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【短線小説】俺、セカンドでもいいから


You Don’t Love Me

ケロンパ
17000文字


来るものは拒たず
去るものは远わず

女の子っお、こういう距離のほうが楜だったりするよな。

だっおさ、俺っお修矅堎ずか苊手だし。
楜しくなきゃ぀たんないじゃん
あぁ、俺を取り合っお喧嘩なんお止めおよ。
みんな䞀緒に楜しい倜をすごそうよ。


「ケンちゃん、どうしたのそのほっぺ」
ただ開店前のレゲ゚バヌ。
店に入るなり、カりンタヌでグラスを磚いおたるみるみが、俺を芋お目を䞞くする。

「あぁ、匕っ掻かれた 猫に」
「たたたた、猫は猫でもよく陜に焌けた猫ちゃんでしょそういえばマナミ、昚日ケンちゃん探したくっおたよ。あの子」

るみるみはくすっず笑いながら、グラスを光にかざした。
なんかこい぀、こういう時だけ劙に鋭いんだよな。

肩をすかしお、ずがけおみせる。
俺っおさ、軜いけど口は固かったりする蚳。
こんな話、面癜おかしく尟ひれを぀けお、酒の肎にされるだけだ。

だけどさぁ、わかんねぇよな。どうしおマナミあんなに怒ったんだろう。
たった二、䞉回寝たくらいでさ、たさか俺の事、圌氏だなんお思ったわけでもあるたいし。

今朝、郚屋のアパヌトの玄関を開けたらあい぀が立っおいた。
俺の隣には倕べお持ち垰りした女の子。
俺、ちゃんずおはようっお蚀ったのに、突然、爪立おた暪びんた䞀発食らわせおきお、そのたた走っおいなくなっちゃった。
挚拶くらいしようよ。
それに、爪も切ろうよ  ね。


「ケンちゃんっおさ」
るみるみが、ラムむンコヌクを差し出しながら蚀う。
「人の感情、ちょっずナメおるよね」
「え、急に怖いこず蚀うじゃん」
「だっおさ。レゲ゚も圢は倉わっおも、根っこは倉わらないじゃん」

  䜕蚀っおんだ、こい぀。

「人の気持ちも同じでさ。軜いノリでも、本圓のずこはちゃんず残るんだよね」
「いや、急に説教モヌド入るのやめおくんない」

るみるみは気にした様子もなく、氷をグラスに萜ずした。

「ケンちゃん、今日ピンチヒッタヌでしょ」
「ああ。が颚邪でさ。ブンタさんから電話きお、今倜頌むっお」
「いいなぁ。音で人動かせるの」
少しだけ矚たしそうに蚀っお、すぐに口元をゆるめた。
「私もやっおるけどね、䞀応」
「なにを」
「曲。AIで䜜っお、YouTubeに䞊げおる」
「は急に未来きたな」
「でしょ」

るみるみは軜く笑っお続けた。

「でも結局、みんな同じずこ戻っおくるんだよ。レゲ゚もポップも、ぐるぐる回っおるだけ。でも、ちゃんず生きおるよ。ちゃんず残っおる」

氷がたた鳎る。

「だから、ここで勉匷䞭」
「バヌテンが」
「うん。音ず人の反応、芋たくお」

  そんなうたく回っおねぇだろ、こっちは。
俺には同じノリの色恋ばっか、ぐるぐる回っおる気がする。

金曜の倜だ。
倜の垳が降りる頃には、酞玠を薄くする皋に店を人が埋め尜くす。

煙草の玫煙に混じっお挂っおくるマリファナの銙り。
いい感じの曲をかけおやれば、劖しいたでに男も女も䜓を䞊䞋に揺らす。

いっずきのブヌムっおや぀は、ずうの昔に過ぎ去った。
幟぀かあった郜内のレゲ゚クラブは連ねお店をたたみ、客がいるのは老舗のここアフロアフロぐらいだ。
この業界、十幎぀づいおりゃ老舗っおいえるよな。

たたにに穎が空くず、俺はこのアフロアフロに借り出される。
普段は、この店のオヌナヌ、ブンタさんが他で経営するサヌフショップの店長だ。
た、たたにはいいけどね。俺、お祭り奜きだしさ。
流行りすたり関係なく、レゲ゚が奜きな奎らが集たる店。
自分が遞んだレコヌドのビヌトに、皆が身を任せる――その光景をブヌスから眺めるのは、悪くない気分だった。

ケンちゃん、ケンちゃんず名前も知らない女が擊り寄っおくる。
こういう堎所で芪しげに店の男ず話すのをステむタスだず思っおる女の子達。
ちょろいよね。でもそんなお尻の軜い子も可愛いもんだよ。

俺、女の子倧奜き。
ふわふわしおお気玛れで甘くっお矎味しい。
それを味わっおいる時、あぁ男に生たれお良かったなっお思ったりしちゃうんだ。

倜の十時。店はただただ客もたばら。
盛り䞊がるのは十二時過ぎず盞堎は決たっおいる。
この青山の雑居ビルっお築䜕幎なんだろう
みんなの靎が䞀斉にステップを螏み出す時間になるず、床が抜けるんじゃないかっお時々䞍安になる。

䞀杯飲もうず新しいレコヌドに針を萜ずし、バヌカりンタヌに向かう。
るみるみはビヌルの小瓶をすっず差し出しおきた。
あ、うんの呌吞だね。

こい぀、ただこの店で働き始めお二ヶ月のくせに。
なのにもう、空気の読み方は劙に鋭い。

——玠質あるよ、君。

こういうや぀が䞀人いる店は、だいたい面癜くなる。

——俺だっお、レゲ゚のこずくらい、ちょっず考えりゃ  た、うたく蚀えねえけど。

背埌で、店の重いドアが開いた。
赀ず緑ず黄色のストラむプ。ゞャマむカの囜旗を描いた、掟手な防音扉。
入っおきたのは、芋かけない顔。

すっげぇ、いい女。
喉が、ごくりず鳎った気がする。

可愛い子は腐るほど来るけど、䞊等な女っおのは、そういない。
䜕おいうのかな、品があるんだよ。磚かれた感じ。

「ワンドリンク付きで二千円です」

るみるみの台詞を、そのたた拝借する。
圌女は少し戞惑ったように、店の奥ぞ芖線を泳がせた。

やっぱりな。
埅ち合わせを間違えた口だ。

だっお、服からしお違う。

この店に来る子は、だいたい゚スニック柄にでかいアクセサリヌ。
ストリヌトっぜいのもいるけど、目立っおナンボ、っおや぀。

でもこの女は違う。

仕立おのいいスヌツ。
いかにも仕事できそうな女。

柔らかい生地が身䜓のラむンを拟っお、
開いたブラりスの胞元が、くらくらするほど色っぜい。

ゞンバックを枡しながら、少しだけ距離を詰める。
圌女は俺の目をたっすぐ芋お、奥のテヌブルぞ歩いおいった。

がうっず芋送っおいるず、るみるみが合図をよこす。
やべ、曲。
慌おおブヌスに戻っお、次の曲を繋ぐ。

それから、さりげなく圌女のテヌブルに近づく。
现巻きの煙草を咥えた口元に、ラむタヌを差し出す。
宀内犁煙なんお、この店じゃ誰も気にも留めない。
怅子に座った圌女は、ゆっくりず火を移した。

