メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

フィレンツェの春【14】倧胆なる者

    Vvici工房 Au Vvici

    あらすじ
    1474幎初倏。パッツィ銀行ロヌマ支店長フランチェスコは垰郷の途にある。新しく誂えた短剣ずずもに様々な思いが去来する。教皇庁で成功を掎んだ若きパッツィに、フィレンツェの珟実が襲う。その時、誇り高き名門の血が熱くたぎる  

    フィレンツェの春【13】← Precedentemente

    ■ 登堎人物ず目次


    ■ ダヌガ

    1474幎、初倏。
    日も傟き、アルノの氎面が空気を冷やしはじめる。

    銀の海豚が二頭、西日を受けお橙に跳ねる。
    その呚りを、やはり暖色に瞁取られた銀の葡萄ず蔓が絡み合う。

    それは、ダヌガ短剣を支える鍔の意匠。

    動怍物は现い線ず浅い浮き圫りで息づく。
    ロヌマの金现工垫の確かな業。氎牛角の握りは手に合わせお切り出され、その磚き抜かれた黒は、油を含んだ黒檀の艶を芋せる。

    鞘の面おもおもたた逞品である。深玅の総革貌りで、ずもすれば華矎な鍔の癜銀を䞊品に抑える。ケルメスで染色された滑らかなその赀は、光を吞い、銀の石突きの葡萄蔓の文様を沈たせる。

    そしお、刃。

    ミッサッリアの工房で鍛えられた鋌。现く、しかし堅牢な靭性を備える。
    研ぎ柄たされた䞡刃は倕陜を受けおなお癜く、その根元に刻たれた極小の金文字だけが、蜜蝋色に浮かび䞊がる。

    AVDENTES FORTVNA IVVAT——「倧胆なる者を、運呜は助く」

    画像
    Vvici, ≪ Audentes Fortuna iuvat », 2026

    ■ 远憶

    「停めおくれ」
    フランチェスコ・デ・パッツィは埗物を玅の鞘に玍めるず、埡者に告げた。
    倪い指ず厚い掌で、革の感觊を確かめる。

    画像
    フランチェスコ・デ・パッツィ1444‐1478

    銬車はポルタ・ロマヌナ、すなわちフィレンツェの南からの玄関口を前にしお軋みを䞊げる。埡者が銬をなだめる声が、ぬるい颚に混じる。

    車内をしばしの静寂が包む。フランチェスコは目を瞑る。

    ぀い数日たで呌吞いきをしおいたあの町――テノェレの濁流が育む、貪欲で煌びやかな、生々しい第二の故郷の蚘憶。

    ロヌマ。叀代の栄光ず廃墟が聖衣を纏う町。

    フィレンツェ人が畏敬ず冷笑を混ぜおそう呌ぶ、たさにその䞭心で、圌は泥ず血にたみれた金かねを動かしおきた。

    ――ノァチカン宮。回廊の闇にぜ぀ぜ぀ず浮かぶ蜜蝋の火を思いだす。
    圱の圧力にほんのわずか、瞬きが遅れる。
    その倜は、こずのほか空気が重かった。

    ゞロヌラモ・リアヌリオ。教皇の甥。
    䞍遜な衚情ず銖にかかる重厚な金の鎖が、鈍い橙で網膜を刺す。
    そのひず぀ひず぀が巚人の指茪のごずき金の茪を匄ぶその指には、黒々ず毛が生える。気取った声が囁く。

    「ロレンツォ・デ・メディチ。あの成金は平民の分際で、あろうこずか、神の代理人たる我らが聖䞋の至高の芁求を拒み、愚匄した  。眰圓たりにも神の思し召しに掉さし、逆らったのだ。  フェレンツェは、い぀からあのような商人颚情が貎族に指図する囜になったのかのう  」

    そしおフランチェスコの目を芋据え、継ぐ。
    「パッツィ、お䞻らは由緒ある血筋の者。そのたたでいいのかえ」

    画像
    ゞロヌラモ・リア―リオ1443-1488

    呌吞が浅くなる。

    芋返りは明癜だ。
    それたでメディチ家が独占しおきた教皇庁の仕事――その暩益が生む莫倧な富が、今床はパッツィ家ぞ流れ蟌む。そうなれば、ロヌマではもずより故郷くにでの立堎も逆転できる。

    十字軍の䌝説、あの聖墳墓の火を持ち垰った誇り高き階士パッツィヌノ以来、長きにわたり神に仕えおきた我らの叀き家。

    フィレンツェは、文字通りパッツィずずもにあった。

    にもかかわらず、あの、どこの銬の骚ずもわからぬ「䞞薬商メディチ」によっお、今や我らはその圱に远いやられ、埌塵にたみれるこずを䜙儀なくされおいる。  その屈蟱を、晎らす奜機が蚪れた。

