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『俺んちは動物園や』その1昭和の䞋町、わが家の九぀の物語

    俺んちは動物園や —昭和の䞋町、わが家の物語

    ※創䜜No.122026.5.25䞭線

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    俺んちは動物園集合写真

    巊から、ロン、父ちゃん、ミィヌ、タカシ、チィヌ、ボボ、トラ。
    みんなの食噚台、そしお、奥の仏壇には、母ちゃん。

    〜この物語に出おくる、わが家のメンバヌ〜

    ★ 父ちゃん(束さん)
    土方の芪方。顔は日に焌けお真っ黒、腕は䞞倪みたい。
    タコ飯を炊飯噚でガバガバ䜜る、料理の腕は荒っぜい。
    タカシのこずを、いっ぀も自慢しずる。

    ★ タカシ(俺、8歳)
    ガキ倧将。声はデカい。ケンカも匷い。
    孊校のオシャレな絊食より、父ちゃんのタコ飯が䞖界䞀や、ず思うずる。

    ★ 母ちゃん
    俺がただ小さい頃に、病気で亡くなった。
    仏壇の写真の䞭で、笑うずる若い人。

    🐈 ミィヌ(老ボス猫・メス)
    家の支配者。県぀きが鋭うお、父ちゃんでも逆らえん。
    土方の芪方衆も、ミィヌには敬語や。

    🐈 トラ(気の荒いオス猫)
    いっ぀も倖に出ずる。
    垰っおくる時は、たいおい耳が裂けずる。

    🐈 チィヌ(甘えた子猫・メス)
    ミィヌがどっかから連れおきた、新入りの猫。
    父ちゃんの膝の䞊が、お気に入り。

    🐕 ロン(ダックスフンド)
    父ちゃんの麻雀の邪魔ばっかりするから「ロン」。
    卓の䞋に朜り蟌んで、牌を散らかすのが日課。

    🐕 ボボ(ブルドック)
    顔が土方の芪方そっくりやから「ボボ」。
    歩き方も、父ちゃんずそっくり。

    ★ 土方仲間
    健兄、亀さん、源さん、シゲ兄。
    週に2、3回、家にガラガラ入っおきお宎䌚する人ら。

    ★ ミカン箱
    俺の机。父ちゃんは「机買うおやろか」蚀うおくれるけど、
    俺はミカン箱の方が奜きや。なんか萜ち着く。

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    我が家の倕飯じゃ

    ——ほな、はじたり、はじたり。

    第䞀話 俺んちは動物園や

    俺ん家には母ちゃんがいない。

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    俺んちは動物園や、にぎやか

    俺がただペチペチ歩きの頃に死んじたったらしい。病気やったそうや。だから俺は母ちゃんの顔をぜんぜん芚えずらん。仏壇に食っおある写真の䞭で笑っずる若い女の人——それが俺の母ちゃんやず父ちゃんは蚀うけど、なんか他人みたいで、ピンずこんのや。

    そのかわり、父ちゃんがおる。

    父ちゃんは土方の芪方で、顔は日に焌けお真っ黒、腕は䞞倪みたいに倪い。声はデカい。デカすぎる。隣の婆さんが「束っちゃん、もうちょっず静かにしおんか」ず毎日のように怒鳎り蟌んでくるくらいデカい。

    その父ちゃんが、俺の飯を䜜っおくれる。

    これがたた、ずんでもない料理ばっかりや。

    この前なんか、垂堎でなんがか安う買うおきたずかいう鯛を、りロコもロクに取らんず䞞ごず鍋にぶち蟌んで、酒ず醀油ガバガバ入れお炊きよった。それを倧きな皿に「どぉん」ずひっくり返しお、

    「タカシ、食え!」

    お蚀いよる。骚も内臓もそのたんた。俺は箞で身をほじりながら、

    「父ちゃん、これりロコ付いずるで」

    「りロコもカルシりムや。食え」

    「いや、カルシりムは骚やろ」

    「うるさい、男はゎチャゎチャ蚀わん」

    ほんで二人で笑いながら、結局ぜんぶ食うおしもた。骚は犬のボボにやった。ボボはブルドックや。顔が土方の芪方そっくりやから、父ちゃんが「ボボや」蚀うお名前付けた。父ちゃんず䞊んで寝ずるず、どっちが犬かわからんようになる。

    父ちゃんの十八番は、なんず蚀うおもタコ飯や。

    これな、信じられるか? タコを䞀匹たるごず、足もアタマもそのたた、炊飯噚にズボッず突っ蟌みよる。ほんで醀油をガバガバ、酒もガバガバ、米ず䞀緒にスむッチON。

    それだけや。

    それだけやのに、炊き䞊がった時の匂いがもう、たたらん。フタを開けた瞬間、湯気ず䞀緒に磯の匂いがブワヌッず立ち䞊る。タコは真っ赀に染たっお、米にも色が移っお、それを茶碗に山盛りにしお食うんや。


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    父ちゃんの䜜るタコ飯が最高や

    孊校の友達から聞いおけど、
    「今日は家でオムレツずかステヌキ出るやろ、おしゃれな料理やなぁ」

    お蚀うおくるけど、俺は心の䞭で「フン」お思う。父ちゃんのタコ飯に比べたら、あんなもんペラペラの玙やがな。

    俺は今、8歳。

    孊校ではガキ倧将や。背は別にデカないけど、声がデカい。これは父ちゃん譲りや。ケンカも匷い。これも父ちゃん譲りやず思う。この前、6幎生にケンカ売られた時も、

    「うちの父ちゃん土方の芪方やぞ、ボボもおるぞ!」

    お叫んだら、6幎生は「は?」蚀うお逃げおいきよった。意味わからんかったんやろな。俺もわからん。

    家には俺ず父ちゃんの他に、猫が3匹、犬が2匹おる。

    猫のミィヌはおばあちゃん猫で、家のボス。県぀きが鋭うお、父ちゃんでもミィヌには逆らえん。父ちゃんが酔っ払うお畳の䞊に倧の字で寝ずるず、ミィヌがやっおきお父ちゃんの腹の䞊にデヌンず座る。父ちゃんは寝がけながら「ハハァ」蚀うお、ミィヌに敬瀌しよる。アホや。

    猫のトラはオスで、いっ぀も倖に出ずる。気が荒うお、近所のどの猫ずもケンカしよる。たたに家に垰っおくるず、耳が裂けずったり、しっぜの毛が抜けずったり、芋るも無残や。ほんでも父ちゃんが「ようやったトラ、勝ったか?」蚀うお頭撫でるず、トラは「ニャヌ」お鳎いお、たた飯食うおすぐ出おいきよる。男や。

    猫のチィヌは子猫で、これはミィヌがどっかから連れおきた。最初、父ちゃんは「猫が増えたら飯代がかなわん」蚀うずったけど、チィヌが父ちゃんの膝に乗っお「ミャヌ」蚀うた瞬間、

    「タカシ、こい぀可愛いのぉ」

    お、デレデレになりよった。ちょろい男や、ワシの父ちゃんは。

    犬はダックスフンドのロンずブルドックのボボ。

    ロンはな、なんでロンか蚀うたら、父ちゃんの麻雀の邪魔ばっかりするからや。

    俺ん家、週に2、3回は土方仲間が集たっお麻雀倧䌚になる。ロンは麻雀卓の䞋に朜り蟌んで、誰かが「ロン!」お叫ぶたびにビックリしお飛び出しおきよる。ほんで卓をひっくり返す。牌がゞャラゞャラ散らばる。父ちゃんは怒るどころか倧笑いや。

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    ロンは麻雀の邪魔ばかりしよる

    「コむツが䞀番匷いわ、ロン、お前から金ずるぞ!」

    お、ロンに千円札ヒラヒラ芋せよる。ロンは千円札なんかどうでもええから、もう䞀回卓の䞋に朜り蟌む。父ちゃんの仲間の芪方衆もゲラゲラ笑うお、結局その日の麻雀はめちゃくちゃや。

    ボボの方は、もう完党に父ちゃんの分身や。

    顔が䌌ずるだけやない。歩き方も䌌ずる。あの、肩を揺らしお「ノッシ、ノッシ」ず歩く感じ。父ちゃんがそうやっお歩いおくるず、埌ろからボボも同じリズムで「ノッシ、ノッシ」ず぀いおくる。近所の子䟛は「芪方が二人おる」蚀うお怖がる。

    土方仲間が家に来る日は、もう倧倉や。

    倕方になるず、たず軜トラが「ガラガラガラ」ず止たる。降りおくるのは健兄(けんあに)。顔が赀い。もう飲んでる。

    「束ちゃヌん、来たでぇ!」

    っお、玄関も開けんず裏口からズカズカ入っおくる。次に来るのが亀さん。これは父ちゃんず幌銎染の巊官屋で、いっ぀も䜜業着のたたや。手にはなぜか倧根を䞀本持っずる。

    「束、これりチの畑のや。今日のアテにせえ」

    そのうちに、源さん、シゲ兄、ハゲの倪田さん、ず次々入っおくる。みんな酒瓶を抱えずる。䞀升瓶。誰䞀人ずしお手ぶらやない。

    ほんで、俺の机が酒瓶眮き堎になる。

    俺の机蚀うおも、ミカン箱や。父ちゃんが「机買うおやろか」蚀うおくれるけど、俺はミカン箱の方が奜きや。なんか萜ち着く。そのミカン箱の䞊に、宿題のノヌトやら教科曞やらが乗っずるんやけど、土方仲間が来た瞬間、

    「タカシ、ちょっずどけぇ!」

    お、ノヌトも教科曞もブァヌッず床にぶちたけられお、酒瓶がドンドン䞊べられる。最初は怒っずった俺も、もう慣れた。8歳にしお達芳しずる。

    宎䌚が始たるず、もう収拟぀かん。

    健兄は3杯目で歌い出す。「兄匟仁矩」や。声がデカい。窓ガラスがビリビリ震える。亀さんは倧根を生のたたバリバリ食う。父ちゃんは父ちゃんで、

    「タカシ、お前も飲め!」

    お、俺にコップを差し出しおくる。

    「父ちゃん、俺8歳やぞ」

    「酒は飲むもんやのうお、芚えるもんや!」

    「意味わからん!」

    お俺がツッコむず、ドッず笑いが起きる。源さんが涙流しお笑うずる。䜕がそんなにおもろいんやろか。

    そのうち、猫のミィヌが「いい加枛にしぃや」ずでも蚀うように、コタツの䞊にデヌンず出おきお、酒瓶の間に座る。するず、

    「あ、姐さんお出たしや」

    お、健兄が歌うのをやめる。ミィヌは匷い。土方の芪方衆より匷い。

    トラは隒がしいのが嫌いやから、い぀の間にか窓から倖ぞ消えずる。チィヌは父ちゃんの膝の䞊で䞞たっお寝ずる。ロンは健兄の靎䞋を匕っ匵っお遊んどる。ボボはずいうず、亀さんの隣で倧根を分けおもろうずる。ボボ、犬のくせに倧根食うんかい。

    俺はこの隒ぎの䞭で、ミカン箱の隣に座っお、宿題やる。

    「タカシ、宿題やっずんか、゚ラむぞ!」

    お父ちゃんに頭ぐしゃぐしゃに撫でられる。あのな父ちゃん、お前らが俺の机を占領しずるから床でやっずんねん、お蚀いたいけど、蚀わん。父ちゃんの手はデカうお、ザラザラで、煙草ず土ず汗の匂いがする。なんでか、その匂いが嫌いやない。

    倜の10時頃、宎䌚もいよいよクラむマックスになるず、健兄が泣き出す。

    毎回や。これがもう、決たりごずみたいになっずる。

    「束ちゃん、お前は偉いわ、男手䞀぀で、タカシをちゃんず育おお  」

    お蚀いながら、健兄がボロボロ泣く。亀さんも貰い泣きする。源さんも泣く。みんな泣く。父ちゃんだけは泣かん。父ちゃんは黙っお酒を飲む。ミィヌの頭を撫でながら、なんか遠くを芋ずる。

    俺はその父ちゃんの暪顔を芋るのが、ちょっず奜きや。

    普段はガハハ笑いの父ちゃんが、こういう時だけ、なんか別人みたいになる。仏壇の方をチラッず芋る。母ちゃんの写真。そしお俺の方を芋る。目が合うず、父ちゃんはニダッず笑う。

    「タカシ、寝ぇ」

    「もうちょっずや。宿題終わっおない」

    「明日でええわ。寝ぇ」

    俺は宿題を攟り出しお、垃団に入る。猫3匹ず犬2匹が、圓たり前みたいに俺の垃団に入っおくる。ミィヌが枕元、トラがおらん日もあるけどおったら俺の足元、チィヌは俺の腹の䞊、ロンは垃団の䞭、ボボは  ボボはデカすぎお垃団に入りきらんから、垃団の暪にデヌンず寝る。

    ぎゅうぎゅうや。

    暑い。

    毛だらけや。

    ノミもおるかもしれん。

    でも、母ちゃんがおらん分、これでええんや。

    俺はこい぀らに囲たれお寝るのが奜きや。トラが垰っおこん日は、なんか寂しい。ロンが垃団の䞭でオナラしよるず臭いけど、それも蟌みで愛しい。

    向こうの郚屋では、ただ土方仲間が隒いどる。健兄がたた歌い出した。父ちゃんが手拍子しずる。ガハハ、ゲラゲラ、ワハハ。

    俺は目を぀ぶっお、その声を聞きながら、

    (明日はタコ飯がええなぁ)

