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プレイングマネージャーの生存戦略 #11 プレイングマネージャーのAI活用術

    これまでシリーズでお届けしてきた「プレイングマネージャーの生存戦略」ですが、今回がいよいよ最終回となります。

    最後のテーマは、「プレイングマネージャーのAI活用術」。私が日々の激務の中で、どのようにAIと付き合い、窮地を切り抜けているかについて、手の内をすべて明かしたいと思います。少し長くなりますがご容赦ください。

    プレイングマネージャーの消耗

    実験室にいた頃は、一つのテーマに集中して深く考える時間がしっかりと確保されていました。しかし、DX担当として小さなチームをマネジメントするようになった瞬間、状況は一変しました。

    メンバーの打ち合わせへの同席、上層部のための資料作成、現場のサポート、メンバーの進捗管理……これらがすべて同時並行で降ってきたのです。

    一方で、自分がプレイヤーとして推進すべきテーマの量はそこまで変わりません。 「自分で手を動かしながら、全体の舵も取る」 プレイングマネージャーの消耗度は想像以上でした。これは実際にその立場になってみるまで、本当の意味では理解できていなかったと感じます。

    時間が「ない」のではなく「分断されている」

    プレイングマネージャーが感じる忙しさの本質は、時間の絶対量が足りないことよりも、時間の「分断」にあると思っています。

    30分で資料を仕上げようとした瞬間に、チャットが来て思考が切れる。実験結果を考察している最中に、承認依頼が舞い込む。その度に頭を切り替えるコスト(スイッチングコスト)が積み重なり、気づけば大した成果を出せないまま1日が終わっている――。

    この構造を変えない限り、どれだけ個人の気合で頑張っても消耗するだけです。そこで私が試みたのが、近年劇的に進化したAIを私の「分身」として使い、分断された思考の断片を拾い集めてもらうというアプローチでした。

    AIを私のやりたいことを実行する「部下」にする

    本物の「部下」に対して、私のやりたいことだけをやってもらうわけにはいきません。プレイングマネージャーは中間管理職です。さらなる上層部の意向に右往左往しながら、その指示を本物の部下に実行してもらう役割を担っています。

    つまり、プレイングマネージャーである私には、「自分が意のままに動かせる本物の部下」は多くはいないのです。かくして、自分の個人的なタスクや細かい事務作業は、すべて自分で回していく必要が出てきてしまいます。

    ただ幸いなことに、私の現在の業務の大部分はAIとの親和性が非常に高いものでした。私は有機化学を専門にしていますが、現在は自分で実験室にこもって手を動かす状況ではなく、DX関連のテーマで自分のプレイヤー枠を持っています。本物の部下たちはそれぞれ有機化学のテーマを持って自律的に推進してくれているので、私個人のデスクワークや庶務に関しては、AIに任せる余地が多分にありました。

    そのような背景もあり、私は自分の庶務や「やってみたい」と思ったアイデアのプロトタイプ作成を、すべて私専用の「部下」であるAIに実行してもらっています。

    複数のAIを立ち上げ、役割や得意分野の違うAIにそれぞれ指示を投げる。AI部下たちは忠実に実行し、ファイルの探索も行い、私の承認を取りながらタスクをこなしていきます。文句も言わず、24時間いつでも働いてくれるAIは、今や私にとって欠かせない存在です。

    どんなAIを使っているか?

    私が所属している企業はいわゆる「JTC」と呼ばれる歴史ある日本企業ですが、有り難いことにAIに関してはそれなりの環境が用意されています。ChatGPT、Gemini、Claude、Copilot、そしてそれぞれのCLI(コマンドラインインターフェース)などがセキュアに使用できる環境です。

    私は、これらのAIをすべて状況に応じて使い分けながら仕事をしています。正直、一つのAIだけでも業務自体は回るのかもしれませんが、それぞれに得意分野があるとも感じています。

    また、一つのAIだけに頼ると、どうしても意見が偏ったり、時に少し「間抜け」な出力をしたりすることがあります。そこで、あるAIが作った成果物を、別のAIを使ってレビューさせる。この「マルチエージェント風」のプロセスを挟むことによって、より高い精度でタスクを実行できるようになりました。


    プレイングマネージャーのAI活用術

    ここからは具体的に、私が日々の業務の中で頻繁に使っている、再現性の高い活用法を5つご紹介します。一般的なオフィスワークから、専門的な化学・データサイエンスの内容まで含まれますが、お付き合いいただければ幸いです。

    1.「思考の断片」に抗う

    会議が終わった直後、走り書きした未整理のメモをそのままClaude Code(※環境に応じて適切なツール名に調整してください)に貼り付け、「次回の進捗スライド用に構造化して」と投げます。また、実験の考察が途中になったまま別の作業で中断せざるを得ない時は、これまでの思考の文脈をAIにまとめておいてもらいます。

    そうすることで、次に作業に戻ってきた時の「どこまで考えたっけ?」という立ち上げコストがほぼゼロになります。

    プレイングマネージャーにとって最大の敵は「思考の分断」です。このロスを減らすために、「文章を整えてもらう」のではなく、「思考の断片を繋いで下書き(コンテキスト)を作ってもらう」という使い方に切り替えてから、作業の再開速度が劇的に上がりました。

