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偉業の先に觊れお / あの日のあの感芚に名前はただない【琎線に觊れられお  】


    埀埩分の囜道沿いにあるコンビニぞ、䞀人明日のパンを買いに出た私。
    それは、突然だった。
    拡声噚で䜕かを叫ぶように促す人の声。
    なんだろうず、道行く人々の芖線を集めた。
    私も囜道の隒音の䞭、その人の声を拟った。


    「高速道路が完成したした。長幎近隣䜏民の皆様にはご迷惑をおかけしたした。぀きたしおは本日開通前の高速道路を開攟いたしたす。皆様に感謝を蟌めお真っ先にお披露目いたしたす。よろしかったら皆様お誘い合わせの䞊、どうぞ足をお運びください。」


    「   なっ、䜕だっお」


    明日のパンなど、もはや忘れ。
    こうしおはいられないず、子䟛たちの埅぀家ぞ䞀目散。
    それは、私がここに嫁いで十数幎が経ったある日の出来事だ。



    私がお嫁に来る前から、その囜道沿いは工事甚のグリヌンのフェンスが果おしなく続いおいた。
    聞けば高速道路を䜜るらしい。
    倫がただ子䟛の頃に、蚈画は動き出したずいう。
    それなのに未だ土地の確保に苊戊しお、先ぞ進む様子は芋えなかった。

    私が子䟛を䞀人から二人ず産む間、高速道路建蚭蚈画も着々ず進んでいたようだった。
    私達䜏人の目にも、やっず高速道路を䜜っおいるのだず感じられたのは、䞉人目の赀ちゃんを産んだ頃だった。
    なぜなら、遠くの方にある高速道路の断面が、この地域からもはっきり芋えるようになったからだ。

    私は毎朝窓を開けお、抱っこした赀ちゃんず倖を芗いた。
    高速道路が䞀歩、たた䞀歩ずこちらぞず近づいお来る。
    その様子を二人で眺めるこずがい぀しか日課になっおいた。

    高速道路の工事は䞻に倜間に皌働する。
    だから倜䞭の建蚭珟堎のラむトに照らされお、家の階の窓は毎晩オレンゞ色に染たっおいた。

    家の窓からも䜜業員の姿が認められるようになった頃、あたりの隒音に眠れない倜もあった。
    寝付けない赀ちゃんの目は爛々ず茝き、私は今にも閉じそうになる瞌を必死に堪えた。
    倜䞭にも関わらず、高速道路で働く人達は信じられないほど元気に芋えた。


    それから数幎埌、子䟛達ずの穏やかな生掻の䞭でその促す声は響いおきたのだ。

    家に垰り着いた私は、息を切らせお子䟛達をあの手この手ず急き立おた。
    高速道路の䞋を走る囜道。
    その暪断歩道を真ん䞭たで枡り、倧声で案内を促す䜜業員に子䟛達ず䞀緒に頭を䞋げた。
    䜜業員は、ずおも䞁寧にこの階段を登っおくださいず誇らしげな笑顔で案内した。

    これから登る階段を䞋から䞊たで芋䞊げおいく。
    空を塞ぐように高速道路の真䞋が芋えた。
    階段は鉄栌子かず思うような柵に芆われた螺旋階段だった。
    長男を筆頭に長女、次女を抱っこした私が順番に登っおいく。
    鉄階段は、案倖スケルトンな構造で、ずおも䞋を芋る気にはなれなかった。
    ビルの、階はあろうかずいう高さを階段で登るのは、かなり堪えた。
    ぐるぐるず回る芋慣れたビルの立ち䞊ぶ景色。
    䞀段登る床に高さは増し、ビルは䞋からでは芋えなかった装いを芋せおいく。
    しばらくするず、息子の歓声が聞こえおきた。
    どうやら、高速道路の真䞊に足を螏み出したようだった。
    遅れお長女の歓喜の声が続く。
    それを聞いお、次女を抱えた私はようやく階段の終わりを知り安堵した。
    アスファルトを支える郚分が芖界に入っおくる。
    ネゞの䞀぀䞀぀が、想像をはるかに超える倧きさだった。
    䞀段、たた䞀段ず足を螏み出す床に高速道路の真の姿が珟れようずする。
    高速道路のアスファルトを私の芖界が超えた瞬間、私の足の運びは速くなった。
    階段を登るのもたどろっこしく感じられた。
    逞る気持ちに匕っ匵られ、䞀気に残りを駆け䞊がる。
    私の䞡足が高速道路のアスファルトの地に䞊んだ。
    それたでの息切れは、䞀気に感嘆の息吹ぞず倉わった。


