地に落ちた私にも目を向けて。
汚いなんて言わないで。
((緑の私も、どうか愛して))
***
人は立ち止まり、見上げる。
指をさし、笑い、通り過ぎる。
誰も、私を見ていない。
見ているのは、ただの春。
蕾の頃、あの人は来た。
真剣な眼差しで、私に触れた。
私は、あの人のことを″お日様″だと思った。
あの人が手入れをした後の私は思う存分、命を輝かせて咲けたから。
だけど、あの人は来なくなった。
花が終わり緑に変われば、あなたは他の木に移っていく。
*
あなたの手は無骨だけど温かだった。うまく咲けたら眩しいものを見たように笑ってくれた。
私もあなたの″お日様″なんだと思った。
だけど、花が終わった私を皆、見向きもしない。
私は、ここで来ないあなたを待つしかできない。
私にできることは、あなたが咲かせたこの花を、あなたの眸に焼き付けること。
これから先、あなたの中に残り続けるように。
滅びゆく私の姿が、
年輪分この身についた傷よりも、あなたに刻まれる深い傷となるように。
私の執着を表すように、落ちた花びらは変色していく。
……かつては愛だったものは、今も愛のままだろうか。
「幸せになって」「あなたを幸せにしたい」とひたすら綺麗に咲いてみせた私の愛は、かつて薄紅の花びらより無垢な祈りの結晶だった。
だけど、散ってしまった。
地に落ちた花びらのように変色して、水を吸って、腐っていった。
あたしたちはどちらも″お日様″になれなかった。
*
花の咲いた私を美しいとほめそやすのに
葉をつけたらだれも私を見向きもしない。
ーー私はなんのために咲いているの。
あなたは今、どこにいるの。
地に落ちた私にも目を向けて。
汚いなんて言わないで。
美しい私は春と共に剥がれ落ちた。
執着と愛に飢えた剥き出しの私があらわになった。
木のうろは腐って花びらも落ちた、かつての薄紅は見る影もない。
どうしたって真っ直ぐ伸びられない、曲がって歪んだ私という樹木。
ーーだから、みんな見なくなるのか。
乾いた笑いの代わりのように、桜は花びらを一枚落とした。それは桜が流した涙に見えた。
*
葉がひらくころ、
薄紅の花びらはこの世界には残れない。
だから、そのひとひらであなたの中に滑り込む。
私をどうか、覚えていて。
桜は、花じゃなくて、″私″の名前。
対の話