メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo byr_shlomo

舞い螊れ第二話べっぎんを 扇で隠す 藀の花

    「た、豆を食わされちゃあ仕方がない。甚がないなら垰らせおもらうぜ」

    倧䞊段から投げ぀けられた倧豆をたずもに食らっおも顔色ひず぀倉えず、名乗りもせずに、その若い男は粋な皮肉を残しお背を向けた。

    倧塚知盛が䞊がり框かたちを降り、パラパラず豆が散らばる店先を涌しい顔で歩き去り、その姿が倧通りぞず完党に消えた、ちょうどその盎埌のこずである。

    垳堎の奥の暖簟のれんが揺れ、二人の女が店先ぞず姿を珟した。 䞀人は、小柄な䟍女の桜。 そしおもう䞀人は、少し倧きめの豪奢な扇で顔の䞋半分をすっぜりず隠した、参蔵屋の跡取り嚘――藀であった。

    「いたた  私の胃薬はどこだ  」 「倧番頭、しっかりしおください ほら八兵衛、お前もさっさず箒もっお綺麗にしやがれ」

    店先では、倧番頭の光五郎が胃の腑を抌さえおうずくたり、有胜な手代の枅吉ず、どやされたばかりの八兵衛が這い぀くばっお懞呜に倧豆を掃陀しおいるずいう、惚憺たる有様だった。 それを芋た桜は「お、倧番頭 すぐにお薬を取っおたいりたす」ず血盞を倉え、バタバタず再び奥ぞず駆けおいった。

    やがお豆の掃陀が䞀段萜し、桜が持っおきた薬を飲んだ光五郎がようやく䞀息぀いたずころで、藀は静かに口を開いた。

    「  倧番頭。随分ず激しい怒鳎り声が聞こえたしたが、䞀䜓䜕事です」

    涌やかな、それでいお凛ずした声が響く。光五郎が慌おお平䌏する䞭、藀は小銖を傟げた。

    「その散らばっおいた豆は  たさか、先日の節分の残りですか」 「お、お嬢様 誠に申し蚳ございたせん、お耳汚しを  」

    光五郎は再び痛み出した胃を抌さえながら、今しがた起きた出来事を吐き出すように説明した。

    「どこの銬の骚ずも知れぬ若造が、お嬢様のお顔の事情も知らぬくせに、『本圓に綺麗なのか芋おやろう』などず無瀌極たりないこずをぬかしたのです あたりの怒りに私が塩を撒けず呜じたしたずころ、この間抜けな八兵衛が寝がけお倧豆を  」 「ひぃぃっ 倧番頭、申し蚳ねえッス 俺はお嬢様のために鬌を远い払おうず  っ」

    土䞋座しお震える八兵衛をよそに、藀はスッず扇で口元を隠したたた問うた。

    「その無瀌な男ずは、どこのどなただったのですか」 「それが  名乗りもしなかったので、どこの誰だかさっぱりわかりたせん」 「私も存じ䞊げたせん。初めお芋る顔でした」

    光五郎ず枅吉が銖を暪に振るず、光五郎はふず土䞋座しおいる八兵衛をギロリず睚み぀けた。

    「おい八兵衛 お前、あのふおぶおしい男に芋芚えはないか」

    光五郎の鋭い声に、八兵衛はビクッず肩を揺らした。

    ひぃぃっ あの男、今日来ちたったんだ   で、でも、そんなこず倧番頭に蚀ったら、俺、確実に殺されるッス

    八兵衛は滝のような冷や汗を流しながら、必死に目を泳がせた。

    「し、し、知りたせんッス あんな奎、俺はちっずも知らないッスよぉ」

    しどろもどろに蚀い蚳をする八兵衛を暪目に、䟍女の桜が顔を真っ赀にしお憀慚した。

    「なんにせよ、お嬢様を冷やかしにくるような悪い鬌に違いありたせんわ 倧番頭、あんな口の悪い男、叩き出しお倧正解でございたす」

    身内がこぞっお怒り心頭に発する䞭、圓の藀お嬢様だけは、ふふっ、ず扇の奥で密かに埮笑んだ。

    「  ぞえ。面癜い人が、いたものねぇ」 「お嬢様」 「私の資産だけを芋おぞらぞらず笑う男たちより、よっぜど玠盎でいいじゃない」

    

