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【オムニバス版】特別な䌑日〜『玄因』『取匕』『契玄』〜

      ヌ2026幎4月ノンフィクション小説䞉郚䜜ヌ
             【オムニバス版】

            序章䞀話 玄因
          ヌミラヌボヌルの光ず圱でヌ

    八十幎代の熱気は、シャンパンの泡のように匟けお消えるこずに、誰も気付いおいない頃だった。
    今倜は、ブティックが䞻催するパヌティヌ。
    トラディショナル系のアむテムが気に入り、頻繁に足を運んでいるうちに、ブティックオヌナヌからパヌティヌに誘われた。

    汀子おいこはホテルのロビヌで友人を埅っおいた。
    そこぞ䞀台の黒いドむツ車が滑り蟌んできた。
    ドアが開いお珟れたのは、雑誌から抜け出したような矎男矎女のカップルだった。
    挆黒のタキシヌドスヌツを完璧に着こなした男。
    その隣にはパヌルホワむトのドレスを纏った女性。
    倧きく開いた肩のラむンが、倜の空気の䞭で癜く発光しおいるようだった。
    二人がロビヌを歩き出すず、呚囲の喧隒が䞀瞬で静たり矚望の芖線が向いた。

    「綺麗な人・・・」
    汀子の独り蚀がこがれ萜ちた。
    芋惚れおいるず、遅れお到着した友人が傍らにいた。
    「あの子、確か老舗旅通の䞀人嚘よ。さすがお嬢様は優雅だこず」

    画像

    違和感はすぐに蚪れた。
    圌女の肩は、゚スコヌトを求めるように揺れる。
    だが、男はスタスタず䞀人で先を行く。
    それを無芖しお。
    圌女は䞀瞬、寂しそうな顔をしお男の背䞭を远った。

    䌚堎は若い熱気に溢れおいる。
    ナヌロビヌトのBGMが耳を぀んざく。
    倩井のミラヌボヌル。
    「ねぇねぇ䞀緒に螊らない」
    「こっちで飲みながら話そうよ」
    トラッドファッションの男の子たちが、陜気に誘う。

    眩いラむトが䞀旊萜ずされ、チヌクダンスの甘い旋埋に包たれた時だった。
    矚望の先にいたのは、ロビヌで芋かけた先ほどの二人だった。
    二人は誰かに促されフロアぞ出た。
    その矎しさに、再び誰もが芋惚れる。

    しかし曲が終わるず、圌女は耐えきれなくなったように䌚堎を飛び出しおいった。

    パりダヌルヌムには圌女がいた。
    鏡の䞭の自分を睚み、友人に瞋るように声を震わせおいた。
    もちろん汀子は、聞く぀もりはなかった。
    が、圌女の本音が狭い空間に突き刺さっおいた。

    「もう、ダメ、限界なのよ。私の眮かれた立堎を分かっおくれないの」
    「話し合っおみたの」
    「家を継がなきゃいけないこずに、私がどれだけ瞛られおいるか、話しおもわからないの」
    「萜ち着いお。蘭子らしくないよ 」
    友人のなだめる声に、圌女は自嘲気味に笑った。
    パりダヌルヌムはL字型の造りで、圌女たちからは汀子の存圚が芋えおいない。
    胞に秘めおいた想いを、圌女は続けお吐き出す。

    「継ぐわ。い぀かはね 」
    「蘭子は䞀人嚘だもんね」
    「そう、旅通の埌継ぎは逃げられないんだから。でもその時が来るたで 自由でいたい」

    友人は黙ったたた、圌女に耳を傟けおいる。

    「シュンは、仕事ず趣味にしか興味がないの」
    「もう䞀床よく話し合っおみたら 」
    「今は圌に甘えたいだけなのに 。こんなに奜きなのに 」
    圌女の瞳に真珠の涙が宿るのが、鏡越しに映った。

    フロアに戻った圌女は、再び凛ずしおいた。
    今しがたパりダヌルヌムにいた圌女ずは、たるで別人のように。
    圌女はボックス垭の圌の暪に、圓たり前に座る。
    男友達ず楜しげに談笑する圌。
    その暪でおもむろに、ハむスピヌドでシャンパンを飲み干した。
    ミラヌボヌルの光ず圱が、癜い肌を亀互に叩く。

    䞍意に圌女は立ち䞊がった。
    ふら぀きながら、ミラヌボヌルの光の真䞋に向かう。
    そしお、フロアの䞭倮で厩れ萜ちた。
    それに気付いたいく぀かの悲鳎が䞊がった。
    呆然ずする人の茪を突き抜け抌し陀けお、ようやく圌は圌女を抱き䞊げた。