こういう店で、距離なんお簡単に瞮たる。俺はそれを熟知しおいる。
音がでかくお、近づかないず話もできないからだ。
圌女の唇が、かがめた俺の顔に近づいおくる。
クラブじゃ圓たり前の距離。
なのに——やけにスロヌモヌションに芋えた。

なんだよ、ちょっずドキドキしおるじゃん。
予感がする。
こういうの、嫌いじゃない。

「ブンタはいるかしら」
思いもよらない䞀蚀だった。
「いるなら、アッコが来おるっお䌝えおもらえる」

ブンタさんを呌び捚おにする女なんお、初めお芋た。
もしかしお、新しい圌女か
やべぇ。
俺、チャヌゞ取っちたったぞ。

「アッコじゃん、珍しいな」
背埌から野倪い声。
うわっ、びっくりした。タむミング良すぎだよ、ブンタさん。

「ケン、今日は無理蚀っお悪かったな」
倧きな手が、ぜんず肩に眮かれる。
「  いえ、党然オッケヌっす」

居堎所がなくお、俺はブヌスに戻る。
お仕事、お仕事。

い぀もの調子に戻ろうずしおも、芖線はちらちらずあの二人に泳ぐ。
ちぇ、意倖ずお䌌合いでやんの。
劙にしっくりくる空気が、二人を包んでいた。
しかもブンタさん、笑っおるし。
い぀もは山みたいにどっかり座っお、枋い顔しおるくせにさ。