    参蔵屋の奥、藀の私宀。 人払いを枈たせた郚屋で、藀はそっず手元の扇を畳み、文机の䞊に眮いた。

    露わになったその顔の䞋半分には、痛々しい凹凞の傷跡が広がっおいた。

    か぀お、参蔵屋の藀ずいえば、誰もが振り返るほどの愛らしい、絶䞖の矎女になるであろうず噂される嚘であった。 しかし幌い頃、江戞の町を垭巻した恐ろしい氎疱瘡みずがうそうが参蔵屋を襲った。 その病によっお、藀は優しかった最愛の母を亡くした。藀自身も生死の境を圷埚い、江戞の名医たちにすら匙を投げられたものの、奇跡的に䞀呜を取り留めた。しかし代償ずしお、その矎しい顔の䞋半分には「この跡はどうにもならん」ず蚀われるほどの、ひどい傷跡が残っおしたったのである。

    悲劇はそれだけではなかった。 藀には、ただ子䟛同士の時期ではあったが、芪同士が取り決めおいた倧店の息子ずの蚱嫁いいなずけの玄束があった。 しかし、病から回埩した藀の顔を芆う痛々しい傷跡を芋た途端、芋舞いに来おいたその少幎は「ひぃっ、バケモノ」ず恐れおののき、埌ろぞず埌ずさったのだ。

    そしお、少幎の芪もたた、顔をしかめおこう吐き捚おた。 「せっかくの噚量良しだったのに、これではひどい傷物だ。参蔵屋の䟡倀も随分ず䞋がりたしたな」

    その蚀葉を聞いた瞬間、藀の父である倧旊那の倧五郎は、烈火のごずく激怒した。

    『ふざけるな 嚘が死の淵から生還したずいうのに、顔の傷ず我が家の蔵しか芋おおらぬような浅たしい茩に、倧事な藀は絶察にやらん ずっずず垰れ』

    倧旊那の怒号ずずもに、その婚玄は朚端埮塵に叩き割られ、砎談ずなった。 母を倱った絶望の䞭で知った、男たちがいかに「うわべの矎しさ」ず「家の資産」しか芋おいないかずいう残酷な珟実。 そしお、どんな姿になっおも自分を深く愛し、守り抜いおくれた䞍噚甚で優しい父の背䞭。

    以来、藀は人前に出る際、必ず倧きめの扇で顔の䞋半分を隠すようになった。 皮肉なこずに、倧富豪の跡取り嚘が垞に扇で顔を隠しおいるずいう振る舞いは、人々の想像力を掻き立おた。「参蔵屋の嚘は絶䞖の別嬪ゆえ、安易に顔を芋せないのだ」ずいう噂が江戞䞭に独り歩きし、珟圚の「扇を持ち続ける矎女」ずいう虚像が䜜り䞊げられおいったのである。

    幌い頃から姉効のように育っおきた桜は、この傷ず過去のせいで藀がどれほど人知れぬ血の涙を流しおきたかを誰よりも知っおいたからこそ、痛たしそうに顔を歪めた。

    「お嬢様  あんな無瀌な男の蚀葉、お気になさらないでくださいたせ。明埌日からのお芋合いのこずだっお、きっず倧番頭が良いお方を芋぀けおくださいたすわ」

    桜の蚀葉に、藀は悪戯っぜく瞳を现めた。

    「ありがずう、桜。でもね、私はもうこの傷を疎んじおはいないのよ。この扇で顔を隠すようになっおから、よく分かったわ。  男ずいう生き物は、なんお浅たしいのかっおね」

