
いつの間にか、百合と薔薇の花が我々の前のテーブルの上に、花瓶にいけられてあり、吾輩寅坊は自分が寝ている間に、誰か親切な人がサービスしたのだろうと、思っていた。吟遊詩人は 銀河鉄道が次の惑星アサガオにつく間は、よく歌い詩も作ったようだ。吾輩と剣士ハルリラに見せた次の詩も、花瓶の中に咲く美しい薔薇と百合を見て、大自然を想像して作った詩なのかもしれない。
里山の詩 (3)



(私の書いた詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[里山の詩]をクリックして下さい )
(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。 )
Poem
「おお、私とユリの花は兄弟だ
自然の中で咲く花と私
私は愛する里山の神秘の瞳と唇を
里山と花は不生不滅の宇宙のいのちの現われだ
薔薇よ、深紅の色に潜む宇宙の謎
ユリよ、雪のような白さは乙女の姿
里山の中で、大自然の詩句を歌っている
人も生き物も神秘な宇宙のいのちの現われだ
風がそよぎ、緑の梢は揺れる
オオルリの歌が青空に響く
自然の中で生き物は、不滅の生を生きている。
風の音も鳥の声もいのちの声だ
この里山の風景 魂に触れる
薔薇と百合の花は永遠のいのちの調べ
詩人の祈りは神仏に届く、誠実な歌声だ
花も昆虫も人も全ては神仏の現われだ
それで、何故、戦争がある
神仏の現われという真理を忘れ、我執のとりこになるからだ
魔はそこを狙う
おお、里山の花よ、人を目覚めさせよ
やがて、大自然の中、人は愛を見つける
薔薇とユリの花がいのちの秘密を教える
里山の詩、感動する魂は震えている
いのちの声は愛と永遠を教えてくれる 」

明るい日差しが窓に輝くと、朝になっていたのです。銀河鉄道の窓からは、もう下界は緑の広大な高原のような所が見えて、あっという間に、町並みがひろがり、するりと駅の構内に入って行きました。
やはり、この惑星アサガオはトパーズの宝石のような美しい色に恵まれた大地でした。
「トパーズ。トパーズ」
オペラ歌手が歌うような神秘な音色の声がトパーズ駅の構内に響きわたっています。
駅そのものがそのような宝石めいた石でつくられた巨大なものでした。
吾輩は京都の駅を思い浮かべました。似たような感じもありましたが、やはり人ははるかに少ないものでした。
ここは熊族のロイ王朝だと聞いていましたが、鹿族の方がむしろ多く、その他、虎族、猫族などがいるのでした。温暖化が進み、暑いだけでなく、紫外線がひどく強い土地柄だというので、鉄道の中で、アンドロメダ銀河のデザインがされたTシャツとサングラスを購入して、改札を出ました。
時計台の鐘の音が聞こえてきます。駅の外に出ようとしながら、ぼんやりその美しい音色に耳を傾けていると、「モリミズさん」という黄色い声がします。虎族の若者が振り向きました。声の主は、あの猫族の女の子ナナリアではありませんか。ここには降りないと聞いていたので、吾輩は少し驚きました。

吾輩も猫族ですので、こうしてすらりと立っている美しい猫族の女の姿を見たのは初めてのような気がして、はっとしました。
黒い大きな目に大きな黄色い耳が少しゆらゆらしていました。きびきびした身体ぜんたいの動き、体はふっくらとして丸みを帯びていて、気品のあるデザインにあふれた紫の薄手の服を着ていました。
黄色い豊かな髪の毛は後ろに形よく束ね、どこからともなく匂ううっとりするような香り、まろやかなみずみずしい肌、しなやかな腰は少し官能的でもある。それでもどこかに猫が獲物を追う素早さと人の世のビジネスを感じさせる勢いがあり、耳はどんな情報も逃さないというしたたかさを持っているようだった。
