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森に風鈴は鳴る

巌窟王(銀河アンドロメダ物語 12)

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   いつの間にか、百合と薔薇の花が我々の前のテーブルの上に、花瓶にいけられてあり、吾輩寅坊は自分が寝ている間に、誰か親切な人がサービスしたのだろうと、思っていた。吟遊詩人は 銀河鉄道が次の惑星アサガオにつく間は、よく歌い詩も作ったようだ。吾輩と剣士ハルリラに見せた次の詩も、花瓶の中に咲く美しい薔薇と百合を見て、大自然を想像して作った詩なのかもしれない。

里山の詩 (3)


(私の書いた詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[里山の詩]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )



Poem


「おお、私とユリの花は兄弟だ
自然の中で咲く花と私
私は愛する里山の神秘の瞳と唇を
里山と花は不生不滅の宇宙のいのちの現われだ

薔薇よ、深紅の色に潜む宇宙の謎
ユリよ、雪のような白さは乙女の姿
里山の中で、大自然の詩句を歌っている
人も生き物も神秘な宇宙のいのちの現われだ

風がそよぎ、緑の梢は揺れる
オオルリの歌が青空に響く
自然の中で生き物は、不滅の生を生きている。
風の音も鳥の声もいのちの声だ

この里山の風景 魂に触れる
薔薇と百合の花は永遠のいのちの調べ
詩人の祈りは神仏に届く、誠実な歌声だ
花も昆虫も人も全ては神仏の現われだ

それで、何故、戦争がある
神仏の現われという真理を忘れ、我執のとりこになるからだ
魔はそこを狙う
おお、里山の花よ、人を目覚めさせよ

やがて、大自然の中、人は愛を見つける
薔薇とユリの花がいのちの秘密を教える
里山の詩、感動する魂は震えている
いのちの声は愛と永遠を教えてくれる  
」






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明るい日差しが窓に輝くと、朝になっていたのです。銀河鉄道の窓からは、もう下界は緑の広大な高原のような所が見えて、あっという間に、町並みがひろがり、するりと駅の構内に入って行きました。
やはり、この惑星アサガオはトパーズの宝石のような美しい色に恵まれた大地でした。
「トパーズ。トパーズ」
オペラ歌手が歌うような神秘な音色の声がトパーズ駅の構内に響きわたっています。
駅そのものがそのような宝石めいた石でつくられた巨大なものでした。
吾輩は京都の駅を思い浮かべました。似たような感じもありましたが、やはり人ははるかに少ないものでした。

ここは熊族のロイ王朝だと聞いていましたが、鹿族の方がむしろ多く、その他、虎族、猫族などがいるのでした。温暖化が進み、暑いだけでなく、紫外線がひどく強い土地柄だというので、鉄道の中で、アンドロメダ銀河のデザインがされたTシャツとサングラスを購入して、改札を出ました。

時計台の鐘の音が聞こえてきます。駅の外に出ようとしながら、ぼんやりその美しい音色に耳を傾けていると、「モリミズさん」という黄色い声がします。虎族の若者が振り向きました。声の主は、あの猫族の女の子ナナリアではありませんか。ここには降りないと聞いていたので、吾輩は少し驚きました。

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吾輩も猫族ですので、こうしてすらりと立っている美しい猫族の女の姿を見たのは初めてのような気がして、はっとしました。
黒い大きな目に大きな黄色い耳が少しゆらゆらしていました。きびきびした身体ぜんたいの動き、体はふっくらとして丸みを帯びていて、気品のあるデザインにあふれた紫の薄手の服を着ていました。
黄色い豊かな髪の毛は後ろに形よく束ね、どこからともなく匂ううっとりするような香り、まろやかなみずみずしい肌、しなやかな腰は少し官能的でもある。それでもどこかに猫が獲物を追う素早さと人の世のビジネスを感じさせる勢いがあり、耳はどんな情報も逃さないというしたたかさを持っているようだった。
吾輩は虎族の若者モリミズが思慕するこの女性をティラノサウルスホテルのレストランでもアンドロメダ銀河鉄道でも姿を見てはいたが、この時の印象はまた格別だった。初めてこの場で見る思いがして、なにやら恋の炎に焼かれる蝶の思いがするのだった。

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「え、惑星アサガオを取材するのかい。危ないからやめなさいとあれほど言ったのに」と虎族の若者モリミズは言った。
「それじや、又ね。どこかで会うかもね」
彼女には迎えの車が来ているのでした。

若者モリミズが我々を案内してくれました。駅を出ると、ひどい日射で我々は三人ともあわてて、バッグからサングラスを出してかけました。駅の前に大きな寒暖計があり、それは四十七度をさしていました。
湿度は低いのは助かるが、酷暑に加えて不快なのは何かもやっとした黄色みを帯びた悪臭を放つ空気の流れがあちこちに漂っていたのです。
「これは変な空気の流れですね。吸うと、気分が悪い」
「なるべく、この黄色い空気は吸わない方がいいです。地下街に行けば、もう少し空気がいいです。
ここのエネルギー源は石炭なのです。この石炭で冷房をしているのです」

馬車が来た。我々は中に乗り込み、外の風景を見ながら、町の感想を話していた。移動の手段は馬車と自転車のようだが、最近、ちらほら見かけるようになったのは石炭で動く車で後ろからもうもうと排気ガスを出す汚染は市民に評判が悪いようだった。
「ガソリンはないの」
「惑星アサガオは、石油がとれません。エネルギー源は石炭しかないのです。
おまけにこの暑さ。冷房に石炭を使うのです。
家の中は勿論、外は暑いし、摂氏五十五度を記録したこともあります。オゾン層が薄いので紫外線が強いし、皮膚ガンや白内障が多発しています。
今は外の暑さや紫外線を避けるために、町は温度の低くなる地下街に出来ているのですが、それでも快適な温度に保つには石炭のエネルギーで調節をしているのです。
ただ、困るのは、石炭の排気ガスは外に出しますから外気がさらに汚れることです。
この惑星の石炭の埋蔵量は膨大で、今のように使っても千年はもつだろうと言われています。しかし、問題はこの排気ガスなんです。」
若者モリミズは一息ついた。

馬車の窓の外は廃墟のような古びたビルの群れと馬車で殺風景だった。彼はまた話し続けた。
「庶民はこの地上の暑さと空気の悪さに、困り、重税をかけられ、熱中症だけでなく、色々な感染症の病気が多く、餓死者も出る始末です。
そして、最近では消費税を導入した。これが庶民の怒りをかっています。

それに、二酸化炭素が原因と言われているが、まだ原因不明の所のある惑星アサガオの温暖化が進むと、惑星の異常気象による大雨と干ばつなどで地上は住みにくくなり、さらに、氷河が解けて海の水面が上昇し、もうすでにいくつもの町が水没して、庶民の不安をかりたてているのです。

ウエスナ伯爵が考えているこの国の改良策は、大統領制による民主主義の確立は当然としても、海と湖と川は幸い、綺麗で魚も豊富ですから、あとはエネルギーを水から取るために、水素に変えるということで、天才アュ―ソン氏の研究成果を使えば、水素社会にすることが可能だというのです。
ところが、この天才アュ―ソン氏の家柄がネズミ族ということで、そういう下賤の生まれの意見に誇り高い熊族のロイ王朝は耳をかさない。表面上、研究に時間と金がかかりすぎるという理由をつけていましたが。重大なことは金を新兵器の開発と軍拡に使いたかったのが本音のようです。それでやむを得ず、ウエスナ伯爵の保護のもとで、天才アュ―ソン氏の研究も進められてきたわけで、これがロイ王朝とウエスナ伯爵の確執を生んだと言われています。」

吾輩は猫であるが、地球の人間、つまり天の川銀河では、ヒト族と言われている人達ももとはと言えば、あの恐竜時代にはネズミのような動物だったというではありませんか。
吾輩は猫族の次にヒト族に愛着を持っていたから、天才アュ―ソン氏を差別する熊族ロイ二十世に嫌悪の感情を持ちました。

ウエスナ伯爵の邸宅は地球のイメージからすると、変わったものでした。田舎は少しは空気がいい筈なのですが、ここまで多少の汚染空気が流れて来るせいと、紫外線とこの外の暑さから逃れるためでしょう。
この奇妙な邸宅のイメージを吾輩の身体で表現すると、猫の頭だけが地上に出て、顔の一部と胴体と足は土の下にあるという比喩が当たっているかもしれません。
邸宅の玄関とアューソン氏の水素研究室の入口が地上に並んでいる。そして、広い宝石トパーズの黄色い玄関を入ると、深い地下から冷房のきいた宮殿に通じる階段があったのです。宮殿と言っても、豪華な地下の涼しい部屋がいくつもあるということでしょうけど。

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庶民は川の魚と冷房に関連する若干の工場そして、近くに広大なトパーズの産地がありましたから、そういうものの産業に従事して、生きていたのですが、伯爵領に収める税金と王様に収める税金という二重の税金に苦しめられていたのです。
勿論、ウエスナ伯爵がここを世襲してから、この税金を全廃しました。これには、親族からの抗議だけでなく、王様からも叱責があったようですが、庶民は事実上の市民になれたわけで、ウエスナ伯爵に対する尊敬の念は高まっていました。

地下の宮殿の入口には、トパーズ色の宝石のように輝く巨大なドアがあり、そこから入ると、天井からはシャンデリアが輝き、美しい風景画がいくつも飾っている大広間に我々は通されました。

大きなテーブルがあり、その前の椅子に座り、我々は待ちました。
窓には、見事な薔薇などの花や銀河の模様の入った巨大なステンドグラスがあって、部屋の奥からはモーツアルトのセレナードのような音楽が流れているのでした。


「僕の家もここの伯爵家と同じ家柄だったのですけど、貴族を嫌い、その頃の宇宙移住計画で今住んでいる惑星に移り、平民として暮らしています。ですから、この伯爵家にも貴族を嫌う血が流れているのかもしれません。ウエスナ伯爵はそういう方です」と若者モリミズが言った。

「ロイ王朝は庶民に受け入れられていないとか」と吟遊詩人が言った。
「なにしろ。貧しい人々に重い税金をかけ、若者が住む家もなくネットカフェーにあふれ、そこから工場に働きに出るような政治をやっているのですから、庶民は怒りますよ。特に、消費税。魚はここの民の主食のようなものですから、これにまで消費税をかければ、豊富な魚まで、貧しい庶民は食べられなくなってしまう。その危機感がある」

ウエスナ伯爵が出て来た。虎族だけあって、吟遊詩人と同じくらいの背の高さで、貴族だけにふっくらした堂々たる体格、色つやも良く健康そのものという感じである。鼻の下の黄色い口ひげは濃く、大きな丸い目は穏やかである。
彼が席に着くと、同時に給仕のボーイがやってきて、テーブルの上に、ご馳走と飲み物をならべて行く。

「あの件はうまく行ったのですか」と若者モリミズが聞く。
「うん、一昨日、決行してうまく行った。彼を釈放させたのはちょっとしたトリックが必要だった。わしの伯爵の地位も利用した。」と伯爵は満足そうな顔つきで言った。「なにしろ、彼はわしの子供の頃見てもらったことのある鍼灸師でもあったからね。
わしの病気は癖のある病気で、、彼でなくてはなおせないとロイ王に説得したのだよ。
彼がもともと監獄に拘留されたのはヒト族だったことも関係している。熊族はヒト族に偏見を持っている。
それに、彼は優れた詩人でもある。ロイ王朝を揶揄する詩を十編ほど出したというだけのことさ。「ロイは空の空なるかな」という詩が一番、人気が高かったな。
彼は庶民にも人気の高い鍼灸師であったから、拘束された時は、皆、驚いたよ。
詩を書くのはこの国の文化だったのに、ロイ王朝は自分の悪口を書いた詩を許さないとしたわけでね、拘留が十五年にもなっていた。
しかし、わしはロイ王を説得したよ。
彼は十五年の牢獄生活でかなり、病弱な状態になっているので、もう詩は書けないと。
ともかく釈放され、今はここで休ませてある。彼は巌窟王だよ。最近は監獄の地図を書いているのさ。何しろ巨大な監獄だ。強盗などの犯罪人は周囲に、真ん中の方に三十人ほどの政治犯が入れられている。
革命の時には、監獄にいる我らの仲間の政治犯のみを解放しなければならないから、これが意外と難しい。普通の犯罪人は解放するわけにはいかない。
それにあの監獄は天下一品の堅固な造りだから、地図があればそういう人達を助けるのにも役に立つ」
「監獄の地図を知っているのですか」
「彼はね、何と独力で、あの監獄を脱出しようと地下に穴を掘り、廊下の方に出ているのだ。
しかし、監獄の周囲は深い堀に囲まれ、周囲には衛兵が常に番をしているし、土の所に出ると、獰猛な番犬がうろちょろしている。
堀には暑さに強いワニが沢山いる。それで、出られないと知ったあとは、夜中、眠っている兵士に気づかれないように、細かい地図をつくり、自分の監獄に戻ると、ラテン語で地図を言葉に変えて暗号化したのだという。それをブロントサウルス教の聖典に詩で書いていたのだそうだ。
看守には地球のラテン語なんて暗号みたいなものだからね。
今、それを元に、記憶と一緒にして監獄の正確な地図を書いている。」

我々はその巌窟王に会わせてもらった。

その時は、庭園の眺められるテーブルの上で、地図を書いているらしかった。横にブロントサウルス教の聖典があるらしく、時々、めくっていた。
我々が入ると、もう話は通じていたらしく、微笑した、確かに落ちくぼんだ眼額にきざまれた深い溝のような皺、長い老化した白髪。中肉中背の彼の体には老いと長年の疲労が刻まれていたことは一目で分かった。

