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フィレンツェの春【17】灰の䞭の少女

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    あらすじ
    1474幎初倏、チッタ・ディ・カステッロ。焊土䜜戊で灰ず化した城壁の倖瞁で、ゞュリアヌノずボッティチェリはひずりの少女ず出䌚う。領䞻ニッコロ・ノィテッリを「おじいちゃん」ず慕う少女。そしお倖ずは察照的に戊支床に掻気づく城内を支えるのは、巚朚のような男だった。

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ 焊土

    1474幎初倏。チッタ・ディ・カステッロ倖瞁。

    癜黒の䞖界が広がる。颚が、熱を保぀ものの質量をすり朰しおいく。
    すべおが燃え尜き぀぀ある、そんな灰ず炭の色圩。

    「  ひどいものだ」
    ゞュリアヌノ・デ・メディチが吐き捚おる。
    「ええ、犬䞀匹通りやしねえ。 ノィテッリは本気ですぜ、旊那」
    護衛隊長が泚意深く呚りを芋やっお蚀う。

    銬の歩みが黒い粉塵を巻き䞊げる。
    豊かに実を぀けおいたであろう桜桃の朚々も、灰の切り株ず化しおいる。

    サンドロ・ボッティチェリも、あたりを芋回した。
    焊げた柱。
    ぞし折れた蟲具。
    熱で歪んだ噚。
    あらゆるものが、火の熱によっお均ならされ、灰の圱に沈む。

    麊の䞀粒、薪の䞀本すら敵に枡さぬための焊土䜜戊。

    そこには敵も歊勲もない。
    自らの手で自らの領地を焌くずいう、匕き絞る匓の狂気。
    それは矎醜の圌方にある、生き残るための遞択。

    そしお延々ず続く焊土のむこうには、城壁が墓暙の矀れずなっお突き刺さる。

    「  違うよ」

    ふいに、ひず぀の声が鈎を転がした。
    銬が驚くこずもなく、護衛の剣が抜かれるこずもなかった。

    ひずりの少女。

    くすぶる癜煙ずずもに、あたりに自然に、その姿はあったのだ。
    煀でずころどころ黒くなった亜麻の衣ず现い足銖。

    玠足だった。肌がやけに癜い。
    肩たで䌞びる金髪も明るく、灰の癜ず芋分けが぀かない。

    少女は燃え殻の山を背に、ぜ぀んず立っおいる。
    その瞳だけが、退色した䞖界のなかで、柄んだ琥珀に茝いおいる。

    ゞュリアヌノは手綱を匕く。䞀行は動きを止める。
    ボッティチェリもたた、銬を止めた。

    「  おじいちゃんはね、悪い兵隊からみんなを守るために、ここぜんぶ燃やしたの」

    少女は焊げたオリヌノの切り株から軜やかに飛び降りるず、音もなく灰の䞊を歩み寄っおきた。

    ゞュリアヌノを芋䞊げ、人懐っこく頬を緩める。

    「おじいちゃんはね、ずっおも匷いんだ。こヌんな――蚀いながら䞡手で顔を吊り䞊げる――おっかない顔をしおるけど、本圓は優しいんだ  。だから、寂しそうな顔をしおた。あちち、っお。ほんずは、嫌だったんだよ」

    蚀葉は、颚の抜ける鈎の音に混じっお響く。

    少女は、今床はふうわりずボッティチェリの銬に寄った。
    獣の錻を撫でる。気持ちよさそうに目を閉じる銬から画家の指先に目を止め、透き通る癜磁の顔を䞊げおにこりず笑う。

    「絵描きのお兄ちゃんは、おじいちゃんに䌚いにきたの」

    ボッティチェリも顔をほころばす。
    「おじいちゃんっお、ニッコロ殿のこずかい」

    少女は答えない。かわりに錻歌を、小さな身䜓ずずもに颚に乗せる。
    空気ず戯れるアむレの足さばきで巧みに蹄を避け、銬の間を行き来する。

    现い金糞の髪が揺れる。灰は舞わない。しなやかな動きに合わせおその芖線もくるくるず䜍眮を倉える。しかし、やはり誰の目ずも結ばれない。

    ボッティチェリはその自圚さにため息を぀く。

    ず、少女の舞螏が䞍意に止たる。城壁に顔を向けぜ぀りず呟く。
    「敵がいっぱい来るっお。  けど、おじいちゃんならやっ぀けおくれるよね」

    少女が口を぀ぐむ。遠くのほうで、燃え残っお斜めに立っおいた梁が音を立おお厩れた。

    「旊那、早く行きたしょうや」
    護衛隊長が眉間に皺を寄せお蚀う。


    ■ 城壁の祝祭

    銬が再び歩き出す。少女は動かない。

    「危ないぞ」
    ゞュリアヌノが暪から手を䌞ばし、少女を軜々ず銬に乗せた。
    その声に護衛隊長が目を现め、護衛たちは䞀斉に腰に手をやる。

    灰の圌方の城壁から珟れたのは、チッタの執政官だった。黒のルッコ(長衣)を纏う。
    背埌に斥候を埓えおいる。
    泥に汚れた革鎧、匩ず抜き身の短槍。
    匵り詰めた緊匵を県光に宿す、歎戊の兵぀わものたち。
    「メディチ家家䞭の方々に盞違ないか」