吾輩は虎族の若者モリミズが思慕するこの女性をティラノサウルスホテルのレストランでもアンドロメダ銀河鉄道でも姿を見てはいたが、この時の印象はまた格別だった。初めてこの場で見る思いがして、なにやら恋の炎に焼かれる蝶の思いがするのだった。

「え、惑星アサガオを取材するのかい。危ないからやめなさいとあれほど言ったのに」と虎族の若者モリミズは言った。
「それじや、又ね。どこかで会うかもね」
彼女には迎えの車が来ているのでした。
若者モリミズが我々を案内してくれました。駅を出ると、ひどい日射で我々は三人ともあわてて、バッグからサングラスを出してかけました。駅の前に大きな寒暖計があり、それは四十七度をさしていました。
湿度は低いのは助かるが、酷暑に加えて不快なのは何かもやっとした黄色みを帯びた悪臭を放つ空気の流れがあちこちに漂っていたのです。
「これは変な空気の流れですね。吸うと、気分が悪い」
「なるべく、この黄色い空気は吸わない方がいいです。地下街に行けば、もう少し空気がいいです。
ここのエネルギー源は石炭なのです。この石炭で冷房をしているのです」
馬車が来た。我々は中に乗り込み、外の風景を見ながら、町の感想を話していた。移動の手段は馬車と自転車のようだが、最近、ちらほら見かけるようになったのは石炭で動く車で後ろからもうもうと排気ガスを出す汚染は市民に評判が悪いようだった。
「ガソリンはないの」
「惑星アサガオは、石油がとれません。エネルギー源は石炭しかないのです。
おまけにこの暑さ。冷房に石炭を使うのです。
家の中は勿論、外は暑いし、摂氏五十五度を記録したこともあります。オゾン層が薄いので紫外線が強いし、皮膚ガンや白内障が多発しています。
今は外の暑さや紫外線を避けるために、町は温度の低くなる地下街に出来ているのですが、それでも快適な温度に保つには石炭のエネルギーで調節をしているのです。
ただ、困るのは、石炭の排気ガスは外に出しますから外気がさらに汚れることです。
この惑星の石炭の埋蔵量は膨大で、今のように使っても千年はもつだろうと言われています。しかし、問題はこの排気ガスなんです。」
若者モリミズは一息ついた。
馬車の窓の外は廃墟のような古びたビルの群れと馬車で殺風景だった。彼はまた話し続けた。
「庶民はこの地上の暑さと空気の悪さに、困り、重税をかけられ、熱中症だけでなく、色々な感染症の病気が多く、餓死者も出る始末です。
そして、最近では消費税を導入した。これが庶民の怒りをかっています。
それに、二酸化炭素が原因と言われているが、まだ原因不明の所のある惑星アサガオの温暖化が進むと、惑星の異常気象による大雨と干ばつなどで地上は住みにくくなり、さらに、氷河が解けて海の水面が上昇し、もうすでにいくつもの町が水没して、庶民の不安をかりたてているのです。
ウエスナ伯爵が考えているこの国の改良策は、大統領制による民主主義の確立は当然としても、海と湖と川は幸い、綺麗で魚も豊富ですから、あとはエネルギーを水から取るために、水素に変えるということで、天才アュ―ソン氏の研究成果を使えば、水素社会にすることが可能だというのです。
ところが、この天才アュ―ソン氏の家柄がネズミ族ということで、そういう下賤の生まれの意見に誇り高い熊族のロイ王朝は耳をかさない。表面上、研究に時間と金がかかりすぎるという理由をつけていましたが。重大なことは金を新兵器の開発と軍拡に使いたかったのが本音のようです。それでやむを得ず、ウエスナ伯爵の保護のもとで、天才アュ―ソン氏の研究も進められてきたわけで、これがロイ王朝とウエスナ伯爵の確執を生んだと言われています。」
吾輩は猫であるが、地球の人間、つまり天の川銀河では、ヒト族と言われている人達ももとはと言えば、あの恐竜時代にはネズミのような動物だったというではありませんか。
