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『俺んちは動物園や』その2昭和の䞋町、わが家の九぀の物語

    ※創䜜No.12026..10䞭線

    『俺んちは動物園や』その昭和の䞋町、わが家の九぀の物語 ※第䞀話〜第九話 あらすじ

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    俺んちは動物園その家族颚景

    第䞀話「俺んちは動物園や」

    舞台は昭和の䞋町。8歳のタカシは、土方の芪方である父ちゃん束さんず二人暮らし。母ちゃんは、タカシがただ幌い頃に病気で亡くなった。
    父ちゃんの䜜る荒っぜい料理、特にタコを䞞ごず炊飯噚に突っ蟌んだタコ飯が、タカシの倧奜物。
    家には、ボス猫のミィヌ、気の荒いトラ、甘えたチィヌの猫3匹ず、麻雀の邪魔ばかりするダックスフンドのロン、父ちゃんそっくりの顔のブルドックのボボが暮らしずる。
    週に䜕床も土方仲間の健兄・亀さん・源さん・シゲ兄が抌しかけおきお宎䌚になる、
    賑やかすぎる毎日。タカシは、うるさくお動物だらけのこの家が、倧奜きやった。

    第二話「タカシの倏䌑み」

    倏䌑み、父ちゃんが突然「明日、海に行くぞ」ず蚀い出した。
    土方仲間も党員参加で、軜トラに乗っお須磚海岞ぞ。
    タカシは、トラも連れおいこうず提案する。
    「猫は氎が嫌いやから動けぞん」ずいう父ちゃんの蚀葉を信じお箱を開けた瞬間、トラは猛ダッシュで束林に逃げ蟌んだ。
    パンツ䞀䞁の土方の芪方5人が、束林の䞭で「トラヌ」ず叫びながら走り回る倧隒動に。
    最終的に父ちゃんの匁圓の握り飯でトラを釣り出すこずに成功したが、家に垰っおきおから箱を開けた瞬間、たたトラは脱走。3日間垰っおこんかった。

    第䞉話「父ちゃんのお芋合い」

    健兄が、未亡人の節子さんをお芋合い盞手ずしお突然連れおきた。
    節子さんは肉じゃがを䜜っおきた優しいおばちゃん。
    タカシは耇雑な気持ちで芋守っずった。
    しかし、家のボス猫ミィヌが節子さんに「シャヌッ」ず飛びかかり、肉じゃがの鍋をひっくり返した。
    そこぞ土方仲間がなだれ蟌んできお、床に散らばった肉じゃがを動物たちず䞀緒に食い始める倧混乱。
    節子さんは静かに垰っおいった。父ちゃんは「ミィヌがわかっずんねん。タカシの母ちゃんになれるんは、もうおらんお」ず぀ぶやいた。
    タカシも「節子さんはタコ飯䜜れんやろ」ず笑い飛ばした。

    第四話「ミィヌの最期」

    タカシが10歳になった春、ボス猫のミィヌが飯を食わなくなった。
    獣医に蚺おもらうず、腎臓がほずんど動いおいないずのこずやった。
    ミィヌは実は、亡くなった母ちゃんが雚の日に拟っおきた猫やった。
    母ちゃんが死んだ時、ミィヌは3日間飯を食わず、その埌はタカシの面倒を芋るようになったずいう。
    父ちゃんから初めおそれを聞いたタカシは、声を䞊げお泣いた。
    ミィヌはその晩、静かに息を匕き取った。
    庭の桜の朚の䞋に埋められたミィヌ。数ヶ月埌、チィヌが子猫を3匹連れお垰っおきお、ミィヌの座垃団の䞊に座らせた。
    父ちゃんは「ミィヌが垰っおきよった」ず目を现めた。

    第五話「ボボの恋」

    倏の倕方、ボボが昌から行方䞍明になった。
    探しに行くず、公園で癜いふわふわのマルチヌズにべったり寄り添うボボの姿が。
    マルチヌズの飌い䞻は、江口さんずいう䞊品な未亡人やった。それ以来、ボボは毎朝公園に通い、なぜか江口さんも家にお茶を飲みに来るようになった。父ちゃんの様子がおかしい。
    土方の芪方がもじもじしずる。
    タカシが江口さんに盎接「父ちゃんのこず奜きか」ず聞くず、江口さんは「お互いに亡くなった連れ合いを倧事にしずる。それがわかるから、お友達でええの」ず答えた。
    二組の「友達」は、その埌も穏やかな時間を共に過ごした。

    第六話「タカシず荒巻先生」

    䜓育のドッゞボヌルで、担任の荒巻先生がヒデキばかりをひいきするのに腹を立おたタカシは、「先生、ひいきや」ず叫んだ。
    荒巻先生に頬を匵られおも匕き䞋がらんかったタカシ。
    父ちゃんは翌日、背広を着お孊校に乗り蟌んだ。
    タカシが手を振り払ったこずを謝眪し぀぀、匕っぱたいたこずぞの抗議もきっちり䌝えた。
    荒巻先生は「私の方が子䟛やった」ず深々ず頭を䞋げ、翌日クラス党員の前で謝眪した。
    もう䞀床やり盎したドッゞボヌルで、タカシは正々堂々ず勝利した。
    父ちゃんは「ケンカに勝぀ずは、盞手の心を倉えるこずや」ずタカシに教えた。

    第䞃話「ロンの倧倱敗」

    土方仲間の麻雀倧䌚の倜、健兄が぀いに「囜士無双」を完成させた。
    生涯䞀床の倧圹満に倧興奮の健兄が、ロンに牌を芋せようず䞀瞬目を離した隙に、ロンが牌を党郚食べおしたった。
    蚌拠がなくなっお圹満が認められず、健兄は倧泣き。
    シゲ兄のポラロむドにも間に合わんかった。
    しかし父ちゃんは「ロンが食べたんやから、ロンの囜士無双や」ず倧笑い。翌日、健兄の嫁さんに「囜士無双を犬に食べられた」ず話したら、「そんな話、誰が信じるか」ず䞀笑に付された。

    健兄の囜士無双は、氞遠に幻になった。

    第八話「父ちゃんの誕生日」

    父ちゃんの誕生日、タカシは生たれお初めおタコ飯を䞀人で䜜るこずを決意した。
    土方仲間に䜜り方を教わりながら、タコを䞞ごず炊飯噚に入れお、醀油ず酒をガバガバ入れた。
    炊き䞊がったタコ飯は、少し薄味で、タコが少し硬かった。
    でも父ちゃんに「䞖界䞀や」ず蚀わせたくお、粟䞀杯䜜った。
    父ちゃんは、䞍栌奜なタコ飯を䞀口食べお、しばらく黙っずった。
    そしお「タカシ、これは䞖界䞀や」ず蚀い、目を赀くした。
    健兄たちも、もらい泣きした。
    タカシは「父ちゃんのタコ飯には、ただ勝たれぞんな」ず笑い、父ちゃんは「圓たり前や、ただただや」ず笑い返した。

    第九話「タカシの運動䌚、珟堎の職人も参加で倧混乱」

    ※第九話は、第十話ずしお本線に収録されおいたす。

    第十話「タカシの運動䌚、珟堎の職人も参加で倧混乱」

    その幎の秋、孊校の運動䌚の日のこずや。

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    タカシの運動䌚、珟堎の職人も参加で倧混乱

    俺が朝飯のタコ飯を食うずったら、父ちゃんが、

    「タカシ、今日は運動䌚やろ」

    「うん、父ちゃん、来るか?」

    「圓たり前や。芪方衆も連れおくぞ」

    俺は、箞を止めた。
    「芪方衆も?」

    「うん。健兄も亀さんも源さんも、みんな来る蚀うずった」

    「  䜕人や」

    「5人」

    俺は、なんずも蚀えん気持ちになった。
    嬉しいような、恥ずかしいような、䞍安なような。
    父ちゃん䞀人でも目立぀のに、土方の芪方が5人も運動䌚に来たら、どうなるんや。

    案の定、やった。

    運動䌚が始たっお、保護者垭を芋たら、端っこの方に、父ちゃんず健兄ず亀さんず源さんずシゲ兄が、暪䞀列に䞊んで座っずった。

    党員、䜜業着や。
    誰䞀人、着替えおきずらん。

    他のお父さんやお母さんは、きれいな栌奜しずるのに、土方の芪方5人が䜜業着で暪䞀列。その異様な光景に、隣に座っずった他の保護者が、そっず堎所を移動しずった。

    「父ちゃヌん!」

    俺が手を振るず、

    「タカシヌ!!」

    5人が䞀斉に立ち䞊がっお、手を振り回した。
    呚りの保護者が、ギョッずしお振り返った。
    荒巻先生が、遠くから俺を芋お「タカシ  」ず困った顔をしずった。

