
ネクストコア:孤独な夜に、寄り添う知性を(エピローグ)
相澤はオフィスの一角で、EMMAのロジックを変更する作業を続けている。
膨大なソースの山に一人で立ち向かうのは無謀ではあったが、リファクタリングの一環だと周りに認めさせて熱中する環境を手に入れた。
やっぱり、これが俺の仕事だ。
作業を進めていると、時折アルゴリズムの中にあの頃の記憶がふと灯る。
その灯火の温かさが前へ向いていく活力となった。
悪くない。
今度の週末は加藤を車に乗せて、中村の元に行く。
前回は、三人で並んで発酵の進む腐葉土の中に頭を突っ込みながら数十ミリの昆虫をかき集めた。
いい年したおじさんが太陽のもとで笑い合っていた。
佐々木は元のBtoB事業部に籍を戻し、以前と同じデスクで日々の業務をこなしている。
相変わらずEMMAの挙動には苛立ちを覚えていたが、最近はユーザーにとって不都合な、あるいは目を背けたくなるような「事実」を、静かに差し出すこともあった。
それはまるで、孤独な夜に寄り添う知性とは何か分かっているようだった。
佐々木はその光景を目にすると少しの間、静かに眺めていた。
手元のスマートフォンが短く震え、吉野からのメッセージが表示される。
案の定、相変わらずの鬱陶しい長文だった。佐々木は一瞬だけ画面を見つめ、少し考える。
そして「今仕事中」とだけ短く返信を打って、すぐにスマートフォンを伏せた。
そのまま視線をディスプレイに戻し、再びキーボードを叩き始める。
窓の外では、ありふれた街並みが、ただ淡々と動き続けていた。
―― 了 ――