異世界に陰陽師として召喚されたが、戦えないので空気だけ整えて帰りたい。〈3.ただ、帰りたい。—中編—〉
朝、布団の中で目が覚めた。寝て起きれば昨日の事は全て嘘で、何も無かった事に——とは、ならなかった。
由良は後頭部をさすった。頭を打ってできた、たんこぶがあった。腫れと痛みはだいぶ引いているが、今の状況が事実であることを物語っている。
「——はぁ、俺、死んでたりして」
「死んでなどおりませぬ!」
「うわあ!」
廊下の方から、間髪入れず声がした。誰かがいる気配は無い。その代わり、障子の隙間から、人の形を模した紙——式神が、するり、と入ってきた。
「由良殿、お目覚めで何よりです。そろそろ朝餉の時間なので、食堂に参りましょう。白様と百吉様がお待ちです」
ぎゅるるるる……由良の腹が盛大に鳴った。そういえば、昨日は夕食を食べていない。
由良は、言われた通り食堂に向かうしか無かった。
——白様と百吉様って言ってたな。ここには二人いるのか?それより……式神が朝食に呼びに来るなんて、現実離れし過ぎていて、朝から頭が追いつかない。
ただ、一刻も早く帰りたいのに帰れない、という現実を突きつけられているのだ。
食堂に着くと、朝食の支度がされていた。
「白様、連れて参りました。」
「あぁ、由良君、おはようさん。気分は如何かの?」
白様が明るく声をかけてきた。案内してくれた式神が彼の肩の辺りを、ふわり、ふわりと漂っている。
「昨日はすみません、早くに寝てしまって」
「いやいや、気にするでない。さぁ、温かいうちに朝餉を」
「そうですよ!早く食べましょう!」
背が190センチありそうな、ひょろっとした男性が現れた。驚いて見上げる由良の御膳に、味噌汁を置いてくれた。
「食べ終えたらすぐに支度をして、街に出かけましょう!必要な物を揃えて、食材の買い出しと、あとは茶屋にでも!」
知的な顔つきとは裏腹に、カラッとした笑顔を百吉は見せた。
朝食後、身支度を整えた一行は、街へ向かう為嵐山にある白虎大社を後にした。
由良は、百吉の着物を借りていた。180センチ程ある由良よりも背が高い百吉の着物は、とてもぶかぶかで布が有り余っている。迷子になったら百吉を見つけようと心に留めた。
暫く砂利敷きの道を歩いているが、人にも車にも出くわさない。
「まずは着物と装束を見て、履き物、筆に——」
百吉はまるで、自分の物を揃えるかのように楽しそうだった。小さな紙切れに必要な物が書いてあるらしい。由良は隣から覗き込んだが、あまりに達筆なので全く読めなかった。
風に乗って、だんだんと街の賑わう声が聞こえてきた。が、由良は違和感を覚えた。
瓦の屋根が多く、高いビルのような建物がまるで無い。木造の建物ばかりがある。この辺りは美観地区か何かだったのだろうか。
「さぁ、行こう行こう!」
百吉はそう言うと、細い道を入って行った。由良も続く。大きい通りに出た。が——
——何だ、ここは?
そこはまるで江戸時代の風景だった。建物が明らかに古い造りをしている。行き交う人々は皆、着物を着ており、車なんて皆無だ。大八車を押している人なら、いる。
呆然とする由良を白様が、ぽん、と肩を叩いた。
「今は、時代という概念は無く、ずっとこの状態で止まっておる。君が元の世界に戻れるまで君を護るから、どうか安心してほしい」
——そう言ってもらえるなら。由良は、少し前を向く事にした。
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⤵️前回のお話⤵️
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