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#13 借上社宅の賃貸料相当額とは?

    ― 給与課税の考え方と賃貸料相当額の仕組みをわかりやすく解説 ―


    ※本記事は借上社宅制度シリーズの一部です。

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    1.■ はじめに

    借上社宅制度を検討していると、
    多くの方が最初に疑問に思うことがあります。
     
    「結局、従業員はいくら負担すればよいのだろう?」
     
    制度を調べ始めると、
    「家賃の20%」
    「30%くらい」
    「半額くらい」
    といった
    さまざまな情報を目にすることがあります。
     
    しかし、借上社宅制度では、
    家賃の割合だけで判断できるものではありません。
    税務上は、
    「賃貸料相当額」という一定の基準をもとに整理されるためです。
     
    この考え方を知らずに制度を設計すると、
     ・給与課税を想定していなかった
     ・従業員負担額の設定根拠を説明できない
     ・社宅規程との整合性が取れない
    といった
    問題につながる可能性があります。
     
    一方で、賃貸料相当額の考え方を理解しておくと、
    「なぜこの金額なのか」
    「市場家賃とは何が違うのか」
    「会社が家賃を多く負担していても問題ない場合があるのはなぜか」
    といった
    疑問も整理しやすくなります。
     
    この記事では、
    借上社宅制度を理解するうえで重要となる「賃貸料相当額」について、
     ・制度上どのような意味を持つのか
     ・どのように計算されるのか
     ・市場家賃とは何が違うのか
    という観点から、
    できるだけわかりやすく整理していきます。


    2.■ 賃貸料相当額とは何か

    賃貸料相当額とは、借上社宅において
    給与課税の取扱いを考える際の基準の一つとなる税務上の考え方です。
     
    会社が住宅を借り、それを従業員へ貸与すると、
    従業員は通常より低い負担で住宅を利用できる場合があります。
     
    税務上では、
    このような利益を「経済的利益」として考える場合があります。
     
    もっとも、すべての借上社宅が給与課税の対象になるわけではありません。
     
    一般の従業員向け借上社宅では、
    従業員から徴収する社宅使用料が、原則として賃貸料相当額の50%以上で
    ある場合には、給与課税を行わない取扱いが認められる場合があります。

     
    つまり、賃貸料相当額は、
    「この住宅について、税務上どの程度の社宅使用料を基準として考えるか」
    を整理するための目安となる金額です。
     
    ここで重要なのは、
    「市場家賃」と「賃貸料相当額」は同じものではない
    という点です。
     
    市場家賃は実際の賃貸市場で成立する価格ですが、
    賃貸料相当額は税務上の計算方法に基づいて算定されます。
    そのため、両者が一致するとは限りません。


    3.■ なぜこのような仕組みがあるのか

    ここは制度を理解するうえで最も重要なポイントです。
     
    借上社宅制度では、
    会社が住宅を借り、
    その住宅を従業員へ貸与します。
     
    もし従業員がほとんど負担なく住宅を利用できる場合には、
    住宅を安く利用できるという利益が発生します。
    税務上では、
    この利益について給与として取り扱うかどうかが問題になります。
     
    一方で、
    従業員が一定額以上の社宅使用料を負担している場合には、
    その利益について給与課税を行わない取扱いが認められる場合があります。
     
    その判断の目安となるのが、
    賃貸料相当額の50%という考え方です。
     
    つまり、
    「市場家賃の何%」
    ではなく、
    「税務上の基準として計算される賃貸料相当額との関係」
    によって整理される点が、借上社宅制度の特徴といえます。
     
    そのため、
    市場家賃だけを見て制度設計を行うと、
    税務上の考え方と一致しないケースも生じます。
     
    借上社宅制度では、
    会社が貸主へ支払う家賃
    と
    従業員から徴収する社宅使用料
    を区別して考えることが重要です。


    4.■ 賃貸料相当額はどのように計算するのか

    賃貸料相当額は、次の3つの要素を合計して算定されます。
     
    ① 建物の固定資産税課税標準額 × 0.2%
    ② 12円 ×(床面積㎡ ÷ 3.3)
    ③ 敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
     
