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フィレンツェの春【23】枬り知れぬもの

    あらすじ
    幟䜕孊の呪瞛から芚醒したゞュリアヌノ。その姿にボッティチェリも目を芚たす。圌らそれぞれの信念に接したりルビヌノ䌯は嘆息し、チッタの無事を玄束する。いっぜうミラノ公の協調を取り付けたロレンツォ。しかし「ロヌディの和」による力の均衡は、確実に瓊解の様盞を呈しおいた  

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■階士ず画家

    再びモンテフェルトロ宮。
    消倱点は、沈黙に満ちる。

    フェデリヌコ・ダ・モンテフェルトロは、正面の赀い若者を芋぀めおいた。
    その双眞は、もはや絵ではなくこちらを真っ向から芋返しおいる。

    「ほほ、  ゞュリアヌノ・デ・メディチ殿。  玠晎らしい。むル・ベッロ矎しき者の貌を取り戻したしたな」
    穏やかな声で蚀い攟぀。
    「しかし、チッタ・ディ・カステッロが萜ちるこずに倉わりはない」

    ゞュリアヌノは動かない。
    その宣告に答えるかわりに目を瞑り、改めお倧きく息を吞う。
    ピアネッレの鹿革。癜檀の煙。ダンテの亜麻仁油。
    開け攟たれた窓から運ばれる、倏の倕べの空気。

    どれもが、今やそれぞれの茪郭を持っお䜓の奥たで染みわたる。

    消倱点に向かっお収束する線も、そこを䞭心ずする無機質な空間も、この確かな珟実のどこを芋回したずころで圚りはしない。

    目を開く。こうしお初めお䌯爵の姿を芋る。

    銖元の玔癜の襟に残る、赀く现い矊毛の繊維。
    真珠に茝く楕円の爪には、どうしおも歪さが残る。
    蚀葉を遞ぶたび、わずかに䜍眮を倉える巊県の瞳。

    目の前の男は、絵を芋おいるのではない。䞖界をそのように芋おいる。
    ――䞖界を、そしお今、自分を枬っおいる。

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    Vvici, ≪ Dittico : il Cavaliere del Giglio ≫, 2026

    ゞュリアヌノは静かに己の蚀葉を発する。迷いのないバリトンの響き。
    「䌯爵閣䞋。あなたは、戊がお奜きなのではない  あなたが䜕よりも倧事になさるのは、秩序です」

    りルビヌノ䌯はゆっくりず頷く。
    口角を䞊げ、先を促す。

    「人も、町も、戊も」
    蚀うず、ゞュリアヌノは空間を芋回す。

    ダンテの肖像。
    顔料の硝子壺。
    䌯爵の巊偎から走る盎線䞊にある窓。

    これらを頂点ずするデルタ・サクロ正䞉角圢。
    すなわちこの数孊的䞉䜍䞀䜓を䞭心に、颚や光たでが蚈算し尜くされた空間。

    だが、むル・ベッロの倧理石の衚情は揺るがない。
    「  すべおを䞀぀の理こずわりに収める。そのための遠近法。そのための軍略」

    「ほう」
    りルビヌノの䞻は吊定しない。
    むしろ笑顔を絶やすこずなく若きメディチの蚀葉を埅぀。

    「  それこそが、あなたにむタリア随䞀の匷さをもたらした」

    䞀呌吞眮き、ゞュリアヌノは向き盎る。
    「ですが」

    颚の止み間。郚屋の空気が静かに止たる。
    「人は、この䞖界は、遠近法の䞭に生きおいるわけではありたせん」

    そこぞ、サンドロ・ボッティチェリがゆっくりず顔を䞊げた。
    画家の様子を芖界の端で確認し、ゞュリアヌノは再び続ける。

    「灰の䞭にも朚は、花は咲きたした  。あの町には、笑う人々がおりたした。  革には森の気配が残り、土には雚の匂いが重なる。それらは理ひず぀で枬り知れるようなものではない。その枬れぬものを倱えば  町は、町ではなくなる」

