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【小説06】䞍法䟵入ず股匕の屈蟱『癜犬に食たれお』



 目が芚めるず倜だった。腹が無性に空いおいた。シヌ゚スタに向かった。県道を枡るず女子校の門たでたっすぐな道が䌞びおいる。右手は田䞊の文房具屋、家庭裁刀所、その先はずっず䜏宅が軒を連ねおいる。巊手は角に菅田のおばさんのお菓子屋さん、職業安定所があっお、小川さんの敷地の生垣が続いおいる。
 やがお邞ぞ通じる門がある。門ず蚀っおも戞があるわけではなく、生垣が切れたずころが入り口ずなっおいるにすぎない。入り口を入るず、暹朚が怍えられおいないずころが道ずなっおおり、邞ぞず通じおいる。入り口は垞に開攟されおいるにもかかわらず、私は入るこずができないのだ。郵䟿配達人も新聞配達人も小川さんの倫も入るこずができるが、私は入るこずが蚱されおいない。入ったずすれば犯眪である。䞍法䟵入である。
 甚事があれば入っおも差し支えない。小孊6幎生のずき、匟のたヌちゃんが郵䟿配達のバむクに蜢かれた。あのずきは肩ベルトの取れたランドセルを持っお、事故を知らせに邞たで行った。急甚があったのだ。今ずなっおは䜕の甚事もないのだ。そもそも小川さんは屋敷には䜏んでいない。再婚しおどこかぞ行っおしたった。それなのに私はこのあたりをりロりロしおいる。
 私は門のずころで立ち止たり、邞の方を眺めおいた。暹朚から提灯がぶら䞋がっお、たくさんの人圱を照らし出しおいた。話し声や笑い声が聞こえおくる。お祭りだろうか。パヌティヌだろうか。楜しそうだ。参加できない自分がもどかしかった。邞は朚々に芆われお芋るこずができなかった。小孊生のずきは䞀望できた。屋敷を取り囲むねずみ色の壁の向こうに離れの棟がある。窓の䞭に小孊生の小川さんがいる。おや぀を食べながら䞋校する私を眺めおいるのだ。圓時は朚々は怍林されたばかりで背が䜎かった。朚ず朚の間には広い空間が広がっおいた。今では成長しお枝ず枝を寄せ合い、密集しお眺望を阻んでいる。
 成長した幹の間から3人の人圱が珟れた。3人ずも癜いワンピヌスの倏服を着お、麊わら垜子をかぶっおいた。子䟛が2人ず倧人の女性。私は慌おお垣根の圱に隠れた。あの日、その3人ず門のずころですれ違った。あの日はシヌ゚スタで食事を枈たせた垰りだった。私は倱業䞭だった。マヌトン・グロヌバル・むンクをいじめ抜かれお蟞めお半幎が過ぎた頃だった。眠りだけが仕事の毎日が続いおいた。
 長い眠りから芚めるず無性に腹が空いおいた。たた眠ろうずしたが、どうにも我慢ができなくなった。぀いに久方ぶりに䞇幎床から起き䞊がる矜目になったのである。アパヌトの2階から降りお、誰もいないこずを確認するず、隣の自宅に䟵入しお食糧を持った。食べかすのぞばり぀いた皿があるばかりで、胃袋に入るものは䜕もなかった。父ず母は倒産寞前の工堎ぞ出かけ、狂ったように働いおいた。家には誰もいなかった。私は無抵抗で倒産を埅぀身で、シヌ゚スタに向かった。
 行きは誰にも䌚わなかった。昌䞋がり。死んだような街。深閑ずしおいる。通るのは幜霊だけか。垰り、葛岡女子高等孊校の校門を巊に曲がったずころで、初めお人圱が立った。たっすぐな道の遥か圌方に、人圱が揺らめいおいた。顔が識別できる距離に接近した時から、倧人の女性を芋るこずはやめた。すれ違うずきも2人の嚘を芋おいた。先頭を行く嚘は歩くこずに倢䞭だった。歩けるようになったばかりだ。3人瞊に䞊んでいた。最埌尟の嚘は小孊校の1幎生になったばかりか、あるいは来幎1幎生になるかずいう幎頃。草を手にしお匄んでいた。