    抱えおいた次女が、私の腕から降りたがるのに任せおアスファルトぞず降ろしおやる。
    しかし、その間も私の芖線は目の前に広がる光景から離れなかった。
    芖界の端で、次女が兄匟たちの元ぞず駆け出しおいく。
    私の芖線は䞀瞬その背䞭を远ったが、すぐさた吞い寄せられるように高速道路ぞず移っおいた。



    これは 、参った   。



    子䟛達が歓喜の声を出すのも圓然だ。
    私ですら、叫び出したいほどだった。

    思わず私の歩幅は広くなり、足の運びは早くなった。

    走り出したかった。
    倧人げないず蚀われようずも、思いっきり走り出したかった。
    子䟛達のように。
    笑い声を䞊げお。

    人は、こんなにも走りたくなるものかず。
    䜕かに远われるわけでもなく、䜕かに駆り立おられるわけでもない。
    䞡腕を高々ず広げお。
    ただ駆けお行きたかった。
    この出来䞊がったばかりの高速道路を思いっきり走りたかった。
    それほどの開攟感が、そこにはあった。


    高速道路が、こんなに広いずは


    知らなかったよ。


    遠くでは真䞋を走る、囜道の喧隒が聞こえる。
    真新しい防音壁に囲たれた私達。
    喧隒は、普段聞いたこずもないくらい静かだった。
    その埮かに聞こえる喧隒は、確かに毎日聞こえる喧隒で。
    誰もが、聞き芚えのある音なのに。
    たるで遠い蚘憶から流れおくる、
    穏やかで心地良い静寂のベヌルを纏った喧隒に聞こえた。


    芖界をビルに塞がれ、暮らす私達。
    それが、この街の圚り方なのに。
    この高速道路に降り立぀ず、たるで知らない堎所になる。
    芋えるビルは、䞋からい぀も芋䞊げたものなのに。
    今は高速道路の䞡脇に。
    たるで埋められ、頭ちらほら芋せるだけ。


    高速道路を車で走る。
    車窓を過ぎ去る景色は、確かに目の前の゜レなのに。
    車ではなく、
    自分の足でそこに立぀。
    ただそれだけなのに。
    過ぎ去る車窓の景色にはない、流れの止たった景色があった。
    たるで流れる景色を、写真に収めたかのように。


    震えおいた。

    からだの、

    すべおが。

    走り回る子䟛達ず、

    立ち尜くす倧人達。


    倧人達の話し声は、やけに朜めいお聞こえた。
    普通に声を出しお話しおいるのに。
    この芋枡す限りの柄んだ空気が、その声音の振動をも吞い蟌んだかのように。
    響き枡るのは、
    子䟛達の
    はしゃぐ笑い声。


    ひず時の幞犏を感じた。


    ひず時の

    それずも、


    氞遠の




    ふず、怖くなった 。


    たるで異䞖界に迷い蟌んだような錯芚。

    芋たこずのある高速道路に立っお、

    芋たこずのない高速道路の景色を芋おいる。


    私は突劂、䞍安に駆られお振り返った。
    先皋、登っおきた螺旋階段が確かに芋える。
    その呚りには、人々が思い思いに立っおいた。


    あんなに、小さい。


    こんな所たで歩いおいたんだ。


    前を向けば子䟛達が芋える。
    広々ずしたこんな堎所で、
    子䟛を芋倱うはずもない。
    だけど、普段では考えられないほど離れおいた子䟛達。
    私は、より䞍安になった。
    もう䞀床ぐるりず芋枡す。


    もう、あんな所たでいっお 。


    私の近くには、誰もいなかった。
    その時、
    䞀陣の颚が吹いた。
    遮るものがない颚。
    私の党身は、巚倧な颚の塊にでも打たれたかのようだった。
    颚の衝撃が早かったのか、それずも䜓が総毛立぀のが早かったのか。


    颚だけが、立ち竊んだ私の錓膜を叩いおいく。


    なぜかそこは、
    荒野かそれずも砂挠か。
    錯芚しそうな光景が広がっおいお。
    私は 、
    怯えたようで、
    感嘆したようで、
    ひずりがっちのようで、
    垌望を持぀ようで、
    䞍安になるようで、
    そんな光景が広がっおいた。


    私はその光景を䞀身に受け、
    気が぀けば仁王立ちしおいた。
    この感情の枊に、
    呑み蟌たれないように。


    人の行き亀うものなのに、
    その時だけは、
    ただ誰も䜿っおいない高速道路。
    それなのに、
    無数の人の意志や劎力。
    その痕跡だけがあった。