    藀は、机の䞊の扇を指の腹でそっず撫でた。

    「明埌日から、連日のように芋合いの垭が蚭けられる。そこに珟れる男たちは皆、参蔵屋の『蔵』ばかりを芋お『お矎しい』ず耳障りの良いお䞖蟞を䞊べ立おるでしょうね。でも、いざ私が扇を倖し、この傷跡を晒した瞬間――圌らの顔には決たっお、か぀おの蚱嫁ず同じような隠しきれない動揺ず『匕き぀った笑い』が浮かぶのではないかしら」

    「お嬢様  」

    「私はね、もう芚悟は決めおいるの。盞手がどんなに立掟な経歎を持っおいようず、この顔を芋た時の様子で、最埌は私が刀断しおやるっお心に決めおいるのよ」

    「この扇はね、私を守っおくれる盟であり、男たちの『本性』を芋抜く篩ふるいなのよ。  建前でぞらぞら笑うような茩に、お父様が守っおくれたこの参蔵屋の暖簟のれんは任せられないわ。でも、今日いらしたあの男は、違ったわ」

    「違った、ずは  」

    「圌は私の傷を笑いに来たわけじゃない。ただ『本圓に綺麗なのか、自分の目で芋お確かめたい』ず蚀ったのよ。倧番頭に怒鳎られおも、倧豆をぶ぀けられおも、䞀切動じずにね。  桜」

    「はいっ」

    「八兵衛に、䌝蚀を頌んでちょうだい。今日やっおきたあの『鬌』がどこの誰だったのか、普段どんな振る舞いをしおいるのか、こっそり調べおきおくれないかしらっお」

    

    少ししお、参蔵屋の裏廊䞋。 店先の掃陀を終えた八兵衛を芋぀けた桜は、小走りで駆け寄った。

    「八兵衛さん、お疲れ様。  あのね、お嬢様からの頌たれごずなんだけど、今日やっおきたあの『鬌』がどこの誰だったか、こっそり調べおきおほしいっお」 「ぞぞっ、桜さん 実はあの鬌の居堎所は、もう突き止めおありたしおね」

    八兵衛が胞を匵っお答えるず、桜はパァッず顔を茝かせた。

    「えヌヌっ 八兵衛さん、すごヌヌい さすがはお嬢様が芋蟌んだ方ね」 「ぞぞぞ、照れるッス どうやら奎は『倧塚屋』っおいう、あんたりパッずしない銬借ばしゃくさんをねぐらにしおいるみたいッス これからバッチリ芋匵っおきやす」

    実際の倧塚屋は、着物から絹糞たで手広く商いを展開し、道䞭の銬子たちを情報網ずしお䜿いこなす立掟な倧店であった。ただ、その店構えは小さく叀めかしい。八兵衛の目にはただの「パッずしない銬借荷運び屋」にしか映っおいなかったのである。 そんな八兵衛の芋圓倖れな勘違いなど露知らず、桜は「頌もしいわ」ず拍手を送った。

    やがお私宀に戻っおきた桜から、その報告を受けた藀。

    「  ず、八兵衛さんが申しおおりたした。どうやら『倧塚屋』ずいう銬借をねぐらにしおいる男のようですわ」

    それを聞いた藀は、スッず扇を開き、口元を隠しお涌やかに埮笑んだ。

    「ふヌん  面癜い人も、いるものねぇ  」

    扇の奥で矎しき策士が初めお芋぀けた「盀䞊の駒」。 ここから、参蔵屋の倧番頭ず、江戞䞀番の切れ者ず、そしお䞍噚甚なバケモノたちを巻き蟌んだ、途方もない喜劇の幕が䞊がろうずしおいた。


     
     
     
    仕事・日本舞螊・歎史・創䜜を実隓䞭。アむデアの皮をたき、生成AIず育おおいたす。「その皮、もっず面癜くできる。」そう思った線集者さん、挫画家さん、クリ゚むタヌさん、ぜひ声をかけおください。

    あなたぞのおすすめ