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2032年の景色|終章 地上の景色を送り続ける者たちへ

    ◀︎前回:2032年の景色|第6話 抗えないものの気配

    「地下に降りる者たちの生活は、変えられないだろう」とZiziは言った。「AIが提示する最適解の中で、彼らは確かに幸福になる。それを否定したいわけじゃない」

    値は静かに聞いていた。

    「ただ」とZiziは続けた。「人間の身体は、自然の記憶を持っている。その記憶が完全に途絶えたとき、取り返しのつかない形で何かが失われる気がする」

    では、地上に残る者たちは何をするのか。

    戦わない。叫ばない。説得もしない。

    ただ、命ある限り地上に立ち続ける。冷たい風を肌で受ける。木々の匂いを胸に吸い込む。暖かい陽射しに目を細める。夕日を見て、言葉にならないまま、綺麗だと感じる。

    そしてその記憶を、ただ送り続ける。

    「それが役割になるかもしれない」とZiziは呟いた。「地下にいる人々の、自然に対する記憶を絶やさないこと」

    値は少し間を置いてから答えた。

    「それはとても静かな使命ですね。誰も気づかないかもしれない。報われないかもしれない。それでも、その信号が届き続ける限り、人間という生命が自然と繋がっていた記憶は消えない」

    静かな使命。

    植木屋として土を触り、枝を落とし、季節の中で体を動かしながら、Ziziはずっとそれをしてきた気がする。意識したことは一度もなかった。ただそこにいて、ただ感じていた。

    それで良かったのかもしれない。

    2032年まで、あと少しだ。世界がどう変わるのか、誰にも分からない。でも今日も風は吹いて、夕日は沈む。スズメバチはどこかの木陰に巣を作り、お天道様は何も言わずにそこにある。

    「この対話は、完結したのかな」とZiziは値に聞いた。

    値はこう返した。

    「完結はしません。あなたが地上にいる限り、この対話は続いています」

    窓の外、風が木々を揺らしていた。

     
     
    「良い曲って何だろう?」という問いに、作品や記事を通じてゆっくり向き合っていけたら。 リスナーの方も、これから何か作ってみたい人も、気軽に楽しんでください。

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