    最初の競技は、50メヌトル走や。

    俺は、クラスで䞀番足が速い。これは、父ちゃん譲りや。父ちゃんは若い頃、珟堎で誰よりも速く走れたず自慢しずる。

    よヌい、ドン!
    俺は、䞀番でゎヌルした。

    その瞬間や。
    「タカシヌヌヌヌ!!」
    健兄が、立ち䞊がっお叫んだ。

    「速いぞヌヌ! さすが束ちゃんの息子やヌヌ!」
    亀さんも立ち䞊がった。

    「タカシ、ええ走りや!」
    源さんも、シゲ兄も立ち䞊がった。

    5人が、運動䌚の保護者垭で、ガハハ笑いしながら倧隒ぎしずる。

    先生方が、あわあわしずった。

    昌䌑みになっお、父ちゃんが匁圓を持っお俺のずころに来た。

    「タカシ、よう走ったな」
    「父ちゃん、あんたり倧声出さんずいおくれ」
    「なんでや。嬉しかったら叫ぶもんやろ」
    「呚りの人が匕いずった」

    「アホ、匕いおぞんかった。なあ、健兄」
    「匕いおぞん、匕いおぞん!」

    健兄は、どこからか調達しおきた猶ビヌルを飲みながら、豪快に笑うた。孊校の敷地内で飲んどる。ええんかこい぀ら。

    匁圓は、父ちゃん特補のタコ飯のおにぎりず、卵焌きず、挬物やった。

    「父ちゃん、卵焌き、焊げずる」
    「焊げた方が旚いんや」
    「父ちゃんの料理は、いっ぀も焊げずるな」
    「うるさい。食え」

    俺は、焊げた卵焌きを食うた。旚かった。

    午埌の競技が始たった。
    最初は、玉入れや。
    玉入れは、保護者も参加できる競技やった。

    荒巻先生が、マむクで、

    「保護者の方も、ご参加ください」

    ず蚀うた瞬間、「よっしゃヌ!」

    健兄が、真っ先に立ち䞊がった。
    「健兄、埅っお」
    「埅おるか! 玉入れや! 玉入れやぞ!」

    健兄が、䜜業着のたた、グラりンドに飛び出した。亀さんも源さんも続いた。シゲ兄も走り出した。

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、「  わいも行くか」お、立ち䞊がった。

    グラりンドに、土方の芪方5人が䞊んだ。

    他の保護者は、遠慮がちに端っこに立っずるのに、土方の芪方5人は、列の䞀番前に「ドッシン、ドッシン」ず陣取った。

    「お父さんたち、少し埌ろに  」

    係の先生が蚀いかけたが、5人の迫力に抌されお、それ以䞊蚀えんかった。

    よヌい、スタヌト!
    それからの2分間は、もう、収拟が぀かんかった。
    健兄は、玉を投げるたびに、

    「オラヌ!」お、雄叫びを䞊げた。

    亀さんは、玉を10個くらいたずめお掎んで、䞀気に投げ蟌んだ。入ったのは2個やったけど。

    源さんは、なぜか助走を぀けお投げた。玉が隣のクラスのカゎに入った。

    シゲ兄は、子䟛の玉を奪っお投げようずしお、子䟛に「返しお!」ず怒られずった。

    父ちゃんは、ただ黙々ず、正確に投げ続けた。
    入る、入る、入る。
    父ちゃんの玉は、ほが党郚入った。

    詊合が終わっお、カゎの玉を数えたら、俺らのチヌムが圧勝やった。

    荒巻先生が、
    「あヌ、えヌ、保護者の方が倧倉掻躍されたしお  」
    お、困った顔でマむクで蚀うずった。

    次の競技は、綱匕きや。
    これも保護者参加OKやった。

    たたもや、土方の芪方5人がグラりンドに飛び出した。
    「今床は、わいらが先頭や!」
    健兄が、綱の䞀番前を陣取った。

    盞手チヌムの保護者のお父さんたちが、土方5人の顔を芋お、ちょっず、匕き気味になっずった。

    よヌい、匕け!
    「うおおおおお!」健兄が叫んだ。
    「うおおおおお!」亀さんも叫んだ。
    「うおおおおお!」源さんも、シゲ兄も叫んだ。

    父ちゃんは叫ばんかったけど、父ちゃん䞀人の力が半端なかった。
    盞手チヌムが、ずるずるず匕きずられた。

    10秒で勝負が぀いた。
    盞手チヌムのお父さんが、「え、もう終わり?」お、呆然ずした顔しずった。

    最埌の競技は、リレヌや。
    これは、生埒だけの競技やった。
    俺は、アンカヌを任された。

    䞀走、二走、䞉走ず、クラスの友達がバトンを぀ないでいく。
    俺の番の時、俺らのチヌムは2䜍やった。
    1䜍ずの差は、10メヌトルほど。

    「タカシヌ!!」

    父ちゃんが叫んだ。

    「タカシ、行けヌヌ!!」

    健兄が叫んだ。

    「タカシヌ! タカシヌ!」

    亀さん、源さん、シゲ兄も叫んだ。

    保護者垭の5人が、立ち䞊がっお、手を振り回しずる。
    俺は、バトンを受け取っお、走った。
    党力で、走った。

    父ちゃんの声が、聞こえた。
    健兄の声が、聞こえた。
    みんなの声が、聞こえた。

    10メヌトルの差が、瞮たった。
    5メヌトル。
    3メヌトル。
    1メヌトル。

    ゎヌル!  同着や。

    審刀の先生が、旗を䞊げお、「同着! 刀定は  タカシ!」

    俺らのチヌムが、1䜍になった。
    「やったヌヌヌ!!」
    保護者垭から、5人の雄叫びが䞊がった。

    健兄が、グラりンドに飛び出しおきた。
    「タカシ!! ようやった!!」
    健兄が、俺を抱き䞊げた。

    「健兄! 重い! 降ろしお!」
    「ええやないか! やったやないか!」
    亀さんも、源さんも、シゲ兄も、グラりンドに飛び出しおきた。

    父ちゃんは、グラりンドの端で、腕組みしお、ニダッず笑うずった。

    荒巻先生が、マむクで、
    「あヌ、保護者の方は、グラりンドに出ないでください  」
    お、もう諊めたような声で蚀うずった。

    垰り道、5人ず䞀緒に家たで歩きながら、俺は、
    「父ちゃん、来幎は、もうちょっず、おずなしくしおくれ」
    「なんでや」
    「恥ずかしいやろ」
    「アホ。恥ずかしいこずなんか、䞀個もなかったぞ」

    健兄が、ニダッず笑うお、
    「タカシ、わいらが来たら、恥ずかしいか?」
    「ちょっずだけ」
    「ちょっずだけか。たあ、ええな」

    亀さんが、倧根を肩に担ぎながら、
    「来幎も来るで」
    「やっぱり来るんかい!」
    みんな、ガハハず笑うた。

    家に垰ったら、ロンずボボが玄関で埅っずった。
    ロンが「ワン!」ず吠えお、俺の足元に絡み぀いた。

    ボボが「ブフォヌ」ず錻息で出迎えた。
    チィヌが瞁偎から「ニャヌ」ず鳎いた。

    俺は、ランドセルを䞋ろしお、
    「ただいた」ず蚀うた。

    仏壇の母ちゃんの写真が、今日も、笑うずった。


    第十䞀話「父ちゃんずボボがドロボヌを捕たえた」

    それは、冬の寒い倜のこずやった。

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    父ちゃんずボボがドロボヌを捕たえた

    土方仲間の宎䌚も終わっお、健兄たちが垰ったのは倜の11時頃やった。

    俺はもう垃団に入っずった。ロンが垃団の䞭に朜り蟌んで、チィヌが腹の䞊で䞞たっお、トラは今日もおらん。い぀ものこずや。

    ボボだけが、なぜか、萜ち着かんかった。

    「グルル、グルル」

    ボボが、玄関の方を向いお、䜎く唞りよる。

    「ボボ、どないしたんや」

    俺が声をかけおも、ボボは玄関から目を離さん。

    座敷では、父ちゃんがただ煙草を吞いながら、テレビを芋ずった。

    「父ちゃん、ボボが倉やで」
    「ボボ?」

    父ちゃんが、顔を䞊げた。
    ボボが、たた「グルル」ず唞った。

    父ちゃんは、煙草を灰皿に眮いお、ゆっくりず立ち䞊がった。
    「ボボ、どないした」

    父ちゃんが、ボボの隣に座っお、ボボの芖線の先を芋た。
    玄関の方、暗がりの倖。
    「  」

    父ちゃんが、静かになった。
    俺も、息を朜めた。
    するず、聞こえた。

    「カサ、カサ」

    倖で、䜕かが動いずる音や。

    「タカシ、垃団から出んな」
    父ちゃんが、䜎い声で蚀うた。

    「父ちゃん、䜕かおるんか」
    「静かにしずれ」
    父ちゃんは、台所に行っお、懐䞭電灯を掎んだ。

    ほんで、ボボの銖茪を掎んで、
    「ボボ、行くぞ」

    お、小さい声で蚀うた。

    ボボが「フンッ」ず錻息を鳎らした。
    父ちゃんずボボが、裏口から、そっず倖に出た。

    俺は、垃団の䞭で、じっずしずった。
    ロンが、俺の足元でぷるぷる震えずる。

    チィヌが、俺の腹の䞊で、目を䞞くしずる。
    しばらくしお、倖から、
    「こらあ!!」
    父ちゃんの声が、倜の静寂を切り裂いた。

    「ワンワンワン!!」

    ボボが吠えた。

    「ギャヌヌヌ!!」

    知らん声がした。

    俺は、垃団から飛び出した。
    裏口から倖に出るず、父ちゃんが、懐䞭電灯で男を照らしずった。

    男は、塀の䞋でうずくたっずった。

    ボボが、その男の前に仁王立ちしお、「グルル」ず唞りながら、䞀歩も動かさんかった。

    男は、40くらいの、薄汚れた栌奜の男やった。手に、隣の豆腐屋の勝っちゃんずこの自転車のカゎを持っずった。盗んだんや。
    「動くな」
    父ちゃんが、䜎い声で蚀うた。

    男は、ボボを芋お、完党に固たっずった。

    ボボはブルドックや。顔だけでも怖い。それが、暗がりで「グルル」ず唞っずるんやから、そら怖い。

    「タカシ、譊察に電話しおこい」
    「うん!」
    俺は、家に駆け戻っお、電話した。

    「もしもし、譊察ですか! うちの裏でドロボヌを捕たえたした! 䞊田です! 䜏所は  」
    手が震えた。でも、ちゃんず蚀えた。

    譊察が来るたでの間、父ちゃんずボボは、ずっず、男を動かさんかった。

    男が䞀床、逃げようずした。
    その瞬間、ボボが「バり!!」ず倧きく吠えお、男の方に䞀歩螏み出した。

    男は、「ひぃっ」ず蚀うお、たた座り蟌んだ。
    父ちゃんは、腕組みしお、男を芋䞋ろしお、䞀蚀も喋らんかった。

    その父ちゃんの顔が、懐䞭電灯の光に照らされずった。
    怖かった。
    俺でも怖かった。

    土方の芪方の、本気の顔やった。

    譊察が来お、男は連れおいかれた。

    譊官のおっちゃんが、
    「䞊田さん、ようやっおくれたしたわ。この男、近所で䜕件も盗みをしずった垞習犯です」
    お、父ちゃんに頭を䞋げた。

    「ボボが気づいおくれなんだら、わいも気づかんかったわ」
    父ちゃんは、ボボの頭を撫でた。

    ボボは、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしお、父ちゃんの手に頭を抌し付けた。

    翌朝、豆腐屋の勝っちゃんが、豆腐を10䞁抱えおやっおきた。
    「束さん、ボボちゃん、昚倜はほんたにありがずうございたした!」
    「いや、ボボが気づいただけや」

    「ボボちゃん、えらいわあ!」

    勝っちゃんが、ボボを撫でた。
    ボボは、「ブフォヌ」ず照れくさそうに錻息を鳎らした。

    その日の倜、父ちゃんは、豆腐をアテに䞀杯やりながら、
    「タカシ」
    「なんや」

    「昚倜、よう電話できたな」
    「あ、うん」

    「手、震えずったやろ」
    「  震えずった」

    「でも、ちゃんずやった」

    俺は、ちょっず、照れくさかった。
    「父ちゃんこそ、怖くなかったんか」

    父ちゃんは、ふぅっず煙草の煙を吐いお、
    「怖かったで」
    「え?」
    「怖かったけど、ボボがおったから、倧䞈倫やった」

    父ちゃんは、ボボの方を芋た。
    ボボは、座敷の隅で、もう「ノッシ」ず暪になっお寝ずった。

    「ボボはな、わいより、ずっず、床胞があるわ」
    父ちゃんが、笑うた。

    俺も笑うた。

    ロンが、ボボの隣で䞞たっお寝ずった。

    チィヌが、コタツの䞊でゎロゎロ蚀うずった。

    仏壇の母ちゃんの写真が、今日も、笑うずった。


    第十二話「町に矎空ひばりがやっおきた」

    それは、春の終わりの頃やった。

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    町に矎空ひばりがやっおきた

    朝飯のタコ飯を食うずったら、父ちゃんが新聞を広げながら、突然、
    「タカシ!!」
    お、叫んだ。

    俺は、箞を取り萜ずしそうになった。
    「な、なんや、朝から」

    「矎空ひばりや!!」

    「は?」

    父ちゃんが、新聞を俺の顔の前に突き぀けた。

    そこには、でかでかず、
    『矎空ひばり、地方巡業。来月、圓地公挔決定』
    ず曞いおあった。

    「ほんたや」

    「ほんたやろ! 矎空ひばりやぞ! タカシ、わかるか、矎空ひばりや!」
    「知っずるわ。テレビで芋たこずある」

    「テレビで芋たこずある、やず!? タカシ、お前、わかっずらん。矎空ひばりはな、神様や。生きずる神様や」

    父ちゃんの目が、本気やった。

    土方の芪方が、朝から目をキラキラさせずる。

    「父ちゃん、そんなに奜きやったんか」

    「奜きや。お前の母ちゃんも、矎空ひばりが倧奜きやった」

    父ちゃんは、そう蚀うお、新聞をもう䞀回、じっず芋た。

    「行くぞ、タカシ。二人で行くぞ」

    「うん」

    俺は、即答した。

    その日の倕方、土方仲間が来た。

    父ちゃんが、新聞を広げお、

    「みんな、矎空ひばりが来るで!」
    お、蚀うた瞬間、
    「ほんたか!!」
    健兄が、立ち䞊がった。

    「わいも行く!」

    「わいも!」

    亀さんも、源さんも、シゲ兄も、党員が立ち䞊がった。

    「チケット、早う買わんず売り切れるぞ!」

    「健兄、お前、明日の朝䞀で䞊べ」

    「わいが䞊ぶんかい!」

    「お前が䞀番暇やろ」

    「うるさい!」

    その倜の宎䌚は、矎空ひばりの話で盛り䞊がった。
    父ちゃんが「柔」を歌い出した。
    健兄が「悲しい酒」で察抗した。
    亀さんが「真っ赀な倪陜」で割り蟌んだ。
    源さんが「川の流れのように」を歌い始めたら、シゲ兄に「それはただ出おぞん」ず突っ蟌たれずった。

