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【二次創作小説】アイドルマスターTOURS ~それぞれのColor~(中編-4)

    鳥街


    前回





    「あ、あの、本当に無理なら仰って良いんですよ……?」

    背後から聞こえる声は少し震え、不安の色が伝わってくる。
    同時に心なしか、背中に添えられた手の抑える力も緩んだ。
    「大丈夫です……!力を、緩めないでください、、、!
    グギギギ……!はぁ、はぁ……!」
    全身、特に顔が熱い。
    踏ん張っているせいで頭に血が上っているのだろう。
    息だけは止めないようにしなくては……!

    「じゃあ5つ数えながら押しますよ?」
    「……!」
    私は呼吸をすることだけに意識を集中させ、
    声にならない声とともに弱弱しく頷いた。
    「では、1、2、3、4、5……」
    数に合わせて繰り返し背中を押されては緩められて、
    意識を自分の呼吸に集中させるあまり、
    カウントアップするその声が遠くなっていく気がした。

    私は機械が排熱するかのように息を吐きながら、
    後ろから背中を抑える力を緩める手をゆっくりと押し返し、
    ずるずると上体を起こしていった。

    上体を起こし終えると、
    清涼を脳に巡らせるようにもう一度大きく息を吸い込んで、
    束の間の休息を満喫した。
    まだ全身を動かしたわけではないのに、
    すでに少しだけ額に汗がにじんできている。

    (無理な柔軟体操はかえって逆効果よ!)

    心の中の咲季がうるさい。
    本人がいたら今のでも絶対に中止させていたことだろう。

    でも、かっこいいと言ってくれた春日さんの前だから、
    そして私のライブ映像を観てくれた二人の前だから。

    ……ちょっとだけ、かっこつけたいんだ。

    こういう時、あなたの軟体動物じみた身体が少し羨ましい。




    袖屋さんに第四体育館に案内される道中、
    第三体育館の前にたむろする春日 未来さんと伊吹 翼さんと顔合わせをした。

    軽い自己紹介だけを済ませるつもりが、
    レッスンが終わったら体育館を自由に使っても良いという言伝を
    MIXING PARADEのプロデューサーから預かっていたようで、
    何をして遊ぼうか、なんていう話を咲かせようとしていた。

    ……が、スタッフと共にレッスン用の鏡のセッティングの手伝いをしていた最上 静香さんが体育館の中から現れ、
    「だったらあなた達も早く手伝いなさ~い!」
    と、パフォーマンスさながらの声量で叫び、少しむくれていた。


    そのまま袖屋さんとVoトレーナー、ことね達と別れ、
    喧騒を背に一人で第四体育館に向かった。

    第四体育館は袖屋さんが事前に言っていたように、
    まるで剣道場の風体をした、二階のない長方形状の平屋だった。

    今日はレッスンで使うからか、
    即席の防音シートの壁が型ガラス越しにびっしりと張り巡らされているのが見える。
    外観が文字通りのブラックボックス。

    内側は恐らく鏡面の壁ができていることだろう。

    しかしここまでしているということは
    外装は古そうに見えても窓を閉め切っていても問題のない、
    空調設備は信頼できるものだと感じた。

    ……というか、
    あのプロデューサーのことだからそこまで考えてはいそうなものだし、
    余計な心配は無用か。
    本当、一体どれほどの人員が割かれているんだか。

    第四体育館の入り口に立つも、
    人の気配がしなかった。
    すっかり場の準備は整っているらしい。

    肺を雨季のしっとりとした空気で満たし、
    ゆっくりと長く息を吐いて、引き手に手を掛けた。

    いざ―!

