
『水曜どうでしょう』4人は、なぜ何度見ても面白いのか――工藤哲也が30年見続けた関係|第93夜
前回の第92夜では、「サイコロ4」最終夜で札幌へ戻れる目が三つも用意されながら、博多へ向かうことになった展開について考えました。
今回は、再び番組の舞台裏へ目を向けます。
音響効果を担当してきた工藤哲也さんについては、第84夜で「音を入れすぎない」という仕事の考え方を取り上げました。後のインタビュー記事で工藤さんは、音の技術ではなく、約30年間にわたって見続けてきた四人の姿について語られていました。
音響効果の作業をするため、一つの企画を四回から五回は見るといいます。それでも不思議なことに毎回笑えて、見るたびに笑う場所も変わる。
四人の何が、それほど繰り返し見ても面白いのでしょうか。

工藤さんが寄せていた内容もありました
(引用元:HTB「水曜天幕団」より)
「一生どうでしょう」を別室で知らなかった人
工藤さんは、本放送だけでなく、『どうでしょうリターンズ』『水曜どうでしょうClassic』、DVD、さらに新たに再編集された『水曜どうでしょうプレミア』でも音響効果を担当しています。
同じ映像を一度仕上げて終わるのではなく、放送の形が変わるたびに、何度も『水曜どうでしょう』と向き合ってきました。その状況を工藤さんは、自分も四人と一緒に「一生どうでしょう」していると表現しています。
興味深いのは、工藤さんが「東北2泊3日生き地獄ツアー」のロケに参加していながら、「一生どうでしょうします」という言葉が生まれた瞬間を知らなかったことです。
あの夜、工藤さんは別の部屋にいました。大泉さんの部屋で何が起きていたのか、現場では分からなかったのです。
ところが、そこで生まれた言葉を、その後の仕事によって誰よりも長く実践することになります。
あの宣言に加わっていなかった人が、本放送、再放送、DVD、再編集版と仕事を重ね、本当に「一生どうでしょう」を続けている。この少し不思議な関係からも、番組が四人だけで作られたものではないことが分かります。
四、五回見ても、笑う場所が変わる
一つの企画を四回から五回見るというのは、視聴者として楽しむためではありません。
映像を止め、音を選び、入れる場所を確認する仕事です。展開もセリフも、次に何が起きるのかも分かっている。それでも工藤さんは毎回笑ってしまうといいます。
しかも、いつも同じ場面で笑うわけではありません。
最初は大泉さんの言葉に笑い、次に見たときはミスターの表情が気になる。さらに見返すと、その後ろで聞こえる藤村Dの笑い声や、カメラを回し続ける嬉野Dの視線に気づく。
『水曜どうでしょう』の笑いは、一つのギャグだけで完成しているのではありません。誰かの言葉に別の誰かが反応し、その反応を見て、さらに次の言葉が生まれる。四人の関係そのものが重なっているため、見るたびに別の入口が見つかるのです。
藤村Dの強さと、意外なほどの繊細さ
工藤さんは、『モザイクな夜』の時代から藤村D、嬉野Dと仕事をしてきました。
藤村Dについて語っているのは、編集やテロップ、音楽を入れるタイミングの確かさです。何をどこで見せれば面白くなるのかが明確で、映像を組み立てる感覚が鋭い。そして当時から、ディレクターでありながら画面へ出ていくエネルギーを持っていました。
一方で、工藤さんは藤村Dの意外にかわいらしい一面も明かしています。
大泉さんから「デリカシーがない」という趣旨のことを言われた藤村Dが、本気で落ち込んでいたというのです。いつも大泉さんを追い込み、何を言われても豪快に笑っているように見える藤村Dが、そのひと言には傷ついてしまう。
強引に番組を進める力と、大泉さんの言葉をまともに受け止めてしまう繊細さ。その両方があるから、藤村Dは単なる「怖いディレクター」にはなりません。
年齢とともに強くなった嬉野D
嬉野Dについて、工藤さんは若い頃から仙人のようだったと振り返っています。
何かを強く主張するというより、静かに相手の話を聞く。嬉野Dに促されると、つい何でも話してしまいそうになる、不思議な雰囲気があったといいます。
しかし工藤さんの目には、嬉野Dは年齢を重ねるほど力強くなっているように映っています。いまでは藤村Dより元気なのではないかと思うほどだそうです。
『水曜どうでしょう』では、それぞれの役割が固定されているように見えます。
藤村Dが攻め、嬉野Dが見守る。大泉さんが話し、ミスターが企画を進める。けれども約30年という時間の中では、力関係も、前へ出る人も少しずつ変わっています。
嬉野Dが変わったからといって、昔の嬉野Dではなくなったわけではありません。静かに人を見つめる部分を残したまま、以前より強く言葉を発するようになった。