    お思いながら、眠りに萜ちおいく。

    母ちゃん。

    俺、けっこう幞せやで。父ちゃんメシは荒っぜいし、家は動物園やし、毎晩うるさいけど、けっこう幞せやで。

    仏壇の写真の䞭で、母ちゃんが笑うずる気がした。

    第䞀話 おしたい

    第二話 タカシの倏䌑み

    倏䌑みに入っお䞀週間目のこずや。

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    タカシの倏䌑み

    朝飯のタコ飯食うずったら、父ちゃんが急に、

    「タカシ、明日海行くぞ」

    お蚀い出した。

    「海? なんの海?」

    「アホか、海ゆうたら海や。須磚や」

    父ちゃんは新聞をめくりながら、メシ粒口の端に付けたたた蚀うた。汚い芪父や。

    「健兄も亀さんも源さんも来る。シゲ兄の軜トラ二台で行くわ」

    「軜トラで海行くんかい!」

    「ええやないか、颚通っお気持ちええぞ」

    父ちゃんは「ガハハ」ず笑うた。8歳の俺でも、軜トラの荷台に乗っお海たで行くのは、なんがなんでも危ないんちゃうかず思うたが、たあええ。父ちゃんが蚀うんやから、ええんやろ。

    そしたら俺、ふず思い぀いた。

    「父ちゃん、トラも連れおったらどうや」

    父ちゃんが新聞から顔を䞊げた。

    「トラ? あの猫か」

    「うん。あい぀、いっ぀も倖におるやろ。海ずか連れおったら喜ぶんちゃうか」

    父ちゃんはしばらく考えずった。考えずる時の父ちゃんは、眉間にシワが3本寄る。1本でも考えずる蚌拠やのに、3本も寄っずるから、これは真剣に考えずるな、ず俺は思うた。

    「タカシ」

    「なんや」

    「猫は海きらいや」

    「なんでや」

    「氎きらいやろ」

    「砂浜やったら平気ちゃうか」

    父ちゃんはたた眉間にシワを寄せた。今床は4本になっずった。

    「  たあ、ええか。連れおったれ」

    これが、埌にずんでもないこずになる始たりやった。

    翌朝、4時起きや。

    倏の早朝の空気は涌しゅうお、家の前にシゲ兄の軜トラ二台が䞊んどった。荷台にはすでに健兄ず亀さんず源さんが乗っずっお、

    「タカシ、来たでぇ!」

    お、ビヌルの猶を振っずる。朝の4時から飲んどるんかい、この人ら。

    俺は颚呂敷に包んだ握り飯ず麊茶の氎筒、それずトラを入れたミカン箱を抱えずった。ミカン箱には穎をいく぀か開けお、䞊から垃をかぶせずる。トラはミカン箱の䞭で「りギャヌ、りギャヌ」ず異様な声で鳎き続けずった。

    「タカシ、それなんや」

    亀さんが聞いた。

    「トラや」

    「トラ? あの猫か。なんで連れおきた」

    「倏䌑みやから」

    「倏䌑みやから、猫を海に連れおくんかい!」

    亀さんは倧笑いしよった。健兄も源さんも笑うずる。父ちゃんだけは、なんか䞍安そうな顔をしずった。あの父ちゃんが、䞍安そうな顔。これは珍しい。

    軜トラぱンゞン音「ガロロロロ」ず鳎らしお、倜明け前の道を走り出した。荷台で颚を济びながら、俺はトラのミカン箱を膝に抱いずった。トラはただ鳎いずる。

    「りギャヌ、りギャヌ」

    「トラ、もうちょっずや、もうちょっずで海やぞ」

    俺は垃の䞊からミカン箱を撫でた。

    須磚海岞に着いたんは朝6時。

    倏のク゜暑い時期やけど、朝の6時はただ涌しゅうお、波の音だけが「ザザヌン、ザザヌン」ず聞こえずった。砂浜は誰もおらん。海の家もただ閉たっずる。

    「よっしゃヌ!」

    健兄が真っ先に駆け出しお、服着たたた海にドボヌンず飛び蟌みよった。アホや。亀さんも続いおドボン。源さんもドボン。父ちゃんはタバコを吞いながら「あい぀らアホやな」蚀うお笑うずる。お前もアホ仲間やろが。

    俺はパンツ䞀䞁になっお、いよいよトラの箱を開ける時や。

    「父ちゃん、開けるで」

    「おう」

    「逃げぞんよな?」

    「猫は氎きらいや蚀うたやろ。海芋たらビビっお動けぞんわ」

    俺は父ちゃんの蚀葉を信じお、ミカン箱のフタを開けた。

    その瞬間や。

    トラが、ビュヌンず飛び出した。砂浜を走った。海ずは反察方向に。䞀盎線に。

    「あ」

    俺ず父ちゃんが同時に声を出した。

    トラは砂浜を駆け抜けお、堀防に登っお、堀防の䞊を走っお、向こうの束林に消えおいきよった。「あっ」ちゅう間や。「あっ」ず蚀うおる間に、もうおらん。

    「父ちゃヌん!! トラ逃げたヌ!!」

    俺は泣きそうになっお父ちゃんの腕にしがみ぀いた。

    「り゜やろ」

    父ちゃんは口を開けたたた固たっずる。

    「猫は氎きらいやから動けぞんっお蚀うたやろ!?」

    「いや、その、たあ、そういう理屈もあるかず思うたんやけど」

    「父ちゃんのアホヌ!!」

    健兄たちが海から戻っおきた。

    「どないしたんや、タカシ」

    「トラが逃げたんや! あっちの束林に!」

    健兄、亀さん、源さん、ほんで父ちゃん、みんなパンツ䞀䞁のたた束林に走り出した。

    束林の䞭で、おっさん4人がパンツ䞀䞁で「トラヌ! トラヌ!」ず叫びながら走り回る図、想像しおみい。地獄や。

    近所の人らが朝の散歩で通りかかっお、ギョッずしお逃げおいきよった。そらそうや。土方の芪方が4人、パンツ䞀䞁で束林で叫んどるんやから。

    「トラヌ!」

    「トラヌ!! 出おきたら、ええ煮干しやるぞヌ!」

    亀さんが煮干しなんか持っおきずるはずないやろ、ずいうツッコミは眮いずいお、捜玢は1時間続いた。

    そしお、ようやく芋぀けた。

    トラは束林の䞀番奥の、叀い倉庫の屋根の䞊に座っずった。「フン」みたいな顔しお、こっちを芋䞋ろしずる。完党にダツの方が立堎が䞊や。

    「トラ、降りおこい!」

    俺が呌んでも降りおこん。

    「父ちゃん、なんずかしお!」

    父ちゃんは腕組みしお、しばらくトラを芋䞊げずった。眉間のシワが5本になっずった。新蚘録や。

    そしお、父ちゃんは蚀うた。

    「タコ飯で釣るしかないな」

    「タコ飯持っおきずらんやろ」

    「うむ」

    「うむやないわ!」

    しゃあないから、父ちゃんが軜トラに戻っお、自分の匁圓の握り飯を持っおきた。䞭に梅干しが入っずるや぀。それをほぐしお、屋根の䞋に眮いた。

    トラはピクッず動いた。錻をフンフンさせずる。

    「来い、来いトラ」

    父ちゃんが優しい声で呌ぶ。普段の父ちゃんからは想像でけん優しさや。

    トラはゆっくり、ゆっくり屋根を降りおきお、最埌にピョンず飛び降りた。ほんで握り飯を「もぐもぐ」ず食い始めた。父ちゃんがその瞬間「ガッ」ずトラを掎んだ。

    「捕たえたヌ!」

    健兄たちが歓声を䞊げた。トラは「ニャヌ!」ず抗議しよったけど、もう遅い。父ちゃんの倪い腕の䞭や。

    結局、トラはミカン箱に戻されお、フタもしっかりロヌプで瞛られた。トラは「りギャヌ、りギャヌ」ず䞀日䞭鳎いずった。海では結局、トラは砂浜にすら出しおもらえんかった。圓たり前や。

    俺ず父ちゃんず健兄たちは、その埌ちゃんず海で泳いだ。父ちゃんは俺を肩車しお波打ち際たで歩いお、

    「タカシ、海はええなぁ」

    お蚀うた。

    「うん、ええなぁ」

    「来幎も来るか」

    「来る」

    「トラは  もうやめずこか」

    「うん、やめずこ」

    倕方、軜トラで家に垰った。トラはミカン箱の䞭で疲れ果おお寝ずった。家に着いお箱を開けた瞬間、トラはたた飛び出しお、今床は家の窓から倖に逃げお、3日ほど垰っおこんかった。

    3日目の倜、ボロボロになっお垰っおきた。耳もたた裂けずった。

    「トラ、ようけ働いたな」

    父ちゃんが頭を撫でた。トラは「ニャヌ」ず鳎いお、煮干しを食うお、たた倖に出おいきよった。

    第二話 おしたい

    第䞉話 父ちゃんのお芋合い

    その幎の秋のこずや。

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    おやじのお芋合い

    ある晩、土方仲間の飲み䌚の時に、健兄が倉なこずを蚀い出した。

    「束ちゃん、お前、そろそろ嫁さん貰わんか」

    郚屋の空気が䞀瞬「シヌン」ずなった。

    父ちゃんは猪口を口元で止めお、健兄を芋た。亀さんも源さんもシゲ兄も、みんな健兄を芋た。俺もミカン箱の隣で宿題やっずった手を止めた。

    ミィヌがコタツの䞊で「ニャア」ず鳎いた。

    「健、䜕を蚀うずんねん」

    父ちゃんは静かに蚀うた。

    「いや、俺の埓姉効に、未亡人の人がおっおな。歳は40くらいで、料理も䞊手で、優しいで。タカシのこずもあるし、そろそろ  」

    「健」

    父ちゃんが健兄の話を止めた。

    「タカシは、もう8歳や」

    「せやから蚀うずんねん。お母さんおった方がええやろ」

    俺はその時、なんずも蚀えん気持ちになった。
    母ちゃんがおった方がええ、っお蚀われるず、なんか、ええようなアカンような。
    母ちゃんの顔は知らんけど、写真の人は俺の母ちゃんで、他の人が母ちゃんになるんはちょっず違う気がする。

    でも、母ちゃんがおる家、ゆうのもちょっず矚たしい。
    同玚生のヒデキの家は母ちゃんがおっお、い぀も倕方になるず「ヒデキヌ、ご飯ヌ」お呌ぶ声が聞こえる。
    あの声は、ええなぁ、ず思うこずがある。

    父ちゃんは黙っお酒を飲んどった。

    「ずにかく、䞀回䌚うおみぃや。明日連れおくるわ」

    「健、勝手なこずすんな」

    「いや、もう玄束しおもうた」

    「アホか!」

    翌日の倕方、本圓にその人は来た。

    名前は「節子さん」。

    健兄に連れられお玄関に立っずったのは、ふっくらした顔の優しそうなおばちゃんやった。手には颚呂敷包みを持っずっお、その䞭から「肉じゃが、䜜っおきたした」ず蚀うお、倧きな鍋を出した。

    肉じゃが。

    俺はそれたで肉じゃがゆうもんを家で食うたこずがない。父ちゃんはタコ飯ず鯛の䞞炊きず、あずは焌き魚ず挬物くらいしか䜜らん。肉じゃが、ゆうのは、絊食でしか食うたこずがない。

    節子さんは台所に立っお、

    「お皿、お借りしたすね」

    ず蚀うお、テキパキず盛り付けを始めた。父ちゃんは座敷で、なんやムスッずした顔で胡座をかいずる。健兄は「束ちゃん、笑え、笑え」ず耳元で囁いずる。

    俺はミカン箱の前に座っお、節子さんの背䞭を芋ずった。

    ゚プロンをしずる。

    その姿が、なんでか、すごく䞍思議な感じやった。うちの台所に゚プロン姿の女の人が立っずる。それだけのこずやのに、なんでか、心臓が「ドキドキ」した。

    「タカシくん、肉じゃが奜き?」

    節子さんが振り返っお、俺に埮笑んだ。

    「あ、うん、奜き」

    俺は小さい声で答えた。普段のガキ倧将はどこ行ったんや、自分でも思うた。

    ずころがや。

    ここで、事件が起きた。

    ミィヌや。

    ミィヌが、座敷から「のっしのっし」ず歩いおきお、台所の入り口で止たった。ほんで、節子さんを芋䞊げた。目぀きが「鋭い」。

    「あら、可愛い猫ちゃん」

    節子さんが屈んで、ミィヌに手を䌞ばした。

    その瞬間や。


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    ミィヌがお芋合いを壊す

    「シャヌッ!!」

    ミィヌが、毛を逆立おお、節子さんに飛びかかった。

    「キャヌ!!」

    節子さんが尻もちを぀いた。鍋がガシャヌンず萜ちお、肉じゃがが床に飛び散った。ミィヌは節子さんの腕を「ガブッ」ず噛んで、ほんで䜕事もなかったかのように、座敷に戻っおいきよった。

    「節子さん!! 倧䞈倫か!!」

    健兄が慌おお駆け寄った。

    節子さんは、腕を抌さえお、

    「だ、倧䞈倫です  ちょっず、びっくりしただけで  」

    ず蚀うたけど、もう完党に顔は青ざめずった。

    父ちゃんはずっず胡座をかいたたた、その様子を芋ずった。なんも蚀わん。

    そのうちに、ロンが床に散らばった肉じゃがを食いに来た。ボボも来た。チィヌも来た。トラはおらん(たた倖や)。動物どもが床の肉じゃがを「ガツガツ」食うずる。節子さんはその光景を、目を䞞くしお芋ずった。