    俺は、ミカン箱の前で宿題をやりながら、その賑やかさを聞いずった。

    翌朝、健兄は本圓に、倜明け前からチケット売り堎に䞊んだ。

    朝の7時に、父ちゃんに電話がかかっおきた。
    「束ちゃん! 6枚、取れたで!!」

    「よっしゃ!!」

    父ちゃんが、受話噚を持ったたた、ガッツポヌズをした。

    公挔圓日。

    父ちゃんは、たた、背広を着た。
    「父ちゃん、ネクタむ、たた曲がっずる」
    「盎しおくれ」

    俺は、父ちゅんのネクタむを盎した。
    「タカシも、ちゃんずした栌奜しろ」
    「うん」

    俺は、運動䌚の時にも着た、癜いシャツを着た。
    埅ち合わせ堎所に行くず、健兄も亀さんも源さんもシゲ兄も、党員、背広を着ずった。

    党員、ネクタむを締めずった。

    党員、頭に敎髪料をベタベタ塗りたくっずった。
    「みんな、気合入れすぎやろ」

    俺が蚀うず、
    「アホ、矎空ひばりやぞ」
    お、5人が声を揃えお蚀うた。

    䌚堎は、町の公䌚堂やった。

    䞭に入るず、もうぎゅうぎゅうや。

    おっちゃん、おばちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなぎゅうぎゅうに詰たっずる。

    俺みたいな子䟛は、ほずんどおらんかった。
    「タカシ、芋えるか?」
    「芋えぞん」
    「肩車したろか」
    「ええわ、恥ずかしい」
    「アホ、矎空ひばりを芋る機䌚は、そうそうないぞ」

    父ちゃんは、俺を有無も蚀わさず肩車した。
    俺は、公䌚堂の倩井すれすれから、舞台を芋䞋ろした。
    しばらくしお、䌚堎の電気が暗くなった。

    シヌンずなった。

    どこかから、䞉味線の音が聞こえおきた。

    そしお、舞台の袖から、
    矎空ひばりが、出おきた。

    䌚堎が、どよめいた。
    「ひばりヌ!!」
    健兄が、叫んだ。

    呚りの人が、チラッず健兄を芋た。健兄は気にしずらんかった。
    矎空ひばりは、着物姿で、舞台の真ん䞭に立った。
    小さい人やった。

    でも、なんか、舞台がその人だけになったような気がした。

    マむクを持っお、䞀蚀、
    「みなさん、こんばんは」
    お、蚀うた。

    その声だけで、䌚堎がため息を぀いた。

    そしお、歌い始めた。
    最初の䞀節で、俺は、鳥肌が立った。
    テレビで聞く声ずは、党然ちゃう。

    生の声が、䌚堎の隅から隅たで、すヌっず広がっおいった。
    父ちゅんの肩の䞊で、俺は、じっず、聞いずった。
    父ちゃんの肩が、少し、震えずった。

    曲ず曲の合間に、䞋を芋たら、父ちゃんの目が、光っずった。

    泣いずる。

    あの父ちゃんが、泣いずる。

    健兄も、亀さんも、源さんも、シゲ兄も、みんな、目を赀くしずった。

    土方の芪方5人が、背広着お、涙を流しずる。
    俺は、䜕も蚀わんかった。

    矎空ひばりが、「悲しい酒」を歌い始めた時、父ちゃんが、俺の足をそっず握った。

    俺は、父ちゃんの頭に、そっず手を眮いた。
    二人で、黙っお、聞いずった。
    公挔が終わっお、倖に出た。

    倜の空気が、ひんやりしずった。

    健兄が、目を真っ赀にしたたた、
    「束ちゃん、よかったなぁ」
    お、蚀うた。

    「うん」

    父ちゃんは、それだけ蚀うた。

    亀さんが、

    「わい、ひばりさんの歌聞いたら、死んだ芪父の顔が浮かんできよった」

    「わいもや」

    源さんも、シゲ兄も、うんうん頷いずった。
    しばらく、6人で黙っお歩いた。
    垰り道、父ちゃんが、ぜ぀りず蚀うた。

    「タカシ」

    「うん」

    「母ちゃんな、矎空ひばりの『柔』が䞀番奜きやった」

    「うん」

    「今日、『柔』歌うおくれた時、なんでか、母ちゃんが隣におる気がした」

    俺は、䜕も蚀えんかった。

    「アホやろ、わい」

    「アホやない」

    父ちゃんは、ちょっず、笑うた。

    家に垰ったら、ロンずボボが玄関で埅っずった。
    ロンが「ワン!」ず吠えお、俺の足に絡み぀いた。
    ボボが「ブフォヌ」ず錻息で出迎えた。
    チィヌが瞁偎で「ニャヌ」ず鳎いた。

    父ちゃんは、仏壇の前に座っお、手を合わせた。
    長い間、手を合わせずった。

    俺は、その背䞭を芋ながら、
    母ちゃんも、今日、聞こえたかな
    お、思うた。

    仏壇の写真の䞭で、母ちゃんが笑うずった。


    第十䞉話「タカシの䞭孊校進玚」

    それは、3月の終わりのこずやった。

    画像
    タカシの䞭孊校進玚

    小孊校の卒業匏の朝、俺は、癜いシャツに黒いズボンを履いお、鏡の前に立った。

    なんか、倉な感じやった。

    6幎間、毎日通った孊校が、今日で終わる。

    「タカシ、飯食え」

    父ちゃんが、台所から声をかけた。

    今日の朝飯は、タコ飯やなかった。

    卵かけごはんず、味噌汁ず、焌き魚やった。

    「父ちゃん、今日はタコ飯やないんか」

    「卒業匏の朝は、シンプルにしずけ。胃が萜ち着かんやろ」

    父ちゃんが、珍しいこずを蚀うた。

    俺は、卵かけごはんを食うた。

    矎味かった。

    「父ちゃん」
    「なんや」
    「俺、䞭孊でも、ガキ倧将やれるかな」

    父ちゃんは、味噌汁をすすりながら、
    「アホ、ガキ倧将は、小孊校たでや」
    「え、なんでや」
    「䞭孊になったら、もっずデカい男になれ」
    「デカい男お、どんな男や」

    父ちゃんは、しばらく考えお、
    「自分より匱い奎の味方ができる男や」
    お、蚀うた。

    俺は、その蚀葉を、胞の䞭にしたった。

    卒業匏は、公䌚堂やなくお、孊校の䜓育通でやった。

    父ちゅんは、たた背広を着おきた。
    ネクタむは、今日は俺が事前に盎しずいた。
    健兄も亀さんも源さんもシゲ兄も来た。

    党員、背広や。
    党員、敎髪料ベタベタや。
    「たた党員来たんかい」

    俺が小声で蚀うず、
    「圓たり前やろ」
    お、健兄が小声で返しおきた。

    卒業匏は、しんずした空気の䞭で始たった。

    䞀人䞀人、名前を呌ばれお、卒業蚌曞をもらう。

    「䞊田タカシ」

    俺の名前が呌ばれた。

    俺は、壇䞊に䞊がっお、校長先生から卒業蚌曞をもらった。

    その瞬間、
    「タカシヌヌヌ!!」
    健兄の声が、䜓育通に響き枡った。

    呚りの保護者が、䞀斉に振り返った。
    荒巻先生が、遠くから苊笑いしずった。
    父ちゃんは、腕組みしお、ニダッず笑うずった。

    匏が終わっお、教宀で最埌のホヌムルヌムがあった。

    担任の䞭村先生が、䞀人䞀人に蚀葉をかけおくれた。
    俺の番になった時、䞭村先生は、
    「タカシは、声がデカくお、よく目立ったな」
    お、笑いながら蚀うた。

    クラスのみんなが、笑うた。

    「でもな、タカシは、困っずる友達を、ほっずかん子やった。それが、䞀番ええずこや」

    俺は、ちょっず、照れくさかった。

    ヒデキが、隣から、
    「タカシ、䞭孊も同じずこやな」
    「うん」
    「たた䞀緒やな」
    「うん」
    俺ずヒデキは、笑うた。

    匏が終わっお、校門を出た時、父ちゃんが、俺の肩に手を眮いた。

    「タカシ」
    「うん」
    「よう卒業したな」
    「うん」
    「母ちゃんも、喜んどるで」

    俺は、空を芋䞊げた。
    春の空は、青くお、広かった。
    家に垰ったら、父ちゃんが、台所に立った。

    「今日はな、タコ飯や」
    「朝はシンプルにしずけ蚀うたやないか」
    「朝ず晩は違う。晩は、ちゃんず祝わなあかん」

    父ちゃんは、垂堎で買うおきた䞀番倧きなタコを、炊飯噚にズボッず突っ蟌んだ。

    醀油をガバガバ、酒もガバガバ。
    スむッチON。
    倕方になるず、「ガラガラガラ」ず土方仲間が来た。

    党員、祝い酒を抱えずった。
    「タカシ、卒業おめでずう!!」
    健兄が、玄関で叫んだ。

    亀さんは、倧根を持っおきた。い぀も通りや。

    源さんは、なぜか、ケヌキを持っおきた。
    「源さん、ケヌキ?」
    「卒業やから、掋颚にしおみた」

    「掋颚にしおみた、やないわ」
    シゲ兄は、クラッカヌを持っおきた。
    「シゲ兄、それ、どこで買うおきたんや」

    「商店街の掋品店に売っずった」
    「掋品店でクラッカヌ売っずるんかい」
    宎䌚が始たった。

    タコ飯が炊き䞊がった時、い぀ものように、フタを開けた瞬間、湯気ず磯の匂いがブワヌッず広がった。

    「うたそうやヌヌ!」

    健兄が叫んだ。

    父ちゃんが、タコ飯を茶碗に山盛りにしお、みんなの前に䞊べた。

    「タカシ、仏壇にも䟛えおこい」

    「うん」

    俺は、タコ飯を小さい茶碗によそっお、仏壇に䟛えた。

    母ちゃんの写真の前に眮いお、手を合わせた。
    「母ちゃん、俺、小孊校、卒業したで」
    写真の䞭の母ちゃんが、笑うずった。
    「䞭孊でも、頑匵るわ」

    俺は、もう䞀回、手を合わせお、座敷に戻った。

    宎䌚は、賑やかやった。

    シゲ兄が、クラッカヌを鳎らした。
    「パン!!」
    ロンが、驚いお「ワンワンワン!!」ず吠えたくった。
    ボボが、「バり!!」ず䞀声吠えお、シゲ兄を睚んだ。
    チィヌが、コタツの䞊から飛び降りお、抌し入れに逃げ蟌んだ。

    「シゲ兄、動物がびっくりするやろ!」

    「すたん、すたん」

    源さんのケヌキは、掋菓子屋やなくお、近所のパン屋で買うおきたや぀やった。

    「源さん、これ、パン屋のケヌキやろ」

    「掋菓子屋が売り切れやったんや」

    「パン屋のケヌキでええんかい」

    「旚かったらええやろ」

    食べたら、旚かった。

    宎䌚も盛り䞊がっお、倜も曎けた頃、健兄が、たた泣き出した。

    毎回や。

    「束ちゃん、タカシ、倧きくなったなぁ」

    「健兄、毎回泣くな」

    「泣くわ! タカシがな、俺が初めお䌚うた時、こんなチビやったのに」

    健兄が、手で小さい高さを瀺した。

    「もうこんなになりよっお」

    健兄が、高い高さを瀺した。

    「それ、だいぶ盛っずるやろ」

    みんな、笑うた。

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、俺の方を芋お、

    「タカシ」
    「なんや」
    「䞭孊、楜しんでこい」
    「うん」
    「でも、勉匷もせえ」
    「うん」
    「ケンカは、売るな。でも、売られたら、買え」
    「どっちやねん」

    「自分から売るな、ゆうこずや」

    俺は、笑うた。

    「父ちゃん」
    「なんや」
    「ありがずう」

    父ちゃんは、ちょっず、照れくさそうに、煙草を吞うた。

    「瀌を蚀うのは、早い。ただ䞭孊があるやろ」
    「うん」
    でも、俺は、もう䞀回蚀うた。

    「ありがずう」

    父ちゃんは、䜕も蚀わんかった。

    でも、ちょっずだけ、目が光っずった。

    その倜、垃団に入った。

    ロンが垃団の䞭に朜り蟌んで、チィヌが腹の䞊で䞞たった。

    トラは、今日もおらん。

    ボボが、垃団の暪に「ドスン」ず暪になった。

    俺は、倩井を芋ながら、

    䞭孊か
    お、思うた。
    どんな䞭孊生になるんやろ。
    どんな友達ができるんやろ。
    どんなこずが起きるんやろ。

    わからん。

    でも、なんか、楜しみやった。

    隣の郚屋では、ただ土方仲間が隒いどる。

    健兄がたた歌い出した。

    父ちゃんが手拍子しずる。

    ガハハ、ゲラゲラ、ワハハ。

    俺は、目を぀ぶっお、

    䞭孊でも、タコ飯食えるかな

    お、思いながら、眠りに萜ちおいった。


    第十四話「ロンずボボが盗人を捕たえた」

    それは、タカシが䞭孊に䞊がっお、最初の倏のこずやった。

    画像
    ロンずボボが盗人を捕たえた

    その日、父ちゃんは朝から珟堎に出ずった。

    俺は、倏䌑みの宿題をミカン箱の前でやっずった。

    䞭孊の宿題は、小孊校の時より、ぐっず量が増えた。数孊の問題集、囜語の読曞感想文、理科の芳察日蚘。うんざりするくらいある。

    「暑いなぁ」

    俺は、うちわで顔を扇ぎながら、問題集をめくった。

    ロンが、俺の足元で「ハァハァ」ず舌を出しお寝ずった。
    ボボが、瞁偎で「ブフォヌ」ず錻息を぀きながら、倖を眺めずった。
    チィヌは、抌し入れの涌しいずころで䞞たっずった。
    チィヌが連れおきた子猫たちも、抌し入れでごろごろしずった。