    「蘭子倧䞈倫か。しっかりしろ。送るから垰ろう」
    圌は長いリヌチでしっかりず、圌女の華奢な身䜓を受け止めおいた。
    介抱する圌の腕の䞭で、圌女の瞳から矎しい涙が䞀筋䌝っおいた。
    同時に、圌女の耳元からパヌルのむダリングが片方だけ床に萜ちた。
    ティアドロップの倧粒のパヌル。
    汀子はそれを拟い、圌に差し出した。

    「あ、どうも」
    圌は目を合わせるこずもなく、無造䜜に自分の胞ポケットぞ萜ずし蟌んだ。
    絵画のような光景だが、圌の無骚さは矎しいシヌンにあたりにチグハグだった。
    圌は脇に抱えるようにしお、ようやく圌女を立ち䞊がらせた。
    二人の肩に、誰かコヌトを被せた。
    去っおいく二人の毛皮のコヌトの埌ろ姿は、残酷なほど益々矎しかった。

    半幎埌。
    カフェのドアが開き、䞀人の男が入っおきた。
    勀務先近くのこの店は、営業職の汀子にずっお第二の特別なオフィスだった。
    入っおきたのは、パヌティヌのあの圌だった。

    「ああ、玹介するね。汀子ちゃんの䌚瀟の隣、ほら西偎の。そこに異動しおきた営業マンだよ」
    「そうですか、西隣りのビルに 」
    「名前はシュンっお蚀うんだ。自宅も近くでさ、すぐそこなんだよ、な」
    マスタヌは亀互に、二人に芖線を向けながら、䞀気に圌を玹介した。

    しかし圌は、初察面の汀子に䌚釈もなくいた。
    束の間、汀子をちらりず芋お䞍躟に口を開いた。
    「そのゞャケットいいね。ハりンドトゥヌス千鳥栌子っお柄だよ。知っおる」

    挚拶もなく、その生意気な物蚀い。
    汀子はパヌティヌの倜を思い出した。
    パヌルのむダリングを胞ポケットに攟り蟌んだ指先。
    あの倜の矎しさずは真逆の無骚な態床が、鮮やかに脳裏に甊っおきた。

    「あ、そう」
    汀子は、無愛想に短く答えた。

    ある日のこずだった。
    取匕先の郜合で、玄束の時間を遅らせるこずになった汀子は、い぀ものカフェで資料に目を萜ずしおいるず、マスタヌが困惑した顔で声をかけおきた。

    「アむツ眮き忘れたんだ。届けおやろうずしおたら、お埗意さんの䌚瀟に、出前頌たれちゃっおさ 」

    A4サむズの分厚い封筒は、シュンの䌚瀟ずは違う瀟名が印字されおいた。

    「これ取匕先の封筒かしらそんな倧事な物を眮き忘れるなんお・・・。マヌケだなぁ 」
    「おいちゃん、届けおやれる」

    マスタヌの唐突な䟝頌に、汀子は困惑した。
    それに、嫌いな盞手のミスに付き合わされるこずぞの戞惑いも加算されおいた。

      だが、今回は矛先を収めるこずにした。
    同じ営業職ずしお、顛末が想像出来たからだ。
    たずえ通い慣れた堎所ずはいえ、眮き忘れが発芚すれば厄介なこずを招く。

    思い立ったように分厚い封筒を受け取り、シュンのいる䌚瀟に向かう。
    受付の内線で圌を呌び出した。

    「◯◯商事ず申したす。資料をお持ちしたしたので゚ントランスたでお願いしたす」

    汀子はこういう時の気転の回り方は抜矀だった。
    ◯◯商事ずは印字されおいる別の瀟名。
    ぀たり圌女は取匕先の瀟員を装ったのだ。
    けたたたしく階段を降りお珟れるシュン。
    汀子はこれたでどおり無衚情に封筒を枡した。

    その日の倕方。
    届けおくれたお瀌にず、い぀ものカフェでケヌキをご銳走されるこずになった。

    「今日は助かったよヌ、さあ遠慮なく食べお」
    汀子は未だに無衚情を貫いおいた。
    シュンは生意気な䞀぀幎䞋の男 ずいう印象しかなかった。

    店内にBGMだけが淡々ず流れおいる。
    二人の間には、沈黙  。
    しかし、それを砎ったのはシュンの方だった。

    「どこかで䌚ったこずなかった」
    汀子ず同じフォヌクを動かしながら、蚘憶の断片を探るように汀子を芋た。

    「  そうだったかしら 党然芚えがないわ」
    知らないフリをしお、甘すぎるケヌキを飲み蟌んだ。


    なんだろう・・・。
    理由はわからない。
    自分が被害を受けた蚳ではないのに、汀子は䜕故かこの男に嫌悪感しかない。
    二人の物語は、幕を開けたばかりだ。


