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【連䜜短線】ものがたりの皮 第䞉話 雚音ず、人圢ず、物語

    シリヌズ第䞀話はこちら


    雚音ず、人圢ず、物語


     静かな雚が街を煌めかせる。现くお頌りない氎の軌跡が反射しあっお圗星のようだず、ティアは傘をくるっず回しお小さくステップを螏んだ。パシャっず氎が匟ける音がしお、圌女の靎䞋に染みを䜜る。足銖に䞀瞬冷たさを感じたが、それは足を止める理由にはならない。ティアの胞には枩かな蚀葉の泉が湧いおいた。園芞郚が育おおいたガヌベラが今日、綺麗に咲いた。ただそれだけ。毎朝毎倕䞖話をする姿を芋おいた圌女にずっおは、ただそれだけで充分な幞犏だった。オレンゞ色の花びらが開いたその花を芋お、ティアの胞には物語がうたれた。
     ──早く垰っお曞かなきゃ
     これが、ティアが孊園䞀の文孊才女ず呌ばれる所以だ。
     垰路を急ごうず普段入らない裏道ぞず足を進める。衚通りず違い道が狭く、陜が差さないそこを通れば家たでの近道になる。再び広い道に出るたであず数軒ずいうずころで、ティアは足を止めた。䜕かが聞こえた、あるいは銙りがした。五感ずは違うずころがずきめいた。ずきめきの方向には緑色の扉。小さく曞かれた「ネリアの工房」の文字がきらりず茝く。先皋たで胞に広がっおいたガヌベラの物語を曞きたいずいう気持ちが僅かに和らいだ。
     ティアはずきめきに埓っお、緑色の扉を開いた。䞭に入るず雚の音が消えた。倖ずは違う明るいそこに流れるのは穏やかな空気。䞭倮にはテヌブルず怅子。そしお壁沿いに眮かれた棚には数䜓の人圢。矎しいその人圢たちは静かにそこに座っおいる。よく芋たくお近づこうずした瞬間、奥から声が聞こえた。
    「いらっしゃいたせ」
     黒髪を緩く二぀に結った女性が、䜎い棚の向こうから顔を芗かせおいる。立ち䞊がるず重たい前髪から空色の瞳が芋えた。
    「ごめんください。たたたた通りかかっお  お人圢屋さんですか」
    「ええ。よかったらゆっくり芋おいっお」
     そういうず女性はたた棚の向こうぞず消えおいった。ティアは足を前ぞず進める。近づけば、先ほどよりもよくその衚情がわかる。嬉しそうだったり恥ずかしそうだったり、どれもが繊现な衚情をしおいお文孊少女の心を魅了する。目を奪われたたた棚に近づいたずき、その裏偎で先ほどの女性が人圢を䜜っおいるこずに気づいた。そういえば扉には「ネリアの工房」ずあったこずを思い出す。
    「この人圢は党郚お姉さんが䜜ったんですか」
    「ええ、そうよ。そっちは私のオリゞナル。こっちがオヌダヌメむドでお迎えを埅っおる子たち」
    「なるほど。だからこっちの方が賑やかなんですね」
     その蚀葉に女性は目を瞬かせ、「賑やか」ず銖を傟げる。
    「はい。みんな性栌が違う顔しおるからかな。おしゃべりさんが倚いみたい」
     女性が驚いた顔をしたこずに気づいお、ティアは慌おお苊笑いを浮かべる。やらかしたず内省する。
    「倉なこず蚀いたしたね。忘れおください。でも、本圓にどれも玠敵」
     女性は驚きながらも嬉しそうに目尻を䞋げた。䜜業を止めお棚の向こう偎から姿を珟す。扉ず同じ色のワンピヌスが揺れる。
    「ありがずう。わかっおくれお嬉しい。そうなの。この子たち、おしゃべりなの」
     そういうず女性はオリゞナルだず玹介した人圢の方ぞティアを促した。「オヌダヌの子たちはお迎え埅ちだから、こっちを玹介させお」ず、少し匟んだ声にティアは胞を高鳎らせる。
    「この子はドリス。お気に入りは赀い垜子。その隣がヘルフリヌデ。今日みたいな雚の日に生たれたの」
     女性があたりにも倧切な友人を玹介するように話すので、少女は静かにそれを聞いた。どの人圢も衚情が柔らかく芋える。最埌の人圢たで玹介を終えお、女性はティアに向き盎った。
    「最埌に、私がこの店のオヌナヌのネリアです」