「空の空なるかな。」
と巌窟王は弱々しい声で言った。
「お分かりかな。わしの前世は王族だった。わしは先頭にたって、戦い、勝ち、大きな城を気づき、ありとあらゆるぜいたくをした。しかし、これが何になろう。空しい。それだけだ。
そこで、この国に生まれ変わる時に、わしは人の身体を健康に導く鍼灸師になる決心をし、その通りになった。しかし、地球の有名な詩句からヒントを得て、ロイ王のことを書いた詩を書いただけで、監獄だ。娘との別れは辛かった。」

「地図はできましたか」と伯爵が聞いた。
「おお、もうすぐ完成だ。わしと同じ目に会った三十名の政治犯を釈放してやってくれ」 
「前世では王族 ? 」と吟遊詩人は巌窟王に聞いた。
「そうだよ。王様のどんな栄耀栄華も神仏の前には、空の空なるかなだよ。このことをロイ王も分かってくれたらな。ただ、それだけの詩を書いただけさ。

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伯爵と我々の食事に巌窟王も招かれた。
「地図はほぼ完成だな。あの監獄は堅固でね。まあ、わしも穴を八年かけて掘った時は、これで脱獄できるという喜びに躍り上ったものだ。しかし、毎晩のようにそこから、外に出る道を探したけれど、絶望的になった。外に出るのは不可能だったのだ。
それで仕方なく、監獄の地図を書くことにせいをだした。しかし、書く所がない。しかし、監獄には、熊族の民族宗教であるブロントサウルス教の聖典が一冊だけ置いてあるんだな。
そこに地図を書くわけにいかんから、看守の絶対に分からないラテン語で詩を書いた。その中に、監獄の地図の暗号を入れたのさ。

問題はペンだよ。これは看守にもらったよ。この看守は以前に、彼の胃が悪い時に随分面倒を見てやった。だから、わしにはよくしてくれた。ペンをくれたのだよ。勿論、他の看守に見つかるとヤバいから、普段はトイレの横に隠して置いたけれどね。」
「大変なご苦労がおありだった。その地図は今度の決起で、仲間を解放する時に役に立ちますよ」
「ところで、お嬢さんがカナリヤ国からこちらに来るのですよ」
「いつ」と巌窟王は驚きと喜びの二重の深い感情を皺だらけの頬ににじませた。
「数日以内ですね。なにしろ。海を渡らなければなりませんし、カナリヤ国からの馬車は厳しく検問されますから、すんなりというわけにはいかず、いくつかの宿を泊まってまいります。でも、ご安心下さい。一緒に警護するのは、あなたに仕えていた秘書のあの屈強な男、ソロですから。」
「おお、ソロ君か。わしが捕まった時は、兵士にくってかかった男だ。わしの信頼できる男だ」
「今はカナリヤ国で弁護士をしております」
食事はおいしいものだった。巌窟王の心をなぐさめようと、テーブルの真ん中には美しいランの花が豪勢に沢山咲いていた。
果物の入っている皿も、様々な料理の入っている見事な花模様の椀も上等なワインもこの愉快な晩餐会をもりたててくれるようであった。

巌窟王は寄って来ると、
「ハハハ、わしがロイ王に突きつけてやった詩はな、地球という惑星から仕入れてきたものなのだ。」
「ぜひ言ってみて下さい。知りたいものです」
「おお、君はヒト族ではないか」巌窟王は初めて気がついたように、吟遊詩人の肩に手を置いた。吾輩とハルリラは猫族と分かったせいか、巌窟王はただひたすら、詩人を見詰めていた。

「君は地球を思う詩人というではないか。君の詩を聞かしてくれないか。その後に、私の詩を聞いてもらおう」と巌窟王は言った。
吟遊詩人はうなずき、「それでは、銀河鉄道の中で作った私の詩を聞いてくれますか」と言った。

Poem

「胸の奥にありし花よ
震えるように、ふるえるように
君はあの緑のカフェーのある街角に咲いていた
そうだ、君は可憐な瞳で、風のように私を見る
何よりも深い湖のような青い瞳で

小鳥が胸にしみるように鳴く森に
青空は心にあらゆる感情を運んでくるではないか
悲しみも苦しみも
やがてくる歓喜の前の前触れではないか
何故なら、わが胸の中に住みたる花は
とてつもなく美しい透明さで、
昆虫のように、生き生きとして
高殿から見る緑の大平原のよう

おお、胸の奥にありし花よ
今はどこにおられる
今は宇宙の一点から無限の大空へと、
広がる生命の広がりとなって
満天の星となり
生き生きと輝く愛の灯となって
この街角にたたずむ私の全身をおおう

おお、胸の奥にありし花よ
私は今は蜜蜂となり
君は沢山の蜜を養う花となり、
私は君の愛の蜜を口にする

おお、そのとろけるような味は
どこかの街角の洒落たカフェーの茶菓子にもまさる
そこから、見るどんな優しい風景よりも
たとえ、宮殿のようでも
たとえ 古い住宅の路地裏のようでも
神社や寺院も包み込むような風景でも
君の蜂蜜の味はまさる

どこからか聞こえてくる太鼓の音
祭りの最中のような生き生きとした叫びが
私の胸に今はおさまった花に
静かな喜びを与えている

花を見詰めている青年がいる
核兵器があるために、この花が消えさる日が来ることを危惧する
彼は立ち上がり、
森の中に入り、巨大な風鈴をつくり
それを鳴らし、世界に告げた。
全世界から、核兵器をなくせ

さすれば、胸の中の花の苦しみがやむだろう

街角にミサイルが飛び交うこと自体が異常で
いのちこそ いのちこそ 尊いという花の旋律を
人類は忘れてしまい
武器の開発ばかり、夢中になっている

おお、胸の奥にありし花よ
わが悲しみも苦しみも終わる時が来る
それは平和が一番
高らかに喜びの鐘が鳴り
森に風鈴は鳴る  
小鳥はさえずり、澄んだ小川は生きる歓喜を歌い上げている」


胸の奥にありし花


(私の書いた詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[胸の奥にありし花]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )



「分かりますか」と吟遊詩人が言った。
「分かる。分かる。このアンドロメダ銀河では、ヒト族は少数民族だ。地球の知識はあまりないが、君の今の詩を聞いても、人は苦界に沒在している存在であることがよくわかる」
ワインをカップ三杯ほど一気に飲むと、微笑した。「これを飲むと、生気が生まれるのだよ。なにしろ、地下の監獄に十五年もいた。ごつごつとした岩に囲まれた不潔な狭い部屋にそんなに長い事、孤独にいると、声も出しにくくなる。しかし、このワイン三杯で回復する。不思議なものだ。記憶力もね、鮮明に覚えている所と、抜け落ちる所がある。まあ、まだらな記憶というわけだ」
「今のご気分は」

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「まあ、監獄から出てきた後では、最高だね。なにしろ、ここには地球の詩人がいる」
又、一杯、ごくりと飲むと、「始めるか」と言った。
「空の空、空の空、いっさいは空である
日の下で人が労するすべての労苦はその身になんの益があるか
世は去り、世はきたる。
しかし地は永遠に変わらない。
日はいで、日は没し
その出た所に急ぎ行く
風は南に吹き、また転じて、北に向かい
めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る」

巌窟王は一息ついてから、また朗読し始めた。
「わたしの前世では魔界のメフィストの甘い誘惑の言葉に動かされ
強い権力と富を得て、王となった。華やかな宮殿、美しい女、色とりどりの花園、ブドウ畑、様々な樹木を生い茂らせ、水を注いだ。
わたしは金とダイヤモンド、エメラルド、そうしたあらゆる宝石が瑠璃色の大地のあちこちから、顔を出し、四方から、美しい滝が落ちるようなミニ自然をつくった。そして、牛と羊を飼い
わたしは多くの働き手を得て、わたしの思うように動かし、わたしも働き、その労苦によって富は富を生んで、宮殿の町はさらに、華麗になった。しかし、気がついた時は、
宮殿の外の村は荒れはて、多くの人が重い税に苦しみ、病気になり、住宅が壊れ、人は路頭に迷い、あちこちで人が倒れ、宮殿の町の中に入ろうとする人々を衛兵がこばんでいた。
わたしはそれを知り、今までの労苦の空しさを知った。
悪魔メフィストのあざ笑う笑い声が聞こえるようだった。一切は空であると。」

最初は地下から響くような声が、話す内に高揚し、生命力が附加し、まるで無から銀河が誕生する宇宙の物語のように、彼の詩句に富んだ声はしだいに生き生きとなり、「皆、空であって、すべて風をとらえるようなものである」と急に奈落に落ちるような響きで、我々を見回した。

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吟遊詩人と伯爵が拍手した。
「その空は魔法界でも聞いたことがある」とハルリラが言った。
「仏教の『空』とはまるで違うよね」と吟遊詩人は言った。
「どういう風に」と吾輩、寅坊は聞いた。
「説明すると長くなるな。ともかく、まるで違う」と詩人は笑った。
「王の栄耀栄華の空しさは風をとらえるようなものであることを、わしの詩で知らせたかった」と巌窟王は言った。
「仏教の『空』はもっと生命の肯定的な面があるよ。あの詩句の『空』は空しいという風な感じがある。キリストの『野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。
しかし、言っておく。栄華を極めたソロモン王でさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった』という教えにも似通っている。「空」は栄華とぜいたくの空しさを言っていると思う。つまり、ソロモン王のどんなに華やかで贅沢な暮らしも野に咲く一輪の百合の花の美しさにかなわないというようなところかな」と吟遊詩人が言った。
「その通り。わしはこういう風に、熊族のロイ王朝のロイ二十世に、庶民が苦しい思いをしている中での王の栄華の空しさを詩句で突きつけてやったのだ。地球の日本にあると聞く、戦争は絶対にしてはいけないという素晴らしい日本国憲法を取り入れて、カント九条として平和主義と国民主権と基本的人権を守るような国づくりをするように提言したつもりだったが、受け入れられなかった。しかし、ウエスナ伯爵がいずれ、立ち上がり、そういう国をつくってくれるだろう」と巌窟王は笑った。
巌窟王は「ところで、こちらの皆さんはアンドロメダ銀河鉄道で知り合った仲間と聞いているが」
若者モリミズがヒョウ族の若者にナイフをふりかざされたいきさつを手短に説明した。
「そうですか。それは助かりました。」と伯爵が言った。「怪我でもされたら、スピノザの講師を失うところでした。虎族のティラノサウルス教も熊族のブロントサウルス教も私は気にいりませんし、庶民もそうです。どちらも強者のための宗教ですからね。
親鸞の教えはこちらでは、かすかに耳に届く程度で、取り敢えず庶民が力を得るような宗教哲学が必要なのです。」
「庶民には民族宗教みたいなものはないのですか」
「ありますよ。でも、一番の欠点は、権力には従えというのが長い習俗として残っていますから、これでは熊族 ロイ王朝を倒せないのです」
                  

【つづく】




( 久里山不識    里山不識 )
1 創作の喜びというのは独特のものです。でも、以前から申し上げている胃の具合の悪さ、82才という年令から来る体調の悪さ、不眠などが重なっているので、ここでしばらく休憩にします。 少し長い休憩になると思います。十一月末ぐらいまでに体調を整え、再出発できればと思っています。


2 【物語の参考】
A 記憶の不確かな巌窟王が歌いあげた彼独自の詩句ですが、その土台となったのは旧約聖書の「伝道の書」です。
【「空の空、空の空、いっさいは空である
日の下で人が労するすべての労苦はその身になんの益があるか
世は去り、世はきたる。
しかし地は永遠に変わらない。
日はいで、日は没し
その出た所に急ぎ行く
風は南に吹き、また転じて、北に向かい
めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る   】
ここまでは伝道の書の文章を引用しています。欧米人やキリスト教徒なら、たいてい知っていると思われる人生を深く見た詩文です。人の世は空しいから、神の言葉を聞けということでしょうか。
そのあとの長い詩文は、巌窟王が前世に王族であったことをふまえ、目の前で統治しているロイ王をいさめる詩句をつくったものですから、巌窟王の独自の詩句となります。

B 巌窟王の「ヒトは苦界に沒在している」という言葉は 法華経の如来受領品の「衆生を見れば 苦海に沒在せり かるがゆえに為に身を現ぜずして それをして渇仰を生ぜしむ 」のお言葉を借りました。今、「苦界に沒在せり」というような言い方は見られないので、ご紹介しました。私の尊敬する道元は、座禅だけでなく、法華経を重要視したことで有名です。

C この物語には強い恐竜の名からとったティラノサウルス教や熊族ロイ王朝など、強さを武器にして、庶民を苦しめる存在が登場しますね。これは今の世界情勢とも符合しますね。道元の尊重する法華経では 「如来の室とは 一切衆生の中の大慈悲心これなり。如来の衣とは柔和忍辱の心これなり。如来の座とは 一切法空これなり。」と書かれています。大慈悲心の大切さを教えていますね。こういう世界観が今の世界に必要なのではないでしょうか。キリスト教では パウロが同じようなことを言っています。

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レモンの歌(銀河アンドロメダ物語 11 )

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 それから、さらに夜になると、寝台車に行くものもいる。我々三人は若いので、やわらかな絹のようなソファーの自分の席で、そのまま寝る。それでも、吾輩、寅坊はまだあまり眠くない。時々、目をつむったり開けたり、あたりの様子をうかがう。目をつむると、やわらかな緑の柳が清流にかかり、岸辺には花が咲いている。吾輩には眠る前に、時々、こうした幻影が現れることがあり、これが楽しみなのである。