    この3項目には、それぞれ異なる意味があります。
     
     
    [参考]「どのような考え方で家賃を決めればよいのか」を
                     詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
    ▶ 
    【第10回借上社宅の家賃設定、その決め方で本当に大丈夫ですか?】
    🛠 制度設計を学びたい方へ


    ① 建物部分
     
    建物そのものを利用する価値を評価する項目です。
    建物の固定資産税課税標準額を基礎として計算されるため、建物価値が高いほど、この部分の金額も大きくなる傾向があります。


    ② 面積部分
     
    住宅の広さを反映する項目です。
    建物評価額だけでは住宅の規模を十分に表せないため、床面積に応じて
    一定額を加算する仕組みになっています。
    そのため、同じ建物評価額であっても、面積が広い住宅ほど、
    この部分の金額は大きくなります。


    ③ 土地部分
     
    土地を利用する価値を評価する項目です。
    敷地の固定資産税課税標準額を基礎として計算されるため、土地評価額が
    高い地域では、この部分の影響が大きくなる場合があります。
    つまり、賃貸料相当額は、
    建物・広さ・土地
    という3つの要素を組み合わせて機械的に算定される仕組みです。
    そのため、
    実際の市場家賃とは異なる金額になることがあります。


    5.■ 具体的な計算イメージ

    具体例で見てみましょう。
     
    例えば、
    ・会社が貸主へ支払う実際の家賃(市場家賃):15万円
    ・建物評価額:1,000万円
    ・土地評価額:2,000万円
    ・床面積:60㎡
    とします。
     
    この場合、
    ① 建物部分
    1,000万円 × 0.2%
    = 約20,000円
     
    ② 面積部分
    12円 ×(60㎡ ÷ 3.3)
    = 約218円
     
    ③ 土地部分
    2,000万円 × 0.22%
    = 約44,000円
     
    これらを合計すると、
    賃貸料相当額は約64,200円となります。
     
    この例では、
    従業員から徴収する社宅使用料が、
    原則として約32,100円以上(賃貸料相当額の50%以上)である場合には、
    給与課税の有無を考える際の重要な目安となります。

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    なお、会社が貸主へ支払う実際の家賃が15万円であったとしても、税務上は市場家賃ではなく賃貸料相当額を基準として整理される点が特徴です。


    6.■ 市場家賃とは何が違うのか

    ここは、借上社宅制度を理解するうえで最も誤解されやすいポイントです。
     
    「賃貸料相当額」と聞くと、
    「実際の家賃とほぼ同じものではないか」
    と思われることがあります。
     
    しかし、この二つは目的そのものが異なります。
     
    市場家賃とは、
    実際の賃貸市場で貸主と借主の間で成立する家賃です。
     
    築年数や設備、駅からの距離、周辺環境、需要と供給など、さまざまな要素によって決まります。
     
    一方、賃貸料相当額は、
    税務上の基準として機械的に計算される金額です。
     
    建物や土地の固定資産税課税標準額、床面積などを基礎として算定される
    ため、市場の人気や空室状況などは直接反映されません。
     
    つまり、
    市場家賃は「市場価格」、賃貸料相当額は「税務上の評価額」
    という違いがあります。

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    この違いを理解していないと、
    「市場家賃の○%だから大丈夫」
    という誤った判断につながることがあります。
     
    借上社宅制度では、
    市場家賃ではなく、賃貸料相当額を基準として整理される
    という点を押さえておくことが重要です。
     
    [参考]「税務では問題ないと思っていたのに、社会保険では評価方法が
                    異なる」というケースもあるため、あわせて理解しておくことを 
                    おすすめします。
    ▶【第12回|税務はOKなのに社会保険でNG?】
    ⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方へ


    7.■ 市場家賃より低くなるケースも、高くなるケースもある

    実務では、
    賃貸料相当額と市場家賃は一致しないケースがほとんどです。
     
    一般的には、
    賃貸料相当額が市場家賃より低くなるケースが多く見られます。
     
    例えば、
     ・人気エリアで需要が高い住宅
     ・新築や築浅マンション
     ・設備が充実している物件
    では、
    市場家賃が高くなる一方で、賃貸料相当額は固定資産税課税標準額などを
    基礎として算定されるため、市場家賃との差が生じることがあります。
     
