
面接練習
「失礼します。」
緊張した面持ちで,生徒が教室に入ってきた。続けて,
「失礼します。」
と,別の生徒が入る。そうして,私の前に5人が並んだ。
「それでは,受験番号と出身校と名前を教えてください。」
私は,いつもの授業より,ややかしこまった声を出した。右の生徒から次々に答えたところで,席に座るよう指示した。少し間をおいて,
「これから面接を始めます。」と切り出した。
鹿児島県の中学3年生は1月に私立高校の入学試験が始まる。受験校や学科によっても違うのだが,筆記試験以外に面接試験が実施されるので,本校では進路学習の一環として,教員による面接の練習を行っている。
実のところ私は,面接試験で合否が大きく変わることは,よほどのことがない限り,ないと考えている。だが,受験の準備そのものが,生徒にとって大きな経験となる。試験の勉強をしたり,ボールペンで願書を書いたりすることは,義務教育を終え,さらに先へと進む心の準備をすることにもなる。面接練習もその1つだ。定番の質問に対して答えを考えておく。話す量やスピード,目線や姿勢を意識する。入室時やお辞儀の所作を覚える。それらは,志望校へ合格するためのテクニックを身につけるというより,高校生へと意識を高め,社会人としてのマナーを身につける学びの機会だと思う。
「わ,私は,お,御校で部活と勉強の両立を目指したい,と,考えています。」
声を震わせ,途切れ途切れで答える生徒。質問に対して長文を答え,どうやって終わらせればよいか戸惑う生徒。思いがけない質問に,フリーズしてしまう生徒。どの子もやっぱり,上手くはできなかった。
「それでは面接を終わります。」
一人が「ありがとうございました。」と頭を下げると,他の生徒も慌てて頭を下げる。
「はい,ここまで。」の声に,
「あー緊張したー」と全員が肩をなでおろした。不安がる生徒たちに,所作や話す内容のポイントをアドバイスして,面接練習を終えた。
たった,20分間の練習。しかし,生徒たちはいつもの授業とはまた違い,緊張していて,真剣だった。教室の空いた席を眺めながら,私はどこか達成感を覚えた。
試験当日,受験本番を終えた生徒が会場から出てきた。
「よく頑張ったな。テストできたか?」と声をかけた後に,
「面接どうだった?」と聞いてみた。
「先生,面接,楽勝でしたよ。思ったより緊張しませんでしたよ。」と自慢げに返してきた。
「そうか,よく頑張ったな。」
練習時を知っている私は,吹き出しそうになるのをこらえ,会場を後にする生徒を見送った。
さて,偉そうに指導している私だが,私が身につけたマナーや所作を,どのタイミングで,どの先生に学んだのか,全く思い出せないでいる。
たぶん,当時の私も,相当ぎこちなかったに違いない。
そして,今の私を見て,恩師たちは吹き出すに違いない。