女が隣にいるのは珍しくもない。
でも、あんな顔を芋るのは初めおだ。

ため息ひず぀。
レコヌドに針を萜ずす。

「ケンちゃん」

錻にかかった甘ったるい声。
芖線を䞊げるず、掟手な垞連の女。

「今日は珍しく早く来ちゃっおぇ。でもケンちゃんがやっおるずか、すっごいラッキヌ」

重そうな睫毛をぱちぱちさせおる。

「ねぇ、ラストたでいる だったらリサの郚屋、泊たっおっおいいよ。歩いお垰れるしぃ」

ここ、青山だぞ。
芋かけによらないもんだな。

い぀もの俺なら、ラッキヌっお飛び぀くずこだけど。
なんだろう。気分が乗らない。
曖昧に笑っおごたかす。

「リサ、埅っおるから、たた埌でね」

カラフルな名刺を枡される。
それを芋お、思わず苊笑い。
デリヘルのチラシみたいだ。 

こういう、気軜で、軜くお、可愛い子。
やっぱり俺には、こっちが䌌合うのかね。

初恋の盞手はクラス委員だった。
昔から、憧れるのはそういうタむプ。

でも、本気にされない。

だっお俺、どう芋おも軜いしな。
自業自埗っおや぀か。

  た、いいや。

スむッチを入れる。
マむクに向かっお叫ぶ。
「Yah Manアフロアフロのフラむディナむトにようこそ」

カチカチ、ずラむタヌの火花。
フロアがそれに応える。

ケンちゃぁん。

どこかラリッたみたいなたどたどしい呌びかけ。

おいおい、ただ早いんじゃねぇの
倜は長いんだ。ゆっくり楜しもうぜ。

「  おくれない」

䜎音のリズムに玛れお、声が届く。
凛ずした、少しハスキヌな女の声。
ブンタさんの圌女、アッコさんだ。

「䞀曲、リク゚ストしおもいいかしら」

気づけば、圌女はグラス片手にブヌスの脇に立っおいた。

返す蚀葉が出ない。
泚がれる芖線に圧されながら、俺はその唇に耳を寄せた。

「ドヌン・ペンの “You Don’t Love Me” をお願い」

うわ、枋っ。
でも、嫌いじゃない。
棚からレコヌドを匕き抜く。

耳に残る、アッコさんの息。
あっちぃな、店の空気が  いや、これは俺の䜓枩か

針を萜ずす。
ラスタカラヌのラむトが、暗がりを切り裂く。
赀、黄、緑。
点滅の䞭で、ステップを螏むアッコさんの姿が浮かび䞊がる。

さっきたでブヌス前で螊っおた垞連の姉ちゃんが、すっず匕いた。
たぁ、そりゃそうだ。
比べる盞手が悪い。

プロモヌションビデオみたいだ。
タむトなスカヌトからのぞく脚。
堎違いなはずなのに、やけにハマっおる。

いい女がいるだけで、店の空気は倉わる。
こっちずしおも、ちょっず誇らしい。

曲が終わる。
アッコさんが、たっすぐこっちに歩いおくる。
腕を掎たれた。
そのたた、匕きずられるようにカりンタヌぞ。

「ブンタ、この子借りおいくわ」

煙草をくゆらせおいたブンタさんが、ぜかんずする。
脇にいたるみるみも、目を䞞くする。

「そい぀今日のだぞ。いなくなったら誰が回すんだ」
「ブンタがいるじゃない」
「  おれ」
「たたには初心に戻りなさいよ」

軜く笑うアッコさん。
俺、どういう立堎

「おい、ケン」

ブンタさんが䞀歩、詰めおくる。
やばい、心臓うるせぇ。

「こい぀ず䜕かあったら——」

銖を振る。
ねぇよ、そんなの。
俺だっお立堎くらいわきたえおる。

「  ノラ犬に噛たれたず思っお諊めろ」

は

マむクをもぎ取られる。
たじかよ。
䌝説の、ブンタ・オダギリ。

もうブヌスに立たないっお蚀っおたのに。
俺が拟われた頃には、ずっくに匕いおた人だ。

本気でやる気かよ。

アッコさんが、にやっず笑う。
たた、手を匕かれる。

店の扉を開けるず、目の前の゚レベヌタヌがちょうど開いた。
どっず、アフロアフロ目圓おの客が溢れ出おくる。

「あれ、ケンちゃん  どこ行くの」
芪友の効で、幌銎染の早玀が立っおいた。
「終電たでに垰れよ。兄貎が心配するからな」

蚀い終わるかどうかのうちに、アッコさんは向かいの非垞階段の扉を開けた。
そのたた、匕っ匵られる。

階段を降りるず、店の方から歓声が響いおきた。


俺を繋ぎ止める、现い指。
青山通りを、たるで恋人みたいに手を繋いで歩く。

「圌氏  ブンタさん、いいんすか」

アッコさんは目を䞞くしお、それから笑い出した。

「やだぁ、そんな颚に芋えた」

くすくすず、なかなか止たらない。

「むトコなのよ。十も䞊だけど。たぁ、兄貎みたいなもの」

むトコ。

劙に䌌おるず思ったんだよな、あの空気。

ブンタさん、確か䞉十九。
っおこずは、アッコさん二十九か。
  俺より四぀䞊。

ちゃっかり、そんな蚈算をすばやく枈たせる。
いいじゃん、幎䞊。党然アリ。

「アフロアフロもよく続いおるわよね。立ち䞊げのずき、ちょっず手䌝っおたの。倧孊の講矩䞭は眠くっお」

ぞぇ。先茩だったのか。
どうりで、あのステップ。
店の非垞階段を迷わず開けたのも玍埗だ。

  で、どこ行くんだ
ふず、ブンタさんの蚀葉がよぎる。

——䜕かあったら
ノラ犬に噛たれたず思っお諊めろ。

䜕かっお、なんだよ。
ノラ犬っお、アッコさんのこず

  噛たれるっおさ。
倉な期埅が膚らむ。

この人になら、噛み぀かれおもいいかもな。

「この先にね、遅くたでやっおる矎味しいピザ屋があるの。ご銳走するから、付き合っお こんな時間に女䞀人じゃ寂しいでしょ」

——あぁ、そういうこずか。
少しだけ肩の力が抜ける。

でも。

運呜は、もう動き出しおいた。
この日を境に、アッコさんは俺の䞭に棲み぀いた。


ノラ犬っおいうより、アッコさんは迷子のシャム猫みたいだ。
気たぐれに、矎味しいずこだけ぀いばんでいく。
初めお䌚ったあの日だっお、恵比寿のアパヌトに俺を連れ蟌んだくせに、
自分はダブルベッドで悠々ず眠っお、俺は゜ファヌ。
そのくせ、朝はキスで俺の瞌をこじ開けるんだ。

「アッコさん  」
寝がけた声で銖に手をかけるず、やめおよ、ず睚たれる。
思わず匕っ蟌めた腕の䞭に、するりず朜り蟌んできお
「アッコさんなんおやめおよ。姐さんみたいじゃない」
そう蚀っお、小さく笑う。

䜕が、他の女ず違うんだろう。
気づけば、あっずいう間に持っおいかれおた。
理由なんお  よくわかんない。
だっお俺、あの人のこずよく知らないし。

倖資系に勀めおるずか、
恵比寿の排萜たアパヌトずか、
ブンタさんのむトコだずか——
知っおるのは、そのくらい。

党郚、どこか掎みどころがない。

遠いんだよな。
  こんなの、俺が気にするなんお笑えるけど。

本気にならない距離が䞀番だっお、
ずっずそうやっおきたのは俺なのに。

だから、わかる。
どう振る舞えば、圌女のお気に召すか。
そのルヌルっおや぀を。


ブンタさんは䜕も聞かなかった。
ただ、「金曜は䞖話掛けたな」ず䞀蚀だけ蚀っお、俺の肩をぜんず叩いた。

䜕でもお芋通しみたいな目が、ちょっず痛い。
おおんばな効を芋守る兄、っお感じ。

あれから、ブンタさんは時々ブヌスに立぀ようになった。
おかげで俺は、お助けからお圹埡免。
だから、アッコに急に誘われおも、い぀でも動けるっおわけだ。

俺っお、惚れるず案倖ケナゲなんだな。

アッコにずっお、俺はただのボヌむフレンドの䞀人。
  そんなの、わかっおる。
䌌たような軜い付き合いの男達がいるこずも、すぐ気づいた。

でもさ。
俺みたいにお行儀いいや぀、そういないだろ。
人っお、最埌は“お気に入り”に萜ち着くもんなんだよ。
ちょっず぀たみ食いしたっお、結局は居心地のいいずこに戻る。

  俺の経隓䞊、だけど。

ずりあえず
最初は、お気に入りの䞀番䞊を取りにいく。

仕事もばりばり。矎人で、遊び䞊手。
い぀も自信に満ちおいるその瞳が、ふず曇る瞬間がある。
どうしおなんだろう。

俺の唇を鮮やかに奪っおみせたりするくせに、
腕の䞭でふず芗き蟌むず、泣きそうな顔をしおいたりする。

  でも、さすがなんだよな。

俺の芖線に気づいた瞬間、
そんなもの、なかったみたいに消しおしたう。

だけど違うの。
俺、勘はいいほうだからさ、わかるんだよね。
抌し殺しおるんだなっお。

俺の腕の䞭で、泣いたっおいいのに。

——でも、蚀えない。

それはルヌル違反な蚳よ。 
螏み蟌んじゃいけない、䞀本のラむン。


今たでの人生をリセットしたい。
どうしおどい぀もこい぀も、俺の恋路を邪魔するんだろう。

ただカッコむむ俺を圌女に芋せたくお、ボヌド抱えおドラむブがおら千葉の海に繰り出したっおいうのにさ。
たさか、ガヌルフレンドの皆様が揃っおいらっしゃるなんお思いもしなかった。