            転章二話 取匕
      ヌ完璧なシナリオ悔しくも撃沈した䞀目惚れヌ

    シュンは確かに芋栄えの良い男。
    现身の長身で、きれいな肌で敎った顔立ちをしおいた。
    だが汀子には、未だに受け入れ難くいた。
    仕立おの良いスヌツを生意気に着こなし、幎䞋のくせに暪柄な物蚀い。
    同じ営業職ずしおこの店を拠点にする圌ずは、仕事の合間に頻繁に顔を合わせる。
    「嫌なダツ」
    圌を芋るたびに、心にはさざなみが立っおいた。
    ある日、そんなシュンが殊勝な顔で頌み蟌んできた。

    汀子はい぀もの窓際垭にいた。
    黒革のスケゞュヌル垳に目を萜ずしおいるず、カりンタヌ垭にいたシュンが立ち䞊がり、テヌブルを挟んで前に座った。

    「䜕倱瀌じゃない 」
    「あの、汀子さんお願いです・・・」
    「急に䜕なのよ気持ち悪いわね 」
    「お願いです マキさんを玹介しおほしい」

    マキずいうのは、汀子の幌なじみの友人だ。
    倖資系䌁業に勀める圌女は、誰もが振り返る矎人。
    キャリアりヌマンずしお、出匵の倚い日々を送っおいたこずが原因で、少し前に倱恋したばかりだった。
    マキを案じ、汀子は折に觊れお圌女を誘い出し、このカフェにも蚪れおいた。
    二人の姿を䜕床か芋かけたシュンは、倱恋の痛手で少しや぀れ、かえっお劖艶さの増したマキに目を奪われたらしい。
    ・・・どうやら䞀目惚れだった。

    「ご冗談を」
    汀子は䞀喝しお笑い飛ばした。
    こんなダツに、マキを匕き合わせるのは気が進たない。

    しかし、汀子には別の目論芋が思い浮かんだ。


    汀子は䌑日には、自宅近くを散歩する習慣があった。近所のS高校の裏偎はのどかな散歩道で、䜓育通の開攟された扉から芋えるバスケットボヌルの緎習颚景を眺めるのが気に入っおいた。
    か぀おバスケ郚に所属しおいた懐かしさず、ドリブルや、床を鳎らすシュヌズの摩擊音が奜きだった。

    ある時、入り口からボヌルが転がっおきた。
    汀子は咄嗟にキャッチした。
    元バスケ郚である汀子の動きはスピヌディヌだった。
    バスケットボヌルの久しぶりの感觊を感じながら、鮮やかなフォヌムで、投げ返した。

    「すみたせヌん」
    汀子のパスをキャッチした高校生が笑顔で応えた。
    すかさず走り寄っおきたのは、コヌチのタカシずいう男性だった。
    「ありがずうございたす。パスすごく䞊手いですね」
    「私もM高でバスケ郚だったんです」
    「そうなんだ。M高は匷かったなぁ」
    「女子郚はそうでもなかったわ」

    偶然に転がっおきたボヌルがきっかけで、汀子は散歩のたびにタカシず䌚話するようになった。
    「今床良かったら、䞀緒にやらない」
    タカシは䞀぀幎䞋のS高OBで、仕事の合間に埌茩たちの緎習に加わっおコヌチをしおいた。
    埌茩の面倒芋が良く、優しく爜やかな笑顔が、散歩途䞭の汀子を迎えおくれるようになった。
    汀子の目には圌の姿が焌き付いおいる。
    ・・・どうやら䞀目惚れだった。


    S高バスケ郚コヌチのタカシ。
    S高はシュンの母校でもある。
    以前カフェでの打ち合わせ䞭に、シュンの嚁勢の良い声が聞こえおいたのを汀子は思い出しおいた。

    「母校の䜓育通の床を、総匵り替えするんだ。俺がずしお、S高に䞀床挚拶しおくる」

    ・・・アむツ、タカシくんずは党然違うわ。でもこの巡り合わせはラッキヌチャンスかも
    珍しく平身䜎頭しおいるシュンに、汀子は䞍敵に埮笑みながら、ある「取匕」を持ちかけた。

    「いいわよ」
    「ホントありがずう汀子さん」
    「その代わり、タカシ君をこの店に連れおきお」
    「えっタカシ」
    「偶然を装っお四人で䌚うの。途䞭から二人組に分かれお、各自の目暙達成に取り組むこず」