    しかし、反対に、
    賃貸料相当額が市場家賃を上回るケースもあります。
     
    これは例外的ではありますが、実務では十分に起こり得るものです。


    8.■ 賃貸料相当額が市場家賃を上回るケース

     例えば、次のようなケースです。
     ・建物の築年数が古く、市場家賃が低くなっている住宅
     ・都心部などで土地評価額が高い住宅
     ・床面積が広く、面積部分の影響が大きい住宅
     
    このような住宅では、
    建物の価値は低下して市場家賃が下がっていても、
    土地の評価額や面積の影響により、
    税務上の賃貸料相当額が市場家賃を上回る場合があります。
     
    例えば、
    「建物は築30年以上だが、駅前の一等地に建っているマンション」
    のようなケースでは、
     
    市場では築年数を理由に家賃が抑えられる一方、
    土地そのものの評価額は依然として高いことがあります。
     
    その結果、
    市場家賃より賃貸料相当額の方が高くなる
    という現象が生じます。
     
    もっとも、
    この逆転現象が起きたことだけで、
    直ちに給与課税となるわけではありません。

     
    実際には、
    従業員から徴収する社宅使用料や契約内容、制度設計なども踏まえながら
    整理されます。


    9.■ なぜこの逆転現象が起きるのか

    この理由を理解すると、
    賃貸料相当額の考え方がより分かりやすくなります。
     
    市場家賃は、
    「借りたい人がいくら支払うか」
    という市場原理によって決まります。
     
    そのため、
    築年数が古くなれば家賃は下がることが一般的です。
     
    一方、
    賃貸料相当額は、
    「税務上どの程度の価値として評価するか」
    という考え方で計算されます。
     
    つまり、
    市場で人気があるかどうかではなく、
    固定資産税課税標準額や床面積などの客観的な指標を用いて算定されます。
     
    このため、
    市場家賃と賃貸料相当額は、
    必ずしも同じ動きをするわけではありません。
     
    とくに土地部分は、
    土地評価額を基礎として計算されるため、
    立地価値の高い地域では影響が大きくなることがあります。


    10.■ 制度理解のうえで重要なポイント

    ここまで見てきたように、
    賃貸料相当額は、
    「建物を借りる価格」
    だけを評価しているわけではありません。
     
    建物だけでなく、
     ・住宅の広さ
     ・土地を利用する価値
    を含めて
    税務上評価する仕組みとなっています。
     
    そのため、
    建物が古くなって市場家賃が下がったとしても、
    土地評価額や床面積の影響によって、
    賃貸料相当額はそれほど下がらない場合があります。
     
    このことが、
    市場家賃と賃貸料相当額に差が生じる理由の一つです。
     
    制度の仕組みを理解するうえでは、
    「市場価格」と「税務上の評価額」は目的が異なる
    という点を押さえておくことが重要です。


    11.■ 実務で覚えておきたい一つの考え方

    実務では、次のように整理すると理解しやすくなります。
     
    市場家賃は「市場で決まる価格」、
    賃貸料相当額は「税務上の基準として計算される価格」である。

     
    この違いを理解しておくことで、
    市場家賃だけを基準として判断してしまう誤りを避けやすくなります。
     
    また、借上社宅制度では、
    会社が貸主へ支払う家賃、従業員から徴収する社宅使用料、
    そして賃貸料相当額は、それぞれ別の意味を持つ金額
    であることも
    理解しておきたいポイントです。

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    12.■ 実務で起きやすい誤解

    賃貸料相当額については、
    実務でも次のような誤解が見られることがあります。
     
    「市場家賃の○%なら問題ない」

    市場家賃は実際の賃貸市場で決まる価格ですが、
    税務上の判断は賃貸料相当額を基準として整理されます。
    そのため、市場家賃だけを基準に従業員負担額を決めると、
    税務上の考え方と一致しない場合があります。


    「会社が家賃を多く負担しているから問題ない」
     
    会社が貸主へ支払う家賃と、
    従業員から徴収する社宅使用料は別の考え方です。
    借上社宅制度では、会社が貸主へ支払う金額だけではなく、
    従業員負担額との関係も重要
    になります。


