吸を整えながら、私はドレスの形を整えた。

    「……本当に。いつになったら大人になるのかしら?」

    サイモンも私を真似るように、わざとらしくタキシードを整え始めた。それから優しく、私の肩を抱き寄せた。

    「リラックスしろよ、妹。この惑星には楽しい連中が少なすぎるんだ。俺にだって、こうして羽を伸ばせる時間はもう残り少ないんだから」彼は腕時計に目を落とした。「夜明けまで。ちょうどその時までだ。その後は……退屈な日常に飲み込まれる。退屈な仕事を見つけ、退屈な嫁をもらい、退屈な子供を育て……。そうなったら、お前はきっと『古き良きサイモン』を愛おしく思い出すことになるぜ」

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    私は嫌そうなふりをして、彼の腕を振り払った。けれど、本当は彼が正しいと分かっていた。目の前の光景は、すでに過去を惜しむ意識が見せている「夢」のようであり、若く、無邪気な私たち――トッド、エリカ、そしてシャンドールへの、ただの追憶のようにも思えた。

    (――またそんなこと言って! 今日は楽しまなきゃだめでしょ)

    その悲しい思考を遮るように、一台の馬車が着陸した。私とサイモンには、それが誰のものかすぐに分かった。

    「あいつもほうきで来ると思ってたのにな」

    ドアが開くと、そこからまず現れたのは私たちの少し「ぽっちゃり」したシャンドールだった。いつもとは違い、ジェルでピシッとなでつけた髪の彼は、自分のすぐ後ろから馬車を出てくる母親に向かって、視線で激しく火花を散らしていた。母親は何やらぶつぶつと呟きながら彼の身なりを直している。そして最後に父親が姿を現し、息子を甘やかしすぎだと母親に向かって不平を漏らしていた。

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    サイモンが手を振って合図を送ると、シャンドールは歩みを速めた。私たちの隣に並ぶなり、彼は苛立ちを隠さずに吐き捨てた。

    「そんな目で見るなよ。どうしても逃げ切れなかったんだから」

    サイモンはハッとしたように我に返ると、すぐさま彼にターゲットを切り替えた。

    「あら、なんて可愛らしいのかしら」サイモンはわざとらしくシャンドールのネクタイを直し、ジャケットの裾を整え始めた。「まるでお菓子の『お団子ちゃん』みたいじゃないか」

    「……お前たちまで始めるのは勘弁してくれよ」シャンドールは疲れたようにため息をついた。

    サイモンは降参だと言わんばかりに、両手を上げた。

    「分かった、分かったよ。もう言わない」

    「トッドとエリカはもう来てるのか?」

    「ああ、見たぜ。二人とも会場に入った」

    「よし、行こう」

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    荘厳な講堂は、オーケストラの奏でる調べと社交界の喧騒に包まれていた。ここはアカデミーの真珠とも呼べる場所だ。名家の子弟が集うこのアカデミーは、卒業式に惜しみなく資金を投じ、その式典は常にどこまでも華やかだ。時にはメディアの注目を浴びるほどの、特別な地位を誇る場所でもある。

    歴史的なフレスコ画で飾られた高い円頂天井の下では、魔法の花火が小さな薔薇のように花開いていた。飛び散る冷たい火花は、金箔が施された壁柱に反射してきらめいている。

    私たちは人混みの中に、例の「仲睦まじい鳩たち」をすぐに見つけた。

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    「人前で少しは遠慮しろよな」

    サイモンはいつものように、その場の空気を自分の存在感で支配していた。友人たちの軽口やからかいに加わるよりも、私はただ観察していたかった。この待ち望んでいた、けれど同時に悲しい夜のすべてを、些細なことまで記憶に刻みたかったのだ。

    明日には皆の道が分かれ、もう以前のような絆ではいられなくなるかもしれない――そんな苦い思いが再び胸を刺した。けれど今はまだ、実感が湧かない。彼らも私と同じようなことを考えているようには見えなかった。だから今はただリラックスして、このお調子者たちがどれほど愛おしいか、そして「今、ここ」ではすべてが元のままであることを噛みしめるのが一番だった。

