
【第3章第1話】「むかし、むかしは終わっていない」 ー 不死と記憶の物語 ー
第3章:桃太郎 ― 守るということ ―
第1話「旅の途中で」
▼第1章 第1話から読む
「むかし、むかしは終わっていなかった」
山道を抜けた先、小さな村が見えてきた。
「……少し、休むか」
桃太郎は腰の刀に軽く触れながら、ゆっくりと村へ足を踏み入れる。
大きな村ではない。だが、人の気配がある。
煙が上がり、どこかで笑い声が聞こえる。
――平和だ。
その空気に、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
通りを歩いていると、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「……団子か」
自然と足がそちらへ向いた。
小さな団子屋だった。
軒先に並べられた団子。湯気の立つ釜。
「いらっしゃい」
中から女将が顔を出す。
「一本くれ」
「はいよ」
差し出された団子を受け取り、ひと口かじる。
「……うまいな」
ぽつりと漏れる。
「そりゃどうも」
女将が笑う。
その横から、ひょこっと顔を出したのは子供だった。
じっと、桃太郎を見ている。
正確には――
「それ……刀?」
桃太郎の腰に差した刀を指さした。
「ああ」
「強いの?」
「どうだろうな」
曖昧に答えると、子供の目がさらに輝く。
「鬼、倒したことあるの!?」
その言葉に、桃太郎は一瞬だけ視線を落とした。
「……これからだ」
そう言うと、子供は「すげぇ!」と声を上げた。
無邪気な反応に、思わず小さく笑う。
しばらく村を案内してもらいながら話しているうちに
距離はすぐに縮まった。
「今日はこの村に泊まるの?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあさ――」
子供が何か言いかけた、その時だった。
――ドォン!!
地面が揺れた。
大きな音。
同時に、遠くで砂煙が上がる。
「……なんだ?」
桃太郎の視線が、自然とそちらへ向く。
煙の上がった方向。
――団子屋だ。
「え……?」
子供の声が震える。
胸の奥が、ざわついた。
理由は分からない。
だが――
「……行くぞ」
桃太郎は駆け出していた。
子供を置いていくわけにはいかない。
だが、振り返る余裕もなかった。
足が勝手に動く。
あの時と同じ感覚。
――間に合え。
崩れた建物が見えてくる。
さっきまで立っていたはずの団子屋が、無残に崩れていた。
木材が散乱し、煙が上がっている。
その中心に――
「……っ」
餓鬼がいた。
あの時よりも多い。
黒く歪んだ身体。
濁った目。
低く唸るような声。
そして――
まだ動いている人影。
「やめて……!」
女将の声だった。
その前に、鬼が一体。
ゆっくりと腕を振り上げる。
「……っ」
桃太郎の足が、さらに速くなる。
思考より先に身体が動く。
何もできなかった過去が、一瞬よぎる。
だが――
「……違う」
小さく、呟いた。
視線が鋭くなる。
「今度は――」
地面を蹴る。
一気に間合いを詰める。
その瞬間、世界が静かになったように感じた。
鬼の動き。
呼吸。
距離。
すべてが、はっきりと見える。
刀に手をかける。
「……守る」
その言葉と同時に――
桃太郎の姿が、煙の中へと消えた。
(つづく)
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