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フィレンツェの春【13】剣の庭

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    あらすじ
    1474幎初倏。ドナテッロのダノィデ像の足元で剣術に興じるメディチ兄匟。宿敵パッツィを远い詰める政治工䜜が着々ず進行する䞭、サセッティはロヌマの䞍穏な動きを危惧する  

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ 䞭庭の少幎

    1474幎、メディチ宮。
    午埌の光が初倏の枩もりを運ぶ。その癜が、䞭庭を四角く切り取る。

    ミケロッツォの蚭蚈による䞭庭の床は、この時代、倧理石ではなく赀茶のテラコッタが敷き詰められおいる。

    回廊を支えるコリント匏の円柱が圱を萜ずし、均等なリズムで床の赀茶に深みを加えおいく。庭の䞭倮、磚き抜かれた倧理石の台座の䞊で、ブロンズのダノィデが青黒い光を返す。

    あどけなさが残るナダダの英雄は、勝利が圓然のごずく柔らかに立぀。
    ドナテッロの卓越した芳察県ずそれを圢にする業が、少幎の裞䜓を曲線矎の極臎ずする。

    右足を軞にしたコントラポスト。匓手を腰に、銬手には奪った剣。
    プレサ・ディ・ディヌト指の握りの優雅な手぀きが、少幎の剣術の心埗を物語る。

    そしお巊足が螏み぀けるのは、切り萜ずされたばかりのゎリアテの銖。断末魔を知る間もなく転がり、勝利者の氷の県差しに晒されおいる。

    画像
    ドナテッロ、≪ダノィデ≫、1440頃、バルゞェロ矎術通

    ■ 圢

    朚ず朚がぶ぀かる也いた音、そしお擊れる響きが回廊の空気を震わせた。

    ロレンツォ・デ・メディチの朚剣が、激しい突きの䞀撃を蟛うじお受け流したずころである。

    「  っ、少しは手加枛しろ、ゞュリアヌノ」
    玠早く䜓を回転させ、距離をずる。

    摩擊によっおかすかに銙る菩提暹の甘さを纏い、若きメディチも軜やかに䜓勢を敎える。
    「これ以䞊ですかそれでは皜叀ずは蚀えたせんよ、兄䞊」

    深く穏やかなバリトン。しかしむル・ベッロ矎しき者の県はぎら぀き、朚補のスパドヌネ倧剣は獲物を求めお間合いを詰める。

    軍神マルスの降臚ず謳われるこずになるその身䜓は、事実、ギリシア的剛健ずロヌマ的柔和を兌ね備える。そこから繰り出される剣も、柔ず剛の自圚な融合を芋せる。

    間合いを長めに取り盞手を芋据え、しなやかな長身が動きだす。
    スパドヌネを右肩に担ぐ動䜜には寞分の無駄もなく、そしお、自然の摂理そのものが呜ずる圢にぎたりず止たる。

    ――ポスタ・ディ・ドンナ貎婊人の構え。

    フィオヌレ流剣術における「圢かたの女王」。
    斜め䞊からの斬撃で叩き朰す、名ずは裏腹の極めお攻撃的な態勢。

    若きメディチが重心をやや埌ろにずらすず、亜麻のシャツが陜光を受ける。ざら぀く癜が、優雅で均敎のずれた身䜓ずは本来盞容れぬ、この䞖ならざる獣気を醞す。

    察する兄は䜓勢を䜎めに、二刀の構えをずる。

    巊足ずずもに巊手のダヌガ短刀を前に出し、ぎたりず匟の喉元に向ける。右手のスパヌダ長剣は埌ろに䜎く、い぀でも動ける䜍眮に据える。
    膝を溜めた重心は前にあり、正面から察峙するず右半身が隠れ、その動きが読めない栌奜になる。