    さほど力を入れずとも戸はレールの上をガラリと音を立てて走り、
    開け放たれた。
    するとそこには見渡す限りの鏡の世界が広がっていた。

    即席でもスタジオのそれと変わらず、
    ほぼ隙間なく敷き詰められた正面の鏡に私の姿が映っていた。

    同時に、ひんやりとした冷気を顔に感じ、
    急いで引き戸を閉めた。

    こんなに近代的な要素ばかりが目立つ中でも、
    下駄箱だけは使い古されてほんの少しすすけていたため、
    そのギャップに少し顔がほころぶ。

    まるで鏡の空間だけが切り取られて
    過去の世界にタイムスリップしてきたみたい。

    レッスン用のシューズに履き替え、
    板張りの床に上がり込み、
    空調機の稼働音だけが静かに鳴り響く中、
    鏡に向かって一人でポーズを決めようとしたその時―

    「月村さーん!本日はよろしくお願いしまーっす!!」

    勢いよく開かれた引き戸が戸当たりに衝突し、
    ばぁん!と大きな音を立てると共に、
    鏡の中の私も驚き目を見開いてズン……と鈍く揺れた。

    入り口で「わーっ!ごめんなさい~!!」と、
    患部を労わるかのように引き戸を撫でている彼女は―

    「……春日さん、そんなに力を込めて開けたら危ないですよ」

    すみません、すみません、
    と全開になった入り口で何度も頭を下げている。

    「そ、そうですよねぇ~……。
    早く月村さんとお話してみたくてつい……」
    「えっと……」

    どうしよう。
    多分印象の分岐路に立たされている気がする。
    さっきは挨拶しかしなかったから、
    彼女の中の私の像はまだ定まっていないはず。

    「私に会いたいという言葉は嬉しいのですが、
    場所をお借りしている立場ということは忘れないでくださいね」
    「……はっ、はいっ!すみませんでした!」

    勢いよく頭を下げ、彼女の髪留めも動きに合わせて大きく揺れた。
    すぐに顔を上げると屈託のない笑みを浮かべて
    「改めまして、本日はよろしくお願いします!」
    と、声高らかに挨拶してくれた。

    床に上がった彼女は、
    荷物の置き場は第三体育館では鏡壁の裏にしていたと教えてくれた。

    体育館……というか武道場を半分に隔てるように
    鏡壁で区切っているから、
    確かに残り半分は完全に空きスペースだ。

    鏡壁を押して裏のスペースに荷物を置いた後、
    まず彼女は今日の服装について言及してくれた。

    上はMIXING PARADEのロゴが入ったTシャツだが、
    下はライブで着る時と同様にスカート……ではなく、
    それぞれの所属している事務所、もとい学園のレッスンウェア。

    「本当にMIXINGごちゃまぜでライブをやってるんだな~って
    ワクワクしちゃいますよね!」

    彼女は軽やかにステップを踏んではターンしたり。
    本心からの喜びが一挙手一投足ダダ洩れだった。

    勝手に一人でよく話すし、よく笑う。
    ……入り口での忙しなさも含めて
    確かに佑芽と少し似ているかもしれない。

    春日さんはひとしきり鏡の前でポーズを取り終えると、
    鏡から私の方へとくるりと向き直って、そういえば、と口を開いた。

    「以前花海さんとお会いした時に
    月村さんのことをお聞きしたんですよ」
    「……何か言ってました?」

    鏡に映る私は顔色一つ変えていないが、
    内心は少しドキッとした。
    彼女は私に一歩近づいてにぱっと笑った。

    「『会ってからのお楽しみよ!』って!
    で、今会ってみて口数少なくて
    クールでかっこいいな~って思ってました!
    大人の余裕っていうのでしょうか、憧れるな~」

    彼女は照れた時の咲季のように身体をくねらせながら
    でへへ~と、独特な笑い声を出した。

    「そ、そうですか。人を見る目あると思いますよ?」

    顎に手を当て、頬を赤らめてにやけ顔になっている私が鏡に映る。
    加えて、褒められちゃった~、と春日さんの顔はさらにふやけた。

    ここまでの会話を振り返ってみて、裏表がなさそうで、話しやすい。
    ……この子にならほんの少しだけ、
    そうだな、まずは事務的な会話からでも
    こちらから話しかけてみてもいいかもしれない。

    気持ちを切り替えるように咳払いをして、
    試しに彼女の名前を呼んでみると、
    浮かれて天に昇りそうだった彼女の表情は正気の色を取り戻した。

    「最上さんと伊吹さんが来ませんね」
    「あっ、二人は『未来先生が見たい』とかなんとかで、
    午前と午後でメンバーを入れ替えようってお話を
    藤田さんと初星学園のトレーナーさんでしました!」

    言葉足らずで話が色々飛んでいる気がするけれど、つまり……?