四人が昔と同じ役を守っているのではなく、それぞれが変化しながら関係を続けていることが、番組を懐かしいだけの存在にしていないのだと思います。
「何でもやる」ミスターと、「何でも拾う」大泉さん
工藤さんは、ミスターと大泉さんを二人とも「天才」だと語っています。
ただし、二人の天才性は同じではありません。
ミスターについて挙げているのは、「たっくん」や「タコ星人」のような役です。番組を企画し、大泉さんを旅へ連れ出す社長でありながら、必要になれば奇妙な格好をして、どんな役にでもなってしまう。
普通なら、自分がどう見えるかを考えて、どこかで格好をつけたくなるはずです。しかしミスターは、番組が面白くなるなら自分の立場やイメージを手放せる。その「何でもやる」という覚悟が、ミスターの天才性なのでしょう。
一方、大泉さんについて工藤さんが注目しているのは、観察力です。
大泉さんは、目の前で見た人や出来事をよく観察し、一度自分の中へ取り込みます。そして時間がたってから、別の形へ変えて面白く出してくる。
登山家、料理人、占い師、さまざまな人物の物まね。どれも何もないところから突然作っているように見えますが、実際には、それまでに見聞きしたものが大泉さんの中へ蓄積されています。
ミスターは自分を差し出し、大泉さんは周囲にあるものを吸収する。
方向は反対ですが、二人とも自分だけで笑いを完成させようとはしていません。相手や場所から渡されたものを受け取り、予想外の形で返すことによって、場面を大きくしているのです。
新作で、工藤さんが音を入れなくなった理由
工藤さんは、近年の新作について、以前よりドキュメンタリーのようになってきたと感じています。
それに伴って、自分も以前ほど多くの音を入れなくなったといいます。
初期の『水曜どうでしょう』には、若い大泉さんの勢いや、ミスターの無謀な企画、二人のディレクターとの激しいやり取りがありました。音やテロップによって笑いを強調することで、その勢いがさらに大きくなっていました。
しかし、年齢を重ねた四人が集まったとき、面白さの中心は少し変わっています。
何か大事件が起きなくても、四人が同じ場所にいる。昔の出来事を思い出し、互いの変化を笑い、予定どおり進まない時間をそのまま見せる。それだけで、長く見てきた視聴者には物語が生まれます。
音を入れる必要が減ったのは、番組の力が弱くなったからではありません。四人が過ごしてきた時間そのものが、説明や強調を必要としない“音”になったからではないでしょうか。
四人が変わるから、何度見ても面白い
工藤さんは、普通の番組は放送が終われば、そこで一区切りになると語っています。
しかし『水曜どうでしょう』は、再放送され、DVDになり、さらに新しい形へ再編集されてきました。工藤さんが入れた音も映像の一部として残り、何年たっても視聴者へ届き続けます。
同じ企画を四回、五回と見ても、笑う場所が変わる。
それは、映像の中にいる四人が、決められた役を正確に演じていないからだと思います。大泉さんが予想外の言葉を出し、ミスターが思わぬ姿を見せ、藤村Dが笑いながら攻め、嬉野Dが静かにその関係を記録する。
さらに年月がたてば、以前は気づかなかった表情や言葉が見えてきます。視聴者自身も年齢を重ねるため、昔とは違う人の気持ちが分かることもあります。
『水曜どうでしょう』の四人は、変わらないから面白いのではありません。
変化しながらも、同じ四人で集まり続けている。その関係を工藤さんのようなスタッフが残し、何度も新しい形で届けてきたから、見るたびに違う笑いが見つかるのです。
インタビューの最後に工藤さんは、四人に、もう一つでも『どうでしょう』を作ってほしいと願っています。
「一生どうでしょう」とは、同じ旅を永遠に続けることではありません。
それぞれが変わりながら、ときどき集まり、もう一度何かを始める。その瞬間を待っている人がいる限り、『水曜どうでしょう』はこれからも終わらないのだと思います。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第94夜では、「はみだしどうでしょう」に登場したonちゃんについて考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:見たものを笑いへ変える大泉さんと、何でも演じるミスターが面白い
B:年齢とともに変化しながら続いてきた、四人の関係が面白い
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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