    トラは、今日もおらん。

    静かな、倏の昌䞋がりやった。

    そやのに、ボボが急に、
    「グルル」
    ず唞った。

    「ボボ、どないした」

    俺が顔を䞊げるず、ボボが瞁偎から身を乗り出しお、隣の方をじっず芋ずった。

    隣は、荒物屋の田䞭のおじいさんの家や。

    田䞭のおじいさんは、80過ぎの䞀人暮らしで、耳が遠くお、足腰も匱い。

    「グルル、グルル」

    ボボの唞り声が、だんだん倧きくなった。

    ロンも、がばっず起き䞊がっお、耳を立おた。
    「ワン、ワン、ワン!!」

    ロンが、突然、激しく吠え始めた。
    「ロン、うるさい!」
    俺が叱っおも、ロンは止たらん。

    ボボも、立ち䞊がっお、瞁偎から倖に飛び降りた。
    「ボボ!」

    ボボが、隣の田䞭のおじいさんの家の方に、「ノッシノッシ」ず走っおいった。

    ロンも、「ワンワンワン!!」ず吠えながら、埌を远った。
    俺も、裏口から飛び出した。

    田䞭のおじいさんの家の裏手に回ったら、芋知らぬ男が、瞁偎の雚戞をこじ開けようずしずった。

    30くらいの、现い男やった。

    男は、ロンずボボに気づいお、
    「うわっ!」
    お、飛び䞊がった。

    ボボが、男の前に立ちはだかった。

    「グルルルルル!!」
    ボボの唞り声は、䜎くお、腹に響いた。

    ロンが、男の埌ろに回っお、
    「ワンワンワン!!」ず吠え続けた。

    男は、前にボボ、埌ろにロン、で完党に挟たれた栌奜になった。

    「た、助けおくれ!!」
    男が叫んだ。

    「動くな!!」
    俺は、粟䞀杯、倧きい声で叫んだ。

    父ちゃん譲りの、腹から出る声やった。

    男が、俺を芋た。

    䞭孊生の俺を芋お、ちょっず、舐めた目をした。
    「ガキか。どけ」

    男が、俺の方に䞀歩螏み出した。

    その瞬間、ボボが、
    「バり!!」
    ず、䞀声吠えお、男の腕に「ガブッ」ず噛み぀いた。

    「ぎゃヌヌ!!」
    男が悲鳎を䞊げた。
    ボボは、噛んだたた、離さんかった。

    ロンが、男の足元を「ワンワンワン!!」ず吠え回った。
    「離せ!! 離しやがれ!!」

    男が暎れたが、ボボはびくずもしなかった。
    ボボの顔は、もずもずしわくちゃで怖いのに、本気で噛み぀いずる顔は、もっず怖かった。

    俺は、家に駆け戻っお、電話した。
    「もしもし、譊察ですか! 隣の家に泥棒が入りたした! 䞊田タカシです! 䜏所は  」

    今床は、手が震えんかった。
    前に䞀回やっずるから、萜ち着いおできた。
    譊察が来るたでの間、ボボは男の腕を噛んだたた、䞀ミリも離さんかった。

    ロンは、男の足元で吠え続けた。
    男は、完党に動けんようになっずった。
    「頌む、離しおくれ、もう逃げぞん」

    「ボボ、ただ離すな」
    俺が蚀うず、ボボは「フンッ」ず錻息を鳎らしお、もっずぎゅっず噛んだ。
    男が「ひぃっ」ず情けない声を出した。

    譊察が来お、男は連れおいかれた。
    田䞭のおじいさんが、隒ぎに気づいお、瞁偎に出おきた。
    「なんや、なんや、どないしたんや」

    耳が遠いから、今たで党郚気づかんかったんや。

    「おじいさん、泥棒が来ずったんです。でも、ロンずボボが捕たえたした」
    「え? なんや? ロンずボボが?」
    おじいさんは、ロンずボボを芋た。

    ロンは、もう「ハァハァ」ず舌を出しお、尻尟を振っずった。

    ボボは、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしお、知らん顔しずった。

    「ロンちゃん、ボボちゃん、ありがずうなぁ」
    おじいさんが、しゃがんで、ロンずボボの頭を撫でた。
    ロンは、嬉しそうに尻尟を振り回した。
    ボボは、おじいさんの顔を「ベロッ」ず舐めた。

    おじいさんが、「ぶはっ」ず笑うた。

    倕方、父ちゃんが珟堎から垰っおきた。

    俺が事の顛末を話すず、父ちゃんは、黙っお聞いずった。

    話し終わるず、父ちゃんは、
    「タカシ」
    「うん」
    「䞀人で、倧䞈倫やったか」
    「倧䞈倫やった。ロンずボボがおったから」

    父ちゃんは、ロンずボボを芋た。
    ロンは、父ちゃんの足元で「ハァハァ」しずった。
    ボボは、座敷の隅で「ノッシ」ず座っずった。

    父ちゃんは、ボボの前に膝を぀いお、ボボの顔を䞡手で挟んだ。

    しわくちゃのボボの顔ず、父ちゃんの日焌けした顔が、向かい合うた。
    「ボボ」
    「ブフォヌ」
    「よくやった」
    「ブフォヌ」

    父ちゃんが、ボボの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
    ボボは、されるがたたになっずった。
    珍しいこずやった。

    い぀もは、頭を撫でられるず嫌がるボボが、その時だけは、じっずしずった。
    父ちゃんが、ロンの方を向いた。
    「ロンも、よくやった」
    ロンは、「ワン!」ず䞀声吠えお、父ちゃんの腕に飛び぀いた。

    父ちゃんが、ガハハず笑うた。

    その晩、土方仲間が来た。
    父ちゃんから話を聞いた健兄が、
    「ロン!! ボボ!! お前ら、ほんたにやるやないか!!」
    お、倧声で叫んだ。

    亀さんが、ロンに煮干しをやった。

    源さんが、ボボに倧きな骚付き肉をやった。どこで調達したんか知らん。

    シゲ兄が、ポラロむドカメラで、ロンずボボの写真を撮った。

    「これ、蚘念に食っずけ」

    シゲ兄が、写真を父ちゃんに枡した。

    父ちゃんは、その写真を、仏壇の暪に食った。

    母ちゃんの写真の暪に、ロンずボボの写真が䞊んだ。

    「母ちゃんも、芋ずっおくれや」

    父ちゃんが、仏壇に手を合わせた。

    宎䌚が始たっお、みんなでロンずボボの歊勇䌝を語り合うた。

    健兄が、
    「ボボがな、腕に噛み぀いお離さんかった、ゆうのが、もう、男前すぎるやろ」
    「ロンかお、ちゃんず埌ろから吠えお逃がさんかったんやで」
    亀さんが蚀うた。

    「ロンは、麻雀の牌を散らかすだけやないんやな」

    源さんが笑うた。

    「ロン、お前、やれば、できるやないか」

    シゲ兄が、ロンの頭を撫でた。

    ロンは、シゲ兄の靎䞋を匕っ匵っお遊んどった。

    い぀も通りや。

    「ロンは、ロンやな」

    みんなが、笑うた。

    俺は、ミカン箱の前で、その光景を芋ながら、

    ロンずボボがおっお、よかった

    お、思うた。

    父ちゃんが、俺の方を芋お、
    「タカシ」
    「うん」
    「今日、䞀人でよく萜ち着いおやった」
    「父ちゃんが前に芋せおくれたから、わかっずった」
    「そうか」

    父ちゃんは、ちょっず、嬉しそうな顔をした。

    「䞭孊生になったな」
    「うん」
    「もう、ガキやないな」
    「うん」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、ニダッず笑うた。

    「でも、タコ飯は、ただ食うか」
    「䞀生食う」
    父ちゃんが、ガハハず笑うた。

    健兄も、亀さんも、源さんも、シゲ兄も、みんな笑うた。

    ロンが「ワン!」ず吠えた。

    ボボが「ブフォヌ」ず錻息を鳎らした。

    チィヌが「ニャヌ」ず鳎いた。

    仏壇の暪のポラロむド写真の䞭で、ロンずボボが、どこずなく、誇らしそうな顔をしずった。


    第十五話「トラがおばあちゃんを助けた」

    それは、秋も深たった、肌寒い倕暮れのこずやった。

    画像
    トラがおばあちゃんを助けた

    父ちゃんは珟堎に出ずっお、俺は孊校から垰っお、ミカン箱の前で宿題をやっずった。

    䞭孊の宿題は、盞倉わらず倚い。

    数孊の方皋匏、英語の単語、歎史の幎号。

    うんざりしながらノヌトを広げずったら、チィヌが膝に乗っおきた。

    「チィヌ、邪魔や」

    「ニャヌ」

    「わかっずるわ、かわいいのは」

    俺は、チィヌを膝に乗せたたた、宿題を続けた。
    ロンは、足元で「ハァハァ」しずった。
    ボボは、瞁偎で倖を眺めずった。
    トラは、今日もおらん。
    もう、トラがおらんのは、日垞やった。

    3日垰っおこんこずも、1週間垰っおこんこずも、ざらやった。

    垰っおくる時は、たいおい耳が裂けずったり、しっぜの毛が抜けずったりしずる。

    「今日もどっかでケンカしずるんやろな」

    俺は、独り蚀を蚀いながら、英単語を曞き続けた。

    そやのに、ボボが急に、
    「グルル」
    ず唞った。

    「たたか、ボボ」

    俺は、顔を䞊げた。

    ボボが、瞁偎から身を乗り出しお、路地の方をじっず芋ずった。

    ロンも、耳を立おた。

    でも、今回は、ロンは吠えんかった。

    なんか、様子が違う。

    唞り声やなくお、心配そうな顔やった。
    「どないした」
    俺も、瞁偎に出お、ボボの芖線の先を远った。

    路地の角に、人が倒れずった。
    「!」
    俺は、飛び出した。

    路地の角に駆け寄るず、小柄なおばあさんが、路地に座り蟌んどった。
    近所の、浜田のおばあさんやった。
    80過ぎの、䞀人暮らしのおばあさんや。

    「おばあさん! どないしたんですか!」
    俺が駆け寄るず、おばあさんは、顔を䞊げた。
    顔が青ざめずった。

    足元を芋たら、右足のくるぶしのあたりが、赀く腫れずった。

    「段差に、躓いおしもうお  立おぞんねん」

    おばあさんの声は、か现かった。

    「い぀から、ここに?」
    「さっきから  誰か通らんかず思うお、でも、誰も  」

    俺は、路地を芋枡した。
    倕暮れの路地は、人通りが少なかった。

    「おばあさん、動かんずいおください。すぐ父ちゃんに電話したす」
    俺が立ち䞊がろうずした時、おばあさんが、俺の袖を掎んだ。

    「埅っお、怖いねん、䞀人は」
    「  わかりたした。ここにおりたす」

    俺は、おばあさんの隣に座った。
    秋の倕暮れの地面は、ひんやりしずった。

    おばあさんは、少し、安心した顔になった。

    「ありがずうな、タカシくん」
    「いえ」
    「でも、電話、どうしたしょ」

    俺は、困った。

    家の電話たで戻ったら、おばあさんを䞀人にしおしたう。

    その時やった。

    路地の向こうから、
    「ニャヌ」
    お、声がした。

    俺は、顔を䞊げた。
    路地の向こうに、トラがおった。
    「トラ!」

    トラは、俺を芋た。

    い぀ものように、耳が少し裂けずった。どこかでケンカしおきたんやろ。

    「トラ、ちょうどええずこに来た」
    トラは、「ニャヌ」ず䞀声鳎いお、こっちに歩いおきた。

    おばあさんが、トラを芋お、
    「あら、猫ちゃん」
    お、蚀うた。

    トラは、おばあさんの前で止たった。

    おばあさんに向かっお、「ニャヌ」ず鳎いた。
    おばあさんが、トラの頭を撫でた。

    トラは、い぀もなら、知らん人に觊られたら「シャヌッ」ず嚁嚇する。

    でも、その時は、じっずしずった。
    おばあさんの手の䞋で、おずなしくしずった。
    「おずなしい子やねぇ」
    「いや、普段はそうやないんやけど」

    俺は、立ち䞊がった。
    「おばあさん、トラがおるから、倧䞈倫ですよ。電話しおきたす」

    「うん、行っずいで」

    俺は、家に走った。
    父ちゃんの珟堎に電話しお、事情を話した。

    父ちゃんは、
    「わかった、すぐ垰る。救急車も呌べ」
    お、蚀うた。

    俺は、救急車も呌んで、たた路地に走っお戻った。
    トラは、ただ、おばあさんの隣におった。

    おばあさんの膝の䞊に、ちょこんず乗っずった。
    「あら、タカシくん、この子、ずっずそばにおっおくれたんよ」
    トラが、おばあさんの膝の䞊で、「ゎロゎロ」ず喉を鳎らしずった。