物音で、目をあけると、今までに、そのあたりにいた沢山の乗客はすっかりいなくなり、いるのは我々三人とライオン族のおまわりさんとヒョウ族の若者と虎族の若者モリミズと猫族の娘ナナリアだけになった。
鼻歌が聞こえて来る。かすかな声だが、どうもおまわりさんの鼻歌のようだ。


レモンよ


(私の書いた詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[レモンよ]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )


Poem
( レモンよ! 君の瞳に愛と死を見る奥の深さ、おお、やわらかな黄色の毛を身体にまきつけて、僕の日記に嵐を吹き起こす
熱情の恋人よ。涙の嵐に吹き荒れる緑の風景、おお、夜はそこまで訪れた。海の衣ずれの音と共に、やさしくふりかかる君の黄金の髪、おお、そして神秘に光る町の灯のような君の瞳、僕は大森林の芝生の上で君とたわむれ、笑う。これこそ、人生。
永遠のやさしい月夜の晩に僕はレモンに魅入り、愛の深まりの中で夢を見る、おお、美しい夜よ 運命のいのちの呼吸よ。
君のいのちは 春の風のように優しく 、ああ、街角の灯、らんらんと輝くいのちの輝き、僕は君の瞳に映った町を描こう 不思議ないのちに満ちた町だ、月明かりに、町の子供たちの美しい笑い声、やわらかなヴァイオリンのせせらぎに耳に傾け、不思議な思いに悩まされ、外の風景を見る。ああ、何と神秘に満ちた風景。僕の庭園に優しい衣ずれの音をたてて静かにやってくる不生不滅のいのち。君の瞳の美しくも怪しい月夜の風景、おお、やわらかな金色の美しい毛を身体にまきつけて、森の日記に、そのノートの白い紙の上に嵐を吹き起こす、やさしくふりかかる君の黄金の髪、おお、虎の一族  レモンよ
)



レモンよ! 君の瞳に愛と死を見る奥の深さ
おお、やわらかな黄色の毛を身体にまきつけて
僕の日記に嵐を吹き起こす
熱情の恋人よ。涙の嵐に吹き荒れる緑の風景

おお、夜はそこまで訪れた。海の衣ずれの音と共に
やさしくふりかかる君の黄金の髪
おお、そして神秘に光る町の灯のような君の瞳
僕は大森林の芝生の上で君とたわむれ、笑う。
これこそ、人生。

永遠のやさしい月夜の晩に僕はレモンに魅入り
愛の深まりの中で夢を見る


2 lady顔

ライオン族のおまわりさんの声はそこで急に小さくなり、聞こえなくなってしまった。
吟遊詩人が微笑して、「レモンで思い出したが、僕にはこの有名な詩が好きだな」
彼の声も珍しく小さかった。
おまわりさんに遠慮したのだろうか。

「そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白く明るい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズ色の香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ」

詩人川霧さんはふとそこでやめた。おまわりさんの声が再び聞こえたからだろう。何て言っているのだが、はっきり聞き取れない。
「月夜の砂漠の中に彷徨う隊商のように」だけがやっと聞こえた。
ちょっと見ると、ライオン族のおまわりさんの目に涙が光って、鼻水が流れるような感じがあった。

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吾輩の耳は猫の耳であるから、聞こえは抜群にいいが、二人の詩の最後まで聞こえなかったのは残念だった。吾輩の胸にも響く吟遊詩人の詩は、高村光太郎の「レモン哀歌」である。おまわりさんの方は分からない。何で逞しいライオン族のおまわりさんがその詩を歌い、かすかな涙を光らせていたのかは勿論、分からない。ただ、人間というのはどんなに強そうに見える人でもそうした一片の悲しみの詩をかかえていることがあるのだろうと、吾輩は思った。
それでも、吾輩は何か素敵なものを見たような気がしてしばらくぼんやりしていると、すると、ライオン族のお巡りさんの鼾が聞こえて来た。

そのすきをついたのか、ヒョウ族の若者が猫族の娘の所に行き、
「ねえ、付き合ってくれよ」とねこなで声で言う。
「ここで、お話するくらいならいいわよ。でもあたし、ティラノサウルス教って苦手なの」
虎族の若者が来て、「おい、あまりしつこくするなよ。悪いだろ」
「なんだと。お前が出るまくか」
「それに彼女のブログは匿名なんだぜ。何でそれを虎族の小母さん達に喋っちゃうのさ。悪いと思わないのかい」
「うるせえな。ティラノサウルス教よりスピノザ協会の方がいいって書いてあるから、虎族の小母さんの心の栄養にいいと思っただけだよ」
「君はティラノサウルス教なんだろ」
「そうだよ。しかし、あれはヒットリーラが一時心酔した強者の哲学だからね。もう少し、弱い人の立場に立った慈悲の心があった方がいいと思っているよ」
「なるほど。そこまで分かっているなら、彼女の邪魔をするべきではなかったな」
「何だと。貴様」
ヒョウ族の若者はナイフを振り上げる。
「腕力じゃ、僕に負けるからって、ナイフを出すとは。彼女がおまわりさんを呼ぶわけだよ。ところで、おまわりさんは寝ているな」

ここでハルリラが立ち上がり、素早くヒョウ族の若者が持っているナイフを取り上げる。ハルリラの動作の敏捷さに驚いた。
「やめたまえ」
ヒョウ族の若者もこの猫族の女の子ナナリアが好きだったのだろうが、彼の恋慕の情の嵐は理性の壁を破ってしまったと思える。以前から、虎族の若者とヒョウ族の若者でこの恋人ナナリアの取り合いがあり、一編の恋愛確執の物語があったのだろう。吾輩、寅坊はそういうことに興味がないでもなかったが、その時はただ、状況をはらはらして見ているばかりだった。

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「おまわりさん」と猫族の女の子が声を上げた。おまわりさんは驚いたように目を覚まして、ラグビーの選手のように物凄い勢いで「逮捕だ」と雄叫びをあげながら飛んで来て、ヒョウ族の若者の手首をつかんだ。なるほど、先祖がライオンだけある、居眠りからダッシュまでの変わり身の物凄い敏捷さには百獣の王の血が流れているようだと、猫である吾輩は思った。
こうして、ライオン族のおまわりさんは男を逮捕すると、別の車両に連れて行ってしまった。

「ここにすわりませんか。モリミズさん」と吟遊詩人が言った。
虎族の若者モリミズは「ええ、ありがとうございます」と言って、「綺麗ですね」と窓の外を指さした。
何時の間に、月は窓わくから見えなくなり、代わりに、見えたのは、青白く光る銀河の岸に、銀色の空を背景にした色とりどりの薔薇の花が、もうまるで一面、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。

アンドロメダ銀河鉄道の先の方で多くの鳥達が飛びたったようなのです。
天空に舞い上がる極楽鳥のような色とりどりの小柄な鳥の本当の名前は分かりませんが、熱帯にいる赤いインコ、青いインコ、黄色いインコのような不思議な美しさを持っています。
それがピアノの音のような美しい音を大空全体に響かせて、それから舞い上がり、キラキラ光る星を飾るさまは、まるで江戸の隅田川の空に上がった花火のようです。
確かに、周囲の下の方は何か水晶のような美しい水が流れているのかもしれないと、吾輩は思ったのです。
たえず、ピアノ・ソナタのような、美しい響きがまるでそれが列車の音であるかのように聞こえるのでした。何という美しい音楽だろうと、吾輩は思わず思ったものです。
虎族の若者は満足そうに、吾輩と吟遊詩人とハルリラのそばに、空いている一か所にゆったりと座りました。


「すごいね。さすがにハルリラさんは武士だね」と吾輩は言った。
「おまわりさん居眠りしていたから、心配してずっと見ていたんだよ。娘さんが危ないと思ってね」とハルリラが言った。
「助かりました。僕も空手二段の腕前があるのですけれど、ナイフを出されると、やはりこちらも相当怪我をする覚悟がいりますからね。それにしてもライオン族のおまわりさんは呑気ですね。それに比べあなたの敏捷なこと」と虎族の若者モリミズが言った。
「相手がナイフを持っていましたから、ちょつと気を使いました。でも、刀を使う相手とは思いませんでした。そんなことをしたら、武士として失格ですからね」とハルリラは言った。
ちょつとした沈黙があった。
「どちらへ行かれるのですか」とモリミズが吟遊詩人の方に声をかけた。
「この次は、惑星アサガオでおりようと思っているのですよ」と吟遊詩人は答えた。

                  
「ああ、あそこですか。僕もそうですよ。ご案内しましようか。」とモリミズは言った。
「君には、ナナリアさん【猫族の女の子】がいるのではないですか」と吟遊詩人は微笑した。
「あの子は惑星アサガオではおりないと思いますよ。なにしろ、あそこは今、革命の動乱期ですからね。僕が危険だから、この惑星は飛ばして、次の惑星で降りるように説得しました。
惑星アサガオは熊族の王朝が長く続き、ロイ二十世という王様が専制的に支配しているのですが、これがまた税金問題で国民を苦しませていましてね、国民はあの消費税には我慢がならないと色々不穏な動きがあるのですよ」
「それで、虎族の君がそんな所に行って、何か目的でも」
「ええ、惑星アサガオの民衆には、鹿族が多いのですが、これが貧しくてね。明日のパンさえ、手に入らない、中には餓死者が出るあの国の首都のお城では、お姫様が『パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃないの』と言いながら、王様は消費税を十パーセントに引き上げるなんて、ひどいことを言っているんですよ。
貴族の中には虎族やライオン族がいましてね、僕の遠い親戚の虎族の伯爵から僕は呼ばれているのですよ。彼は貴族でありながら、この熊族のロイ王朝の政治のやり方に反発していましてね。ウエスナ伯爵というのですが、彼はインターネットで地球のスピノザを勉強していたものですから、僕がスピノザ協会に入ったと言ったら、喜んで僕を招待してくれたわけです」
「熊族の王朝にまで、やはりテイラノサウルス教があるのですか」とハルリラがモリミズに聞いた。
「や、あれは伝統的に虎族の宗教ですから、ロイ王朝は熊族ですからね、ブロントサウルス教でしょう」
「それはどんな考えのものなんですか」と吟遊詩人が聞いた。

「あれは草食系のせいでしょうかね、なにしろ、紙が好きなんですな。お札をどんどんすって、インフレにして、消費税などの税金を増やして、貧しい庶民を困らし、富んだ貴族や大金持ちや富裕な商人からは税金をとらないのですよ。おまけに、貧しい庶民にまわす福祉の金は、軍事力を誇示する戦車をつくる金に化けてしまうというわけです」
その時、向こうから、猫族の女の子ナナリアの声が聞こえた。モリミズを呼ぶ声だ。
「それじゃ又。惑星アサガオに降りる間際にご案内します」と言って、モリミズは離れた。

吾輩はしばらく寝た。詩人もハルリラも寝たのだろう。

ふと吾輩が目を覚ました時は、ハルリラの寝息が聞こえるくらいあたりは静かでした。アンドロメダ銀河鉄道はどのあたりに来ていたのでしょうか。星の輝く中に黒い森のようなものが続くかと思えば、その横を見えないアンドロメダ銀河の川が音もなく、トコロテンのようにやわらかく、もっと透明な流れとなっているようで、不思議な大きないのちの水があらゆる星屑とすれ違いながら、その時出すみかん色の美しい光はたとえようもないものでした。

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時々、なにやら吹く野原の風のような音がまるで弦楽器の響きのように、聞こえては消えていきます。

「ああ、この次の惑星アサガオは波乱の舞台のような感じもする」と吾輩はロイ王朝のウエスナ伯爵がどんな人か想像しながら、そんな独り言を言うのでした。
大きな向日葵や柳の木のようなものがまるで並木道のようにえんえんと続くではありませんか。向日葵、菜の花、柳のようなものが星のように輝き、
向こうにトパーズという宝石のような黄色みがかった惑星アサガオがゴムまりほどに見えてきました。
吾輩は殆ど歓喜の声をあげました。なにしろ、地球の京都では、あの主人の銀行員が我輩にゴムまりをなげつけて、吾輩がごむまりにじゃれるのを子供のように、喜び、腹をかかえて笑ったのを思い出したものですから。あれでは、どちらが猫か分かりませんね。

どちらにしても、今の吾輩はどういうわけか、猫族の人間として、服まで来て、さっそうとアンドロメダ銀河の旅を続けているのです。
これほど、生きる喜びを感じる時はありません。
それにしても、ハルリラは静かな武士です。顔も優しい感じがしますが、腕はかなり太いです。筋骨隆々としたエネルギシュな肉体が服の中に隠されていることがなんとなく感じられる外見です。
吾輩はつくづくハルリラの顔を見ると、どうしても仏像広目天を思い出してしまうのです。

「銀河がこんなに美しいのは目に見えない何かを隠しているからだ」と思いました。「何だろう。それは。」
どこからか、銀河のはての丘陵から何かの旋律が聞えてくるようでした。
「そうだ。いのちだ。目に見えないいのちを銀河は持っている。」

ふと、気がついた時はもうゴムまりではなく、バレーボールほどの大きさに惑星はなっていて、相変わらず、トパーズのような少し黄色みがかった巨大な宝石のように思えたものでした。
「銀河は目に見えないいのちを持っている。だから、こんなに美しいのだよ」
と吾輩、寅坊は虎族の若者の目を見ながら、そう言った。
そう言って、吾輩はこんな風に言ったのは、映画を見たあとの吟遊詩人のいのちの講釈が我輩の無意識の海の中に入っていて、それが噴水のように言葉となったのだなと思った。
なにしろ、自然は神の現われだとスピノザは言っていた筈だと虎族の若者は言っていた。