    母は私を気高く、淑やかなレディとして育てようとしてきたが、彼らといる時だけは、私は自由奔放な少女でいられた。私たちが皆で一緒にいる時、母が口を挟むことはほとんどなかった。

    背後で、見知らぬ少年の聞き取れない声がした。誰かを呼んでいるようだったが、なぜかそれが私を呼んでいるのだと感じた。私は音のした方へ振り返ったが、そこには円になって談笑している他の学生たちの背中が見えるだけだった。ひどく奇妙な感覚で、しばらくの間、胸のざわつきが収まらなかった。しかし、すぐさま目の前で指を鳴らす音に、思考を遮られた。

    「おい! 地球に戻ってこいよ! ぼーっとすんな、始まるぞ!」

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    母が演壇に立ち、式の公式なパートが始まった。この後は学位記の授与、そしてアカデミーへの特別功労賞の贈呈が続く。必要ではあるが、退屈で長ったらしい儀式だ。

    母の活気に満ちた演説をよそに、私はうわの空でそれを聞き流しながら、専門職の学位記と、中立魔法の修了証書が手元に届くのを待っていた。

    やがて、トッドが小声で私たちを呼んだ。

    「なあ、みんな」私たちは彼の方へ身を乗り出した。「この退屈な儀式が終わったら、俺たちの場所へ飛ばないか。お別れをしにさ」

    言葉にするまでもなかった。それが最高の計画であることは、全員が察していた。残るは、たった一つの小さな問題だけだ。

    「ほうきが二本しかないわ」

    すでに学位記を受け取っていたサイモンが、それを私に預けた。

    「これ持ってて。物置にあるはずだから、俺が取ってくる」

    そう言って、彼は人混みの中へと消えていった。

    しばらくして、式典も終盤に差し換かった。私たちはとうに学位記を手にしていたが、立ちながら寝てしまわないように耐えるのが精一杯だった。これらを明日の朝まで母に預けておくのが賢明だろう。私たちはそうすることにした。

    司会がワルツの開始を告げた。この後、親たちは祝賀会へ向かい、退屈な「大人の付き合い」として互いに作り笑いを浮かべて祝福し合うのだろう。その間に、私たちはきっと散り散りになるはずだ。

    華やかな音楽にのせて、エレガントなタキシード姿の男子と、色とりどりのドレスを纏った女子たちが踊り始めた。私がシャンドールと、トッドがエリカと踊っていたその時、曲の合間に会場の入り口で必死に手招きをするサイモンの姿が見えた。私は笑いを堪えながら、すぐそばを踊っていたエリカの手を器用に掴んだ。私は出口を指し示し、私たちは音もなくそちらの方へと踊りながら移動していった。


    私たちは笑い声を上げ、ひそひそと語り合いながら城を飛び出し、駐機場へと向かった。禁止事項を企てている時に教師から隠れるという長年の習性は、そう簡単には抜けない。怪しいほど上機嫌なトッドは、辺りを見回してから、私たちに「いいもの」があると言い出した。彼は内ポケットからフラスコを取り出して蓋を開けた。芳しい、けれどどこか苦味のある独特な香りが漂う。

    「これって……」エリカは絶句した。「ハイになった状態で飛べって言うの!?」

    中身はトッドが最近実験で作った秘薬だった。五感を限界まで研ぎ澄ませ、多幸感をもたらすが、集中力は著しく低下させる。

    「分量を間違えなきゃ大丈夫だよ」エリカはまだ疑わしげにフラスコを見つめていた。「いいだろ、この薬を飲んで二人でいろんな『いいこと』したじゃないか」

    トッドが恋人に悪戯っぽく視線を送ると、彼女は彼の脇腹に鋭い肘打ちを食らわせた。

    シャンドールがニヤリと笑った。

    「自分がどれだけ『絶倫』かってことを自慢せずにはいられないんだな、お前は」

    私もこの考えが良いとは思わなかった。けれど、盗み聞きしたあの会話が、今日という日の楽しかった思い出をすべて押し流し、暗い考えで頭を埋め尽くしようとしていた。最大限にリラックスできるなら、何だって飲むつもりだった。

