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暪浜䞭華街・䞭山路には、月がふた぀ある──玉蓮ビルヂング異聞【3】

    📚 これたでのおはなし




    食卓に、カナず君代──お姉さんが座っおいる。

    「月月呀。
    ナッナッ」

    「月月
    ナッナッ」

    「係我同孞嚟㗎。日本人嚟㗎。
    私の同玚生だよ。日本人なんだ」

    「女仔
    女の子」

    「唔係、男仔。
    違う、男の子」

    「點解叫月月呀
    どうしおナッナッっおいうの」

    「䜢叫朋暹嘛。有兩個月呀。  
    朋暹っおいうんだもん。月がふた぀あるんだよ」

    「月ふた぀、ですか」

    「月月屋䌁敎月亮嘅逅呀。
    ナッナッの家では、月のお菓子を䜜っおるんだ」

    「カナさん、それは月逅。䞭秋節のお菓子。それから  家では、日本語」

    「月逅──ナッナッの家はお菓子屋さん。雯雯マンマンのお店にもある」

    「ナッナッは広東語を話す」

    「党郚話す。䞭囜人だず思っおた」

    「どうしお」

    「肥豬フェむゞュヌたちずも、マンマンたちずも普通に話す」

    フェむゞュヌは、クラスのボス栌の倧陞系䞭囜人の子の、陰の呌び名だ。広東語で「豚野郎」ずいう意味になる。

    「あら」

    「日本人の子ずは、あたり話さない」

    「カナさんは」

    「誰でもいい」


    カナは、暪浜䞭華孊院の6幎生になっおいた。

    今では孊校で䞭文に苊劎するこずもない。
    むしろ、日本語を䜿う機䌚の方が少ないくらいだった。
    だから君代──お姉さんは、「家では日本語」ず決めた。

    突然やっおきた日本人に察しお、圓たりのき぀かった䞀郚のクラスメヌトたちも、肥豬がカナに手もなくひねられお以来、衚立っお䜕かを蚀うこずはなくなった。

    もちろん、だからずいっお仲良くなったわけでもない。

    ──その䜓術は、君代に仕蟌たれたものだ。

    だから、今もカナはずきどき歊蔵小杉の小さな家の庭で、君代から“身䜓の䜿い方”を教わっおいる。


    「ナッナッは、どんな子」

    「わからない」

    「お友達なのに」

    「い぀も絵を描いおる。あんたり話したこずない」

    「でも、カナさんずも、フェむゞュヌずも話したすか」

    「そう」

    カナのいた教宀では、誰もが䞭文を孊び、普通話や広東語が圓たり前のように飛び亀っおいた。
    しかし、その教宀にも目に芋えない境界はあった。

    䞭囜本土。台湟。そしお暪浜䞭華街で育った華僑たち。
    そこに、アゞア圏のビゞネスマン家庭の子女や、なんらかの事情で通う日本人が加わる。

    カナは最初、どのグルヌプにも近づくこずはできなかった。
    日本人も、むしろ日本人同士で固たるこずは少なかったからだ。

    最初に仲良くなった友達──ベトナム人のリンは、垰囜しおしたっおもういない。

    䞭華街のお店の子䟛たちは、そんな空気の䞭で比范的自由に泳ぎ回っおいる方だった。

    マンマン──家業のレストランの自称“看板嚘”は、なにかずカナにちょっかいを出しおくる。

    「喂、䜳奈、做返嗰次啊 打䜎肥豬嗰次
    ねえ、カナ、あのずきのや぀やっおよ フェむゞュヌを倒したずきの」

    「唔奜。
    やだ」

    カナも、぀れなくしおいるわけではない。
    君代に「人前で軜々しく身䜓を䜿うな」ず厳しく蚀い぀けられおいるからだ。

    それでもマンマンは、カナを自分の倧奜きなゞャッキヌ・チェンか䜕かのように持ち䞊げるのだった。


    その日──

    子䟛たちは図工の授業で、同玚生の肖像を描いおいた。
    お互いがお互いをモデルにしお絵を描く。

    教垫は、子䟛たちがい぀ものグルヌプで固たっおしたわないよう、垭の䞊びで組み合わせを決めおいた。

    カナの盞手は、隣の垭のナッナッだった。

    い぀も䞀人で垭に座り、ノヌトに絵ばかり描いおいるナッナッには、自分がどんなふうに芋えるのか。
    それを知るのが、カナは少しだけ楜しみだった。

    しかし──

    「月月就是鬌子的埡甚画垈
    ナ゚ナ゚は鬌子のお抱え絵垫だ」

    ──阿傑アキットだ。

    口ばかり立぀アキットは、日本人なら誰圌かたわず目の敵にしお回る。
    ボスのフェむゞュヌがカナに察しおおずなしくなった今も、その口だけは容赊ない。
    教垫には聞こえないような声ず、絶劙なタむミングで、“鬌子”ずいった匷い蚀葉を平気で口にする。

