
『水曜どうでしょう』2か月ぶりの4人は、なぜ「よそよそしさ」まで笑いに変えられたのか|第80夜
前回の第79夜では、「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」を振り返り、大泉さん、ミスター、藤村D、嬉野Dの4人が一緒に旅をすること自体が、『水曜どうでしょう』になったのではないかと考えました。
今回から第10章「何もない旅は、どうして4人の『遊び』になったのか」が始まります。取り上げるのは、ヨーロッパの次に行われた「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」です。
ヨーロッパという大規模な海外企画を終えた4人が、再び北海道を走り始める。しかし、久しぶりに集まった車内には、以前とは少し違う空気が流れていました。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
完成したはずの4人にも、距離が戻っていた
「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」のロケが始まったのは、1997年10月31日。ヨーロッパの旅から約2か月が経っていました。
それまでの企画は4週程度で放送されることが多かったのに対し、「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」は全9週に及びました。長期企画によって放送期間が延び、次のロケまでこれほど間が空いたのは、当時の4人にとって初めての経験でした。
この日は前枠・後枠の撮影を終えた後、そのまま夜にHTBを出発します。最初に向かうのは、前回のカントリーサインの旅で最後に引いた猿払村。札幌から約330キロ、東京からなら名古屋や仙台へ向かうほどの距離です。
大規模なヨーロッパの旅を終えた次の企画が、北海道を夜通し走るだけのカントリーサインの旅。しかも、出演者や制作陣が強く希望して始めた企画ではありませんでした。
最初のカントリーサインの旅は視聴者から好評だったものの、実際に長距離を走った4人は、積極的にもう一度やりたいとは思っていなかったようです。それでも周囲から期待する声があり、海外企画で予算を使った後でもあったことから、再び道内の旅へ向かうことになりました。
「よそよそしい」を、そのまま番組にした
久しぶりに集まった4人は、高速道路へ入ってから、自分たちの間に流れる空気へ気づきます。
「ちょっと、よそよそしいんじゃないか」
通常のテレビ番組なら、出演者同士の会話が弾まない時間は使いにくいものです。気まずい沈黙をカットし、楽しく盛り上がっている場面だけを残すかもしれません。
しかし、『水曜どうでしょう』では、会話が続かないこと自体が話題になりました。久しぶりに会った4人が、以前のような距離感へすぐには戻れない。その状態を隠すのではなく、自分たちで口にしたことで、「よそよそしい空気」が番組の一部になったのです。
これは、4人の関係が完成していなかったということではないと思います。どれほど親しい人たちでも、しばらく一緒に過ごしていなければ距離が生まれるという、ごく自然な姿を見せていたのでしょう。
最初から仲の良い4人を演じるのではなく、少しずついつもの調子へ戻っていく。その過程まで映してしまうところに、『水曜どうでしょう』らしさがあります。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
誰かの思いつきを、4人の遊びへ変えていく
会話が続かないまま高速道路を走り終えると、4人は車内で稲川淳二さんの怪談を聞き始めます。夜の北海道を走る車内に怖い話が流れることで、先ほどまでとは違う共通の空気が生まれました。
そして、怖くなったミスターが、運転中の大泉さんの横へ突然手を出します。大泉さんが驚くと、それを見ていた藤村Dが面白がり、車内にあった回転灯などを使って、さらに驚かせようとし始めました。
後の解説では、最初に何かを発想して取っかかりを作るのがミスターで、それを藤村Dが「面白い」と感じると、何度も繰り返していくと語られています。誰かに指示されて始めた演出ではなく、長い移動の途中で、4人が自分たちの遊びを見つけた瞬間でした。
大泉さんは、後ろで何かが行われていることを分かっていたはずです。それでも怪談や運転へ集中し、仕掛けられるたびに本気で驚きます。
ミスターがきっかけを作り、藤村Dが膨らませ、大泉さんがリアクションで笑いへ変え、嬉野Dがその様子を記録する。久しぶりに集まった4人は、この遊びを通して、いつもの役割へ自然に戻っていきました。
よそよそしさを解消するために、誰かが話し合いを始めたわけではありません。退屈な車内でくだらないことを始め、一緒に笑う。その時間が、4人の距離をもう一度近づけていったのだと思います。
何もない時間が、4人の距離を戻した
札幌から猿払村までの約330キロは、企画を進めるためだけに考えれば、長すぎる移動です。しかも、深夜に出発するため、美しい景色や観光地が映るわけでもありません。
しかし、この何もない時間があったからこそ、4人の空気が変わっていきました。
効率を考えれば、移動は短い方がいい。ところが『水曜どうでしょう』では、長い移動によって生まれる沈黙や疲労、退屈までが、番組を動かす材料になりました。
予定された見せ場がないから、自分たちで遊びを探す。会話が続かないから、その気まずさ自体を笑う。4人にとって移動時間は、目的地へ向かうための空白ではなく、関係を取り戻すための時間でもあったのでしょう。
ようやく猿払村へ到着すると、そこには番組のファンが待っていました。札幌から来るならこの道を通るはずだと予想し、4人が到着するのを待っていたのです。

(引用元:DVD「北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ」より)
後の解説で藤村Dは、当時すでに番組へ寄せられるはがきなどから、人気が高まっていることを感じていたと振り返っています。ただ、その熱気を実際に目の当たりにしたのは、この時だったといいます。
一方で藤村Dは、ファンと接した場面を撮影したことについて、当時は後悔も感じていました。『水曜どうでしょう』は、ファンを巻き込んで面白くするのではなく、4人だけの閉じた世界で進んでいく番組ではないかと、すでに意識していたからです。
番組の外では人気が高まり、4人を待つ人まで現れている。しかし車内では、その人気を意識することなく、4人だけの価値観でくだらないことを続けている。この内側と外側の差も、『水曜どうでしょう』が独自の世界を守るうえで大切だったのだと思います。
仲の良さではなく、戻っていく過程を見せた
2か月ぶりに集まった4人が、最初から以前と同じ調子で話せなかったのは当然だったと思います。
大切なのは、そのぎこちなさを失敗として消さなかったことです。「よそよそしい」と自分たちで口にし、長い車内でくだらない遊びを始め、一緒に笑いながら元の距離感へ戻っていく。その過程まで残したからこそ、4人の関係が作られたものではなく、本当の人間関係に見えました。
仲が良いとは、いつでも同じ距離にいられることではありません。少し離れても、また一緒に過ごすことで自然に戻っていける。その関係こそ、長く続く関係なのかもしれません。
『水曜どうでしょう』は、完成された4人の関係を見せる番組ではありませんでした。旅へ出るたびに距離が変わり、その都度、会話や遊びを通して関係を作り直していく番組でした。
だから、2か月ぶりの「よそよそしさ」も隠す必要がなかったのでしょう。その気まずささえ、4人で過ごせば笑いに変わる。
何も用意されていない長い道のりの中で、自分たちの遊びを見つけていく。「カントリーサインの旅Ⅱ」は、そんな4人の姿から始まりました。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第81夜では、「『水曜どうでしょう』何もない旅で、4人はなぜあれほど楽しそうなのか」について考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:久しぶりに会っても、すぐに以前の距離感へ戻れる
B:少しよそよそしい時間を経て、徐々に距離感が戻っていく
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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