    「えっと、つまり、
    午後はことねと春日さんがペアになるってことですね?」
    「はい!なので、
    月村さんの指導をしっかりと学ばせてください!」

    彼女の期待に満ちたキラキラと輝く眩しい視線とぶつかる。
    今最上さんと伊吹さんがこの場にいないってことは、
    私が二人を指導することはない、と。

    午後がことね&春日さんのペアで、
    指導対象が最上さんと伊吹さんまでは固定になるわけだ。

    三人とも同じ事務所なのだから
    『未来先生』を披露するのは別に後日でも良いのではないか、
    と頭を過ぎったが、
    トレーナーの見様見真似の指導しかできない私を気遣って
    指導するにしても最大三人になるように調整してくれたのだろう。

    ……いや、もしかしたら私の性格に配慮してかもしれない。
    きっとことねとVoトレーナーが考えてくれたに違いない。

    その仮定が正しかったら、
    私が指導する人数は午前も午後も二人にしてくれているはず。

    「だとすれば、こっちに来る生徒・・は
    283プロの二人の可能性が高いですね」
    「千早さんも来る可能性はありますよ?」
    「私も『初』という楽曲を教える自信はありますが、
    何人もの生徒を相手に教鞭を振るってきたトレーナーの方に
    軍配が上がります。
    ですので、恐らくトレーナー自らあちらに招くはずです」

    春日さんは感嘆の声を上げ、
    前のめりになってひと際強く目を輝かせる。

    「すごい!そこまで予想できるなんてすごいです!」
    「も、もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

    両手を腰に当て、得意顔になっている私が鏡に映る。
    ……実際は自分の性格から逆算したようなものだけど。

    そんなやり取りをしていたところに、
    引き戸の向こうに人影が現れた。

    春日さんとは違って律儀にノックして、
    ガラリと入ってきたのは私の予想通りの人物たちだった。

    「おはよーございまーす!今日はよろしくお願いしまーす!」
    「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします」

    文面はほぼ同じだけれども、
    挨拶にそれぞれの個性が出ていた。
    いや、挨拶の仕方・・か。
    八宮 めぐるさんは梅雨曇りをかき消すような満面の笑顔で手を振り、
    彼女の後ろに控えている風野 灯織かざの ひおりさんは深くお辞儀をしていた。

    「わっ、二人ともお揃いのTシャツにボトムスがレッスンウェアだ!
    灯織の言う通り、両方の上下の衣装持って来て正解だったね!」
    「念には念を入れただけだよ」

    八宮さんが風野さんに話しかけている間にも
    風野さんは粛々と床に上がる準備を進めていた。

    春日さんは私の隣から颯爽と二人の元へ駆け寄って
    元気よく挨拶を交わしていたけれども……。

    「あ、あの、春日さん、入り口で立ち話もアレなので、
    まずは二人とも上がってからにしませんか?」
    「はっ!そうですよね、うぅ~、すみません~」

    この子は思い立ったらすぐに行動に移すタイプなのだろう。
    全員に敬意があるから真っ先に挨拶しようと動いたのかもしれない。

    それをいつもなら最上さんあたりが抑止している感じかな。

    「あはっ!いいよいいよ!
    他所の子達と会うのは毎度私もとっても楽しみにしてるんだから!
    月村さんも気を配れる人って感じだね!」

    シューズの紐を結びながら俯いている八宮さんの表情は見えないが、
    変わらない笑みを浮かべていることだろう。

    春日さんのことも私のことも落とさず、
    意図を汲んでどちらも評価できるような人格の持ち主か。
    ……俗に言う「滅茶苦茶いい人」なのかもしれない。

    場の全員が同じ場所に立ち、
    改めて挨拶を交わした後に荷物を置きに行く時のことだった。

    「月村さん、
    みんなとの練習風景を記録に残したいからカメラ回してもいいかな?」
    「振り付けの見返しや反省を兼ねて、ではなく?」
    「そう!これもかけがえのない思い出だからね!」