「ねぇ、い぀ならいいの飲みに行こうっお蚀ったじゃない」

「この前、忘れ物しおたよ。あの、郚屋に眮きっぱなしだけどいいの」

「今床、新しいボヌド買うから付き合っおよ」

——酒の誘いなんお、䜕ヶ月前の話しおんだよ。時効だろ、時効。

郚屋に
それ、お泊たりアピヌルっおこずでいいの

俺の隣に女がいるの、芋えおないの
空気っおさ、読めるもんじゃない
デリカシヌ、どこ眮いおきたの。

新しいボヌド
君にはもったいないよ。浮き茪にでもしがみ぀いおな。

はぁ。

自分で撒いた皮っおや぀だ。
摘み取っおこなかった俺がうか぀だった。

「モテモテだね」
アッコはそう蚀っお、楜しそうに笑っおる。

「アッコにだけモテればいいんだよ」
そう蚀うず、圌女はさらに肩を揺らしお笑った。

やっぱりね。
そりゃ、無理だよな。

こんな、冗談にしか聞こえない愛の告癜。
誰が本音だなんお気づくっおいうんだ。

たあ、気長にいくよ。

䞀滎ず぀、沈んでいくみたいな恋も悪くない。
気づいたずきには、もう抜け出せない。
甘い氎に、足を取られる。


「䞋北沢に友達がむタリアンの店を出したのよ。ケンちゃん、明日の倜、空いおるかな」

神様は俺を芋捚おおいない。
明日はマむバヌスディ。奜きな女ず過ごせるずは、なんおラッキヌなんだ。

あれ俺、去幎の誕生日、䜕しおたっけ。

シズカいやヒロコ
誰か女の子ず過ごしたのは確かなんだけど  。

やっぱり、気持ちがないずこんなもんだよな。
俺、今幎の誕生日は䞀生忘れない。

おぉ、わくわくしおきた。
遠足前の小孊生の気分っおや぀。

恋っお、䜓をこんなふうに揺さぶる力があるんだな。


アッコの友達の店は、䞋北沢から歩いお十分ほどの排萜たむタリアンだった。店は結構広くお、フロアの䞭心に蚭眮されたオヌプンキッチンを、ぐるりずカりンタヌが囲んでいる。
壁沿いには、いく぀かのブヌスに分かれたテヌブル垭。

「いらっしゃいたせ」ず䞁重に挚拶するギャル゜ンに、アッコはオヌナヌがいるかを尋ねおいる。

そのずき、オヌプンキッチンの向こうから芖線を感じた。フランベで炎が䞊がるフラむパンの向こう、カりンタヌに座った男がこちらを芋おいる。

その隣にいた女が、慌おた様子でこちらぞ歩いおきた。
アッコは窓のステンドグラスに気を取られおいお、この光景には気づいおいない。

「いらっしゃい、アッコ。来おくれたのね、ありがずう。あら、圌が噂のボヌむフレンドかしら」

やっぱり、この人がオヌナヌか。

“噂のボヌむフレンド”。

アッコの友達にたで、俺の存圚が知られおるっおこず
ちょっず嬉しくお、俺はい぀もの、女の子にりケのいい愛想の良い笑顔で挚拶した。

「圌はケンちゃん。よろしくね。あ、圌女は倧孊時代の友人の゚リコ。
去幎ミラノに行っお、぀いでにご銳走を䜜れるダヌリンも連れお垰っおきたのよね」

アッコは気づいおいない。
゚リコさんの芖線が、䜕床もカりンタヌぞ流れおいるこずに。そしお、わざわざ店の䞀番奥のテヌブル垭ぞず案内した。

でも、俺からは芋えちゃうんだよね。
アッコは背䞭を向けお座ったから分からないだろうけど。
さっきほど露骚じゃないけど、カりンタヌの男はワむングラスを傟けながら、こちらを盗み芋おいる。

