メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

道なぞり──『氎蟺の぀぀じ』ep.47

    よもぎ

    僕は、ある小説家の過ごした十二月䞉十䞀日の蚘録を読んでいる。
    それによれば圌は昌の十二時に起き、朝食兌昌食を食べたずいう。
    もっずも、圌自身の食べたものは明かされおいないのだけれども。
    僕は圌より六時間早く起きお、朝食を食べおいる。
    顔だっおもう掗い終えおいる。

    今日は十二月䞉十䞀日。
    倧晊日だ。

    氎仙の花はいよいよ頭だけになっおいた。
    幎を越せるか吊か──今倜が峠、ずいったずころ。
    僕は花瓶の氎を新しくしお、飲みかけのコヌヒヌの隣に眮いた。

    文字から目を離した途端、ひどく眠くなっおきた。
    かろうじお栞を挟み、本を閉じる。
    僕はベッドに凭よりかかり、狭たっおいく芖界に身を委ねた。

    「あ、眠ったな」
    久しぶりの感芚だった。
    こういう時、僕は決たっお倢を芋ない。

    目を芚たすず、ちょうど十二時を回ったずころだった。
    あの小説家が起き出しおきお、朝食兌昌食を食べた時間だ。
    朝食を枈たせおいる僕はここで昌食を取りたいずころだけれども、いかんせん眠っおいただけだからちっずもお腹が空かなかった。
    結局は僕も圌ず同じく、朝食兌昌食ずしお䞀日の前半の食事を終えたのだった。

    栞を手立おに本を開く。
    圌の家にはこの埌、二時を回るほんの手前に知り合いが蚪ねおくるこずになっおいる。
    そしお二人は電車に乗っお、お墓参りに向かうのだ。
    なんの予定もない僕は、がんやり花を眺めた。

    ──仙人ですら霞は食べる。
    人間の僕はもちろん霞では生きおいけない。
    しかしこの郚屋には今、霞はおろかたずもな食料がひず぀もない。
    冷蔵庫はものの芋事に空っぜで、冷媒はただただ空しくなった空掞を冷やしおいる。
    効かせすぎた暖房のせいか、冷蔵庫を開けるず霞のようなものが郚屋に垂れ蟌める。

    近所のスヌパヌは䞉が日、䌑業するずいう。
    ずもすれば今日䞭に食糧を確保しなければ、霞でも霞らしきものでも生きられない僕は飢え死ぬかも知れない。
    そんなこずにでもなれば、時空が歪んであの小説家が僕の墓参りに来おしたう。
    ずいうよくわからない劄想でなんずか自分にコヌトを着せお、郚屋から倖ぞず連れ出した。

    アパヌトを出お角を曲がり、い぀もの猛犬こずチワワに吠えられた。

    い぀もは閑散ずしおいる蕎麊屋の前に長い列ができおいる。
    「倧晊日だね。」
    すれ違う人が感慚深げに囁いた。
    「食べおこっか。」
    こうしお列は無尜蔵に䌞びおいく。
    僕は列に逆らっお歩き続けた。

    銎染みの叀本屋の前に来た。
    扉には「定䌑日」の札が掛けられおいる。
    札に隠れるようにしお貌り玙がしおあった。
    「よいお幎を」
    文字は心地よくかすれ、猫の柔毛にこげのようで、僕は思わず觊れそうになった。

    空はいかにも冬らしい、鋭角の青さで窓硝子を突き刺しおいる。
    僕は癖で、店の窓から䞭を芗き蟌んだ。
    人の気配はおろか、猫の気配すらない。

    窓蟺には、王人もんどさんお気に入りのスノり・ドヌムが今もただ食られおいた。
    硝子匵りの球䜓の街は盞倉わらず癜く雪に芆われおいる。
    スノり・ドヌムの隣には鏡逅が鎮座しおいる。
    僕は些いささか違和感を芚えた。

    鏡逅のおっぺんに乗っおいたのが真っ赀なりんご──それも぀い最近たでもみの朚を圩っおいたオヌナメントだったからだろうか。
    それからもうひず぀。
    そもそもが、スノり・ドヌムの䞭の日付が明らかに過去を思い出させる。

    いかにも王人さんらしい  ず思いかけたずころで、僕の思考は立ち止たった。

    「らしい」ずは、なんなのだろう。

    僕は王人さんの䜕を知っおいるのだろう。
    この店の経営者の䞀人で、ミルクティヌずスルメむカの組み合わせに意を唱えない人。
    でもそれずこれずは「らしい」なんおニアリヌむコヌルで繋げられるのか

    季節だっおそうだ。
    東京で生たれ、東京で育った僕にずっお冬はカラカラずした晎空の印象が匷い。
    だから僕はさっき、この青い空を眺めお「冬らしい」ず蚀った。

    けれど今朝、電話越しのゆうかの声は沈んでいた。
    「冬は綺麗で、それでいお寂しいよ。」
    新期で育った圌女に取っお冬は癜くお䜎い空ず高く積もる雪に芆われた季節なのだろう。

    僕が知っおいる青い冬、圌女が過ごす癜い冬。
    そのどちらもが冬で、たた別の冬もあるのかもしれない。

    でも、本圓のずころはわからない。
    そう、らしさなんお。

    モノやコトやヒトを断片にずらえお、そこに蚀葉を圓おがっおいく。
    極めお独りよがりなものかもしれない。

    だずすればなぜ人は「自分らしさ」を求めるの
    僕は僕らしさがわからない。

    「らしさ」そのものがわからない。

    蚀葉狩りの自家䞭毒みたいに僕は倧晊日らしくなさそうな顔で、灯りのない店の䞭を芋぀めおいた。

    そしお、僕はたた歩き始めた。
    䞀歩だけ間違えお、アパヌトぞ向かいかけた足をスヌパヌぞず向け盎す。

    終わりの日の昌䞋がり、今日ずいう日はただ続いおいくのだった。

    ↑
    【創䜜倧賞2026】
    恋愛小説郚門゚ントリヌ䞭。
    貝原瑞暹の幎末の過ごし方。


    ↑
    倧掃陀をした貝原瑞暹。

    ↑
    倧正時代、こちらも幎末です。
    䞊原朔也は蟟蜍を芋぀けたす。

    ↑
    習䜜二本です。

    ↑
    ゆきお様・解説
    裏も深も読んでくださった。
    ただあるかしら。
    そうだ、瑞暹が読んでいた本ね。
    わかったらお声がけください。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

    あなたぞのおすすめ