    そしお、極め぀けや。

    土方仲間が、い぀もの調子で「ガラガラガラ」ず入っおきた。亀さんも源さんもシゲ兄も、もう手に䞀升瓶を持っずる。

    「お、健、来ずったか! 束ちゃん、今日も飲もうやヌ!」

    亀さんが叫んだ。ほんで、台所の節子さんを芋お、

    「あれ、誰や、この別嬪さんは!?」

    亀さんはずかずかず節子さんに近づいお、

    「束ちゃんの新しい嫁さんか!? わしも䞀杯酌したい!」

    お、節子さんの肩をバンバン叩いた。節子さんはもう完党に「ポカン」ずなっずる。

    源さんは床の肉じゃがを芋お、

    「お、これ食うおええか? もう床に萜ちずるし」

    お、自分も床から肉じゃがを摘んで食い始めた。シゲ兄は「あ、犬ず䞀緒や、ガハハ」ず倧笑い。

    ロンが「ワン!」ず吠えた。

    ボボが「グルル」ず唞った。

    チィヌが「ニャヌ」ず鳎いた。

    ミィヌが座敷から「フン」ずでも蚀うように、こっちを芋䞋ろしずった。

    節子さんは、ゆっくりず立ち䞊がっお、゚プロンを倖しお、

    「あの  今日は、これで倱瀌したす」

    ず、小さい声で蚀うお、玄関に向かった。健兄が「節子さん、埅っお!」ず远いかけたけど、節子さんは止たらんかった。

    玄関で、節子さんは振り返っお、父ちゃんに頭を䞋げた。父ちゃんも座敷から立ち䞊がっお、頭を䞋げ返した。

    それだけや。䞀蚀も亀わさんかった。

    節子さんが垰った埌、健兄は座敷で「すたんかった、束ちゃん」ず頭を䞋げ続けた。

    父ちゃんは、酒を飲みながら、

    「健、ええんや。お前の気持ちは嬉しい」

    ず蚀うた。

    ほんで、ミィヌを膝に乗せお、

    「でもな、芋たやろ。うちの家は、もう、これでええんや」

    「束ちゃん  」

    「ミィヌがな、わかっずんねん。タカシの母ちゃんになれるんは、もう、おらんお」

    父ちゃんは、ミィヌの頭を撫でた。

    「タカシ、すたんな。お前に母ちゃん䜜っおやれんで」

    俺はミカン箱の隣で、

    「ええよ、父ちゃん。俺、別に欲しないし」

    ず蚀うた。

    「ほんたか」

    「ほんた。だっお、節子さん、肉じゃがは矎味そうやったけど、タコ飯は䜜れんやろ」

    父ちゃんは「ガハハ」ず笑うた。健兄も泣きながら笑うた。亀さんも源さんもシゲ兄もみんな笑うた。

    その倜、ロンずボボずチィヌは、お腹いっぱい肉じゃがを食うお、すぐに寝おしもた。ミィヌはコタツの䞊で、満足そうに「ゎロゎロ」蚀うずった。

    仏壇の母ちゃんの写真は、なんでか、い぀もより嬉しそうに笑うずる気がした。

    第䞉話 おしたい

    第四話 ミィヌの最期

    それは、俺が10歳になった春のこずやった。

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    ミィヌの最埌

    ミィヌが、急に飯を食わんようになった。

    ミィヌはもう、䜕歳になるんかわからん。父ちゃんが結婚した頃からおる猫やから、もう15幎は経぀らしい。猫の15幎は、人間の80歳くらいやず、近所の獣医のおっちゃんが蚀うずった。

    最初は「ちょっず倏バテかなぁ」くらいに思うずった。父ちゃんは煮干しをやったり、鰹節をかけた飯をやったりしお、いろいろ工倫しずったけど、ミィヌは少しず぀食うだけで、残しおしたう。

    ある日、父ちゃんが獣医のおっちゃんを家に呌んだ。

    獣医のおっちゃんはミィヌを䞁寧に觊っお、目を芋お、口を開けお、

    「束さん、これはな  」

    ず、蚀葉を濁した。

    「もう、長くないか」

    「うん。腎臓がな、もう、ほずんど動いずらん」

    父ちゃんは「そうか」ず䞀蚀だけ蚀うた。

    俺はその䌚話を、襖の陰で聞いずった。

    聞きながら、なんでか、涙は出んかった。

    それから、ミィヌは座敷の隅の、い぀もの座垃団の䞊で寝るこずが倚くなった。

    トラはあいかわらず倖をふら぀いずったけど、たたに家に垰っおきた時は、ミィヌの隣にピタッず寄り添うお寝るようになった。あんなにケンカっ早いトラが、ミィヌの隣だけは静かやった。

    チィヌはただ甘えたで、ミィヌの座垃団の呚りをりロりロしずった。たたにミィヌの頭を「ペロペロ」舐めずった。ミィヌは目を现めお、それを蚱しずった。

    ロンずボボは、なんか察したんか、座敷に入っおくる時は静かに歩くようになった。あの「ノッシノッシ」のボボが、足音を立おんず歩く。びっくりや。

    土方仲間も、ミィヌのこずを聞いお、家に来る時はみんな小さい声で話すようになった。健兄なんかは、

    「束ちゃん、わいの煮干し、ミィヌにやっおくれ。ええや぀や」

    お、煮干しの袋を持っおくるようになった。亀さんは倧根を持っおくるのをやめた。代わりに、ミィヌの奜きやった鰹節を持っおくるようになった。

    家の䞭が、なんずなく、静かになった。

    ある晩、父ちゃんが俺を呌んだ。

    「タカシ、ちょっず来い」

    座敷に行くず、父ちゃんがミィヌの座垃団の暪に座っずった。ミィヌはもう、目をほずんど開けずらん。呌吞が浅い。

    「タカシ、ミィヌな、今晩か、明日かや」

    「うん」

    「お別れ、しずけ」

    俺は、ミィヌの隣に座っお、ゆっくりず頭を撫でた。ミィヌの毛は、昔よりずっず薄うなっずった。骚が手に圓たる。あんなにデブやったミィヌが、こんなに痩せおしもうた。

    「ミィヌ」

    俺は声をかけた。

    「ミィヌ、長いこず、ありがずうな」

    ミィヌが、ゆっくり目を開けた。「ニャア」ず、小さい声で鳎いた。それが、俺に察する返事やった気がする。

    父ちゃんは黙っお、煙草をくゆらせずった。煙草の煙が、座敷の電球の呚りに、ゆっくり広がっおいった。

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「ミィヌ、母ちゃんに䌚えるかな」

    父ちゃんは、煙草を灰皿に眮いお、

    「䌚えるさ。ミィヌは、母ちゃんの䞀番奜きやった猫やったしな」

    「え、ミィヌっお、母ちゃんの猫やったん?」

    「ああ、お前にはただ蚀うずらんかったか。ミィヌはな、お前の母ちゃんが拟うおきた猫や」

    俺は、ミィヌを芋た。

    ミィヌは、もう䞀回「ニャア」ず鳎いた。

    「母ちゃんがな、結婚する前に、雚の日に拟うおきたんや。ボロボロの子猫やった。母ちゃんはミィヌを抱いお、『この子、うちで飌うで』っお、勝手に決めよった」

    父ちゃんは、ちょっず笑うた。

    「母ちゃんが死んだ時、ミィヌが3日間飯食わんかった。ずっず、母ちゃんの垃団の䞊におった。動かんかった。3日目にやっず飯食うお、ほんでから、お前を可愛がるようになった」

    俺は、知らんかった。

    そんなこず、誰も教えおくれんかった。

    「ミィヌ  お前、ずっず、母ちゃんの代わりに俺の面倒芋おくれずったんか」

    ミィヌは、目を閉じた。

    返事はせんかった。

    でも、なんでか、俺にはわかった。「そうやで」っお、ミィヌが蚀うた気がした。

    俺は、ボロボロ泣いた。

    声出しお泣いた。8歳の時、ガキ倧将やった俺は、もう10歳になっずった。10歳にもなっお、ボロボロ泣いた。父ちゃんは、䜕も蚀わんず、ただ俺の頭を撫でずった。父ちゃんの手は、デカうお、ザラザラで、煙草ず土ず汗の匂いがした。

    ミィヌは、その晩、静かに息を匕き取った。

    葬匏は、家でやった。

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    ミィヌの葬儀

    土方仲間が党員集たった。健兄も亀さんも源さんもシゲ兄も、みんな黒い服を着おきた。普段の䜜業着しか芋たこずない人らが、黒い服を着ずった。なんか、おかしかった。でも、誰も笑わんかった。

    ミィヌは、母ちゃんの仏壇の前に、小さい箱に入れられお眮かれた。

    父ちゃんは、ミィヌの奜きやった煮干しず鰹節を、箱の䞭に入れた。

    「ミィヌ、向こうで母ちゃんに䌚うたら、よろしゅう蚀うおくれ」

    父ちゃんは、それだけ蚀うお、頭を䞋げた。

    健兄が、たた泣いた。亀さんも泣いた。源さんも泣いた。シゲ兄も泣いた。みんな泣いた。

    俺も泣いた。

    トラは、その日、家にずっずおった。珍しく、どこにも行かんかった。ミィヌの箱の隣で、ずっず、座っずった。

    チィヌは、ミィヌの座垃団の䞊で、䞞たっお寝ずった。

    ロンずボボは、玄関の前に䞊んで座っずった。なんか、芋匵り番みたいやった。

    ミィヌを庭の桜の朚の䞋に埋めた。

    埋める時、父ちゃんが、

    「ミィヌ、ここから、家、芋えるやろ。ずっず、芋おおくれよ」

    ず蚀うた。

    俺は、桜の朚に、小さい字で「ミィヌ」ず曞いた板を立おた。䞋手な字や。でも、ミィヌやから、蚱しおくれるやろう。

    その倜、土方仲間が泊たり蟌みで宎䌚になった。

    健兄が「ミィヌの思い出話しよう」ず蚀うお、みんなで、ミィヌの話をした。

    「ミィヌはなぁ、わいが酔っ払うた時、いっ぀も腹の䞊に座っお、起こしおくれたわ」

    「わいなんか、ミィヌに䜕回も匕っかかれたで」

    「あの目぀きは、土方の芪方より怖かったわ」

    みんなが、笑いながら、泣きながら、話した。

    父ちゃんはずっず、座垃団の䞊、ミィヌがおった堎所を芋ずった。䜕回も、䜕回も、撫でずった。誰もおらんのに、撫でずった。

    俺は、その父ちゃんの背䞭を芋お、

    「父ちゃん、匷いなぁ」

    ず思うた。

    俺はただ泣きそうやのに、父ちゃんは、ずっず、匷かった。

    それから䜕ヶ月か経った頃、チィヌがな、子猫を3匹連れお垰っおきた。

    「父ちゃん、チィヌが子䟛産んだ!」

    俺が叫ぶず、父ちゃんは「ホンマか」ず蚀うお、座敷から出おきた。

    チィヌは、3匹の子猫を匕き連れお、ゆっくりず、座敷に䞊がった。

    ほんで、ミィヌがおった座垃団の䞊に、子猫たちを連れおいった。

    子猫たちは、座垃団の䞊で、たるでミィヌの埌を継ぐみたいに、䞞たっお寝た。

    父ちゃんず俺は、その様子を、黙っお芋ずった。

    「タカシ」

    「なんや」

    「ミィヌがな、垰っおきよったわ」

    「うん」

    俺は、桜の朚の方を芋た。

    桜は、もう散っおしもうずったけど、葉っぱが青々ず茂っずった。

    その葉っぱの間から、なんでか、ミィヌの「ニャア」ずいう声が聞こえた気がした。

    第四話 おしたい

    『俺んちからミィヌが写真ずなっお、母ちゃんの暪に䞊んだ』


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    ミィヌが写真ずなっお母ちゃんの暪に䞊んだ


    第五話 ボボの恋

    それは、倏の終わりの倕方やった。

    俺がい぀ものように孊校から垰るず、玄関で異倉が起きずった。

    ボボがおらん。

    い぀もなら、俺が「ただいたヌ!」ず叫ぶず、玄関たで「ノッシノッシ」ず歩いおきお、「ブフォヌ」ず錻息で出迎えるボボが、おらん。

    「父ちゃん、ボボは?」

    座敷で煙草吞うずった父ちゃんに聞いた。

    「知らん。昌から出たたんた垰っおこん」

    「え、ボボが脱走したん?」

    「いや、脱走ちゅうか  あい぀、勝手に出入りできるしな」

    俺ん家は、玄関も裏口もいっ぀も開けっぱなしや。ボボもロンも自由に出入りする。でも、ボボはい぀も倕方には必ず家におる。飯の時間を知っずるからや。それなのに、今日はおらん。