    「貸して」トッドの手からフラスコをひったくると、私はそれを大きく一口煽った。

    「おいおい、落ち着けよ。やりすぎだぞ」

    エリカが非難の眼差しを私に向けた。

    「……本気なの?」

    「何よ? 卒業式なんだからいいでしょ。人間の安酒と違って、これなら二日酔いにもならないわ。……さあ、あんたたちも行くわよ?」

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    私はほうきを手に取った。皆も手早く一口ずつ薬を煽ると、私たちは城の塔を眼下に残し、芽吹き始めた星々を目指して空へと舞い上がった。

    信じがたいほどの解放感が、意識を心地よく霞ませていく。黄昏に沈みゆく森の色も、夕焼空の色彩も、より鮮明に輝きを増していく。音はより大きく響き、風はまるで密度を増したかのように、実体のある手で私を撫でているかのようだった。恐怖と不安に代わって、叫び出し、笑い出したくなるような幸福感が押し寄せる。血の中を甘美な疼きと熱い情熱が駆け巡った。ほうきを操るのは格段に難しくなったが、それでも私はなんとか乗りこなしていた。

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    私たちは森の奥深くにひっそりと佇む家へと着陸した。それがかつて誰のものだったのか、いつからそこにあるのか、誰も知らなかった。この数年間、ここで部外者に出会ったことは一度もないが、それでも念のために「隠蔽の結界」を張り、招かれざる客から姿を隠した。

    この場所を見つけたのは偶然だった。咲き誇る白いライラックとタニウツギに囲まれ、小川のせせらぎが聞こえる、静かで美しい隠れ家。

    半ば崩れかけていたこの家を整えるのにはかなりの苦労を要したが、その甲斐はあった。ここは私たちの格好の溜まり場となり、多くの時間を共に過ごした。魔法の練習をしたり、陶酔を誘う秘薬のような「ヤバいもの」を試したり。トッドとエリカが二人きりで過ごすことも多かった。どこにでもいる若者たちがするように。

    (……これからまた、ここは見捨てられてしまうのね)

    トッドが手を一振りすると、家の内外に数十ものランタンが灯り、一瞬にして魅惑的な空間が作り出された。鈴虫の鳴き声、小川のせせらぎ、そして薬の効き目が、その幻想的な夜を完成させていた。

    「学生としてここに来るのは、これが最後だな」家に入ると、シャンドールが寂しげに微笑んだ。

    「それに乾杯しようぜ!」

    トッドは家の中に隠してあった「楽しい飲み物」をすでに取り出していた。彼は常に新しい配合の秘薬を作り出しており、時には人間のアルコールと混ぜ合わせることもあった。両手に持ったボトルの中に何が混ざっているのか、想像するだけで恐ろしいほどだ。片方は毒々しい蛍光の緑色、もう片方は淡く優しいピンク色をしていた。

    「それが何であれ」私は用心深くボトルを指差した。「飲んでみたいわ」

    エリカが、かつて人間から密かに手に入れた古いレコードプレーヤーのスイッチを入れた。電気の代わりに魔法で動くそれは、頻繁に音飛びや故障を繰り返したが、父のバンドの曲を聴く唯一の方法だった。

    私たちは居間に陣取った。トッドとエリカはソファで抱き合い、シャンドールは重厚なアームチェアの肘掛けに腰を下ろした。

    私とサイモンはソファのクッションを引き抜き、床に座り込んだ。
    甘味料のおかげでそれほど悪くない味の薬を煽りながら、過去の思い出や未来の計画についての会話に花が咲いた。