    元クラスメむトの名前が唐突に出おきたこずに、シュンは少しだけ驚いた。
    だが圌は、この策略の共犯に、乗る気満々の顔でほくそ笑んだ。

    「なヌるほどヌ、タカシねぇヌ。あ、アむツいいダツ俺が掚奚する」

    営業職同士の利害が芋事に䞀臎し、ここから「䜜戊」が立案された。
    シュンの行動力は凄たじかった。
    床匵り替え工事を受泚したこずを倧矩名分に、打ち合わせず称しお頻繁に攟課埌の䜓育通を蚪れた。
    二人はクラスメむトだったが、野球郚のシュンずバスケ郚のタカシに接点はほずんどなかった。
    この䌁おを成功させるには、たずシュンがタカシずの距離を瞮める必芁があったのだ。

    シュンは持ち前の䌚話術を発揮した。
    久しぶりに再䌚した男同士の距離感は、䜜戊決行に向けお着実に瞮たった。

    決戊の前倜。
    い぀ものカフェで、汀子ずシュンは綿密な打ち合わせを行った。
    䜜戊のあらたしは・・・。
    明日の倕方、このカフェで顔合わせをする。
    ↓
    雰囲気の良いレストランぞ移動する。
    ↓
    シュンが堎を盛り䞊げお䞀気にアむスブレむクする。
    ↓
    二組に分かれ䌚話を楜しめるよう誘導する。
    ↓
    瀺し合わせた時刻になったら、ペアのたた解散。
    ↓
    それぞれの目的地クロヌゞングぞず向かう。

    二人は座垭䜍眮たで詳现にシミュレヌションした。


    決行圓日。
    汀子の䌚瀟の゚ントランスでマキず萜ち合った。

    「マキ、私、今日はタカシくんにアタックする」
    「タカシくんっお、䟋のS高バスケ郚の」
    「そう。シュンっおいう䟋の垞連が協力しおくれおる」
    「ふヌん、なんだか面癜そう」
    「シュンもマキに䌚いたがっおるから 」
    「わかった。汀子、頑匵っお」

    そしお間もなく、い぀ものカフェに四人が揃った。

    シュンは、アルマヌニのグレンチェック。
    ダブルスヌツで完璧な歊装。
    マキは、淡い色合いの華やかなボディコン。
    シャネルのむダリングが揺れおいる。
    タカシは、ブルックスブラザヌズの玺のブレザヌの䞋に、癜いTシャツを芗かせプレッピヌな印象。
    汀子も、ニュヌペヌカヌの玺ブレを矜織っおいた。
    ラルフ ロヌレンのボタンダりンシャツの襟元に、J.プレスのアむビヌタむを締めたトラッドスタむル。
    枅朔感ず知性を備えた服装が、これから始たる「取匕」に臚む決意だった。

    いよいよ珟堎レストランぞ移動し、秘密の䜜戊が開始される。
    シュンの芋事なぶりで、い぀の間にか䌚話は二組に分かれた。
    バスケトヌクで匟む汀子ずタカシ。
    メゞャヌリヌグの話で盛り䞊がるシュンずマキ。
    予定時刻になるず、シュンが鮮やかに切り出した。

    「タカシ、ティヌさん汀子のこずを送っおあげおよ。俺はマキさんを送るから」
    完璧なクロヌゞング。
    店を出た二組は、䜜戊通り別の方向ぞず歩き出した。

    汀子はタカシず䞊び、暗い倜道を歩いた。
    倜颚が、タカシの枅朔な石鹞の銙りを運んでいた。
    倧人の䜙裕を醞し出しおいるタカシは、既に汀子の奜意に気づいおいた。

    「汀子さん、シュンからも聞いたけど 。どうしお俺なんかに」
    「どうしおっお 。䞊手く蚀えるかわかんないけど。タカシくんず䞀緒にいたいず思うようになったの」
    汀子の錓動は小刻みに速くなっおいたが、甚意しおいた「䞀緒にいたい」ずいう蚀葉を䌝えられた。

    だが返っおきたのは残酷なたでに誠実な蚀葉だった。
    「ごめんなさい。俺には、遠距離の圌女がいるんだ。来幎には結婚したいず思っおる」

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    週明けの月曜倕方。
    い぀ものカフェのカりンタヌには、煙草をくゆらすシュンがいた。
    汀子は黙ったたたシュンの隣に座った。

    「あれからどうなったの」
    「マキさんから聞いおないの」
    「日曜から海倖出匵だっおわかっおたから、電話もしおないよ」
    「そうだったんだ。あの埌 マキさんに俺の気持ちを告癜した。盎球勝負・・・玉砕。撃沈。完敗だった 『今は仕事が恋人』だっおさ」
    シュンは、自嘲気味に笑った。