何時の間に、吟遊詩人もすっかり寝て、気持ちよく目を覚ましたと見え、すがすがしい目をして、吾輩に向かって言った。
「僕はここに杜甫の詩集を持っている。」と吟遊詩人はややふるぼけた小型の薄い本を見せた。「それから、この首にかけているヘッドホーンを耳の方にあてると、僕の好きなバッハやベートーベンが聞こえてくる」と言って、微笑した。
吾輩は、吟遊詩人はいのちの話をするのだなと直感した。
「杜甫の詩を読んで、そこに展開する千年前の不思議な絵巻物のような光景を頭に浮かべて感動する時、そこにいのちを感ずる」
「それに」と吟遊詩人はヘッドホーンをなでながら、「これは素晴らしい。最近はベートーベンをよく聞くんだが、そこに宇宙のいのちを感ずる。芸術は知識でもない、技術でもない、ただ素直に聞き、感動することさ。ロダンは感動こそ、芸術のいのちというが、こういう素晴らしい音楽を聞いて、感動した時もそこにいのちの躍動を感じる。これは絵でも詩でも同じこと」
吾輩は吟遊詩人が映画の感想を言った時と、似たことを言っていると思った。あの時には、虎族の若者モリミズがその席にはいなかった。
吟遊詩人は吾輩の心を読んだのか、優しい目を吾輩に向けて、微笑して、さらに話した。
「寅坊君が言うように、銀河は目に見えないいのちを持っている。だから、こんなに美しい。その通りさ。勿論、銀河のような巨大な宇宙ばかりでなく、可憐な花を見ても風に揺れる植物を見ても、いのちを感ずる。いのちというのは形がない、目に見えない、しかし、我々の肉体が単なる物質の集合体でないと我々が知っていて、「いのちがある」と誰でも言うように、いのちというのは、感ずる心がある人には、いたる所に、いのちがある。
僕はトラカーム一家で過ごしていた時、何冊かの歴史の本を読んだが、その中でも「安土桃山時代」と「明治維新」は面白かった。貧しい百姓の出から、信長に仕え、天下をとり、その豊臣の天下も結局、徳川に譲らざるを得なかった歴史の動きは実に面白い。
明治維新も同じ。下級武士たちが動きだし、やがて、長く続いた徳川政権を倒す、このあたりの人々の動きを見ていると、そこに不思議なドラマ、つまり、歴史物語といういのちを感ずる。
いのちはいたる所に感ずることが出来る。
星の輝き、空気の心地よさ、風の梢を揺らす音、小鳥の声いたる所にいのちを感ずることが出来、そして、いのちをささえているのは愛であり、大慈悲心である。これを不生不滅の霊性と言っても良い。そういう風に、いのちというのは不思議なものだよ。」
吟遊詩人は歌を歌った。

Poem
遠い星の町に向かって出発しよう
銀河の小さな窓から眺める
星空の中に
乙女のような慈悲の瞳が輝いている
小川のように美しい髪が星空を舞台に揺れている

おお、遠い星の町には
古びた家の並ぶ花に満ちた路地がある

ああ、何という人間の深みに達した町だ
そこには風鈴のような音色が響き
悲しみと愛と静けさをささやくように響かせる
全てを忘れた愛と悲しみの世界

小鳥がさえずる
不思議ないのちの歌声が聞こえてくるようだ
愛といのちの神秘を語るような
そのささやくような歌声

星空の町には深い心の町がある
おお、愛と喜びの歌を歌おうではないか

仏性の中に溶けていく
静かに消えていくのだ。

遠い星の町で



(私の詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[遠い星の町で]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )
                


    【つづく】


(久里山不識    里山不識 )
物語の中での「レモンよ」という私の書いた詩はAIによって、音楽にしてもらいました。高村光太郎の詩は音楽にする必要がないほど、完璧であると思われます。この「智恵子抄」の詩は 私の大学受験勉強の時のラジオ番組で、国語を担当していた先生が朗読した時に初めて知って、感動しました。その後、十三倍の倍率の試験に合格し、肝心の法律の勉強よりも、世界文学の広大な旅に出るきっかけとなったのです。
スタンダールやドストエフキーを読みながら、柔道もやる青春の幕開けでも、あったのです。ああ、あれから、六十年経ってしまったのですね。
月並みな言い方で恐縮ですが、夢のようです、下記に光太郎の「レモン哀歌」を掲載しておきます。



【参考】 高村光太郎      レモン哀歌 全文

そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白く明るい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズ色の香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智慧子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それから山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
涼しく光るレモンを今日も置こう」










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窓の月 (銀河アンドロメダ物語 10  )

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アンドロメダ銀河では、たくさんの星が蛍の群のようにゆらめき、流れていく中で、日光菩薩、月光菩薩が美しい幻のように舞い、きらびやかにそして慈悲に満ちた光を放っている。どこからか、ハレルヤの歌も聞こえてきた。ハレルヤ。ハレルヤ。猫である吾輩は ハレルヤという言葉を聞いた途端、よく京都で吾輩の主人の銀行員が好きだったヘンデルの曲を思い出した。でも、アンドロメダ銀河で聞いた曲はヘンデルの「ハレルヤ」にどこか共通のものを感じはするが、歌詞はまるで違うものだった。
皆、しばらく呆然と、窓の満点の星に気をとられているようでした。


Poem 
ハレルヤ
星の光あふれる蝶の舞いよ、あなたは宇宙の舞踏
宇宙にあふれるいのちの舞い
月の光あふれる小鳥の舞いよ、あなたは大きないのちの流れ
ハレルヤ

ハレルヤ
その大きないのちを何と呼ぼう
父とも母とも違う、昔の人は神と呼んだ
東洋の人は仏と呼んだ

目の前に花園が広がった。幻だろうか。
深紅の薔薇園から、紫陽花のような青い花
様々な色の花が流れるように見える。

2薔薇 028赤

ハレルヤ
百合を名前で見ている人は百合の真実を見ていない
薔薇を名前で見ている人は薔薇の真実を見ていない
脳から見た世界は美しい複雑系の模様のようだ
それでは宇宙の崇高ないのちを何と呼ぼう

ハレルヤ 
今のヒトは宇宙の真実に名をつけたいと思う
名前がない、これが人の病を深くする
しかし、名前があっても、それが真実のいのちを見失わせる
名前で争うからだ。
悲しみ、苦しみ、
そして、脳から見た世界は争いに満ちている

ハレルヤ ハレルヤ
何と呼んだらよいのだ。
ヒトは争わないで、平和をつくるために
いのちの宝をヒトは何と呼ぼう
ハレルヤ

ハレルヤ
自我を忘れる時
見えて来る光
それは今、ここに存在する
名前のない形のない目に見えない宇宙生命は今、ここに生きている
ハレルヤ  ハレルヤ

ヒトは何かで争っている
煩悩の悲しさ
我らは仏性という兄弟なのだ
ハレルヤ  ハレルヤ
ただ息をして、心を慈悲で満たして祈れ
そしていのちに感謝して、深く祈れ
ハレルヤ  ハレルヤ

名前のない生命 (3)




名前のない生命



(詩「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[名前のない生命]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )



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ハレルヤが終わり、急にシーンとなり、「君は心の綺麗な人だ。珍しい人だよ」と虎族の若者の声が吾輩の耳に聞こえた。
猫族の娘ナナリアはわけもなく頷いた。
「心が綺麗と言われても、何も考えていません。ただ、ハレルヤがとても良かったので」とナナリアは答えた。
「だから綺麗なのさ。普通の人は何か考えている。僕は君を見た時から、本能的に惹きつけられていた。無心なの」
「無心って」
「つまり、自分の頭であれこれ思うじゃない。蝶の舞いや、ハレルヤ・コーラスのような歌を聞いて何か考えることがあるじゃない。故郷のことを思い出したり、あれこれ思ったり」
「蝶の舞い。ハレルヤ・コーラスのような歌。そうですね。美しいですね。そういう風景に淡い光が射しているような意識だけあって、そこに「あたし」という自我が消えて、いなくなった気がしたことがあったみたい」
「なるほど、やはり、君は珍しい人だ」
吾輩はこの会話も気になっていたし、虎族の若者の動きも気になった。

窓の外の見える風景の範囲に、急に満点の星空一杯という風になると、虎族の若者が目を覚ましたように立ち上がった。

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若者は、虎族の奥様「チロ」さんの後ろを回って、我々の方に歩いて来て、「座ってよろしいですか」と聞いた。
「どうぞ」とハルリラが言った。ハルリラの隣に若者が座ったので、必然的に彼は吾輩の正面にいることになる。吾輩の隣の吟遊詩人はヘッドホーンをはずし、首にかけ、銀河鉄道の窓の外を眺めている。


虎族の若者はハルリラに向かって「虎族の小母さんから、逃れるには、
ここがいいね。ところで、君は聞こえて来る歌声のような人だね」と言った。
「俺? 」とハルリラは目を丸くした。ハルリラは驚いたのだろう。
若者がナナリアのような妖精に言う言葉なら、理解できるが、若者のハルリラのような武人に対する礼儀の奇妙さに、吾輩、寅坊は目を丸くしたのだ。ただ、あとで知ったことだが、虎族の青年が好意を持った初対面の刀を持った武人に、こういう挨拶が見られるのはその頃の習慣だったらしい。
「ところで、君さ」と明らかに、吾輩の目を見て言った。
「吾輩 ?」と答えた。
「そうだよ。君と彼女は同じ猫族じゃないかい。耳がいいから、あの話、聞こえたろう、どう思う」
「あの話」
「彼女は匿名でブログに流している。本当に親しい人、数人しか知らない筈だ。
それが今はこの銀河鉄道の皆にナナリアさんのブログが知られている。
こんなことは普通起きないよね」
と虎族の若者は言って、しばらく目をつむって、今度は目を大きく見開き、思い切ったように、「ヒョウ族の若者はどうして知ったのだろう。無理に聞いたんじゃないかな」

「どうかしら」といつの間に、虎族の奥様「チロ」さんは我々の前に突っ立っていた。
虎族の若者はそれを無視したように言った。
「僕にすら、彼女は教えていないんだぜ。僕はたとえ、知ったとしても、そんなことをあちこち人に喋らない程度の礼節は心得ている。そんなことをやるから、ヒョウ族の奴はきらわれるんだよ。ライオン族のおまわりさんだって、僕のために来たなんて思われると迷惑な話で、ヒョウ族の若者のために来ているんだよ。
僕はストーカーなんてしないからね。あいつはそういう陰険なことをやるから、ストーカーだなんて思われて、あの猫族の女の子がおまわりさんに頼むことになるのよ」
「そうかもね」とチロさんは言った。

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相変わらず、ピンクのカーディガンを着たチロさんは立ったまま、座っている虎族の若者に声をかける。彼はがっちりした体格で黄色い口髭をはやして、つぶらな瞳をキラキラさせていた。
「あなたは何でティラノサウルス教に入らないの。ヒョウ族の子が入っているというのに」
「それはティラノサウルス教がよくないと思うからさ。スピノザの方がいい」
「親念はどうなの」
「親念。ああ、大統領演説で名前を知ったくらいだ」
「ティラノサウルス教には、虎族の三分の一がこのグループに入っているのよ。良い教えに決まっているじゃないの。あなたは虎族なんでしょ」
「虎族だって、ヒョウ族だって、猫族だって、同じヒトさ。ヒトは自由な意思で、自由に自分の考えをつくることが出来る。それに、君達も大統領演説を聞いただろう。ティラノサウルス教は間違った教えだったから、ヒットリーラはああいう演説をしたのじゃないか。猫族を差別するなんていうのは真理に反するよ。真理には全ての人に対する愛がないとね。大慈悲心ともいうね。
だから、長時間労働をなくし、大きな経済格差をなくしていこう、差別と中傷をなくそう、自由と平和と福祉を大切にしよう、それから世界の軍縮を進めるためにも、カント九条を世界に広げて行こうというスピノザ主義の考えに共感するのさ」と言って、彼は立ち上がった。
虎族の若者はチロさんをやり過ごし、吾輩の前の方の入口に近い所に座っている美しく可憐なナナリアに、近づいた。さすがに、チロさんはそのまま自分の席に戻り、むっつりしていた。

吾輩は耳をすました。猫の聴力は地球のヒトの三倍あるとはよく知られたことだが、こういう時には役に立つ。そういう風に、聴力にはひどく自信があるので、彼らの話も興味があるので、耳をすまして、無理に聞いてしまった。
時々、ハルリラが「何 聞いているのさ」と聞くと、吾輩は「しいっ」と指を口にあて、「あとで教える」と黙らしてしまう。
吟遊詩人はヘッドホーンで何かを聞きながら、窓の外の星空を眺めている。

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「ここに座っていいかい。虎族の小母さんがうるさくて」と虎族の若者モリミズ君。
「いいわよ。でも長くいると疑われるわよ」とナナリア。
「誰に」
「ライオン族のおまわりさん。トイレに行ったんじやないの」
「ライオン族のおまわりさんはヒョウ族の若者を見張っているんだろ。君はヒョウ族の若者に自分のブログを喋ったのかい」
「あら、喋ってないわよ」
「そうだろうな。僕に知らせないくらいだから」
「あなたなら、教えてあげてもいいわよ」
「それはありがたいが、君のブログは虎族の小母さんにもれて、このアンドロメダの列車の多くの人は知っているぜ」
「どうして、あたし、喋ってないのに」
「ヒョウ族の若者が君のことを徹底的に調べ上げたのだよ。勿論、ブログも隅から隅まで、調べたんだと思う」
「そんなことで分かるの」
「君と少し、趣味の会話などしているだろ。それを手かがりに調べ上げるのさ」
「恐ろしい人ね」
虎族の若者モリミズは「僕は」と言って黙った。
「分かっているわよ。おまわりさんは、あのヒョウ族の若者がストーカー行為するから来ているのよ。自宅にいた時にも、押しかけてきたりしたんだもの」
「何でそんな奴と知り合ったのだよ」
「町の図書館で雑誌、読んでいたら、声をかけてきたのよ」
「ふうん」
「そういうことはよくあるわよね」
「うん、まあな。僕と君が知り合ったのはスピノザ協会だよね。スピノザの汎神論、つまり自然イコール神という考えからすれば、僕は神が変身と進化をなしとげてきて、今の僕という存在がある。そういう風に神を知ることによって、自然と、騎士道精神は守るようになる」と虎族の若者モリミズは微笑して言った。吾輩は彼が「エメラルド」という虎族の小母さんが言っていた騎士道精神をここで使ったのが、何故かおかしかった。
騎士道精神は魔法界だけでなく、虎族の教養ある一部の人達にも浸透している価値観のように思われた。