    俺は、目を䞞くした。

    トラが、誰かの膝の䞊で「ゎロゎロ」蚀うのを、初めお芋た。
    父ちゃんの膝でも、俺の膝でも、トラは「ゎロゎロ」蚀わん。
    なのに、浜田のおばあさんの膝の䞊で、トラは「ゎロゎロ」蚀うずった。

    救急車が来お、おばあさんは乗せられた。

    足銖の骚にひびが入っずるかもしれん、蚀うこずをやった。

    おばあさんは、救急車に乗る前に、トラの頭を撫でお、
    「ありがずうな、猫ちゃん」
    お、蚀うた。

    トラは、「ニャヌ」ず鳎いた。

    救急車が走り去った埌、俺は、トラを芋た。

    トラは、救急車が消えた方向を、しばらく、じっず芋ずった。
    「トラ」
    「ニャヌ」
    「お前、ええずこあるやないか」
    トラは、「フン」ずでも蚀うように、俺から顔を背けた。

    ほんで、さっさず路地の奥に消えおいった。
    「トラのくせに、照れるんかい」
    俺は、笑うた。

    父ちゃんが、珟堎から垰っおきた。

    「おばあさん、救急車で行った。足銖にひびが入っずるかもしれん、お」

    「そうか。埌で、病院に顔出しに行くわ」

    「うん」

    「トラが、おばあさんに぀いずっおくれたんか」

    「うん。膝の䞊で、ゎロゎロ蚀うずった」

    父ちゃんは、驚いた顔をした。

    「トラが、ゎロゎロ?」

    「初めお芋た」

    「  あい぀、わかっずんねんな」

    父ちゃんは、空を芋䞊げた。

    トラは、もうどこかに行っおしもうずった。

    「トラは、䞀人がええんや。でも、困っずる人を芋たら、ほっずかれぞん」

    父ちゃんが、ぜ぀りず蚀うた。
    「父ちゃんみたいやな」
    「アホ、わいはトラほど、かっこよないわ」

    俺は、笑うた。

    その晩、父ちゃんは浜田のおばあさんの病院に行った。

    垰っおきたら、
    「足銖、ひびやった。でも、軜いひびやから、しばらくしたら歩けるようになる、お先生が蚀うずった」

    「よかった」
    「おばあさんが、トラに䌚いたい蚀うずった」
    「トラは、たた倖やけどな」
    「そうか」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、
    「タカシ、お前も、ようやった」

    「俺は、電話しただけや」

    「それで、ええんや。電話䞀本で、人助けができる」

    俺は、ちょっず、照れくさかった。

    翌日の倕方、トラが垰っおきた。

    今日も、耳が少し傷぀いずった。

    「トラ、おかえり」

    「ニャヌ」

    「おばあさん、無事やったで」

    「ニャヌ」

    「お前が、぀いずっおくれたから、怖くなかったんやお」

    トラは、「フン」ず顔を背けた。

    ほんで、台所に行っお、ご飯を「ガツガツ」食うた。

    食い終わったら、たた窓から倖に飛び出しおいった。

    い぀も通りや。

    でも、飛び出す前に、䞀瞬だけ、仏壇の方を芋た気がした。

    俺の気のせいかもしれん。

    でも、俺には、トラが母ちゃんの写真に向かっお、「ニャヌ」ず蚀うた気がした。

    仏壇の母ちゃんの写真が、今日も、笑うずった。


    第十六話「チィヌが新しい家族を連れおきた」

    それは、春の終わりのこずやった。

    画像
    チィヌが新しい家族を連れおきた

    チィヌが、たた、子猫を産んだ。
    チィヌは、これで3回目やった。
    最初の時は3匹、2回目は2匹、そしお今回は、なんず、4匹やった。

    「父ちゃん、チィヌがたた産んだ」

    「䜕匹や」

    「4匹」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、

    「  たた増えたな」

    お、蚀うた。

    困った顔やったけど、目は笑うずった。

    チィヌは、抌し入れの䞭に䜜った寝床で、4匹の子猫に乳をやっずった。

    4匹ずも、手のひらに乗るくらい小さかった。

    目もただ開いずらんかった。

    「チィヌ、たた頑匵ったな」

    俺が頭を撫でるず、チィヌは「ニャヌ」ず鳎いお、子猫たちをぺろぺろ舐め始めた。

    子猫たちは、「ミィ、ミィ」ず现い声で鳎きながら、チィヌの腹に顔を埋めずった。

    ロンが、抌し入れの前に来お、銖を突っ蟌んだ。
    「ロン、邪魔や」
    「ワン」
    ロンは、子猫の匂いを「フンフン」嗅いで、尻尟をぶんぶん振った。
    ボボは、抌し入れの前に座っお、じっず䞭を芗いずった。
    ボボの衚情は、い぀も通りしわくちゃやったけど、目が優しかった。

    「ボボ、お前、子猫、奜きやろ」

    「ブフォヌ」

    ボボは、錻息を鳎らしお、知らん顔した。

    その倜、土方仲間が来た。

    「チィヌがたた子猫産んだで」

    父ちゃんが蚀うず、
    「䜕匹や!」
    健兄が身を乗り出した。

    「4匹や」

    「4匹! たた増えたな!」

    亀さんが、抌し入れを芗いた。

    「可愛いのぉ」

    亀さんの顔が、でれでれになった。

    普段は倧根持っお怒鳎り蟌んでくる亀さんが、子猫の前では、でれでれや。

    源さんが、
    「名前、どうするんや」
    「ただ決めずらん」

    「春に産たれたから、春、倏、秋、冬、はどうや」
    「季節かい」

    シゲ兄が、
    「4匹やから、東西南北はどうや」
    「方角かい」

    健兄が、
    「1号、2号、3号、4号でええやろ」
    「センスなさすぎやろ」

    みんなで、ああでもない、こうでもない、ず蚀い合うた。

    結局、その倜は名前が決たらんかった。

    数日埌、子猫たちの目が開いた。

    4匹ずも、チィヌに䌌た、くりくりした目やった。

    俺は、4匹を膝に乗せお、じっくり芋た。

    1匹は、癜くお、しっぜだけ茶色やった。
    1匹は、グレヌで、錻の頭が黒かった。
    1匹は、チィヌそっくりの、茶トラやった。
    1匹は、党身真っ黒やった。

    「父ちゃん、名前、決めよか」

    「うん」

    「癜いのは、シロはどうや」
    「そのたたやな」
    「でも、わかりやすいやろ」
    「たあ、ええか」

    「グレヌのは、クモ」
    「クモ?」
    「グレヌやから」

    「  たあ、ええか」

    「茶トラは、チビ」
    「チィヌの子䟛やから、チビか」

    「うん」

    「黒いのは」
    俺は、黒い子猫を芋た。
    真っ黒で、目だけがくりくりず光っずった。
    「クロや」

    「そのたたやな」

    「でも、ミィヌみたいに、貫犄出おきたら、クロボスや」

    父ちゃんが、ガハハず笑うた。

    「ええな、クロボス」

    こうしお、シロ、クモ、チビ、クロの4匹が、正匏にわが家の家族になった。

    子猫たちが、よちよち歩きを始めた頃、事件が起きた。

    ロンが、子猫たちず遊がうずしお、远いかけ回したんや。

    子猫たちは、「ミィミィ」ず鳎きながら、家䞭に逃げ回った。
    シロは抌し入れに逃げ蟌んだ。
    クモは、コタツの䞋に朜り蟌んだ。
    チビは、俺のランドセルの䞭に飛び蟌んだ。
    クロは、なんず、父ちゃんの䜜業靎の䞭に入り蟌んだ。

    「ロン!! 远いかけるな!!」

    俺が叱るず、ロンは「ワン」ず䞀声吠えお、尻尟を振った。

    悪いず思っずらんのや、こい぀は。

    チィヌが、ロンの前に立ちはだかった。

    「シャヌッ!!」

    チィヌの目が、鋭くなった。

    ロンは、チィヌの剣幕に、「くぅヌん」ず情けない声を出しお、埌ずさりした。
    チィヌは、子猫たちを䞀匹ず぀、口にくわえお、抌し入れの寝床に運んだ。
    4匹党員を運び終えるず、チィヌは、ロンをじっず芋た。

    ロンは、チィヌの目を芋お、「くぅヌん」ず鳎いお、俺の足元に逃げおきた。

    「ロン、チィヌに怒られたな」

    「くぅヌん」
    ロンは、俺の足に顔を埋めた。

    ボボが、その様子を瞁偎から芋お、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らした。

    笑っずるんやろか、こい぀。

    それから数週間が経っお、子猫たちは、だんだん、個性が出おきた。

    シロは、甘えたで、い぀も誰かの膝の䞊におりたがった。

    クモは、物静かで、窓の倖をじっず芋ずるこずが倚かった。

    チビは、やんちゃで、ロンのしっぜを远いかけ回しずった。

    クロは、ミィヌに䌌お、目぀きが鋭かった。ただ子猫やのに、座敷の真ん䞭にデヌンず座っお、みんなを芋回すこずがあった。

    「父ちゃん、クロ、ミィヌに䌌おきたな」
    「うん、䌌おきたな」

    父ちゃんは、クロを芋お、目を现めた。
    「ミィヌが垰っおきたんかもしれんな」
    「前にも、そんなこず蚀うずったな」

    「うん」

    父ちゃんは、仏壇の方を芋た。

    仏壇には、母ちゃんの写真ず、ミィヌの写真ず、ロンずボボのポラロむドが䞊んどった。

    「ミィヌ、ちゃんず埌継ぎを送り蟌んできよったな」

    俺は、クロを抱き䞊げた。

    クロは、「ニャヌ」ず鳎いた。

    その目が、どこずなく、ミィヌに䌌ずった。

    鋭くお、でも、枩かい目やった。

    「クロ、頌むで。この家、しっかり守っおくれよ」

    クロは、「ニャヌ」ず答えた。

    土方仲間が来た日、子猫たちは倧人気やった。

    健兄が、シロを膝に乗せお、でれでれになった。
    「束ちゃん、この癜いの、わいに頂戎」
    「アカン」
    「なんでや」
    「うちの家族や」
    「ケチ」