    「俺たちの子供が卒業する頃まで、この家が持ちこたえてくれるといいんだがな」

    図々しくも私の膝に頭を乗せて横たわったサイモンは、いつになく物憂げだった。彼は夢を見るような、そして少し悲しげな目で天井を見つめていた。

    懐かしい父の歌声、そのバラードの調べがサイモンの物憂げな表情と重なり、私は考え込まずにいられなかった。かつて私たちの親たちも、今の私たちと同じように悩み、未来を夢見ていたのだろうか。そして、自立という名の生活がいかに早く人を摩耗させ、心を硬くし……そして殺していくのか。幼い頃からあんなに待ち望んでいた「大人の自由」が、今はただ恐ろしかった。

    かなり酔いの回ったシャンドールが、吹き出した。

    「いつからそんなセンチメンタルになったんだよ?」

    サイモンは「黙れ」と言わんばかりの視線を返したが、シャンドールは構わず指先で魔法の印を結んだ。そして、空中に向かって投げキッスを送ったのだ。

    すると、不気味に「チュッ、チュッ」と音を立てる真っ赤な女の唇の幻影が、サイモンに向かって飛んでいった。サイモンはそれをうるさい蠅でも払うように追い払っている。その滑稽な姿と、サイモンの毒づく声に、場の空気は一気に笑いへと戻った。

    エリカが、子供の頃から大好きだったボードゲームをしようと提案した。昔と同じように、負けた者は他の全員から出される、馬鹿げた命令をこなさなければならない。

    かつてトッドが初めて彼女の上半身の裸を拝んだのも、このゲームがきっかけだった。抑えきれない欲望に駆られたトッドが、サイモンに頼んで冗談半分にそんな命令を出させたのだ。清楚なエリカが、平然とそれを実行するなんて誰が予想しただろう。だが今のトッドなら、彼女のそんな姿を目にする奴がいれば、即座にそいつの視力を奪うに違いない。

    最終ラウンドで負けたのは、シャンドールだった。彼への命令は「実体を持つアストラル体の自分と腕相撲をする」こと。

    「行け!」

    「押せ! ほら、頑張れ!」

    「もっと強く! 負けてるぞ、おい!」

    だが、今の泥酔状態では、子供相手でも勝てなかっただろう。実体化した自分自身の分身は、あっさりと彼の手をねじ伏せ、消えてしまった。爆笑の渦が響き渡り、真っ赤になった哀れなシャンドールは、諦めたように顔を両手で覆った。

    笑い声が収まった頃、エリカの声が響いた。

    「……そろそろ、戻らなきゃ」

    「今は……ああ、そうだな」サイモンは私たち全員を見渡した。「でも、約束しよう。ここを放り出したりしないって。時々は、またここで集まろうぜ」

    それはあまりに楽観的な響きだった。おそらく、彼自身もそれを分かっていただろう。けれどあの時の私たちには、何よりもその「希望」が必要だったのだ。

    家の壁は、孤独から救い出されるその約束を貪るように吸い込み、床板を満足げにギィ、ギィと鳴らした。再び闇と沈黙に沈んでいく家を、名残惜しそうに振り返り、私たちは急いで帰路に就いた。


    祝祭は最高潮に達していた。至る所から、様相の異なる楽しげな喧騒が響き渡っている。城の上空では無数のランタンが舞い、魔法の火花で作られた竜たちが、意志を持つかのように宙を泳いでいた。講堂からは、くぐもった音楽が漏れ聞こえてくる。正面玄関の、人間界の高価なシャンパンで満たされた噴水では、少女たちが声高らかに歌い踊り、少年たちは酒を煽りながら彼女たちのスカートの中を覗き込もうと躍起になっていた。サイモンもその楽しみに加わらずにはいられないようで、彼らの方へと向かっていった。

