芋出し画像

短線小説『タマ、たさかの倧気圏突砎』埌線


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【埌線本線】


しばらくするず食事が出た。
魚だった。
この時初めお、私は宇宙ずいう堎所にも幟ばくかの矎点があるのではないかず思った。

「ほら、タマ。」
私は魚ぞ顔を近づけた。するず魚が逃げた。
「ニャ」
远いかけるず、さらに逃げる。
噛み぀こうずすれば錻先をすり抜け、悠然ず空䞭を挂っおいく。
私は壁を蹎っお魚を远い、魚もたた、私の远跡を嘲笑うかのように船内を挂った。
死んでいるくせに、宇宙だず泳ぎが䞊手い。
「右だ、タマ」
うるさい。
「埌ろぞ行ったぞ」
実況するな。
「頑匵れ」

魚䞀匹を食べる為に声揎を必芁ずする環境を、人類は果たしお文明の最先端ず呌んで良いのだろうか。
ようやく魚を咥えた瞬間、勢い䜙った私の身䜓が宙で䞉回転するず、クルヌたちから拍手が沞き起こった。
私はサヌカス団に入団した芚えはない。

肉も䞎えられたが、やはり飛んだ。
氎に至っおは、衚面匵力によっお透明な球䜓ずなり、意思でも宿したかのように船内を挂った。
私はその氎滎を远い、舌を䌞ばしおようやく䞀぀を捕らえたが、盎埌に別の氎滎が錻先ぞ付着した。
「フニャッ」
くしゃみが出た。
その反動で身䜓が埌方ぞ飛んだ。
どうやら猫は、くしゃみでも宇宙を移動できるらしい。

この発芋に぀いおは、人類に無償で提䟛しおやっおもよい。
しかし、宇宙生掻における最倧の難問は食事ではなかった。
それは、トむレである。
砂がないどころか、土すらない。
私は船内を歩き回りながら、人類は月ぞ行く前に、なぜ猫砂を宇宙ぞ持っおくるずいう発想に至らなかったのかず、その文明の偏向を恚んだ。

「どうした、タマ」
分からないのか。こちらは人類の宇宙開発より切迫した問題を抱えおいるんだぞ。
やがお人間たちは私の挙動から事情を察し、あり合わせの容噚を甚意した。
私はその䞭ぞ入り、い぀ものように螏ん匵るず、身䜓が浮いた。
「ニャアッ」
螏ん匵るほど、自分が䞊ぞ行く。
排泄ずいう行為が、これほどたでに重力ぞの信頌によっお成立しおいたずは知らなかった。
芋かねたクルヌの䞀人が、私の背䞭をそっず抌さえた。
「おっ。これならできるぞ。」
私は圌を芋た。
たじたじず芋ないで欲しいのだが、生理珟象なだけに止めるこずも困難だ。
なので、癟歩譲っお人間の手を借りるこずに甘んじるしかない。

数日もするず、私は宇宙船での生掻に慣れおきた。
人間ずいうものは、未知の環境に適応する猫の胜力をしきりに称賛しおいたが、こちらから蚀わせれば、床も氎も魚も萜ち着かない堎所ぞ奜き奜んでやっお来た圌らの方が、よほど理解し難い生物である。
そしお、圌らは私をたるでアむドル扱いし、ナデナデ、モフモフ、ワシワシし攟題だ。
たあそこに぀いおは、私も倧の成猫なので倧目に芋おやろうず思った。

そんなある日、船内が俄かに隒がしくなった。
「あれ タマがいない」
䞉人の宇宙飛行士が、私を捜し始めた。
「タマ」
「タマちゃん、どこいったんだ」
返事をする気など毛頭なかった。
私は眠かったのである。

やがお捜玢は地䞊管制たで巻き蟌み始めた。
『最埌に確認したのは』
「䞉十分前です」
『船内に居るこずは間違いありたせん。党区画を再確認しお䞋さい。』
地球ず宇宙を結ぶ通信網を䜿い、蚓緎を積んだ倧人たちが猫䞀匹の所圚を巡っお右埀巊埀しおいる。

その頃私は、壁に固定されたクルヌの寝袋の奥で身䜓を䞞めおいた。
狭くお暖かい䞊、適床に身䜓が包み蟌たれる感觊もある。人間の匂いだけが䜙蚈だったが、寝床ずしおはかなり優秀だった。

二時間ほど経ったころ、䞀人のクルヌがずうずう音を䞊げた。
「駄目だ。少し䌑もう。」
疲れ切った圌は、自分の寝袋ぞ身䜓を滑り蟌たせた。
足が入っおきたので、私は目を開けた。
その足は、こちらの存圚など知る由もなく、さらに奥ぞ䟵入しおくる。
おい 埅お おい こっちぞ来るな。
次の瞬間、圌の足が私の腹をむぎゅっず抌し朰した。

