
『水曜どうでしょう』大泉洋への“いたずら”は、なぜ笑いとして成立したのか|第82夜
前回の第81夜では、追分町から丸瀬布町、興部町、下川町へと走り続けた4人が、何も用意されていない旅を自分たちの遊びへ変えていく姿を振り返りました。
隣町を引けば全員で喜び、牛がいれば大泉さんが話しかけ、偶然出会った若者たちまで旅へ巻き込んでいきます。
「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」第三夜では、下川町から大成町、そして上ノ国町へ向かいます。
北海道北部から南西部まで、約500キロを一晩かけて走ることになった4人は、その長すぎる移動時間の中で、大泉さんを驚かす遊びを再び始めました。
ラッパ、風船、シンバル、頭蓋骨、そして最後にはパーティー用のバズーカまで登場します。やっていることだけを見れば、何度も一人を驚かせる、かなりたちの悪いいたずらです。
それでも、なぜこの場面は不快な嫌がらせではなく、『水曜どうでしょう』を代表する笑いとして残ったのでしょうか。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
約500キロの移動が、いたずらの舞台になった
第二夜の最後、ミスターが下川町で引いたのは上ノ国町でした。あまりにも遠かったため、偶然出会った若者たちへカードを渡して代わりに行ってもらおうとしますが、引き直したカードも、その近くにある大成町でした。
結局、どうでしょう班は大成町と上ノ国町の両方を回ることになります。下川町から大成町までは約500キロ。北海道を北から南西へ、夜通し走らなければならない距離です。
その途中、ミスターと藤村Dは、旭川で大泉さんを驚かせるための道具を買い込みます。大泉さんが席を外している間におもちゃ売り場へ行き、ラッパやパーティーグッズなどを選んでいたのです。
企画書に書かれた演出ではありません。第一夜でミスターが偶然、大泉さんの横へ手を出したところ、本気で驚いた。その反応を藤村Dが面白がり、移動時間を使った遊びとして、さらに大きくしていきました。
大泉さんも、何かが起きると分かっていた
重要なのは、大泉さんが何も知らなかったわけではないことです。ミスターたちが自分のいないところで、何かを買っている。その時点で、また驚かされることは想像できていました。
大泉さんは、買った道具をいつ使うのか、嬉野Dへ尋ねています。嬉野Dは「大成町へ着いてから、後で撮るらしい」と説明しますが、大泉さんは、それでは映像の時系列が合わないと疑問を口にしました。
ところが嬉野Dが「詳しいことは分からない」と答えると、大泉さんはそれ以上追及しません。後ろの3人が何かを企んでいると分かりながら、その遊びに付き合うことを選んでいます。
さらに3人は、大泉さんへ「今夜は登別に泊まる」と伝えていました。前回のカントリーサインの旅でも、長距離移動の途中で登別温泉に泊まっていたため、大泉さんは今回も休めると思っています。
しかし、実際には登別を通過し、一晩中走る計画でした。宿泊できるという安心感まで使い、大泉さんが油断する状況を作っていたのです。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
驚くために、後ろの存在を忘れていた
大泉さんは、後ろから何かが来るかもしれないと分かっています。それでも、稲川淳二さんの怪談へ一心に耳を傾け、運転と話の内容へ集中していました。
後の解説で藤村Dは、大泉さんが「何かされるかもしれない」という意識を、一度すべて自分の中から排除していたと話しています。
後ろを警戒し続けるのではなく、怪談へ集中することで、次に何かが起きた時、本当に驚ける状態へ戻っていたのです。
ここに、大泉さんのリアクションの不思議さがあります。仕掛けがあることは知っている。それでも、鳴らされたラッパに身体が跳ね、バックミラーに映った頭蓋骨を見て固まり、驚いた後には本気で怒っています。
すべてを知らない人の反応でも、最初から演技として決められた反応でもありません。
番組であることを理解しながら、その瞬間には本当に驚いている。この半分分かっていて、半分本気という状態が、どうでしょうらしい笑いを生み出していました。
驚かす側も、長い時間を待っていた
放送では、仕掛けが次々に繰り出されているように見えます。しかし後の解説では、一つのいたずらから次のいたずらまで、実際には15分ほど間が空いていたことも明かされています。