    友人たちは瞬く間に散り散りになり、私は一人取り残された。その時、私は「彼」に気づいた。曲がり角の影に半分身を隠したその黒い人影は、外見も種族も判別がつかない。誰であれ、その影は私をじっと見つめていた。視線が背中に刺さるのを、私は肌で感じた。

    「ゲラ?」

    誰かの声がしたが、すぐには意識に入ってこなかった。見知らぬ人影に射すくめられ、私は動くことさえ恐ろしかった。黒い影は「騒ぐな」とでも言うように、唇に指を一本当てると、夜の闇へと消えていった。衝動的に後を追おうとしたが、手首を掴まれて引き止められた。

    「どこへ行くつもりかしら?」

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    それがアマリスだと気づくまでに、少し時間がかかった。彼女に出会ったからといって、心が落ち着くわけではない。

    (――ほら、始まったわ)

    「セナター」私は敬意を込め、お辞儀をして挨拶した。「あなた様までこの式典にいらっしゃるとは存じ上げませんでした」

    「本当のところ、私は貴女に会いに来ただけなのよ。おめでとう!」

    不吉な予感に反して、彼女は微笑んでいた。その振る舞いには、明日になれば彼女自身も加担して私を追い詰め、説得することになる「あの事」の気配など、微塵も感じられなかった。アマリスは両手を広げ、温かな友人としての抱擁へと私を誘った。

    「ありがとうございます。お忙しい身でありながら、私のためにわざわざお時間を割いてくださったのですか?」

    「ええ、それから……少しばかりのノスタルジーかしらね。少し歩かない?」

    「もちろんです」

    私は無意識に闇の中を見つめ続け、あのエッセン*(6)の正体を暴こうとしていたが、これ以上あからさまに闇を覗き込み続けるのは礼儀に欠ける。

    *(6) — 全種族の総称であり、「人間」の類義語。

    「ここは何も変わっていないわね。まるで、昨日自分が卒業したばかりのような気分だわ」

    アマリスの温かな視線が、アカデミーの壁をなでるように動いた。

    「母と思い出話をされていたのですか?」

    「ええ、ホルテンシアに挨拶しに行っていたの」彼女の瞳に光が宿り、唇には夢見るような微笑みが浮かんだ。「あの頃は、すべてがとても簡単だった。レンが貴女の卒業式まで生きられなかったのが残念だわ……。もし辛い話題だったらごめんなさいね。ただ、私たちの時代のここでの楽しみは、彼と直結していたから」

    父のことを思い出させる言葉は、確かに私の心を萎縮させ、警戒させたが、アマリスが私を傷つけるようなことを言うはずもなかった。

    彼女は物思いにふけるように赤毛の巻き髪を整えると、ふっと笑った。

    「あいつは、いつも何かを『演じて』いたわ……。舞台の上でも、それ以外でもね」

    私は悪戯っぽく付け加えた。

    「今はサイモンがその役を演じている。だが、彼も今日でその『キャリア』に終止符を打つのだ」

    「あの子はレンが持っていた独特の色香を真似ようとしているけれど、どこか道化じみているわ。悪く思わないでね」

    「もちろんです」

    それ以外の反応は期待していなかった。彼女はいつも遠慮のない正直さで言葉を放つ。けれど、そこに悪意があることは稀だった。

    「レンは何をやるにしても、彼にしかできないエレガントな流儀を持っていたわ。女の子たちに絶大な人気があったのも頷けるわね」

    彼女がこれほどの温かさを込めて語るエッセンが、父以外に他にいるとは思えなかった。

    「母と、彼を巡って恋のライバルだったようにも聞こえますね」

    「私は彼に憧れていたわ。けれど、チャンスなんて最初からなかった。彼がホルテンシアと出会ってからは、誰にもね」彼女はふっと間を置くと、少し悲しげに続けた。「私に関しては……彼は歳の年の差を理由に、私を子供扱いし続けたのよ」

