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逢魔伝(おうまでん) 3-10

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       十
     
     夢を見た。いつも見るものよりもよほど、へんてこな夢だった。
     夢がある現実を示唆していると提唱したのは、フロイトやユングだったが、僕の場合、夢はたんなる夢であり、それはつまり現実の反対なのだった。
     なにより、現実においても、鬼だ龍だ鴉だ、と夢のようなもの達に取り囲まれているのだ。いまさら、何が出て来ようと驚きはしない。ましてや、それが現実となんらかのつながりのある、「示唆」や「予言」であったとしても、不思議はない。否、不思議がない。と、言っても良い。それは、ちょっとした狂気なのだろうか?
     ある視線を追って行くと、口を大きく開けた男の顔にその視線はぶつかった。男は、口を開けてマントをかぶり、天を仰いでいる。周りにも数人の男女が、同じようにマントをかぶって、にやにやと笑っている。船だ。彼らは船に乗っている。いや、よく見ると、男と女が向かい合って一つの木の実か、生き物の首を食べようとしている。船の上で、男たちが、その丸い何かに向かって、大きく口を開けている。
     ああ、このような絵をどこかで見たことがあった。だけど、何だったか。まったく思い出せない。僕は、その絵画の名前が知りたくなった。ゆっくりと近づいて行く。
     金色の額縁のはじっこに、作者と作品名がたしかに書かれている。現実感のない床を踏みながら、一歩一歩、近づいて行った。そのたびに、不吉な絵は眼前で大きく広がっていった。
     しかし、その絵には、どこか解放感があった。なぜだろうか?彼らの表情だろうか。呆然と口を開けている。魂の抜けたその顔は、なんだか愉快そうに見える。なにも窮屈を知らないような、がんじがらめになっていない、何かに反する恐怖をどこかで置き忘れてきてしまったようだ。でも、僕はあの船に乗りたくなかった。あの船そのものが、がんじがらめの象徴のように見えた。
     一歩進むたびに、古い床板がぎしぎしと鳴いた。それにも関わらず、足は泥のように重たかった。いつの間にか、周りは真っ暗で、しかしその金の額縁に入れられた、異様な絵画だけは明るかった。もう少しで名前が見える、と言うところで、視点が反転した。
     真っ逆さまになったまま、先ほどの絵を振り返った。しかし、絵はいつの間にか架けかえられてしまっていた。いまでも、僕はあの愉快な人々の集まる船の絵の名前を、思いだせないでいる。


       第四章へ続く

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