    「会社負担割合だけ見れば判断できる」
     
    「会社が○%負担」「従業員が○%負担」という割合だけでは、
    給与課税の取扱いを判断できるわけではありません。
    重要なのは、
    「賃貸料相当額に対して、従業員がどの程度負担しているか」
    という視点です。
    割合だけで制度設計を行うのではなく、
    賃貸料相当額との関係を確認することが大切です。


    13.■ 実務で整理しておきたいポイント

    借上社宅制度では、賃貸料相当額を一度計算して終わりではありません。
     
    制度を継続して運用するためには、
    次のような点もあわせて確認しておくことが重要です。
     ✅賃貸料相当額の算定根拠を整理できているか
     ✅従業員負担額がどのような考え方で設定されているか
     ✅社宅規程と運用内容に整合性があるか
     ✅給与控除など実際の運用が規程どおり行われているか
     
    借上社宅制度は、税務だけで成り立つ制度ではありません。
    社宅規程・契約内容・給与処理・運用実態などが相互に関係するため、
    制度全体として整理することが重要になります。
     
    なお、実際の税務上の取扱いは、住宅の内容や契約形態、社宅規程、
    運用実態などを踏まえて個別に判断されます。
     
     
    [参考]制度設計全体の考え方については、こちらの記事で詳しく
                   解説しています。
    ▶【第3回|借上社宅に社宅規程は必要?】
    🛠 制度設計を学びたい方へ
     
    [参考]実務では「会社負担額の上限」を設定している企業も多く
                   見られます。その場合の超過分の扱いを詳しく解説しています。
    ▶【Q&A|借上社宅で家賃が上限を超えた場合どうなるのか?】
    🛠 制度設計を学びたい方へ


    14.■ まとめ

    借上社宅制度では、「市場家賃」と「賃貸料相当額」は異なる考え方です。
     
    市場家賃は賃貸市場で決まる価格ですが、
    賃貸料相当額は税務上の基準として算定される評価額であり、
    両者は一致するとは限りません。
     
    また、一般の従業員向け借上社宅では、
    従業員から徴収する社宅使用料が、原則として賃貸料相当額の50%以上
    であるかどうかが、給与課税の取扱いを考える際の重要な目安
    となります。
     
    制度を適切に運用するためには、
     ✅賃貸料相当額を把握すること
     ✅従業員負担額との関係を整理すること
     ✅社宅規程や実際の運用との整合性を確認すること
    が重要です。
     
    借上社宅制度は、「会社がいくら家賃を負担するか」だけではなく、
    税務・社宅規程・契約内容・運用実態まで含めて考えることで、
    初めて制度全体を理解することができます。
     
    本記事が、賃貸料相当額の基本的な考え方や、制度設計・運用を整理する際の参考になれば幸いです。


    次回は、所得税とは別に確認しておきたい、
    社宅関連費用における消費税の基本構造を整理します。
    ▶【第14回|借上社宅と消費税の基本構造】


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    【ご留意事項】
    本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。

    実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。

    また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
    内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。


    ■ 本シリーズについて
    借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
    複数の論点が関係する制度です。
    そのため、同じように見えるケースでも、
    前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。

    本シリーズでは、
    制度理解や実務整理の参考となるよう、
    全体像をできるだけ分かりやすく整理して発信しています。

    現在は情報発信を中心としていますが、
    今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
    広げていければと考えています。

    なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
    コメント等でお寄せいただけますと、
    今後の発信の参考にさせていただきます。


    著者
    Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家

    借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
    情報整理・発信を行っています。

    毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
    借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。

    本noteでは、借上社宅制度に関する一般的な仕組みや運用上の考え方を
    情報整理を目的としてまとめています。
    借上社宅制度にはメリットがある一方で、
    運用方法や会社ごとの事情によって、税務・労務上の取り扱いが異なる場合があります。

    中小企業の制度理解や運用整理に役立つ視点で発信しています。
     


     
     
    20年超の人事労務キャリア。現在は3,000戸超の借上社宅制度の主担当として、規程運用から従業員対応まで実務の最前線に携わっています。社労士・宅建士・FP試験合格の知見を活かし、所得税法や社会保険が複雑に絡む社宅制度を研究中。人事担当者の視点で「現場で役立つ情報」を発信します。

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