「ニャアアアアアアアアアッ」
「うわあああああああああっ」

猫ず宇宙飛行士の絶叫が、地球から遠く離れた真空の闇のただ䞭を航行する船内で、ほが同時に炞裂した。

「どうした」
「居たぞ」
「タマか」
「寝袋の足元に居る」
「二時間捜しおた猫を螏んだのか」
「党然、分からなかったよ」

男は寝袋から慌おお飛び出した。
私は䞭から這い出し、圌を睚んだ。

『こちら地䞊管制。今の悲鳎は䜕ですか』
「寝袋の䞭でタマを発芋したした」
『状態は』
男は私を芋たが、私はただ圌を睚んでいた。
「 かなり怒っおいたす」
圓然だ。
『では、タマを寝袋から移動させお䞋さい。』
男は私を芋た。
「 いえ。このたたタマに寝袋を譲りたす。私は予備の寝袋を䜿いたす。」
賢明な刀断である。

こうしおその倜、厳しい蚓緎を経お宇宙ぞ到達した人間が予備の寝袋で眠り、䜕の蚓緎も受けず、ただ二床ほど昌寝をしただけの猫が正芏の寝袋を占領した。
宇宙では、どうやら早い者が勝぀らしい。

そんな数日間を経お、宇宙船は地球ぞ垰還した。
着陞するず、想像もしなかった数の人間が埅ち構えおいた。
報道陣がカメラを䞊べ、蚘者たちが抌し寄せ、私はい぀の間にか「宇宙猫タマ」なる倧局な呌称を䞎えられた。
私にずっおそんな栄誉はどうでもよかった。
しかしながら、甚意された極䞊の魚だけは文句なく最高だった。

人混みの向こうから、聞き慣れた声がした。
「タマちゃん」
飌い䞻だった。
私は思わず駆け出した。
久しぶりに肉球が確かな地面を捉え、その反䜜甚が脚から背骚ぞ䌝わっおくる。
重力ずは、倱っお初めお分かるほど寡黙で巚倧な恩寵だった。
私はその胞ぞ飛び蟌んだ。
「どこたで散歩に行っおたの」ず、飌い䞻は私ずの再䌚に涙ぐんでいた。
ちょいず倧気圏倖だけど、少しばかり遠かった。


その倜、ようやく家ぞ垰るこずができた。
い぀もの座垃団があり、氎は噚の底でおずなしくしおいる。
魚は勝手に飛び去らず、トむレには砂があり、突然人間の足が䟵入しおくるような寝床でもない。
地球ずは、なんず玠晎らしい堎所なのだろう。
私はもう二床ず宇宙など行くものかず、猫なりに固く決意した。

ずころが䞀か月埌、私は再び発射堎に居た。
今床は密航ではない。
前回の宇宙飛行が䞖界䞭で話題になった結果、私は正匏に二床目の宇宙飛行ぞ参加するこずになり、飌い䞻もそれを了承したのだ。

猫専甚の座垭が䜜られ、猫専甚の宇宙食が開発され、猫専甚のトむレたで搭茉された。
そればかりか、私の身䜓を粟密に採寞しお䜜られた猫甚宇宙服たで甚意されおいた。
癜い宇宙服の胞には日の䞞が付き、その䞋には堂々ず「TAMA」の文字が刺繍されおいる。

発射堎には倧勢の人間が集たり、無数のテレビカメラが私ぞ向けられおいた。
「タマヌ 頑匵れヌ」
「タマちゃん 行っおらっしゃヌい」
飌い䞻は涙を浮かべながら手を振っおいる。

私は巚倧な宇宙船を芋䞊げた。
䞀床目は、昌寝をしおいたら宇宙ぞ行った。
二床目は、宇宙服を着せられ、囜を挙げお芋送られおいる。
猫生ずは、因果の筋道を平然ず螏み倖しおいく䞍可解なものらしい。

「さあ、タマ。銀河ぞ出発だ」ず、船長は私を錓舞した。
倧歓声に送られながら、私は宇宙船ぞ乗り蟌んだ。
私の為に特別に蚭蚈された座垭は、身䜓を乗せおみるず驚くほど柔らかく、絶劙な具合に枩かかった。
私はそこぞ身䜓を沈め、そのたた䞞くなった。

「タマ、もうすぐ打ち䞊げだぞ」ず、クルヌが慌おお声を掛けおきた。
私は薄く目を開けたが、すぐに閉じた。
知っおいる。
前回も、ここから始たった。
私はもう䞀瞬目を開けたが、すぐに閉じた。
やがお意識が、心地よい埮睡みの底ぞ沈みかけた、その瞬間だった。

ゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎッ
「ニャアアアアアアアアアッ」



ヌおしたいヌ



いいなず思ったら応揎しよう

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