吾輩は猫族の次にヒト族に愛着を持っていたから、天才アュ―ソン氏を差別する熊族ロイ二十世に嫌悪の感情を持ちました。
ウエスナ伯爵の邸宅は地球のイメージからすると、変わったものでした。田舎は少しは空気がいい筈なのですが、ここまで多少の汚染空気が流れて来るせいと、紫外線とこの外の暑さから逃れるためでしょう。
この奇妙な邸宅のイメージを吾輩の身体で表現すると、猫の頭だけが地上に出て、顔の一部と胴体と足は土の下にあるという比喩が当たっているかもしれません。
邸宅の玄関とアューソン氏の水素研究室の入口が地上に並んでいる。そして、広い宝石トパーズの黄色い玄関を入ると、深い地下から冷房のきいた宮殿に通じる階段があったのです。宮殿と言っても、豪華な地下の涼しい部屋がいくつもあるということでしょうけど。

庶民は川の魚と冷房に関連する若干の工場そして、近くに広大なトパーズの産地がありましたから、そういうものの産業に従事して、生きていたのですが、伯爵領に収める税金と王様に収める税金という二重の税金に苦しめられていたのです。
勿論、ウエスナ伯爵がここを世襲してから、この税金を全廃しました。これには、親族からの抗議だけでなく、王様からも叱責があったようですが、庶民は事実上の市民になれたわけで、ウエスナ伯爵に対する尊敬の念は高まっていました。
地下の宮殿の入口には、トパーズ色の宝石のように輝く巨大なドアがあり、そこから入ると、天井からはシャンデリアが輝き、美しい風景画がいくつも飾っている大広間に我々は通されました。
大きなテーブルがあり、その前の椅子に座り、我々は待ちました。
窓には、見事な薔薇などの花や銀河の模様の入った巨大なステンドグラスがあって、部屋の奥からはモーツアルトのセレナードのような音楽が流れているのでした。
「僕の家もここの伯爵家と同じ家柄だったのですけど、貴族を嫌い、その頃の宇宙移住計画で今住んでいる惑星に移り、平民として暮らしています。ですから、この伯爵家にも貴族を嫌う血が流れているのかもしれません。ウエスナ伯爵はそういう方です」と若者モリミズが言った。
「ロイ王朝は庶民に受け入れられていないとか」と吟遊詩人が言った。
「なにしろ。貧しい人々に重い税金をかけ、若者が住む家もなくネットカフェーにあふれ、そこから工場に働きに出るような政治をやっているのですから、庶民は怒りますよ。特に、消費税。魚はここの民の主食のようなものですから、これにまで消費税をかければ、豊富な魚まで、貧しい庶民は食べられなくなってしまう。その危機感がある」
ウエスナ伯爵が出て来た。虎族だけあって、吟遊詩人と同じくらいの背の高さで、貴族だけにふっくらした堂々たる体格、色つやも良く健康そのものという感じである。鼻の下の黄色い口ひげは濃く、大きな丸い目は穏やかである。
彼が席に着くと、同時に給仕のボーイがやってきて、テーブルの上に、ご馳走と飲み物をならべて行く。
「あの件はうまく行ったのですか」と若者モリミズが聞く。
「うん、一昨日、決行してうまく行った。彼を釈放させたのはちょっとしたトリックが必要だった。わしの伯爵の地位も利用した。」と伯爵は満足そうな顔つきで言った。「なにしろ、彼はわしの子供の頃見てもらったことのある鍼灸師でもあったからね。
わしの病気は癖のある病気で、、彼でなくてはなおせないとロイ王に説得したのだよ。
彼がもともと監獄に拘留されたのはヒト族だったことも関係している。熊族はヒト族に偏見を持っている。
それに、彼は優れた詩人でもある。ロイ王朝を揶揄する詩を十編ほど出したというだけのことさ。「ロイは空の空なるかな」という詩が一番、人気が高かったな。
彼は庶民にも人気の高い鍼灸師であったから、拘束された時は、皆、驚いたよ。