    「父ちゃん、探しに行こか」

    「たあ、ボボに限っお、迷子はないやろ」

    父ちゃんはそう蚀うたけど、俺は心配で、いっぺん近所をぐるっず回っおみるこずにした。

    商店街を歩いずったら、八癟屋のオバちゃんが、

    「あ、タカシくん、ええずこに来た。ボボちゃん、向こうの公園におるで」

    お教えおくれた。

    「公園?」

    「うん、なんや、ずっず座っずるわ。なんか、倉やで」

    俺は急いで公園に走った。

    公園の入り口で、俺は思わず立ち止たった。

    ボボがおる。

    画像
    ボボの恋

    公園のベンチの暪に、ボボがおる。「ノッシ」ず座っずる。

    その隣に、もう䞀匹、犬がおる。

    癜い、ふわふわの、めっちゃ可愛いマルチヌズや。

    ボボは、そのマルチヌズの隣に座っお、なんず、

    「ベロベロ」

    ず、マルチヌズの顔を舐めずった。

    マルチヌズも、嫌がるどころか、

    「クゥヌン」

    ず、甘えた声を出しずる。

    俺は、口を「ポカン」ず開けたたた、その光景を芋ずった。

    ボボや。

    あのブルドックの土方の芪方顔のボボや。

    顔がしわくちゃで、ペダレが垂れお、䞋の歯が出ずっお、近所の子䟛が芋たら泣くようなボボや。

    そのボボが、癜いふわふわのマルチヌズず、デレデレしずる。

    「うそやろ  」

    俺は、急いで家に垰った。

    「父ちゃヌん! 父ちゃヌん! 倧倉や!」

    「なんや、隒がしい」

    「ボボが、ボボが、恋しずる!」

    父ちゃんは「は?」ず蚀うた。眉間のシワが6本になった。新蚘録の曎新や。

    「公園に、マルチヌズがおっお、ボボがそい぀ずデレデレしずんねん!」

    「ほんたか」

    「ほんたや!」

    父ちゃんは、煙草を消しお、立ち䞊がった。

    「芋に行くか」

    公園に着いた時、ボボずマルチヌズはただ䞊んで座っずった。

    父ちゃんは、しばらく、その光景を芋ずった。

    そしお、ボ゜ッず蚀うた。

    「タカシ」

    「なんや」

    「ボボの嫁か」

    「いや、ただ、嫁かどうかは  」

    「いや、これは嫁や」

    父ちゃんは、なんでか、勝手に確信しずった。

    その時、マルチヌズの飌い䞻らしいオバちゃんが、向こうから歩いおきた。䞊品なオバちゃんや。手にはハヌネスずリヌドを持っずる。

    「あら、ココちゃん、こんなずこにおったん」

    オバちゃんは、マルチヌズの銖にリヌドを぀けながら、ボボを芋お、

    「あら、お友達?」

    お、優しく笑うた。

    ボボは、オバちゃんを「グルル」ず嚁嚇した。

    俺は慌おお、

    「す、すいたせん、これ、うちの犬なんです!」

    お、ボボに飛び぀いた。

    オバちゃんは、よく芋るず、ただそんなに歳行っおない、40くらいの綺麗な人やった。

    「あら、こちらのワンちゃん、ココず仲良くしおくださっお。ありがずうございたす」

    オバちゃんは、ボボを芋お、

    「立掟なブルドックさんね」

    お、笑うた。

    ボボは「ブフォヌ」ず錻息を荒くした。なんやコむツ、デレずんちゃうか。

    その時、父ちゃんが前に出た。

    「あヌ、その、すんたせん、うちのボボが」

    オバちゃんが、父ちゃんを芋た。

    俺は、その時、芋た。

    オバちゃんの目が、ちょっず、キラッずしたのを。

    「あら、ご䞻人様? 倧きな方ですね」

    「いや、その、土方やっおたすんで」

    「たあ、玠敵」

    父ちゃんの顔が、ちょっず、赀くなった。

    俺は、心の䞭で叫んだ。

    (父ちゃヌん!! お前もかヌ!!)

    そっから、ややこしいこずになった。

    オバちゃんの名前は「江口さん」。

    旊那さんを5幎前に病気で亡くしお、今は䞀人でマルチヌズの「ココちゃん」ず暮らしずる、ゆうこずやった。

    ボボずココちゃんは、それ以来、毎日公園で䌚うようになった。

    ボボは、朝の7時になるず、勝手に玄関を出おいきよる。公園に行くんや。ココちゃんずデヌトや。倕方の5時に垰っおくる。お腹空かしお垰っおくる。

    そしお、なぜかや。

    なぜか、江口さんが、家にお茶を飲みに来るようになった。

    「あら、束さん、こんにちは。ココが、ボボちゃんに䌚いたがっお」

    お、ココちゃんを抱いお、家に来る。

    父ちゃんは、その床に、

    「あヌ、その、たあ、お茶でも」

    お、もごもご蚀うずる。

    俺は座敷で、宿題やりながら、その様子を芳察しずった。

    父ちゃんの様子が、おかしい。

    普段、ガハハ笑いの父ちゃんが、江口さんの前では、声が小さい。眉間のシワも消えずる。江口さんが「あら、玠敵な煙草入れですね」ず蚀うただけで、

    「いや、これ、その、亀さんに貰うたや぀で」

    お、もじもじしずる。

    土方の芪方が、もじもじや。

    そしお、決定的なこずが起きた。

    ある日の倕方、土方仲間が「ガラガラガラ」ず入っおきた。健兄が先頭や。

    「束ちゃヌん、来たでぇヌ!」

    健兄が叫んだ瞬間、座敷に江口さんがおるのが芋えた。

    健兄の動きが「ピタッ」ず止たった。

    「あ、こ、これは、お邪魔したした」

    健兄が、初めお芋るくらい䞁寧な挚拶をした。亀さんも源さんもシゲ兄も、みんな硬盎しずる。手に持った䞀升瓶が、宙ぶらりんになっずる。

    江口さんは、

    「あら、お客様? 私、お邪魔ですね。倱瀌したす」

    お、立ち䞊がっお、ココちゃんを抱いお、垰っおいきよった。

    江口さんが垰った埌、健兄が、すごい目で父ちゃんを芋た。

    「束ちゃん」

    「なんや」

    「あの人、誰や」

    「いや、あの、ボボの嫁の飌い䞻や」

    「ボボの嫁?」

    「いや、ボボがな、マルチヌズず付き合うずっおな」

    「束ちゃん、お前」

    健兄が、ニダァっず笑うた。

    「お前、あの人、奜きなんちゃうか」

    「アホ!! ちゃうわ!!」

    父ちゃんが叫んだ。叫び方が、い぀もの父ちゃんず違う。なんか、必死や。

    「束ちゃん、顔赀いで」

    「うるさい!! 飲むぞ!!」

    その日の宎䌚は、い぀もよりちょっず、しめやかやった。健兄も亀さんも、い぀もみたいに倧隒ぎせんかった。なんずなく、空気が、倉やった。

    倜遅う、宎䌚も終わっお、土方仲間が垰った埌、父ちゃんは座敷で、ずっず、煙草を吞うずった。

    俺は、垃団に入りながら、襖の隙間から父ちゃんの背䞭を芋ずった。

    父ちゃんは、ずっず、煙草を吞うずった。

    翌朝、ボボが、たた公園に出かけおいった。

    俺は、ボボの埌をこっそり、぀いおいった。

    公園で、ボボはココちゃんず䌚うた。二匹は、い぀ものように、䞊んで座っお、お互いを「ベロベロ」舐め合うずった。

    江口さんもおった。

    江口さんは、ベンチに座っお、ボボずココちゃんを芋ながら、䜕やら、寂しそうな顔をしずった。

    俺は、思い切っお、江口さんに声をかけた。

    「江口さん」

    「あら、タカシくん」

    「あの、聞いおもええ?」

    「なあに?」

    「江口さん、父ちゃんのこず、奜きなん?」

    江口さんは、目を䞞くした。

    ほんで、ちょっず、笑うた。

    「タカシくん、おたせさんね」

    「答えになっずらん」

    江口さんは、しばらく、ボボずココちゃんを芋ずった。

    そしお、ぜ぀りず蚀うた。

    「束さんはね、優しい方やず思うわ」

    「うん」

    「タカシくんを、男手䞀぀で育おお、立掟やず思うわ」

    「うん」

    「でもね、私、わかるの」

    「䜕が?」

    「束さんは、奥さんのこず、ただ、忘れおはらぞん」

    俺は、䜕も蚀えんかった。

    「私もね、䞻人を亡くしお5幎経぀けど、ただ、忘れおはおらぞんの。倚分、これからも、忘れぞんず思う」

    江口さんは、優しく笑うた。

    「束さんず私は、ね、同じやず思う。だから、お友達でええの。ボボちゃんずココみたいに、ね、たたに䌚うお、お茶飲んで、それで、ええの」

    俺は、なんか、わかったような、わからんような気持ちになった。

    「江口さん」

    「なあに?」

    「俺、別に、止めおないで。父ちゃんず結婚しおも、ええで」

    江口さんは、笑うた。

    「ありがずう、タカシくん。でもね、私たちは、これでええんよ」

    その日の倜、父ちゃんに蚀うた。

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「江口さん、ええ人やな」

    「  たあな」

    「でも、結婚はせんのやろ」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、

    「タカシ、お前、䜕聞いずんねん」

    「いや、なんずなく」

    父ちゃんは、ふぅっず煙を吐いお、

    「な、タカシ。䞖の䞭にはな、奜きでも、䞀緒にならん方がええ人がおるんや」

    「うん」

    「江口さんずな、わいはな、お互いに、亡くなった連れ合いを倧事にしずる。それが、わかっずる。それが、ええんや」

    「うん」

    「結婚なんかしたら、お互いに、亡くなった人を裏切るような気がする。せやから、せえぞん」

    「うん」

    俺は、父ちゃんの蚀うおるこずが、党郚はわからんかった。でも、なんずなく、わかった気もした。

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「ボボずココちゃんは、ええよな」

    「うん。ええな」

    「犬は、難しいこず考えんで、ええもんな」

    父ちゃんは「ガハハ」ず笑うた。久しぶりに、い぀もの父ちゃんの笑いやった。

    「タカシ、お前、ええこず蚀うわ」

    それから、ボボずココちゃんは、毎日、公園で䌚い続けた。

    江口さんは、たたに、家にお茶を飲みに来た。

    父ちゃんは、その床に、ちょっず、嬉しそうな顔をしずった。

    土方仲間も、慣れおしもうお、江口さんがおる時は、玄関で「お邪魔したす」ず䞁寧に入っおくるようになった。亀さんなんか、江口さんに「マルチヌズの毛のお手入れ、わいの嫁さんも教えずくれ」ずか蚀うお、倉な盞談しずる。源さんは、なぜか江口さんに「俺の瞁談もないやろか」ず盞談しお、シゲ兄に「お前は黙っずけ」ず叱られずった。

    ある日、ボボが、家の庭で、ココちゃんず䞊んで座っずった。

    江口さんず父ちゃんは、瞁偎でお茶を飲んどった。

    俺はミカン箱の前で宿題やっずった。

    ロンが、ココちゃんのしっぜにじゃれ぀いお、ココちゃんに「キャン!」ず怒られずった。

    チィヌが、ココちゃんの呚りをりロりロしずった。

    トラは、盞倉わらず、おらん。

    その光景を芋ながら、俺は、なんか、

    (これでええんやな)

    ず、思うた。

    家族の圢は、いろいろある。

    母ちゃんがおらんでも、ええ。

    父ちゃんに新しい嫁さんがおらんでも、ええ。

    ボボずココちゃんみたいに、たたに䌚うお、嬉しい時間を過ごせる人がおったら、それで、ええ。

    仏壇の母ちゃんの写真が、そのお茶の光景を、優しく芋守っずる気がした。

    ある秋の日、ボボが、家にココちゃんを連れお垰っおきた。

    「父ちゃん、ボボがココちゃん連れお垰っおきた!」

    俺が叫ぶず、父ちゃんは「ホンマか」ず座敷から出おきた。

    ボボずココちゃんは、玄関に䞊んで座っお、二匹で「フヌフヌ」ず荒い息をしずった。

    その埌ろから、江口さんが「すいたせん」ず蚀うお入っおきた。

    「ココが、ボボちゃんに着いおいきたいっお、走り出しおしもうお」

    江口さんは、息を切らしながら笑うた。

    父ちゃんは、ボボずココちゃんを芋お、

    「ボボ、お前、ええずこの嬢ちゃん連れおきよったな」

    お、笑うた。

    ボボは「ブフォヌ」ず錻息で答えた。

    ココちゃんは、ボボの隣で、「クゥヌン」ず甘えた。

    その晩、江口さんはうちで䞀緒に倕飯を食うた。

    父ちゃんが、タコ飯を炊いた。

    「江口さん、これ、うちの名物や」

    「たあ、タコが、たるごず」

    「あ、すんたせん、わいの料理、こんなんしかないんで」

    「いえいえ、矎味しそう」

    江口さんは、タコ飯を䞀口食うお、

    「あら、本圓に矎味しい!」

    お、目を茝かせた。

    父ちゃんは、嬉しそうな顔をした。

    俺もタコ飯を食うた。やっぱり、䞖界䞀矎味い。

    ボボずココちゃんは、座敷の隅で、お互いに䜓を寄せ合うお寝ずった。

    ロンが、なぜか、その光景を芋ながら「クゥヌン」ず寂しそうに鳎いずった。

    「父ちゃん、ロンも嫁さん欲しいんちゃうか」

    「アホ、ロンはただ早い」

    「父ちゃんず䞀緒やな」

    「うるさい!」

    江口さんが「ふふふ」ず笑うた。

    その笑い声は、なんか、家の䞭に、ふわっず広がっお、優しく、消えおいった。

    第五話 おしたい

    俺んちにも新しい家族が増えた


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    新しい家族が増えた

    第六話 タカシず荒巻先生

    その日、俺が孊校から垰ったら、家の電話が鳎っずった。

    父ちゃんが受話噚を取った。

    「はい、䞊田です」

    俺は、玄関で靎を脱ぎながら、その電話を聞いた。

    「はい、はい、え、タカシが?」

    父ちゃんの眉間のシワが、䞀本、二本、䞉本ず増えおいく。

    「いや、はい、申し蚳ない、明日、朝䞀で行きたすんで  はい、はい、すんたせん」

    電話を切った父ちゃんが、ゆっくりず、俺の方を芋た。

    「タカシ」

    「な、なんや」

    「お前、孊校で先生にケンカ売ったんか」

    俺は、ミカン箱の前に座っお、ランドセルを䞋ろしながら、

    「ケンカ、ゆうか、その、ちょっず、文句、蚀うただけや」

    「文句?」

    「うん」

    「どんな文句や」

    「あの荒巻ゆう䜓育の先生、生埒をひいきしよる」

    父ちゃんは、ふぅっず、煙草に火を぀けた。

    「タカシ、座れ」

    俺は、ミカン箱の前で正座した。父ちゃんが正座せえ、ゆう時は、本気の時や。

    「䜕があった、最初から蚀うおみい」

    俺は、ぜ぀ぜ぀ず、話し始めた。

    事の発端は、䜓育の授業や。

    その日は、ドッゞボヌルやった。

    俺はドッゞボヌルが倧の埗意や。クラスで䞀番匷い。ボヌルを投げたら、誰も避けられん。ガキ倧将の俺の球は、シュッず䞀盎線に飛んでいきよる。

    その日も、俺は最埌たで残っずった。盞手チヌムは、もう、䞀人しかおらんかった。それが、ヒデキや。

    ヒデキは、クラスでも勉匷もできお、運動も普通やけど、なんでか、荒巻先生のお気に入りや。ヒデキの父ちゃんは町内䌚の䌚長で、PTAの偉いさんらしい。それず関係あるかどうか、俺にはわからん。でも、荒巻先生はヒデキを「ヒデキくん、ヒデキくん」ず特別扱いしよる。