    遠くから聞こえる叫び声や笑い声に混じり、私たちはしばし沈黙の中で歩んだ。それらの音は遠ざかるほどに、まるで遠い過去から響く死者たちの幻聴のように聞こえてきた。

    私は頭を振り、その不吉な妄想を払いのけると、会話を続けるために声をかけた。

    「閣下、他に何かお聞きになりたいことは?」

    思考の淵から浮上したアマリスは、一瞬、戸惑ったような視線を私に向けたが、すぐにその瞳に理性が戻った。彼女はかつての思い出に浸っていたようだった。

    「ええ。……貴女、神殿にはよく行くのかしら?」

    「ええと……」

    (……何を企んでいるの?)

    「唐突な質問なのは分かっているわ。けれど、本心から聞きたいの」

    (……よく言うわ!)

    「二週間前、光の母の聖域を訪れました」

    宗教に関する話は、常に私の中に複雑な感情を呼び起こす。惹かれる気持ちと、説明のつかない拒絶感。聖域を訪れるたびに、それは困難な試練へと変わる。特に、罪のない市民――少なくとも私にはそう見えた男が、目の前で連行されるのを見てからは。

    トーン*(7)は、あまりに無慈秘に彼を引き立てていった。あの哀れな男を助けに行きたい衝動に駆られたほどだ。彼が神々に対してどのような罪を犯したのかは知らない。闇の父と光の母からの離反か、許可なき生命の創造か、あるいは神々を冒涜する宣伝活動か。良識が「彼は法に従って捕らえられたのだ」と告げても、どれほどの罪であれ、処刑に値するとは思えなかった。

    しかし、それよりも恐ろしいのは、神々に拒絶され、「灰色の荒野」*(8) への門を閉ざされることだ。これ以上の悲劇はない。誰にも見られず、誰からも蔑まれ、安らぎも転生も許されないまま、灰色の荒野を彷徨い続けるのだ。ただ、その嘆きを聞き届けてくれる「ネクロマンサー*(9)が来るのを待ち続けながら。

    いつか自分もその場所へ堕ちるのではないかという恐怖に、私は身震いした。

    *(7) — 神々への犯罪を担う、聖職者の暗黒部門。
    *(8) — 浮遊霊が彷徨い集う場所。
    *(9) — 死者の魂を視ることができ、灰色の荒野からそれらを引き出す魔術師。

    「あちらの方がお気に入りなの?」

    真の意図が見えない質問に正直に答えるのは、あまりに無防備だ。彼女を信頼してはいても、神々との対話が――神殿であれ外であれ――胸を締め付けるような切なさを引き起こすことは、伏せておくべきだと思った。

    この感情は、若すぎる死によって私の心に消えない傷を残した父との、数少ないけれど美しい思い出を掻き乱したくないという思いからきているのだと、自分に言い聞かせた。

    「……そうかもしれません」

    「そう、良かったわ。貴女が女神との交信に十分な時間を割いていると知って安心したわ」

    「それだけ、ですか?」

    「驚いた?」

    「裏には何があるのですか?」

    彼女はしばし沈黙した。

    「ゲラ、心ゆくまで楽しみなさい。この夜のことは、一生忘れないでしょうから。……さようなら」

    彼女を引き止めて説明を求めても無駄だ。話す気はないのだから。私にできるのは、この夜をできる限り心地よく終わらせることだけだった。

    シャンパンの噴水が、その手助けをしてくれた。トッドの薬にアルコールが加わり、音楽と夜明けまでのダンスが、すべてを忘れさせてくれた。私はその陶酔の中に溶け込み、時の経つのも忘れていった。

    私の物語を読んでいただき、本当にありがとうございます。皆様のご意見や感想を、ぜひコメント欄で聞かせてください!💬✨❤️

    ちなみに、記事に「スキ」を押してくれた方には、キャラクターたちが直接お礼のメッセージを届けてくれるように頼んでおきました!誰が出るかはお楽しみです。ぜひ推しキャラを当ててみてくださいね!🔮



     
     
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