詩を書くのはこの国の文化だったのに、ロイ王朝は自分の悪口を書いた詩を許さないとしたわけでね、拘留が十五年にもなっていた。
しかし、わしはロイ王を説得したよ。
彼は十五年の牢獄生活でかなり、病弱な状態になっているので、もう詩は書けないと。
ともかく釈放され、今はここで休ませてある。彼は巌窟王だよ。最近は監獄の地図を書いているのさ。何しろ巨大な監獄だ。強盗などの犯罪人は周囲に、真ん中の方に三十人ほどの政治犯が入れられている。
革命の時には、監獄にいる我らの仲間の政治犯のみを解放しなければならないから、これが意外と難しい。普通の犯罪人は解放するわけにはいかない。
それにあの監獄は天下一品の堅固な造りだから、地図があればそういう人達を助けるのにも役に立つ」
「監獄の地図を知っているのですか」
「彼はね、何と独力で、あの監獄を脱出しようと地下に穴を掘り、廊下の方に出ているのだ。
しかし、監獄の周囲は深い堀に囲まれ、周囲には衛兵が常に番をしているし、土の所に出ると、獰猛な番犬がうろちょろしている。
堀には暑さに強いワニが沢山いる。それで、出られないと知ったあとは、夜中、眠っている兵士に気づかれないように、細かい地図をつくり、自分の監獄に戻ると、ラテン語で地図を言葉に変えて暗号化したのだという。それをブロントサウルス教の聖典に詩で書いていたのだそうだ。
看守には地球のラテン語なんて暗号みたいなものだからね。
今、それを元に、記憶と一緒にして監獄の正確な地図を書いている。」
我々はその巌窟王に会わせてもらった。
その時は、庭園の眺められるテーブルの上で、地図を書いているらしかった。横にブロントサウルス教の聖典があるらしく、時々、めくっていた。
我々が入ると、もう話は通じていたらしく、微笑した、確かに落ちくぼんだ眼額にきざまれた深い溝のような皺、長い老化した白髪。中肉中背の彼の体には老いと長年の疲労が刻まれていたことは一目で分かった。
「空の空なるかな。」
と巌窟王は弱々しい声で言った。
「お分かりかな。わしの前世は王族だった。わしは先頭にたって、戦い、勝ち、大きな城を気づき、ありとあらゆるぜいたくをした。しかし、これが何になろう。空しい。それだけだ。
そこで、この国に生まれ変わる時に、わしは人の身体を健康に導く鍼灸師になる決心をし、その通りになった。しかし、地球の有名な詩句からヒントを得て、ロイ王のことを書いた詩を書いただけで、監獄だ。娘との別れは辛かった。」
「地図はできましたか」と伯爵が聞いた。
「おお、もうすぐ完成だ。わしと同じ目に会った三十名の政治犯を釈放してやってくれ」
「前世では王族 ? 」と吟遊詩人は巌窟王に聞いた。
「そうだよ。王様のどんな栄耀栄華も神仏の前には、空の空なるかなだよ。このことをロイ王も分かってくれたらな。ただ、それだけの詩を書いただけさ。

伯爵と我々の食事に巌窟王も招かれた。
「地図はほぼ完成だな。あの監獄は堅固でね。まあ、わしも穴を八年かけて掘った時は、これで脱獄できるという喜びに躍り上ったものだ。しかし、毎晩のようにそこから、外に出る道を探したけれど、絶望的になった。外に出るのは不可能だったのだ。
それで仕方なく、監獄の地図を書くことにせいをだした。しかし、書く所がない。しかし、監獄には、熊族の民族宗教であるブロントサウルス教の聖典が一冊だけ置いてあるんだな。
そこに地図を書くわけにいかんから、看守の絶対に分からないラテン語で詩を書いた。その中に、監獄の地図の暗号を入れたのさ。
問題はペンだよ。これは看守にもらったよ。この看守は以前に、彼の胃が悪い時に随分面倒を見てやった。だから、わしにはよくしてくれた。ペンをくれたのだよ。勿論、他の看守に見つかるとヤバいから、普段はトイレの横に隠して置いたけれどね。」
