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⚪掌線小説蜜柑堂曞店 第十六話

    適枩より1℃䜎め

    第十五話からの続き

     文芞誌に先茩の名前を芋぀けた。

    

     勧誘されお䜕気なく郚宀に行ったら寄っおたかっお優しくされお、詊しに䜕か曞いおみおず蚀われお曞いたらべらがうに耒められお、おだおられ、たんたず入郚した。

     第䞉文芞郚。それがサヌクルの名前だ。

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     泚目の同人ずいうコヌナヌで、同人誌『第䞉文芞』からタケさんの䜜品が遞ばれた。

     ずっず曞き続けおいたのだな。結局タケさんの小説を奜きにはなれなかったけれど。

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     がくは䜕かしら小説らしきものを曞くず先ずは必ずタケさんに芋せた。するずタケさんは絶賛しおくれる。倧抵はどこかの䞀郚分、たあたあマシな箇所を芋぀けおは、この比喩が玠晎らしい、この発想は凄い、斬新、などず耒めちぎっおくれるのだ。

     がくは元々それで有頂倩になれるほど恵たれた性栌ではないけれど気分が悪いかず蚀ったら嘘になる。そうですかね、そんなもんですかね、などず蚀いながら次の䜜品に取り掛かる。少なくずも䞀幎はそんな距離感で接しおきた。

    

     埒匟制床ずいう蚳ではない。ただ䌝統的に特定の先茩が特定の埌茩の面倒を芋るこずになっおいた。

     けれども、タケさんががくを芋おくれたようには、がくはミアを芋るこずは出来なかった。ミアは文孊新人賞の最終遞考に残るような子だ。

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     だからこれは玔粋な劣等感なのだけれど、そんながくの屈蚗を知っおか知らずか、ミアはい぀でも必ず原皿を真っ先に芋せおくれたし、たた創䜜以倖のこずでも、䜕かに぀けお盞談しおくれた。

    「先茩の小説、奜きだよ」
    「そう」
    「実はタケさんず付き合っおる」
    「え」
    「意倖」
    「い぀から」
    「入郚しおすぐ」
    「  そうなんだ」
    「もっず早く蚀おうず」
    「良かったな」
    「うん」

    

     がくはタケさんに小説を芋せるのをやめた。

     自分の殻に閉じ籠り、殻の内偎だけを芋お、誰も芋るこずのないその堎所に曞き殎った。

     受隓勉匷のずきでさえこれほど自分自身に向き合ったこずはなかった。

     今にしお思えば、ほずんどが読むに耐えない代物だったけれど、圓時ずしおはそれが、曞き殎るこずが、がくには絶察的に必芁だったのだず思う。

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     タケさんの小説を読むのは、い぀以来だろう。

     小説にはそれぞれ固有のぬくもりがあり、匂いがある。だけど、どうだ。掻字になっおしたえばみな等しく同じになっおしたう。玙のぬくもりず、むンクの匂い。

     目を閉じお、深呌吞をしよう。

    

     男は倧孊に行かず、仕送りを䜿い蟌み、挙げ句の果おはアパヌトを匕き払い、路䞊生掻者ずなる。

     垂民からは疎たれ、嫌われ、芋ず知らずの子䟛らからは石を投げられ、ダクザに小突きたわされるこずもあれば、譊官には助けを求めおも逆に远い立おられる。そんな男の話だ。

     そうした䞭、男は他人を定矩し、分かったふうな口を利き、路䞊生掻者哲孊を生み出し、その芖点からすべおの事象を敎理しようずする。ここたではい぀も通りだ。

     やはり、奜きになれない。

     読者が反論しづらい䞀般論ぞの着地。「自分はこういう人間だ」では終わらず「぀たり人間ずはそういうものだ」たで行っおしたう。

     小説内の運動がすべお「比喩」あるいは「テヌマ」に回収されおしたう。その畳み方。

     登堎人物は生きた存圚ではなく、呜題を実蚌するための駒になる。

     「おれの人生芳、おひず぀どうぞ」

     自分の人生哲孊には他人に聞かせるだけの䟡倀があるず蚀わんばかりの傲慢な語り口。それがずにかく錻に぀いた。

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     ずころが、物語が䞭盀に差し掛かるず様子が䞀倉する。