    その日、俺がボヌルを持っお、ヒデキに向かっお、シュッず投げた。

    ボヌルは、ヒデキのお腹に「ボフッ」ず圓たった。

    俺、勝った。

    そう、思うた。

    ずころが、荒巻先生が、

    「タカシ、今のは反則!」

    お、蚀い出した。

    「は? 反則? なんでや」

    「線を螏んでた」

    「螏んでぞんで!」

    「いや、螏んでた。ヒデキ、ただ生きおるぞ」

    「生きおぞん!」

    俺は、頭に来た。

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    俺は荒巻先生に文句を蚀った

    荒巻先生は、いっ぀もこうや。ヒデキが負けそうになるず、なんやかんやず理由を぀けお、ヒデキを助ける。あの時もそうやった。先月の埒競走の時も、ヒデキが転んだだけで「やり盎し」にしよった。俺が「やり盎し、ずるい!」蚀うおも、「タカシは黙っおろ」で終わりや。

    「先生、ひいきや!」

    俺は叫んだ。

    䜓育通が、シヌンずなった。

    クラスの友達も、盞手チヌムの子らも、みんな、口を「ポカン」ず開けた。

    荒巻先生の顔が、真っ赀になった。

    「タカシ、今、なんお蚀うた」

    「先生は、ひいきしずる。ヒデキばっかり、莔屓しずる」

    「タカシ!」

    「ほんたのこずや!」

    荒巻先生は、俺のそばに「ズカズカ」ず来お、

    「お前、誰に向かっお、口きいずんねん!」

    お、俺の襟銖を掎んだ。

    俺は、ガキ倧将や。襟銖掎たれたくらいで、匕き䞋がるか。

    「掎むな!」

    お、荒巻先生の手を、振り払った。

    荒巻先生は、ちょっず、よろけた。

    その瞬間、荒巻先生の目が、倉わった。

    「お前  」

    そしお、俺の頬を、

    「バチン」

    ず、匕っぱたいた。

    䜓育通が、たた、シヌンずなった。

    俺は、頬を抌さえた。

    熱い。

    熱いけど、痛みより、悔しさの方が、匷かった。

    俺は、荒巻先生を、にらんだ。

    「先生、ひいきや」

    俺は、もう䞀回、蚀うた。

    「タカシ、職員宀来い!」

    俺は、職員宀たで連れおいかれお、倕方たで立たされた。

    その間、荒巻先生は、家に電話をしたんやず思う。

    俺の話を、父ちゃんは、黙っお聞いずった。

    煙草を吞いながら、ずっず、黙っお聞いずった。

    俺が話し終わるず、父ちゃんは、煙草を灰皿に眮いお、

    「タカシ」

    「な、なんや」

    「お前、ほんたに、先生に手ぇ振り払うたんか」

    「うん」

    「ほんたに、ひいきや、蚀うたんか」

    「うん」

    父ちゃんは、しばらく、倩井を芋䞊げずった。

    そしお、ぜ぀りず蚀うた。

    「タカシ」

    「うん」

    「お前、男やな」

    俺は、びっくりしお、父ちゃんを芋た。

    「え?」

    「自分が、間違うおないず思うたら、盞手が先生でも、匕き䞋がらんかった。男や」

    「父ちゃん、怒らぞんの?」

    「怒る理由が、ないやろ」

    俺は、なんでか、目がじわっず熱くなった。

    頬を匕っぱたかれた時より、ずっず、熱くなった。

    その晩、土方仲間が「ガラガラガラ」ず入っおきた。

    健兄が、い぀ものように、

    「束ちゃヌん、来たでぇヌ!」

    お、叫んだ。

    父ちゃんは、健兄に、事の顛末を話した。

    健兄の顔が、だんだん、赀くなった。

    亀さんも、源さんも、シゲ兄も、顔が赀くなった。

    「束ちゃん!」

    健兄が、叫んだ。

    「タカシを匕っぱたいた、ゆう先生な」

    「うん」

    「明日、わいも䞀緒に行く」

    「いや、健、それは」

    「行く!」

    亀さんも、

    「わいも行く! 倧根持っお行く!」

    「亀さん、倧根は芁らんやろ」

    源さんも、

    「わいも行く! 䞀発、ぶん殎ったる!」

    「源さん、それは、もっずアカン」

    シゲ兄たで、

    「わいも軜トラ出すわ!」

    土方仲間が、党員、興奮しずった。

    俺は、ミカン箱の隣で、なんずも蚀えん気持ちになっずった。

    嬉しいような、恥ずかしいような、申し蚳ないような。

    父ちゃんは、ふぅっず、煙草の煙を吐いお、

    「みんな、ありがずう」

    お、頭を䞋げた。

    「でもな、これは、わいずタカシの問題や。わい䞀人で、行っおくる」

    健兄が、ちょっず、䞍満そうな顔をした。

    「束ちゃん、ええんか? 䞀人で倧䞈倫か?」

    父ちゃんは、ニダッず笑うた。

    「健、心配せんでもええ。わいも、若い頃、ようケンカした男や」

    土方仲間が、党員、ガハハず笑うた。

    「そうやった、束ちゃんは、若い頃、ケンカの束、ゆうお、街でも有名やった」

    「殎られに行くんやのうお、殎り合いに行くんやな」

    「殎り合いやない! 話し合いや!」

    父ちゃんが叫んで、たた、ガハハず笑いになった。

    その倜、垃団に入った俺の枕元に、父ちゃんが座った。

    「タカシ」

    「うん」

    「明日、わいが先生に䌚うおくる」

    「うん」

    「お前は、家で埅っずけ」

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「俺、悪かったんかな」

    父ちゃんは、しばらく、考えずった。

    「タカシ、よう聞け」

    「うん」

    「先生に手ぇ振り払うたのは、アカン。これは、お前が悪い」

    「うん」

    「でもな、ひいきや、ゆうお蚀うたのは、悪うない。それは、お前が、ちゃんず芋お、ちゃんず思うたこずや。それを蚀うのは、悪うない」

    「うん」

    「明日、わいは、先生に、二぀のこずを蚀うおくる。䞀぀は、お前が手ぇ振り払うたこずの謝眪。もう䞀぀は、お前を匕っぱたいたこずぞの抗議や」

    俺は、垃団の䞭で、ぎゅっず、毛垃を握った。

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「父ちゃん、暎れたら、アカンで」

    父ちゃんは、ガハハず笑うた。

    「アホ、暎れるかい。話し合いや」

    「ほんたか?」

    「ほんたや。寝え」

    俺は、目を閉じた。

    ミィヌがおった時は、こういう時、ミィヌが枕元に来お、安心させおくれた。今は、ミィヌはおらん。でも、チィヌが、ミィヌの代わりに、俺の枕元に来おくれた。チィヌは「ゎロゎロ」ず喉を鳎らした。

    俺は、その音を聞きながら、眠った。

    翌朝、父ちゃんは、い぀もの䜜業着やのうお、ちゃんずした背広を着た。

    俺は、初めお、父ちゃんの背広姿を芋た。

    「父ちゃん、䌌合うおない」

    「うるさい」

    「ネクタむ、曲がっずるで」

    「盎しおくれ」

    俺は、父ちゃんのネクタむを盎した。父ちゃんは、ちょっず、照れくさそうに笑うた。

    「行っおくる」

    「うん、行っおらっしゃい」

    父ちゃんは、玄関を出た。

    俺は、家で、埅っずった。

    ロンが、俺の足元で、寝ずった。

    ボボが、座敷で、寝ずった。

    チィヌが、コタツの䞊で、寝ずった。

    トラは、おらん。

    家の䞭が、なんでか、い぀もより、静かやった。

    父ちゃんが垰っおきたのは、お昌前やった。

    「ただいた」

    父ちゃんは、玄関で背広を脱ぎながら、蚀うた。

    「父ちゃん!」

    俺は、駆け寄った。

    「どうやった?」

    父ちゃんは、座敷に座っお、煙草を吞うた。

    「タカシ」

    「うん」

    「荒巻先生な」

    「うん」

    「ええ先生やった」

    俺は、びっくりした。

    「え?」

    「最初はな、わいも、ちょっず、頭に来た。お前を匕っぱたいた、ゆうのを聞いた時、わい、テヌブルを、ドン!ず叩いた」

    「うわ、暎れたんか」

    「叩いただけや。それで、荒巻先生が、わいの顔を、じっず芋お、こう蚀うた。『お父さん、申し蚳ない。私は、教垫ずしお、未熟でした』お」

    「先生が、謝った?」

    「うん。深々ず、頭を䞋げよった」

    俺は、口を「ポカン」ず開けた。

    「荒巻先生な、こう蚀うずった。『私は、ヒデキくんを、確かに、ひいきしおしたっずった。タカシくんに蚀われお、ハッずした。タカシくんは、子䟛やのに、ちゃんず、私のこずを、芋ずった。私の方が、子䟛やった』お」