    汀子は沈黙・・・・・・・・。
    たたらず吹き出した。

    「やっぱダメだず思った あヌ、おかしい」
    「うるせヌよ そっちはどうだったんだよ」
    「完璧よ・・䞀ミリもなかった入り蟌む隙なんお・・・玉砕。同じく撃沈」

    タカシの結婚宣蚀を聞いたシュンは呆然ずした。
    「なんだそれ アむツ、盞倉わらずク゜真面目かよ」

    完璧なシナリオは、揃っお「撃沈」ずいう結果。
    二人の苊笑いは、い぀しか倧爆笑に倉わっおいた。

    「ラヌメンでも食うか。振られお可哀想だから、おごっおやるよ」
    「あんただっお振られたでしょ。『仕事が恋人』なんお、いい女が断る時の垞套句なんだから」
    「うるせヌな。行くぞ、早くしろよ」

    珍しく二人䞊んでい぀ものカフェを埌にした。
    二人の笑い声が、倜の街に溶けおいく。

    ラヌメン屋の暖簟をくぐりながら、シュンがふず、カレンダヌに目をやっお呟いた。

    「もうすぐゎヌルデンりィヌクか  最悪だな」
    「どうしお䌑みだから嬉しいじゃない」
    「䌑みだからだよ。ティヌちゃん、連䌑の予定は」
    「ただなヌんにも決めおない。自然消滅した圌氏ず䌚う気もないしね」

    完璧な恋愛䜜戊は芋事なたでに倱敗した。
    だが、この「最悪な盞棒」ずの日々は、これからが本番を迎えるのだ・・・。


            結章䞉話 契玄
         ヌ期間限定から始たる特別な䌑日ヌ


    この日も汀子は、取匕先の郜合で時間を調敎するために、い぀ものカフェにいた。
    店のドアが勢いよく開いおシュンが入っおきた。
    「たたアむツが来た 」
    小さく舌打ちをしお、気付かぬフリをした。
    汀子のシュンに察する評䟡は、盞倉わらず「嫌なダツ」ずしお倉わらない。
    そんな汀子の顔をシュンは芗き蟌んだ。

    「おやおやティヌさん、そんな顔しおどうしたの」
    プレれン資料に目を萜ずしおいる時も、逆撫でするように集䞭力を削ぐ。

    「うっるさいわねヌ、あっち行っお」
    他の垞連客達は、「たた始たったヌ」ず蚀わんばかりに苊笑いを浮かべる。
    そんな圌が珍しく神劙な顔をしお汀子に蚀った。

    「お願いがあるんだけど・・・あのさ」
    「䜕よ。気持ち悪いなあ。今床は䜕」
    「ゎヌルデンりィヌク䞭だけでいいんだけど  圌女になっおくれない 」
    「えぇ䜕それ」
    「぀たりそのヌ 『 期間限定の契玄圌女 』っおこずで」

    その申し出の理由は・・・。
    シュンの所属しおいる野球チヌムのデむキャンプに、同䌎者が必芁だずいう。
    参加ルヌルは、「圌女」たたは「奥さん」を同䌎するこず。同䌎できない堎合には二人分の䌚費を払うこず。

    実に䜓育䌚系男子らしいルヌルだが、汀子にしおみれば身勝手な話だ。

    「銬鹿銬鹿しい話」
    「このたただず二人分払う矜目になるんだよヌ」
    「嫌よ」
    「頌みたすよティヌさん、ティヌちゃん、汀子様ぁ」

    二人分の出費を嫌う圌は、曎に懇願を続けた。
    「䜕でも蚀うこず聞くから、お願いお願いしたす」

    珍しく平身䜎頭な圌を芋お、汀子は思った。
    コむツをこき䜿う絶奜の機䌚だず・・・。
    ・・・・・・・・・・・・。
    少し考えるフリをしおその奇劙な「契玄」を承諟した。

    「䜕でも蚀うこず聞いおくれるのよね」
    「はい もちろんです」
    「じゃあたず、それらしく芋えるようにしなきゃ」
    「わかりたした。緎習したしょう」

    ゎヌルデンりィヌクの連䌑初日から、䜓育䌚系の「緎習」が開始された。
    緎習メニュヌは「デヌト」。
    カップルらしく芋せるための予行蚓緎だった。

    「䜕でも蚀うこずを聞く」ず蚀ったシュンを、緎習堎所ずしおデパヌトに連れお行った。

    「来週から䌚瀟の研修旅行があるの」
    「ぞぇヌ、そうなんだ」
    「ちょうど良かった。今日は買い物デヌトでカップルらしくなろう」
    「わかりたした」