     男はひずりの老婆に出䌚う。これたでであれば男は自分の物差しでもっお、老婆を、䞀般論の䞭に、あるいは比喩に、人生哲孊を語るための玠材ずしお閉じ蟌めたはずだ。

     しかし男は老婆ず行動を共にし、路䞊生掻者ずしおの生きる知恵を孊び、小さな感情的なやり取りを経おもなお、倀螏みせず、芋䞋さず、その存圚を芏定しようずいう気配すら芋せない。

     語り手は、その生々しい生掻の手觊りや、老婆の異質で圧倒的な存圚感を、ただ淡々ず描写しおいく。

     そしおその堎面は蚪れる。

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     二十䞉時の芋回りが終わるず譊備員は朝たで仮眠を取る。老婆に教えられたずおりだ。

     男は廃墟ず化した取り壊し䞭のホヌムセンタヌに忍び蟌む。

     倩井から垂れ䞋がる配線、剥がれ萜ちたコンクリヌト。非垞灯が青く光る。

     階段で二階ぞず䞊る。

     するず䜓育通ほどの広さの剥き出しの空間に、どういう蚳か数十台の業務甚扇颚機が、おんでバラバラに眮かれ、その翌を勢いよく回転させながら、右ぞ巊ぞず銖を振っおいる。

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     ゎりゎりず枊巻く颚が耳のすぐそばで唞っおいる。颚ず颚がぶ぀かり、䞍芏則に流れ、吹き䞋ろし、あるいは吹き䞊げ、たるでいく぀もの竜巻に䜓ごず呑み蟌たれるような錯芚に陥る。

     男は揉みくちゃにされながらも扇颚機の矀れを掻き分け、その䞭倮に身を眮いた。するずそこでは音が䜕も意味しないこずに気づく。声を発しおも、それは匕き裂かれ、舞い䞊がり、颚の䞭に砕け散っおしたう。

     どのくらいそこでそうしおいただろう。

     い぀しか時は止たり、音は消え、颚もない。呟きは喉の奥で透明な䜕かに倉換されおしたう。

     男はこの䜓隓の䞭心にいながら、しかし、文字通り蚀葉を倱っおいる。人生論を語るでもなく、別の䜕かに喩えるでもない。ただ、沈黙に耐えおいる。

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     がくはその先を読むのが怖かった。

     この堎面の意味を、タケさんは、たたしおも読者が考えるより先に䞎えおしたうかもしれない。これは䜕々の象城ですよず、蚀いたくお蚀いたくお仕方がないのかもしれない。そんなものを読たされるのは真っ平だ。

     䞀方で、別の怖れもある。

     誰かを安心させるこずのない、予想も付かないような、真に驚くべき深淵の端っこを芋せられたずしたら。陳腐な䞀般論ではなく、肥倧した自意識哲孊でもないその堎所ぞず、タケさんが、぀たり境界線の向こうぞずがくを匕き摺り蟌んでしたうかもしれない。それが怖い。

     本圓はこの目で確かめなければならないのだろう。それは埌茩ずしおずか、か぀お同じサヌクルに身を眮いたものずしおではなく、人ずしおそうすべきではないかずいう気さえした。

    

     でも読めなかった。読むこずが出来なかった。

     がくは自分自身の小説ずも䞊手くやっおいくこずが出来ず、なにひず぀満足に曞けない。蜜柑さんずの玄束も果たせずにいる。

     そんながくが。タケさんの小説を、あるいはタケさん自身を裁こうずいう。なんずいう傲慢さだ。恥ずべき行いだ。

     あの日、蜜柑さんが蚀っおくれた──この小説を曞き䞊げなさいず蚀っおくれたその䞀蚀が、その意味がようやく分かった気がする。

     がくは栞を挟んで頁を閉じた。

    

     そしお、曞きかけの小説に改めお立ち向かう。

    第十䞃話に続く


    芋出し画像は矜さんの䜜品です。
    関連゚ピ゜ヌド第䞀話


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    #真倜䞭の扇颚機
    #蜜柑堂曞店
    #創䜜お題30
    #コンプレックス

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