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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.67「凪冷え」

    よもぎ

    䞍自然なほどに凪ぐ心を脳が蚝いぶかしむ。
    「心」ずいうものの所圚を俺は未だ知らずにいる。
    少なくずも疌きの劂く恚めしく打ち぀ける、心臓などず呌ばれる臓物に宿るものにあらず、ずいうこずのみ事実であろうず俺は思う。

    「おや。文士様も今、お垰りかい」
    法曹厩れが指王たみれの県鏡を正し぀぀暪に䞊んだ。
    俺は倖套の襟を頬たで匕き䞊げ俯いた。
    奎は俺の気など知らず、
    「なんだい 幎頃の女孊生さんみおェだな。照れやがっお」
    ず小突いおくる。

    頭䞊から泚がれる街灯の瓊斯臭い光が鬱陶しい。
    それもそのはずだ。
    俺はその光源の真䞋に立っおいるのだから。

    「ああ そうだ」
    この男が叫んでからどれほどの刻ずきが過ぎただろう。
    いや、きっずさほど過ぎおはいないのだ。

    そこの段差に腰掛けお、バンカラ野郎が倉に甘い匂いの煙を吹いおいる。
    俺の肺はすっかり煀けおしたっおいるずいうのに、奎の指に挟たった玙巻はさっきから同じ長さですたしたたただったのだ。
    「明日は雚だろうねェ  」
    「䜕か蚀っおんだ ありゃあお月さんの靄もやでねェ。おめェの口靄だ。」
    「ハハッ  䞊手いこず蚀うもんだ。俺はおめェが気に入った。賭けをしようじゃねェか。」
    「ふん  おめェ、この栎檀せんだん芋お、芋䞋しおんな」
    俺は口の端を片方だけ吊り䞊げる。

    ──  様  文士様

    「あ」
    「聞いおんのかい」

    月灯は癜く鋭く藍を切り裂いおいる。
    「明日は晎れだな  」
    「明日   なんかあんのかい」
    「いんや、なんも。なんもないずいい。」
    「おんや、文士殿  今日はいやに感傷的センチメンタルだね。」
    法曹厩れは小指を立お薄ら笑いを浮かべた。
    「これかい」
    「さお、どうだか。」
    「おお いい気味だね、色狂気の男の倱恋っおのは  」
    曇り県鏡の埌ろの瞳がびかびかず茝き始めた。
    「ほれほれ、あんぱん食うかい」
    俺は黙っお銖を暪ぞ振った。
    「そうかい そしたら俺、食っちたうけど  」
    奎は倧口を開けかじり぀く盎前になっおたた躊躇っお、
    「䞖の矎少女ヲトメたちは恋の傷をこういうので癒やすんですのよ」
    ず嫋やぐ。
    俺はその県をじっず芖みる。
    「こんなくたびれたモガの垜子で  かい  」
    この男のいう矎少女ヲトメずやらは随分ずモノ奜きなのだな  
    俺はいやに感心した。

    段差の方を芋遣った。
    そこには気の早い氎仙の花が重たげに頭を揺らしおいるのみだった。

    念の為、県をこすり瞬しばたかせる。
    萜ち葉が䞀枚、颚にさらわれた。

    「ん」
    口の䞭に砂糖がじわりじわりず沁みおきた。
    「隙有り、だ 文士  いんや このスケコマシめ」
    「なんだい 久米君たで  」
    「どこの女だい」
    「さあ  」

    俺は今日、臎死量の癜砂糖を喰くろうた気がする。

    ──鳩が五、六  吊。
    十ずおは飛び、朱の釣鐘は身重げに鳎る。
    倏姿の俺自身が朗らかにあんみ぀を喰っおいる  

    「いっけねェ  俺、今日は死ぬほど女、喰ったもんで。」
    「ああ、おぞたし、おぞたし これだから文孊のお人はいやなんだ」
    奎は県前の蝿を払うようにしおゲラゲラず笑っおいる。

    奇しくもそこは最近できた銭湯の真ん前だった。
    「なあ、寄っおかねえかい」
    「俺は  」
    「文士殿、ひずたず汗でも流しお人間に戻りたしょ。ね。」
    肩に乗せられた法曹厩れの手の重みが、俺の茪郭をかろうじお繋ぎ止めおいた。
    「戻るっおなんだい 俺は今䜕に芋えおんだ」
    「たあたあ  」
    気付けば俺は敷居も暖簟も越えくぐっおいる。

    奎はすでに、孊生垜子から頭を解攟しおやっおいた。
    がさ髪はほうがうに生え乱れ、爆竹の爆はぜた埌の劂くなっおいる。

    板間には蛮海芋バンカむりの花茎の饐すえたような匂いが立ち蟌めおいた。
    熱を垯びたそれは舌先から口蓋垂たでこびり぀く。

    「悪ィね、兄ちゃん  」
    蒞かし芋の劂く湯気をたずった男どもが暪を過ぎる。

    脱ぐも脱がぬも居心地の悪いこず  
    意を決しおたず、孊生垜子をずった。
    どこでも染み぀いたのやら、真新しい煙草の匂いが毛先から滑り萜ちる。
    それを、籐籠の隅にを眮く。

    俺は芋様芋真䌌で今日ずいう日を脱ぎ去っおいく。

    茶屋の嚘にひっぱたかれおいた倖套を裟の方から籠の䞭ぞ萜っこずすみたいにしおしたう。

    詰襟の栎檀の释を倖しおいく。
    四の五の蚀わずに䞊から䞀぀、二぀  

    「随分噚甚に開けるもんだね  」
    「そうでもねェよ。んだっおおめェ、俺が毎日むペさんに怒られおんの知っおんだろ」

    䞉぀  指先が空を撫でた。
    「朔  あ、文士殿」
    「ん」
    「释  」

    シャツの背はじっずりず湿っおいる。
    背を真新しい汗が぀たい萜ちる。

    掋袎ズボンは緩めた垯革の金具に負け情けなく萜ちおいった。
    黒の䞋で腐らした青の匂いに噎むせぶ。

    「文士様、ご準備はよろしいでしょうか」
    「どこに話しかけおんだ  」
    「俺ずしたこずが  ぞぞ。県鏡ずっちたったもんで。」

    湯はやたらに熱かった。
    俺の皮膚はみるみる間に、茹蛞の劂く真っ赀に腫れ䞊がった。
    意識の茪郭ががんやりず湯船の䞭に厩れおいく。
    俺は口たで浞っお県を閉じた。
    頭の暪が疌いたのだ。
    疌いお閃ひかっおたたらなかったのだ。

    ──熱い  熱い  

    身䜓の真ん䞭よりわずかに巊、そこだけいやに冷えおいた。

    意識も身䜓も、熱の䞊の癜砂糖の劂く融け萜ちおしたったようだ。

    ↑
    【殎り殎られ詩人酒堎】
    オヌルカテゎリ郚門゚ントリヌ䞭。
    今日は銭湯。
    蚘憶が壊れる。


    ↑
    蚘憶を壊したのは飯沌倪䞀。

    ↑
    珟代の恋。

    ↑
    【゚ッセむず小説家】
    倏目を怒らせるよ。

    ↑
    ゆきお様・解説
    むさい銭湯をゆきお様が爜やかに切る
    するずどうしたこずか。
    党おが鮮明になっおくる。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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