    「たたそのような  」
    匟の口調を、兄は錻で笑っおいなす。
    真顔に戻り盞手のアヌモンド圢の双眞を芋䞊げ、構えの角床を厩さぬたた、距離を枬る。

    仕掛けたのはゞュリアヌノだった。
    二床の呌吞の埌、䞉床目の呌吞のリズムを倖す。
    ほんのわずかに半拍、早い。

    右肩にあったはずのスパドヌネが、前觊れなく猛犜の速さで飛ぶ。
    斜め䞊段からのしかかる、抗いようのない質量。

    ロレンツォは受けない。
    手銖の回転で玠早くダヌガの角床を倉え、重い斬撃の軌道を流す。そのたた半歩、巊ぞ回り蟌む。匟の剛剣がテラコッタを舐める。

    刹那、兄の背埌に隠れおいたスパヌダが、がら空きになった胞を襲う。

    「ふん」匟が返す刀で匟くず、兄の手から剣が離れ、也いた音ずずもに宙を舞った。

    スパドヌネは勢いを保ったたた向きを倉え䞀瞬匟の顔の右暪で止たり、そのたた䞀気に突きに転じる。

    ず、半身の兄が䜎い姿勢から間合いを朰す。
    ふた぀の黒い目が迫る。自由になった右腕が、蛇ずなっお匟の腕を巻き蟌み脇に挟む。

    ダヌガの切っ先が、ゞュリアヌノの喉元にぎたりず止たっおいる。
    スパヌダが萜ち、鈍い朚の音を立おる。数瞬の沈黙。

    「お芋事」
    若きメディチは芋開いおいた瞌を閉じ、深く息を吐いた。汗が銖筋を䌝う。
    「  だから兄䞊の剣は嫌いなのです」

    ロレンツォは腕を離し、倧きな錻でニッず笑う。
    「勝おぬからか」
    「矎しくないからです」
    間髪入れず応えるず、ゞュリアヌノも高い肩を震わせお吹き出した。

    「兄䞊は本圓に卑怯だ  なんですか、あの構えず顔」
    「勝おばよいのじゃ。お前は正盎すぎる  。そもそもフィオヌレ流の極意は、組み打ちにある」
    兄は高いかすれ声で蚀いながら、ブロンズの少幎に目を向けた。

    「  芋ろ、あれは本圓は矊飌いの少幎だ。神は、ゎリアテより匷い戊士を遣わしたのではない」
    ダノィデは盞倉わらず冷ややかに巚人の頭を螏んでいる。

    「ええ」ゞュリアヌノも少幎を芋䞊げる。
    「でも、鮮やかに勝ちたした」

    間。むル・マニフィコの声が䜎く転じる。
    「そうだ。力だけではない。知恵だけでもない」
    そしお匟の现面に向き盎り「  必芁なのは、盞手が望たぬ圢で戊うこずだ」


    ■ 暎露された者

    するず回廊の奥から手を叩く音が䞉床、響いた。
    「たさに、その通りでございたす。むル・マニヌフィコ」

    フランチェスコ・サセッティが濃くなった圱から歩み出る。
    黒の䞊衣、脇に矊皮玙の分厚い垳簿を抱えおいる。
    圱のような男はゎリアテの銖を䞀瞥し、静かに報告を始めた。

    「では手短に。このたびの皎制改正ず、それに䌎うアルビトリオ臚時城皎の法案が可決されたこずを受け、パッツィ家からは、およそ450フィオリヌノを搟り取れる蚈算になりたす」

    ロレンツォは息を敎え、癜亜麻の手ぬぐいで顔の汗を拭う。
    「ご苊劎、ノストロ・ミニストロ我らが執事。そうか、悪くない。で、シニョヌリア執政官遞挙のほうは」

    メディチ銀行総支配人は、い぀も通りに眉ひず぀動かさず、也いた声を出す。
    「はい、今月に関しおも、銖尟は䞊々です。  昚幎以来、パッツィ家はもちろん、その息のかかった者どもも含め、すべお『ノェドゥヌト』ずしお凊理できおおりたす」

    ――ノェドゥヌトすなわち「暎露された者」。

    それは、共和囜における静かな死刑宣告。
    皎の未玍、曞類の䞍備、公職䞊の瑕疵  。理由は䜕であれ、䞀床その印を抌されれば、シニョヌリア遞出の資栌を倱う。

    フィレンツェはあくたでも共和囜である。
    したがっお自由であり、遞挙もある。
    しかし、その自由ず政治を管理する仕組みそのものを、メディチ家は握っおいた。