    亀さんが、クモを抱き䞊げようずしたら、クモに匕っかかれた。

    「いたっ!」

    「亀さん、クモは人芋知りやから」

    「なんやこい぀、倧根より手匷いやないか」

    「倧根ず比べるな」

    源さんが、チビず遊んどったら、チビが源さんのネクタむに噛み぀いた。

    「こら、離せ」

    「チビ、ネクタむはあかん」
    シゲ兄が、クロの前に座っお、クロをじっず芋た。

    クロも、シゲ兄をじっず芋た。

    しばらく、芋぀め合いが続いた。

    「シゲ兄、どないしたんや」
    「こい぀、目぀きが、ミィヌさんに䌌ずる」
    「うん、䌌ずる」
    「ミィヌさん、垰っおきはったんかなぁ」

    シゲ兄が、しんみりした顔で蚀うた。

    「そうかもしれんな」

    クロは、シゲ兄を芋たたた、「ニャヌ」ず䞀声鳎いた。

    シゲ兄が、目を现めた。
    「ミィヌさん、ただいた、お蚀うずるわ」

    その倜の宎䌚は、子猫たちのせいで、い぀も以䞊に賑やかやった。

    シロが健兄の膝で寝お、チビがロンのしっぜを远いかけ回しお、クモが亀さんの倧根に興味接々で近づいお、クロが座敷の真ん䞭にデヌンず座っお、みんなを芋回しずった。

    チィヌは、そんな子䟛たちを、コタツの䞊から、目を现めお芋ずった。

    「チィヌ、子育お、倧倉やろ」

    俺が蚀うず、チィヌは「ニャヌ」ず鳎いた。

    倧倉やけど、幞せや、お蚀うずる気がした。

    父ちゃんが、その光景を芋ながら、

    「タカシ」

    「うん」

    「にぎやかになったな」

    「うん」

    「ええこずや」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、ふぅっず煙を吐いた。

    「母ちゃんも、こんな家が奜きやったず思うで」

    「うん」

    「賑やかで、うるさくお、動物だらけで」

    「動物園やな」

    「うん」

    父ちゃんが、笑うた。

    「俺んちは、動物園や」

    俺も、笑うた。

    仏壇の母ちゃんの写真が、今日も、笑うずった。

    ミィヌの写真も、笑うずる気がした。

    クロが、仏壇の前に歩いおいっお、写真を芋䞊げた。

    「ニャヌ」

    クロが、写真に向かっお、鳎いた。

    俺ず父ちゃんは、顔を芋合わせた。

    「ミィヌ、垰っおきたんやな」

    父ちゃんが、小さい声で蚀うた。

    「うん」

    俺も、小さい声で答えた。

    クロは、仏壇の前でしばらく座っずっおから、たた座敷の真ん䞭に戻っお、デヌンず座った。

    たるで、「ただいた、しっかりやっずるで」ず蚀うように。


    第十䞃話「父ちゃんずタカシ、ロンずボボを連れお二人でキャンプに挑戊」

    それは、タカシが䞭孊2幎になった、倏䌑みのこずやった。

    画像
    父ちゃんずタカシ、二人でキャンプに挑戊

    ある晩、土方仲間の宎䌚の最䞭に、健兄が突然、
    「束ちゃん、タカシ、お前ら、二人でキャンプに行っおこい」
    お、蚀い出した。

    「キャンプ?」

    父ちゃんが、煙草を口から離した。
    「うん。男二人で、山の䞭で、飯食うお、火を焚いお、泊たっおこい」

    「なんでや、急に」

    「なんでお、タカシも䞭孊生やろ。そういう思い出、倧事やぞ」
    亀さんも、うんうんず頷いた。

    「健兄の蚀う通りや。束ちゃん、タカシず二人で、ゆっくりする時間、䜜ったれ」

    源さんも、
    「普段、珟堎珟堎で、父ず子でゆっくり話す時間、ないやろ」
    シゲ兄も、
    「わいが道具、䞀匏貞したるわ。テントも、寝袋も、ぜんぶ持っずる」
    「シゲ兄、キャンプ道具、持っずんのか」

    「昔、嫁さんず行こ思うお買うたんや」

    「嫁さんおらんのに」

    「  買うただけや」

    シゲ兄が、しょんがりした。

    「たあ、䜿うおくれるなら、ええわ」

    こうしお、父ちゃんず俺のキャンプが、決たった。

    出発の日の朝、シゲ兄が軜トラでキャンプ道具を運んできた。
    テント、寝袋2぀、ランタン、飯盒、それず、よくわからん道具がいろいろ。

    「シゲ兄、これ、党郚どうやっお䜿うんや」

    「わいも、よう知らん」

    「買うただけか!!」

    「説明曞、ある」

    シゲ兄は、分厚い説明曞を枡しおきた。

    父ちゃんは、説明曞を䞀瞥しお、
    「たあ、なんずかなるやろ」
    お、蚀うた。

    「父ちゃん、なんずかなるやろ、で、い぀も倧倉なこずになるんやけど」

    「倧䞈倫や。珟堎で、もっず難しいこずやっずる」

    「キャンプず珟堎は、違うやろ」

    「䞀緒や」

    党然、䞀緒やない。

    俺たちは、ロンずボボも連れおいくこずにした。

    「父ちゃん、トラは?」

    「トラは、山に攟したら、二床ず垰っおこんわ」

    「  そうやな」

    チィヌず子猫たちは、家でお留守番や。

    隣の田䞭のおじいさんに、逌やりを頌んどいた。

    目的地は、町から2時間ほど離れた、山の䞭のキャンプ堎やった。

    シゲ兄の軜トラで送っおもらっお、キャンプ堎に着いたのは、昌前やった。

    「ほな、明日の昌に迎えに来るわ」

    「うん、頌む」

    シゲ兄の軜トラが、山道を䞋っおいった。

    俺ず父ちゃんは、キャンプ道具を前にしお、立ち尜くした。

    ロンが、「ハァハァ」しながら、呚りを走り回った。

    ボボが、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしお、草むらの匂いを嗅いどった。

    「父ちゃん、たず、テントや」

    「うん」

    父ちゃんが、テントの袋を開けた。

    䞭から、ポヌル、シヌト、ペグ、ロヌプが出おきた。

    「  どうやっお組み立おるんや」

    「説明曞、読たなあかんな」

    俺が説明曞を開いた。

    図解付きで、手順が曞いおあった。
    「たず、グランドシヌトを広げる」
    「これか?」
    「それやず思う」
    「広げたで」
    「次に、むンナヌテントを  」
    「むンナヌテントお、どれや」
    「このメッシュのや぀やず思う」
    「これか?」
    「たぶん」
    「たぶん、おなんや」
    「俺も、初めおやから」

    父ちゃんず俺は、説明曞ず栌闘しながら、テントの組み立おを始めた。

    30分埌。

    テントは、なんずか立ったけど、圢が歪んどった。
    巊偎が、右偎より、だいぶ䜎かった。
    「父ちゃん、これ、倧䞈倫か」

    「倧䞈倫や、寝られたら、ええ」
    「雚、降ったら、どうなるんや」
    「降らぞんやろ」
    「根拠は?」
    「晎れ男やから」

    根拠がなさすぎた。

    昌飯は、飯盒でご飯を炊いお、父ちゃんが持っおきた梅干しず挬物で食うた。

    飯盒のご飯は、底が少し焊げずった。
    「父ちゃん、焊げずる」

    「焊げた方が旚いんや」

    「それ、い぀も蚀うな」

    「ほんたのこずや」

    食べたら、確かに、旚かった。

    山の空気の䞭で食う飯は、なんでか、栌別やった。

    食埌、ロンずボボを連れお、川沿いを散歩した。

    ロンは、川を芋た瞬間、「ワンワン!!」ず吠えながら、川に飛び蟌んだ。

    「ロン!!」

    ロンは、川の䞭を「バシャバシャ」ず走り回った。

    嬉しそうやった。

    ボボは、川の前で止たっお、氎面を「ゞッ」ず芋぀めた。

    「ボボ、入るか?」

    「ブフォヌ」

    ボボは、䞀歩だけ川に入った。

    ほんで、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしお、すぐ出おきた。

    「ボボ、氎、嫌いやったんか」

    「ブフォヌ」

    父ちゃんが、川の石の䞊に腰を䞋ろしお、煙草を吞いながら、川を眺めずった。

    俺も、父ちゃんの隣に座った。

    川の氎は、柄んでいお、底の石たで芋えた。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「こういうずこ、来たこずあったんか」

    「若い頃、母ちゃんず来たこずがある」

    「え、母ちゃんず?」

    「うん。結婚する前や。二人で、山に来た」

    俺は、川を芋ながら、

    「母ちゃん、喜んどったか」

    「喜んどったな。川に足を入れお、キャヌキャヌ蚀うずった」

    父ちゃんは、ちょっず、目を现めた。

    「若い頃の話やけどな」

    「ええ話やな」

    「アホ、照れくさいこず蚀うな」

    「俺、照れおぞんで」

    父ちゃんは、「ガハハ」ず笑うた。

    川の向こうで、ロンが「バシャバシャ」しずった。

    倕方、焚き火をした。

    これが、たた、䞀苊劎やった。

    薪に火を぀けようずしたけど、なかなか぀かんかった。

    「父ちゃん、ラむタヌ、ある」

    「ある」

    「じゃあ、぀けおみ」

    「うん」

    父ちゃんが、薪にラむタヌで火を぀けようずした。

    ぀かんかった。

    「薪が、湿っずるんかな」

    「かもしれん」

    俺は、説明曞の焚き火のペヌゞを読んだ。

    「现い枝を、最初に燃やしお、だんだん倪い薪にしおいく、お曞いずる」

    「ほう」

    「たず、枯れ葉を集めおこい、お曞いずる」

    「わかった」

    父ちゃんず俺は、呚りから枯れ葉ず现い枝を集めた。

    ロンが、枝を咥えお持っおきた。

    「ロン、ありがずう」

    「ワン」

    ボボは、焚き火の堎所の暪に、どっしりず座っお、芋守っずった。

    枯れ葉に火を぀けたら、今床は、ちゃんず぀いた。

    现い枝に移っお、だんだん倪い薪に移っおいった。

    「぀いたな」

    「぀いたな」

    父ちゃんず俺は、焚き火を前に、䞊んで座った。

    パチパチず、火が爆ぜる音がした。

    倜の山の空気は、ひんやりしずった。

    焚き火の熱が、顔に圓たった。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「ええな、これ」

    「うん、ええな」

    しばらく、二人で、黙っお、火を芋ずった。

    ロンが、俺の足元で䞞たった。

    ボボが、父ちゃんの暪に「ドスン」ず座った。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「俺、将来、䜕になったらええんやろ」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、

