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2025年2月 さぬき旅1

    1日目

     朝5時過ぎに起きる。顔を洗って地元の駅から浜松町駅へ。モノレールはちょっとお高めなんだけれど、あの広い窓から湾岸沿いの景色を眺めていると、旅が少し早く始まったような気がします。というわけで羽田空港着。スマホのQRコードをかざしてチェックイン。そのまま荷物検査。久々の空旅。購入した空弁はお近く穴守稲荷のおこわ弁当。定刻通り搭乗口へ。いつもは窓側選んでも大抵翼が視界を遮る感じだったけれど、今回は右翼の結構前なので、視界良好。富士が良く見えます。あのへんが笛吹峠だろ、んでもって甲府盆地、この形状は河口湖──とかやってたら、朝の底が白で覆われていきます。一度途切れると、ちょっと判別も難しくなってくるので地名クイズは諦めて朝ご飯。帆立のおこわがいいお味。そうしてときおり顔を覗かせる地表を眺めてはぼんやりと。山中に張られた電線、鉄塔。空からだと、とても効率的な位置に鉄塔が建てられ、電線が巡らされているのだと気づく。まるで天から絵を描いているみたいで線の先を追ってみる。次いで、白の塗された景色が眼下に広がる。四角で区切られている白はきっと田畑。幾何学的な白の群れは家々の屋根。あれ。羽田から香川を結んで、そんなに寒い地域の上を通るっけ。今、どこの上空だ。滋賀? 雪降ってたの? と軽く惑うが、雪が消え、小島の浮かぶ水面──きっと瀬戸内海へ。
     今回の旅。前回の燕三条旅と違って明確な目的地があります。展示の下見です。その町は瀬戸内海のそとっぺりに位置している。もしかしたらその上空を通るかなと、窓の外をじろじろ。あの島の形は小豆島だろうか(写真を見返したら本当に小豆島だった)。とかやっていたら、大きな陸地──四国が見えてくる。川の脇に小さな四角い漁港、海岸沿いの防砂林、その手前にはこんもりとした緑の一帯、地図上で見たことのある町の形。あ、これ、当りじゃん、今日の旅先だ。というわけで上空から写真に収める。初めて訪れる土地を、上空から一発で見分けられたって凄くない? とやや興奮。そんなわけで香川県は高松空港に到着です。まず向かったのが2階の一角、すでにちょっと列が出来ている。『空港だし』と看板。みかんジュースではなく、うどん出汁が蛇口から出るのです。というわけで紙コップに熱い出汁を注ぎ、窓辺でちびちびとやる。タスク完了。さて空港を出ますか。とはいえ個人的に空港をただバスで離れるって好きません。大体において地方の空港は、農村地帯の中にあることが多い。そこをビュンと通過するのはもったいない。というわけで、インフォメーションの女性に道を尋ねる。「一宮(いちのみや)まで歩いていきたいのですが、紙の地図ってないでしょうか」と。香川全体の地図を持ってこられて「これくらいしかないですけれど」。せっかくなのでもらいましょう。あとは空港を出る道を教えてもらい、「一宮まで結構ありますよ」と忠告をして下さったが、「大丈夫ですっ」と、自然と快活な感じで応じていたのは、これまでの経験に裏打ちされてのことだろうね。
     さて、高松空港を徒歩で抜ける。駐車場内を行き、「あっちのほう」と今し方教えらもらった方向へてくてく。ガードレールを跨ぎ、そのまま進むと、前方に立派な銅像が見えてきた。多分政治家のだろうけれど、とりあえず行ってみっか、と足を向けるが、胸くらいの高さのフェンスに行く手を遮られた。ので、周囲に「立ち入り禁止」の文字がないことを確認して、よっと乗り越える。で、銅像の立つちょっとした広場へ。もはや枯れ草がぼうぼうでした。そうしてやはり政治家像。瀬戸大橋やら、高速道路、そしてもちろん高松空港の建設に尽力された方、という文章が台座の裏側に彫られている。の割には空港からこの像までのアプローチがフェンスで遮られていて、雑草が蔓延っていて、うーん……、という感じ。まぁ、先を行きますか。というかこの他にも周辺には空港開港記念碑がいくつかありました。
     さて、橙色の実った木を横目に、誰もいない道を下っていくと、幹線道路へ。こんなんわざわざ歩いている意味がなくなるので、脇道へ外れてひたすら北へ。田畑の中に家々が建ち並んでいる道です。というか、ちょっと蛇のようにうねっている道だけれど、ここは元暗渠か? はたまたこっちが元々の生活道路だったのだろうか、と考えちゃうのは東京都民らしい発想なんだろうな。少し行けば、ぽつんと荒削りな石灯籠。付近に寺社もなさそうだけれど、どういうことだ? やっぱりここは古くからの集落? まぁ聞けるような人もあたりに見当たらないので、てくてく歩いて行きます。そうして第一、野良のうどん店発見(空港にも無論あった)。駅とか何も近くにないのに、畑をバッグに「製麺所」の看板。香川は至る所にうどん店があるというイメージだったけれど、本当にそうなんだね。そこからもうちょい行くと、またもや石灯籠。今度は、隣にお堂があったけれど、それより背が高い巨大灯籠。どゆこと? 特に案内板もないので、疑問を抱えたまま先へ。そもそも今向かっている一宮。