「大変なご苦労がおありだった。その地図は今度の決起で、仲間を解放する時に役に立ちますよ」
「ところで、お嬢さんがカナリヤ国からこちらに来るのですよ」
「いつ」と巌窟王は驚きと喜びの二重の深い感情を皺だらけの頬ににじませた。
「数日以内ですね。なにしろ。海を渡らなければなりませんし、カナリヤ国からの馬車は厳しく検問されますから、すんなりというわけにはいかず、いくつかの宿を泊まってまいります。でも、ご安心下さい。一緒に警護するのは、あなたに仕えていた秘書のあの屈強な男、ソロですから。」
「おお、ソロ君か。わしが捕まった時は、兵士にくってかかった男だ。わしの信頼できる男だ」
「今はカナリヤ国で弁護士をしております」
食事はおいしいものだった。巌窟王の心をなぐさめようと、テーブルの真ん中には美しいランの花が豪勢に沢山咲いていた。
果物の入っている皿も、様々な料理の入っている見事な花模様の椀も上等なワインもこの愉快な晩餐会をもりたててくれるようであった。
巌窟王は寄って来ると、
「ハハハ、わしがロイ王に突きつけてやった詩はな、地球という惑星から仕入れてきたものなのだ。」
「ぜひ言ってみて下さい。知りたいものです」
「おお、君はヒト族ではないか」巌窟王は初めて気がついたように、吟遊詩人の肩に手を置いた。吾輩とハルリラは猫族と分かったせいか、巌窟王はただひたすら、詩人を見詰めていた。
「君は地球を思う詩人というではないか。君の詩を聞かしてくれないか。その後に、私の詩を聞いてもらおう」と巌窟王は言った。
吟遊詩人はうなずき、「それでは、銀河鉄道の中で作った私の詩を聞いてくれますか」と言った。
Poem
「胸の奥にありし花よ
震えるように、ふるえるように
君はあの緑のカフェーのある街角に咲いていた
そうだ、君は可憐な瞳で、風のように私を見る
何よりも深い湖のような青い瞳で
小鳥が胸にしみるように鳴く森に
青空は心にあらゆる感情を運んでくるではないか
悲しみも苦しみも
やがてくる歓喜の前の前触れではないか
何故なら、わが胸の中に住みたる花は
とてつもなく美しい透明さで、
昆虫のように、生き生きとして
高殿から見る緑の大平原のよう
おお、胸の奥にありし花よ
今はどこにおられる
今は宇宙の一点から無限の大空へと、
広がる生命の広がりとなって
満天の星となり
生き生きと輝く愛の灯となって
この街角にたたずむ私の全身をおおう
おお、胸の奥にありし花よ
私は今は蜜蜂となり
君は沢山の蜜を養う花となり、
私は君の愛の蜜を口にする
おお、そのとろけるような味は
どこかの街角の洒落たカフェーの茶菓子にもまさる
そこから、見るどんな優しい風景よりも
たとえ、宮殿のようでも
たとえ 古い住宅の路地裏のようでも
神社や寺院も包み込むような風景でも
君の蜂蜜の味はまさる
どこからか聞こえてくる太鼓の音
祭りの最中のような生き生きとした叫びが
私の胸に今はおさまった花に
静かな喜びを与えている
花を見詰めている青年がいる
核兵器があるために、この花が消えさる日が来ることを危惧する
彼は立ち上がり、
森の中に入り、巨大な風鈴をつくり
それを鳴らし、世界に告げた。
全世界から、核兵器をなくせ
さすれば、胸の中の花の苦しみがやむだろう
街角にミサイルが飛び交うこと自体が異常で
いのちこそ いのちこそ 尊いという花の旋律を
人類は忘れてしまい
武器の開発ばかり、夢中になっている
おお、胸の奥にありし花よ
わが悲しみも苦しみも終わる時が来る
それは平和が一番
高らかに喜びの鐘が鳴り
森に風鈴は鳴る
小鳥はさえずり、澄んだ小川は生きる歓喜を歌い上げている」
胸の奥にありし花



(私の書いた詩{「Poem」を音楽にしてあります。聞くには文字[胸の奥にありし花]をクリックして下さい )