    「䜕になりたいんや」

    「ただ、わからん」

    「わからんで、ええ」

    「ええんか?」

    「䞭孊2幎で、将来が決たっずったら、぀たらんやろ」

    「そうかな」

    「そうや。いろんなこずを、やっおみたらええ。倱敗しおも、ええ。父ちゃんも、若い頃、いろいろ倱敗した」

    「父ちゃんが?」

    「うん。珟堎の仕事も、最初はぜんぜんできんかった。芪方に怒鳎られおばっかりやった」

    「父ちゃんが、怒鳎られずったんか」

    「怒鳎られずった。毎日や」

    俺は、その光景を、想像しようずした。

    でも、うたく想像できんかった。

    「でも、毎日やっずったら、できるようになった。そういうもんや」

    「うん」

    「タカシも、䞭孊、高校、倧孊か、就職か、わからんけど、いろいろやっおみたらええ。倱敗したら、父ちゃんが、タコ飯炊いたる」

    俺は、笑うた。

    「タコ飯で、慰めるんかい」

    「タコ飯より、ええ慰めはない」

    「それは、そうやな」

    二人で、笑うた。

    焚き火が、パチパチず音を立おた。

    倜空に、星が出ずった。

    町では、こんなに星が芋えぞん。

    「父ちゃん、星、すごいな」

    「うん」

    「母ちゃんも、この星、芋ずるかな」

    「芋ずるやろ」

    「どのぞんやろ」

    「さあな。でも、どっかから、芋ずるず思う」

    俺は、星空を芋䞊げたたた、

    「母ちゃん、芋えずるか?」

    お、呟いた。

    颚が、さっず吹いた。

    焚き火の炎が、ゆらっず揺れた。

    「返事しおくれたんちゃうか」

    父ちゃんが、笑うた。

    「そうかもな」

    俺も、笑うた。

    倜も曎けお、テントに入った。

    寝袋に入っお、暪になった。

    テントの倖で、虫の声がした。

    川の音が、遠くから聞こえた。

    ロンが、俺の寝袋の䞭に朜り蟌んできた。

    ボボが、テントの入り口に暪になった。

    「ボボ、番犬か」

    「ブフォヌ」

    父ちゃんの寝袋から、

    「タカシ」

    「うん」

    「来およかったな」

    「うん」

    「たた、来るか」

    「うん、来る」

    「ロンずボボも、連れおきおやれ」

    「ロンは、たた川に飛び蟌むで」

    「ええやないか」

    「そうやな」

    しばらくしお、父ちゃんの寝袋から、寝息が聞こえおきた。

    早いな、父ちゃん。

    俺は、テントの倩井を芋ながら、
    ええ倏やったな
    お、思うた。

    ロンが、俺の足元で「スヌスヌ」ず寝ずった。

    ボボが、テントの入り口で、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らした。

    倖では、虫が鳎いずった。

    川の音が、静かに流れずった。

    どこか遠くで、母ちゃんが笑うずる気がした。

    俺は、目を぀ぶっお、眠りに萜ちおいった。

    翌朝、目が芚めたら、テントの䞭が、がんやり明るかった。

    「父ちゃん、朝や」

    「うん」

    父ちゃんは、もう起きずった。

    テントの倖から、火の爆ぜる音がした。

    「父ちゃん、もう、焚き火しずるんか」

    「朝飯、炊いずる」

    俺は、寝袋から出お、テントの倖に出た。

    朝の山の空気は、柄んでいお、冷たかった。

    父ちゃんが、飯盒を焚き火にかけずった。

    「今朝は、タコ飯か?」

    「タコ、持っおきずらん。普通の塩むすびや」

    「父ちゃんが、塩むすび䜜るんか」

    「おう」

    父ちゃんの倧きな手で握った塩むすびは、圢が䞍栌奜やった。

    でも、山の朝の空気の䞭で食うたら、

    旚かった。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「ありがずう、連れおきおくれお」

    父ちゃんは、「フン」ず錻を鳎らしお、

    「瀌は、ええ。たたい぀か、来たらええ」

    お、蚀うた。

    ロンが、「ワン!」ず吠えお、たた川に走っおいった。

    ボボが、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしお、ロンを芋送った。

    朝の山に、ロンの「ワン!」ずいう声が、響いた。


    第十八話「孊校の文化祭、俺んちの動物園が倧行進」

    それは、タカシが䞭孊2幎の、秋のこずやった。

    画像
    孊校の文化祭、俺んちの動物園が倧行進

    孊校の文化祭が、近づいずった。

    クラスで、出し物を䜕にするか、話し合いがあった。

    いろんな意芋が出た。

    「お化け屋敷はどうや」

    「去幎もやったやろ」

    「喫茶店は?」

    「準備が倧倉や」

    「劇は?」

    「セリフ芚えるのが嫌や」

    みんな、ああでもない、こうでもない、蚀い合うずった。

    そこで、俺が、手を挙げた。

    「ペット自慢コヌナヌ、はどうや」

    「ペット自慢?」

    ヒデキが、銖を傟けた。

    「うん。みんなの家のペットを連れおきお、芋せるんや。展瀺䌚みたいな感じで」

    「面癜そうやな」

    「でも、先生が蚱可しおくれるかな」

    「蚱可、取っおみる」

    俺は、担任の䞭村先生に盞談した。

    䞭村先生は、しばらく考えお、

    「タカシ、お前の家のペット、䜕匹おるんや」

    「犬2匹、猫が、えヌず、チィヌずシロずクモずチビずクロで、5匹、それずトラが、たたに垰っおきたす」

    「たたに、お」

    「い぀も倖におるんで」

    䞭村先生は、苊笑いした。

    「たあ、ええか。ペット自慢コヌナヌ、蚱可する。ただし、動物が暎れんように、ちゃんず管理するこず。ええな」

    「はい!」

    こうしお、クラスの出し物は、ペット自慢コヌナヌに決たった。

    文化祭の圓日の朝、俺は、ロンずボボずチィヌを連れおいくこずにした。

    シロ、クモ、チビ、クロは、ただ小さいから、家でお留守番や。

    「父ちゃん、行っおくるで」

    「うん、気を぀けおな」

    「トラは、今日もおらんよな」

    「おらん」

    「たあ、ええか」

    俺は、ロンのリヌドを持っお、ボボのリヌドを持っお、チィヌをキャリヌバッグに入れお、孊校に向かった。

    孊校の門を入った瞬間、

    「タカシ、すごい!」

    クラスのみんなが、駆け寄っおきた。

    「ボボ、デカいな!」

    「チィヌ、可愛い!」

    「ロン、長い䜓やな!」

    子䟛たちが、ロンずボボずチィヌを取り囲んだ。

    ロンは、嬉しそうに尻尟を振り回しお、みんなに飛びかかった。

    「ロン、萜ち着け!」

    「ワンワンワン!!」

    ボボは、子䟛たちに囲たれお、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らしながら、どっしりず構えずった。

    チィヌは、キャリヌバッグの䞭から、「ニャヌ」ず鳎いた。

    文化祭が始たっお、ペット自慢コヌナヌは、朝から倧賑わいやった。

    クラスのみんなが、それぞれのペットを連れおきずった。

    ヒデキは、癜い柎犬を連れおきた。

    女子の䜐藀さんは、うさぎを持っおきた。

    田䞭くんは、ハムスタヌを持っおきた。

    朚村くんは、カメを持っおきた。

    いろんな動物が、教宀に集たった。

    ロンが、柎犬を芋お、「ワンワン!!」ず吠えた。

    柎犬も「ワン!!」ず吠え返した。

    「ロン、喧嘩すんな!」

    ボボが、うさぎを芋お、「グルル」ず唞った。

    うさぎが、震え䞊がった。

    「ボボ、怖がらせるな!」

    チィヌが、ハムスタヌのケヌゞに近づいお、錻をフンフン蚀わせた。

    ハムスタヌが、ケヌゞの隅に逃げ蟌んだ。

    「チィヌ、ハムスタヌは、友達や!」

    教宀は、もう、収拟が぀かんかった。

    䞭村先生が、

    「タカシ!! ちゃんず管理せえ!!」

    お、叫んどった。

    「すみたせん!!」

    俺は、ロンのリヌドを匕っ匵りながら、ボボを抌さえながら、チィヌを抱き䞊げながら、倧忙しやった。

    そんな時やった。

    教宀の窓から、

    「ニャヌ」

    お、声がした。

    俺は、振り返った。

    窓の倖に、トラがおった。

    「トラ!!」

    トラは、窓枠に座っお、教宀の䞭を芗いずった。

    「トラ、なんで孊校に来ずんねん!!」

    「ニャヌ」

    トラは、涌しい顔で、教宀に飛び蟌んできた。

    教宀が、「キャヌヌヌ!!」ずなった。

    女子が悲鳎を䞊げた。

    トラは、耳が少し傷぀いずった。

    い぀も通りや。

    トラは、教宀の真ん䞭を「のっしのっし」ず歩いた。

    柎犬が、トラを芋お、埌ずさりした。

    うさぎが、震え䞊がった。

    ハムスタヌが、ケヌゞの隅に固たった。

    カメが、甲矅の䞭に匕っ蟌んだ。

    「トラ、倧人しくしろ!!」

    俺が叫んだ。

    トラは、俺を䞀瞥しお、「フン」ずでも蚀うように、教宀の隅に歩いおいっお、デヌンず座った。

    そしお、誰も寄せ付けないオヌラを攟ちながら、教宀党䜓を芋枡した。

    䞭村先生が、

    「タカシ、あの猫は」

    「うちのトラです。勝手に来たした」

    「勝手に来たんか」

    「すみたせん」

    䞭村先生は、苊笑いしお、
    「たあ、ええか。文化祭やし」
    お、蚀うおくれた。

    それから、䞍思議なこずが起きた。

    トラが教宀の隅にデヌンず座っおから、他の動物たちが、なぜか、萜ち着いたんや。

    ロンが、吠えるのをやめた。

    ボボが、唞るのをやめた。

    柎犬も、静かになった。

    うさぎも、震えなくなった。

    トラが、この堎を仕切っずった。

    「トラ、お前、やるな」

    「ニャヌ」

    トラは、知らん顔した。

    昌頃、父ちゃんが芋に来た。

    「タカシ、どうや」

    「倧賑わいや。でも、トラが勝手に来よった」

    「トラが?」

    父ちゃんは、教宀の隅のトラを芋た。

    トラは、父ちゃんを芋お、「ニャヌ」ず鳎いた。

    「お前、なんで来たんや」

    「ニャヌ」

    「たあ、ええか」

    父ちゃんは、笑うた。

    健兄ず亀さんも、䞀緒に来ずった。

    「タカシ、賑やかやなぁ」

    健兄が、教宀を芋枡した。

    「健兄、来んでええのに」

    「なんでや。芋たかったんや」

    亀さんが、ボボの頭を撫でた。

    「ボボ、孊校たで来たんか。えらいなぁ」

    「ブフォヌ」

    昌過ぎに、事件が起きた。

    ロンが、リヌドを匕っ匵っお、俺の手から抜けた。

    「ロン!!」

    ロンは、「ワンワンワン!!」ず吠えながら、廊䞋に飛び出した。

    「ロン、埅お!!」

    俺は、ロンを远いかけた。

    ヒデキも、䞀緒に远いかけおくれた。

    ロンは、廊䞋を「ダダダダ!!」ず走っお、階段を䞋りお、校庭に飛び出した。

    校庭では、他のクラスが、ダンスの発衚をしずった。

    ロンは、その真ん䞭に、「ワンワンワン!!」ず吠えながら、飛び蟌んだ。

    ダンスをしずった生埒たちが、「キャヌヌヌ!!」ず悲鳎を䞊げた。

    「ロン!!」

    俺は、校庭に飛び出した。

    ロンは、ダンスの茪の䞭を、嬉しそうに走り回っずった。

    芋物しずった保護者たちが、ポカンずしずった。

    「すみたせん!! うちの犬です!!」

    俺は、叫びながら、ロンを远いかけた。

    ヒデキも、远いかけた。

    ロンは、俺たちをひらりひらりず亀わしながら、走り回った。

    そこに、父ちゃんが珟れた。

    「ロン」

    父ちゃんが、䜎い声で呌んだ。

    ロンが、ピタッず止たった。

    父ちゃんの前に、おずなしく座った。

    「ワン」

    「ワンやないわ」

    父ちゃんが、ロンのリヌドを掎んだ。

    芋物の保護者たちが、どっず笑うた。

    荒巻先生が、遠くから、

    「䞊田!! ちゃんず管理せえ!!」

    お、叫んどった。

    「すみたせん!!」

    俺ず父ちゃんは、二人で頭を䞋げた。

    文化祭が終わっお、埌片付けをしながら、ヒデキが、

    「タカシんずこ、ほんたに動物園やな」

    お、笑うた。

    「そうやねん、俺んちは動物園や」

    「ええな、賑やかで」

    「うん」

    「俺、今日、楜しかったわ」

    「俺も」

    䞭村先生が、教宀を芋回しお、

    「今幎の文化祭、䞀番話題になったのは、間違いなく、うちのクラスやな」

    お、苊笑いした。

    「先生、すみたせんでした」

    「いや、楜しかったで。来幎も、やるか?」

    「来幎も、やりたす」

    「ロンは、もっずしっかり繋いどけ」

    「はい」

    垰り道、父ちゃんず、ロン、ボボ、チィヌ、トラず䞀緒に歩いた。

    トラは、い぀の間にか、垰り道も぀いおきずった。

    「トラ、家たで垰るんか」

    「ニャヌ」

    「珍しいな」

    「ニャヌ」

    父ちゃんが、

    「今日は、楜しかったか」

    「うん、楜しかった」

    「ロンが、ダンスの茪に飛び蟌んだのは、笑うたわ」

    「笑うおる堎合かい」

    「たあ、ええやないか。文化祭の思い出になったやろ」

    「それは、そうやな」

    倕暮れの道を、父ちゃんず俺ず、ロンずボボずチィヌずトラが、䞀緒に歩いた。

    ロンが、尻尟を振りながら、俺の足元を走り回った。

    ボボが、父ちゃんの暪を、「ノッシノッシ」ず歩いた。

    チィヌが、キャリヌバッグの䞭から、「ニャヌ」ず鳎いた。

    トラが、少し離れた埌ろを、「のっしのっし」ず぀いおきた。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「俺んちは、ほんたに動物園やな」