    とても素敵な提案なのだけれど、
    万が一にでも私が暴発・・したことまで残ると思うと
    ちょっと怖かった。

    ここまでの私も他人をいつになく冷静に分析しているし、
    すでに初星学園にいる時の自分とは違う自分を演じている気がしてならない。

    でも、いつまでも逃げてはいられない。
    ちゃんと・・・・やればそんなものは杞憂に終わるはずだ。

    「……良い提案ですね。
    後日公開という形にすれば各事務所のプロデューサー達や
    ファンにも一定の需要がありそうですし、やってみましょうか」

    ……あれ?本当に大丈夫かな?

    八宮さんは感謝の言葉を述べ、喜面になって、
    携帯端末と三脚、予備のカメラだけを残して
    鏡の裏へと風野さんの分の荷物も一緒に持って姿を消した。

    その間に風野さんは手際良く撮影の準備を始めた。

    「随分と手慣れてますね~!」
    「はい、めぐるはいつもこうなので、
    付き合っている内に勝手に上達したものです。
    ……宣伝になっちゃいますが、283プロうちの事務所の
    公開練習もありますので……あ、いえ、やっぱりなんでもないです……」

    最後の方は恥ずかしそうにして声が上擦っていたけれども、
    八宮さんのことを話す時の風野さんの声は弾んでいた。

    友達のことを話す時は自分のことのように嬉しそうな印象を受けた。
    この場にはいない櫻木さんとも本当に仲良しなのだろう。

    八宮さんが私たちの後ろから「できたー?」と声を掛け、
    風野さんがこくりと頷いた。

    八宮さんがカメラの液晶画面を覗き込むと、
    無言で何かの操作を始めた。

    「めぐる、何をしてるの?」
    「え?今から記念にみんなの写真を1枚撮ろうと思って」

    さも当たり前のことのようにさらりと言い放った一言で
    背筋が強張る感じがした。

    「え!?みんなに自慢したいから後でわたしにもください!」

    春日さんの要求に、もっちろんだよ~!とぱちりとウィンクして
    舌を出す八宮さん。

    春日さんはダダダと床を蹴り上げ、
    皆さんも早く早く、とぴょんぴょんと飛び跳ねて
    移動を促してきた。

    「……なんだか、ほぼ初対面なのにずっと強引な感じですみません」

    風野さんがおずおずと申し訳なさそうに目を伏せがちで近寄って来る。
    八宮さんがやりたいことと、その気持ちはよく分かるから、
    謝ることではないのだけれども。
    とはいえ、これが他所のアイドル達との
    初めての撮影だと思うと緊張はぬぐいきれない。

    「いえ、これで親睦が深められるなら良いと思います」

    精一杯に捻り出したのがこの言葉だったが、
    最早願望に近かった。

    後で見返したときに良い思い出だったと言えるような、
    そんな願掛け。

    こんなやり取りも無情に
    八宮さんからのカメラ前集合の合図で押し進められた。



    あ、春日さんが真ん中で、灯織と月村さんの間に私が入るから空けといて~

    春日さん、手を挙げるポーズをしたら被っちゃうから別のポーズで!

    灯織と月村さん、両手を前で組むだけ?何かポーズ取ってもいいんだよ?

    ……青組!そんなに決まらないならもうポーズはいいから、笑って笑って~

    いくよ~?



    といった具合に撮ってくれたのだが、
    八宮さんは他のみんなと観た時のお楽しみ、
    と言ってその場では見せてくれなかった。

    でも、彼女の笑顔から察するに、
    悪い写真ではないようだ。

    ……撮影ボタンを押した直後の彼女の行動に私は驚いてしまったが・・・・・・・・・・。


    「それじゃあ思い出も一つできたし、早速始めましょうか~!
    改めまして、月村先生、春日先生、本日はよろしくお願いします!」
    「先生……!」

    普段そうは呼ばれないからだろう、
    春日さんは目を潤ませて喜びを噛みしめているようだった。

    「はい。もう一組の方にいるトレーナーと違って生徒の身ですが、
    こちらこそよろしくお願いします」
    「知ってるよ~?月村さんってすっごく歌が上手で、
    本当にクールさを前面に出してるよね!」
    「え!?あ、ありがとうございます……」