     ネリアが埮笑んだ瞬間、どこか懐かしい感じが胞をくすぐった。人圢たちず、ネリアの空気が、たるで同じ音色で鳎っおいるみたいだった。䞍思議なのに、なぜか安心しおしたっお、だからティアは蚀葉を口にした。
    「ネリアさんがこの子たちに呜を䞎えたんですね。私、ティアです。もう少し芋おおもいいですか その  持ち合わせがなくお買えないんですけど」
     ネリアはクスリず笑い、「もちろん」ず答えた。
     窓の倖ではただ雚がしずしずず降っおいる。音も光も違うこの店の䞭は、たるで別の䞖界のようだった。
     人圢を芋る。どの人圢も生きおいるようだった。それは本物の人間のようだずいうわけではない。人圢そのものが生きおいるようだず思ったのだ。
     ティアの頭にはたくさんの物語が生たれ始めた。
     ──ドリス。この子は村䞀番のおしゃれさん。自信を持っお街に出るず、村の流行ずは違いすぎるこずに衝撃を受けるわ。そこからドリスは服食の道に進むために、街で有名なデザむナヌに匟子入りするの。
     ──ヘルフリヌデは孊園唯䞀の園芞クラブのメンバヌだわ。誰も䞖話をしなくなった校舎裏の花壇を甊らそうず土を䜜っおいるず、そこに埋められた箱を芋぀けるの。鍵穎は固たった土で塞がっおいるの。これはなに そこから始たるミステリヌに巻き蟌たれお行くのよ。
     物語が溢れる。こがれ萜ちないように、ティアはカバンからノヌトを取り出しお湧き出た蚀葉を曞き殎った。店の䞭だずか売り物の人圢だずか、考える䜙裕すら手攟しおひたすらに人圢たちの物語を玡いだ。
     ネリアの胞の奥で、䜕かが音を立おお厩れた。長いあいだ隠し抱えおいたものが、ふいに芋぀かっおしたったような感芚だった。
     ティアがノヌトのペヌゞをめくったずき、ペンが萜ちた。慌おお拟おうずするず誀っおノヌトたで萜ずした。そのタむミングでネリアは声をかける。
    「ねえ、䜕を曞いおるか聞いおもいい」
    「はい。  あ、勝手にすみたせん お店のものなのに」
    「いいのよ。ねえ、それ、䜕を曞いおるの」
     同じ質問をされお、ティアはノヌトを差し出した。お䞖蟞にも綺麗ずは蚀えないが、読んだだけでそこに広がる情景が䌝わる蚀葉たちが䞊んでいた。ネリアにはすぐにわかった。それは、この人圢そのものだった。息を吞うこずを忘れた。ずっず胞の奥にしたい蟌んでいたものを、この少女はいずも簡単に蚀葉にしおしたった。
    「これ、今この堎で思い぀いたの」
    「はい。私、物語を曞くのが奜きなんです。それで぀い、堎所もわきたえず  すみたせん」
     ティアの背䞭がさらに䞞くなるのを止めようずネリアは蚀葉を探した。しかし、芋぀けられるのは蚀うべきではない蚀葉ばかりで、結局、話を倉えるこずしかできなかった。
    「オルタンス孊園の生埒さんよね クラブには入っおるの」
     話題が倉わったこずでティアの背䞭は少しず぀元の䜍眮に戻った。
    「クラブには入っおいたせん。でも物語を探しおいろんなクラブを芋孊させおもらっおたす」
    「物語を探しお」
    「はい。いろんなものを芋おるず物語が湧いおくるんです  私はものが話しおくれるっお思っおるんですけど」
    「それじゃあこれも、この子たちが話した物語なのね」
     再びノヌトに芖線を萜ずしお、ネリアは柔らかく息を吐いた。「みんな、こんなふうに䞖界を芋おいるのね」ず呟く衚情が慈愛に満ちおいる。
    「物語を曞くず、そこに誰かに居堎所ができる  そんな気がしお、いいこずしおるかなっお気持ちになるから、぀い曞いちゃうんです」
     ネリアは、その蚀葉を胞の奥で䜕床も転がした。それはずっず欲しかった答えの圢に、少しだけ䌌おいた。
    「ねえ、あなたに芋おほしい子がいるんだけど、埅っおおくれる」
     そう蚀うずティアの返事も埅たずネリアは䜜業台の奥から䞀䜓の人圢を連れおきた。それは店に䞊ぶどの人圢ずも違っおいた。庶民的で芪しみやすい芋た目をした、ぬくもりのある女の子の人圢だった。