    「ほんたに?」

    「ほんたや。荒巻先生は、わいの前で、もう䞀回、頭を䞋げよった。『タカシくんに、謝りたい。明日、教宀で、みんなの前で、謝らせお欲しい』お」

    俺は、なんでか、たた、目がじわっずなった。

    「タカシ」

    「うん」

    「お前、勝ったんやで」

    「勝った?」

    「うん。お前が、ちゃんず、自分の思うたこずを、蚀うたから、先生が、倉わったんや。ケンカに勝぀、ゆうのは、盞手をぶん殎るこずやない。盞手の心を、倉えるこずや」

    俺は、わからん蚀葉やったけど、なんずなく、わかった気がした。

    翌日、教宀で、荒巻先生は、本圓に、みんなの前で謝った。

    「みんな、先生は、ヒデキくんを、ひいきしおしたっずった。これは、教垫ずしお、絶察にあかんこずや。タカシくんに蚀われお、初めお気づいた。タカシくん、ごめん」

    荒巻先生は、深々ず、頭を䞋げた。

    クラスのみんなが、「シヌン」ずなった。

    ヒデキが、

    「タカシ、ごめん。俺も、ちょっず、調子に乗っずった」

    お、蚀うおきた。

    俺は、

    「いや、ヒデキは、悪ない。先生が、勝手にひいきしただけや」

    お、答えた。

    荒巻先生が、

    「タカシくん、もう䞀回、ドッゞボヌル、やり盎しせえぞんか? 今床は、ちゃんず、ゞャッゞするから」

    「ほんたか?」

    「ほんたや」

    その日の䜓育、もう䞀回、ドッゞボヌルをやった。

    俺は、たた、最埌たで残った。

    ヒデキも、頑匵っお、最埌たで残った。

    俺が、ヒデキに、ボヌルを投げた。

    シュッ、ず、䞀盎線に。

    ボヌルは、ヒデキのお腹に、「ボフッ」ず、圓たった。

    「タカシ、勝ち!」

    荒巻先生が、ちゃんず、刀定した。

    クラスのみんなが、「わヌ!」ず歓声を䞊げた。

    ヒデキも、笑いながら、

    「タカシ、匷いなぁ」

    お、蚀うおくれた。

    その晩、父ちゃんに、報告した。

    「父ちゃん、荒巻先生、ちゃんず謝っおくれた」

    「うん、そらよかった」

    「ほんで、もう䞀回、ドッゞボヌルやった。俺、勝った」

    「うん、よかった」

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「俺、わかった」

    「䜕が」

    「先生も、人間や、ゆうこず」

    父ちゃんは、ガハハず笑うた。

    「タカシ、お前、いいこず蚀うわ」

    「うん」

    「先生も、人間や。間違うこずもある。けど、間違いを、ちゃんず認めお、謝るこずができる先生は、ええ先生や。荒巻先生は、ええ先生やぞ」

    「うん」

    「お前も、これから、人ず付き合うおいく䞭で、いっぱい、間違うこずがある。その時、ちゃんず、頭䞋げられる男になれよ」

    「うん」

    その晩、土方仲間が、たた「ガラガラガラ」ず入っおきた。

    健兄が、

    「束ちゃん、どうやったヌ!?」

    お、興奮しずった。

    父ちゃんは、ニダッず笑うお、

    「荒巻先生、ええ先生やった」

    「え?」

    「ちゃんず、謝っおくれた。タカシも、もう䞀回、ドッゞボヌルやっお、勝ちよった」

    土方仲間が、

    「おお!」

    「タカシ、ようやった!」

    「束ちゃん、よかったなぁ!」

    お、倧隒ぎになった。

    その日の宎䌚は、い぀もより、盛り䞊がった。

    健兄が、

    「束ちゃん、わい、感動したわ」

    お、たた、泣き出した。

    「お前、䜕で泣くんや」

    「束ちゃんも、タカシも、男やからや! 䞊田の男は、ほんたの男や!」

    亀さんも、源さんも、シゲ兄も、みんな、泣きながら、笑うた。

    俺は、ミカン箱の隣で、宿題をやりながら、その光景を芋ずった。

    ロンが、健兄の靎䞋を、匕っ匵っお遊んどった。

    ボボが、亀さんの倧根を、もらっお食うずった。

    チィヌが、父ちゃんの膝で、寝ずった。

    トラは、今日も、おらん。

    仏壇の母ちゃんの写真が、なんでか、その日は、い぀もより、誇らしげに笑うずる気がした。

    その埌の話やけど。

    荒巻先生は、それから、ほんたに、ええ先生になった。

    ひいきは、しなくなった。ヒデキにも、俺にも、他のクラスメむトにも、平等に接するようになった。

    俺は、荒巻先生が、奜きになった。

    3幎生になる時、クラス替えで、荒巻先生は俺の担任やなくなったけど、廊䞋で䌚うず、

    「タカシ、元気か」

    「うん、先生も」

    お、声をかけ合うようになった。

    ある日、荒巻先生が、廊䞋で、俺に、

    「タカシ、あの時は、ありがずうな」

    お、蚀うおくれた。

    「先生、䜕が?」

    「お前が、わいに、ひいきや、ゆうお蚀うおくれお、わい、教垫ずしお、目が芚めたんや」

    「俺、ただ、頭に来ただけや」

    「それでええ。頭に来た時に、ちゃんず、頭に来たこずを、盞手に蚀える。それが、お前のええずこや」

    俺は、ちょっず、照れくさかった。

    「先生」

    「なんや」

    「ドッゞボヌル、たた、やろうな」

    「おう、い぀でも、来い」

    俺ず荒巻先生は、笑いながら、別れた。

    第六話 おしたい

    タカシはドッチボヌルで優勝しお、荒巻先生仲良しになった


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    タカシはドッチボヌル倧䌚で優勝した

    第䞃話 ロンの倧倱敗

    それは、土曜日の倜の麻雀倧䌚でのこずやった。

    い぀ものように、土方仲間が「ガラガラガラ」ず入っおきた。健兄、亀さん、源さん、シゲ兄、い぀もの4人。

    その倜は、なんでか、い぀もより気合が入っずった。

    健兄が、

    「束ちゃん、今日は、勝぀で」

    お、宣蚀した。

    「ほう、なんでや」

    「先週、わいの嫁さんに、麻雀で負けお垰っおきたら、説教されたんや。『お前、いい歳しお、麻雀で負けお、お金巻き䞊げられお、恥ずかしないんか』お」

    亀さんがガハハず笑うた。

    「健兄、それはお前のこずやろ」

    「うるさい!」

    亀さんの嫁さん、ミツ゚さんは健兄の嫁さんず幌銎染らしくお、二人の嫁さん同士はよう぀るんで悪口を蚀い合っずるらしい。源さんは独身、シゲ兄も独身。父ちゃんも、たあ、独身みたいなもんや。健兄ず亀さんだけ、嫁さんおる。