    2.スライド作成・リサーチ業務の「半自動化」

    プレイングマネージャーになると、リサーチ業務や上層部向けのスライド作成の機会が激増します。この業務へのAI投入を色々試した結果、行き着いたのが「半自動化」というバランスです。

    スライド作成については、ある程度の構成や骨子を手動(pptx形式)で作成し、それをClaudeのプレビューで公開されているデザイン機能を活用してレイアウトやビジュアルの質を向上させる手法を取っています(現状、AIからのpptx直接出力はまだ精度が物足りないため、HTML出力を行うなどの工夫をしています。元の下書きがpptxで残っていれば、再利用の手間も最小限で済みます)。
    下記の記事で書いたようにスライド作成に関しては色々と試行錯誤をしたものの研究関連の内容に関しては特に全自動よりも半自動が適していると感じます。

    一方、リサーチ業務についてはネット検索や最新情報のキャッチアップに強いGeminiが有能であるため、こちらを主軸に据えてリサーチの初動を高速化しています。
    それについては最近下記の記事を書きました。

    3.計算化学とデータサイエンスの高速化

    計算化学やデータサイエンスの活用は、AI(特にCoding Agent)が最も強みを発揮する分野です。データ分析の大枠を設計し、目的さえ明確に伝えれば、AIが必要な分析手法を提案し、実際のコードを書いて計算を実行してくれます。

    私は有機化学の研究者であり、現在はマネジメントも兼ねているため、データサイエンスのコーディングや計算化学活用に必要なファイルの準備などに多くの時間を割けないというジレンマがありました。しかし、Coding Agentの登場によって、時間のかかる「計算内容のチェック」「環境構築などの準備」「複雑な関数の記述」といった作業の大部分を委譲できるようになり、生産性は爆発的に向上しました。
    一つのテーマが早く回ると言うのももちろんですが、複数のテーマを同時並行できるようになった。これは大きな効果です。

    4.上司と部下の板挟みを減らす「心理的緩衝材」

    プレイングマネージャーは、上層部からの要望を現場(部下)に翻訳して伝え、逆に現場のリアルな課題をマイルドにして上に報告するという「コミュニケーションの結節点」でもあります。この板挟みによる心理的摩擦にも、AIは効きます。

    上層部向けの報告書を作る際に「この表現、角が立たないか?」「JTCの経営層が好むロジックに変えて」と推敲させたり、メンバーへのフィードバックで「モチベーションを下げずに、DX施策への参画を促す言い回しは?」とGeminiに壁打ち相手になってもらうのです。利害関係のない優秀な「相談役」が裏にいるだけで、中間管理職としての精神的な負担はかなり軽減されます。

    5.「記憶のインデックス化」:自分の脳を社内Wikiにするのをやめる

    プレイングマネージャーをやっていると、部下から「前に言っていたあのデータどこですか?」と聞かれ、上司からは「あの件の進捗どうだっけ?」と聞かれ、その検索対応だけでかなりの時間が必要になります。自分の脳が組織の「検索エンジン」にされてしまい、思考がブツブツ切れるのです。

    そこで自分のPC内のフォルダ(日々の実験データ、コード、過去の報告書、メモ)を、AIにインデックス(目次化)させて読み込ませておきます。また日々の思考の流れについても記録のログをAIに記載せておきます。

    そうすることで、AIが私の記憶の代わりを担ってくれるようになりました。もちろん探索範囲が広すぎて上手くいかないこともありますが、たいていの場合はなんとなく目的のものが格納されている場所というのは覚えているので、範囲をある程度絞ってあげれば必要な書類が見つかることが多くなりました。

    重要なこと:「承認フロー」だけ自分が担う設計

    Claude CodeをはじめとするCoding Agentがこれほど実用的だと感じる最大の理由は、「AIが提案し、人間が確認して承認する」という構造を自然に作れる点にあります。

    たとえば、データの集計やレポートのドラフト作成といった「実作業」は丸投げします。AIは自律的にタスクを進めてくれますが、要所で「これでいいですか?」と確認を挟んでくれるため、暴走することなく安心して任せられます。私は最後に確認・修正・承認ボタンを押すだけです。

    プレイングマネージャーにとって本当に必要なのは、判断の質を上げるための「余白(時間と脳のキャパシティ)」です。細かい作業をすべて自分で抱え込むと、その余白は一瞬で消え去ります。Coding Agentが得意な領域はどんどん代替してもらい、意図的に余白を作り出していくことが生存戦略において不可欠です。

    さいごに

    今回は、プレイングマネージャーとしてAIを「分身」や「専用の部下」として活用する方法について書きました。

    すべての業務を完全に任せる必要はありません。

    • 「思考の断片を拾ってもらう」

    • 「下書きを起こしてもらう」

    • 「確認・承認フローの形にして実作業を任せる」

    こうした、小さな「委譲」の積み重ねこそが、結果として大きな時間の回収につながっています。

    同じようにプレイングマネージャーという激動のポジションで消耗している方の参考に、少しでもなれば嬉しいです。

    最後までお読みいただき、ありがとうございました。

     
     
    3歳と1歳の2児のパパ | 有機化学系の企業研究者+DX 育児・仕事・キャリアの3つの軸で発信 育児の知識は特になく毎日試行錯誤で、子供の成長を見るのが楽しみです。 仕事についてはステージチェンジを迫られつつも、現場の研究を続けていきたいと日々奮闘。

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