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【小説07】僕は氞遠の15歳なんだ『赀ちゃんが殺しに来た』䞀

    茹蛞倢皿

    䞀人を陀いお友達はいなかった。䞀人を陀いお人間は敵だった。友氞さんに殺されるならば本望だ、ずさえ思っおいた。圌の手にかかるなら、きっず倩囜ぞ行けるに違いない。そばにいおくれるだけで心が安らいだ。

    苊しみに耐えかね、私は友氞さんの䞋宿にたどり着く。圌は耇雑な道具を操り、儀匏のようにコヌヒヌを淹れおくれた。その銙りを深く吞い蟌み、熱い液䜓をすするず、私はようやく生き返る心地がした。友氞さんの埌ならば、奈萜の底ぞだっお぀いお行っただろう。新宿のゎヌゎヌ喫茶で、螊り狂う友氞さんの笑顔はこの䞖のものではなかった。それは悟りを説く仏のようであり、雲の䞊の舞台に乗せお、若者たちを幞犏の浄土ぞず導く導垫のようでもあった。螊り狂えば、誰もが浄土ぞ行ける。圓時の私には、本気でそう思えたのだ。

    友氞さんの呚囲には、垞に正䜓䞍明の「知り合い」が枊巻いおいた。ある䞋宿を蚪ねれば、そこから別の知り合いの䞋宿ぞず連れ回される。そんな圷埚を繰り返すうちに、私はい぀の間にか、翌日に「北の囜」ぞず垰還するずいう若者たちの送別䌚に玛れ蟌んでいた。

    飛び亀う䌚話から、ようやくその集䌚の意味を悟る。日本人ず芋分けが぀かない圌らが、明日には異郷ぞず発぀若者たちだずは、すぐには気づかなかった。友氞さんはい぀ものように目尻を䞋げ、満面の笑みで杯を重ねおいたが、呚囲の面々は真剣そのもので、アルコヌルを口にする者など䞀人もいなかった。私はい぀ものように無衚情のたた、ただ友氞さんに寄り添っおいた。圌がいなくなれば、私は園児のように䞍安に立ち尜くすしかなかった。

    友氞さんは、堎末の小さなバヌを飲み歩くのを奜んだ。ゞン、シャンパン、ブランデヌ、カクテル  圌はあらゆる液䜓の名を知っおいた。女性の矎醜には䞀顧だにせず、誰にでも気安く話しかけおは、友人になろうずした。しかしその察話は倧抵、空回りしお独り蚀に終わる。その倜も、カりンタヌに座る二人の女性に拒絶され、私たちは衚ぞ出た。

    あおもなく、倜の郜䌚を緎り歩く。初めお歩く道。知らない街䞊み。寝静たった䜏宅街には、こじんたりずした邞宅がそれぞれの個性を競うように䞊んでいた。䞭に䜏む人々の営みを想像し、私は奇劙な興奮を芚えた。䞀぀䞀぀の家が、確固たる個宀セカむを持っおいる。田舎から出おきた私にずっお、郜䌚の真ん䞭にこれほど倚様な生掻が続いおいるこずは驚きだった。東京ずは、ただ巚倧なビルが建ち䞊ぶだけの蚘号だず思っおいたのだ。

    「さゆりちゃんの家に行こう」ず友氞さんが蚀った。囜民的倧女優のこずである。圌によれば、二人の父は東倧の同窓であり、同郷の芪友なのだずいう。か぀おその邞を蚪ね、圌女に淹れおもらった茶を飲みながら語り合ったのだず。「本物は画面ずは違う。䞀床䌚っおみるずいい。玹介しおあげるよ。確か、この蟺りだったかな」。友氞さんはそう語った。その真停は私には重芁ではなかった。

    深倜の䜏宅街は、昌間ずは別䞖界の迷路だった。私たちは未来的な建造物の隙間を、倜が癜み始めるたで圷埚い続けた。

    友氞さんず知り合ったのは、倧孊䞀幎の春だった。死んだような瞳を持ち、背が高く、唇に薄ら笑いを浮かべる色男。䞉浪しお入孊した山内ずいう男が、私を圌の郚屋ぞ連れお行ったのだ。私の䞋宿から歩いお十分ほどの堎所。友氞さんは四浪䞭で、医孊郚を目指しおいた。圌ら二人は九州の高校の同玚生だったずいう。
    山内は、校内を茫然ず圷埚う独りがっちの私を芋かねたのかもしれない。私を犬のように連れ回し、私は決しお反抗せずにその埌ろに埓った。山内の皮肉めいた早口の独癜を、私はただ黙っお聞いおいた。暪浜の倜景を望む高玚レストラン。父芪の転勀に䌎う瀟宅ぞの匕っ越し。家具も入っおいない、がらんずした郚屋に二人で寝そべった倜。

    意地悪な山内ず、優しい友氞さん。察照的な二人だったが、共通点が䞀぀だけあった。圌らは決しお私に䞀銭も䜿わせなかった。今思えば、圌らず過ごした時間に財垃を出した蚘憶がないのだ。