7薔薇 104白

「おまわりさんは ?」
「食堂車に行ったのじゃないか。よく頻繁に立つライオン族のおまわりさんだよ」
「あたしを守ってくれる役目なのに」
「君が頼んだのだろ」
「わたしは個人的なおつきあいは困ると言っただけなのに、ヒョウ族のあの人はしつっこいわ。ストーカーよ。あたしは取材で、この列車に乗っているのに、あの人はくっついてくるんだから。
それにしても、地球という惑星のことを少し取材してみたら、地球も大変みたいね。純粋な子供の中にいじめが目立つのは、大人の社会に経済格差だの、ブラック企業だの、中傷だの、ほんの一部の親の子供虐待だの、金銭至上主義だの、大人の社会の一部にまともでない所があるからよ。
この間は身体障害のある人の施設で沢山の人が、元職員に殺されたんですって、みんな生きる価値がある筈なのに、勝手に変なことを言って、あんな怖ろしい事件を起こすなんて。少し狂ってるわ。
社会に余裕がないのね。競争が激しいし、格差も激しい。長時間労働が習慣化して世の中の雰囲気は表看板は美辞麗句で飾られるんだけど、中身は歪んでいる。だから、いじめが起こるのよ。
地球の兵器の発達も少し異常よ。軍縮しないと、今に大変なことになるわよ。軍縮すれば、お金を福祉にまわせ、消費税なんて必要なくなるのに。もう少し、大人の社会をまともにしなくてはね。どう、そう思わない ?」

虎族の若者モリミズは地球の知識はないらしいが、スピノザ協会に言及した。
「スピノザ協会がそういう社会の悪い所を一番、問題視しているよね。僕は同感だ」

「おまわりさんがいたんじゃ、彼もしつこくは出来ないだろ」
「でも、あのおまわりさん、ひどくのんびりしているわ。そういう人をわざと派遣したんじゃないかと思って。だって、警察署の幹部って、たいてい虎族でしょ。猫族を守ることなんかあまり真剣に考えていないのよ」
「君は虎族に偏見を持ちすぎるよ。少なくとも、ぼくは君が虎族に抱いているような人間じゃない」
「どんな風に違うっていうの。虎族ってエリート意識が強くて、猫族を嫌っているじゃないの。それなのに、あなたは」
「僕はそういうことにこだわらない。人間は平等さ。先祖が誰だって、いいじゃないか。文化の違いがあるのは認めるけど、それを使って交流して、お互いを高め合うことがたいせつなのじゃないかな」
「それはあたしもそう思うわ。スピノザ協会もそう教えているわ」
「そうさ。全ての人は神が変身し進化してきた存在だから、平等さ」
吾輩、寅坊はそれを聞くと、京都の吾輩の主人が「すべての人は仏性を持つ。衆生と仏は水と氷りのようで紙一重だ」という江戸時代の白隠の詩を口ずさんでいたことを何故か思い出した。

ヒョウ族の若者が帰ってきた。中々鋭い目つきをしたヒョウ族の若者だ。
虎族の小母さま達の所は挨拶だけして、吾輩のずっと背後の席に座ったらしい。
どさりと音をたてて座った。何か、乱暴で、投げやりな気持ちが見え隠れするような気がしたのは吾輩の思い過ごしか。
そこから、あの猫族の娘が見やすいのかどうかは分からないが、かなり離れているとは思う。何か、視線が彼女に向けられていると思うのは吾輩、寅坊の思い過ごしか。


夜になると、食堂車に行くものもいる。我々三人はそこを動かずに、その席で食べていた。窓の外に大きな黄色い丸い月が見えた。地球の月とどこか違う、どこが違うと指摘することよりも、吾輩の耳には、良寛の俳句「盗人に取り残されし窓の月」が響いた。月を見れば、見るほど、何故か、吾輩の耳に「盗人に取り残されし窓の月」という俳句が繰り返し聞えて来る。
「月は花みたいだね」とハルリラが言った。
吾輩は何か嬉しくて、笑った。ハルリラも微笑していた。
吟遊詩人は食事を終えると、ヴァイオリンを弾き出した。彼の好きなチゴイネルワイゼンだ。甘く美しく、ちょうど車窓を流れる月のようだった。


                      【 つづく 】




(久里山不識    里山不識)
1 この一週間、この物語をつくる際に 必要なことを調べていました。今の段階では 私なりの結論も出ませんでした。AI のことです。その中途半端な所で、申し上げるのは なるべく遠慮しますが、要するに国際的なルールをつくることが急がれているということでしょう。文明の利器の多くがそうだと思います。一番 分かりやすい例が 自動車です。以前、交通戦争と言われた時代がありました。
日清戦争と同じくらいの死者がつまり、年一万六千人ほど出たと言われた時代があったことは知っている方は多いと思います。それで、ルールを厳しくしたのです。酒飲み運転の厳罰。スピード制限も重要です。交通違反取締など。何しろ、戦後この八十年で見ると、現代のどこかの戦争なみとか。今のようにルールが厳しくくなっても、死者が年二千人超えると聞きますから、大変悲しいです。それでも、車は必要ですね。なにしろ、便利ですからね。今の文明に必要なのでしょう。
今の所、AIも同じではないかと推測しています。私は昨年の夏から、私の書いた詩を画像生成する時に、今は、音楽生成にも使っています。これは、AIの文化面での大きな貢献になると思いますしし、人間の労働時間の軽減にも使えると聞いています。良いことには驚くほどの素晴らしい効果がある。それでも、報道されているように、マイナス面には大変厳しいものがあるのでしょう。それ故に、多くの人が学習し、この文明社会をどのような方向に持っていくのか考えねばならない時代に入っているということでしょうか。

2 下記の音楽は 私が最近 聞くようになったAI の音楽です。一時間かかります。長くてすみません。短いので、良いのを探したのですが、今の所、見つかりません。 こういいう音楽に興味がある方で、時間に余裕のある方は少しのぞいてみて下さい。













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菩薩の舞い(銀河アンドロメダ物語  9 )

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駅の近くのカフェーで補佐官と別れた我々は駅に向かった。
通りの並木道には赤い花が咲き、小雨が降っていた。この惑星との別れを惜しんでいるかのような涙が落ちるような降り方に吾輩には思えた。
カフェーでの補佐官との色々な話がぽつりと三人の会話に出ると、
「内の魔法界にも」とハルリラはやや深刻な顔をして話し始めた。
長い歴史の中で、今から六百年前に大異変があった。それ以前は暗黒時代で、魔法界の君主が横暴な悪をおこなっていた。しかし、六百年前に聖者が現われ、魔法界の君主の悪政をいさめ、君主の十五代目にして、彼は心を入れ替え、それまでの魔女の墓を全部撤廃してしまった。そうした行為には今となっては賛否両論があるようだが、ともかく魔法界も愛と慈悲心によってしか、魔法を使ってはならないことになった。」
「なんだか、ヒットリーラの話に似ている」と吾輩は言った。
「そうさ。ヒトは悪から目覚め善に向かうというか、進化するという点では似ている、これは心の進化の法則と魔法界では言われている。暗黒時代には魔女狩りが行われ、魔女の墓を国土の至る所につくったそうだ。しかし、それは封印され、今は僅かの資料と伝説的な話として、魔法界の歴史に残された。その内容は長時間労働、ハラスメント、差別、中傷、人間のやりそうな悪がその時代には色々と行われ、反抗する者は男も女もみな魔界から来た魔女とされ、墓場に行くという伝説となって伝えられている」


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「魔界とは 」
「魔界は悪魔メフィストの支配する所で、、悪の支配する所だ」
「うん、そういう話は聞いたことがある。少女が家のベランダで、花火を見ている時に、雷が鳴り、その雷の音に魔界のメフィストの声を聞いて怖がるという物語だった、」
吾輩は 緑の目をした美しいそして何か心優しい知路を思い出した。あの魔界から来たという噂のある知路はいつも吟遊詩人を助けようとしていたではないか。不思議なことである。
「それでは今の魔法界は善政がひかれているというわけだね」と吾輩は質問した。
「いや、魔法界といっても、色々あり、そのへんの知識は叔父さんは詳しいがわしはうとい。魔界の影響力の残っている魔法界がまだいくつもあるとは噂に聞くことはありますよ」

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迷宮街の旅とトラカーム一家を思い出すこの惑星でも、虎族ヒットリーラの政治が良くなる変わり目の時代に入り希望の光が見えたという所に、我々は歴史の生き証人となった満足感が幾分あったと言えるのかもしれない。それがこの日の天候に現れているというのは思い過ごしか。涙のような小雨がしとしとと気持ちよく降っている。

ヒットリーラは演説で、猫族に死者は出なかったと言っている。リヨウト補佐官のようなしっかりした猫族の幹部が補佐官になったのであるから、いずれ真相が明らかになり、良い方向に向かうだろうという期待を抱き、一抹の不安を抱きながらも、次の旅に出発することにした。

我々三人の出発する虎族の駅【アンドロメダ・中央駅】は巨大な建物だった。
大理石でつくられた白亜の壁。
駅前に大きな案内図がある
掲示板には、この間のヒットリーラ大統領の演説が文章になって、掲示されていた。
中には、小奇麗な店がいくつもあった。美しい音楽が流れていたことは、最初に来た時はなかったから、政治が変わるという良い前兆と、吾輩は考えた。

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駅は天井が高く、逞しい虎をイメージして模写した透けた巨大なステンドグラスからも薄い日差しが入り、そうしたステンドグラスはいくつもあり、大理石でつくられた白い美しい壁に囲まれた構内を何か明るい雰囲気にしていた。それも、政治の良い変化の兆しと思ったせいか、人々はゆったりと、のんびり歩いているように思えた。

列車は構内の奥深くまで、入り込んでいた。銀色をしたスマートな車体。
十両連結。 窓は上が丸みを帯びた半円形。
中は高級なソファーの並ぶ普通車両。寝台車。食堂車、映画館などがある。
我々は普通車の三号の真ん中あたりに陣取った。さっそく窓を開けると、弁当屋が「弁当、弁当」と声高らかに歌うように言っている。
アンドロメダ銀河鉄道には、色々な民族の人達が乗っていた。虎族、ライオン族、ヒョウ族、チーター族、猫族という風に。
犬族もちらほらいるようですね。時々、「ワン」というような声が聞えます。犬族だけに通じる挨拶の言葉のようですが、猫である吾輩には分かりません。
熊族もキツネ族もいるのです。

トラカーム一家には、お世話になったことは忘れません。それで、アンドロメダ銀河鉄道に乗りましたら、早速、書籍売り場に行き、『星の王子さま』と宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を二人の息子、トカとチカに贈るように手配しました。おそらく、我々がアンドロメダ銀河鉄道で、次の惑星の駅に着く頃は、この二冊の本が二人のもとに届くことは間違いないと思うと、吾輩はなんともいえない喜びに浸るのでした。

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我々が自分の席に座り、しばらくぼんやりしていると、広いプラットホームに美しい民族衣装を着た人達が銀河鉄道の見送りということでやって来た。
「長い銀河の旅、ごくろうさまです」と挨拶すると、舞いを踊った。
それから、地球で聞いたことのある歌も披露された。


  春の風を贈る            
      
 
  
(詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[春の風を贈る]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )



Poem
(草原の駅に立ち、列車を待つ、遠くから、すべるように列車が入ってくる、私はどこに行くのだろう、真理のいのちの大海という駅に向かって走るのだ、風景はあらゆる宇宙の、里山と街角と湖のほとりに、見事な美しい花が咲き、あらゆる色をした小鳥たちのさえずり、霊性の泉から立ち昇ってくるに違いない
春の日の出発の日に、あなたに春の風を贈りましょう、風は緑の梢を揺らし、、美しい音楽をかきならし、光を揺らし、素晴らしい衣装を、あちこちに着付けするのです。梢は風船のように膨らみ、あちこちの街角に葉のざわめきと花を飾り、宇宙のいのちの喜びを伝えてくれます。         青空の向こうに不思議な星があるといいます、そこへめがけて飛び立つ日、その出発の永遠の日の汽笛のように、梢と風は旅への悲しみと歓喜に震えているのです。ああ、あちらからもこちらからも、聞こえてくる歌声、さわさわとさわさわと、梢が風に揺られているのです。緑の永遠の喜びの歌声が聞こえてくるのです
宝石のように美しく澄んだ虚空の川の流れ、天空からたくさんの紫色の藤の花がこぼれおちるよう、我らは、菩薩のいるいのちの駅に向かって行くのです


「春の日の出発の日に
あなたに春の風を贈りましょう
風は緑の梢を揺らし、
美しい音楽をかきならし、
光を揺らし、素晴らしい衣装を
あちこちに着付けするのです。
梢は風船のように膨らみ
あちこちの街角に葉のざわめきと花を飾り、
宇宙のいのちの喜びを伝えてくれます