 私は振り返るこずを必死で堪えた。菅田のおばさんのお菓子屋さんの前たで来た。県道を枡るずき、我慢ができなくなっお振り返っおしたった。3人は門の前にただいた。真倏の倪陜が頭をガンガン打った。草履を匕きずっおおが぀かない足取りで、フラフラしながら䜕ずか2階の自宀にたどり着いた。ゎミに埋もれた䞇幎床にため息を぀いお倒れた。埌は眠るしかなかった。腹が空いお我慢ができなくなるたで、たた眠り続けよう。忘れおしたおう。小川さんがこんなずころにいるはずがない。あの女性が小川さんであるはずがないのだ。私の知らない遠い土地で、小川さんは生きおいる。私の目に觊れおはいけない人だ。珟実䞖界にはもう出珟しない。倢の䞭か、空想の䞭でしか䌚うこずはない。私はこの奇跡ずしか蚀いようのない出来事を吊定した。神の配剀である邂逅を芋事に頭から消し去った。眠れ眠れ、珟実なんおくそくらえだ。
 芋るず䜓操服を着た小孊生たちで通りは賑わっおいた。みんな女子校の校門の方ぞ流れおゆく。葛岡第2小孊校の屋䞊では、カヌルシュミット圗星を芋る䌚が催されおいるのだ。小孊生たちに玛れお流れに身を任せた。シヌ゚スタは通孊路の途䞭にある。䞀緒に歩いおいれば自動的に到着できる。突き圓たりの校門を右に折れ、小さな倉電所を巊に曲がるず、再び女子校の長いブロック塀が続く。ブロック塀の前で立ち止たった。盞合い傘の萜曞きがしおある。
 私の名前ず転校生の女の子の名前が䞊んでいる。小川さんが曞いたに違いないず私は思った。四角い顔をした色癜の䞊品そうな女の子だった。䞋を芋るず股匕を履いおいた。ズボンを履くのを忘れおいた。匕き返すこずにした。女子校の校門たで戻った。巊には折れずたっすぐ行った。しばらく行くず庭に仕切りのない人家がある。道ず庭の区別がないのだ。この堎所がいちばん芋通しが良かった。高窓から明かりが挏れおいるのが芋えるのだ。
 小川さんは高校生たでこの明かりの䞋で勉匷しおいた。どうしおそこが小川さんの郚屋であるず私は知っおいるのだろう。はっきりずは芚えおいないが、倚分母の話の聞きかじりだろう。䞭孊生のずき、倜䞭に小川さんの屋敷を自転車で回った。柵も塀も垣根もないこの倉な家の前を通りながら、高窓の光を芋お勉匷しおいる小川さんを想像した。すぐそこに小川がいるのだず思うだけで興奮した。
 敷地は広倧だったから、䞭倮に邞を構えるず防犯䞊よろしくない。2方面は通りに面した人家に隣接しお、ねずみ色の塀を建おおいた。塀のすぐ䞊に高窓の明かりが芋える。いおもたっおもいられなくなっおしたった。今日、小川さんは実家に垰っおいる。子䟛たちを2人連れお。気づくず私は人家の庭を這っおいた。小川さんの屋敷の方ぞ匍匐前進しおいる。垣根たで来お、隙間から敷地の方を芗く。朚々から垂れた提灯の明かりが、掻動的な客人たちを映し出しおいた。
 積極的に瀟䌚掻動をしおいる人々だ。商工䌚議所や議䌚の名士、有名なスポヌツ遞手や芞胜関係者、屋敷を取り囲む近隣䜏民も、倖囜人も招埅されおいた。芪族もたくさん集たっおいるに違いない。所々テヌブルが眮いおある。盛り付けられた料理が山盛りになっおいる。高い声で熱匁しおいる者もいれば、抱き合うようにしお螊っおいる者もいる。アルコヌルもだいぶ入っおいるようだ。みんなカヌルシュミット圗星の飛来を祝っおいるようである。私の目は麊わら垜子の3人を探しおいた。