    私は、友氞さんの䞋宿に入り浞るようになっおいた。

    「あい぀、䜕を考えおいるんだ」

    友氞さんは怒りに任せお、山内が曞いたずいう短線小説を私に突き぀けた。

    読み進めるうちに、その䞻人公が私であるこずがわかった。それは、腑抜けずなった男の物語だった。田舎の゚リヌト高校から受隓に倱敗し、王道から倖れた劣等感に苛たれ、子犬のように䞖の片隅で怯える敗残者。戊う気力すら倱い、緩やかな坂を転げ萜ちおいく。目は芋えず、耳は聞こえず、己が䜕者であるかも知らず。ただ時だけが移ろい過ぎおゆく、未来も過去も持たぬ虚ろな存圚。

    腹は立たなかった。ただ、悲しかった。圌は、私ずいう人間を䜕䞀぀理解しおいない。

    「僕はね、透明な球䜓の䞭に䜏んでいるんだよ。友氞さんだけが入っおこられる堎所だ。そこでは時間が止たっおいお、僕は氞遠の十五歳なんだ。十五歳で死んだ人間なんだよ。䞭から芋るず、倖の䞖界はあたりに遠い。あっち偎ぞは、もう䜏めそうにないんだ」

    私は友氞さんを、倧孊の構内ぞず連れ出した。校舎ず校庭の間に立぀䞀本の巚朚を指さした。

    「あれが芋えるかい。皮をむかれたキリンが、枝からぶら䞋がっおいるだろう。ずっずあそこにいるのに、誰も気づかないんだ」

    友氞さんは、芋える、ず蚀った。その時、私は圌がなぜ私の球䜓に入れるのかを悟ったのだ。

    持村の海蟺にある小屋で、私は苊しさに目を芚たした。

    暪長の窓には、氎槜のように海がいっぱいに映っおいる。浜を䞊がれば、より高い堎所に海があるような錯芚。海の底ぞ沈んでいくような圧迫感に、呌吞が止たりそうになる。死んでしたいたいず思っおいたのに、いざその苊しみに盎面するず、私は無様に抗った。楜になりたかった。

    その方法は、たった䞀぀しかなかった。小川さんを誘拐し、私の球䜓に閉じ蟌めるこずだ。

    板匵りのベッドから起き䞊がり、私は東京ぞず向かった。苊しい、息がしたい。
    友氞さんの䞋宿に転がり蟌んだ。「幞せに氞久にさようなら」ず告げた埌、私は小川さんから枡された女子倧の寮の電話番号を砎り捚おおしたった。もう、自力では歩けなかった。胞を抌し぀ぶすのは、ただ「呌吞がしたい」ずいう本胜だけだ。小川さんを愛しおいるかどうかは二の次だった。ただ、圌女を奪うこずで、この窒息から逃れたかった。

    友氞さんは、芋かねお私を支え、倜の街ぞず挕ぎ出した。小川さんの通う女子倧の寮を探し歩く。そこは死埌の䞖界のような街䞊みだった。䜏宅は棺桶のように厳かに䞊び、門が開けば、癜い顔の死䜓が這い出しおきそうだった。

    私は、ただ死んでいない。吞い蟌める空気がないずいう苊しさこそが、私が生きおいる蚌だった。私は友氞さんに瞋り、早く圌女を連れ去っおくれず懇願した。
    歩いおも歩いおも、圌女の寮は芋぀からない。倜が明け、私たちは女子倧の門にたどり着いた。

    私は門柱の前に暪たえられた。友氞さんが蚀った。

    「圌女が来たら教えろ。捕たえお、お前の球䜓の䞭に抌し蟌んでやるから」
    意識が遠のいおいく。

    今は、い぀だ。それすら分からない。
    もしかしたら、私はすでに八十歳を超え、臚終の時を迎えおいるのかもしれない。女子倧の門前でいくら埅ずうず、小川さんが来るはずはないのだ。圌女はずうの昔に卒業し、結婚し、子䟛をもうけ、今や孫や曟孫に囲たれる老婆になっおいるはずなのだから。

    この苊しみは、死の間際の埌悔が芋せる幻想ではないのか。

    今がい぀なのか、私は友氞さんに問うた。

    ぀づく赀ちゃんが殺しに来た二


    ─蚘憶の平面に倢ず珟実ず劄想が滲んでいたす。私の人生のシミが以䞋の目次に蚘しおありたす。
    ■これたでに公開した小説目次
    https://note.com/yudedako28/n/n4faf4d679541
    ■これたでに公開した日蚘目次
    https://note.com/yudedako28/n/n3290177d4910
    ■これたでに公開した手玙目次
    https://note.com/yudedako28/n/na854e51a7a2c


    【読者の皆様ぞ】
    「茹蛞倢皿」に曞かれたこずは、1998幎から2001幎にかけお曞かれた日蚘も含めお、すべお架空の地名や人名を甚いお再構成した私小説的蚘録である。

     
     
     
    45才たで子䟛郚屋にいた。家砎産し逃亡。流れ着いた先には、忘れ埗ぬ人、か぀おは隣の䜏人であった、同玚生の小川さんが居を構えおいた。手玙ず日蚘を曞き始めた。1998幎のこず。老いお未了の小説に取り掛かる。 お仕事の連絡はDMたで yudedako.mukou@gmail.com

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