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Photo bymoyamoyanote

惰性 ―関谷ユウコ先生作「神様。以下略」より、坂本の景色―

    くいたろう

    ※本作は、関谷ユウコ氏の「神様。いらっしゃるならどうか、そこに正座しろ」または「神様。以下略」シリーズに登場し、女性読者からの「サイテー」という言葉をほしいままに手に入れた、「坂本くん」視点でえがいた作品です。作者本人の了承を得て、創作しております。

    ひとりたろうより



    「なんでもっと私のこと、ふつうに愛してくれないのよ!」

    悲鳴みたいに鋭い声が、鼓膜から脳天に突き刺さる。
    当然のように「ふつう」を振りかざす彼女に、俺はつい、自分の影がひと回り小さくなるのを感じた。


    いいよなぁ。当たり前のように、自分が「ふつう」だと思えるなんて。


    浮気した状況でそんなこと考えてると知られたら、それこそ鼻フックの一発でももらいそうだ。怖ぇ怖ぇ。


    「でも、ふつうにおまえのこと愛してるよ」

    口は勝手にしゃべりだす。自分の声が、腹話術のように白々しく聞こえた。「ふつうに」って何だよ。俺は「ふつう」なんて知らないだろ。だって、


    ――親が宗教やってるなんて、ふつうねぇよ。


    俺の親は、世間で言う「新興宗教」ってやつの神様に夢中だ。生まれた時からそうだから、俺にはそれがふつうだった。
    大金持ちの家だって、貧乏の家だって、その家にとってはそれがふつうだろ。
    別に特別じゃあない。


    でも外の世界で、うちはふつうじゃない。
    両親は「ふつうじゃなくて、特別なの」と、幸せそうに笑ってた。
    おめでたいな。
    だったらなんで俺の影は、こんなに縮こまんだ。
    俺だけがみんなのふつうに振り回されてるみたいだ。
    両親は、俺の影よりも神様に夢中。
    影だけじゃなく、俺自身がだんだん透けていってもたぶん、気づかないんだろうな。


    学校では、職場では、神様なんて都合のいい時だけいればいい存在。
    イベントシーズンなら、神様も大歓迎。
    神様ってのも、案外便利に使われちゃってるんだ。

    だったら俺もふつうに出し入れしとくかぁ。
    お優しい神様はそんなことじゃ怒んねえだろ。

    親のふつうを信じていた頃の俺が、少しずつ薄まっていく。
    あの頃の笑顔も、おんなじように薄まっていった。



    その場のノリに合わせとけば、驚くほどイージーだってわかった。
    ……なんだ、案外楽勝じゃん。
    結局ふつうってなんだろうな。
    わかんね。てか、めんどくせえ。
    別にどっちでもいいや。楽なほうで。

    とりあえずの彼女。とりあえずの友達。とりあえずの宗教。

    どんどん自分が透けていくけど。
    まあ透明なら覗きもし放題。ラッキーかもな。


    でも、油断してると俺はふつうからはみ出してる。
    彼女の目がすかさず「ふつうじゃない」と告げる。
    めんどくせ。

    ……なんだよ。
    すっかり忘れたはずの影が、ろうそくみたいにゆらめいた。

    だってしょうがない。うちはふつうじゃなかった。俺だって被害者だ。
    俺のことを理解しない周りが悪い。
    そう思ってた。


    だけどひとりだけ、俺のふつうに無関心な女がいた。
    ま、どっちでもよかったんだろうな。
    あいつはそういうやつだ。
    案外居心地が良かったから、こいつとだったら。とも思ったんだけど……

    あっぶねー。
    うっかりがんばるとこだった。だっせぇ。

    そのままでいいんだよ。
    ふつうでいいんだ。ふつうで。
    だって、ふつうでいるのが一番難しいんだってこと、俺はよく知ってる。



    *おまけに

    「神様。以下略」に出てくる坂本くんは、適当で女にだらしなく不誠実。
    コメント欄で散々「サカモトの悪口しか思い浮かばん」などと私もこき下ろしていました。
    しかし、作者の関谷ユウコさんが、のちの記事「慣性」で、こんなことを書いていました。

    世間の当たり前を一度だけ外して見れば、別の像が浮かぶんじゃないかなって。
    めちゃくちゃ評判の悪かった坂本君だって、彼目線で語れば、ひょっとしたら――。
    って思うんですけど、男目線で話を書くのは私には無理なんで、誰か代わりにやってもらえませんか。誰かひとりたろうくらい、やってくれる人いませんか。

    関谷ユウコ「慣性」より

    ほら、「ひとりたろう」って出てきた。
    誘われれば、とりあえず書いてみる。
    一生懸命、サカモトの人物像を考えてみる。
    サカモトも、別の角度から見てみれば、案外好きになれるのかも……?

    ……なりませんでした。
    サカモトくんに私が言えることは、ただひとつ。
    Do it yourself !
    他の人を傷つけていい理由には、ならないのよ。
    ちょっとそこに、正座しなさい!

    関谷文学をこよなく愛す方々、「私の、俺の坂本は、こんなんじゃないぞ!」とお怒りでしょうか。
    すみません。
    みなさまの思い描く「坂本くん」は、どんな「坂本くん」でしょうか?
    教えてください。
    宛先は
    「だれこれ珍百景」まで!
    みなさまのご応募、お待ちしております。

    最後に、関谷ユウコさん。
    坂本イズム……ありますかね。
    「ゆうこりんだから書けるのかな。許してくれそう」
    あのコメントを書いたとき、坂本くんと同じ気持ちになりました。
    「許してくれそう」って、案外貴重。
    ありがとう!


    #慣性からの惰性
    #関谷ユウコ
    #だれこれ珍百景
    #サカモトの視点
    #noteでよかったこと


    2025.11.9追記

    ひとりじゃさみしかろうて……と
    再生補修さんもだれこれ珍百景に応募してくれました。登録決定で〜す!


    本丸の関谷ユウコ氏も直々に、だれこれ珍百景の投稿してくれました。登録決定で〜す。

    フフフ。ふたりともおそろいのトップ画像で投稿してくれた。これ、グループ感出ていいな。うれしいな。
    このふたりの圧倒的センスに感謝します。
    あと、ふところの広さね。
    noteってたのしいな。ありがとう!

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    小さな病院の外来看護師 毎日を楽しく過ごすために、noteに書いて残しています。 ※このくいたろうの、 X、インスタのアカウントはありませんよ。 最近は#夏休みの小さなおとぎ話を作っています

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