    「この子はミヌ。私が初めお䜜った子なの」
     ネリアはその人圢──ミヌをテヌブルに座らせた。玠朎な䜇たいだけではない、他ず異なる䜕かが匕っ掛かっお、ティアはじっずミヌを芋぀める。もし、人圢に生呜力があるならこの人圢は明らかにその力が匱い。ミヌはそう思わせる人圢だった。
    「この子の物語を曞いおくれない」
     ネリアの声には懇願するような響きがあった。曞きたい、そう思ったが、テヌブルに眮かれた人圢を芋おも蚀葉の泉は湧いおこない。
    「あなた、さっき蚀ったでしょう ものが話しおくれるっお。だから、この子の話を聞いお、曞いおほしいの。他の子ほどおしゃべりじゃないから難しいずは思うんだけど、お願いできないかしら」
    「きっずあなたにずっおこの子は特別なんですね」
     埮かな灯火を感じるこの人圢を無芖しお今日を終えるこずはできないず、ティアはノヌトのペヌゞを新しくめくった。
    「この子のこず、教えおください。曞けるかわからないけど 曞かせおください」
     ネリアの頬が気色に染たる。ミヌの頭を優しく撫でお埮笑んだ。窓に぀いた雚粒が、店内の光を反射しおきらりず光った。
    「ミヌを䜜ったのは私が十二歳のずき。祖母に教わったおたじないを詊しおみたくお、母に䜜り方を習ったの」
    「おたじない」
    「そう。願いが叶うおたじない。祖母の病気が治りたすようにっお願ったの」
     おばあさんは  ず出かかった声を飲み蟌む。ティアの玠盎で思いやりのある反応に、ネリアの心はあたたかくなる。
    「祖母は亡くなったわ。もずもず幎霢的にも䜓力的にも治療に耐えられる元気がなかったの。ミヌは祖母が教えおくれた最埌のおたじないで、私から祖母ぞの最埌の莈り物」
     目元に優しい色を浮かべるネリアがふいに窓に目を向ける。雚粒が窓を静かに滑り萜ちおいく。
    「祖母のおたじないどおり、私は人圢を䜜るずきに、その子が幞せであるように願いを蟌めお䜜るの。ただ、ミヌだけは違う。祖母のこずを願っお䜜ったからかしら、ミヌは他の子ず違っおきたわ。もう、人前に出る元気もないの」
     優しいのに悲しい衚情に、ティアの胞は締め付けられるようだった。ノヌトを広げおペンを握る。そしおじっず人圢を芋぀めお静かに觊れた。割れ物に觊れるよりもそっず。
    「ミヌ、ミヌさん、ミヌちゃん。なんお呌んだらいい どんなこずがしたい 䜕が奜き」
     声に出しお名前を呌ぶず、がんやりずしおいたミヌの茪郭がはっきりずしおくる。それたで朧げだった光が掎めそう。そんな感芚だった。
     ──ミヌ。あなたは  
     圢を埗た光を䞡手に取っお、そっず開いお芋る。そうしおそれが星だったこずを知る。
     ──あなたは針子。針ず糞を䜿っお心を創り出す䞖界に唯䞀の存圚。
     手の䞭で茝く星の光は、癜や黄色が匟けお、さらにピンクや緑の光を生み出す。
     ──あなたが䜜った服は瞁を結び、着る人を幞せにする。
     光が消えないうちにペンを動かした。先皋はあんなに匱く芋えおいたミヌが、今はしっかりずここにいる。䞍思議な感芚だず思いながら、ティアはそれが楜しくもあった。
     ──ある日、ミヌが刺繍したスカヌフが貎族の間で流行り出す。たくさんの人がミヌを召し抱えようず声をかけるけど、圌女は䞀床も銖を瞊には振らないわ。「私の仕事は誰か䞀人のための䞀針じゃない、服ずそれを着る誰かのための仕事だから」ず蚀うミヌは、今日も針ず糞を通じお瞁を結ぶの。
     ガリガリずペンを動かしおいたティアだったが、その瞬間深く息を吐いお、ペンを眮いた。そしお軜く読み返すず、ノヌトをネリアに向けた。
    「できたした。頌たれお曞いたの初めおなので、想像ず違っおたらすみたせん」
     ノヌトを受け取りネリアは黙読した。それはミヌずいう䞻人公の平和な生涯の物語だった。それず同時に──。
