風まかせ文芸部|ふわっとことばあそび【焼き芋】〜焼き芋〜
こちら💁の企画に参加させていただきます。よろしくお願いします🙇
ショートショート
『焼き芋』
「……美味しいね。もっとちょうだい」
久しく聞いていなかった息子の声に、タカオは胸が熱くなるのを覚えた。
八歳になる息子のヤスシは、ここ一年で見るからに痩せていた。肌からは艶が消え、笑顔には正気がない。
そのヤスシが今、口の周りをベッタリと汚しながら、黄金色の焼き芋にかじりついている。
タカオが実家の裏山で密かに育て、自宅のオーブンで焼き上げた自家製の焼き芋だ。
「やっぱりヤスシの食欲が無いのは病気なんかじゃない」
タカオは焼き芋とヤスシの顔を交互に見ながら確信した。
……
203X年、世界から小規模な農家も、漁師も、酪農家もすべて姿を消していた。
農産物は巨大な食品企業のバイオ工場で生産され、肉や魚は巨大なクローン施設で無菌培養される。安全で、衛生的で、栄養価も味も計算し尽くされた「完璧な食品」が、需要に合わせて無限に供給される時代。
だがその陰で、食事をほとんど摂れなくなる子どもたちが静かに増え続けていた。
政府もマスコミもこの異変を一切問題にせず、SNSで「工場食品の影響ではないか」と囁かれる声は、即座にバン(アカウント停止)された。
さらに感染症予防や規格管理を名目に、個人が食用に野菜や果物を栽培することは危険行為とされ、厳しく罰せられた。
父子家庭のタカオの家でも、一年前からヤスシが何を差し出しても食べなくなった。完璧な栄養バランスを誇る食品を前に、ただ首を横に振るだけの日々。
(このままでは、この子は死んでしまう)
子供の頃、実家で食べた焼き芋が大好きだったタカオは、ふと思いついた。(あの焼き芋がヤスシの食欲を目覚めさせるかもしれない)
タカオは一度だけと闇サイトで違法にさつまいもの苗を購入した。監視の目を盗み、実家の裏山の空き地に分け入って土を耕した。
そうして実った泥だらけのさつまいもは、オーブンで焼き上げると、部屋中に焦げた皮の香ばしさと、濃密な糖の香りがした。
それは、子供の頃に嗅いだ「おやつ」の香り。
焼き芋を食べたヤスシの瞳に、光が戻った。一生懸命に焼き芋を頬張る息子の姿はあるべき子供の姿だ。
タカオはふと我に返ると、スマホを開いて、闇サイトを検索した。
(これから、どうすればいいんだ……?)
我が子の命を繋ぐには、この危険な犯行を続けるしかない。
タカオは躊躇したが、闇サイトでさつまいもやトマトやナスの苗を追加発注した。
ようやくお腹いっぱい焼き芋を食べたヤスシは、満足そうにソファでいねむりを始めていた。
『ピンポーン』
玄関のインターホンが鳴った。
『中山警察の者ですが。榊原タカオさんですね。お話を伺いたいことがありますので、扉を開けていただけますか。お時間はおかけしません』
「ん? 今、子供が寝ているんで日を改めてもらえませんか?」
「……榊原さん、この甘い匂いは何でしょうか?」
了
iさん、丁寧に紹介していただきありがとうございます😊