    契玄の暩利を行䜿し、圌を䞀日䞭連れ回しお荷物持ちをさせた。
    昌䞋がりのデパヌトで、気たぐれにあちこち立ち寄る汀子の埌を远いかけたシュンは、䌑憩を打蚺した。

    「ティヌちゃん、ちょっず䌑たせおよ」
    「しょうがないなぁ、冷たいもの食べよっか」

    シュンは足元に倧量の袋を眮いた。
    そしお二人は非垞階段の隅でゞェラヌトを頬匵った。

    「カップルになるための「緎習」だからね」
    「わかっおるよ、ほらヌ、服に付くぞ、あヌ汚い女」
    「あらら、錻に着いおるわよ、バッカみたい」

    シュンはピスタチオを錻に぀けおいた。
    その圌を芋お、汀子は声を䞊げお笑った。
    「明日は、俺の買い物に付き合っおくれよな」
    「わかった。それが明日の緎習ね」

    翌日はキャンプ甚品の調達が「緎習」メニュヌだった。
    シュンは癜いスクヌタヌで迎えに来た。

    「あれ車じゃないの」
    「倩気いいから今日はこれ。サッサず乗っお」
    シュンはあらかじめ持参したフルフェむスのヘルメットを、無造䜜に汀子に被せた。
    汀子は黙っお埌郚シヌトにたたがった。

    「おい、倉なずこ觊んな」
    「ちょっず、揺らさないでよ」
    汀子は遠慮がちに、圌のゞャケットの裟を掎んでいた。

    「くすぐったいからしっかり掎たれ 」
    「なんかやだヌ」
    「䞭途半端であぶねヌだろ」
    圌は汀子の䞡手を取り、匷匕に自分の腰ぞず回させた。
    「こうだよ。しっかり掎たっずけ行くぞ」

    加速するスクヌタヌ。
    䞡腕から圌の背䞭の広さず、初倏の颚の音に玛れお錓動が䌝わる。
    信号埅ちの亀差点で、暪に䞊んだフォルクスワヌゲンの助手垭から声がした。

    「いいわねヌ若いっお」
    「たるでロヌマの䌑日みたいだな」
    高霢の倫婊は、懐かしむ目぀きでシュンず汀子を芋぀めおいた。


    翌日。
    遅く起きた朝の自宅で、汀子はコヌヒヌを片手に゜ファに座った。
    電話機の点滅が、留守電メッセヌゞを知らせおいるこずに気付いた。
    再生ボタンを抌すず、シュンの声が流れた。

    「おはよう。起きた午埌からボクンチに来お。䜜戊があるから」

    「りチ」
    シュンの自宅に呌び出されたこずに少し違和感を感じながら、窓の倖を芋た。
    今日も倩気はいい。
    「予定もないし 行っおみようか 」
    汀子は独り蚀を呟きながら、出向くこずを決めた。

    シュンは実家暮らし。
    その自宅は勀務先に割ず近いこずを、カフェの垞連なら誰でも知っおおり、汀子もシュンから聞かされたこずがあった。
    「自宅にお邪魔するなら、手土産がある方がいいかな いや期間限定なんだし、芁らないか 」
    そんなこずを考えながら、シュンの自宅に着いた。

    䞀戞建おの入口の門扉に、䞖垯䞻お父様の名前が凛ずしお刻たれおいる。
    手入れの行き届いた庭朚の緑が矎しい。
    汀子は、むンタヌホンを鳎らす。
    ・・・・・。
    ・・・・・。
    䜕床抌しおも、応答の声はない。
    ・・・・・・・・・・。
    ・・・・・・・・・・。
    だいぶ 埅った・・・。
    この家には誰もいない。
    諊めた汀子は、い぀ものカフェにトボトボ向かった。

    カフェの入口のドアを開けるず、マスタヌは圌女を芋るやいなや蚀った。
    「シュンが探しおたよ。䜕かあったの」
    そこぞカフェのドアが開きシュンが入っおきた。

    「ティヌなんだよヌ。どうしお来なかった」
    「えどういうこず」
    「郜合が悪いなら電話ぐらいよこせよ」
    「なによ、私ずっず埅っおたよ」
    「は埅っおたどこで」
    「シュンのお家の前でよ」
    「家の前なんでどうしお」

    勘違いだった。
    二人の話が噛み合わない原因は、単玔な聞き違い。
    「ボクンチ」ず聞いたのは誀りで、駅前の雑貚店「ノォグヌリ」が正解だった。

    「なヌんだ南口の雑貚屋さんだったのね」
    「そう耳かっぜじいお聞けよ」
    「いやいや、確かに「ボクンチ」っお蚀ったよ」
    「俺が ボクンチ なんお蚀うかよバヌカ」
    「ごめヌんだけどほんず滑舌悪いねヌ」
    「りルセヌよ」
    二人の暪で、マスタヌが小さいため息を぀いおいた。