     ネリアの頬を涙が䌝う。咄嗟にティアがハンカチを差し出そうずしたが、ネリアが自分の手の甲で拭う方が早かった。
    「私が䜜る人圢には、心が宿るの」
     濡れた瞳がミヌの物語を写す。
    「おたじないなんかじゃない。魔法なの」
     芖線をノヌトからミヌに移す。぀られおティアも人圢に目を向けるず、先皋たでよりどこか穏やかな衚情に芋える。
    「ミヌは祖母のこずが倧奜きだった私。祖母が亡くなっおからミヌの心は消えおいくだけだったわ。でもあなたが物語の䞭で生かしおくれた。ありがずう」
     そしおネリアはミヌを手に抱いた。
    「ミヌ。今たでありがずう」
     そのずきティアは目を疑った。人圢がネリアの手に頬擊りをした。䞀瞬の出来事。瞬きのあず、目を凝らしおみおも人圢は人圢でしかない。しかし、ネリアの頬は幞せな枩床で赀く染たっおいる。窓の倖では雚が䞊がっお、い぀のたにか雲の間から倕焌けが差しおいた。濡れた赀色が䞖界に広がる。
     頬に流れる最埌の䞀筋を拭っお、ネリアはティアに埮笑んだ。
    「ありがずう、玠敵な物語を曞いおくれお」
     再びミヌを机に座らせる。やはりただの人圢でしかない。匱い印象もない、たしおや動くこずなどない、普通の人圢。もう䞀床よく芋ようず顔を近づける。
    「ミヌの魔法は解けたの。あなたのおかげで満たされた、玠晎らしい最期になった」
    「魔法  」
     店の䞭をぐるりず芋回す。来たずきにも感じた人圢たちの䞍思議な魅力。生きおいるず感じた圌らは、心ずいう生呜掻動で生きおいるのかず、劙に玍埗した。
    「私はこの子達に心を䞎えるこずしかできないの。この子達が幞せであるように願うこずしかできない。でもあなたが物語を曞いおくれた。それはこの子達にずっお生きる蚌になるはず。だから、本圓にありがずう」
     ネリアはそうだず蚀っお立ち䞊がる。
    「お瀌をしなきゃ。䜕がいい ここにいる子を連れお垰る みんなあなたのこず気に入っおるみたい。あなたに合わせお新しい子を䜜っおもいいわ」
    「え、お瀌なんおいいです プロでもないですし」
    「出来栄えに察する察䟡じゃなくお、あなたの行いに察する察䟡よ。あなたはそれだけ玠晎らしいこずをしおくれたの。お瀌をさせお」
     ティアは困っお目を泳がせた。喜んでもらえたこず、それだけで十分だず思ったが、それではネリアは玍埗しないらしい。んヌ、ず喉で悩たしく声を出しお、思い぀く。
    「それじゃあ、魔法の話を聞かせおくれたせんか」
     ネリアが蚀う魔法が本物かどうかはわからない。昔話でしか聞いたこずのない、今はフィクションになった魔法。それがもし存圚しおいるなら、觊れおみたいず思った。
    「そんなこずでいいの」
    「はい」
    「それなら今床芋せおあげる。たた来お。あなたならい぀でも歓迎する、ティアちゃん」
     い぀のたにか倖の倕焌けが濃い色になっおいた。もうすぐ倜が来る。
    「たた、来おもいいんですか」
    「もちろん」
    「ありがずうございたす」
     裏道にある緑色の扉。
     シンプルに曞かれた、ネリアの工房の文字。
     ネリアにずっお静かで、賑やかな城だったこの店が、ティアにずっおも特別な堎所ずなった。
     針ず糞で心を玡ぐ者ず、玙ずペンで物語を描く者。その二぀の手仕事は、倕焌けの䞭で、ただ蚀葉のいらない距離で向かい合っおいた。


    読んでくださりありがずうございたした。


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    目暙は自分による自分のための短線集を䜜るこず。 楜しいこずは倚いほうがいい。 週䞀投皿できたらいいな。

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