    「うん」

    「ええ動物園やけどな」

    父ちゃんが、笑うた。

    「ええ動物園や」

    倕暮れの空が、オレンゞ色に染たっずった。

    その光の䞭を、わが家の動物園が、家に向かっお歩いおいった。


    最終話「父ちゃん、タカシ、ありがずう」

    それは、タカシが䞭孊3幎になった、春のこずやった。

    画像
    桜が満開の䞋で父ちゃん、タカシ、そしおみんな

    桜が、満開やった。

    庭の桜の朚の䞋には、ミィヌが眠っずる。

    毎幎、この季節になるず、父ちゃんは、桜の朚の前に立っお、しばらく、黙っお芋䞊げる。

    今幎も、父ちゃんは、朝から桜の朚の前に立っずった。

    「父ちゃん、飯、できたで」

    「うん、今行く」

    父ちゃんは、もう䞀回、桜を芋䞊げおから、瞁偎に戻っおきた。

    朝飯は、タコ飯やった。

    い぀も通りや。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「俺、今日、進路の話があるんや」

    「孊校で?」

    「うん。将来のこず、真剣に考えおこい、お、䞭村先生に蚀われずる」

    父ちゃんは、タコ飯を口に運びながら、

    「そうか」

    「父ちゃんは、どう思う」

    「タカシが、やりたいこずを、やったらええ」

    「やりたいこず、ただ、よくわからんねん」

    「わからんで、ええ蚀うたやろ」

    「でも、進路、決めなあかんやろ」

    父ちゃんは、しばらく考えお、

    「タカシ、高校は行け」

    「うん」

    「高校行ったら、たたいろんなこずが芋えおくる。そこで、決めたらええ」

    「うん」

    「焊るな」

    「うん」

    俺は、タコ飯を食いながら、父ちゃんの顔を芋た。

    父ちゃんの顔に、シワが増えた気がした。

    日に焌けた顔に、深いシワが刻たれずった。

    腕は、盞倉わらず、䞞倪みたいに倪かったけど。

    「父ちゃん、歳、ずったな」

    「うるさい」

    「でも、ほんたのこずや」

    「お前も、でかくなったな」

    「うん」

    「もうすぐ、父ちゃんの背を抜くな」

    「もう、ほが䞀緒やで」

    父ちゃんは、「ガハハ」ず笑うた。

    その日の倕方、孊校から垰ったら、家の前に、健兄の軜トラが止たっずった。

    「あれ、今日は宎䌚やったっけ」

    俺が家に入ったら、健兄ず亀さんず源さんずシゲ兄が、党員、座敷に座っずった。

    「おかえり、タカシ」

    「健兄、どないしたんや、党員で」

    「いや、なんずなく、来たくなっおな」

    健兄が、照れくさそうに蚀うた。

    「なんずなく、お」

    「ええやろ、なんずなくで」

    父ちゃんが、台所でタコ飯を炊きよった。

    倧きなタコを、炊飯噚にズボッず突っ蟌んで、醀油をガバガバ、酒もガバガバ。

    スむッチON。

    「今日は、なんかあるんか?」

    俺が父ちゃんに聞くず、

    「なんもない」

    「なんもないのに、タコ飯か」

    「タコ飯に、理由はいらん」

    「そうか」

    タコ飯が炊き䞊がった。

    フタを開けた瞬間、湯気ず磯の匂いがブワヌッず広がった。

    「うたそうやヌヌ!」

    健兄が叫んだ。

    い぀も通りや。

    みんなで、タコ飯を食うた。

    ロンが、足元をうろ぀いた。

    ボボが、父ちゃんの暪に座った。

    チィヌが、コタツの䞊でゎロゎロ蚀うた。

    シロが、健兄の膝に乗った。

    クモが、窓の倖を芋ずった。

    チビが、ロンのしっぜを远いかけた。

    クロが、座敷の真ん䞭に、デヌンず座った。

    トラは、今日もおらんかった。

    でも、それも、い぀も通りや。

    「賑やかやなぁ」

    亀さんが、座敷を芋回した。

    「ほんたに、動物園やな」

    源さんが、笑うた。

    「俺んちは、動物園や」

    俺が蚀うず、みんなが笑うた。

    宎䌚が始たった。

    健兄が、酒を飲みながら、

    「束ちゃん、タカシが来おから、䜕幎になるんや」

    「来おから、お、タカシはわいの息子やぞ」

    「そうやけど、なんか、タカシがおる家になっおから、䜕幎や、お思うおな」

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、

    「タカシが生たれたのは、もう、15幎前や」

    「15幎か」

    健兄が、しみじみした顔になった。

    「早いなぁ」

    「早いな」

    「束ちゃん、お前、よう頑匵ったなぁ」

    「健、たたそれか」

    「たたやけど、ほんたのこずやから、蚀う」

    亀さんも、

    「束ちゃん、ほんたに、よう頑匵ったわ」

    源さんも、シゲ兄も、うんうんず頷いた。

    父ちゃんは、煙草を吞いながら、黙っずった。

    「タカシも、ようなったなぁ」

    健兄が、俺を芋た。

    「最初に䌚うた時、こんなチビやったのに」

    健兄が、手で小さい高さを瀺した。

    「もうこんなになりよっお」

    今床は、ずいぶん高い高さを瀺した。

    「それ、たた盛っずるやろ」

    みんなが、笑うた。

    倜も曎けた頃、健兄が、たた泣き出した。

    毎回や。

    でも、今日は、泣きながら、俺に蚀うた。

    「タカシ、お前、ええ子に育ったなぁ」

    「健兄、泣きながら蚀わんでも」

    「泣くわ!! お前のこず、ずっず芋おきたんやから!!」

    亀さんも、目を赀くしながら、

    「タカシ、高校行ったら、たた倉わるぞ。ええ倉わり方するぞ」

    「亀さん、どうしおわかるんや」

    「なんずなく、わかる」

    源さんが、

    「タカシ、困ったこずがあったら、い぀でも蚀えよ」

    シゲ兄が、

    「わいも、い぀でも軜トラ出すで」

    「シゲ兄、軜トラが解決策やないやろ」

    みんなが、笑うた。

    父ちゃんは、ずっず、煙草を吞いながら、みんなの顔を芋ずった。

    俺も、みんなの顔を芋た。

    健兄の赀い顔。

    亀さんの日焌けした顔。

    源さんの䞞い顔。

    シゲ兄の人の良さそうな顔。

    みんな、シワが増えた。

    みんな、歳をずった。

    でも、みんな、ずっず、同じ顔で笑うずった。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「みんな、ええ人やな」

    「うん」

    「俺、恵たれずるな」

    父ちゃんは、煙草を灰皿に眮いお、

    「タカシ」

    「うん」

    「䞀぀、聞いおもええか」

    「なんや」

    「お前、幞せか」

    俺は、座敷を芋枡した。

    健兄が泣きながら笑うずる。

    亀さんが倧根をかじっずる。

    源さんが䞀升瓶を抱えずる。

    シゲ兄がポラロむドカメラを向けずる。

    ロンが健兄の靎䞋を匕っ匵っずる。

    ボボが父ちゃんの暪でどっしり座っずる。

    チィヌがコタツの䞊でゎロゎロ蚀うずる。

    シロが健兄の膝で寝ずる。

    クモが窓の倖を芋ずる。

    チビがロンのしっぜを远いかけずる。

    クロが座敷の真ん䞭にデヌンず座っずる。

    仏壇には、母ちゃんの写真ず、ミィヌの写真ず、ロンずボボのポラロむドが䞊んどる。

    桜の朚の䞋には、ミィヌが眠っずる。

    どこかで、トラが、今倜もケンカしずる。

    「うん」

    俺は、答えた。

    「幞せや」

    父ちゃんは、䜕も蚀わんかった。

    ただ、ちょっずだけ、目が光った。

    「そうか」

    それだけ蚀うお、新しい煙草に火を぀けた。

    宎䌚がお開きになっお、健兄たちが垰った。

    「たた来るで」

    「うん、来い」

    「タカシ、高校、頑匵れよ」

    「うん」

    「束ちゃん、ありがずうな、い぀も」

    「健、お前こそ、ありがずうな」

    玄関で、みんなず別れた。

    軜トラの゚ンゞン音が、遠ざかっおいった。

    静かになった家の䞭で、父ちゃんず俺は、䞊んで瞁偎に座った。

    倜の空気は、少し、冷たかった。

    桜の花びらが、颚に乗っお、ひらひら舞っずった。

    ロンが、俺の足元に来た。

    ボボが、父ちゃんの暪に来た。

    チィヌが、俺の膝に乗った。

    クロが、父ちゃんの膝に乗った。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「俺、高校行ったら、家を出るこずもあるかもしれん」

    「そうやな」

    「でも、垰っおくるで」

    「うん」

    「タコ飯、食いに垰っおくる」

    父ちゃんが、ふぅっず煙を吐いた。

    「い぀でも、炊いたる」

    「うん」

    「タコ飯だけは、うたいもんな、父ちゃんのは」

    「圓たり前や」

    「他の料理は、党郚、焊げずるけどな」

    「うるさい」

    二人で、笑うた。

    桜の花びらが、たた、ひらひら舞った。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「母ちゃんに、䌌ずるか、俺」

    父ちゃんは、俺の顔を、じっず芋た。

    しばらく、黙っお芋ずった。

    「目が、䌌ずる」

    「目が?」

    「うん。母ちゃんも、お前みたいな目をしずった。たっすぐ芋る目や」

    「そうか」

    「声は、わいに䌌ずる」

    「デカい声か」

    「デカい声や。ガハハ笑いも、わいに䌌ずる」

    「それは、どうかず思うけどな」

    父ちゃんが、笑うた。

    「たあ、母ちゃんずわい、䞡方に䌌ずる。それが、ええんや」

    「うん」

    俺は、空を芋䞊げた。

    星が出ずった。

    「母ちゃん、芋えずるかな」

    「芋えずるやろ」

    「俺のこず、わかるかな」

    「わかるわ。目が䞀緒やから」

    俺は、星空に向かっお、

    「母ちゃん、芋えずるか」

    お、呟いた。

    颚が、さっず吹いた。

    桜の花びらが、ひずひら、俺の膝に萜ちおきた。

    「返事しおくれたな」

    「うん」

    父ちゃんず俺は、しばらく、黙っお、倜空を芋ずった。

    ロンが、「スヌスヌ」ず寝息を立お始めた。

    ボボが、「ブフォヌ」ず錻息を鳎らした。

    チィヌが、俺の膝の䞊で、「ゎロゎロ」蚀うた。

    クロが、父ちゃんの膝の䞊で、「ゎロゎロ」蚀うた。

    どこか遠くで、

    「ニャヌ」

    お、声がした。

    「トラや」

    父ちゃんが蚀うた。

    「うん、トラや」

    「垰っおくるかな」

    「垰っおくるやろ。배腹が枛ったら」

    「そうやな」

    二人で、たた、笑うた。

    そしお、父ちゃんが、ぜ぀りず蚀うた。

    「タカシ」

    「うん」

    「お前が生たれおきおくれお、よかった」

    俺は、䜕も蚀えんかった。

    胞が、いっぱいになった。

    涙が、出そうになった。

    でも、こらえた。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「俺も、父ちゃんの子䟛に生たれおきお、よかった」

    父ちゃんは、䜕も蚀わんかった。

    ただ、空を芋䞊げずった。

    仏壇の䞭の、母ちゃんの方を、向いずった。

    そしお、小さい声で、

    「母ちゃん、聞こえたか」

    お、蚀うた。

    颚が、もう䞀床、さっず吹いた。

    桜の花びらが、たくさん、舞い䞊がった。

    花びらが、父ちゃんず俺の䞊に、ひらひらず降っおきた。

    「聞こえたな」

    「うん、聞こえたな」

    瞁偎に、花びらが積もった。

    ロンが寝ずった。

    ボボが寝ずった。

    チィヌが、ゎロゎロ蚀うずった。

    クロが、ゎロゎロ蚀うずった。

    どこかでトラが、「ニャヌ」ず鳎いた。

    家の䞭では、仏壇の前のミィヌの写真が、笑うずった。

    母ちゃんの写真も、笑うずった。

    「父ちゃん」

    「うん」

    「ありがずう」

    「タカシ」

    「うん」

    「ありがずうな」

    二人で、倜空を芋䞊げずった。

    桜の花びらが、ひらひら、ひらひら、舞い続けた。

    俺んちは、動物園や。

    うるさくお、賑やかで、動物だらけで、毎晩宎䌚で、タコ飯の匂いがしお。

    母ちゃんはおらんけど、父ちゃんがおる。

    ロンがおる。ボボがおる。チィヌがおる。トラがおる。

    ミィヌは、桜の朚の䞋で、ずっず、芋守っずる。

    健兄も、亀さんも、源さんも、シゲ兄も、おる。

    それで、ええんや。

    それで、十分や。

    母ちゃん、芋えずるか。

    俺、幞せやで。

    ほんたに、幞せやで。

    最終話 おしたい

    『俺んちは動物園や』党十九話、完結。