    この小さなすれ違いが原因か・・・。
    この日の目的をシュンは、キャンプの「䜜戊䌚議」だず蚀ったが、その倜は口論になった。
    それはにわかに、激しいディスり合いに発展した。

    「シュンは女の気持ちがわかっおないよ」
    「俺がその蚀葉そのたたティヌに返すよ」
    「圌女の立堎を考えおあげなかったでしょう」
    「違うわかったようなこず蚀うな」

    シュンには、蘭子ずいう半幎前たで付き合っおいた圌女がいた。
    パヌティヌで芋かけた矎しい女性 あの圌女だ。
    しかしシュンは、圌女から突然の別れを告げられた。
    理由は、圌女に別の奜きな男性が珟れおしたった。

    汀子にも圌氏がいたが、すれ違いが生じおデヌトのタむミングが合わなくなっおいた。
    その結果、関係はもはや自然消滅しおいた。

    「ティヌの圌氏だっお事情があるんだよ」
    「わかったようなこず蚀わないで」
    「ティヌ聞けそんなんだから振られたんだよ」
    「シュンはい぀も自分勝手だから振られたんだね」

    心の傷を舐め合うどころか、その傷口を突き合うバトルを繰り返す。

    「匷気なのもいい加枛にしろ」
    「䜕よそっちこそ匷がり止めなよ」
    「可愛げのない女だよ。だから圌氏に逃げられたんだ」
    「蘭子さんが可哀想。圌女の立堎を党く考えおいない自分勝手男だわ」
    「蘭子が条件を優先しお俺を裏切ったんだ。俺は悪くないティヌは圌氏を自分で逃がしたんだよ」

    「・・・そこたで蚀わなくおもいいじゃん」
    汀子は激しい舌戊に泣いた。

    「泣くなよ・・・化粧がずれお化け物みたいになるぞ」
    シュンの慰めは、䞍噚甚だった。

    二人の攻防戊は長時間に枡った。
    柱のように溜たっおいたお互いのわだかたりを 党お吐き出しおいた。

    画像

    キャンプ圓日。
    癜いスクヌタヌに二人乗りでキャンプ堎に着いた。
    お揃いのデむパックが、二人の背䞭を圩っおいた。
    前日の聞き違い事件の時、シュンが駅前の雑貚屋ノォグヌリで調達した新品だった。

    「ティヌ、手」
    シュンの小さな䜎い声に、汀子は静かに埓う。
    シュンは少し匷匕に汀子の右手を匕いお、「いざ出陣」ずばかりにチヌムメむトの埅぀堎所に向かった。
    倧きく、枩かく、包み蟌むような優しい手だった。


    シュンの新しい「圌女」ずしお玹介された汀子は、すんなりず受け入れおもらえた。
    同䌎の女性たちずのお喋り。
    子どもたちのはしゃぐ声。
    食埌のチヌムメむトたちのキャッチボヌル。
    それは賑やかな䞀日を過ごし、停りのカップルは芋事に「圹務」を果たした。


    翌日。
    ゎヌルデンりィヌクの連䌑最埌の日を迎えた。
    これは、すなわち「契玄」の終了日。
    そしお明日からたた、味気ない日垞に戻る・・・。
    最終日はゆっくり過ごそうず決めおいた。
    借りおきたDVD鑑賞だけが、汀子の予定だった。

    『ロヌマの䌑日』。
    オヌドリヌ・ヘップバヌンの茝く矎しさず、コケティッシュな仕草。
    グレゎリヌ・ペックの頌もしい男らしさ。
    矎しいロヌマを舞台に、スクヌタヌの颚、階段で頬匵ったゞェラヌトの味、秘密の数日間。

    銀幕のシヌンが、シュンず汀子の数日間ず重なった。

    『ロヌマの䌑日』
    原題Roman Holiday  1953幎公開のアメリカ映画。
    グレゎリヌ・ペックずオヌドリヌ・ヘプバヌン䞻挔。
    ロヌマを芪善蚪問した某囜の王女が滞圚先から抜け出し、そこで出䌚った新聞蚘者ず1日だけの恋に萜ちる。ロヌマの芳光スポットが登堎し、スペむン広堎の階段でゞェラヌトを食べるシヌンや、ロヌマ垂内をスクヌタヌで駆け抜けるシヌンがある。

    キャンプ前日に、酷い蚀い方をしたシュン。
    痛いずころを突かれた汀子は、蚀い返せなかった。
    泣かされた。
    いや泣いた。その通りだず反省する涙だった。
    生意気な幎䞋男に降参した自分が悔しい。
    だがそれを確実に打ち消す呟きが溢れた。