    あまりにも急なカミングアウトで顔が火照って心臓が早鐘を打ち始めた。
    まさか見られているとは思わなかった。
    そうなってくると『illuminationSTARS』のことをあまり知らない
    私の方が申し訳なくなって来た。

    「それでそれでね~、灯織ってば
    おめめシワシワになるかってくらい
    月村さんのライブ映像に魅入ってて語彙が―」
    「め、めぐる、余計なこと言わなくていいから!
    あ、と、月村さん、春日さんも本日はよろしくお願いしますっ!」

    風野さんの陶器のような白い顔も
    かっと上気していた。
    ……というか二人でライブ観賞するくらい仲が良い……
    いやいや、二人ともステージ上の私のことを知っているんだ。

    彼女たちの中での私への期待は大きそうだ。
    プレッシャーが余計強くなった気がする。

    「……では、まずは柔軟体操ですね。
    私は誰とでもいいですよ?」
    「あ!だったらわたし、八宮さんとやりたいです!」

    ノータイムで春日さんが八宮さんを指名した。
    私は警戒されているのか、と思ったけれども、
    この子に限ってそれはないはず。

    「おっいいね~未来先生お願いします!」
    「先生~でへへ~」

    先生呼びでまたもや春日さんは昇天しかけている。

    「春日さん、午後は同僚たちからも先生って呼ばれると思うので、
    早いところ慣れて下さいね」
    「はっ!そうでした!春日未来、慣れます!」

    こんな感じ?
    私はちゃんと仕切れているのだろうか。
    だんだん自分の自然体が分からなくなってきた。

    「それじゃあ、八宮さん、あっちでマット敷いてやりましょう!」

    八宮さんに呼びかける春日さんの目線が低い気がした。
    もしかして選んだ基準って……胸?まさかね。

    「……二人の方から離れてくれましたし、
    私たちもこの場にマットを用意して始めましょうか」

    部屋の隅に積み上げられたマットを二人で運んでいるのを
    ぼんやりと眺めていると、
    風野さんに後ろから話しかけられたので振り返る。

    顔の熱はすっかり引いたようで、
    再び透き通るような白い肌が目に付く。

    ハーフアップにまとめ上げられた艶のある黒髪も相まって
    白雪姫を連想させる風貌。

    今日ここに来た時からずっと丁寧な言葉遣いで、
    大人びていて落ち着いた印象だ。

    でも、私よりも遥かに小柄で、
    そんな大人びた容姿と印象とのギャップが……って、
    春日さんが胸の大きさで八宮さんを選んだ疑惑のせいで
    風野さんをまじまじと観察してしまった。

    「あの、そんなに見つめられると反応に困ります……。
    どうかしましたか?」
    「す、すみません。何でもないです」

    私の馬鹿!
    何でもある人の反応だよ。
    せめて「赤みが引きましたね」くらい言えばよかった。
    印象が悪くならないといいけれど。

    風野さんは小さく首を傾げ、そうですか?と呟く。

    しかし怪訝そうな顔はしていない。
    これはセーフだろうか?


    それから、風野さんとペアストレッチを始めたが、
    彼女の身体は程よい柔らかさで、何より、軽かった。

    しかも軽さの質が不健康の方じゃないことは当然ながら、
    作っている・・・・・軽さではなかった。

    ごくごく健康的で、アイドルとして自然体の軽さ。

    恐らく努力を努力と言わず、また感じず、
    成果を他人にひけらかさない人なのだろう。

    ……なんというか、
    こういう裏側も含めて憧れの的になる人の
    典型例な気がした。

    しかし私はというと、
    どうしても変に見栄を張ってしまう。

    その結果が冒頭のやり取りなわけだが、
    それもまた私を私たらしめる要素であり自然体なのだと、
    風野さんとのストレッチを通して強く意識したのだった。




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