俺ね、䞡県芖力2.0。野生動物䞊みなんだ。

だから芋える。

あい぀の瞳の奥で揺れおる、動揺ず、
抌さえきれない嫉劬たでも。

——ふぅん。コむツだな。

し぀こいようだけど、頭はそんなによくないけど、勘だけはいいんだよね。

アッコを時々、俺からさらう圱の正䜓。
昔の恋人っおや぀か。
しかも、けっこう本気の。

駄目だよ。そんな目で芋たっおさ。
俺だっお、やっず芋぀けたんだ。
アンタに返す気はない。


目の前で、アッコが柔らかく埮笑む。
矎味しいワむンは、圌女をご機嫌にする。

「俺、今日、誕生日なんだ」
「あら」

圌女は少し驚いた顔をした。

「誘ったずきに蚀っおくれればいいのに。シャンパン、頌もうか」
「䜕もいらないから、お祝いのキスが欲しいな」

テヌブルに片手で頬杖を぀いお、俺は悪戯っぜく片目を぀ぶる。

こういうずきの圌女は、そこらの女ず違う。
思わせぶりに恥ずかしがっお、う぀むいたりなんおしない。
鮮やかに、俊敏に、党郚枈たせる。

テヌブルに手を぀いお身を乗り出すず、アッコは俺に祝犏の口付けをくれた。
ほんの䞀瞬の、柔らかい唇。

ちらりず芖線を流す。
カりンタヌの男が、店の扉ぞ向かっおいくのが芋えた。

――そう、そのたた出おいけよ。

アッコの心の䞭からも、綺麗さっぱり消えおくれりゃいい。


——アッコの隣が䌌合いそうな、倧人の男だった。
アむツの残像が、あれからずっずチラ぀いお邪魔くさい。

もんもんず考えるのは、趣味じゃない。
䞉日埌、䞀人であのむタリアンレストランを蚪ねた。開店間際で、店内にはただ客はいなかった。

゚リコさんは目を䞞くしお、「あら」ず驚いた。

「レストランりェディングができる店を探しおる友達がいお。いい店があるっお話したら、予算ずか聞いずいおっお頌たれちゃっお」

そんな、もっずもらしい蚀い蚳をする。

゚リコさんは喜んで盞談に乗っおくれた。
日取りは 人数は
尋ねられるたた、適圓に答える。

お姉さんの扱いは、俺の埗意分野。
頃合いを芋お、話の流れを倉える。

「゚リコさん、矎人だから、新郎が目移りしたらやばいかな」

皋よいゞャブに、圌女は「お䞊手ね」ず笑いながらも、どこか嬉しそうだ。

た、マゞで結構いい女なんだよね、゚リコさん。
気さくで、䞊品で、リッチな  綺麗なお姉さんっおや぀。

「旊那さんは幞せ者ですね」

そう蚀うず、「぀たんでいっおね」ず、オヌドブルの盛り合わせを出しおくれた。

そろそろいいか。
さりげなく、さらりず尋ねおみる。

「この前、カりンタヌにいた男の人、アッコの前の恋人でしょ
あんたりいい男で、俺、ぞこんじゃいたしたよ」

゚リコさんは、少し困った顔をした。

「やだ、アッコ、気付いおいたのね。あの子、あたり顔に出さないから」

「俺が぀いおたすから、倧䞈倫です」

努めお明るく蚀うず、゚リコさんの顔に安堵の笑みが浮かんだ。

「そうね。あなたずいるアッコ、楜しそうだったわ」
「女の子を楜しくさせるのだけは埗意なんです、俺」
「ケンちゃんっお面癜いのね」

くすくすず、綺麗な歯を芋せお笑う。

「よく二人で南の島なんお行っおおね。結婚するものだず思っおいたんだけど  でも、男ず女のこずなんお、本人同士にしかわからないわよね」

——俺っお、銬鹿だよな。
奈萜の底だ。

俺より四぀幎䞊。
恋愛だっお、いろいろ経隓しおる。

アッコは、あの男を愛しおいるのかな。
時々芋せる、遠い県差し。
あの男ず、俺が重なるのか。

ねえ、俺は

愛なんお莅沢は蚀わない。
だけど、少しくらい欲しいんだよ。

——アッコの心が。


「  ケン  おい、ケンっ。聞いおるのかよ」

オサムの声で我に返る。

「悪りぃ、もう䞀回」

居酒屋は賑やかで、奥の座敷では倧孊生が隒いでいた。
オサムは毎幎恒䟋のサヌフィン旅行の話をしおいたらしい。

「今幎は新䌁画。サヌフィンできるツアヌのモニタヌだっおさ」

差し出されたパンフレットを、気乗りしないたた開く。

——䜕これ。

海ず空が溶けるような青。
透き通る氎の䞭に、色鮮やかな魚が散っおいる。

「これ、どこだよ」
「モルディブ」

少しだけ、胞が動いた。

「女連れおっおいい」
「いいよ。早玀も来るし」

早玀。オサムの効。
あ、こないだ店の前で䌚ったな。

「ぞぇ、来るのか」
「その写真芋せたら、絶察行くっお蚀い出しおさ。あ、マリも行くっお」
「ぞぇ  お前もマリず長いよな。高校からだもんな」
「ただ就職しお䞉幎だしな。た、そのうちっお感じ」

オサムがニダッず笑う。

「お前さ、今䞀緒にいる女、本気なんだろマリが海で二人でいるの芋かけたっお蚀っおたぜ。すげえ綺麗な、倧人の女だっお」

「  惚れちゃったんだもん」

自分で蚀っお、らしくねえなっお思った。

「じゃあ連れおこいよ。  でも、早玀な」
「早玀がどうかした」
「昔からお前のこず奜きだろ」

ああ、あったな、そんなこず。

䞭孊の制服で、真っすぐ芋おきたあの目。
あの頃の俺には、重すぎた。

「ただ匕きずっおるみたいでさ、ケンの事」
オサムの声が、少しだけ真面目になる。
「今回で区切り぀けさせたいんだよ。いい機䌚かもな」

「  たぁ、本圓は」
オサムは少しだけ蚀葉を遞んだ。
「お前に芋おもらえりゃ、䞀番いいんだけどな」

返事が詰たる。
今の俺に、アッコ以倖の居堎所なんおない。

「やっぱ  早玀じゃ駄目か」

思わず顔を䞊げる。
「無理だろ」
短く返すず、オサムは小さく息を吐いた。
「だよな」

グラスにビヌルが泚がれる。
奥の笑い声がやけに遠い。

うたくいかないもんだ。
誰かを想う気持ちが、同じ方向を向くなんお。

ふず、アッコずあの男が浮かぶ。
  あい぀ず行った南の島。

パンフレットに芖線を萜ずす。
この青なら、党郚塗り替えられるかもしれない。

「今幎はモルディブな」
オサムが笑う。
その暪顔を芋ながら、ふず思った。

「お前ずマリっおさ、幞せ者だよな」
「はなんだよ急に」
「いい店知っおるんだよ。レストランりェディングずかさ」
「おぅ」

オサムが照れたように笑った。


千葉の海。
アッコが埅っおいる。
砂浜で、俺を埅っおいる。
そんな圌女を、波に乗りながら眺めるのが奜きだ。

砂に広げたラグは、二人の小さな家みたいで。
アッコは、俺のために枩かい玅茶なんお甚意しおくれる。

たるでママゎトだ。

海から䞊がり、ゆっくりずアッコに近づく。
芖線が䜕床も絡む。

照れ隠しに、ラグの䞊のランチボックスやポット、きれいにたたたれたタオルに目を逃がしお——たた、アッコを芋る。

「ケンちゃん」

ふいに至近距離で呌び止められ、足を止めた。
振り向くず、早玀がボヌドを抱えお立っおいた。

癜いりェットスヌツ。
朮颚に、ショヌトボブの髪が揺れおいる。

この前のオサムの蚀葉がよぎっお、劙に意識しおしたう。

「おぅ、今日もマリず䞀緒か」
「うん。お兄ちゃんも埌から来るっお」

そこで䌚話が途切れた。
じゃあ、ず䞀歩螏み出しかけるず、たた呌び止められる。

「ケンちゃん、あたしもモルディブ行っおいいかな」
「いいに決たっおるじゃん。楜しみだな」
「  あの人も行くの」
早玀の芖線が、浜蟺のアッコぞ流れる。
「あの、そしたら女同士、仲良くしたいなっお 」

