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若い頃のあなたが好きだった

    付き合って10年以上、結婚して4年、子供が生まれて1年。
    私には、大学時代も、社会人になってからも、20代の荒波に揉まれている期間から一緒に過ごしてきたパートナーがいる。

    大学時代は同じ学科だったこともあり、共通の友人がたくさんいた。「なんであんな奴と付き合ってるの?」と言われるあなたがとにかく不憫で仕方がなかった。でも、私自身もそう思ってた。

    そんな私がどんな生活を送っていたかというと、バイトと飲み会に明け暮れ、授業は単位がもらえるギリギリまでサボり、たまに研究室でデータを取るだけ。バイトはいくつか掛け持ちしていて、基本家にいない。旅行と飲み会で全財産を使い果たす。髪は金髪だったり、赤だったり、時には緑だったりした。「破天荒」という言葉がぴったりな、ザ・大学生。

    学科の大人数の飲み会では、よく潰れるまで飲んで、みんなに多大なご迷惑をおかけしていた。恥ずかしくて一生思い出したくない出来事が数えきれないほど出てくる。スマホでなんでも手軽に記録ができる時代に生まれたばかりに、記憶はないのに記録に残っているものがたくさんある(本当に辛い)。そんな私のお世話をさせられていたのは、もちろん夫だ。

    そんな私と正反対に彼は勉強も部活もバイトもしていて、私の体力では考えられないほど忙しい生活を、何の文句もなく一生懸命過ごしていた。性格も穏やかで人前で怒りをあらわにしたところも見たことがない。とにかくまぶしかった。

    深夜まで居酒屋でバイトをし、朝まだ薄暗い中部活の朝練に行く。朝練が終わったら学校に直行して授業に出て、夕方からまたバイト。バイト終わりに夜通し飲み会をしていた私の家にやってきて、徹夜で部活の試合に行ったこともあった。今振り返っても普通じゃない。

    “今”を一番大切にしていた私と、“未来”のために常に努力をしていたあなた。そりゃこんなにタイプが違ったらみんなも心配するよね。

    でも、みんなの心配をよそに夫は私と結婚した。結婚式後の飲み会でも、まだみんなに心配されていた。かわいそうに。

    誰から見ても私よりもきちんとした素晴らしい人間であることは確実で、私の人生に必要不可欠な存在だと思いながらも、時々はモヤモヤとした気持ちで満たされてしまう。

    結婚すると、見えていなかった部分が見えてくる。しかも、そういうのはおおよそ良い面じゃない(それは仕方ないことだけど)。我が家の場合、それは夫の生活能力だった。

    私は、生活は荒れてたけど親の教育のたまもので家事は割とできる方。夫は人に好かれる優しい人だけど、生活能力が高いわけではない。いいギャップと悪いギャップが見事に対照的になってしまった。

    掃除機は色んな方向に向かってかけるからゴミが残っているし、洗濯物は袖や裾が丸まったまま。なんでこうなっちゃうんだろう…と不思議に思っていた。

    あと、夫は昔から「優しい」と評判だったけれど、一緒に暮らして分かったのは、優しさというより「他人への関心が薄い」ということだ。人の行動に対して一喜一憂することが少ない。配偶者の私に対しても同じで、私がキャパオーバーになりかけているときも、伝えないと気付かないことが多い。ちょっとだけ冷たいな、と思うこともある。

    子供が生まれたことで私の破天荒さはだいぶ緩和され、すっかり普通の大人になっている。対照的に夫のめんどくさがりは加速した(というか、化けの皮が剥がれた)。飲み会では昔と同じ役割の私たちだけど、家を回しているのは私だし、夫のテキトーな家事をイライラしながらやり直しているのも私だ。

    軽い失望はいくつかあったけれど、他人と生活する上で「感情の起伏が少ないこと」は意外と重要な要素なんだと気付いた。私がイライラしていても、夫は何もなかったかのように普通に過ごしている。そのおかげで家庭が崩れずに済んでいるのだと思うと、最近は「それも彼の才能の一つだよな」と思っている。助かってるよ。ありがとう夫。

    そんな私たちは結婚してから、それなりに働き、それなりに趣味を楽しみ、喧嘩しながらもなんだかんだ穏やかに生活している。
    家を建て、子供も生まれ、世間一般から見ると“普通の幸せな家庭”そのものなんだろう。

    それでもたまに思い出してしまう、体力だけでなんでもやってのけた、かつてのキラキラしたあなたの姿を。

    年を取るにつれて昔の面影はだんだんと薄くなってきている。体力は落ち、趣味もインドアなものが増えた。週末はテレビやYouTubeを見てヘラヘラ笑っている。
    最近に至っては、共通の友人夫婦と飲みに行った翌朝、「潰れるまで飲むのにも体力がいるわ、もう無理」と二人で笑った。昔は体調を崩すと分かっていても飲みたかったのに。元気だったあの頃を知っているからこそ感じられる、寂しさと歳を重ねる面白さが少しずつ見えてきたのかもしれない。

    そして、子供が生まれてからはすっかり子供中心の生活になった。夫の仕事が忙しい時期は、一日に二時間ほどしか顔を合わせないこともある。私は仕事をして、お迎えから寝かしつけまで慌ただしく過ごす。「なんでこんなに忙しい時にあなたはいないんだ」と、ここでもちょっとした不満を抱えながら、なんとか日々を消化している。

    でも、それでも、今のあなたとの生活が心地いい。
    帰ってきたら一番に寝ている子供の顔を見に行くあなたが、時にはかわいらしいとさえ思っている。

    若い頃のあなたが好きだった。でも、変化を愛おしく感じることが、一緒に歳を重ねるということなんだろう。
    今は、缶ビールをプシュッと開けてぐびぐび飲みながら「たまらないぜ」って顔をしてる、ちょっとおじさんになったあなたが好きだ。


     
     
    本業はIT企業で事務職をしており、副業でライターをしています。どんな人でも読みやすい文章を心がけています。議論大好き理系出身者のひと味違うエッセイにも乞うご期待。

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