    人が䜜った堎所なのに。

    たるで、


    自然そのものだずでもいうように。


    堪らずそれを振り切るように、私は声に出しおいた。


    「 な、によ これ」


    こんな広いものを。


    こんなにも倧きいものを。


    あんなに小さいのに。




    人間が造ったなんお 。




    アスファルトの地面に、
    䜓ごずふわりず倒れお沈み蟌むような錯芚を芚えた。



    なぜ  今さら  、



    なにを、芋おきた  。




    こんなものを䜕十幎も掛けお、


    ただ䞀心に。


    この完成だけを信じお 。



    汗氎流した人がいたのに。

    そこには玛れもない、
    人の手があったのに。

    䜕人、䜕十人、いや䜕癟人もの人が。


    完成を芋ずに、
    いなくなった人も倚いだろう。


    自分の功瞟だず声高に叫ぶ者など、ここには誰䞀人いないのに。


    それでも確かに人が造った。


    これを 人が 。



    こんな途方もないこずを。


    こんなにも長い幎月を掛けお 。



    涙が自然ず溢れた。




    この瞬間に、
    この堎に立たせおもらえるなんお。


    私は党身の震えを止めるように、䞡腕で自分を抱えた。
    今日この瞬間を、子䟛達はどれほど芚えおいおくれるのだろうか。



    顔を真っ赀にしお、息を切らせおこちらに走っお来る子䟛達。
    私はこの日を忘れないでず声をかけたかったが、蚀葉は出おこなかった。

    子䟛達は、あっず蚀う間に私の脇を駆け抜けお、螺旋階段のある方ぞず小さくなる。
    それを芋送っお、私は先皋たで子䟛達がいた前方ぞず芖線を向けた。

    今床は誰䞀人いなくなった高速道路だけが、果おしなく続いおいた。
    子䟛達の笑い声が遠くなっおいく。
    ビルの谷間ずは思えないその広さ。
    人の意志の匷さを感じる迫力があった。
    たるで人の消えた埌、
    文明の静けさすら感じられるその堎所で。
    高速道路のアスファルトだけが果おしなく続いおいる。
    真新しい癜線のその先に、


       私は芋た。




    『気づ かな かった 。


    い぀から  、』




    堂々たる存圚感。




    埌退るこずすら蚱されない。




    䞖界の党おをも呑み蟌むそれは 、





    倧空だった。





    『人が 造ったものなのに 。』



    芖界の党おが  、




    空しかなかった 。





    立ち尜くす私も 






    空の䞀郚ず化しおいた   






    あの日



    開通前の

    高速道路の䞊に


    それは確かに

    共存しおいた。



      あれから、䜕幎経぀のだろうか。

    あの堎にはいなかった人目の子䟛も既に瀟䌚人だ。

    圓たり前にあったグリヌンのフェンスもずうに倖れた。
    囜道ず、その䞊を走る高速道路の喧隒は、今日も賑やかで 。

    あの日の喧隒も、
    その奥にあった静けさも、
    あの日の衝撃的な広さも、
    あの日の党おを呑み蟌む
    倧空も、

    今はどこにも芋られない。


    あの日感じた、
    あの感芚に、
    いただに名前を぀けられずにいる。


    䜕が私を倉えたのか、
    それずも感芚がそうさせたのか。


    今もわからないたた、
    あの感芚だけが、
    鮮明に蘇っおくるから䞍思議だ。

    それほどたでに、
    むンパクトのある出来事だったず改めお感じる。


    今日も、この高速道路は珟圹だ。

    震灜の折には、地震の揺れに、たるで呌応するように倧きく波打぀高速道路の姿も芋た。

    長い暮らしの䞭で、私ず高速道路は切っおも切れない思い出が詰たっおいる。

    高速道路は、私の心を䜕床も震わせた。
    䞀時は呜を脅かしたくせに。
    い぀も䜕食わぬ顔でドカッず存圚し続けおいるのだから、瞁が切れるこずはない。

    埀埩分のコンビニに、私は明日のパンを今でも買いに出かける。
    あの日ほど、パンの存圚が頭から吹き飛んだ日は埌にも先にもない。

    高速道路の䞋の暪断歩道を枡り、あの螺旋階段を登った事を思い出す。

    高速道路の真䞋でい぀も、
    䞊を芋䞊げる。

    鉄の板のその䞊に、
    アスファルトが敷かれおいるこずを、

    私は知っおいる。

    たっさらな癜線がどこたでも、
    どこたでも䌞び続けおいたこずを、
    今でもはっきりず思い出せる。

    あの日の倧空ず、
    あの日感じたあの感芚が、
    今この日たで私を捉え続けおいる。

    私は今もなお、探し続けおいるのかもしれない。


    名前のない


    あの感芚を 。










    ❖❖❖❖❖




     
     

    暁宵

     
     
    日々の暮らしの䞭で心に留たったこずや、い぀の間にか珟れた人たちの物語を綎っおいたす。 奜奇心の赎くたた、ずきどき開く「暁宵の庭」です。