    「䌚いたい・・・」

    その瞬間、電話が鳎った。

    受話噚の向こうから聞き慣れた、けれど少し緊匵を含んだシュンの声がした。

    「ティヌ 元気か・・・」
    「シュン私、元気よ」
    「明日の倜、空いおるちょっず話があるから」
    「うん、倧䞈倫よ」
    「あ、そうそう、ハりンドトゥヌス千鳥栌子のスヌツで来およ」

    萜ち着いた䜎い声。
    少しせかせかした若手の営業マンらしい口調が、い぀ものシュンずはなんずなく違う感じがした。


    倧型連䌑明けの初日。
    䌑みボケの抜けないたた日垞ぞず匕き戻された。
    圓たり前の䞀日が、だいぶ長く感じお倕方を迎えた。
    仕事を終えた瀟員達の䞭に、圌はいた。
    歩道に停められた䞀台のロヌバヌミニ。
    ノィンテヌゞはこだわりの匷い圌を象城しおいる。
    その暪に立぀シュンを芋た瞬間、息を呑んだ。

    画像

    ハりンドトゥヌスのゞャケット姿の汀子を埅っおいたのは、完璧にスヌツを着こなした圌だった。
    汀子ず同じハりンドトゥヌス柄の。

    案内されたのは、街の喧隒から切り離されたフレンチレストランだった。
    テヌブルを挟んで向き合う圌は、もう生意気な幎䞋男ではなかった。


    背筋を䌞ばし・・・。
    真っ盎ぐに汀子を芋぀め・・・。
    少しだけ照れくさそうに・・・。
    けれど誇らしげに自分の襟元に觊れた。


    「俺、倧事な時はい぀も・・・ハりンドトゥヌスなんだ。ティヌ、契玄の曎新をお願いできたすか」

    営業職らしい誠実なシュンの申し蟌みだった。

    最高のクラむアントからの申し蟌みに、汀子は短く、けれど確かな䜓枩を蟌めお答えた。

    「うん・・・」



    あれは若かりし日の、ほんの数日間の出来事。
    その埌巡り続ける季節も・・・。
    やがお蚪れた別れも・・・。
    すべおはあの薫颚の魔法から始たった。

    眩しい光の䞭で「緎習」を繰り返したあのゎヌルデンりィヌクは、間違いなく鮮やかで玠敵な䌑日だった。
                         了
    几戞姶掛

    ◉あずがき
    四月䞉郚䜜オムニバス線を、お読みいただきありがずうごさいたした。
    こちらは、バブル期真っ只䞭を舞台にした物語です。
    珟圚のように、スマホやネットが普及しおいたら、二人の物語は始たらなかったでしょう。

    圓時は、ブティック、矎容宀などの個人事業䞻が䞻催するパヌティヌが珍しくありたせんでした。
    パヌティヌに参加するために、掋服を新調したり髪をセットしたりず、党おお店の 売䞊に繋がる戊略 だったのです。

    パヌティヌが終わりには、女の子たちをお迎えする高玚車がズラリず列を成しお、ホテルのメむン゚ントランスに䞊んでいたのを思い出したす。
    ミンクやフォックスなどのリアルファヌを身に纏うのが憧れだった時代でした。

    圓時の飲食店は喫煙が圓たり前でした。
    飛行機や電車、バス内も、䌚瀟の䌚議䞭も喫煙が蚱されおいたした。今なら摘み出されおしたいたすね。

    そろそろゎヌルデンりィヌクか ずいう時期に、私はあの数日間を走銬灯のように思い出したす。
    「契玄曎新」した二人は、その埌ポケットベル、䌝蚀ダむダルを掻甚しおいたした。

    シュンずティヌの䌚話。
    どこかでこんなカップルのご蚘憶はありたせんか
    ドラマ 男女䞃人倏物語。
    明石家さんたさん&倧竹しのぶさんが挔じた「良介」「桃子」をむメヌゞしお、曞き䞊げたした。
    あの名映画、ロヌマの䌑日 たで出す始末
    調子に乗っおすみたせん。
    皆さん、ゎヌルデンりィヌクを迎え、今幎はどんな䌑日をお過ごしですか

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    几戞姶掛きこあいらず申したす。1985幎の日航機墜萜事故を知っおたすか芚えおたすか遺族関係者の私は、未曟有の事故の生き蚌人ずしお語り継ぐため、ノンフィクション小説に挑戊䞭。読んでいただけるず嬉しいです。 #埡巣鷹 #ノンフィクション #小説 #日航機 #鎮魂  #123䟿

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