    「到底买倚少䞪月饌、才胜让人给䜠画画啊
    どんだけ月逅を買えば、絵を描いおもらえるんだ」

    食いしん坊の國匷グオッキョンは、アキットに加勢しようずしおも、結局は奜物の月逅の話になっおしたう。

    「笚蛋啊䜠、敎倩就知道吃
    バカだな、お前。食うこずしか考えおないのかよ」

    アキットも、心の底から日本人を嫌っおいるわけでもないのだ。

    「䜠哋唔奜搞啊──
    もうやめなよ──」

    マンマンだった。

    「吓月月、䜠畫緊䜳奈㗎
    え ナッナッ、カナを描いおるの」

    「係呀。
    うん」

    「䜆係呢個──
    でもこれ──」

    グオッキョンが、のしのしず歩いおきた。アキットも埌ろから芗きこむ。

    「什么啊、这䞍是掋嚃嚃吗
    なんだよ、これ。人圢じゃん」

    「这䞋奜了、鬌子连魂郜被抜走了
    こりゃいいや、鬌子は魂たで抜かれちたった」

    アキットがナッナッの画板から画甚玙を぀たみあげ、みんなに芋せるようにヒラヒラず掲げた。

    たしかに、そこに描かれたカナの姿は、倧きな頭をしお前髪を切りそろえたお人圢さんのようだった。

    「就连婎儿的倎也没这么倧吧。
    赀ちゃんだっお、こんなに頭倧きくないぞ」

    ナッナッは静かに、アキットの気がすむのを埅っおいるようだった。

    䌑み時間に、先生が教宀の埌ろに貌り出した絵の䞭に、ナッナッが描いたカナの姿はなかった。


    攟課埌──

    「ナッナッ」

    「䜕」

    「どうしお」

    「䜕が」

    「私の絵」

    「ああ、さっきの」

    「カナはお人圢じゃない」

    「  カナは今日も電車に乗っお垰るんだよね」

    「うん」

    「ちょっず䞭華街の方に寄り道できる」


    これたでも、孊校の垰りに䞭華街に寄り道をしたこずはある。
    マンマンのお家に行ったずきは、煎堆や杏仁豆腐をご銳走しおもらった。

    でも、ナッナッは、カナをどこに連れお行く぀もりなのだろう。

    校門の前は関垝廟通り。巊ぞ歩いおいくず、䞭山路ずの亀差点の角に関垝廟がある。
    カナず䞊んで歩くナッナッは、その角で立ち止たった。

    「ここを右に曲がったら、僕の家」

    「お家に行くの」

    「その埌ね」

    「」

    角を曲がっお少し歩くず、癜い壁に倧きな窓のあるお店があった。
    お店──なのはわかる。でも、よくわからない。レストランではないようだ。

    「ほら、あの子」

    ナッナッが瀺した窓の䞭に、小さな女の子が、小さな怅子に座っおこっちを芋おいた。

    栗色の長い髪、切りそろえた前髪。倧きな頭の䞭倮にある、真ん䞞で真っ青な瞳、長いた぀毛──濃いグリヌンのドレスを着た、これたで芋たこずもないような人圢だった。
    でも、髪も顔も、なんだかちょっずくすんでる。もしかしたら、叀いものなのかもしれない。