下調べ時に地図を眺めながら、「バスじゃつまらないから空港から近くの駅まで歩こう」→「一宮という駅があったぞ」→「一宮という地名からすると、この地域で一番格式高い神社があるに違いない」→「あったぞ。多分ここのことだ」という理由で向かっております(一宮という言葉の意味を知ったのは、前回の燕三条旅の彌彦のときですね)。下調べでは大体空港から6kmくらいと記憶していたが、歩けども歩けどもまだ遠い……(あとで気づいたけれど、実際は9kmだった)。道中、石清水八幡宮を見かけたが参道が長く続いていたので、鳥居の前で一礼にて失礼をして、とにもかくにも一宮へ。で、またもや石灯籠へと出くわす。こちらはこれまでの天然石っぽい感じじゃなく整ったフォルム。案内板もついている。ひもとけば、この地域では月に一度、同じ香川県の金比羅山に早朝から日帰りで参拝をする習慣があったとのことで、道中迷わないようにという道標的な役割で、この石灯籠を安置したのだとか。とすると、これまで見てきた石灯籠も同じ意味合いだろうか。そうだったらちょっと面白いな。そこからまだまだ歩き、ようやく一宮の町へ。そうして線路を越え、目的の田村神社へ。「讃岐一宮」の文字。勝手にここを一宮と思い込んでたけれど、合っていました。何だか結婚式とか開かれそうな会館側から境内に入り込んじゃったので、脇から参道へ合流。田村神社。広さはないけれど、なかなか荘厳な社殿です。手水舎で手を清め、讃岐の一宮にご挨拶。どうぞよろしくお願いいたします。退いて、脇の社務所でパンフレットを頂戴し、境内には他にもいくつか同じ規模の神社があったけれど、巨大な龍の像や、金ピカの鳥居があって、ちょっと辟易したので、時間にもあまり余裕がないこともあり参道を引き返す。参道の手前には線路が通っていたけれど、ちょうどそこに踏切を設けているのは、まぁ神様の通り道という意識があってのことなんだろうなぁ、と。
     さて、12時前。お昼である。とりあえず近くの一宮駅へと行き、飲食店とか何かあるだろと見渡せば、パン屋とアクセサリーショップのみで、あとは住宅。電車まであと20分……。ここまでひたすら歩いて来たから温かい店内で腰を落ち着けたかったけれど、仕方ない、パンを買い求める。「焼き立て」と札の出ていたカレーパンをトレイに載せ、あとは3種のチーズと、珍しい桃のパンを。レジで店員さんに「ほとんど調べないで旅してるんですけど、駅前って飲食店あまりないんですね」と話しかける(今思うと、ちょっと際どい発言だったな)。このあとの旅程についてちょこちょこお話し、店を出る。どこで食べようかと思ったが、駅舎のベンチで風を避けながらモグつく。うん。美味かった。どれも外れがなかった。近所にあったら嬉しいパン屋さんだね。そうして琴電がホームに入り込んでくる。ことでん。とことこ揺られながら東へ。今朝方の機内放送で、梅の花が見頃と紹介されていた栗林(りつりん)公園駅へ。とても有名な日本庭園のようだけれど、今日は寄らずに近くのJRの栗林駅へ乗り換え。さらに東へ。というかお昼なのに高校生率が高いのはどういう訳だろう。
     40分ほどで到着。今回の目的地──讃岐津田駅。降車は自分を入れて二人。入場には交通系ICが使えたけれど、電車内では現金のみのようで少しお手を煩わせ、津田着。晴れた空に、こんもりとした山。あぁ、これは。時代を感じる無人駅舎を出れば、白塗りの丸ポスト。『有害図書回収箱』とな。こんなん初めて見ました。ナボコフの『ロリータ』でも入れちまいましょう。さて、人の見当たらない駅前を進み、車の行き交う町の幹線道路を渡り、津田の町中へ。黄色い看板のセルフうどん店。中では多分高校生がうどんを啜っていました。軒先に商品を段ボールで並べた青果店を過ぎ、石畳で整備された古い町並み(でいいのかな)を歩いて行きます。子供たちの絵が飾られている掲示板、古くて読めない石の道標、人はやっぱり見当たらない。日差しは温かで、風も穏やか。あぁ、なんだか、とっても。町並みを抜けていくと松並木が。の向こうの、青。空、そして静かな海。瀬戸の内海。海岸沿い、松並木の合間をゆっくりと。松の向こう、犬を連れて散歩している人。犬が並木の合間から顔を覗かせ、こちらを見ている。こんにちは、と飼い主さんにもご挨拶。ただゆったりと歩いて行きます。そうして行き当たった小さな漁港。今朝、上空からその小さな四角い海を見つけて、そこが津田なんだと気づきました。今はただ船がぷかぷかと並んでいるだけ。やがて、側面にタンクトップの描かれたコンテナ前へとやってくる。ここが目的地。この中で展示をする予定です。そうして14時に地元の人と待ち合わせ。津田の町をご案内していただく予定です。今は数分前。一台の車が敷地内に入ってきました。お初にお目にかかるので、お互いに自己紹介。
    「旅してるからって、ヨイショするわけじゃないですけれど、いいですね。この町」とご挨拶をいたしました。
    (続→)

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    言葉や小説をアートにしています。たまに旅に出ます。 watanabe.genkisan@gmail.com

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