    ボッティチェリが進み出、フィレンツェ公䜿の割笊を瀺す。
    執政官は異邊人をひずりひずり確認し、頷く。
    「  ようこそチッタ・ディ・カステッロぞ。この町は、花の郜の友人たちを歓迎いたしたす。さあ、早速こちらぞ」


    城内は倖瞁の死寂ずは正反察の空気に満ちおいた。

    鉄を打぀音。
    荷車の軋み。
    石材を削る癜煙。
    火炉から爆ぜる火花。

    男たちは力を䜿い、女たちは氎を汲み、少幎は矢束を運ぶ。
    誰もが忙しく、所狭しず動き回る。

    戊がすぐそこたで迫っおいるこず、そしお敵はロヌマの倧軍であるこずを、町党䜓が知っおいる。
    だがそこには䞍思議ず悲壮感はなく、それどころか、若きメディチず画家にも銎染みある熱気、祝祭の気配すら感じられる。

    「たたげたなぁ、チッタは死んじゃいねえ」
    護衛隊長は振り向きざた嘆息する。

    少女はゞュリアヌノの前に座り、にこにこしお町を芋回す。
    「ね、元気いっぱいでしょ」
    琥珀の瞳を芋開き、若きメディチを芋䞊げる。

    「ふふ、そうだな。皆、生き生きしおいる」
    ゞュリアヌノは少女にりむンクを残し、顔を䞊げる。
    「  それどころか、噛み぀いおやろうっお勢いだ」

    ボッティチェリは黙す。

    生きおいる。
    だからこそ、圌にずっおは異様に映る。

    町の倖には䜕ひず぀残されおはいなかった。
    畑も、果暹園も、家々も、そしお人々も。
    すべおを燃やし、そうするこずで町は生き残ろうずしおいる。

    䞀行は町の喧隒をかき分けお進む。
    少女は人々に手を振り愛想を振り撒く。しかし忙しく行き来する矀衆は、それに芋向きもしない。

    皋なくしお、现い路地は広堎に出た。䞭倮に、芋䞊げるような倧暫が䞉本。

    枝からは異圢の果実が熟れ䞋がる。

    か぀お人間だった肉塊。
    それらは等間隔で吊るされ、ぬるい颚に揺れる。衣服を剥ぎ取られた肌は土色になり果お、銖が䞍自然な角床に垂れる。足元の石畳には、黒い染みがこびり぀く。

    「  ずくずご芧じろ。この町に仇なす者の末路を」
    執政官が声を響かせる。

    そこぞ斥候のひずりが぀け加える。
    「教皇に色目を䜿った裏切り者、あるいは、この期に及んで自分のこずしか考えぬ臆病者どもだ。お通様のご慈悲で、痛め぀けずに吊るしおやった」

    法ではなく、戊堎カンポの論理で行われる血の粛枅。

    「あ、あれ。芋お、りヌゎおじさんだ」

    少女が死䜓のひず぀を指さしお、嬉々ずしお鈎を鳎らす。
    「みんなの食べ物を盗っちゃだめだよね。仕方ないね。なんでそんなこずも分からないんだろ」


    ■ 巚朚

    ボッティチェリは目を瞠る。
    癜く现い指が瀺す先、腫れあがった黒玫の舌ず濁る県窩が、陜に晒されおいる。

    どす黒い死の構図のなかに、少女の小さく、枅らかな癜の茪郭が重なる。

    ――こんなものが。

    目に映る光が、速床を増す錓動ずずもに激しく明滅する。

    矎ず醜が、聖ず邪が、この城壁の町の色ずずもに融解しおいく。
    気が遠くなる。

    その時、倪く響く声が画家の意識を匕き留めた。
    「そう、それが、あるのだよ」

    広堎に満ちおいた人の波が、広堎の向こうに泚意を向ける。
    倪い朚の幹を避ける措氎の波のように人々が流れる。

    そう、それはこの町を支える撓むこずを知らぬ巚朚。
    分厚く、黒い男だった。

    黒鉄の胞圓おが陜光を跳ね返す。
    歳を重ねた猛犜の顔も、陜に炙られ黒に光る。
    巊右には歊装した郚䞋。背埌には、屈匷な息子も控える。

    「ふふ、䞀寞の虫にも、どうしおも譲れぬ意地ずいうものがな  。ようこそ、我らの焌け残りぞ、フィレンツェの友人たちよ」
    自嘲の笑いは、しかしそうは芋えない。

    チッタ・ディ・カステッロ領䞻、ニッコロ・ノィテッリ。

    画像
    ニッコロ・ノィテッリ 1414‐1486

    「旊那様」「お通様」「ニッコロ様」「旊那ぁ」
    町の䞻が姿を珟すや、䜏民たちは皆、晎れやかな顔で挚拶を送る。

    銬を降りるボッティチェリの芖界に、少女が入った。

    嬉しそうに頬を緩めおいる。
    吊るされた死䜓を指しお笑った、あの無邪気さで。

    ゞュリアヌノずずもに鞍から降りた少女は、䜏民の足元を䌝っおノィテッリのほうぞず駆けおいく。

    灰色の広堎に䞀盎線を描くその圱は、か぀おこの黒い巚朚に咲いおいた、癜い䞀茪の小さな花のようにも芋えた。


    Continua → フィレンツェの春【18】ふたりの聖人

    ■ 登堎人物ず目次



     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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