(画面が真っ暗になった時、すぐに元のブログの画面に戻すと、絵と私の詩を見ながら、音楽を聞くことが出来ます。 )
「分かりますか」と吟遊詩人が言った。
「分かる。分かる。このアンドロメダ銀河では、ヒト族は少数民族だ。地球の知識はあまりないが、君の今の詩を聞いても、人は苦界に沒在している存在であることがよくわかる」
ワインをカップ三杯ほど一気に飲むと、微笑した。「これを飲むと、生気が生まれるのだよ。なにしろ、地下の監獄に十五年もいた。ごつごつとした岩に囲まれた不潔な狭い部屋にそんなに長い事、孤独にいると、声も出しにくくなる。しかし、このワイン三杯で回復する。不思議なものだ。記憶力もね、鮮明に覚えている所と、抜け落ちる所がある。まあ、まだらな記憶というわけだ」
「今のご気分は」

「まあ、監獄から出てきた後では、最高だね。なにしろ、ここには地球の詩人がいる」
又、一杯、ごくりと飲むと、「始めるか」と言った。
「空の空、空の空、いっさいは空である
日の下で人が労するすべての労苦はその身になんの益があるか
世は去り、世はきたる。
しかし地は永遠に変わらない。
日はいで、日は没し
その出た所に急ぎ行く
風は南に吹き、また転じて、北に向かい
めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る」
巌窟王は一息ついてから、また朗読し始めた。
「わたしの前世では魔界のメフィストの甘い誘惑の言葉に動かされ
強い権力と富を得て、王となった。華やかな宮殿、美しい女、色とりどりの花園、ブドウ畑、様々な樹木を生い茂らせ、水を注いだ。
わたしは金とダイヤモンド、エメラルド、そうしたあらゆる宝石が瑠璃色の大地のあちこちから、顔を出し、四方から、美しい滝が落ちるようなミニ自然をつくった。そして、牛と羊を飼い
わたしは多くの働き手を得て、わたしの思うように動かし、わたしも働き、その労苦によって富は富を生んで、宮殿の町はさらに、華麗になった。しかし、気がついた時は、
宮殿の外の村は荒れはて、多くの人が重い税に苦しみ、病気になり、住宅が壊れ、人は路頭に迷い、あちこちで人が倒れ、宮殿の町の中に入ろうとする人々を衛兵がこばんでいた。
わたしはそれを知り、今までの労苦の空しさを知った。
悪魔メフィストのあざ笑う笑い声が聞こえるようだった。一切は空であると。」
最初は地下から響くような声が、話す内に高揚し、生命力が附加し、まるで無から銀河が誕生する宇宙の物語のように、彼の詩句に富んだ声はしだいに生き生きとなり、「皆、空であって、すべて風をとらえるようなものである」と急に奈落に落ちるような響きで、我々を見回した。

吟遊詩人と伯爵が拍手した。
「その空は魔法界でも聞いたことがある」とハルリラが言った。
「仏教の『空』とはまるで違うよね」と吟遊詩人は言った。
「どういう風に」と吾輩、寅坊は聞いた。
「説明すると長くなるな。ともかく、まるで違う」と詩人は笑った。
「王の栄耀栄華の空しさは風をとらえるようなものであることを、わしの詩で知らせたかった」と巌窟王は言った。
「仏教の『空』はもっと生命の肯定的な面があるよ。あの詩句の『空』は空しいという風な感じがある。キリストの『野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。
しかし、言っておく。栄華を極めたソロモン王でさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった』という教えにも似通っている。「空」は栄華とぜいたくの空しさを言っていると思う。つまり、ソロモン王のどんなに華やかで贅沢な暮らしも野に咲く一輪の百合の花の美しさにかなわないというようなところかな」と吟遊詩人が言った。