青空の向こうに不思議な星があるといいます
そこへめがけて飛び立つ日
その出発の永遠の日の汽笛のように
梢と風は旅への悲しみと歓喜に震えているのです。
ああ、あちらからもこちらからも、聞こえてくる歌声
さわさわとさわさわと、梢が風に揺られているのです。
緑の永遠の喜びの歌声が聞こえてくるのです

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歌も終わり、舞いも終わり、人々の歓呼の声にうっとりしていると、いつの間にか、列車は走り出していた。
アンドロメダ銀河鉄道は ゆるやかに美しい音をたてて、桔梗色の天空を走っているのです。吾輩は目を見張りました。
おお、久しぶりに流れてる銀河を見るのは。何と気持ちの良いことか。
宝石のように美しく澄んだその真空の水の流れにはヒッグス粒子がキラキラと輝き、あちこちにカワセミが飛んでいるではありませんか。くちばしが長く、身体はブルーで、腹の方はみかん色の美しい鳥です。
美しい宇宙の景色が見えてきました。
天空からたくさんの紫色の藤の花がこぼれ落ちるように咲いている空間が続くかと思えば、梅の花が咲いていたりする野原が見えたり、牧場が見えたり、川は水晶のように美しかったり、森はあらゆる生き物の宝庫でもあります。
すると、不思議なことに、列車の窓から見える景色の向こうの方に、奈良の薬師寺の五重の塔が見えたのです。薬師寺であることに間違いありません。何故なら、その両側に幻のように日光菩薩と月光菩薩が微笑しているからです。
吾輩は最初、何かの錯覚かと思ったのですが、いえ、そうではありません。
畑や林や緑の丘の向こうに五重の塔が背の高い二人の神々しい菩薩に守られて、まるで幻のように光りながら、それも何と一つの五重の塔だけでなく、いくつもの塔がある間隔を置きながら、信州の盆地に広がる華麗な住宅のように、銀色にきらきら輝いているのです。
そしてカワセミが飛んでいます。中には吾輩の乗っている列車に並行して、しばらく飛んで、さっと向こうに飛び去るのもありますが、その美しいこと、生命力に畏敬の念をおこさざるを得ない、神秘な力を感じるのでした。
「アンドロメダ銀河で、薬師寺の五重の塔を見るとは。不思議なことだ」と吾輩はぼんやり考えました。

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アンドロメダ銀河の水は水晶よりも美しく透明で、なにやら、モーツアルトのセレナードを奏でているようで、どんどん流れているのです。

列車の中では、吾輩は猫であるから、ヒト族よりはるかに耳がいいので、隣の声がよく聞こえます。
「あら、こんな所に、フキさんのことが記事になっているわ、マゼラン金属の取締役になったじゃありませんの」
吾輩は、ティラノサウルスホテルで見た、あの宝石で顔じゅうを飾ったような金持ちの虎族の女性を思い出した。
「すごいわね」
「あら、マゼラン金属って、武器をつくっている所よ」
三人で、何か新聞を回し読みしているらしいが、その話題はすぐに終わったらしい。

その後しばらく沈黙が続いたのは、首にダイヤのネックレスをした中年の目の細い小母さんが目の前のテーブルでインターネットを見ていたからだろう。吾輩はこの虎族の女に「チロ」という渾名をつけた。このアンドロメダ銀河の旅に出てから、猫である吾輩は虎族の人達には複雑な気持ちを持っていた。虎という種族に対する畏敬の念もあったが、そればかりではない。そして、時々、こういう妄想を抱くことがある。あの虎族の人達に魔法をかけて、猫のように小さくして、吾輩のペットにする。この薄いイエローのワンピースにピンクのカーディガンを着ている彼女はおそらく我儘で、ある種の迫力があって可愛い猫のような存在となる。吾輩はこのペットを大切にするだろうと。
そうした妄想を吾輩に抱かせた「チロ」さんは顔を上げて、少し高めの声で言った。
「ほら、あそこの席に座っている猫族の若い女を見てごらん。
これがあの女の人のブログよ。見てごらんなさい。
沢山、小説や詩をかいているのは若いからね、でも、エッセイの方を見てご覧なさい。
わが虎族のティラノサウルス教についてよく書いてないわよ。まあ、それだけなら、許せるけど、親鸞の教えと比較するのが嫌らしいと思わない。親鸞って、地球とかいう遠い惑星で千年前に生きていた僧だっていうじゃありませんか。
何で、そんな男がこの惑星に生まれ変わって来るわけ。その辺がもういかがわしいと思いませんか。
そんないかがわしい宗教とわが虎族の優秀なティラノサウルス教を比較するなんて、猫族らしいやり方ね。」
何と、猫族の中の姫君に相応しい品位を持つ女性、どこかでナナリアという名前を耳にしたが、そのナナリアに、ケチをつけているではないか。けしからんと吾輩は思った。

金のイアリングをした、赤いジャケットの下に絹の光沢を持つブラウスを着た虎族の小母さんには、吾輩は「サチ」という渾名をつけた。その「サチ」さんは低い声で言った。
「今度の大統領演説のあとに、猫族に対する差別をしてはいけないという布告が出たけれどね。こういう猫族がいるとね」
やはり、虎族の猫族に対する偏見はこういう会話を見ると、簡単になくなりそうもないと思って、吾輩は悲しく思った。

緑のエメラルドがいくつもついたネックレスをした、白のブラウスの上に緑のブルゾンを着た目の大きな虎族の小母さんの渾名をつけようとして、直ぐに言葉が出て来なかった。大金持ちのフキが取締役になったマゼラン金属という会社が武器をつくっている所だと指摘した女である。他の二人の虎族の女が持っている雰囲気よりもひどく優しい。
そこで吾輩は「エメラルド」と渾名をつけた。
「ねえ、ヒョウ族の坊や。さすが、ティラノサウルス教に入っているだけあるわ。ヒョウ族もティラノサウルス教に入れるようにしたのは、英断だったわ。それに比べその前の方に座っている虎族の若者はティラノサウルス教に入らないというのはどういうわけ。坊や、どう思う」

「ヒョウ族の坊や」と言われている丸顔の若者は白いパンツに赤いブルゾンを着ていた。彼は小母さん達に呼ばれたのか、自分から行ったのか分からないが、三人座っている小母さん達の席の空いた席に座っている。吾輩の席から見ると、斜め前に座っているヒョウ族の若者と時々、目が合う。

「彼は虎族でもスピノザ協会にひかれているみたいですよ。」とヒョウ族の若者が言った。
「スピノザ協会って、猫族の集まりみたいなものじゃありませんか。そんな所に、どうして優秀な虎族の若者が入るんですか」とダイヤのネックレスをしたチロさんはちょっと厳しい口調で言った。
「そう聞かれても、僕には分かりませんよ」とヒョウ族の若者が答えた。
「ねえ、虎族の若者は、向こうにいる話題の猫族の娘が好きなんですよね。このブログを見ても、彼女はスピノザ協会に入っているようですし。ヒョウ族の坊や。どう」と金のイアリングをしたサチさんは微笑して言う。
「そうかもしれませんね」と何か不服そうな表情をして、ヒョウ族の若者は答えた。
「あなたもあの女の子が好きなんでしょ。こんな風にあの子のブログを私達に教えるなんて、騎士道精神に反しますよ」と目の大きな「エメラルド」さんは笑って言う。

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騎士道精神。こんな言葉を虎族の小母さんが言うとは吾輩、予想していなかったから、わけもなく共感した。
「内の魔法界の今の君主は騎士道精神が好きでね。」とハルリラが声をひそめて猫にしか分からないような言葉を使って、言った。
「君主なんてまだいるのですか」
「そうさ。いるさ。弱いものを助け、強い悪い奴をこらしめるのが魔法の使い道といつもおっしゃつている。わしも、魔法学校で君主の言葉を何度聞かされたかわからん」とハルリラは笑った。
吟遊詩人は黙って微笑していた。

「私たちに彼女のブログを教えてくれるのはいいことよ。でも、本当に好きなのかどうか、私も疑うけれどね」とピンクのカーディガンを着た「チロ」さんは言った。
「好きでも、肘鉄食わされたら、恨みになってそうなるんでしょ」と「サチ」さんは言う。
「僕はそんなつもりで教えたんじゃないですよ。彼女のブログが面白いと思ったから」とヒョウ族の若者が答える。

「第一、 彼女と親しくなければ、このブログが彼女のものだと知ること出来ないじゃないの」と「サチ」さんが言う。
「あ、そうか。あなた、あの猫族の女の子にふられたの」
「困ったな。そういうことには答えられない」
「怪しい。確かに、彼女は美人ね。でも、猫族なんか信用しちゃ駄目よ。あたし達にどんどん彼女の情報、下さいね。面白いから。列車の旅は何か面白いことがないと眠くなりますからね。もうこのアンドロメダ銀河鉄道に乗っている虎族のティラノサウルス教の小父様、小母さま連中にはみな報告しましたから。この列車の退屈な旅をそのブログで楽しんでいることでしょう」と「チロ」さんは言った。

吾輩はこの話を聞きながら、列車の旅がそんなに退屈か、疑問だった。確かに、昼間から寝ている人もいる。
銀河鉄道は宇宙の特別列車だ。惑星にはないものでも、ここでは文明の最先端のものが手に入る。これはアンドロメダ銀河にある銀河鉄道の摩訶不思議なところである。ヘッドホーンをかけると素晴らしい音楽が聞けるし、宇宙インターネットをやることも出来るし、しょうぎや碁をやることは出来るし、映画も見られる車両もある。それに、場合によっては、展望車に行けば、まるでプラネタリウムのような星空を見ることさえ出来るのだ。
確かに長い旅ではあるが、筋トレ車両までついているという。

それにしても、これだけ話題になっている猫族の若い女性ナナリアに、猫である吾輩、寅坊が無関心ということはありえない。大変、気になる。それで、ちょっと後ろを振り返って見て、どこかで見た女性だという印象があった。直ぐは思い出せない。
我輩が真剣に考えていたら、ハルリラが喋り出した。
吾輩の心を読むように、「あの女の人はテイラノサウルスホテルの食堂にいた人じゃないか」とハルリラは微笑して言った。
吾輩は目が覚めたような気持ちで、ハルリラを見詰めた。
「綺麗な人だから、わしも印象に残って、覚えていました」とハルリラは言った。

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その通りだ。可憐な感じがする。十八ぐらいだろうか。それとも二十は超えているのかもしれない。情報に汚されていない森と湖のそばで育ったような人というのもおかしい。彼女は宇宙インターネットをやっているのだから。自然人というのもおかしい。そんな野性味があるわけではない。それはともかく、清楚で知的なものを感じる。

ヒョウ族の若者は席を立った。トイレなのか、食堂車なのか、分からない。
「変わっているわね。あの子」
「あの猫族の女の子が好きなのよ。それでストーカー行為して、ライオン族のおまわりさんまで監視に来ているんだもの。」
「あの虎族の若者も怪しいわね」
「虎族はストーカーなんかしないわよ。虎族には美人が多いんだから」

「虎族のあたし達に彼女の秘密のブログを教えてくれたのは、余程腹がたっているのよ。ライオン族のお巡りさんまで乗っているんじゃ何かおこりそうね」
「あの虎族の若者を呼んでみない」
「来るかしら」
「退屈しのぎよ」

ピンクのカーディガンを着た目の細い「チロ」さんが立って、虎族の若者に近づき彼の肩をたたいた。
「あなたこちらに来ない」
「行かない」そんな会話が吾輩の斜め後ろの背後から聞こえる。
「あなた、何でスピノザ協会に入っているの」
「どうしてそんなこと知っているんですか」
「彼女のブログに書いてあるわよ」
「どうして、彼女のブログを知っているんですか。彼女が教えるわけないし、彼女に聞いてみましょうか」
「いいわよ。ヒョウ族の若者が教えてくれたのよ」
「あいつが。また失礼なことをするよ。」と虎族の若者は憤慨したような口調で言った。

突然、列車の中が、金色に輝き、何か神々しいような光に満たされました。
何故か、心が窓の外に向けられ、ふと見ると、もうじつに、ダイヤモンドや草の露や朝顔などの純粋さをあつめたような、きらびやかな銀河の川床の上を水は音もなくかたちもなく流れ、その流れの真ん中に、ぼうっと青白く後光の射した五重の塔が見えるのでした。

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日光菩薩と月光菩薩は幻のように、ゆったりと舞いを舞うではありませんか。菩薩の舞いというのを初めて見ました。何と優雅で、何と神々しく、この世のものとは思えない美しさに満ちていました。
風も舞うことがある。落葉も舞うことがある。美しい紙切れも舞うことがある。いや、それよりも美しいのは熱帯の蝶の舞い、小鳥の舞い。ああ、そしてヒトの舞いも素晴らしい。しかし、菩薩の舞いというのは吾輩の想像力を超えた神秘なものでした。全てのものを慈悲で包み、優しい微笑でヒトの心を溶かし、花や森や昆虫のような大自然そのものが舞っているようでした。

                       [ つづく ]




( 久里山不識      里山不識 )
物語の中の詩と似ている詩を、以前こ、このブログに掲載した私の詩の中に見つけましたので、掲載しました。比較すると分かりますが、物語の中の短い詩を下記の長い詩と組み合わせて音楽にしています。前にも言いましたが、この「銀河アンドロメダ物語」では 物語の中の私の詩を音楽にするという試みも行っています。

それで、参考にした詩も音楽にして、下記に掲載しました。



(詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[真理のいのちの鐘]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )




真理のいのちの鐘 (7)