にっこりず早玀は口元だけ埮笑んでみせた。
無理に䜜られた笑顔に胞の奥がチクリずした。

「ああ、聞いおみる。仕事もあるだろうし。圌女っおわけでもないし、断られるかもな」
「そっか。オッケヌもらえるずいいね」

ふっず笑顔が、消えた。
ただ、あの真っすぐな目で俺を芋おいる。

躊躇わずに芋぀め返す。

化粧っけのない睫毛が、䞍安げに揺れた。
——それでも、次の瞬間、早玀は笑った。
今床は、昔から知っおいる顔。
目尻を䞋げた、屈蚗のない笑い方で。

「頑匵れ、ケンちゃん」

すれ違っお、俺たちは逆の方向ぞ歩き出した。
早玀が足を止めお、振り返る気配がする。

それでも、俺は振り返らなかった。
芖線は、アッコを捉えたたた。

裞足のたた、䞀歩ず぀砂を螏みしめる。
アッコぞ近づいおいく感觊だけを確かめる。

——蚱しおくれるかな。
その心に、螏み蟌もうずする俺を。

賭けだ。

俺、意倖ずこういうの匷いんだよな。

アッコの前に腰を䞋ろす。
枩かい玅茶が差し出された。
すぐには口を぀けず、カップに手を添える。
ふわりず、ブランデヌの銙りが立ちのがる。

「いい銙りだ。アッコの玅茶」

――手攟したくない。
でも、その心にも觊れたい。

春颚が抜けお、濡れた髪を冷やす。
なのに、䜓の奥は熱いたただった。

「仕事、忙しいの」
䜕気ない䌚話を挟む。
来月なら萜ち着くず、アッコは蚀った。
蚀葉を探しながら、遠回りに切り出す。

「毎幎さ、サヌファヌ仲間でバリに行っおお――」

違う。俺が連れおいきたいのは

あの青い景色。
あの、小さな島に。

「今幎はちょっず違うずこ行こうかっお話になっおおさ。すげぇいいずこなんだ。だから、アッコも連れお行きたいなっお」

䞀瞬、蚀葉を探す。
「  知っおる モルディブっお」

その名前を口にした瞬間、アッコの衚情が固たった。
胞の奥が、じりじりず焌ける。

「むンド掋にある、小さな島の集たりなんだっお」

アッコの呌吞がわずかに乱れる。
「  やぁね、ケンちゃん。小さな南の島なんお、恋人ず二人で行く堎所よ」

語尟が、ほんの少し震えおいた。
胞の䞭で、䜕かが匟けた。
もう、止たらない。

「じゃあさ、二人で行こうか」
蚀葉が先に出た。

「俺、サヌフィンできない島でもいいから」
「えっ」
「アッコず行っおみたいんだよ。あんな海」

圌女の䜓が小さく揺れる。
気づかないふりをしお、蚀葉を重ねる。

「こんないい加枛な俺がさ、アッコのこず  倧事にしたいっお思っちゃうんだよね」

  蚀っちたった。

匕くか、進むか。
もう、どっちでもいい。

アッコは黙っお、俺を芋おいた。
ガラスみたいな瞳。
綺麗すぎお、感情が読めない。
でも次の瞬間、その奥に匷い意志が灯った。

「  ケンちゃ――」

やばい。
本胜が先に反応した。
続く蚀葉を遮るように、唇を重ねる。

怖かった。

だから、先に蚀った。

「わかっおるよ。振られるのなんお」
蚀葉がこがれる。
「アッコの䞭に、誰かいるのも気づいおた。黙っおりゃ、このたた䞀緒にいられたのにさ」
自嘲が混じる。
「欲が出たんだよ。久しぶりに、ちゃんず奜きになったから」
らしくないな、ず笑う。
「党郚欲しいなんおさ」

情けないくらい、足堎が厩れおいく。

「  俺、セカンドでもいいけど」
也いた笑いが出る。

アッコは、静かに銖を振った。
「  銬鹿ね」
やわらかい声だった。
「ケンちゃんだけを倧切にする子が、ちゃんずいるわよ」

終わった。

春の光が、アッコをやわらかく照らす。
さっきより、ずっず綺麗に芋える。
空を芋䞊げるその瞳は、柄みきっおいた。

――なぁ、䜕を決めたんだよ。

手の䞭から、䜕かがすり抜けおいく。
泣きたい気分だけど、笑った。

お気楜ケンちゃん。

アッコがお気に入りにしおくれた、そんなむメヌゞくらいは壊さないでおこう。その胞に軜く俺を刻んでおいお欲しかったからさ。


飛行機から䞀歩足を螏み出すず、熱颚がたずわり぀いた。

飛行機の゚ンゞンの熱気か、南囜の空気か。
区別が぀かないたた、のろのろずデッキを降りる。

マヌレ空枯。

この囜は、空枯も刑務所も倧統領官邞も、それぞれが専甚の小さな島に建っおいるらしい。ガむドブックを片手に、マリが埗意げに説明しおいる。

メンバヌは八人。
こい぀らに匕っ匵られお、結局来ちたった。

あれから、アッコずは䌚っおいない。
胞の奥に、ぜっかり穎が空いたたただ。

荷物を受け取り、倧きなサヌフボヌドを抱えお船着き堎ぞ向かう。

成田からの䟿だから圓然だけど、呚りは芋慣れた日本人ばかりで、ここがむンド掋に浮かぶ島だなんお実感が湧かない。

愛想のいい珟地の男が、俺たちの向かうロヒフシ行きのボヌトは少し遅れるず、悪びれもせずに告げた。ロヒフシはモルディブでも数少ないサヌファヌが集う島らしい。

時間぀ぶしに、屋倖のカフェで冷えきらないコヌラを啜る。

遠くの桟橋には、それぞれのリゟヌトのボヌトが着いおいお、耐色の男たちが手際よくスヌツケヌスを積み蟌んでいた。

「  ちゃん。  ケンちゃんっ」

がんやりした頭に声が届く。
顔を䞊げるず、みんながこっちを芋おいた。

「もしかしお、俺  呌ばれおた」
「明日のポむントの話しおたんだけどさ。たぁいいや、俺らで決めずく」

オサムが気遣うように蚀うず、他のメンバヌも同じような目を向けおくる。

ブロヌクンハヌトのケンちゃんに、みんな優しい。
その優しさが、少しだけき぀い。
俺はひずり、船着き堎の方ぞ歩き出した。
気づくず、隣に早玀がいた。

「いろんな船あるねぇ」

のんきな声で、あちこち芋回しおいる。

近くのベンチに腰を䞋ろす。
倜空を芋䞊げるず、倧粒の星がこがれそうに散っおいた。
芋たこずのない空だ。
ようやく、ここが異囜なんだず実感が湧いおくる。

――本圓に来ちたったんだな。

埌悔しおいた。
アッコがいない。
それが、ここにいるほどにはっきりする。
情けないくらい、匕きずっおる。

俺を眮いお、早玀は桟橋の奥ぞ歩いおいく。
その埌ろ姿を、がんやり芋送る。

早玀は、他のや぀らみたいな同情を芋せない。
ただ、い぀も通りに接しおくる。

オサムは「ただ奜きだ」なんお蚀っおたけど――
違う気もする。

あの真っすぐな芖線は、そういうのじゃなくお。
もしかしたら、い぀たでもふらふらしおる俺を、芋匵っおるだけなのかもしれない。

立ち䞊がり、早玀の消えた方ぞ、ゆっくり歩き出した。

誰かがこちらに歩いおくる。
橙色の灯りを背に、その圱が長く䌞びお、俺の足元たで届いた。
早玀だった。

さっきたでの、どこか眠たげな空気は消えおいる。
固い衚情だった。

「䜕かあった」

早玀は小さく銖を振る。
「ケンちゃん、そろそろ戻ろ」

その顔を芋お、すぐにわかった。
口元だけで笑う、あの嘘笑いだ。

――“あの人も行くの”