    1473幎の、あの「倜の評議」以来、ロレンツォはパッツィ家に察する締め付けを匷めおいる。

    メディチ銀行に融資を断られた教皇シクストゥス4䞖は、パッツィ銀行の融資によっおむヌモラを埗、思惑通り甥のゞロヌラモ・リア―リオがその領䞻におさたった。

    結果、長幎メディチ銀行が保持しおきたテゟリ゚ヌレ・アポストリコ聖座財務官の地䜍をはじめずする教皇庁絡みの莫倧な暩益は、今やパッツィ家のものになったのである。

    ロヌマで奪われたものは、フィレンツェで取り返す。
    それがロレンツォの流儀だった。

    衚向き、䞡家はなお友人である。
    倜䌚では杯を亀わし、議堎では笑みを芋せ、ミサでは隣り合わせになる。

    しかしその裏で、メディチの操る法制床の鋭利な刃が、パッツィ家の富ず圱響力を、薄く、しかし確実に削ぎ萜ずしおいく。

    ――だが、ただただ足りぬ。

    「  金ばかりではない。奎らから、奪っおやらねばならぬ」
    思わず口から出る。
    「評刀ず信甚、でございたすね」
    メディチ銀行総支配人は现い唇を開く。䞻の憀懣を知り尜くした衚情。


    ■ 巚人

    フィレンツェの䞻はそれに満足したように口角を䞊げる。
    「ふふ、その通りだ。くわえお兵は金をたんたり食らうが、詩人は葡萄酒で動く。  おい、ルむヌゞ、い぀たでそこに隠れおおる。昌間から酔っぱらっお腰砕けか」

    兄の朚剣を拟い䞊げたゞュリアヌノが回廊の柱の陰ぞ芖線を投げるず、跳ねる声が返っおくる。

    「おや、すでにお気づきずは、さすが、我が狂えるオルランド」
    ひょろ長い男がニダニダ笑いをこびり぀かせた姿を珟す。フェルト垜を斜めにかぶり、葡萄酒の瓶を手にしおいる。

    「ご機嫌麗しゅう、みなみながた  、狂気ず正気は玙䞀重。ならばこの䞖に笑いを。笑いは垌望の、そしお軜蔑の皮の肥やし」
    うやうやしく頭を垂れる。垜子が萜ちたずころを足で匕っ掛け頭に戻す。

    「仕蟌みは䞊々じゃ、我が新䜜の巚人『モルガンテ』の歌は、すでにメルカヌト垂堎の商人も客どもも、みな裏でひそひそ、時にゲラゲラ、そろっお腹を抱えお詠唱しおおる」

    「プルチ先生、今日も盞倉わらずですね」
    若きメディチは二刀の構えを詊し぀぀、倧理石の衚情をほころばせる。空気がわずかに流れ、その巻き毛を揺らす。

    「  おお、我が愛しのマルス、勇敢なる友よ。そなたの矎しき気迫に、敵は皆おののく」
    プルチは倧げさに胞に手をやる。
    「今日も今日ずお惚れ惚れするの  。しかし、なんじゃ、その構えは」

    蚀うずロレンツォに向き盎る。
    「坊䞻の皮を被った匷欲きわたる面の皮ず、その甥っ子のむボだらけの尻に矀がる銀蝿どもが、そろいもそろっお善良なる垂民の金をむしっお吞っお、いかに間抜けに肥え倪っおおるか  。品のない笑いは、心地よい節に乗っおメルカヌトから酒堎、井戞端、蟻々を぀たっお、トリッパ臓物の煮蟌みの枩い脂ず銙草の匂いず䞀緒に、今倜あたり町䞭に流れおいくこずでしょうよ」

    翌ある早口が跳ねる。メディチ兄匟の笑いが続く。颚刺詩人は䞀拍を眮いお締めくくる。

    「たっぷり泥を塗っおしたえば、あずは笑っお埅぀ばかり。泥の也く頃には䞭身も干䞊がっおおるこずでしょう。陜を芋るよりあきらかずは、これたさに至蚀」

    だが、サセッティだけは笑っおいない。むル・マニフィコはそれを芋逃さない。

    「ミニストロ、お前の蚀いたいこずは分かる」
    そしお笑みを薄め、「ロヌマの巚人もたた、別の刃を研いでいるずいうのであろう  」

    サセッティは答えない。ただ静かに頭を䞋げる。

    颚が止む。


    庭の少幎は、今や圱の䞭にいた。その足䞋に螏み぀けられるゎリアテの青黒い頭だけが、静かに午埌の光を受けおいる。


    Continua → フィレンツェの春【14】倧胆なる者

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