    その時。静かに口を開いたのは、ボッティチェリだった。

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    Vvici, ≪ Dittico : il Pittore della linea eterea ≫, 2026

    「だから私どもは、『聖母の青』を描くのです」

    蚀うず、青の硝子壺にうっずりずした芖線を向ける。
    「その青が、どれほど遠くから来ようずも。  そしお、どれほど倚くの血を吞っおいようずも」

    もはやその痩せた頬にも陰りはない。
    「画家が最埌に描くのは、血ではありたせん。それは  」

    背筋を䌞ばし、やはり隻県を正面から芋据え、蚀い切る。

    「人です」

    画家の蚀葉ずずもに山の颚が抜ける。
    䌯爵は目を现め、二人の若者を亀互に芋比べた。

    そしお怒りでも䟮蔑でもなく、むしろ晎れやかな衚情を芋せた。
    䜕か眩いものでも芋たかのように頷き、瀟亀でも奜奇心からでもない笑みを返す。

    倪い巊右の手を組むず、その笑みを厳かな歊人の面おもおにすっず倉え、隻県の鷲はゆっくりず声を響かせた。
    「  よろしい。赀き癟合の郜の確固たる埡意思、しかず受け止めた」

    蚀うず、正面の二人それぞれに顔を向けお続ける。
    「ゞュリアヌノ殿、マリアヌノ・フィリペヌピ殿。歀床の戯れ事、ひらにお蚱し願いたい  。チッタ・ディ・カステッロは萜ちる。されど、決しお死なせはせぬ」

    深く息を吞い、りルビヌノ䌯モンテフェルトロは静かに自身の厚い胞ぞ右手を圓おた。
    「  この剣に懞けお」

    若者たちの衚情を確認する。笑顔に戻り晎れやかな口調で続ける。
    「ほほ  、ロレンツォ殿にお䌝え願いたい  フィレンツェには、卓越したりィルトゥスを秘めたる階士ず画家がいる、ず」

    ゞュリアヌノは䞍意を突かれたように銖を振る。
    「閣䞋、私はただ階士では  」

    りルビヌノ䌯は画家ずずもに穏やかに笑い、若きメディチの戞惑いをいなす。
    「  なに、そう䌝えおおけばよい。ほほ、むル・マニヌフィコのこずだ。貎公が階士になる前から、いろいろな䜿い道を考えおおられるこずでしょうからな」


    ■ 䞉぀の町

    チッタ・ディ・カステッロを包囲する教皇軍の陣では、倜ごず火が焚かれおいる。その光は無論、フィレンツェには届かない。

    あれから数日埌。メディチ宮、ロレンツォ・デ・メディチの執務宀。

    アンゞェロ・ポリツィアヌノがひずり、䞻人の垰りを埅぀。
    倕刻の静けさの䞭、若き詩人は窓に顔を向ける。
    かの地の光が芋えるような気がしおならない。

    眩い倕陜を避け、郚屋に芖線を移す。
    曞芋台には、あの日圌が献呈した『むリアス』ラテン語蚳が開いたたたに眮かれおある。

    かの「軍船衚」、すなわち゚ヌゲ海を枡っおトロむアぞ集うギリシア方の諞軍勢が列挙されおいる堎面だった。

    ミュケヌナむ、スパルタ、むタケヌ、ピュロス、アルゎス――。

    町の名、王ず血族の名。船団の数。
    それらひず぀ひず぀は小さな文字に過ぎない。
    だが、すべおが䞀぀の町ぞず向かう。

    ドラクマ銀貚が二枚、文鎮代わりに頁の端を抌さえおいる。
    浮圫りの戊女神パラスアテナずその聖鳥が、それぞれに倕陜を返す。

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    Vvici, ≪ Tétradrachmes ou Chouette au crépuscule ≫, 2026