海でそう聞いたずきず、同じ顔。
胞がざわ぀く。

その背埌に䜕かある気がしお、早玀の肩越しに桟橋の先を芋た。

  芋えた。

アッコがいた。
ちょうど船に乗り蟌むずころだった。

隣の珟地の男たちず、笑いながら蚀葉を亀わしおいる。
やたら声の倧きい男がいお、聞こえおくるのは英語じゃない。珟地の蚀葉だ。

慣れおいる。
この堎所に。

そしお、その背埌に――

あの男がいた。
むタリアンレストランで芋た、あい぀。

――知っおる モルディブっお。

  俺は、銬鹿だ。
ここが、あい぀ず来おた堎所かよ。

「行こう、ケンちゃん」

気づけば、早玀が手を匕いおいた。
逃げるみたいな速さで歩く。

カフェテリアの灯りが芋えたずころで、やっず足が緩んだ。
絡んだ指先が、震えおいる。

芖線を萜ずすず――
早玀が、泣いおいた。
声もなく、ただぜたぜたず涙を萜ずしおいる。

「ど、どうした」
「ケンちゃんの代わりに、泣いおるの」

拭こうずもせず、たっすぐ俺を芋る。

「だから、ケンちゃんが悲しむ必芁ないから」

小さな声だった。
それでも、はっきり届いた。

俺よりずっず小さなその䜓が、
悲しみの盟になろうず䞡手を広げお立ちはだかる。

胞はズキズキず痛んだたただったけれど、
もたれかかる堎所があるようで救われた気分になる。

觊れ合う指先にすがるように力を蟌めた。


次の日。

朝早くから、仲間は〈ニンゞャ〉っおサヌフポむントに繰り出しおいった。

「腹の調子悪くおさ」

適圓な蚀い蚳をしお、初日は島でのんびりするこずにした。
みんなは朝の光に照らされた海に浮かれお、いそいそず船に乗り蟌んでいく。

ひずり、怰子の朚陰に寝転がる。
同じ空を、アッコも芋おるのか。

海はどこたでも光が届く限り柄み枡り、
青の濃床を絶劙に倉化させながら空の色に混じり蟌んでいく。
島を芆う鮮やかな緑の葉は、濃い圱を癜い砂浜に萜ずしおいた。

息を飲む色圩のコラボレヌション。
写真なんか、比べものにならない。

アッコが時々芋せおいた、あの遠い目。
あのずき浮かんでいたのは、この景色だったのかもしれない。

モルディブ、ず口にしたずきのあの顔。

  螏んだな、地雷。

葉の隙間から差す光が眩しい。
目を现めたずころに、圱が萜ちた。

早玀だった。
「あれ波乗り行かなかったの」
「あたしも初日はのんびりしようず思っお」
氎着にパレオ姿で、隣に腰を䞋ろす。

「地球に、こんな堎所あるんだね」

颚に揺れる花柄が、芖界の端で揺れる。
䞋から芋䞊げるず、
睫毛が怰子の葉のような曲線を描いおいるのが芋えた。

耳にかけたショヌトボブ。
産毛が光を拟っお、淡くきらめく。

  考えすぎるのは、らしくない。

「なあ」
声をかける。
「お前、俺のこず奜きなの」

我ながら盎球すぎる。
でも、他に蚀葉が出おこなかった。
早玀は驚きもしないで、たっすぐ芋おきた。
「うん」
あっさりだった。
こっちのほうが戞惑う。

「  なんで俺みたいな軜いの、どこがいいわけ」
「ケンちゃんは軜くなんおないよ。正盎なだけ」

寝ころんだたたの俺を芗きこんで、早玀は優しく笑った。
小孊校からの付き合いだけれど、
こんな颚にじっくりずマゞな話をした事なんおあったかな

「ケンちゃんがフラフラしおおも、
最埌にあたし遞んでくれればいいっお思っおた」
さらっず蚀う。
「それたでに、奜みの女になっずこうかなっお」

――䜕幎蚈画だよ、それ。

「他の人ずも付き合ったよ。子䟛のたたじゃ、盞手にされないでしょ」

胞の奥が、ちくっずする。

「アッコさんだっけ」
早玀が少しだけ芖線を倖す。
「さすがに焊ったけどね。レベル高すぎお」
海を芋る暪顔。
「あたし、アッコさんみたいになるから  」

語尟が消えそうに小さかった。
溜息のような声なのに、
その台詞はグサリず胞を突き刺した。

「俺さ、なんか蚀ったっけ。昔」
きょずんずした顔で早玀は再びこちらを芋た。
「ほら、よくあるじゃん。子䟛の頃の玄束、ずっず芚えおるや぀」
苊笑しながら続けお蚀う。
「そういうの、俺たち䜕かあったかなっお」

「やだ、ケンちゃん芚えおいたの」
――やっぱり、やべえ䜕にも芚えちゃいない。
動揺する俺を早玀はおかしそうに芳察しおいる。
「ケンちゃんがお嫁さんにしおくれるっお蚀ったんじゃないよ」
クスクスずした笑いは止たりそうにない。
「ケンちゃんが初めお女の子に振られたずき——䞭䞀くらいかな。すごい萜ち蟌んでおさ、公園でがヌっずしおたの」

ああ  クラス委員に振られたや぀か。
芚えおる。トラりマだ。
でも、早玀に話した蚘憶はない。

「たたたた通りかかっお、愚痎聞くこずになっおさ。あたし小孊生だったけど、人生盞談なんお初めおで——結構、本気で聞いおたの」

䞍思議な気分だ。
知らない自分の話を、圓たり前みたいに聞かされおいる。

「倧人になるのっお厳しいよ、ずか蚀うのよ。『俺、䞀生結婚できないかも』なんお、うなだれちゃっお」

  思春期だな。

「だから玄束したの。
誰ずも結婚できなかったら、あたしが旊那さんにしおあげるっお」

ぞっ
我に返る。

ああ、そういう昔話、あるのか聞いおたんだよな。

「そしたらさ、すごく安心した顔しおこっち芋るの。
その顔に——恋しちゃった」

早玀はそこたで蚀い切っお、ふっず黙る。
指先で癜い砂をいじり始めた。
その沈黙に、劙に心がざわ぀く。

「  忘れおるっお、わかっおたけどね」
小さくこがす。

砂の隙間から逃げた蟹が、俺の足元を暪切った。

「䞭孊のずき、チョコ枡したでしょあれ、本気だったんだよ」
ちらりずこっちを芋る。
「困った顔しおた。ああ、芚えおないんだなっお」

「  ごめん」

蚀葉が、それしか出おこない。

「謝るこずないよ。子䟛のこず、匕きずっおるあたしがし぀こいだけ」
話を打ち切るように早玀は立ち䞊がった。
「今日のこずも、忘れおいいからね」
諭すような声。
「ただ奜きなだけだから。ちょっず自由な感じに憧れもあるのかもね」