Poem

草原の駅に立ち、列車を待つ
遠くから、すべるように列車が入ってくる
私はどこに行くのだろう
真理のいのちの大海という駅に向かって走るのだ
風景はあらゆる宇宙の
里山と街角と湖のほとりに、見事な美しい花が咲き
あらゆる色をした小鳥たちのさえずり
霊性の泉から立ち昇ってくるに違いない
我らの舞台は真理のいのちの世界
美しい緑の田園と明るい声のする緑の街角
全ては神仏の変身した姿であろうか

真理のいのちの鐘が鳴る
満月に鐘がなる
淡い光に照らされた美しい一面の花
苦しみと悲しみには、そよ風が吹き
喜びが湧いてくる
真理が今ここにある
我々は真理のいのちの世界に住んでいる
それなのに、主客未分の世界を離れ
妄想と知性を働かせ、文明を築く
それはそれで一つの生き方だろうが
肝心の主客未分の真理のいのちの世界を忘れている

主客未分の世界は本物のいのちの世界
そこに本当に美しい町があり、美しい里山がある
そこには文明の影は消え、満月が照り
カフェの灯の光がわがコーヒーを照らす
そこは愛と慈悲に満ちた街並みだ
樹木と花園に満ち
人々の口に美しい微笑が満ち
花が舞う季節がきた

私の世界は一個の明珠のようであり、
満月のような宝石のただ中にいる
樹木と花園に満ち
人々の唇に美しい微笑が満ち
満月の下で、主客未分のいのちの世界で生きている。
妄想を絶ち、真理の世界に生きる
幻のような美しい観音がこちらを見ているではないか。


我らの舞台は真理のいのちの世界
美しい緑の田園と明るい声のする緑の街角
全ては神仏の変身した姿であろうか
そして、聖なるいのちの声の響きが深淵から聞こえてくる
それ故にこそ、
あらゆる喜びも悲しみも苦しみも全て
音楽の美しい旋律となりて
人の心をうつ歌声となる

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花火 (銀河アンドロメダ物語 8   )

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 広場の演壇の所に一人の背の高い男が長い槍を持って、立っていた。そこは少し前にヒットリーラが演説した所だ。
「何か用か。ハルリラ、わしを呼んだのではないか。魔法界からここまで、降りてくるのは年のせいか、最近では億劫になってな。それでも甥っ子の一大事とあっては。」
「呼んだ ? 俺は念仏を唱えただけだ。ちょっと親念さまに敬意を持つようになったのでな」
「わしは念仏をお前からの助けを求める叫びと勘違いした。ううむ。年はとりたくないものだ。」
この百九十センチはあるかとも思われる背が高く、足から身体すべてが細長い男は年のころ、初老というべきか、長いあご髭は真っ白である。
吾輩はドン・キホーテを思い出した。ハルリラにこういう叔父がいるとは聞いてはいたが、前触れもなく突然現れるとは驚きだった。

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ハルリラの両親は死んでいて、兄弟もいず、何人もいた叔父と叔母も死に、このヒト一人がハルリラの唯一の目上の肉親ということになるらしい。
様子からすると、この叔父さんは長いこと、魔法学校の理事をしていたが、結局それも引退、さて、何をしようかと思っていた所に、ハルリラの念仏を聞きつけ、すは一大事、未熟者を助けるのは叔父の勤めとばかり、出てきたら、ハルリラに余計なお世話と言われ、がっくりしたらしい。
「さて、さて。この国は平和になりそうだから、わしの出る番はなかろう。
それではひっこむ。もし、わしを呼びたかったら、そのお前の少しへんてこな念仏が気に入ったから、約束の暗号よりも、その方がいい。それを唱えろ。
そしたら、わしは加勢に出てくる」
「でも、俺は阿弥陀様を呼ぶので、叔父さんが出てきてくれてもあまり嬉しくない」
「わしが気にくわないだと。わしには沢山の恩があるくせに。それに、その念仏に,わしは感動する。その念仏が聞こえてくると、魔法界の空から、美しい大きな花が舞うように降りて来る」

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「気持ちは分かるけど。俺は武士なんだ」
「最近は口ばしの黄色いのが一人前のことをぬかす。お前の魔法なんかわしの奥の深いものに比べたら、半人前」
そこで、ハルリラは「叔父さん、もう分かった。もう、色々なことは解決した。叔父さんの出番は今はない。あばよ。呼ぶ時は呼ぶよ」と言う。
その時、花火のようなものが演壇の下からあがり、その煙と一緒に叔父さんは消えた。ハルリラが沈黙していたので、吟遊詩人が言った。
「魔法界って、きっと我々の生きている虚空の世界にあるのではないかな。つまり、娑婆世界も浄土も霊界もいのちに満ちた「虚空」にあるのだが、我々からは娑婆世界しか見れない。魔法界もその「虚空」の中にあるに違いない。
我々の娑婆世界は物質世界、ここは科学の活躍する所でこの世界もどうも幻のようでリアルな存在というような摩訶不思議な世界なのだから、ハルリラの故郷も面白い所なんだろう」
「魔界はどこにあるのかな」と我輩が質問した
「さあね」と吟遊詩人は微笑した。

その時、我々の前に魔界の知路が現われた。緑色の目をして、あでやかなブルーの服を着て、輝くばかりの美しさではないか。吾輩は彼女が突然現れたのも驚いたが、彼女が魔界の人というのも納得できない。
「君を呼んでなんかいないよ」とハルリラが言った。
「あら、あのホテルに行くのでしょ。垂れ幕みたら、あたしを川霧さんが呼んでいるのかと思って」
「吟遊詩人は君なんか呼ぶわけないよ。」とハルリラは大きな声で言った。
「あら、そうなの」と彼女は言って、一瞬の内に消えた。

さて、朝から奇妙なハプニングが二つも続いたこの奇妙さに宇宙の神秘さがあるのではないかなどと、我々は話題にしたが、川霧は沈黙がちだった。やがて、我々はこの国の一番のホテルといわれるティラノサウルスホテルに到着した。
恐竜ティラノサウルスの形をしている大きな金色のホテルである。巨大な恐竜が犬か猫のようにおとなしく大地に両足をつけて瞑想でもするかのように遠方を見ている姿を表現したデザインなのだろう。ヒットリーラがああいう演説をしたからといって、ティラノサウルスホテルのデザインまで急に変わるわけではないのである。ただ、一つ変わっていたのは、ホテルの玄関に良寛の和歌が書かれた綺麗な垂れ幕が下がっていたことだ。
『天が下にみつる玉より黄金より
春のはじめの君がおとづれ  』

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ヒットリーラが改心してから、世の中はぱっと明るくなった。もともと、この惑星のこの国は美しい土地柄で、悪い政治だけが問題だったのだから、そういうことになる。

吟遊詩人と吾輩とハルリラは ヒットリーラに新しく採用された猫族の新大統領補佐官が玄関で出迎えでくれ、案内されて、ホテルに入った。
『リヨウト』という名前のこの新しい大統領補佐官を見た時は驚いた。あの猫族のデモの先頭に立っていた男ではないか。目は丸く、黒い口ひげがピンと左右に伸び、黄色い温和な顔をした体格のいい男。まさに彼だった。

この補佐官の横幅のがっちりしたタイプとは対照的だったのが、三十代半ばの吟遊詩人だった。

吟遊詩人はヒト族の中でも背が高い方で、ほっそりしていた。
口ひげのある細面のベージュ色の肌の彫りの深い顔に、優しいブルーの目の光があり、全体に憂いを帯びた感じがある。フランス系アメリカ人と日本人の混血ではあるが、髪は黒かった。肩はがっちりしていて、腕も太かったのに、ブルーの中折れハットに彼の着る百合と薔薇の模様の入った緑のジャケットとジーンズからかもしだされる雰囲気はヴァイオリンを持つ詩人にふさわしかった。頸の所に、銀色のクロスのネックレスをかけていた。

トラカーム一家で、服をプレゼントされ、新調したのだ。吾輩はシーブルーのシャツに茶色のベストを着こんだ。ハルリラは吟遊詩人のよりはもう少し薄い緑の服で上から下までそろえていた。三人とも、銀河鉄道の乗客であることを示す金色のコートは手に持っていた。

ホテルの支配人は虎族だということが、吾輩にもすぐ分かった。虎族の中でもあまり人相がよくない感じがする。愛想は素晴らしく良いのだが、どこかに陰険なものを隠している。

リヨウト新大統領補佐官は平和と自由と平等を基本にしながら親鸞の教えを広め、この国を多様な価値観のある文化の国にするというのがお役目で、ティラノサウルス教にとっては面白くない人物ということになる。
我々はホテルの一室に三人一緒ということで、あてがわれたが、その部屋の豪華なことこの上ない。三人でソファーに座り、珈琲沸かしを使って、飛び切り上等の珈琲を飲んだ。天下一品のおいしさだと味わいながら、壁の大きな絵を見た。

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もしもゴッホが海を描いたならば、こんな風になるのではないかというような海の絵だった。その波打ち際のよせては返す海の水に、この惑星の「呼吸」が感じられるような迫力があった。

夕食の時は 新補佐官は食堂にいる我々の所に来て、挨拶をした。外では、花火を上げる予定のようだった。天井の近くまで広がる大きな窓は透明で、沢山の星がキラキラしているし、地上のみを浮き彫りにする特殊なライトのおかげで、庭園の樹木や沢山の花が目を楽しませてくれる。

食事も豪勢で、ワインが出された。ただ、吟遊詩人のだけは特別のメニューだった。キャベツとニンジンとブロッコリーの温野菜と豆腐の料理と玄米食。多くの果物と高級なワインだけが吟遊詩人の地味な食事を宴会にふさわしい豪華なものにしたてる役柄とでもいうようであった。

トラカーム一家では肉も出たけれど、全体に菜食主義の傾向があったので、気がつかなかったが、このホテルで吟遊詩人の食事の好みにはっきり気がついた。
前から、ちらりと聞いてはいたが、この日、彼は「実は慢性胃炎なのです」と告白した。
彼は腕が太く、筋肉質であるわりには、ほっそりした体型はこのあたりに原因があるのかなと、吾輩は思った。

5食卓神

「ピロリ菌が私の胃の中に住んでいるのかもしれませんね。子供の頃、井戸水をよく飲んだのはいいのですけど、あとで知ったのですが、あそこの井戸水は少し汚染されていたようです」
「ピロリ菌は除菌しないのですか」
「まあ、胃もたれ程度ではね。いずれは除菌すると思いますよ。胃がんのリスクも考えなければいけなくなりますから、時には、塩や肉はなるべく控えめとか、野菜と玄米と畑の肉と言われる大豆という風にしようと思うわけで、今日のようなメニューになってしまうのです。リヨウトさんは胃の方は丈夫そうですな」

「私は貧しい家に生まれましたが、不思議なことに、天は丈夫な身体を私に与えてくれました。胃は物凄く、丈夫。酒でも肉でも、何でも大量に入ってびくともしませんから、今日のようなご馳走は大歓迎ですわ。私の好きな肉も沢山ありますし」
「補佐官は激務ですからね」
「ヒットリーラ閣下によると、このような変身をとげるとは私も考えませんでした。なにしろ、私は猫族のレジスタンスの幹部だったのですから、そんな人物を補佐官にするとは、親念さまの教えはまことに素晴らしい。私も、まだ教えをうかがうようになってから、数週間なので、深い所はまだまだ分らぬ所が多いです。ヒットリーラ閣下によると、悪人という反省に至った者こそ、阿弥陀仏の救いになるという話。
私は自分のことを善人と思っておりましたから、最初は戸惑いました。
私の神はスピノザの神でしたからね。」

「スピノザの神」と、吾輩は小声で言った。
吾輩はデモ隊の先頭に立って、そういう言葉を言っていた彼の威勢の良い声を思い出した。

「ええ、そうです。この地球の哲学者は宇宙のインターネットでも知られていますし、猫族には信奉者がけっこういるのです。

確かに、見かけは阿弥陀仏とスピノザの神は違う。なにしろ、大統領補佐官になるということで、数週間のにわか勉強をしたので、阿弥陀仏はお釈迦さまの教えの流れの中ではぐくまれてきたものでしょうから、縁起の法というのが重要視されますし、『空』という思想が中核にある。そこへいくと、スピノザの神は実体ですから、外見から判断すると、まるで違う。しかし、これはわたしの直観ですが、どこか似ている。いや、殆ど同じような光を見るのです」

「確かにね。私もそんな思いがすることがある」と吟遊詩人は言った。「やはり、一番の違いはスピノザの神は人間の頭脳で考えだされた神ということです。理性でつくられた神です。
そこへいくと、阿弥陀仏は念仏の中で悟った大慈悲心の仏です。頭ではない、理性ではない。南無阿弥陀仏という念仏による心身脱落です。
ですから、阿弥陀仏をどんな仏なのであろうと、イメージで考える、あるいは理性で考えて行くと、スピノザと同じような神になるのだという気持ちよく分かります」

ハルリラが突然、言った。
「わしの魔法の異次元の世界もわしの故郷というひいき目もあるが、この娑婆世界と一枚にあるのだ。しかしそこに普通には入れない。詩人の川霧さんの言うように、もしかしたら魔法界もこの娑婆世界もその一枚【虚空】にあるのかもしれない。しかし、娑婆世界からそちらを見ることが出来ない。娑婆世界は物質でできている。わが故郷には『神秘の一本道』という魔術を使って帰るしかない」
「ハハハ、念仏も座禅も自己を忘れ、新世界【浄土】を見る一本道さ」と吟遊詩人は笑った。

6西日85

「なるほど。それは傾聴に値しますな」とリヨウト補佐官は言った。
「それはともかく、大統領の価値観が良い方向に変わったということはこの惑星のこの国にとっては、素晴らしいことです。なにしろ、ぼくは猫族ですから、猫族が迫害されているのは見るにたえません」と吾輩は言った。

