| 【No.222】彼方 - kanata - | 2019/07/29 (Mon) |

あなたがいたから
長い道のりを歩いてこれた
共に歩み先立ったひとへ
ときおり話しかける
あなたと会えてよかった
そう思えることが
幸せに繋がっている
遠くを見つめる自分に
彼方から風がふく
| 【No.221】本を読むひと | 2019/07/24 (Wed) |

ひとしきり降った雨も
午後には何処かへ消えていった
数冊の本をむき出しで抱えたまま
大学生らしき若い女性が前を通りすぎる
今ではトートやリュックに詰めこむのが
普通だったからか
その女性の姿が珍しく感じられた
しばらくして近くのカフェに入ると
偶然 先ほどの女性が外に面した席で
本を読んでいた
少し離れた席で私はコーヒーを注文した
5分ほど経ったころだろうか
私の目に意外な彼女の表情が映る
泣いていた
彼女は本を読みながら確かに
泣いている様子だった
何故かその光景が
脳裏に焼きついて離れなかった
本を読み涙する横顔
確かにそれは
特段に珍しい姿ではないかもしれない
ただ今の時代 パソコンや携帯電話を見つめて
涙している姿を見ることはほぼない
やはりそれは本を読むということからくる
感受性なのだろうか
そういえば自分も本を読んで泣いたことがあった
もう数十年前のことだ
感受性の高い若かりし日
一冊の本から受ける感動は計り知れない
本であれ音楽であれ
誰もが得られる感動との出会い
最も大切にしたいものが
色あせていく気がしてならない
| 【No.220】湖への誘い | 2019/07/16 (Tue) |

明治20年(1887年)
東京では市川團十郎が明治天皇の前で
「勧進帳」を演じていた
同じ年 モスクワではボリショイ劇場バレエ団が
「白鳥の湖」を演じている 初演だった
東の歌舞伎と西のバレエ
観客は弁慶やオデットなど主役たちの演技に魅了され
その日の余韻を楽しんでいたのだろうか
残念ながら「白鳥の湖」は
初演当時メンバーに恵まれず
さほど評価はされなかったという
ただバレエのイメージと言えば
この作品を思い浮かべるひとも多いことだろう
今ではチャイコフスキー作曲によるクラシックバレエで
「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」と共に
3大バレエともいわれる作品である
あらすじは割愛するが
この作品の魅力のひとつに
コール・ド・バレエといわれる
集団での一糸乱れぬ舞がある
水辺に浮かぶ白鳥たちの美しいシルエットが
幻想の世界へと私たちを誘ってくれる
そしてもう一つ
悲劇で終わるかハッピーエンドで終わるか
物語の終わりかたが演出家により異なるのも
この作品の魅力といえる
ただ何より大切なのは
主役を演じるエトワールの存在だというのは
言うまでもない
機会があれば皆さんも
白鳥の舞う湖へ入ってみてはいかがだろう
まずは片足から・・・
※ Le lac des cygnes -rappel de rideau-
L'Opéra de la Bastille paris 2019
| 【No.219】粋 | 2019/07/08 (Mon) |

昭和のはじめ
まだ「粋」という言葉が
ひと伝いに言われていたころ
粋を貫いたひとりの女性がいた
市丸・江戸小歌市丸
芸者から歌手として多くのひとに愛され
1997年 90歳でこの世を去るも
最期まで芸と共に生きた
花街で賑わった柳橋
その一角に建てられた静かな家が
彼女の終の住処だった
二階に上がるとそこからは
隅田川がよく見える
悲しみに暮れたとき
誰かが恋しいとき
彼女はここからじっと
川を見つめていたに違いない
「もうすぐしたら花火でも見にいらっしゃい」
眼を閉じると
市丸姐さんの声が聴こえる気がした
彼女の愛した家は
佇まいも粋だった