後部座席では、ミスターや藤村Dも怪談を聞きながら、道具を構えてタイミングを待っています。ラッパを鳴らすだけなのに、暗い車内で長い時間準備し、大泉さんが完全に油断する瞬間をうかがっていたのです。
つまり、驚かす側も簡単に笑いを得ていたわけではありません。大泉さんが怪談へ集中するのを待ち、最も効果的な瞬間を選び、音を鳴らす。その直後に大泉さんの顔を見て、子どものように喜んでいます。
前にいる大泉さんだけが、一方的に笑われていたのではありません。後ろで頭蓋骨をかぶり、バズーカを構え、真剣にタイミングを待っているミスターたちの姿も、同じくらい間が抜けています。
驚く人と驚かす人の両方が、馬鹿馬鹿しい遊びへ本気で参加している。だから視聴者は、大泉さんの反応だけでなく、それを見てうれしそうに笑う3人の姿まで含めて楽しめたのでしょう。
最後のバズーカまで、全員が役割を続けた
いたずらは、ラッパや風船、シンバルだけでは終わりません。最後には車を止め、運転席と後部座席の間を隠して、大泉さんへパーティー用のバズーカを向けます。
大泉さんは、何か大きな仕掛けが来ると分かっています。それでも、何が出てくるのか確認しようとして動きを止め、バズーカを撃たれた瞬間に大きく跳び上がりました。
その後、大泉さんは怒りながら反撃します。驚かされたまま受け身で終わるのではなく、自分の言葉や行動によって、いたずらを笑いとして返していくのです。
後の解説では、このやり取りが「プロとプロ」のぶつかり合いだったとも語られています。仕掛ける側は、大泉さんなら最後まで反応してくれると信じている。大泉さんも、3人が自分の反応を待っていることを理解していました。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
関係があれば、何をしてもいいわけではない
もちろん、親しい関係なら、同じことを誰にしても笑いになるわけではありません。後の解説でも4人は、学校の教室で同じことをすれば「いじめ」になりかねないほど、たちの悪いいたずらだったと振り返っています。
大泉さん自身も、驚いている顔ばかりを編集して見せられることについて、本人にとっては不愉快だと話しています。現在同じことをされたら腹が立つという本音も、隠していません。
それでも当時の映像が笑いとして残ったのは、大泉さんが嫌がっていないからではないでしょう。嫌がり、怒り、反撃するところまで含めて、4人の遊びとして成立していたからです。
驚かす側だけが満足し、大泉さんの反応を無視して続けていたら、笑いにはならなかったはずです。大泉さんが怒れば、その怒りを3人が受け止めて笑い、大泉さんも次の瞬間には再び怪談へ集中する。全員が相手の反応を見ながら、遊びを続けていました。
線路がなかったから、遊びが生まれた
大成町へ向かう道中には、何時間もの暇がありました。立ち寄る観光地も、決められたゲームもありません。
後の解説で藤村Dは、「人間には暇が必要で、暇があれば遊びが生まれる」と語っています。最初から番組の線路を作り、決められた演出に沿って進めていたら、このいたずらは生まれなかったのでしょう。
大成町へ到着した4人は、さらに上ノ国町へ向かいます。そして最後に引いたのは、北海道の反対側にある生田原町でした。さすがに旅を続けることはできず、ミスターは「雪が溶けたら」と手を振り、カントリーサインの旅Ⅱは終わります。
結局、4人は北海道212市町村を回り切れませんでした。しかし、下川町から大成町へ向かう約500キロの移動は、何も起きない空白ではなく、大泉さんをどう驚かせるかを全員で考える遊びの時間になりました。
『水曜どうでしょう』のいたずらが笑いとして成立したのは、単に4人の仲が良かったからではありません。
驚かす側が本気で仕掛け、大泉さんも本気で驚き、怒り、最後にはその反応を番組へ返していく。全員が違う役割で、同じ遊びを成立させようとしていたからなのです。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第83夜では、「『水曜どうでしょう』初めてのグッズは、なぜファンの『証』になったのか」について考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:いたずらは、相手が何も知らないからこそ面白い
B:相手も分かったうえで、一緒に成立させるから面白い
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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