「レイトさまにも驚きました」と補佐官は立派な黒い口ひげを手で触ってから、言った「あの方は美人で、頭もよく誰が見ても、外見は天使のようでしたので、あのティラノサウルス教を信じているのが、私達には不思議でした。私達猫族にとっては、あのティラノサウルス教というのはどうも好みません。
なにしろ、虎族のような強者のみ人間の価値があるなどと訳のわからぬことを人に教え込むのですから、宗教の慈悲あるいはアガペーとしての愛の原理に反していることばかりなので、私は邪教と思っていました。
もっとも、このことはあまり大きな声では言えません。ヒットリーラ閣下とレイトさまが変心なさっても、ティラノサウルス教の組織は残っています。これから、どういう風になるのか見ものですな」

「具体的にはどんなことが起きると考えるのですか」
「親念さまの考えるような、全ての人の平等という社会システムをつくる邪魔をするでしょうな。それに、宇宙と地球の宝、カント九条を全て、取り入れることを邪魔するでしょうな。あれほどの素晴らしいカント九条は地球でも長い歴史の中で沢山の人々の平和への願いと努力の結晶として出来た日本国憲法九条をそのまま世界と宇宙にも適用しようというヒト族の思いでつくられたものですから。
わが愛するスピノザ惑星協会の力を借りねばなりませんし、親鸞さまの教えは確実に広がっていますが、まだ少数勢力です。虎族の間に親鸞さまの教えがどの程度広がるかが、鍵になるでしょう。虎族ではやはりテイノサウルス教の人気は簡単には衰えないでしようから」

花火の音に、皆、窓の方を振り向き、「綺麗」というような声があちこちから聞こえた。菊のような大輪の花のようなものが夜空に広がり、散っていくかと思うと、次には沢山の大きな果物のような丸いいくつもの色の輪っかが重なり、不思議な図形をしばらくつくって、花開くという風で、そして素早く散っていく。そんな美しい花火だった。 

7藤70

「食堂から、こんな花火が見られるとは、中々のホテルですな」と補佐官が言った。
「立派なホテルです」と吟遊詩人が言った。

「私も初めてなんですよ。ただ猫族の間では、奇妙な噂がある。雷がなる嵐の日に、ホテルに入った猫族は消されるという」と補佐官が言った。
「怖い話ですな」

「ええ、ティラノサウルス教というのはこの土地にある古くからの風習を取り入れているので、雷の日の嵐というのは虎族の神々の祭りの日だと言うのです。その祭りの日には、いけにえが必要だった。まあ、大昔の野蛮な風習が、このティラノサウルス教によって復活したというわけです。」
「それで、ヒットリーラ大統領があのような親鸞さまに帰依するという演説をしたあとでも、その風習は残るのですか」
「いいえ、廃止です。その役割を担当しているのが私です。信仰の自由から言って、ティラノサウルス教を今すぐ解散させるわけにもいきませんが、悪い習慣は法律によって禁止することが出来るわけです。今までの独裁と違って、国会で審議して法律をつくるという当たり前のことがこれから行われるわけです。
全てはこれからで、私の仕事は山ほどあるわけです」

花火があがると、食堂の中にいる人々は大きな窓の方に振り向き、ため息と賛嘆の声が耳に響いてくるのだった。月のような衛星が青い夜空にひときわ美しく白い光を放っている。気がつくと、黄色い閃光と共に周囲に緑色の柳の形を表現しながら下に広がっていく大きな花弁のような花火があがる、その時には、殆ど人の感情の結晶のような音楽とでもいうべき声があちこちから響き渡るのだった。

多くの星も白い衛星も地球で見るのとは違った神秘な趣をなしている濃い青の夜空に、皆、目を向けていた。

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ちょうど赤と青と黄色の花火が 暗闇の中から大きな手を広げるように花開くと、そのあとは まさに消えようとする所であった。 
一流ホテルの庭だけあって、豪華な花や樹木が美しく整然としていて、花火はその庭園の空を飾る美しい色彩の光を放つシャンデリアのようでもある。
空に花模様を描き、散っていく様子が何度も何度も繰り返され、その花火の軽やかな音を聞いていると、この日が特別の祭りの日のように思えるのだった。



しかし、祭りといえば、少し前までは、猫族のいけにえがあったのかと思うと、吾輩、寅坊は寒気がした。

「猫族の収容所は解散すると大統領は演説で言っていましたね。それで誰も死者は出なかったのですか」

「幸い、親念さまの布教が早かったので、これもみなあなた様方のおかげですが、死者はでませんでした。
ですから、宇宙のインターネットによると、地球の第二次大戦のように、ユダヤ人を六百万人も虐殺するというようなナチスのような蛮行は防げたのです。これで、価値観というのがどれほど大切か我々もしみじみと感じたしだいです」

ただ、吾輩はテイノサウルス教によるいけにえの犠牲者というのはあったのではないかという疑問を持ったので、そのことを聞こうか迷っているちょうど、その時、そこへ中年の女が入ってきて、我々に近づいてきた。
この女は高級軍人の妻で、リヨウト補佐官の知り合いのようであるが、見るからに金持ちの虎族の奥様という感じがする。耳に金のイアリング。ネックレスはダイヤ。虎のような黄色い大きな鼻には、銀のピアス。腕には、いくつもの宝石のついたブレスレットをはめている。
ひとの噂話が好きで、人は悪くないが、軽薄な感じのする女という雰囲気が年のわりに派手な服装と喋り方から伝わって来る。

「あら、リヨウトさん。あなた、レジスタンスの幹部でしょ。こんな所にきていいの。
消されちゃうわよ。特に雷のなる嵐の日にはね」
「わしは大統領補佐官になったのですよ」
「あら、御冗談がきついわね。あなたは貧乏だし、それにわたしのような影のサポーターがなかったら、とっくに消えて今頃はここにいない筈ですよ。あなたは猫族の幹部でしょ」
「ここに座らしてもらうわね」

彼女は リヨウト補佐官には特別な感情を持っているらしく、丁寧な口調ではあるが、相手によっては、夫の地位を鼻にかけて、どこへ言ってもいばりちらすという風に言われている女である。

リヨウト補佐官は大統領演説の内容を説明した。
「ふうん。そうなの。
それで、おかしなことがあるのよ。ここへ来る前に、天気予報をきいてきたのですけれど、今日は夜半から天気が急変するという話ですわ」
「急変」
「雷鳴がなる嵐ですわ。だから、私はあなたに警告にきたのじゃありませんか。少しは感謝しなさい。そちらの方は銀河鉄道のお客さんのようですから大丈夫のようですけど、リヨウトさんは私の古くからの友人ですからね。 わたしが一人で寂しく今晩はここに泊まろうとしたら、リヨウトさんがいると聞いて飛んでご忠告にきたのですわ。でも、そんな大統領令が出たとなると、リヨウトさんはご無事ということね。それで、あちらに三人も猫族の方がお食事されているのね」

見ると、猫族の親子のようである。中年の父親と六才くらいの息子が談笑しながら、食事をしている。

この虎族の奥様は我々が座っている椅子にかけてある金色のコートに視線を向けて言った。
「それにしても、こんな所に大切な金色の服を置いて、食事をなさるとは無作法ね。支配人も気がきかないわね」と彼女は言って、手でパンパンとたたき、ボーイを呼んで、金色のコートをあずかるように言った。
「アンドロメダ銀河鉄道のお客さまであることを示す大切な服をあずかるのもホテルの役目ですよ」
支配人が飛んできて、彼女に「気がききませんで」とあやまっていた。謝る相手が違うような気もしたが、それだけ、彼女のホテルでの威力を感ずることが出来た。


西六義園

                  【 つづく 】

物語の今回の場面では、音楽にするような詩がありませんでした。そこで、この章に似た雰囲気の詩が私の過去に掲載してないか見てみました所、二つほど見つかりました。上のは「親鸞」が出てきますし、それから、今までの物語によく出てくるスピノザの自然を神とする考えを詩に取り入れたのも見つかりました
それを音楽にしてみました。音楽を物語の中に取り込むというのはブログでないと出来ない実験的な取り組みですので、そのようにお考えになって聞いていただけると、ありがたいです。よろしくお願いします。


茶畑の大河 (1)




(詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[茶畑の大河]をクリックして下さい )

(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。  )


Poem
広い茶畑とその向こうの大河を眺め
一杯のコーヒーを飲む
私のそばにたつ彫像は偉人のまなざし
この雄大な青と緑の風景を前にして
私は何を思えばいいのか
この空気のいいこと、精霊が呼吸する所
私の吸う息、吐く息もここで復活して
ここで 生気を取り返し
この茶畑の大河の流れを見つめれば
ふと、私の心に花が宿る
何の花か知らぬが この世のものとは思えぬ
美しい花だ 花が息するたびに 私も呼吸する
ああ、私は花の入ったワインを飲んだような気分になる
私がワインを飲むと、私の花は喜ぶ
私と花は一心同体だ
薄い赤色のワインの中に宝石のような青い花が浮かぶ
そう、私はそんな甘い一口を口に入れて、夢のように酔うのだ
おう、その時、身心脱落、身心脱落と耳に響く
自我は消え、美しいいのちを持った躍動する満月のような世界の中に
私は瞑想をしている
空からは夢のように美しい <
花が散っている。
色即是空 空即是色と耳に響く
空とは仏性なり、いのちの真理なり
霊性と、イメージしても
親鸞の言うごとく煩悩は山のよう
ただ、大自然の中で、瞑想するのみ




里山の詩 (1)




poem

「おお、私とユリの花は兄弟だ
自然の中で咲く花と私
私は愛する里山の神秘の瞳と唇を
里山と花は不生不滅の宇宙のいのちの現われだ

薔薇よ、深紅の色に潜む宇宙の謎
ユリよ、雪のような白さは乙女の姿
里山の中で、大自然の詩句を歌っている
人も生き物も神秘な宇宙のいのちの現われだ

風がそよぎ、緑の梢は揺れる
オオルリの歌が青空に響く
自然の中で生き物は、不滅の生を生きている。
風の音も鳥の声もいのちの声だ


この里山の風景 魂に触れる
薔薇と百合の花は永遠のいのちの調べ
詩人の祈りは神仏に届く、誠実な歌声だ
花も昆虫も人も全ては神仏の現われだ


それで、何故、戦争がある
神仏の現われという真理を忘れ、我執のとりこになるからだ
魔はそこを狙う
おお、里山の花よ、人を目覚めさせよ


やがて、大自然の中、人は愛を見つける
薔薇とユリの花がいのちの秘密を教える
里山の詩、感動する魂は震えている
いのちの声は愛と永遠を教えてくれる  」




「上の私の詩の中での、「不生不滅の宇宙のいのちの現われ」とか、「神秘な宇宙のいのちの現われ」とか「神仏」とかは、私が若い頃は唯物論の影響下にありましたから、まずこういう言葉は使わなかったと思います。いつ頃から使うようになったのかと自問していたら、「森に風鈴は鳴る」(パブーで無料配布)という私の小説の後編に下記のような描写が出ていました。真理の核心は本当は言葉で表現できるものでは ないと思いますが、私が神仏という言葉をどんな形で使っているかという見本だと思いますので、あえて掲載しました。


「そこはロンドンの地下鉄だった
「どこへ行くの」と見知らぬ白人の若者が言った。
「公園の方に行くのさ。君はどこの人?」と僕は答えた。
「カナダから来たのさ。君は日本だとしたら、道元を知っているかな」
「ああ、少しね。あれ、読んでいると、希望が湧いてくるね」
「そうさ。希望が湧くさ。パスカルの人間観は悲惨だけど、禅はヒトを仏にしてしまうんだからね」
私の頭に「ヒトも含めたあらゆる物は仏性のいのちが現われたものである」が浮かんだ。
耳に聞こえる
嵐が吹こうが雷が鳴ろうが
仏性のいのちの部屋に入れば
慈悲の光は満ちあふれ
悲しみと苦しみは喜びとなり
対立は共生となり、敵意は愛になり
花が舞い、美しい音楽がせせらぎのように聞こえてくる

「ここで、降りるんじゃないの」と青年は言った。
外はやわらかな陽射しのあたる春のロンドンだった。
ああ、そんなことがあったな。あそこで、仏性の話でもしていれば、素晴らしい
国際交流が出来たのにね。

真理とは仏性のことだ。
不死のいのちだ。
全てがこのいのちで繋がれている。
一元論が正しい。
ヒトなどの生き物は、この一元論の世界から徐々に二元論に入る
主観が客観を見詰め、自我の前に、多くの森羅万象が現われる
仏性がクオリアを感じさせる物質として、つまり現象として現われる
自我を無にした時に見えてくる仏性とは
真理である無限の一なる生命、それは法身、空(くう)、如来
それは不死の宇宙生命であり、神仏とも無位の真人とも言われる

空と人の関係は、宇宙が自己実現しているということだろうか。
過度の生存競争はこの原理に反する
共生こそ、正しい。仏性は一個の明珠なのだから。
自由なる共生

空海から異生羝羊心のイメージ
むき出しの欲望に囚われた果実
魂を磨き、
慈悲に目覚め、仏性に目覚め
人は共生をめざす宇宙の壮大な働き

そうやって人は花の道を歩き出す」

(里山より )
詩を二度、見ることになった方もいらっしゃるかと思います。くどくてすみません。初めての方もいると思い、大切な私の道元の立場を強調したかったので、再度 掲載しました。それから、良寛は道元を尊敬し、その考えと修行の中で、漢詩を多く書いています。
最後に書いたロンドンの場面は、私のロンドン地下鉄経験を思い出し、書いたものです。

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