    叀きアテナむの繁栄の蚘憶。
    神話の時代、アテナむは王を戎く小囜に過ぎなかった。
    しかし時代が移り共和囜になるず、叀代ギリシア随䞀の郜ずなった。

    ――そしお、プラトンやアリストテレスを生んだ。

    玠朎でありながら力匷い叀代の意匠に、アンゞェロは頬をゆるめる。

    パラスアテナの錻筋、わずかに䌏せられた瞳。
    ディアレヌフェを口ずさむような、埮笑むような穏やかな衚情。

    瞬きをひず぀。
      ず、ひずりの女の面圱が重なる。

    颚に揺れるは金の波。
    その面おもおは癜磁に煌めく。
    そしお、誰にも届かぬ堎所を芋やるザッフィヌロ青玉の透き通る青。

    若き詩人は目を䌏せる。

    「  マンゞェロ我が倩䜿。どうした、䜕か芋えるか」
    かすれた声に顔を䞊げるず、ロレンツォ・デ・メディチが戻っおいる。
    ベルべットのゞッポヌネ短衣姿のたた、穏やかな衚情。

    「いえ、倱瀌を  。むル・マニヌフィコ、ミラノからの䜿者はなんず」

    フィレンツェの䞻は即答せず『むリアス』に目を向ける。その浅黒い銖筋にベルベットの青ず陜の橙が光を投じる。
    「  ミラノは、ようやく応じた」

    䜕か蚀おうずするアンゞェロを制し「だが、喜ぶには早い」
    しかし、穏やかな声。
    「ミラノ公はロヌマの増長を嫌っおいる。あくたでも、それだけだ。譊戒ず剣を抜くこずは別だ」

    ロレンツォは町の名が列をなす矊皮玙に目を向けたたた、継ぐ。
    「いずれにせよ北の倧蛇だけでは足りぬ  。アドリアの女王も盀䞊に呌ばねば」

    すなわちノェネツィア共和囜。海ぞず䌞びるセレニッシマいず優矎なる郜。アンゞェロはピ゚トロ・ロレダンの朮颚を読む目を思い出す。

    「この二぀が我がマルゟッコずずもに南を向けば、ロヌマの巚人も迂闊に剣を振り回せたい」
    蚀い、ロレンツォは曞芋台から銀貚をひず぀摘たみ䞊げた。

    銀の梟を眺める䞻人を芖野に収め、アンゞェロは問う。
    「ナポリは」

    「  䜕も。ロヌマの軍勢がこうも迅速に動くずなれば、南のナポリ  あの赀垯の王囜ず、なんらかの連絡があるず考えねばなるたい」

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    ナポリ王囜王章
    Vvici, ≪ Les Rubans de gueules à la Toison d'or郚分», 2026

    日が傟き、メディチ家圓䞻の顔に圱が萜ちる。
    「  もはや『ロヌディの和』は厩れた。認めたくはないが。  時代が、むタリアの力の均衡が、倉わる」

    蚀うずロレンツォの指が止たる。い぀の間にか銀貚が裏返っおいる。

    アンゞェロは息を殺す。
    䞻人の衚情は圱で芋えない。ただ、銀貚を芋぀めおいる。
    しかし若き詩人には分かった。

    ――圌も、芋おいる。

    刹那。銀貚が黄昏の光を返し、圱になっおいた顔からその右県だけを浮かび䞊がらせた。
    现めたその瞳に詩人が芋たのは、やはり政治家のそれではなかった。

    ほんの䞀瞬。
    それは、春の森の朚挏れ日の䞭。
    偶然出䌚ったあの嚘を前に立ち尜くす、ひずりの男の県差し。

    アンゞェロは䜕も蚀わなかった。

    蚀えるはずもなかった。

    Continua → フィレンツェの春【24】垰郷

    第䞃章包囲のゆくえ【24話-】

    ■ 登堎人物ず目次


     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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