    「蔡さんのお店はシャッタヌが無いから、朝でも倜でも、この子に䌚えるんだ。時々、ドレスを着替えおる」

    「䜕屋さん」

    「服ずか雑貚ずか、そんなの。この子も、蔡さんがアメリカで買っおきたんだっお」

    かわいいずいえば、かわいいのだけれど、頭だけがずいぶん倧きい。
    そのバランスの悪さは、これたで芋たこずのあるどんな人圢よりも極端で、ずおも奇劙に思えた。

    ──今日、ナッナッが描いたカナの肖像は、この人圢によく䌌おいた。

    「カナはこのお人圢さんでもない」

    「そんなの、圓たり前じゃん」

    「うん」

    「でも僕、この子が奜きだから」

    カナは、なんず返せばいいのか、困っおしたった。

    「すぐこの先──僕の家」

    ナッナッの家がお菓子屋さんなのは知っおいた。
    でも、こんなに孊校のそばにあるのは知らなかったし、お店ずお家が䞀緒なこずも知らなかった。

    お店に入るず、なんだか甘い匂いがした。

    「おかえり、あら朋ちゃん、お友達連れおきたん」

    ナッナッのお母さんは、優しそうな日本人だった。
    テレビでしか聞いたこずのない、ちょっず違う日本語を話しおいる。

    「䜠奜。銙吧 䜠知道我們家是做糕點的嗎
    こんにちは。いい匂いでしょう うちがお菓子屋さんなのは知っおた」

    「月亮嘅逅──月逅嘅店。  
    月のお菓子──月逅のお店」

    「お母さん、カナは日本人だよ」

    「あらやだ、堪忍ね。でもカナちゃん、広東語ほんた䞊手やねえ。
    お母さんが䞭囜人なん」

    「──知らない。䌚ったこずないから」

    「あら  おばちゃん、䜙蚈なこず蚀うおしもうたわ。これも堪忍な。
    そうや、カナちゃん、“月亮嘅逅”食べるか うちんずこのは、䞭華街䞀矎味いんやで」

    枡された月逅は、カナがこれたで芋たこずのあるどんな“月亮嘅逅”よりも倧きかった。

    「ほんたはな、銬拉糕マヌラヌカオ食べおもらいたいんやけど、い぀も早い時間で売り切れおしたうねん。
    孊校が䌑みのずきにでもな、たたい぀でもおいで。埅っおるさかい」

    「銬拉糕、わかる」

    「わからない」

    「たあ、カステラだよ。䞞くお、おっきいの。
    うちのは、ほんず矎味しいから」


    そのあず、カナは週末の午前䞭に、ナッナッの家に行ったこずがある。
    君代が䞭華街に出かけるずき、䞀緒に぀いおきお、君代が甚事を足しおいるあいだに、䞭山路たで来おみた。

    「あら、カナちゃんやないの。今日は銬拉糕あるで」

    お店の䞀角に眮いたテヌブルで、カナはただ枩かい銬拉糕をご銳走になった。
    ガラスの茶碗の䞭で、花が咲いおいるお茶も出しおもらった。

    カナは、今ならそれが工芞茶ず呌ばれるものだず知っおいる。

    それからも、䜕床かナッナッず䞀緒に䞭華街を歩いた。

    あるずき、ナッナッの高校生のお姉さんに、

    「朋暹のくせに生意気だぞ、ガヌルフレンドなんお連れちゃっお」

    ──ず、からかわれたこずがある。

    ナッナッは、真っ赀になっおう぀むいおしたった。

    カナはそのずき、ナッナッが䜕を考えおいたのか、よくわからなかった。

    倚分、今はもっずよくわかっおいない。

    そしおナッナッは、䞭華孊院の䞭孊郚には進たなかった。
    どこかの私立䞭孊を受隓しお、そっちに進孊するこずになったからだ。

    倏䌑み明けからは塟が忙しくなったようで、攟課埌に䞀緒に䞭華街を歩くこずもなくなった。

    最埌に話したのがい぀ごろだったのか、今ずなっおはもう思い出せない。


    「䞍過講真、月月嗰陣時䞀定係鍟意䜠㗎喎。
    でもさあ、ナッナッは絶察カナのこず、奜きだったよね」

    「唔知。
    わからない」

    「吓 䜢冇同䜠講過啲咩咩
    えヌ、なんか蚀われたりしなかったの」

    「冇講過。
    蚀われおない」

    結婚しお店を継いだマンマンは、今でもずきどき、よくわからないこずを蚀う。
    でも、マンマンの店の焌豚飯は、い぀も矎味しい。

    マンマンの店で売られおいる月逅は、今もナッナッのお家のものだ。

    レゞのカりンタヌの埌ろの壁には、藝倧を出お画家になった、ナッナッの描いた絵が額に入れお食られおいる。第4話に぀ゞく




    📚 ゎスロリのカナが綎る、日々の蚘録──「カナログ」マガゞン


    📚 ゎスロリの守護倩䜿・カナのいる䞖界──玉蓮ビルヂング異聞マガゞン


    📚玉蓮ビルヂングの初登堎回は、こちら。


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    動物ず食べ物ず、少し危うい日垞を曞く、氞遠のアラサヌ。 小説ず日垞の芳枬ログ、ずきどき別人栌に倉身。 事実ベヌスの私小説だけの䜜颚から抜け出したくお、ネリリ、キルル、ハララ䞭。

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