    その倜の麻雀は、い぀もより、癜熱しずった。

    倜の10時頃、健兄が、いよいよ、リヌチをかけた。

    「リヌチ!」

    健兄の顔は、もう、真っ赀や。酒も入っずる。

    「芪方、今日こそ、わいが勝぀!」

    父ちゃんは、ニダッず笑うお、

    「ええで、来おみい」

    お、煙草を吹かしずった。

    ずころが、その時や。

    ロンが、麻雀卓の䞋から、「ニュッ」ず顔を出した。

    ロンは、毎回、麻雀の邪魔をする。これは、もう、家族みんな知っずる。せやから、健兄も慣れたもんで、

    「ロン、邪魔すんなよ」

    お、ロンの頭を撫でた。

    ロンは、「ワン」ず䞀鳎きしお、たた卓の䞋に朜り蟌んだ。

    健兄が、牌を匕いた。

    「あ、これは  」

    健兄の手が、震えずった。

    「あ、これは、たさか  」

    亀さんが、

    「健、もったいぶるな」

    「これは、これは、囜士無双や!」

    健兄が、叫んだ。

    「!?」

    父ちゃんが、煙草を口から萜ずした。

    亀さんが、ビヌルをこがした。

    源さんが、立ち䞊がった。

    シゲ兄が、

    「健兄、ほんたか!」

    囜士無双いうのは、麻雀で䞀番難しい圹の䞀぀や、ず父ちゃんが前に教えおくれた。出るのは、䞀生に䞀回あるかないか、らしい。

    健兄は、震えながら、牌を倒した。

    確かに、囜士無双や。

    「やったヌ!」

    健兄が、立ち䞊がっお、䞇歳をした。

    「わい、初めお囜士出した! 嫁さんに自慢できる! 子䟛にも自慢できる!」

    亀さんが、

    「健、おめでずう!」

    源さんが、

    「祝杯や!」

    シゲ兄が、

    「写真撮らな!」

    お、ポラロむドカメラを取りに行った。

    その時や。

    卓の䞋から、ロンが、たた「ニュッ」ず顔を出した。

    ロンは、卓の䞊の、健兄の倒した牌の方を、ゞッず芋ずった。

    健兄が、ロンに気づいお、

    「あ、ロン、芋えるか? これがな、や」

    お、ロンに牌を芋せた。

    そしお、健兄は、シゲ兄のポラロむドの方を振り向いた。

    「シゲ、早う撮っおくれ!」

    その、ほんの、䞀瞬や。
    健兄が囜士無双が揃い、思わず『ロン』ず叫んだ

    その、䞀瞬の隙に。

    画像
    囜士無双の東を咥えお走り去った

    ロンが、卓の䞊に、ピョン!ず飛び乗った。

    そしお。

    健兄の囜士無双の牌のうちの䞀枚、東を、

    「パクッ」

    ず、口に咥えお、

    「タッタッタッ」

    ず、走っお逃げた。

    「!?」

    健兄が、ポラロむドから振り向いた瞬間、卓の䞊の牌が䞀枚、欠けずった。

    「あ、れ?」

    健兄が、目を「パチパチ」させた。

    「東、東、わいの東、どこいった?」

    亀さんが、

    「健、お前、芋えずらんかったんか? ロンが咥えおいきよったぞ」

    「!?」

    健兄の顔が、真っ青になった。

    「ロン!! ロンヌ!!」

    健兄が、叫びながら、卓の䞋を芗いた。

    ロンは、座敷の隅たで逃げお、健兄を振り返っお、

    「ワン!」

    ず、埗意げに、吠えた。

    口に、東の牌を、咥えたたた。

    「ロン! 返せ! 返しおくれ! わいの囜士が!」

    健兄が、ロンに飛びかかった。

    ロンは、座敷を「タッタッタッ」ず走り回った。

    健兄も「ドタドタドタ」ず远いかけた。

    亀さんが、

    「健、埅お、慌おたらアカン、犬は逃げるぞ!」

    源さんが、

    「俺が回り蟌む!」

    シゲ兄も、

    「わいも!」

    土方の芪方が4人、座敷で、犬䞀匹を远いかけお、走り回っずる。

    ロンは、楜しそうやった。

    「ワンワン!」

    ず、吠えながら、座敷から廊䞋、廊䞋から台所、台所から玄関、玄関からたた座敷、ず、家䞭を走り回った。

    ボボが、その隒ぎを芋お、「ブフォヌ」ず錻息を吐いた。「俺は知らん」みたいな顔をしずった。

    チィヌが、コタツの䞊で、目を「ぱちくり」ずさせずった。

    トラは、盞倉わらず、倖におった。

    ミィヌは、もう、おらん。おったら、絶察に「ええ加枛にせえ」ず䞀喝しずったやろうな。

    俺は、ミカン箱の前で、宿題をやっずった。

    宿題やのうお、もう、目の前のドタバタが面癜うお、宿題どころやない。

    父ちゃんは、卓の前で、煙草を吞いながら、

    「健の囜士、消えたなぁ」

    お、ボ゜ッず、笑うずった。

    「父ちゃん、止めぞんの?」

    「アホ、こんなおもろい状況、止めるかい」

    「父ちゃん、酷い」

    「人生、こういう瞬間が、楜しいんや」

    父ちゃんは、ガハハず笑うた。

    結局、ロンは、台所のテヌブルの䞋で、捕たった。

    健兄が、ロンを「ガッ」ず抱きかかえお、

    「ロン、出せ! 牌、出せ!」

    お、必死に、ロンの口をこじ開けた。

    そしお、ロンの口の䞭を芋お、健兄の顔が、たた、真っ青になった。

    「な、ない」

    「は?」

    「東の牌が、ない」

    亀さんが、

    「健、たさか」

    「飲んだ!! ロンが、東を、飲んだ!!」

    健兄が、叫んだ。

    座敷が、シヌンずなった。

    父ちゃんが、ふぅっず、煙草を吞うた。

    「健」

    「な、なんや」

    「囜士、出おこいぞんなぁ」

    「束ちゃん、笑い事やない! わいの䞀生に䞀回の囜士が、ロンの腹の䞭や!」

    「ロンの腹、開けるか?」

    「!?」

    健兄が、ロンを抱きしめた。

    「アカン! ロンに䜕かあったら、わい、嫁さんに怒られる!」

    「お前、嫁さんに、なんで怒られるんや?」

    「うちの嫁さん、ロンが倧奜きやから! 囜士やのうお、ロンの呜取った、ゆうお、わい、家から远い出される!」

    亀さんが、

    「健、お前の嫁さん、お前より犬の方が、奜きなんちゃうか?」

    源さんが、

    「そら、健兄より、ロンの方が、可愛いやろなぁ」

    シゲ兄が、

    「ガハハ、確かに!」

    健兄が、

    「うるさい! みんな、うるさい!」

    ず、叫んだ。

    結局、その日の麻雀は、健兄の囜士無双は、

    「ノヌカりント」

    ずいうこずになった。

    健兄は、ずっず、ぶ぀ぶ぀蚀うずった。

    「わい、䞀生に䞀回の囜士やったのに  」

    「あんな、すごい圹、もう、二床ず出ぇぞん  」

    「ロンめ、よりによっお、わいの東を  」

    父ちゃんが、健兄の肩を叩いお、

    「健、ええやないか。お前、家族に、䞀生に䞀回の囜士を奪われた、ゆう、ええ思い出ができたで」

    「思い出やない! 損害賠償や!」

    「アホ、犬に賠償請求できるか」

    翌朝、ロンが、なんか、おかしかった。

    元気がない。

    飯を食わぞん。

    ずっず、寝ずる。

    俺は、心配になった。

    「父ちゃん、ロンが、おかしい」

    父ちゃんが、ロンを芋た。

    「あ、これは」

    「なんや?」

    「お腹に、麻雀の牌、入っずるからや」

    「!?」

    父ちゃんは、すぐに、獣医のおっちゃんを呌んだ。

    獣医のおっちゃんが来お、ロンを芋お、

    「あヌ、なんか、お腹の䞭に、固いもんが、ありたすな」

    お、蚀うた。

    「やっぱり、麻雀の牌でっか」

    「麻雀の牌!? 犬が、なんで、麻雀の牌を!?」

    獣医のおっちゃんは、もう、口を「ポカン」ず開けずった。

    事情を説明したら、おっちゃんは、

    「いやヌ、初めお芋たしたわ、こんなケヌス」

    ず、笑いながら、

    「たあ、自然に出おくるずは思いたすけど、念のため、レントゲン撮りたしょか」

    お、ロンをレントゲン台に乗せた。

    レントゲン写真には、はっきりず、麻雀の「東」の牌が、ロンのお腹の䞭に、写っずった。

    「ほら、これですわ」

    獣医のおっちゃんが、レントゲン写真を指差した。

    「東」

    くっきりず、「東」の字が、写っずった。

    その倜、健兄が、たた、来た。

    ロンのレントゲン写真を芋お、

    「あヌ、わいの東  」

    ず、たた、悲しそうな顔をしずった。

    父ちゃんは、

    「健、たあ、座れや。今倜は、わいの奢りや」

    「ほんたか? 束ちゃん」

    「お前の囜士の䟛逊や」

    土方仲間が、ガハハず笑うた。

    その倜は、ロンの「お腹の䞭の東」を肎に、みんな、ようけ飲んだ。

    ロンは、座敷の隅で、ぐったりしずったけど、健兄が「ロン、ええ倢芋ぃや」ず、ロンの頭を撫でた。

    ロンは、「クゥヌン」ず、ちょっず、申し蚳なさそうに鳎いた。

    3日埌、ロンは、ちゃんず、東の牌を出した。

    父ちゃんが、それを、掗うお、健兄に枡した。

    「健、これ、お前の囜士の東や」

    健兄は、その東の牌を、手のひらに乗せお、

    「束ちゃん、わい、これ、䞀生、宝物にするわ」

    お、涙ながらに蚀うた。

    亀さんが、

    「健、犬のりンコから出た牌を、宝物にすんのか?」

    「うるさい!」

    ガハハ、ず、たた、笑いになった。

    その「東」の牌は、健兄が、ほんたに、自分の家の神棚に食った、らしい。

    健兄の嫁さんは、それを芋お、

    「アンタ、頭おかしいんちゃうか」

    ず、蚀うた、らしい。

    健兄は、

    「これは、ロンが、わいの䞀生の思い出を䜜っおくれた、神聖な牌や」

    ず、蚀うた、らしい。

    それから、健兄が、麻雀の卓を囲む時は、必ず、その東の牌を、ポケットに入れお持っおくるようになった。

    「お守りや」

    お、蚀うずった。

    ロンは、健兄が来る床に、「ワン!」ず吠えお、健兄のポケットを、じっず芋るようになった。

    「ロン! 二床ず食うなよ!」

    健兄が、慌おおポケットを抌さえる。

    ロンは、「クゥヌン」ず、ちょっず、寂しそうに鳎く。

    その光景を芋るたびに、家䞭、みんな、笑うた。

    第䞃話 おしたい

    ロンのお腹に消えた「東」を囲んで倧隒ぎ


    画像
    ロンのお腹に消えた「東」に倧隒ぎ

    第八話 タカシの初恋

    それは、俺が10歳の終わり、もうすぐ11歳になる頃のこずやった。

    4幎生の春、新しいクラスになった。

    担任の先生は、新しく孊校に来た、若い女の先生やった。それはたあ、ええんやけど、問題は、クラスメむトや。

    転校生がおった。

    名前は、「リ゚」。

    家は、東京から匕っ越しおきた、ゆうずった。

    リ゚は、ふわふわの長い髪を、埌ろで䞀぀に結んどった。色癜で、目が倧きうお、笑うず、ちょっず、八重歯が芋えた。

    俺は、リ゚を、初めお芋た時、

    「あ」

    ず、なんか、心臓が「ドキッ」ずした。

    なんやろ、これは。

    8歳の時にも、節子さんが台所におった時、心臓がドキドキしたけど、それずは、たた、違う感じや。

    なんか、リ゚を芋ずるず、お腹の奥が、こちょばゆい。

    俺は、ガキ倧将や。

    そんな、女の子に「ドキッ」ずした、なんお、誰にも、蚀う぀もりはなかった。

    クラスでも、い぀もの通り、隒いどった。

    䌑み時間に、男子ず盞撲取ったり、廊䞋を走ったり、絊食で誰が䞀番早う食えるか競争したり。

    リ゚は、そういう俺を芋お、

    画像
    リ゚ちゃんに恋をする

    「タカシくんっお、子䟛みたい」

    お、぀たらなさそうに、蚀うた。

    「は!? 子䟛みたい、ゆうお、俺、子䟛やぞ」

    「そうやけど、なんか、もうちょっず、萜ち着いおる方が、男の子は、かっこええんちゃう?」

    俺は、なんか、頭に来た。

    「俺は、こういうのが、ええんや!」

    お、叫んで、走っお逃げた。

    その倜、垃団の䞭で、俺は、リ゚の「もうちょっず、萜ち着いおる方が、かっこええ」ゆう蚀葉が、頭から離れんかった。

    萜ち着いおる男。

    それっお、どんなんや?

    翌朝、俺は、い぀もず違うた。

    廊䞋を走らんかった。

    䌑み時間に、男子ず盞撲を取らんかった。

    机に座っお、本を、読んどった。

    実は、その本は、父ちゃんの本棚から、勝手に持っおきた、難しそうな本やった。

    「歊士道」

    お、曞いずった。

    䞭身は、ほずんど、意味がわからんかった。挢字も倚うお、読めぞん字ばっかりやった。

    でも、机に座っお、難しそうな本を、開いずった。

    ヒデキが、

    「タカシ、お前、䜕しずんねん」

    お、聞いおきた。

    「本、読んどる」

    「お前、本、読めるんか?」

    「読める」

    「ほんたか? それ、䜕の本や」

    「歊士道」

    「歊士道? お前、歊士になるんか?」

    「黙れ」

    俺は、ヒデキを睚んだ。

    ヒデキは、「倉なや぀」ず笑いながら、向こうぞ行った。

    俺は、本を読みながら、ちらっず、リ゚の方を、芋た。

    リ゚は、教宀の窓際で、他の女の子たちず、おしゃべりしずった。

    俺の方を、芋おもくれぞんかった。

    その日の䜓育、ドッゞボヌルやった。

    俺は、い぀もなら、党力で投げる。

    でも、その日は、なんでか、ちょっず、力をセヌブした。

    「かっこええ男は、力をセヌブするんちゃうか」ず、思うたからや。

    ずころが、力をセヌブしすぎたんか、俺のボヌルは、盞手チヌムの女の子に、軜く、圓たった。

    「あ、タカシ、圓たった!」

    ヒデキが、笑うた。

    「は? 圓たっおぞんわ!」

    「圓たったで、今、ボペンっお圓たったで」

    「うるさい!」

    俺は、たた、頭に来た。

    そしお、コヌトの倖に出る時、リ゚の方を、ちらっず、芋た。

    リ゚は、女の子たちず、なんか、ヒ゜ヒ゜話しずった。

    ヒ゜ヒ゜話の途䞭で、リ゚が、俺の方を芋お、

    「ふっ」

    ず、ちょっず、笑うた。

    それは、俺を、バカにした笑いやった。

    俺は、その日の垰り道、ずっず、ぶ぀ぶ぀蚀うずった。

    (なんやねん、リ゚。なんやねん、あの笑い)

    (俺は、お前のために、ええ男になろうずしずんねん)

    (なのに、なんで、バカにしよんねん)

    倜、家で、父ちゃんに、盞談、するこずにした。

    恥ずかしいけど、誰かに、盞談したかった。

    「父ちゃん」

    「なんや」

    「ちょっず、聞きたいこずが、ある」

    「なんや、改たっお」

    「父ちゃん、女の人っお、どんな男が、奜きなんや?」

    父ちゃんは、煙草を吞う手を、止めた。

    「タカシ」

    「うん」

    「お前、ええ歳になったな」

    「ええ歳っお、ただ10歳や」

    「いや、もう、10歳や」

    父ちゃんは、ニダッず、笑うた。

    「クラスに、奜きな子、おるんか」

    「!! 違う! そんなんちゃう!」

    「顔、真っ赀やぞ」

    「ちゃうわい!」

    父ちゃんは、ガハハず笑うお、

    「タカシ、ええか。よう聞け」

    「うん」

    「男はな、無理しお、ええ栌奜せんでええ」

    「え?」

    「自分のたたで、ええんや」

    「でも、盞手が、子䟛みたい、ゆうお、バカにする」

    「ふん、そんな子は、お前のこずが、ようわかっずらん子や」

    「そうか?」

    「タカシ、お前のええずこは、お前のたたに、たっすぐなずこや。ガキ倧将で、声がデカうお、廊䞋を走り回るのが、お前や。それを、無理しお隠したら、お前やのうなる」

    俺は、なんか、ちょっず、ホッずした。

    「でもな、タカシ」

    「うん」

    「䞀぀だけ、芚えずけ」

    「うん」

    「盞手が、䜕を考えずるか、知りたかったら、たず、自分が、䜕を考えずるか、盞手に、ちゃんず蚀うこずや」

    「自分が、䜕を考えずるか?」

    「うん。お前が、その子のこずを、どう思うずんねん、ちゃんず蚀うこず。それが、男の、第䞀歩や」

    俺は、垃団の䞭で、その倜、ずっず、考えずった。

    リ゚に、䜕を、蚀おう?

    翌日、絊食の時間、俺は、勇気を出しお、リ゚に、声をかけた。

    「リ゚」

    「あ、タカシくん、なに?」

    「ちょっず、来お」

    「え?」

    「ちょっず、来おくれ」

    俺は、リ゚を、教宀の倖の、廊䞋に連れ出した。

    リ゚は、䞍思議そうな顔をしずった。

    「タカシくん、どうしたん?」

    俺は、深呌吞をした。

    そしお、

    「リ゚」

    「うん」

    「俺、お前のこず、奜きや」

    リ゚の顔が、

    「!?」

    っお、なった。

    俺の顔も、たぶん、真っ赀や。

    「俺、ガキ倧将で、廊䞋走るし、声デカいし、子䟛みたいや。お前は、それが、嫌かも知れん。でも、俺は、こういうのが、俺なんや。これからも、廊䞋走るし、ドッゞボヌルも党力で投げる。でも、俺は、お前のこずが、奜きや」

    リ゚は、ぜかんず、口を開けずった。

    そしお、しばらくしおから、

    「ふふっ」

    ず、笑うた。

    「タカシくん」

    「な、なんや」

    「タカシくん、ほんたに、子䟛みたい」

    「!! やっぱり、バカにしずんやろ!」

    「違うよ」

    リ゚は、笑いながら、銖を振った。

    「タカシくんは、子䟛みたいで、それで、ええんよ。私、東京におった時、男子はみんな、なんか、倧人ぶっずっお、぀たらんかった。タカシくんみたいに、たっすぐな男子、おらんかった」

    「え?」

    「タカシくん、奜きやで、私も」

    俺の心臓が、

    「ドクン!!」

    ず、跳ねた。

    「!!」

    「ふふ、顔、真っ赀やで、タカシくん」

    「うるさい!」

    「ふふっ」

    リ゚は、笑いながら、走っお、教宀に戻った。

    俺は、廊䞋に、ぜ぀んず、立っずった。

    俺の人生で、初めお、女の子に、

    「奜きやで」

    ず、蚀われた瞬間や。

    その日の垰り道、俺は、ずっず、ニダニダしずった。

    家に垰っお、父ちゃんに、

    「父ちゃん、蚀うおみた」

    「お、ほんで、どうやった」

    「『奜きやで』、お、蚀うおくれた」

    父ちゃんは、ガハハず、倧笑いした。

    「タカシ、お前、男になったなぁ!」

    「ガハハ蚀うな、恥ずかしい!」

    「これは、お祝いせなアカンな!」

    「アカン! 父ちゃん、健兄たちには、絶察、蚀うなよ! 蚀うたら、絶察、健兄たち、隒ぐから!」

    「あ、玄束はでけん」

    「父ちゃん!!」

    その晩、案の定、健兄たちが「ガラガラガラ」ず入っおきた。

    健兄が、玄関で、

    「タカシヌ! 圌女、できたんやおヌ!」

    ず、叫んだ。

    「父ちゃん!! 蚀うたな!!」

    俺は、父ちゃんを睚んだ。父ちゃんは、ニダニダしずった。

    健兄、亀さん、源さん、シゲ兄、みんな、ニダニダしずった。

    「タカシ、おめでずう!」

    「タカシ、もう、立掟な男や!」

    「束ちゃん、お祝いやな!」

    「也杯やヌ!」

    俺は、ミカン箱の前で、ふおくされた。

    「俺、知らん。みんな、勝手に、隒いどけ」

    健兄が、俺の隣に座っお、

    「タカシ、おっちゃん、お前に、人生の先茩ずしお、䞀぀、アドバむスや」

    「なんや」

    「女の子はな、優しゅうに、扱うんやで」

    「うん」

    「あず、ちゃんず、お前の気持ちを、蚀葉で、䌝えるんや」

    「うん」

    「あず、デヌトする時は、おっちゃんが、お金くれる」

    「ほんたか!?」

    「ほんたや!」

    俺は、ちょっず、嬉しくなった。

    亀さんも、

    「わいも、デヌト代、出したる!」

    源さんも、

    「わいも、出したる! 倧根代、出したる!」

    シゲ兄が、

    「源さん、なんで、倧根代やねん」

    家䞭、ガハハず、笑いになった。

    ロンが、健兄の靎䞋を、たた、匕っ匵っお遊んどった。

    ボボが、座敷の隅で、寝ずった。

    チィヌが、コタツの䞊で、寝ずった。

    トラは、おらん。

    仏壇の母ちゃんが、なんでか、ちょっず、誇らしげに、笑うずる気がした。

    「母ちゃん、俺、奜きな子が、できたで」

    俺は、心の䞭で、母ちゃんに、報告した。

    母ちゃんの写真が、

    「うん、よかったね、タカシ」

    ず、答えおくれた気がした。

    それから、俺ずリ゚は、よう、䞀緒に垰るようになった。

    リ゚は、いっ぀も、

    「タカシくん、廊䞋、走ったらアカンよ」

    「タカシくん、勉匷も、せなアカンよ」

    お、俺に、お小蚀を蚀うた。

    でも、俺は、それが、ちょっず、嬉しかった。

    母ちゃんがおる、ゆうのは、こういう感じなんかな、ず、思うた。

    たたに、リ゚が、家に遊びに来た。

    ボボもロンも、リ゚に「ワン」ず、可愛い声で、挚拶した。

    チィヌは、リ゚の膝に乗っお、ゎロゎロ蚀うた。

    トラも、その日は、なんでか、家におった。リ゚に、「ニャヌ」ず、ちょっず、可愛い声で鳎いた。トラがそんな可愛い声を出すの、初めお聞いた。

    父ちゃんは、リ゚に、

    「リ゚ちゃん、タコ飯、食うか?」

    お、毎回、聞いた。

    リ゚は、毎回、

    「はい、いただきたす!」

    お、笑顔で、食うおくれた。

    そしお、毎回、

    「束さん、矎味しい!」

    お、目を茝かせた。

    父ちゃんは、毎回、嬉しそうな顔をした。

    俺は、その光景を芋お、

    (これでええんや)

    ず、思うた。

    第八話 おしたい

    リ゚が家に遊びに来た、ロン、チィヌ、トラ、ボボ、そしお父ちゃんがタコ飯をご銳走しおくれた


    画像
    リ゚が家に遊びに来た

    第九話 父ちゃんが倒れた

    それは、俺が11歳になった、倏のこずやった。

    俺は、その日、リ゚ず䞀緒に、川に行っずった。

    倏䌑みで、二人で、川にメダカを取りに行ったんや。

    垰っおきたんは、倕方の5時頃やった。

    「ただいた!」

    俺は、玄関で叫んだ。

    返事が、ない。

    おかしいな、ず思うた。

    父ちゃんは、土曜日の倕方は、家におるはずや。仕事から、い぀も、4時には垰っおくる。

    「父ちゃん?」

    俺は、座敷に、䞊がった。

    そしお、芋た。

    父ちゃんが、座敷の真ん䞭に、

    「う぀䌏せ」

    画像
    父ちゃんが倒れた

    で、倒れずった。

    「父ちゃん!!」

    俺は、駆け寄った。

    「父ちゃん!! 父ちゃん!!」

    父ちゃんは、目を、぀ぶっずった。

    呌吞は、しずる。でも、苊しそうやった。顔が、青癜かった。

    俺は、頭が、真っ癜になった。

    「父ちゃん! 起きお! 父ちゃん!!」

    肩を、揺すった。

    父ちゃんは、目を、薄ヌく、開けた。

    「タカシ  」

    「父ちゃん!」

    「ちょっずな  寝ずるだけや  」

    「アカン! 寝るずこちゃう! 病気や!」

    俺は、必死に、考えた。

    電話。

    電話しお、誰か呌ばな。

    俺は、電話に、飛び぀いた。

    誰に、電話する?

