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夏の座席を外す日

こちらに
参加させて頂きました。



ボルトを二本外し、シートの固定を解いた。
背もたれを前へ倒すと、青い座面カバーの隙間に、小さく折り畳まれた紙が挟まっていた。
八番ゴンドラ。
九月半ばの風には、まだ夏の熱が残っている。来週からの秋仕様に備え、今日は三十六基あるゴンドラのカバーを順番に交換していた。
紙は奥まで押し込まれていた。
指先でつまみ出す。
紙を開くと、色鉛筆で描かれた観覧車があった。
裏には日付だけが書かれている。
作業用グローブを片方脱ぎ、腰のポーチから拾得物用の袋を取り出した。
紙を折られていた形に戻し、袋へ滑り込ませる。
工具箱の横へ袋を置く。
整備員は新しい茶色のカバーを広げた。
角を合わせ、座面にかぶせる。
ボルトを差し込み、ラチェットレンチを回す。
カチ、カチ、と短い音がゴンドラの中に響いた。
座面を手のひらで二度叩く。
緩みはない。
最後に扉を閉め、点検スイッチを入れた。
八番ゴンドラだけが、静かに持ち上がっていく。
窓の下で、遊園地の屋根が小さくなっていった。
てっぺん近くで動きが止まる。
窓いっぱいに、秋の空が広がっていた。
雲は白く薄く、ずいぶん高いところを流れている。
スイッチを切り、ゴンドラを地上へ戻した。
扉を開け、作業表の八番に、レ点をひとつ入れる。
ペンを胸ポケットへ戻した。
工具箱の取っ手を握り直し、隣の九番ゴンドラへ向かった。
そこにはまだ、青い夏の座席が残っていた。
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