    契玄曞に眲名するフランチェスコの手は、確かに震えおいた。隠そうずもしなかった。

    叀郜ロヌマでは、芞術も詩も、廃墟ず同じ。誰の腹の足しにもならぬ。
    神の暩嚁ず欲望ず、それを動かす金。それがすべお。

    ――くわえお我らには高貎なる血ず、鉄の意志がある。

    奇跡など圓おにせぬ。おおフォルトゥナ運呜の女神よ、汝の瀺す道がどうであれ、我らにふさわしい栄光を取り戻す。


    ■ 階士の誇り

    「  旊那様」埡者の声が、远憶を砎る。

    フランチェスコはゆっくりず目を開く。
    車窓の向こうでは、ポルタ・ロマヌナの巚倧な石の門が倕陜を受け、赀銅に染たっおいる。城壁の圱は長く䌞び、出入りする蟲民や商人たちの姿を飲み蟌んでは吐き出す。

    「なんでもない。やっおくれ」
    短く促す。銬車がゆるやかに動きだす。

    門をくぐった刹那、圌の眉がわずかに動いた。
      幌いころ父に連れられお歩いた、あの日の匂い。

    干し草。アンモニアず革。桜桃、焌きたおのパン。炭に萜ちる肉汁。
    そしおアルノから来る颚。そこには汚物の異臭ず、色ずりどりのハヌブの銙気ずが混じる。

    空気が軜い。ロヌマずは比べ物にならぬほど軜い。幌いころから吞い蟌んできた、故郷の空気。

    父アントニオ・デ・パッツィは厳栌な銀行家だったが、フランチェスコず二人になるず、子煩悩の、どこにでもいるアルノの父芪になった。あの日も、二人の悪童のようにペコリヌノを霧っお笑っおいた。
    そんな父も、死んで十五幎になる。

    銬車は坂を䞋り、遠くにゞョットの鐘楌が倕空を背負っお立぀。
    ドゥオヌモも、その圧倒的な質量を淡く、薔薇色に息づかせる。

    フィリッポ・ブルネレスキの才胜をいち早く芋抜いたのは、他でもない祖父アンドレアの功瞟だ。

    䞉十幎前、祖父もやはりここで死んだ。

    父や叔父たちは、この「我らが長老」が敎備した領地ず欧州に拡倧させた事業を受け継ぎ、パッツィずこの町を守るため、身を削っおきた。

    メディチの者どもが山奥で怪しげな薬を調合しおいた時代から、我らは階士の誇りずずもにフィレンツェに根を䞋ろし、この町を育おあげたのだ。

    しかし今、人々が口にするのは「メディチ」ばかり。
    広堎。
    垂堎。
    教䌚。
    蟻のいたるずころ。
    そしお誰もが、あの男を讃える。
    たるで、この石の町を造ったのがその男であるように。

    ――吊。違う  断じお。
    唇を噛む。


    ■ 嗀う巚人

    車はポルタ・ロマヌナの坂を䞋り、サンタ・トリニタ橋を枡っおシニョヌリア広堎の東偎ぞず入る。

    パッツィ宮ぞず続く现い路地。
    倕闇が石畳の隙間に溜たり、家々の窓から挏れる獣脂の灯りで湿った空気が黄ばむ。

    蟻向こうの居酒屋から䞋品な笑いが匟けた。銬が速床を萜ずす。
    酒臭い仕事垰りの職人たちが扉口から溢れ出る。

    「むル・マニフィコがたた祭りをやるっおよ」䞀人が蚀うず、「たた飲めるのか」もう䞀人が答え、「ありがおぇ、おお、神様、メディチ様」別の二人が声をそろえる。

    そしお党員で肩を組み、韻文を代わる代わるがなり始めた。

    階士さた剣を抜く前に、
    垳簿を開くずきたもんだ
    戊の話はそこそこに、
    利息の話は勇猛無比。
    聖人の名前を口にすりゃ、
    指は銭の勘定抜かりなく。
    倩囜の鍵はペテロ持ち、地䞊の鍵は銀行じゃ。
    ほれ泚意しろ、借金蚌文じゃ通れぬぞ

    ルむヌゞ・プルチ、『モルガンテず財垃の階士』(1474)、第3歌

    酔っ払いの哄笑。
    銬が止たる間もなく、フランチェスコは銬車から猛然ず躍り出おいた。

    立ち尜くすその身の䞈は、決しお高くはない。
    しかし、鮮やかな緋色の倖衣から芗く銖は頑健で、焊点を倱っおぎら぀く双眞ず盞たっお、分厚く䞊気する身䜓を巚倧に芋せおいた。

    若きパッツィの嚁容に職人たちは顔を匕き぀らせ、さらに銬車の海豚に目を剥いた。
    「ひえ、お  お、お蚱しを」散り散りに居なくなる。

    「  違う」
    酔っ払いの背䞭に向けおか、独り蚀か。

    数瞬の埌、深くじっくりず息を吞い、倪い銖元を敎え、静かに継ぐ。
    「  確かに、蚌文では倩囜には行けぬ。だが芚えおおけ、この䞖ではそれで十分だ」

    ず、鐘の音が響く。
    バディア・フィオレンティヌナ、すなわちベネディクト䌚修道院の叀い鐘の声だけは、昔のように錓膜を揺らす。

    フランチェスコは目を瞑る。深玅の鞘を握る手に力が籠る。
    取り戻す。䜕ずしおも。

    ――この己の手で。


    Continua → フィレンツェの春【15】城壁

    ■ 登堎人物ず目次


     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

    あなたぞのおすすめ