    そや、健兄や。

    健兄の番号は、芚えずる。

    ダむダルを、回した。

    「もしもし、健兄!!」

    「お、タカシか、どないした」

    「父ちゃんが、父ちゃんが、倒れた!!」

    「!?」

    「座敷で、倒れおる! 顔、真っ青や!」

    「タカシ、萜ち着け! 今すぐ、行く! 救急車、呌んだか?」

    「呌んでない!」

    「タカシ、お前、119に、電話せえ! わいも、すぐ行く!」

    「うん!」

    俺は、震える手で、119を、回した。

    「119番です」

    「父ちゃんが、倒れた! 来お!」

    「䜏所、お願いしたす」

    「えっず、えっず」

    俺は、䜏所を、ちゃんず、蚀うた。父ちゃんが、い぀も、

    「タカシ、自分の家の䜏所は、ちゃんず、芚えずけ」

    ず、口酞っぱく蚀うおくれずったから、ちゃんず、蚀えた。

    「すぐ向かいたす。患者さんの様子は」

    「呌吞はしずる。でも、顔、青い。喋れる」

    「わかりたした。意識があるなら、暪向きに、寝かせおあげおください」

    「うん」

    俺は、電話を切っお、父ちゃんを、暪向きにした。父ちゃんは、デカい。重い。でも、俺は、必死で、暪にした。

    父ちゃんは、

    「タカシ  すたんな  」

    お、小さい声で蚀うた。

    「父ちゃん、喋るな。じっずしずっお」

    俺は、父ちゃんの手を、握った。

    父ちゃんの手は、い぀もの、デカうお、ザラザラの手やった。でも、なんでか、い぀もより、冷たかった。

    救急車のサむレンが、聞こえおきた。

    同時に、健兄の軜トラの音も、聞こえおきた。

    健兄が、

    「束ちゃヌん!!」

    ず、玄関から飛び蟌んできた。

    健兄の埌ろから、亀さん、源さん、シゲ兄、みんな、駆け蟌んできた。

    「束ちゃん!」

    「芪方!」

    「束、しっかりせえ!」

    土方仲間が、父ちゃんの呚りに、駆け寄った。

    亀さんが、俺の肩を、抱いた。

    「タカシ、よう頑匵ったな」

    俺は、亀さんに、抱き぀いお、泣いた。

    声を出しお、泣いた。

    「亀さん、父ちゃん、どうしよう」

    「タカシ、倧䞈倫や。束ちゃんは、匷い男や。死なぞん」

    救急隊員が、入っおきた。

    父ちゃんを、担架に乗せお、運び出した。

    健兄が、

    「タカシ、わい、䞀緒に、病院行く。お前は、ここで、埅っずれ」

    「俺も、行く!」

    「いや、お前は、家を、守れ。動物たちも、おる。リ゚ちゃんも、心配しずるかもしれん。䞀回、リ゚ちゃんに、連絡せえ」

    「うん」

    「亀さん、源さん、シゲ兄、頌む。タカシのこず、芋おおくれ」

    「おう、任しずけ」

    健兄は、救急車に乗っお、行っおしもた。

    家に、亀さん、源さん、シゲ兄、ず俺だけ、残った。

    ロンが、心配そうに、玄関を、じっず、芋ずった。

    ボボも、ロンの隣で、しょがんずしずった。

    チィヌが、俺の足元で、「ニャヌ」ず、鳎いた。

    トラも、なんでか、その日は、家におった。座敷の隅で、じっず、座っずった。

    亀さんが、台所で、お茶を入れおくれた。

    「タカシ、たあ、座れ」

    俺は、ミカン箱の前に、座った。

    「亀さん、父ちゃん、死ぬんかな」

    「アホ、死ぬか」

    「でも、顔、真っ青やった」

    「タカシ、束ちゃんはな、若い頃から、無茶ばっかりしずった男や。簡単に、死ぬような男やない」

    亀さんは、お茶を、俺に出しおくれた。

    「タカシ、これ、飲め。萜ち着く」

    俺は、お茶を、飲んだ。

    熱かった。でも、飲んだ。

    「亀さん」

    「うん」

    「俺、父ちゃんに、䜕も、しおあげずらん」

    「は?」

    「俺、父ちゃんに、いっ぀も、迷惑かけお、文句ばっかり蚀うお、お父ちゃんの䜜っおくれる料理にも、りロコ付いずるずか、骚倚いずか、文句ばっかりや」

    俺の目から、涙が、ボロボロ、こがれた。

    「俺、もし、父ちゃんに、䜕かあったら、俺、どうしたらええんや」

    亀さんが、俺の肩を、ぐっず、抱いた。

    源さんも、シゲ兄も、なんも蚀わんず、ただ、俺の隣に、座っずった。

    「タカシな」

    「うん」

    「束ちゃんはな、お前のこず、いっ぀も、自慢しずんねん」

    「え?」

    「飲んどる時もな、『タカシは、ええ子や』『タカシは、立掟な男や』『タカシは、母ちゃん䌌の優しい子や』『タカシは、わいの宝や』『タカシは  』、もう、ずっず、タカシの話や」

    「ほんた?」

    「ほんたや。わい、もう、タカシの話、聞き飜きるくらい、聞いずる」

    源さんも、

    「わいも。タカシ、お前は、䞖界䞀の芪孝行の息子や、ず、わいは、思うずる」

    シゲ兄も、

    「うん。お前は、束ちゃんの、生きがいや」

    俺は、たた、ボロボロ、泣いた。

    その倜、健兄から、電話が、あった。

    亀さんが、電話に出た。

    「ああ、健か、どうやった」

    亀さんが、しばらく、聞いずった。

    そしお、笑顔になった。

    「タカシ! 倧䞈倫やで! 呜に別状ない!」

    「ほんた!?」

    俺は、立ち䞊がった。

    「過劎やず。それず、ちょっず、お酒の飲み過ぎ。怜査の結果、肝臓ず心臓が、ちょっず、お疲れ気味らしい。䞀週間、入院やず」

    「䞀週間?」

    「うん。でも、呜は、倧䞈倫や」

    俺は、その堎に、ペタッず、座り蟌んだ。

    そしお、たた、泣いた。

    今床は、嬉し泣きや。

    ロンが、寄っおきお、俺の顔を、舐めた。

    ボボも、来た。

    チィヌも、来た。

    トラも、なんでか、来お、俺の足に、頭を擊り付けた。

    家䞭の動物が、俺の呚りに、集たっお、心配そうに、俺を芋ずった。

    翌日、俺は、リ゚ず䞀緒に、病院に、お芋舞いに行った。

    父ちゃんは、ベッドの䞊で、

    「タカシ、すたんかったな」

    お、蚀うた。

    「父ちゃん、ええよ、もう」

    「いや、心配かけた」

    「うん。でも、生きおお、よかった」

    リ゚が、

    「束さん、お倧事に」

    お、深々ず、頭を䞋げた。

    父ちゃんは、ニッず、笑うた。

    「リ゚ちゃん、わいの息子、よろしゅう、頌みたすわ」

    「はい!」

    リ゚は、笑顔で、答えた。

    病宀には、健兄が、ずっず、付き添っずった。

    亀さん、源さん、シゲ兄も、入れ替わり立ち替わり、来ずった。

    亀さんは、なんず、倧根を、持っおきずった。

    「束ちゃん、これ、わいの畑の」

    「亀さん、病院で、倧根は、食えぞんやろ」

    「あ、せやな」

    源さんは、

    「束ちゃんに、䜕が必芁や思うお、考えたんや。これや」

    お、なんず、麻雀牌を、持っおきずった。

    「源、病院で、麻雀せえ、ゆうんかい!」

    シゲ兄は、

    「わいは、お芋舞いやから、お芋舞いの花や」

    お、立掟な花束を持っおきずった。

    「シゲ、お前が䞀番、たずもや」

    健兄が、

    「わい、ロンの代わりに、ロンの東を、持っおきたで」

    お、あの、ロンが食うた東の牌を、持っおきずった。

    「健、䜕のお守りや、それ」

    「束ちゃんの、無病息灜のお守りや」

    「ロンのケツから出た牌が、無病息灜!?」

    病宀が、ガハハず、笑いになった。

    看護垫さんが、

    「あの、お声、ちょっず、小さくしおください」

    お、泚意しに来た。

    「すんたせん」

    土方仲間が、䞀斉に、頭を䞋げた。

    䞀週間埌、父ちゃんは、退院した。

    家に、戻っおきた父ちゃんは、

    「ただいた」

    お、玄関で、ぜ぀りず、蚀うた。

    俺は、

    「おかえり、父ちゃん」

    お、玄関で、迎えた。

    父ちゃんは、俺の頭を、デカい手で、ぐしゃぐしゃに撫でた。

    「タカシ、ありがずうな」

    「なにが」

    「お前が、すぐ電話しおくれたから、わい、助かったんやで」

    俺は、ちょっず、照れくさかった。

    その倜、退院祝いに、土方仲間が、たた「ガラガラガラ」ず来た。

    父ちゃんは、い぀ものように、宎䌚をしようずした。

    でも、健兄が、

    「束ちゃん、今日は、酒は、なしや」

    「は?」

    「お医者さん、蚀うずったやろ。しばらく、酒は、控ええ、お」

    「いや、ちょっずくらい、ええやろ」

    「アカン! タカシのためにも、アカン!」

    健兄は、匷かった。

    亀さんも、

    「束ちゃん、お茶や。今日は、お茶で、也杯や」

    源さんが、

    「お茶で、ガハハず笑うんは、難しいけど、たあ、頑匵ろう」

    シゲ兄が、

    「束ちゃん、お前、これから、健康に、気ぃ぀けえよ」

    父ちゃんは、しばらく、みんなを、芋ずった。

    そしお、

    「ありがずう、お前ら」

    お、目を、最たせた。

    俺は、初めお、父ちゃんの、最んだ目を、芋た。

    土方の芪方の、目が、最んどる。

    亀さんも、源さんも、シゲ兄も、健兄も、みんな、目が、最んどる。

    俺も、最んだ。

    母ちゃんの仏壇が、なんでか、その日は、い぀もより、暖かい光に、包たれずる気がした。

    それから、父ちゃんは、お酒を、枛らした。

    毎晩、湯飲み䞀杯だけ、ず、決めた。

    仕事も、ちょっず、ペヌスを、萜ずした。

    健兄たちが、

    「束ちゃん、無理すんなよ」

    ず、よう、声をかけおくれるようになった。

    俺は、毎日、父ちゃんに、

    「父ちゃん、無理したらアカンで」

    ず、蚀うようになった。

    父ちゃんは、

    「うるさい、お前は、母ちゃんみたいなこず、蚀うな」

    ず、笑いながら、嬉しそうな顔をしずった。

    ある晩、父ちゃんが、ぜ぀りず、蚀うた。

    「タカシ」

    「なんや」

    「わい、お前のおかげで、生き延びたわ」

    「うん」

    「お前が、おらんかったら、わい、あの日、座敷で、独りで、死んどったかもしれん」

    「父ちゃん、そんなこず、蚀うな」

    「いや、ほんたや。お前が、おっおくれお、よかった」

    俺は、なんでか、たた、目が、最んだ。

    父ちゃんも、目が、最んだ。

    二人で、なんも蚀わんず、湯飲みのお茶を、すすった。

    ロンが、俺の膝の䞊で、寝ずった。

    ボボが、父ちゃんの足元で、寝ずった。

    チィヌが、コタツの䞊で、寝ずった。

    トラは、盞倉わらず、おらん。

    家の䞭は、い぀もず、ちょっず、違うた。

    静かやった。

    でも、その静けさが、なんか、枩かかった。

    俺は、その倜、垃団の䞭で、母ちゃんに、心の䞭で、報告した。

    「母ちゃん、父ちゃん、無事やで。安心しおな。これからは、俺が、父ちゃんを、ちゃんず、芋おおあげるから」

    仏壇の母ちゃんが、

    「うん、タカシ、ありがずう」

    ず、笑うおくれた気がした。

    第九話 おしたい

    父ちゃんが退院しお来お、タコ飯パヌティヌや


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    みんなでタコ飯パヌティヌや

    完結です。
    しかし、䞀家の家族愛は続きたす。
    その愛がどんどん倧きな茪を広げおいたす。

    ゆうきゅうからひず蚀

    画像
    ゆうきゅうからひず蚀

    昭和ずいう時代は私の䞭で駆け抜けた。
    あの頃は、いろいろずあった。
    「駄菓子屋」「玙芝居」「ロバのパン屋」・・・懐かしい。

    でも、今ず違っお感じられるのは、家族も友達も仲間も
    ずおも距離感が近かったこずや
    今の時代はなんか倉によそよそしく距離がありすぎる。

    この䞀家の物語は今埌も続きたす。
    誰かが亡くなり、誰かが加わっおくる。
    それを繰り返しながら、時は進んで行きたす。