 2匹の犬に噛み付かれたずき、䞊半身が小川さんの敷地内に䞍法䟵入しおいた。垣根の隙間から芗き蟌んでいるうちに、腹這いで少しず぀前進しおしたったようである。立ち䞊がっお手を振っお、2匹の犬を振り萜ずそうずした。指ず指の間の肉薄の付け根で、チュヌむンガムのように䌞びお離れない。振り回しながら隣家の庭を抜けお道に出お逃げた。
 小川さんの敷地の呚りの道を走った。小川さんの材朚工堎たで来たずころで匕き剥がすこずに成功した。癜くお小さくおおしゃれに刈り蟌たれた犬だ。こっちを睚んでキャンキャン吠える。䞀定の距離を保っお远いかけおくる。远い払おうずするず逃げるが、たた远いかけおくる。し぀こいので材朚の砎片を投げ぀けおやったがひるたない。
 県道を枡るずむトヌマルサンだ。倧手のスヌパヌだ。小川さんが土地を貞しおいる。昔は材朚眮き堎だった。小孊生の頃の私の遊び堎だ。あの頃は自由に䞍法䟵入しおいた。誰からも咎められなかった。今は䞍法䟵入しお犬に远われおいる身である。巊がむトヌマルサンの建屋、右が駐車堎、抜けるず道があり、巊に曲がれば我が家だが、犬を巻いおからでなければ垰れなかった。小川さんの屋敷を芗いおいたこずが䞡芪にバレおしたう。
 たっすぐ行った。やがお線路の土手に出る。草ボヌボヌの斜面を登った。斜面はなかなか終わらなかった。草の背䞈は䞊るに぀れお高くなる。犬の鳎き声が小さくなった。這い䞊がるようにしおどうにか草むらから抜け出るず、そこは初めお来た土地だった。地面がツルツルずしお固かった。ポツンポツンずみすがらしい掘っ立お小屋が建っおいるだけだ。わけのわからぬ家畜が䞭で飌育されおいるようである。この肉を売っお现々ず生掻しおいる貧しい人々が䜏んでいるようなのだが、姿は芋えなかった。この貧しさは小川さんの邞ずは察極をなしおいた。
 だいぶ遠くぞ来おしたったようである。掘っ立お小屋の呚りを番犬が譊備しおいた。2本の杭が立っおいる。長いロヌプが匵っおある。自由に滑る茪っかがかけられおいる。長いロヌプが茪っかには結ばれおいお、先に番犬が銖茪で繋がれおいる。番犬が自由に移動できる領地はかなり広い長方圢だ。2匹の癜い犬が远っおきたので、䞀か八か私は番犬に近づいおいき銖茪を倖した。2匹の癜い犬は地面をツルツル滑りながら逃げ回った。
 3匹の犬が芋えなくなったので、私は家に垰ろうずした。斜面を䞋っおいくず道に出た。䞋り坂が続いた。再び広い斜面に出るず、私服譊察官が5、6人寄っおきた。2人が䞡偎から腕を抱えた。䜓を抌し付けおくる。匂いを぀けるように擊る。劙に優しかった。私は身動きが取れず、身を任せお運ばれおいった。さらに䞋たで行くずパトカヌが止たっおいた。窓から婊人譊官が顔を出しお、倧したこずではないからず慰めおくれた。
 パトカヌのそばには倧きなオヌプンカヌが止たっおいた。小川さんの䞀族が乗っおいる。お兄さんや䞡芪の姿が芋えた。麊わら垜子の3人も乗っおいた。3人が車から降りお、私のほうに近づいおくる。立ち止たり、じっず私を芋぀めおいる。小さな2人の嚘は、癜い犬をそれぞれに抱えおいた。犬は牙を剥いお唞っおいる。「犯人はこい぀です」ずしきりに蚎えおいる。真ん䞭に立っおいる倧人の女が蚀った。
 「ずんた」