「その通り。わしはこういう風に、熊族のロイ王朝のロイ二十世に、庶民が苦しい思いをしている中での王の栄華の空しさを詩句で突きつけてやったのだ。地球の日本にあると聞く、戦争は絶対にしてはいけないという素晴らしい日本国憲法を取り入れて、カント九条として平和主義と国民主権と基本的人権を守るような国づくりをするように提言したつもりだったが、受け入れられなかった。しかし、ウエスナ伯爵がいずれ、立ち上がり、そういう国をつくってくれるだろう」と巌窟王は笑った。
巌窟王は「ところで、こちらの皆さんはアンドロメダ銀河鉄道で知り合った仲間と聞いているが」
若者モリミズがヒョウ族の若者にナイフをふりかざされたいきさつを手短に説明した。
「そうですか。それは助かりました。」と伯爵が言った。「怪我でもされたら、スピノザの講師を失うところでした。虎族のティラノサウルス教も熊族のブロントサウルス教も私は気にいりませんし、庶民もそうです。どちらも強者のための宗教ですからね。
親鸞の教えはこちらでは、かすかに耳に届く程度で、取り敢えず庶民が力を得るような宗教哲学が必要なのです。」
「庶民には民族宗教みたいなものはないのですか」
「ありますよ。でも、一番の欠点は、権力には従えというのが長い習俗として残っていますから、これでは熊族 ロイ王朝を倒せないのです」
【つづく】
( 久里山不識 里山不識 )
1 創作の喜びというのは独特のものです。でも、以前から申し上げている胃の具合の悪さ、82才という年令から来る体調の悪さ、不眠などが重なっているので、ここでしばらく休憩にします。 少し長い休憩になると思います。十一月末ぐらいまでに体調を整え、再出発できればと思っています。
2 【物語の参考】
A 記憶の不確かな巌窟王が歌いあげた彼独自の詩句ですが、その土台となったのは旧約聖書の「伝道の書」です。
【「空の空、空の空、いっさいは空である
日の下で人が労するすべての労苦はその身になんの益があるか
世は去り、世はきたる。
しかし地は永遠に変わらない。
日はいで、日は没し
その出た所に急ぎ行く
風は南に吹き、また転じて、北に向かい
めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る 】
ここまでは伝道の書の文章を引用しています。欧米人やキリスト教徒なら、たいてい知っていると思われる人生を深く見た詩文です。人の世は空しいから、神の言葉を聞けということでしょうか。
そのあとの長い詩文は、巌窟王が前世に王族であったことをふまえ、目の前で統治しているロイ王をいさめる詩句をつくったものですから、巌窟王の独自の詩句となります。
B 巌窟王の「ヒトは苦界に沒在している」という言葉は 法華経の如来受領品の「衆生を見れば 苦海に沒在せり かるがゆえに為に身を現ぜずして それをして渇仰を生ぜしむ 」のお言葉を借りました。今、「苦界に沒在せり」というような言い方は見られないので、ご紹介しました。私の尊敬する道元は、座禅だけでなく、法華経を重要視したことで有名です。
C この物語には強い恐竜の名からとったティラノサウルス教や熊族ロイ王朝など、強さを武器にして、庶民を苦しめる存在が登場しますね。これは今の世界情勢とも符合しますね。道元の尊重する法華経では 「如来の室とは 一切衆生の中の大慈悲心これなり。如来の衣とは柔和忍辱の心これなり。如来の座とは 一切法空これなり。」と書かれています。大慈悲心の大切さを教えていますね。こういう世界観が今の世界に必要なのではないでしょうか。キリスト教では パウロが同じようなことを言っています。


