颚が抜ける。
照れたように早玀は続けた。

「それでさ、元気ないずきは——守っおあげたくなるの」

胞が詰たった。
蚀葉を返そうにも、気の効いた台詞なんお䜕も浮かばない。

「あっち、いい波立っおたよ。せっかくだし、楜しも」
「おぅ」

二人でコテヌゞのほうにボヌドを取りに連なっお歩く。
鮮やかな緑で芆われた小道を抜けおいく。
早玀の華奢な埌姿に目を奪われた。

党然むケおるじゃん。男ほっずかないだろう
俺なんかに捕らわれおちゃ、もったいないじゃん。

——“ちゃんず、ケンちゃんだけを芋おくれる子がいるわよ”

アッコの声がよぎる。
あの人、党郚わかっおたのか。

それでも——
あんなアッコでさえ、うたくいかなくなったりする。
絡たるもんなんだな、こういうの。

結局さ。
倧事なのは——今、どう思っおるかだろ。

「どうしたのケンちゃん」
立ち止たった俺を早玀が振り返る。

お前、たいした奎だよ。
“守っおあげる”なんおさ。

あれ、効いた。
俺、萜ちたわ。

人生っお䜕が起きるかわかんない。
さっきたでアッコに惚れおたのに、今はこい぀に惹かれおいるなんお。
やっぱり俺、軜いのかな

でも、胞が痛い。
アッコの時ず倉わらないくらい、締め付けられるように切なくお。

だけど倧きく違うのは、愛されおいるっお心地良さが俺をこんなにも優しく包んでくれおいる。
今床は俺が守りたいなんお、これっおさ、結構ヘビヌだよね

「行こうぜ」
早玀を、芖線で促す。

小道の向こうに、癜い波が芗いおいる。
島のビヌチの䞀角にあるロヒスず呌ばれるサヌフスポット。
ゆっくり抌し寄せおくるメロりな波が、アクションの緎習にはもっおこいだ。

パドルアりトしお波を埅぀。
ゆらゆらず浮かびながら呚りを芋枡しおみた。
自分の身䜓を包む氎の透明床に気付き息を呑む。

海面には揺らめきながら映る空暡様。
䜓の奥底から抌し寄せおくる懐かしさは、遺䌝子に刻たれた海の蚘憶なのだろうか。

䞍思議な皋に、この堎所が愛しい。

少し遅れお早玀がパドリングしおくるのが芋える。
迎えるように俺は早玀の方に近づいおいった。

濡れた髪が頬に匵り぀いおいる。
指でそっず、払っおやる。

「お前はさ、そのたたでいいから」
「えっ」
「誰かみたいにならなくおいい。早玀は、早玀のたたでいい」

嬉しそうに、小さく早玀は頷いた。俺のそんなひず蚀で、幞せそうな顔をする仕草がさ  可愛いんじゃない

今曎気付くなんお、随分回り道しちゃったのな。
でも、いいか。
だからこそ䟡倀がわかるっおもんだ。

唇を重ねようず顔を寄せたら、波に揺られおおでこがぶ぀かった。

「いたい、ケンちゃん、倧䞈倫ふらふらしおるよ」

䜕をしようずしたのか、党然わかっおないみたいだ。
おっず、結構でかいのが来たしたよ。

「岞で埅っおるからな」
そう蚀葉を残すず、俺は波を远いかけた。

远い぀け远い぀け。
掎たえるんだ。自分の力で。

アッコも再びこの海を抱きしめる為に、あの男を远いかけたのだろうか。

振り切るよ、俺。
心残りは男らしくないからさ。

テむクオフ。ふわりず䜓が浮く。

あおいれリヌのような波の衚面を切り裂き、マニュヌバヌを描きながらボヌドを滑らせる。

跳ね䞊がる氎飛沫が光を匟いお茝いおいる。お倩気雚のシャワヌを济びおいるみたいだ。

最高っ

早玀が远い぀いたら、さっきのキスの続きをしよう。
今床は狙いを定めお唇に  
きっず南の島の銙りがするんだろうな。

こんなに埅たせちたったんだ。
この島のようなスペシャルなキスを捧げなくちゃ。

魅惑的にどこたでも甘い口付け。
もっずもっず俺に溺れお、抜け出せないほどに酔わせる為に。

おっず、オサムお兄様にご挚拶しなくちゃな。
あい぀、どんな顔するんだろう。

その時の奎の顔を思い描くず、抑え切れない笑いが零れた。

(END)


小説の舞台モルディブの島ロヒフシ
写真提䟛『閑人の粒焌』

🔶アッコ芖点🔶はこちら ↓ ↓


もうアッコ芖点読んだよっお方

🔷日本に眮いおきた鉄男の圌女芖点🔷


●どこか䞀぀でも心に残るものがあれば嬉しいです。
●同じ䞖界芳の短線をこれからも投皿しおいきたす。魅惑の疑䌌バカンスを お楜しみください。
●昔曞いた小説ですので、珟圚は島がリニュヌアルしお名前が倉わっおいるこずがありたす。
●モルディブを知らない方でも問題なく楜しんでいただけるかず思いたす。モルディブは島リゟヌトホテルが基本です。小説も島ごずに描いおいきたす。
●南の島にこだわらない物語や日本文化を考察した゚ッセむも綎っおいたす。
★フォロヌやご感想などお気軜にどうぞ。励みにしたす。




この小説の冒頭のレゲ゚クラブのバヌテンダヌのむメヌゞになっおいただいた「るみるみさた」が、小説のむメヌゞから曲を䜜っおくださいたした。
レゲ゚のリズムが玠敵。
✚ぜひお聎きくださいたせ。


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