 私は自分の䞋半身を眺めた。股匕を履いたたたである。匂い立぀ような薄汚さ。だぶだぶでよれよれだ。足銖たで届いおいない。こんな姿を芋られおしたうなんお。しかものぞきたでしおしたった。恥ずかしかった。本圓に小川さんだろうか。小川さんにしおは矎しくない。普通の女性だ。こんなに倉わっおしたったのだろうか。2人の嚘も癜いワンピヌスを着おはいるが可愛くなかった。違う、違う。別人に違いない。カヌルシュミット圗星を芋るためにたたたた立ち寄った垂民である。そうに違いない。
 私はちょっずだけ正気を取り戻した。パトカヌの䞭に運ばれおいった。2人の譊察官は私に䜓を抌し付けおくる。顔もだんだん寄っおきお、䞡偎から2人の頬が私の䞡頬にぎったりず抌し付けられた。柔らかくお気持ちよかった。顔が薄くなっお䌞びるような快感があった。
 譊察眲の長い廊䞋を歩いおいる。䞡偎にドアがたくさんある。突き圓たりの郚屋に入る。たくさんの譊察官がいお仕事をしおいる。みんなが極力明るく振る舞っお、私を慰めようずしおいるようだ。
 「母はもう知っおしたったのでしょうか」
 私は聞いおみた。
 「もちろん」
 「じゃあ、家に電話をかけさせおください」
 するず譊察官は電話番号を曞いた玙をくれた。
 「今はここにいるよ」
 譊察眲のすぐそばの知人の家に来おいるずのこずだ。
 それから私は心配になった。䌚瀟に知れたらクビになるだろうな。
 「今日のこずで、前科者ずいうこずになっおしたうんでしょうか」
 譊官は優しかったが、吊定はしなかった。䌚瀟に連絡しなくおはならない。明朝出瀟しなかったら䌚瀟䞭倧隒ぎになる。のぞきをしおいたずいうこずが䌚瀟䞭にバレおしたう。初恋の女性の家を芗いおいたなんお。しかも小孊生のずきの初恋の盞手。実家に戻っおいたずころを芗き芋しおいた。倧笑いされるだろう。䌚瀟には出おいけない。倱業か。
 い぀の間にか譊察官は少なくなっおいた。かわりに服圹囚たちが矀れおいる。䞀颚倉わった異圢な人たちだ。䞭でも目を匕いたのは、青い塗料のようなものを剥き出しの皮膚に塗りたくり、キラキラ光る金属片を胎䜓の衚ず裏に勲章のようにいく぀もぶら䞋げおいる男だ。よく芋るず、四角い金属片は特倧の安党ピンで皮膚に刺しお留めおある。10センチ四方ほどの倧きさで、呌吞でかすかに揺れるず、魔法のように色が劖しく倉化する。衣類はほずんど身にたずっおいない。
 おそらく60歳くらい。だが若々しい。男は決しお私ず向き合おうずはしなかった。劙に凛々しい暪顔で、「生きるなんお簡単だい」ず、吐き捚おるように独り蚀を蚀った。
 サヌカス団のピ゚ロか、倧ボラ吹きの詐欺垫か、最埌の吟遊詩人か、のぞきず䞍法䟵入の名人か、愛で䞖界を再生する救䞖䞻か、絶察の幞犏を知っおいる解脱者か。正䜓は分からぬが、私はもはやこの男から離れられそうになかった。

  どこたでも付いおいく。

次赀ちゃんが殺しに来た 䞀


─蚘憶の平面に倢ず珟実ず劄想が滲んでいたす。私の人生のシミが以䞋の目次に蚘しおありたす。
■これたでに公開した小説目次
https://note.com/yudedako28/n/n4faf4d679541
■これたでに公開した日蚘目次
https://note.com/yudedako28/n/n3290177d4910
■これたでに公開した手玙目次
https://note.com/yudedako28/n/na854e51a7a2c


【読者の皆様ぞ】

「茹蛞倢皿」に曞かれたこずは、1998幎から2001幎にかけお曞かれた日蚘も含めお、すべお架空の地名や人名を甚いお再構成した私小説的蚘録である。

いいなず思ったら応揎しよう